たった一つの願い事 わがまま少女あやの物語 作:まめた みか
あと、前回の次回予告と内容が大きく異なります。
二木さんの部屋の扉をノックする。
「開いてるから入りなさい」
沙耶さんはその声を聞き、一拍おいてからゆっくりとドアを開いた。
「こんにちは、ちょっと失礼するわね」
「失礼します」
「さっきはどうも、二木さん」
沙耶さんを先頭に、三人で二木さんの部屋に入る。
中に入って感じた印象は……生活感が無い、というものだった。殺風景と言い換えてもいい
まず、物がない。
傷一つ見当たらない机、衣類掛け、小さな冷蔵庫、本棚。それくらいしか部屋には置かれていなかった。
三人部屋というだけあり、大きく空いているスペースが物悲しい
「あら、能美さんに……」
「直枝理樹、それと」
「朱鷺戸です」
沙耶さんが名前を呼ばれる前に自分から名乗り、にこりと笑みを浮かべた
これは沙耶さんの猫被りモード(命名 僕こと直枝理樹)だ。
僕ら以外の前では、沙耶さんは時々猫を被る
「あら、あなただったの」
二木さんは少し驚いた表情を見せた。
が、それも一瞬の事で
「いったい私に何の用?」
直ぐに無表情に戻った。
「実は私も能美さんのルームメイトになりたくて」
ちなみに猫を被っている時の沙耶さんは一人称が私(わたし)になる。
「図々しいお願いだとは分かっているんだけど、私もあなた達のルームメイトにしてもらえないかしら?」
「良いわよ」
即答だった。
「そこを何とか……」
「って、いいの!?」
驚きすぎて素に戻っている
「行動力のあるあなたの事だから、寮長の許可はもう取ってあるんでしょう?」
「見ての通り、スペースが空いてるんだから断る理由がないわ」
二木さんが軽い溜め息と共に、後ろに広がる空間を見やる。
「それとも、駄目って言って欲しいのかしら?」
悪戯っぽい二木さんの言葉に
「とんでもない」
沙耶さんが笑顔になった。
「ふつつか者ですが、どうぞよろしくお願いします」
「お願いします」
沙耶さんが頭を下げるのを見て、クドもつられて頭を下げる。
「嫁入りの挨拶じゃないんだからさ」
「全くね」
思わず二木さんと顔を見合わせて苦笑してしまった。
〜〜〜
「失礼しました〜」
「それじゃあ、また後で」
「またね、二木さん」
別れの挨拶を簡単に済ませ、部屋の外に出る。
「ふう〜」
沙耶さんが大きく息を吐き出した。
どうやら猫を被ったままだと疲れるらしい。
「理樹くん見た?」
部屋から数歩も歩いていない所で沙耶さんが口を開いた。
「あの氷の風紀委員長が……」
真剣な表情で言葉を続ける
「遂にデレたわ」
普段なかなか見せない真剣な表情で真剣じゃない事を言う所が沙耶さんらしい。
「明日は雪、いや、氷が降るわね」
沙耶さんは片目を閉じて手をひらひらと動かした。
沙耶さんはこの動作をたまにする。
これは、『あたし今ちょっとボケてますよ〜、ツッコミを入れるチャンスですよー』というサインだ(と勝手に思っている)
「さ……」
「聞こえてるわよ」
僕が突っ込むよりも先に部屋の中からピシャリと声が飛んできた。
「あちゃー、地獄耳だったか」
沙耶さんがいつもの笑顔になる。
僕の仕事が……
「くそぅ」
何となく悔しい
『はっ、所詮あなたはその程度の男なのよ。分かった? 直枝理樹』
『いい気味ね』
『いい気味……』
頭の中に僕を嘲る二木さんのイメージが浮かんだ。
「ん? どうしたの理樹くん」
沙耶さんに目の前でひらひらと手を振られ、意識を取り戻す。
「いや、何でもないよ」
二木佳奈多
氷の風紀委員長
クドに負けず劣らず、彼女も強敵だ。むしろ、同じツッコミ役でキャラが被っている点においては、ライバルと言っても差し支(つか)えないかもしれない。
僕は負けないぞ、と強く拳を握り締めたのであった。
〜〜〜
「能美さん、また後でね」
「はい、サヤ、リキ、ぐっばいです」
「またね、クド」
渡り廊下で手を振ってクドと別れる。
クドは今から寮長にルームメイトが決まった旨を伝えたり、荷物をまとめたり、色々としなければならない事があるようで一旦、自分の部屋に戻るらしい。
沙耶さんはクドをリトルバスターズに勧誘したかったようだけど、今日の所は諦めたみたいだった。
「それじゃあ理樹くん、練習に行きましょうか」
既に夕日が沙耶さんの背後で沈みかけている。
「遅くなっちゃったね」
僕が言うと
「まあ、能美さんのルームメイトが無事見つかったんだから良かったじゃない。ゲームクリアよ」
「いえ、恭介風に言うならミッションコンプリートってところかしら」
彼女はそんなことを言って歩き出した。
僕も横に並ぶ。
恭介達と出会った時の話や、恭介のお爺さんの家にみんなで合宿に行った時の話などをしながらグラウンドへ向かう。
沙耶さんがいちいち大げさに相づちを打ってくれるので、僕も話していて楽しかった。
「良かった、まだやってるみたいね」
グラウンドにたどり着くと、バスターズのみんなが練習している所だった。
外野付近で鈴と神北さんがキャッチボールを、スコアボードの横で三枝さんと謙吾が素振りを、更にその近くで真人が黙々と筋トレをしている。ただ、どこに居るのか恭介の姿は見えない。
「みんな、遅れてごめん」
「待たせたわね」
土手から降り、スコアボードの辺りへと向かう
「やっはー、沙耶さんに理樹くんだ!」
僕らを見て、三枝さんがぴょこんと跳ねた。
「理樹と沙耶か」
「おう、遅かったな!」
謙吾と真人も素振りと筋トレを中断して、こちらに歩いて来た。
「恭介は?」
「あいつなら少し前に誰かから電話が掛かってきて、慌ただしくどこかに行ったっきり戻ってきてないぞ」
僕の問い掛けに謙吾が答える。
「ちょっと無茶だったかしら……」
何故か沙耶さんが少し考え込む。
……ひょっとして、クドのルームメイト探しに恭介を巻き込んだりしたのだろうか?
充分有り得る
「まあ、もうそろそろ帰って来るだろう」
「理樹くんと沙耶さん、こんにちは~」
「理樹、沙耶、遅いぞ」
謙吾の言葉が終わるのとほぼ同時に、鈴と神北さんがやってきた。
「全員集まってるな」
更に、僕らの後ろから声
この声は……
「あら、恭介じゃない。遅かったわね」
背後から現れたのは、やはりというか恭介だった。
その恭介は沙耶さんの言葉を聞き、脱力する。
「誰のせいだと思ってるんだ、誰の」
恭介は最近、沙耶さんに振り回されてばかりいるような気がする。
「恭介、何て言ったらいいか分からないけど……ごめん」
沙耶さんの代わりに謝っておく
「……良いんだ理樹」
僕の言葉を聞き、恭介は力無く笑った。その背中が何故か煤(すす)けて見えたのは気のせいだろうか
〜〜〜
「理樹、恭介」
マウンドで僕とピッチング練習をしていた鈴がゆっくりとこちらに歩み寄ってきた。足下に見えるのは数匹の猫。
「これ以上暗くなったら、こいつらをぺっちゃんこにしてしまうかもしれない」
「そうだな。今日はここまでにしようか」
鈴の一言を聞き、恭介が号令をかける
「お前ら、今日はここまでだ!」
「はーい!」
沙耶さん、神北さんの二人と一緒に三角キャッチボールをしていた三枝さんが元気な声を上げた。
「もう終わりか?」
謙吾は少し不満げだ。
「ああ、暗い中これ以上やって、女連中が怪我でもしたら大変だろ?」
「まあ、そりゃそうだわな」
筋トレを終えた真人もこちらへやってきた。
というか、まだ筋トレを続けていた事に驚きだ。
そのうち真人の筋肉が異常増殖して、真人が二人になったりしたらどうしよう。
真人A「筋肉フライト、一緒にするかい?」
真人B「筋肉さんがこ〜むらが〜えった」
放っておいたら、そのうち学校中が真人で溢れかえるかもしれない。
真人X「わかんねぇのか? お前はもう筋肉空間に足を踏み入れちまってるんだぜ?」
真人Y「筋肉が暴走だ! 暴徒と化した!」
真人Z「こいつは筋肉革命だ〜!」
想像だけで気持ち悪くなってきた。
「おえっ」
「理樹、どした? 大丈夫か?」
真人にのぞき込まれる
「な、何でもないよ」
「お前のあまりの気持ち悪さに、理樹が吐き気を催したようだな」
「なあっ!?」
鈴の容赦ない一言に真人が情けない叫び声を上げた
「理樹に嫌われちまったってのか? うわあぁぁぁ……俺はこれからどうやって生きていけば良いんだよーっ!」
「自販機の取り忘れの釣り銭でも探して生きていくのはどうだ?」
恭介も便乗する。
「そ、そうかっ!」
何故、それで納得するんだろうか
「いや、そうかっ! て、そんなんじゃ生きていけないし、別に真人が気持ち悪いわけじゃなくて、その筋肉が気持ち悪いというか…… うわっ、抱き付かないでよ」
「今日は疲れたわねー」
「私もちょっと疲れたよ〜」
僕たちが馬鹿なやり取りをしている間に、沙耶さんと神北さんもこちらに帰ってきた。
「よし、揃ったな」
それを確認すると、恭介は咳払いを一つして言葉を発した。
「みんな、これで今日の練習を終える。各自しっかり休んで疲れを取ってくれ。以上、解散っ!」
「でねっ、七辻屋のそのマシュマロが……」
「そうなんだ〜」
「何々、何の話をしてるのかなぁ〜」
「ほう、ブルーベリーにそんな効果があるのか」
「何てったって北の国から来たブルーベリーだからな」
「筋肉にはタンパク質が欠かせねえぜ、勿論、ビタミンや鉄分もなっ!」
見事に誰も聞いていなかった。
「恭介、落ち込まないで」
「……理樹、もうお前がリーダーやってくれ」
今日も楽しい1日だった。
沙耶さんが着替え終わるのを、部室近くのベンチに座って待つ
「……ませんか?」
じっと待っていると、中から神北さんの声が漏れ聞こえてきた。
「へー、いつが見頃なの?」
続いて沙耶さんの声
「うーん、たぶんもうそろそろだと思うんだけど」
「その時ははるちんも混ぜて下さいネ」
「うん~ 鈴ちゃんも一緒に見ませんか?」
「お、起きてられたら行く」
扉が音を立てて開いた。
「お待たせ」
中から見慣れた制服姿の沙耶さんが現れる。
「何の話をしてたの?」
僕が尋ねると、彼女は僕を少し睨んだ。
盗み聞きは趣味が悪いわよ、とでも言いたげだ。
「流星群が来るんですよ」
後ろから出てきた神北さんが嬉しそうに言う
「どきっ、女の子だらけの観望会っ!? と洒落込むんですヨ」
「みんなで星をみるんだ」
なるほど
「みんなで流星群を観るのか」
「うん〜 そうなんです」
神北さんが人差し指をたてた。
「良かったら、理樹くんもご一緒しませんか?」
ニコニコ笑顔の神北さん
「え、僕が居てもいいの?」
女子だけの方が盛り上がるんじゃないだろうか
「勿論おっけーですよ、こういうのは人数がいっぱい居たほうが楽しいからね〜」
「屋上で流れ星を見ながら、のりしおをぱりぱりやりましょう」
そういえば、この前もずいぶん沢山持っていたっけ。
どうやら神北さんはお菓子が好きらしい
「流星群はいつ来るの?」
まさか今夜とか……
「うーん、確かもうそろそろだったはずなんだけど……」
神北さんが思案顔になる
「明日までに調べておきますね~」
また笑顔になった。
「うん、わかった。楽しみにしとくよ」
そのまま神北さん、三枝さんの二人と並んで女子寮へと向かう。
「それじゃあ、また明日ねー」
「沙耶さん、理樹くん、じゃあね~」
「二人ともまた明日」
「またね」
賑やかな二人の人影が女子寮に消えるのを見送った。
「今日は疲れたわね」
沙耶さんがふわぁ~ と可愛らしい欠伸をする。
「今日はメンバー集めするの止めとく?」
「そうねぇ…… もう8人も居るわけだし、特に急ぐ必要も無いか」
今日はクドの為にあちこち奔走して疲れたんだろう。
「みんな待ってるだろうから、ご飯食べに行こうよ」
「ええ」
こうして今夜も騒がしく過ぎていく
恭介「みんな揃ってるな?」
小毬「で、そこのマカロンがね~」
沙耶「マカロン? マカロニの親戚か何かかしら?」
小毬「ううん、マカロンって言うのはね」
恭介「頼むから聞いてくれ」
小毬「?」
恭介「ごほん、えー、我がリトルバスターズはこの度、野球チームとして設立されたわけだが……」
沙耶「ねぇねぇ、マカロンって知ってる?」
真人「マカロン? なんだそりゃ、新しい栗か?」
謙吾「馬鹿、それはマロンだ。マカロンと言うのは小さな丸い洋菓子のことで、正式名称をマカロン・パリジャンという」
沙耶「へぇー」
謙吾「しかし何故、突然そんな事を?」
理樹「僕はそれより、そんな事を知ってる謙吾に驚きだよ」
葉留佳「ギャップが物凄いですネ」
佳奈多「そうね」
葉留佳「!?」
真人「で、そのマドハンドとかいうお菓子は美味いのか?」
謙吾「マカロンだ」
クド「とーっても甘くて美味しいんですよ」
沙耶「そうなんだ」
来ヶ谷「ほ~ら、沙耶くん、こっちにおいで」
理樹「ちょっと来ヶ谷さん、沙耶さんを誘惑するのは止めてよ」
沙耶「いや、いくらあたしでも、流石について行かないから」
来ヶ谷「これも付けよう」
『アップルサイダー』
沙耶「理樹くん、ちょっと行ってくるわ」
理樹「沙耶さん、駄目だって。落ち着いて」
沙耶「離しなさい、理樹くん」
恭介「~であるからして……」
小毬「くか~」
恭介「まとめると」
鈴「ここには馬鹿しかいないってことだな」
恭介「そうだな、その通りだ」
~~『次回予報』~~
理樹「予報っ!?」
恭介「どうだ理樹」
理樹「また恭介の仕業なの?」
恭介「ああ」
理樹「どうしてこんな事を」
恭介「俺は考えた」
恭介「昨今、アニメやテレビの次回予告が外れるなんて事は、まず無い」
理樹「そうだろうね」
恭介「だが、天気予報を見てみろ」
恭介「天気を読んでるんだから、予報は外れる事も多々ある、だろ?」
理樹「まさか……」
恭介「そう、俺は次回予告ではなく、次回予報とする事で、予告が外れても大丈夫なように予防線を張ったんだ」
恭介「どうだ、理樹」
理樹「そんな回りくどい事をするより、素直に謝った方がいいと思うよ」
恭介「……そうか」
どうもごめんなさいでした