たった一つの願い事 わがまま少女あやの物語 作:まめた みか
暗闇の中に銃声が二つ響いた後、
「……これは、どういうことだ」
時風がうめく
「……この場合は、オーバーじゃなく、ゲームクリアーって言うのかしら」
あたしは床に倒れ込んだ姿勢のまま、時風に言う。
「あたしの勝ちよ、時風」
『GAME CLEAR』
ちゃんと用意してあったらしく、目の前に黄色の文字が浮かび上がった。
「……まさか、ずっと狙っていたのか?」
うつ伏せに倒れていた時風がゆっくりと身体を起こした
「いいえ、ふと思い付いただけよ」
あたしも起き上がる。
「まさかナイフで弾丸を跳弾させてくるとはな」
時風が感心したように呟く
「ヒロインは最後まで決して諦めないものなのよ」
原理は単純だ。時風よりも向こうの床に刺さっていたナイフに弾丸を当てて反射させ、時風を背後から狙っただけ。
勿論、現実ではそう上手くはいかないだろうが、此処は夢の世界。イメージが現象を起こし、常識はねじ曲がる。
時風に戦う気が無かったというのも理由の一つだ。
時風はただ一発銃弾を撃つだけのつもりだった。とどめを刺す瞬間、人は必ず無防備になる。その隙をついた作戦。
本当に単純
でも、あたしは確かに勝ったんだ
「よっしゃ!! みたかバーローめっ!」
思わずガッツポーズをとってしまい、呆れたように時風に見つめられた。
「さて、これからどうするんだ」
時風が口を開く
「さっき言ってた秘宝を取りにいくのか?」
「それともゲームマスターにでもなって、世界を好きなように動かすつもりか?」
時風が仮面を外す、
中から棗恭介の顔が覗いた
「うわぁ、恭介だったんだぁ~」
何となく、理樹くんのモノマネをしてみる
「なんだその棒読みは」
はぁ、と呆れたようなため息を吐きながら時風、いや、棗恭介が言った
「さっきも言ったけど、ゲームマスターになるつもりはないわよ」
「そうか」
「けど、とりあえず秘宝は拝見させてもらおうかしら」
「ああ……秘宝はこの下だ」
時風の後ろについて、迷宮の奥へと歩みを進める。
「こいつに乗るぞ」
会話をしながら通路を歩き、奥にあったエレベーターに二人で乗り込む
暗いエレベーター内には電球は無く、階を示すランプの無機質な緑色の光だけが光っていた。
エレベーターはウィィィーンという何とも形容し難い音を立てて、深く深く下降していく。
「そうだ時風、あたしにサブマスターの権限くれない?」
エレベーターの表示が25階あたりを示す中、あたしは恭介に話し掛けた。
「は?」
呆気にとられた顔
「いや、一応あたし勝ったじゃない、ゲームマスターにはならなくてもいいからサブマスターくらいの権限を貰えないかなぁ~、と」
再びため息をつかれる。あんまりため息ばかりついてると幸せが逃げちゃうわよ
「……まあ、しょうがねぇか、好きにしな」
投げやりな調子のと……恭介
「ありがとう、時風」
「朱鷺戸、悪いが俺の事は恭介と呼んでくれ、理樹に感づかれると不味いんでな」
「わかったわ、き……恭介」
「……恭介お兄さん」
「ぐはっ」
確か恭介には、鈴ちゃんという可愛い妹さんが居たはずだから、悪戯心でお兄さんと呼んでみた。
「朱鷺戸、悪いがもう一度言ってくれないか? …………じゃなく、恭介と呼んでくれ」
突如むせ込んだ恭介。
妙な反応するわね。
恭介はゴホンと咳払いを一つする。
「サブマスターになる場合、俺の権限を少し譲渡する、という形になるから、出来るだけ近くに居てもらった方が都合がいいな」
「ふーん、そういうものなの?」
あたしはスカートの位置を直しながら聞く。
「お前の場合は少しばかり特殊な身の上だからな」
……まあ確かにそうかもしれない
「そうだな……三年生という設定にするが構わないな?」
「ええ、構わないわ」
無理を言っているのはあたしだし、この世界では学年に大した意味なんてないだろう
そうこうしているうちに地下60階にたどり着いたらしい。
チーンという大きな音がして、エレベーターの動きが止まる。
「秘宝はその奥だ」
ライトを点ける。
恭介の指差す先には小さな研究室のようなものがあった。
重い扉を開け、中へと歩みを進める。
様々な分析器具や機械が並んでおり、通路が狭い。
机の上にのっている物を落とさないように注意深く歩いていく。
更に奥に進むと、密閉されたガラス張りの小さな部屋があるのがわかった。
ゆっくりと中に入る。
そこは化学の実験室のような部屋だった。フラスコや試験管、ビュレットなどの実験器具。大きなものになると、モニターやパソコンなどが所狭しと詰め込まれている。
更に進むと、一番奥に電源ランプが点灯している冷蔵庫を見つけた。どうやら秘宝はこの中にあるらしい。
あたしは冷蔵庫を開けた。
……理樹くん、待っててね。
すぐ会えるから。
~~おまけ~~
僕が見ていたのは、長い悪夢だったのか。
起きたとき、僕は泣いていた。
「よう、起きたか」
上半身を起こすと、ベッドの端に恭介が腰掛けて、こちらを見ていた。
何だか、その姿もひどく懐かしいもののように思える。
それほど長い夢……だったら、どれだけ良かったか。
あんなに明確に僕は沙耶の事を覚えている。
「ねぇ恭介、僕には大切なパートナーが居たんだ」
「ああ」
「でも、また…居なくなってしまった」
「……」
恭介は何も言わない
「沙耶は、どこに行っちゃったのかな」
「さあな……」
恭介が目を伏せる。
「……たぶん購買にでも行ったんじゃないか」
小さな呟きだったために、何と言ったかは分からなかった。
「え?」
「……いや、何でもない」
恭介が酷く疲れた顔で呟く。
「理樹、もう少し眠りな、用意が出来たら起こしてやるから」
恭介に耳元で囁かれ、急激に眠気が襲ってきた。
……まぶたが重い。
「おっと………………」
恭介の話す声が遠くなる。
ただ、最後の一言だけは何故かはっきりと聞こえた。
「まったく、大したもんだよ。お前は」
~地下八階~
沙耶「……理樹くんが居ないんだけど」
恭介「そりゃ、二時間も帰って来なかったらな」
沙耶「あのエレベーターが遅過ぎるのよっ!!」
恭介「六十階もあるんだ、仕方ないだろ」
沙耶「……どうしよう」
恭介「任せろ、俺がしっかりフォローしといてやる」