たった一つの願い事 わがまま少女あやの物語 作:まめた みか
この作品は沙耶と友情と恋愛とシリアスと、もちろん筋肉で出来ています。
「あ、理樹くん、おはよ〜」
食堂で、僕と真人がいつものように謙吾の近くに向かうと、鈴と談笑していた小毬さんに挨拶された。
「おはよう、小毬さん」
朝から元気な人だ。
「お、今日は小毬も一緒か」
真人もトレーを持って後ろからやってきた。
「真人くんもおはよ〜」
「おう、おはよう」
真人と小毬さんはすっかり打ち解けたみたいだ
「鈴と小毬さんは何の話をしていたの?」
昨日、名前で呼ばれたのでこちらも『小毬さん』と名前で呼んでみた。
やっぱり少し恥ずかしい
「今日の学校行事についてだ」
「学校行事?」
鈴の言葉に真人が首を傾げる。
「何だい、そりゃあ」
「奉仕活動だよ」
いつの間にかやってきていた恭介が鈴の代わりに答える。
「いわゆる大掃除だとか、ボランティアみたいなもんだ」
恭介は僕の前の席に腰を下ろすと言葉を続けた。
「校内のゴミを拾ったり、体育館やグラウンドを綺麗にしたり」
「町で募金活動したりもするんだよ〜」
小毬さんが補足する。
「へぇー そんなもんがあるのか」
「去年もやっただろうが」
真人の言葉に謙吾が呆れたように返事を返した。
「去年は確か、みんなで敷地内のゴミ拾いをやったよね」
僕の言葉に鈴、恭介、謙吾、真人の四人が頷く
「今年は何をやるの?」
「今年は…そうだな……」
「みんなで老人ホームに行きましょう」
恭介がアイデアを出す前に小毬さんが口を開いた。
「老人ホーム?」
謙吾が怪訝な顔をして聞き返す。
「えっと、何で老人ホームなのか聞いてもいいかな?」
僕も気になった
「さっき鈴ちゃんとも話してたんだけど、老人ホームには寂しがってるお爺さんやお婆さんが結構居るんだよ」
「私たちがボランティアに行く事でそんな人たちを少しでも元気にしてあげられるなら、それはとっても良いことです」
「みんなで幸せの日だまりをつくろうよ」
小毬さんはそう言って右人差し指を立てた。
「どうする? 恭介」
「面白そうじゃないか」
僕の問い掛けに恭介はクールな笑顔を返した
「野郎共、老人ホームで幸せの日だまりを創る…ミッションスタートだっ!」
~~Saya~~
「ボランティアねぇ」
恭介に老人ホームに行く事になった事を伝えられる。
「具体的に何をすればいいの?」
「お年寄りの方々とお話しをしたり、一緒に簡単なゲームをしたり、まあ簡単に言えばお年寄りの暇つぶしに付き合うって事だな」
俺はこれを持っていく、と恭介は鞄の中からトランプと人生ゲーム、オセロを取り出した。
「朝のうちに三枝にも言っといてくれ」
「わかったわ」
立ち去る恭介を見送り、葉留佳を探す。
何ヶ所か探して
「はるか~か~なた」
二階の空き教室で妙な歌を口ずさみながら、椅子のネジを締めている葉留佳を見つけた。
「おはよう葉留佳」
「ありゃ、沙耶さん。おはようございます」
「一体何の御用で?」
目の前の彼女は不思議そうに目をぱちくりさせた。
かいつまんで事情を話す。
「なるほど」
「合点承知ですヨ」
彼女はそう笑いながら、修理の終わったらしい机と椅子を持ち上げようとした
それを手で制し、あたしが代わりに持つ。
「ありがとね、沙耶さん」
葉留佳は嬉しそうに微笑んだ。
机を運び終わり、部屋に戻ろうとした所でクーニャ(能美さんの愛称だ)に出会った。
「ぐっもーにんぐ、サヤあーんどミスター三枝」
「ミスター三枝!?」
味吉葉留佳ではないのですヨ! と一人ツッコミを入れている。
「おはよう、クーニャ」
「クーニャ!?」
さっきから葉留佳が忙しそうだ。
「ねぇクーニャ、今日の昼からの奉仕活動で何をするのか、もう決めた?」
「いいえ、まだです」
ふるふると首を振る
「それならあたし達と一緒に、老人ホームのボランティアに行かない?」
「老人ホームというと、お年寄りの皆さんが生活している、というあの……」
少し考え込む
「みんなと一緒なら、きっと楽しいよぅ、クド公!」
葉留佳が横からクーニャに抱き付く
「むぎゅ…… わかりました、是非ともご一緒させて下さい」
〜〜〜
お昼過ぎに校門前に集まることにして、二人と別れた。
「どうしよう」
準備の為に部屋に戻ったはいいが
「何を持って行けば良いのかしら」
お年寄りに喜んでもらえるような遊び道具が全く思い付かない。
「このチョイスは流石に渋すぎるか」
現在、鞄に入れたのは……
お手玉
囲碁セット(十三路盤)
酢昆布
クーニャから貰った日本茶の茶葉(缶入り)
一口サイズのお饅頭が数個
となっている。
どうしてこうなった
「困ったなぁ」
「いつも快活なあや君がそこまで悩むとは珍しいな。どうした、悪い男にたぶらかされでもしたのかね?」
「来ヶ谷さん……」
音もなくあたしの背後に忍び寄っていたのは来ヶ谷さんだった。
「良かったら、わけを話してもらえるかな?」
「奉仕活動、老人ホーム」
どうせこの人はもう事情を知っているだろうから、二言だけ話した。
「なるほど」
来ヶ谷さんはうむ、と頷いた。
「今日の奉仕活動で老人ホームにボランティアに行くことになったものの、何を持って行けばいいのかわからない。というか、あたしのこのチョイスは渋すぎるんじゃないかしら。ハアハア来ヶ谷さんめっさ大好き、抱いて と、いったところか」
「やっぱりわかってるんじゃない」
勿論、最後以外ね、と付け加えるのを忘れない
「やはり、あや君は可愛いな」
少し意地悪な言葉を返したのに、来ヶ谷さんは全く気にして無さそうだった。
「で、どのようなものを選んだのかね?」
あたしの鞄を覗き込む
「……酢昆布は要るのか?」
「さあ」
「あや君は囲碁を出来るのかね?」
「出来ないわね」
「……そうか」
残念なもの(この場合はあたしだ)を見るような目をされた。
「ふむ、日本茶と茶菓子か」
続いて、来ヶ谷さんはクーニャから貰ったお茶とお饅頭の批評に入った。
「着眼点は良いのではないかと思うよ」
「でしょっ」
「!?」
あたしが笑顔になると、何故か来ヶ谷さんがハッとした表情になった。
「どうかした?」
「…いや、何でもない」
~~
「着眼点は良いが、これでは数が足りない」
との有り難いお言葉を賜(たまわ)り、来ヶ谷さんの指導のもと、クッキーを作ることになった。
「材料はこれでいい」
来ヶ谷さんが自分の部屋から持ってきた、小麦粉やバター、卵といった材料たちを机に載せる。
ちなみに、場所は家庭科部の部室を使わせて貰っている。
来ヶ谷さんは片付けさえしておけば自由に使用して構わないと、女子寮長(あーちゃん)からお墨付きを貰っているらしい。
もっとも、最近はあまり料理をしていないらしいけれど
「で、俺は何で呼ばれたんだ?」
クッキー作りを手伝ってもらうために真人くんを家庭科部の部室へと呼び出したのを忘れていた。
「やあ真人くん、君は今日も元気一杯だな」
「おお、来ヶ谷、おめえも相変わらずみてぇだな」
来ヶ谷さんと真人が互いに挨拶を交わす。
「じゃあ、あなたに早速仕事を与えるわ」
真人くんにバターを入れたボウルと泡立て器を渡す
「全く、人使いが荒いぜ」
そう言いながらも、かき混ぜ作業を始めてくれる真人くんは、やっぱり良い人だ。
「次は小麦粉だ」
うおおお、とボウルをかき混ぜる真人くんを尻目に、来ヶ谷さんの指示に従って小麦粉をふるいにかける
料理本によると、ダマが出来ないようにこの作業をするみたいだ。
続いて砂糖や卵などを用意する。
「ふう、どうだ?」
「よし、次はこれを加えて混ぜたまえ」
あたしが乾いた布巾や木杓子なんかを用意している間に、真人くんは再びボウルと格闘する作業に戻っていた。
「うおおおおっ! 俺の筋肉がうなる、うなりをあげる」
「やかましい黙れぶち殺すぞ、このヘタレ小僧」
「ごめんなさい」
気合いを入れすぎた真人くんが唯湖に怒られてから、数十分して
「出来たわ」
遂にクッキーが出来上がった。
「おおっ! めちゃくちゃ美味そうじゃねぇか」
「うむ、よい色だ」
オーブンから出来上がったクッキーを取り出し、味見用を除いて冷蔵庫に入れる。
唯湖によると、冷やす事でより美味しくなるらしい。
確かに料理本にもそう書いてあった。
「はい真人くん、まだ熱いから気をつけてね」
「いっただっきまーす」
あたしの渡した三つのクッキーが一瞬にして口の中へと消えた。
幸せそうな顔でモグモグと咀嚼(そしゃく)する真人くん。
「唯湖も、はい」
「うむ、ありがとう…………って唯湖!?」
パクリと一口かじった唯湖が大袈裟に飛び退く
「駄目だった?」
「だ、駄目というか……そ、その呼び方は」
「せ、せめて来ヶ谷ちゃん、と」
「嫌よ」
せっかく仲良くなれたんだし、どうせなら名前で呼び合いたい。
なんて言うのはあたしのわがままだって分かっているけど
「唯湖が嫌なら、そうねぇ……」
「ユイにゃんとか」
何故かピンク髪の悪魔が浮かんだ
「絶対に嫌だ」
仕草は弱々しいが、強く否定される。
「じゃあ唯(ゆい)って呼ぶわ、それでいいでしょう?」
「……しかし」
「あなただってあたしの事をあや君って呼ぶじゃない。それなのにあたしだけ『来ヶ谷さん…』なんて他人行儀な呼び名、不公平だわ」
「むう」
唯がよろめく
よし、ダメージが入っている
「俺にはよくわかんねえが、別にいいんじゃねぇか? 来ヶ谷」
「仲良くするのはいいことだぜ」
更に真人くんから援護射撃が飛んできた。
「くっ」
もう一押し
「唯はあたしの事が嫌いなの?」
詰め寄ってみる。彼女の方が背が高いので、自然と上目遣いだ。
「ぐわぁぁぁ、それやばいだろう」
ノックアウトだ
彼女は完全に机(マット)に沈んだ
しばらくして
「……ああ、分かったよ」
うなだれていた唯が顔を上げる。
「唯でも唯湖でも好きに呼んでくれ」
「ああ、もうどうだっていい。 お姉さん、もはや大打撃だよ……」
むくれた唯がクッキーをやけ食いする。多分、あたし以外のリトルバスターズメンバーは誰も、彼女のこんな姿を見た事はないんだろうな。
「一件落着だなっ!」
あ、真人くんが居たんだった、また忘れていた。
訂正しよう、あたしと真人くん以外のリトルバスターズメンバーは誰も彼女のこんな姿を見た事はないんだろう。
「じゃあユイにゃん、悪いんだけどそこにあるお茶を取ってもらえないかしら」
「うむ、了解した……が、その呼び名だけは止めてくれ」
あたし達のやり取りを見て、真人くんも真似しようとする
「なるほど、じゃあ俺も……」
息を吸う
「ゆ…」
「断罪してやろう」
「う、ぐわあぁぁぁ〜!」
「平和ねー」
プロレス並みの見事なスパルタキックコンボを肴(さかな)にお茶とクッキーを楽しむ穏やかな午前中となった。
~次回予報~
クド「次回は短編集になる予定なのです」
恭介「どうでもいい裏設定や砂糖に蜂蜜をかけるような甘い展開が目白押しだぜ」
真人「無論、筋肉は次回も」
恭介「あ、真人お前、次回出番無えから」
真人「嘘だろ恭介」
謙吾「まあまあ、日頃優遇されている筋肉馬鹿はたまには休め」
真人「何だと、この万年胴着野郎」
謙吾「ひがみは止めろ、みっともないぞ」
恭介「ちなみに謙吾、お前の出番も無い」
謙吾「なっ……」
恭介「お前ら二人で理樹と沙耶がいちゃついてるのを指くわえて見てるんだな」
沙耶「まあ、恭介の出番も無いっちゃあ無いんだけどね」
恭介「ガッデム!」