たった一つの願い事 わがまま少女あやの物語 作:まめた みか
お昼ご飯を終え、いよいよ老人ホームへ出発する時間になった。
校門前に送迎バスが来ているという話だったので、みんなでぞろぞろと校門へ向かう
「バスか…」
アイドリングしているバスを見て、恭介が渋い顔をした。
「どうしたの?」
「なんでもねぇよ」
バスで嫌な思い出でもあるのかしら
「クー公も一緒に行くんだな、人数が多けりゃ賑やかになっていいぜ」
「うむ、美少女が増えてお姉さんも嬉しいよ」
真人くんと唯の言葉に、クーニャが元気よく「ありがとうございます!」と答える
「でも、引率が寮長さんで驚きました」
「うふふ、驚いた? たまには棗くんをびっくりさせてやろうと思ってね」
「お前や沙耶にはいつも驚かされてばかりだよ」
その言葉を聞いて、恭介が苦笑いを浮かべた。
「ほら、あーちゃん先輩、棗先輩達も、早く乗って下さい」
窓から顔を出したのは
「二木…佳奈多」
彼女の顔を見て、葉留佳が小さく名前を呟く。
二木さんも何か思う所があるのか、じっと葉留佳を見つめ返していた。
~~
「理樹、見ろっ! 猫だ、猫がいるぞ」
「どうした理樹、そんなにカルピスを原液のまま飲みたいのかい?」
「理樹、見てみろ、川がある。風情のある景色だな」
「どうした理樹、眠そうだな。俺の筋肉に包まれて少し眠れよ」
「理樹くん、ぱっきー食べる~?」
理樹くんの周りには、笑顔が絶えない
というか
「理樹くん、モテモテね……」
「沙耶さん! こまりんに貰ったお菓子食べようよ」
「もずくはいかが?」
「サヤ、しりとりしましょう!」
理樹くんの方を振り返っていたら、葉留佳たちに声を掛けられた。
「私はあなたも大概だと思うけど」
「そうですね」
何故か、一つ前の席に座る二木さん達に呆れられた。
~~~
「着きました~!」
クーニャがマントをパタパタとはためかせてバスを降りる
「能美さん、あまりはしゃがないの、これは一応学校行事なんだから」
「はいっ」
そんなクーニャを二木さんが優しく注意している。
「まあ、もっとはしゃいでいる集団もいるようだけど」
二木さんが小さく付け加える。
「よっしゃ、いくぜ野郎ども!」
「「「おーっ!」」」
「アホね」
バスを降り、老人ホームへ
「こんにちは~!」
「「「こんにちは」」」
小毬さんに続いて挨拶する。
「こんにちは、今日は課外活動の一環として、微力ながら皆さんのお手伝いをしに来ました。今日一日どうぞよろしくお願いします」
硬い挨拶をするのは二木さんだ。
「それじゃ、お部屋を回ってお話だとか、お掃除だとかをしてあげてくれるかしら」
あーちゃん(そう呼んで構わないと許可を貰った)が施設の職員さんと二言三言、言葉を交わした後、そう言いながらあたしたち全員に紙を配る。
『校外研修スケジュール』とタイトルがつけられたそれには、ピシッとした明朝体で今日のスケジュールが羅列されていた。更に、裏面には分かりやすい施設内の見取り図と注意点が書かれている。
「あたしとかなちゃんで作ったのよ、結構良くできてるでしょう?」
「ええ」
「あーちゃん先輩……かなちゃんって呼ぶの、止めて下さい」
まあ多分、九割方二木さんが作ったんだろうな……とはみんな思っても言わない。
「しかし、お話って具体的にどんな話をすりゃあいいんだ?」
真人くんがもっともな質問を投げかけてきた
「そうねぇ……」
「興味を持ってもらえそうな話題を必死に絞り出しなさい」
「あとは元気に挨拶、返事をする。くらいかな」
「大丈夫だよ、真人の場合は筋肉から徐々に話題を広げていけば」
あたしの言葉に理樹くんが付け加える。
「そうか、そうだった。俺には筋肉があったんだ!」
拳を突き上げる真人くん
「相変わらず幸せな男だな」
「馬鹿とも言うな」
そんな真人くんに謙吾くんと鈴ちゃんが鋭くツッコミを入れる。
「あのー、私はあまり筋肉に自信がないのですが、どうしたらいいでしょう?」
クーニャの言葉に小毬さんが笑顔になる
「そんな時は前向きマジック!」
何だろう、それ
「前向きマジック?」
同じく気になったらしく、理樹くんも聞き返す
「うん、両手をこうして」
小毬さんはそう言いながら握りこぶしを作った
それを胸元に持っていき、更に力を込める
「ようし!」
「落ち込んじゃった時とかに、そのことを口に出して、最後にようし、って付けるの」
「なるほど、小毬君なりの気合いの入れ方という訳だな」
「うん! これをすればほら、ネガティブがポジティブに」
「実は俺、昨日一万円落としたんだ……そんなネガティブもポジティブに変えられるのか?」
思い出してしまったのか、ずーんと落ち込んだ恭介が小毬さんに尋ねる
「うん、大丈夫だよ。見ててね」
「昨日一万円落とした、ようし! 今日は二万稼ぐぞぉ!」
「おおっ!」
目を輝かせる恭介
「今のは応用形だよ、解決策をようしの後に続けて言うの」
「よし、俺もやってみるぜ」
「昨日一万円落とした、ようし、今日は二万稼ぐぞ!」
真剣な表情で拳を握り締める恭介
「なんかポジティブパワーが湧いてきた気がするぜ」
案外単純だ。
「お前たちもやってみろ」
「剣道馬鹿だから、上手い話題が思い付かない、ようし」
「猫以外の話題が思い付かない、ようし」
「筋肉以外の話題が思い付かない、よっしゃー!」
この三人は極端過ぎる
「最近、お肌の水分が少なくなってきたような気がする、ようし」
まだ充分若いわよ(震え声)
「背が低くて、頭が悪くて、英語が出来なくて、ちんちくりんな面白クオーターでダメダメわんこ、ようし」
それは自分を卑下し過ぎだと思うわ。
「家族と仲良くしたいのに、方法がわからない、ようし」
家庭の問題か……
難しい問題だけど、あたしに出来ることはしてあげよう。
「この今がずっと続けばいいのに……、よし」
…………
「ライバルが多くて、沙耶さんを独り占めできない、ようし」
今度お弁当でも作って持って行ってあげようかな。
「……ようし」
下らないと言っていた二木さんも静かに握り拳を作っていた。まったく、素直じゃない。
「自分から歩み寄る方法がわからない……ようし」
あれ? いつの間にか一人多い気がする
ま、いいか。あたしもやってみよう
「滑稽で間抜けでわがままで自分勝手、ようし」
「沙耶くん、あれを」
「あ、そうだった」
鞄からクッキーを取り出し、職員さんに渡す。これはおやつの時間に出してくれるらしい。
「よしお前ら、ミッションスタートだ。頑張ってこい」
少し元気になった様子の恭介に見送られながら、それぞれ割り振られた部屋へと別れる。
「理樹くん、真人くんまた後でね」
「おう」
「沙耶さんも頑張って」
近い部屋の担当になった二人に別れを告げ、あるおじいさんの部屋へ向かう。
「失礼します」
ノックした後、返事を待って入室する。
「こんにちは」
「ああ、こんにちは。よく来てくれたね」
にこやかに挨拶してくれたのは、眼鏡を掛けた優しそうなおじいさんだった。
「朱鷺戸沙耶です。今日はよろしくお願いします」
ぺこりと一礼する
「これはご丁寧に、ぼくは中尾優(なかおゆたか)、君の好きに呼んでくれて構わないよ」
中尾さんは車椅子に座ったまま、ゆったりと笑った。
~~~
「それでねっ、あたしが跳んだ方がいいって言ったのに、理樹くんったら、いいや僕の方が高く跳ぶかもしれないじゃないか~って頑固でね。思わず、いいから下になれ、こらーっ! って言っちゃったの」
「はははっ、おてんばな沙耶ちゃんらしいね。理樹くんも大変だ」
「あたしは充分に良心的よ、たまに理樹くんがおかしくなるだけ」
足を悪くしてから、部屋に閉じこもってばかりになってしまったという中尾さんが面白い話を聞きたいと言うので、あたしの昔話や理樹くんとの事、リトルバスターズのみんなとの事なんかを聞かせてあげる事にした。
中尾さんは聞き上手で、相づちを打つのが上手いから、あたしもついつい喋りすぎてしまう。まるでテレビ番組の司会者にでもなってしまったような気分だ。
そういえばクッキーがまだ余っていたんだっけ。
「おじいちゃん、あたしクッキー作ってきたんだけど、良かったら食べる?」
「それじゃあ、いただこうかな」
持ってきたお茶も入れてあげよう。魔法瓶に入れてきたから、温かいままだ。
中尾さんがクッキーを口に運ぶ
「美味しいよ。どうもありがとう、沙耶ちゃん」
「良かった」
中尾さんと一緒にクッキーとお茶を楽しんだ後、部屋を掃除する事にした
部屋をぱぱっと簡単に片付け、窓を開け、掃除機をかける。
20分もすると、部屋はかなりきれいになった。
「とりあえず、こんなところね」
この短時間ですごくきれいになった。…というより
「物が無くなった?」
机の上などに置いてあった小物類や部屋の隅っこに立ててあった杖
「変ね」
さっきまでは、確かにそこにあったはずなのに
中尾さんを見る
何故か顔を反らされた。
「おじいちゃん?」
あたしじゃないとすれば、中尾さんがどこかに片付けたのだろう。
でも、どこに?
答えはすぐに出た。
この部屋はお世辞にも広いとは言えない。ベッド、机、押し入れに本棚くらいしか物がないくらいだ。
「ちょっとそこの押し入れ開けるわよ?」
返事を待たず、押し入れを開け放つ。
「…っ!?」
閉める
何だ、今のは
押し入れの中が真人くんの机の中みたいになっていた。いや、この場合は、恭介にすすめられた漫画『最強園児・シンノスケ』に出てくるノハラ家の押し入れみたいになっていた。
押し入れを不用意に開けると雪崩が発生し、物に埋まるのだ。ちなみに作中では防犯対策にも使われていた。
危険過ぎる……
「おじいちゃん、弁解を聞こうかしら」
笑顔で詰め寄る。
「いやー、足を悪くしてから、なかなか手が出なくてね」
「身体のせいにしない」
一蹴する。
「ごめんなさい」
素直に謝られた。軽いため息をつく
「で、最後に掃除したのはいつ?」
「あれは確か…梅雨入りの直前だったような」
「ほぼ一年経ってるじゃない!」
「月日の経つのは早いものだね」
あたしのツッコミは華麗に受け流された。再度ため息をつく
「いいわ、掃除する」
まさかこんな所に来て、押し入れに広がる腐海を掃除する羽目になるなんて思いもしなかったけど
「やってやろうじゃない」
押し入れに広がるゴミの一つや二つ、この朱鷺戸沙耶が押し出してやるわ!
押し入れの前に立つ
「……」
前言を撤回しよう。やっぱり嫌だ。なんかこう……禍々しいオーラが漂っているのが見える。
「やっぱり止めておいた方がいい…」
おじいちゃんの言葉を手で遮る。
「骨は拾ってね」
そう言って親指を立てると、あたしは猫が描かれたマスク(鈴ちゃん御用達)に軍手という色気の欠片もない装備で腐海へと挑むのであった。
~~~
「うう……」
あれからどれくらい時間が経ったのか、
体感時間では、もう2時間くらいは掃除をしているような気がする。
大きなゴミ袋6つがいっぱいになり、ようやく終わりが見えてきた。
溜まったそれらをとりあえずゴミ捨て場に持って行く事にして、「うおりゃー!」と扉を開けた所まではよかったのだが、その瞬間に理樹くんとはち合わせしてしまった。
すぐさま扉を閉めたが、理樹くんの大きく見開かれた目が忘れられない。
やっぱり特大サイズゴミ袋の6個持ちはやり過ぎだったか?
「うあぁあああ……」
「よしよし、泣かないで」
おじいちゃんに慰められる、惨めだ…
~~~
「そろそろとどめを刺してやるわ」
気を取り直して掃除を再開する。さっきゴミ袋6つ分が無くなったから、押し入れの中はかなりすっきりしている。これならあとはほとんど整理するだけでいいだろう。
「で、残ったのが生活用品を除けば、写真立てにお茶碗、小さな木箱」
おじいちゃんは、持っている物の中で本当に大切なものは、これだけだよ、と言った。
「…………」
綺麗な笑顔の女の人と、緊張した面持ちの若い頃の中尾さんが写った白黒の写真を眺めながら、この人はいったいどんな気持ちでこの年齢まで過ごしてきたんだろう。と、ふと思った。
~~
やっとの事で掃除を終え、ようやく一息ついた所で
「中尾さん、おやつの時間ですよ」
職員さんがおじいちゃんを呼びに来た。
「ああ、もうそんな時間ですか。わかりました」
職員さんに続いて、車椅子に乗ったおじいちゃんを大広間に連れて行く。
大広間の扉を開けた先はまるでパーティー会場のようだった。
恭介「神北のお陰で元気が湧いてきたぜ」
沙耶「よかったわね」
恭介「きっと俺の諭吉は、誰かの役に立つ為に消えたんだ……」
恭介「さらば諭吉ぃぃ!!」
沙耶(実は昨日一万円札拾ったなんて言えない)
沙耶「……恭介、今度ご飯でも奢ってあげるわ」
恭介「え、急にどうした?」
~~次回予報~~
西園「皆さん、こんにちは。西園美魚と申します」
真人「ありゃ、どうして西園が居るんだ?」
西園「こんにちは、井ノ原さん」
真人「あ、こりゃどうもご丁寧に」
西園「今回、次回予報なるコーナーを任せてもらう運びとなりました」
真人「おお、そうか。よし、俺がばっちりサポートしてやるぜ」
真人「これが今回の進行予定表だ」
真人「だが、面白いアドリブ入れんのは、オールタイム…いつでもOKだぜ」
西園「…………」
真人「って、捨てるのかよおおぉぉぉ~!」
西園「風で飛んだだけです」
葉留佳「ヘイ、みおちん! 何してるんだねこんな所で」
西園「三枝さんですか」
葉留佳「なんだーっ、その、またうるさいやつが来た…って顔は!」
西園「そんな事は思ってません」
葉留佳「あ、次回予告するんだね」
西園「正確には次回予報というコーナーのようですが」
葉留佳「おけおけ、はるちんにお任せあれ。どーんと、泥船に乗った気持ちで!」
西園「次回は時代劇をなさるそうですね」
葉留佳「え、スルー?」
西園「棗さんや来ヶ谷さんが大活躍するそうですよ」
葉留佳「あたしは?」
西園「来ヶ谷さんのセリフの後に必ず、その後はしっぽりむふふといきたいものですな……と付け加える役です」
葉留佳「……」
真人「俺はどんな役なんだ? 勿論、俺様の筋肉を生かせる格好良いアクションやセリフがある役なんだろうな?」
西園「井ノ原さんは木です」
真人「……」
杉田「鮮やかだ、あのうるさい二人をたった一瞬で黙らせるとは…」
西園「ちなみに配役は冗談です」
真人「こうなったら、木の役をすげえ激しくやってやるぜ」
葉留佳「その後は…しっぽりむふふといきたいものですなあ」
西園「聞いてませんね」
西園「次回、『第二十一話 黄色い衣』見てくれないと……おまんら、許さんぜよ」
西園「失礼しました」