たった一つの願い事 わがまま少女あやの物語   作:まめた みか

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ご心配をお掛けしました。これより更新を再開します。



第二十二話 秋の風物詩

 

劇は遂に佳境を迎えた。

 

 

いよいよ唯と恭介の演じる悪代官達との直接対決だ。

 

 

あたしたちは恭介からの合図があるまで待機との事で、先に舞台に上がるのは唯と謙吾くん、そして鈴ちゃんだ。

 

 

 

「ふっふっふ、よいではないか、よいではないか」

 

 

「あーれー」

 

帯を引っ張られ、回転しながら叫び声を上げる鈴ちゃん。

 

 

……すごい棒読みだ。

 

 

 

「お代官様っ!」

 

慌てた様子の恭介が舞台へと現れた。

 

「何だ、騒々しい。今からしっぽりむふふと洒落込もうと思っていたのに」

 

 

「何者かがこの屋敷に侵入したようです」

 

 

「警備は何をやっている」

 

冷静な唯。

 

ただ、鈴ちゃんの着物の帯は握ったままなので格好はつかない。

 

 

「それが、次々に蹴散らされておりまして……」

 

「間もなくここまで到達するものと思われます」

 

 

出番だ。

 

 

「来てあげたわよ」

 

 

段ボールで作ったふすま(西園さん作)を足で蹴り飛ばして舞台に上がる。

 

「観念いたせっ!」

 

「……」

 

葉留佳と二木さんも続く

 

 

「ふん、飛んで火に入る夏の虫とは、このことだな。行け、剣布留鹿能ヶ無侍(けんふるしかのうがないざむらい)」

 

「お任せを」

 

 

 

唯の背後に静かに控えていた謙吾くんが、いつもと変わらない袴姿でゆらりと前に出た。その手に握っているのは……

 

 

サンマ?

 

 

作り物だとは思うが、妙にリアルだ。

 

 

「かたじけのうござる」

 

 

謙吾くんは渋い声でそう言うと、サンマを構える。

 

 

「御老公、ここは我らが」

 

 

「ギタンギタンにしてやりまする」

 

葉留佳と二木さんが一歩前に出た。

 

 

 

「よし、そちらは任せましたよ。助さん、格さん」

 

 

舞台中央で唯と対峙する。

 

 

「ふふ、私に挑んでくるとは、どこの誰だか知らんが、怖いもの知らずだな」

 

 

「少し懲らしめてあげましょう」

 

唯が腰から模造刀を抜き、あたしは杖を構える。

 

 

 

「バトル・スタート」

 

 

恭介の掛け声に合わせ、唯とほぼ同時に動く

 

 

ガキン!

 

 

鍔迫り合いの体勢になった。

 

 

「あなたの不埒な悪行三昧は、既にあたしたちの知るところよ。大人しく降参しなさい」

 

 

「ふっ、ただの美少女が何をほざくか」

 

 

何気に誉められている。

 

 

唯がフッと力を抜いた。前につんのめりそうになる。

 

 

「フハハハハ、しねぃ!」

 

 

一歩下がった体勢から素早く振るわれた一閃を何とか杖で受け流し、その勢いを利用して回転。

 

 

大きく杖を振るったが

 

 

「やるじゃないか」

 

 

いともたやすく回避されてしまった。

 

 

「はるちん、コズミックファイヤービーム!」

 

ぴん、ぴん、ぴん

 

 

「脂がのった秋の名物、旬のサンマを貫けるビームなど…無い!」

 

「ななななんだってー」

 

 

葉留佳達の方も熾烈な戦いを繰り広げているようだ。

 

 

「ビュオオオーっ!」

 

真人くんは木の格好でざわざわ揺れている。

 

 

どうやら屋敷の外は嵐らしい。

 

「余所見(ゆだん)をしている暇があるのかね?」

 

 

「あら、これは余裕と言うものよ」

 

 

横薙ぎに振るわれた剣戟を屈んでかわす。

 

 

「負けるな」「そこだー」

 

 

……観客のおじいちゃんおばあちゃんたちは結構盛り上がっているみたいだけど、いったいどうしたらこの戦いは終わるのだろうか。

 

 

と、こんな事を考えている間も一進一退の攻防は続いている。

 

 

既に数十合は打ち合っているのだが、指示をくれる筈の恭介に動きは無いし

 

 

「…サヤ」

 

ふと、小声で呼ばれたような気がした。

 

舞台袖をちらりと窺う。

 

 

『空中一回転をしながら、手裏剣を投げろ』

 

 

クーニャが舞台袖でプラカードを出していた。

 

手裏剣? そんなものどこに……そういえば懐に入れて貰ったんだっけ。

 

 

やってやろうじゃない

 

 

再度杖を大きく振るい、唯と距離をあける。

 

 

これで準備は整った。

 

 

助走をつける

 

 

 

大きく床を蹴ってジャンプ、そのまま身体を丸め、懐から手裏剣を取り出す。

 

 

「くらいやがれぇぇぇ!!」

 

 

そのまま一回転して着地すると同時に、唯と謙吾くんに向けて手裏剣を放った。

 

すこんっ

ぽすっ

 

 

「馬鹿な、さ、サンマが……あ、秋の風物詩の秋刀魚が敗れるだと」

 

 

「馬鹿な、パ、パンツが……こ、この私が絶好の機会を逃しただと」

 

 

放たれた厚紙製の手裏剣は謙吾くんの後頭部と唯の胸元に見事命中した。

 

 

二人とも何事か呟くと、テンポよく倒れる。

 

 

「お代官様っ!?」

 

 

恭介がサッと青ざめた。

 

 

みんな演技が上手ね。

 

 

 

「見たか、正義は勝つのだー!」

 

葉留佳が二木さんの手を取り、ぴょんぴょんと跳ねる。

 

 

「はしゃぎ過ぎよ」

 

 

そう言う二木さんも顔が緩んでいる。

 

 

と、1人だけ残された恭介が怯えたように

 

 

「お前たちは一体何者なんだ…?」

 

そう呟いた。

 

それを待っていたかのよう(実際待っていたのだが)に二木さん演じる格さんが前に出た。

 

 

「コホンッ」

 

二木さんは一つ咳払いをすると、

 

 

「控えおろう、控えおろう!」

 

懐から印籠を取り出した。

 

 

ちなみに唯と謙吾くんは横たわっているので、この場で控えられるのは恭介しかいない

 

 

「この紋所が目に入らぬか」

 

 

「げえっ、それはまさかっ!」

 

何故か葉留佳が悪役のような事を口走った。

 

 

「こちらにおわす御方をどなたと心得る。恐れ多くも先の副将軍、水戸光圀公にあらせられるぞ」

 

もの凄いドヤ顔の二木さん、これは珍しいショットだ。

 

 

 

「えーい、おまえたち、頭が高い、控えよーっ! ははーっ」

 

 

何故か葉留佳が自分で言って、自分で頭を下げる。

 

 

さっきから忙しそうだ。

 

「ははーっ」

 

恭介も平伏する。

 

 

 

「ごろうこうさまー」

 

 

戦闘の間、舞台そでに引っ込んでいた鈴ちゃんがひょこっと姿を現した。

 

 

「このたびは悪代官を懲らしめていただき、ありがとうございました」

 

 

 

「鈴〜!」

 

 

そこへクーニャも登場する。

 

 

「無事かい!?」

 

「うん」

 

「良かった、ああ、なんとお礼をしたらいいか」

 

 

クーニャが顔を赤くしている鈴ちゃんを抱き締める。

 

 

「お礼など、とんでもない。我々はその子の笑顔がもう一度見たかっただけですから」

 

 

決まった、完全に決まった。

 

 

あたしはそのまま葉留佳と二木さんの方へと振り返る。

 

 

「では行きましょうか、助さん、格さん」

 

 

「御老公、この小役人はどういたしましょう?」

 

 

二木さんが恭介を指差した。

 

 

「そうですな、近くから別の役人を……」

 

 

「待ってくれ」

 

 

平伏して処分を待っていた筈の恭介が台詞を遮った。

 

颯爽と立ち上がる。

 

 

「ひとつだけ言わせてくれ」

 

 

あれ? 劇の流れでは悪代官を倒し、テーマソングを流して終わりだったような?

 

 

恭介は一体何をしようとしているのだろう。

 

 

「俺は……そこにいる娘、鈴の兄だ」

 

うん

 

 

「それがどうかしたの?」

 

 

「俺を捕まえれば…鈴の心は悲しみに包まれ、折角戻った笑顔も消え去るだろう」

 

 

「その子の笑顔を守る為にあなたを見逃せと?」

 

二木さんの問いに

 

 

「そういうことだ」

 

 

恭介が笑みを浮かべる。

 

 

「いや、あたしはお前が居なくても別にいいぞ」

 

 

「そう言ってるけれど?」

 

 

「お前たちには見えないのか? 鈴の目に浮かぶ涙が」

 

 

「むしろせいせいするな」

 

 

鈴ちゃんが腕を組んで言い放つ。

 

「ぐはっ!」

 

 

恭介が血のようなもの(多分ケチャップだろう)を吐き出した。

 

 

「さあ、来なさい。隣町の役場に引き渡してあげる」

 

 

「ならば……」

 

恭介は今度はクーニャに目を向けた。

 

「母さん、七年前に突然家を出て悪かったよ。これからは心を入れ替えて宿を手伝うから……許してくれよ」

鈴ちゃんの懐柔が不可能と見るや否や、凄い変わり身だ。もはや清々しさすら感じる。

 

 

「恭介、全く悪い子ですね、ほらこっちに来なさい。お尻ペンペンです」

 

 

「Yes,Ma’am!」(了解しました)

 

 

敬礼したままクーニャに引きずられ、恭介が姿を消した。鈴ちゃんもこちらにお辞儀をした後去っていく。

 

 

 

「無事、一件落着ですなぁ」

 

 

葉留佳が腰に手を当て、脳天気に言い放つが、

 

 

「これで良かったのかしら?」

 

「さあ?」

 

 

あたしと二木さんは思わず顔を見合わせてしまった。

 

 

 

『こうして見事、町を救った一行は、少女の純真な笑顔と欲望に染まった青年の邪悪な笑みに見送られ、次の町へと向かうのでした』

 

 

小毬さんのナレーションが流れ……って後味悪っ! 良いのかこれで?

 

 

『じーんせ~い』

 

 

テーマソングが流れ出した。

 

 

唯と謙吾くんが立ち上がり、先ほど引っ込んだクーニャと恭介(未だに敬礼している)も再び舞台上に現れた。鈴ちゃんと真人くんと小毬さん、最後に遠慮がちに西園さんも現れる。

 

 

「整列っ!」

 

恭介の掛け声に合わせ、そのまま姿勢を正す。

 

 

「ありがとうございました」

 

 

小毬さんに続いて全員で頭を下げる

 

『ありがとうございました!』

 

 

職員さんの手により、幕がゆっくりと閉められていく。

 

「素晴らしい」「面白かったよー」

 

盛大な拍手に見送られながら、あたしたちの劇は無事…終了したのであった。

 

 

~~

 

 

「みんな~、そろそろバスの時間よ」

 

 

大広間のテーブル席に座り、おじいちゃんおばあちゃんたちとお茶を飲みながら、まったりとお話をしていると、あーちゃんにそう声を掛けられた。

 

 

 

 

「もうそんな時間か」

 

 

恭介がゆっくりと立ち上がる。

 

ここに居ない理樹くんと小毬さんを探しにいくようだ。

 

 

「えー、まだ謙吾との勝負の途中なんだが」

 

「やむを得ん、今回は引き分けという事にするか」

 

 

舞台の上で逆立ち勝負をしていた2人

 

「じゃあ、いっせーので戻るぞ?」

 

「ああ」

 

 

「いっせーの」

 

 

「ほいっ!」

 

 

2人共微動だにしない。

 

 

「てめぇ謙吾、裏切るつもりだったな!」

 

「それはお前も同じ事だ。そうまでして勝ちたいか!」

 

 

「うるせぇよ、ばーかばーか」

 

「なんだとぅ? 馬鹿に馬鹿呼ばわり……」

 

 

「何度同じ事を繰り返すつもりだ、馬鹿共」

 

 

あ、遂に唯の蹴りが入った。

 

 

うああぁあああー、という悲鳴がバックで流れる中、引きつった顔の二木さんが、苦笑している職員さんにお別れの挨拶を述べている。

 

 

まあ、いつもの、というかあたしたちらしい賑やかな最後だった。

 

 

「おじいちゃん、おばあちゃんまたね〜」

 

「またなのですっ!」

 

 

おじいちゃん達が玄関の所まで見送りに来てくれた。

 

 

「おじいちゃん、またね」

 

 

「ああ、世話になったね」

 

優しい笑顔だ。

 

 

全員が乗り込むと、程なくしてバスが動き始めた。

 

 

窓から手を振ると、おじいちゃんは先ほどと変わらない笑顔で見えなくなるまで手を振り返してくれていた。

 




沙耶さんに絡まないのでスルーされていますが、この劇の裏側では理樹くんが色々と頑張っています。
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