たった一つの願い事 わがまま少女あやの物語   作:まめた みか

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第二話 始まりの日

そして…舞台はもう一度始まりの日に戻る。

 

 

~Riki~

 

 

「きょーすけが帰ってきたぞーっ!」

 

 

寮内に響き渡る声で目が覚めた。

 

 

「ついにこの時が来たか……」

 

 

同時に上の方から聞こえてくる嬉しそうな声。

 

 

ルームメイトの真人だ。

 

 

ふん、という鼻息が聞こえ、床が軋む。

 

「真人、こんな時間にどこにいくのさ」

 

恐る恐る聞く。

 

 

「戦いさ!」

 

 

「こんな夜に? どこで?」

 

 

「ここ」

 

真人は床を示すと勢いよく扉を開け放ち、雄叫びを上げながら走り去っていった。

 

 

「ここって、まさか寮内ってこと?」

 

うわぁ、まずい。止めないと

 

 

真人を追って全速力で走る。あっちの方向なら多分食堂だろう。

 

 

食堂の扉の前までやってきた。

 

中からは机をひっくり返したような大きな音がしている。

 

 

扉を開けると、やはりというか、黒山の人だかりが出来ていた。

 

必死に人波をかき分けて進む。

 

人だかりの中心にようやく辿り着くと、袴姿の謙吾が竹刀を振り下ろそうとしている所だった。

 

それを真人は紙一重でかわすと、カウンターを仕掛けにいく。

謙吾も素早く竹刀を戻し、カウンターに備える。

 

拳と竹刀がぶつかる凄まじい音がした。

 

 

あそこに飛び込まないといけないのか……

 

 

「でも、やるしかないよね」

 

 

間に割って入る。

 

「二人とも、ストップ!」

 

 

「理樹、邪魔すんじゃねぇ」

 

 

「そうだぞ理樹、お前まで怪我することになる」

 

 

真人と謙吾は同時に動きを止めたものの、謙吾の放った言葉に

 

「俺は怪我すること前提かよっ!」

 

真人がツッコミを入れる。

 

 

「そういうことだな」

 

 

「そこまで舐められて、黙ってられるか。特訓の成果、見せてやるぜ!」

 

冷静に答える謙吾を見て、真人が激昂した。

 

迫ってくる真人の迫力に押され、周りの生徒達がよけて道を作る。

 

 

謙吾に背中を押され、人波に紛れてしまった。

 

 

野次馬達が沸き上がる。

 

 

やっぱり聞く耳を持ってくれなかった。

 

早く恭介を呼ばないと

 

 

「恭介は!?」

 

 

近くにいた男子に声をかける。

 

 

「え、あー、あそこでババ抜きしてるよ」

 

 

ババ抜き?

 

 

そちらの方を見ると、見知った顔が二つ。

 

 

一方は言わずとしれた僕らのリーダー

 

棗恭介

 

険しい顔で相手の手札を凝視している。

 

そのうちトランプに穴が空くんじゃないだろうか

 

 

あっ、カードに手を掛けた。

 

 

 

相対しているもう一人は、

 

 

 

「よっしゃ勝ったぁぁ!!」

 

 

「畜生っ!」

 

 

朱鷺戸沙耶

 

恭介と同じクラスの三年生で、恭介と仲の良い女学生だ。勉強だろうが運動だろうが何でも出来る欠点がない人で、彼女の笑顔を見るとついお代を払ってしまいそうになる。

 

 

「恭介、やばいって、2人を止めてよ」

 

 

けど今はそれどころじゃない。真人と謙吾を早く止めないと

 

 

「おう、理樹か。少し待て、こいつに敗北の苦汁を舐めさせてやったらすぐに行く」

 

 

寝不足気味なのか、目の下に隈を作りながらカードをシャッフルする恭介。

 

 

「理樹くん、おはよう」

 

 

沙耶さんに笑顔で挨拶された。けれど、今は財布が無いのでお代は払えない。

 

「おはよう沙耶さん、悪いんだけど恭介借りていいかな?」

 

 

真人達を指差す。

 

分かったというように沙耶さんは頷くと、

 

「ほら時風、さっさと行って止めて来なさいよ」

 

 

カードを配っていた恭介に話し掛けた。

 

「ま、程よく眠気も取れたしな……」

 

あ、眠気覚ましの為にババ抜きしてたんだ。

 

 

恭介は欠伸をかみ殺しながら立ち上がり、野次馬達の方へ歩いていった。

 

「これでひと安心ね」

 

 

沙耶さんも小さく1つ伸びをすると立ち上がり、ちらりと真人達の方を窺(うかが)う。

 

 

真人のパンチが風切り音をたてて謙吾に向かっていく。

 

 

謙吾はそれを紙一重でかわすと、お返しとばかりに突きを放つ。しかも、三連撃だ。

 

 

 

「へぇ……やるわね真人くん、見事なコークスクリューブローだわ。謙吾くんも華麗な三段突きね」

 

 

朱鷺戸さんが二人に拍手を送る。

 

「へっ、ありがとよ」

 

 

「うむ」

 

 

二人も満更でもない感じだ。

 

 

結果、より激しいバトルになった。

 

 

「煽らないでよっ!」

 

 

「ごめん、ごめん」

 

 

沙耶さんとするやりとりは楽しい。

 

 

 

 

「…じゃ、ルールを決めよう」

 

 

沙耶さんとじゃれ合っていたら、恭介がいつの間にか謙吾と真人の間に割り込んでいた。

 

 

「素手だと真人が強すぎる」

 

 

「ありがとよ」

 

「竹刀を持たせると、逆に謙吾が強すぎる」

 

 

「ふっ……」

 

野次馬達の方に向き直る。

 

「なので」

 

「お前らが何でもいい、武器になりそうなものを投げ入れてやってくれないか」

 

 

「それは下らないものほどいい」

 

真人と謙吾に向き直る。

 

 

「その中から掴み取ったもの、それを武器に戦え。それは素手でも竹刀でもない下らないものだから、今よりか危険は少ないだろう」

 

 

「へぇー、面白そうじゃない。楽しみだわ」

 

 

沙耶さんがニヤリと笑う。

 

 

「じゃ、バトル・スタート!」

 

みんな戸惑っており、ザワザワしている。そんな中、沙耶さんがどこかから取り出したバナナを真っ先に投げ入れた!

 

というかバナナを最初に投げ入れる所が沙耶さんらしいというか、何というか。

 

 

それを皮きりにけん玉や本など様々なものが投げ入れられる。

 

まるでお祭り騒ぎのようだ。

 

 

その中から謙吾が掴み取ったのは、ギター

 

 

謙吾はそれをしばらく眺めた後、口を開いた。

 

 

「これで殴っていいのか?」

 

 

「だめ、本来の使用方法で戦うこと」

 

 

すかさず恭介が答える。

 

 

「…仕方があるまい、リトルバスターズ・ロックスターバージョンでも演奏して感動の涙を滝のように流させてやる」

 

 

謙吾の武器はギターに決定したようだ。

 

 

対する真人は、

 

 

「きん、にっくにくにしてやるぜ」

 

ネギだった。

 

 

 

「では……ファイト!」

 

恭介の号令と共に謙吾が前に出る。

 

「一人が、辛いからぁ、二つのてぇを」

 

ジャッジャッ! ジャッジャッ~!

 

 

「おおっ、往年のロックフェスティバルを見ているようだぜ」

 

真人がネギを片手に感心している。

 

そこに、

 

 

「こらああぁぁーー!」

 

響く怒声。

 

食堂の奥の方から聞こえてきたようだ。

 

 

「おお、我らが鈴様のご登場だ」

 

野次馬達が道をあけると、1人の女子生徒が姿を現した。

 

 

 

「お前たち、弱いものいじめは、めっ、だ」

 

 

棗鈴、恭介の妹で無類の猫好きだ。

 

 

「弱いもの、どっちがだ?」

 

 

演奏を中断して謙吾が問いかける。

 

「え? お前じゃね?」

 

 

恭介「人類全てが弱者だ、俺もお前も弱者なんだ」

 

 

何事か恭介がぼそりと呟いたが、誰の耳にも届いていないようだった。

 

 

「笑わせるな、お前より格下に見られるだと?」

 

 

謙吾が心外だというように鼻を鳴らす。ついでにギターもならす

 

 

「ふん……果たしてこの戦いの後にも同じことが言えるかな」

 

真人は偉そうに胸を反らすと、

 

「このネギで秒殺してやるぜ」

 

ネギを持ち上げた。

 

 

びよん

 

 

ネギに噛みついていたらしい白いネコが一緒に持ち上がる。

 

 

 

「あん? いつの間にか猫が引っ付いていやがるな」

 

真人は少し考え、

 

 

「うひょラッキー、この猫+ネギのコンボで駄目押ししてやるぜ」

 

右手にネギ、左手に猫を構えた。

 

 

 

鈴の顔が怒りに染まる。

 

 

「そのネコだーーっ!」

 

 

ずがんっ! という鈍い音がして真人の顔にハイキックが見舞われた。

 

 

「ぐふっ」

 

 

ネギを取り落とす真人。猫も一緒に床に落ちる

 

 

鈴がネコを抱き上げた。

 

 

「可哀想だろ」

 

 

 

 

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