たった一つの願い事 わがまま少女あやの物語 作:まめた みか
お待たせしました。
第三話です。
~概要~
こいつは……筋肉革命だーっ!
「ネコにネギを食わせると爆発するんだぞ」
いや、爆発はしない
と、沙耶さんが、ずいっと人混みから出て来た。
「猫にネギとかタマネギとかを食べさせると赤血球が破壊されて溶血症を引き起こすらしいから気をつけたほうがいいわよ」
「そーなのか」
鈴が感心したように頷いた。
「もちろん、チョコレートも駄目よ」
「それは聞いたことがあるな」
「ところで」
鈴が言葉を続ける
「お前誰だ?」
沙耶さんが驚いた顔をして、恭介の方を見る。
恭介が首を振った。
何だろう
沙耶さんが再び鈴に向き直った。髪をふわりと掻きあげる。
「自己紹介がまだだったわね、あたしは三年の朱鷺戸沙耶。恭介と同じクラスよ」
「そうだったのか、愚兄がいつも迷惑かけてすまない」
ぺこりと頭を下げる鈴
「いえいえ、確かに色々あったけど今はあたしの方が迷惑かけてるくらいだから」
そうか、と頷く
「見ての通り馬鹿兄貴だが、これからもよろしく頼む」
鈴が右手で恭介を示しながらもう一度頭を下げた。
「ええ、鈴ちゃんも仲良くしてね」
「ああ、これからよろしく頼む」
それにしても……鈴が初対面の人と普通に話をしている。
ちょっとした感動を覚えるシーンだった。
と、
鈴の背後にユラリと影が一つ現れる。
「鈴よ、いきなり人の顔面にハイキックかますたぁ、良い度胸じゃねぇか」
真人だった。
顔にくっきりと靴痕が付いている。
「ネコを大事にしないからだ」
鈴が顔色一つ変えず、言い放つ。
真人の額に青筋が浮かんだ。
「……今まで恭介の妹だからと手ぬぐいしてきたが、もう容赦しないぜ」
「手加減と言いたかったのだろう」
ギター片手に謙吾が補足する。
「てめぇら、武器をよこせ!」
真人の言葉に野次馬達が再び沸き立ち、様々なものが投げ入れられた。
その中から鈴が掴み取ったのは、ヌンチャク
「じゃあ俺はコイツだっ!」
真人が掴み取ったのは……
「……う、うなぎパイ!?」
すごい顔だった。
「バトル・スタート!」
恭介の号令と共に鈴が走り出す。
「しねっ」
そのまま華麗な連続攻撃
ヌンチャクが唸りをあげて真人に迫る。
が、
「ち、やるじゃねぇか」
真人は上半身だけを素早く動かし、その全てを回避した。
「いいダッキングね」
腕を組みながら沙耶さんが微笑を浮かべる。
「今度はこっちからいくぞっ!」
真人が攻勢に出た。
うなぎパイで鈴の左手を叩く。
「ノーダメージだ」
直後、鈴からお返しとばかりにヌンチャクが飛ぶ。
「うおっ」
うなぎパイで受け止める真人
そんな事したら
「うあぁぁぁぁーーっ、うなぎパイがぁぁ~!」
やはり砕けてしまったらしい。
距離を取る真人
「終わったな、降参しろこのばか」
鈴がヌンチャクを構えたまま偉そうに言う。
「まだ終わってねぇ、俺の真骨頂はここからだ!」
言っている事は格好良いが、持っているのは砕けたうなぎパイだ。
「うおぉぉ、必殺、花咲かじいさん」
袋を開け、粉状になったうなぎパイを灰のように投げつける。
「きしょい」
言葉と共にヌンチャクを振るい、うなぎパイの粉をはたき落とす鈴。
「それは目眩ましだぜ」
その隙をついて真人が鈴の側面に回り込んでいた。
そして
「……この俺の筋肉パイ、味わってくれたかい?」
鈴の口にいつの間にか持っていた二つ目のうなぎパイを詰め込んだ。
「モゴ……もぐ……う、美味い」
咀嚼した後、うなぎパイを飲み込み、律儀に感想を答える鈴。
「こ、これは……」
恭介は腕を組み、数秒の間何かを考えた後
「勝者、真人!」
高らかにそう宣言した。
野次馬達が沸き立つ
「これは…意外な展開だな」
謙吾も目を丸くしている。
~野次馬の感想~
杉田「井ノ原の奴、まさか、うなぎパイで勝つとは、流石部活にも入らず無駄に筋肉を鍛えてるだけはあるぜ」
沙耶「特訓の成果が出たわね」
女子B「きゃー、井ノ原く~ん」
~野次馬タイム終了~
「……まさか、鈴が負けるとは」
恭介が唖然としている。
「く、負けてしまった」
床に手をついてうなだれている鈴を白い猫が前足で必死に慰める
と、そこに
「立てよ、鈴」
無骨な手が差し出された。
「何だ、あたしを笑いに来たのか?」
自嘲気味に言う鈴に、真人が首を振る。
「よく考えてみたんだが、今回は猫を粗末にした俺が悪かった。俺は勝負には勝ったが、正しさで言えば、鈴、お前の勝ちさ」
鈴が固まった。野次馬達も固まっている
「ただ、すぐに暴力に訴えるのは良くねぇ。まずは、相手の言うことをよく聞いて、平和的に解決しようと努力するこった。能ある筋肉は爪を隠す、ってな」
真人はニヤリと笑った。
「ほれ、立てよ」
鈴が差し伸べられた真人の手を掴み、起き上がる。
沙耶さんはその光景を見て、満足げに微笑んでいる。
「鈴、完全にお前の負けだな」
「うみゅ」
顔を赤くしている。
「勝ちも負けもねぇさ」
そのまま歩み去ろうとする真人を、
「ま、待て馬鹿」
鈴が呼び止めた。
「あん?」
「その、なんだ……」
鈴は照れくさそうにモジモジしながら
「わ、悪かった」
一言そう言った。
「へ、良いってことよ」
右手を挙げながら食堂を出て行く真人。
「馬鹿だ馬鹿だ、と思っていたが真人もああ見えてなかなかやるじゃないか」
謙吾が感心したように言う
「なんか、普段の真人じゃないみたいだったね」
「…………」
恭介はまだ唖然としている。
沙耶さんだけは、やはり静かに笑っていた。
沙耶さんのリボンは可変式、作中でもあちこちで、ぴょこぴょこ動いています。
ちなみに、
謙吾「武器がうなぎパイでも、いくらでもやりようがあった筈だ、違うか?」
この一言から、うなぎパイでの勝ち筋を考えた結果、このような形になりました。
真人「次は、『爪切りで猫に勝てるのか?』と『青ひげでレプリカノリムネに勝てるのか?』を検証していくぜ!」
???「青ひげが模造刀、勝てないと思うけどなぁ……」