たった一つの願い事 わがまま少女あやの物語   作:まめた みか

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お待たせしました。


第四話 超能力、すごいスパイは人の心くらい読めるのよ

先ほど大立ち回りをしたとも思えない。

 

僕は寝不足気味だというのに、当事者の真人は元気に筋トレに勤しんでいた。

 

 

「ふっふっ、筋肉、筋肉」

 

 

暑苦しいことこの上ない。

 

 

「真人くん、次はスクワット1000回よ」

 

沙耶さんが声を掛けると、ダンベルを上下させながら真人が、おう! と元気に返事した。

 

 

「うおりゃぁぁぁ!」

 

 

高速スクワットを始める真人。

 

「筋を痛めると危ないから、もうちょっとゆっくりでいいわよ」

 

沙耶さんがたしなめる。

 

 

「はいよ」

 

 

真人が素直に…… って、ちょっと待て。沙耶さんがいる?

 

 

「うわぁっ! 何で沙耶さんがここに!?」

 

 

慌ててベッドから飛び起きてしまった。

 

 

「あ、理樹くんごめん、起こしちゃった?」

 

沙耶さんがちょこんと頭を下げる。

 

 

「いやいや、それはいいんだけど、何で僕の部屋に沙耶さんが居るのかな、って」

 

 

心臓に悪い。

 

 

「俺が頼んだんだ」

 

 

真人がスクワットを中断して言う。

 

「この前、ランニングしてたら丁度、沙耶と会ってな。前々から良い筋肉を持ってると思ってたから、トレーニング内容とかのアドバイスをもらってたんだ」

 

「思わぬ視点からの鍛え方だったぜ、まさに目から筋肉だな」

 

いや、目から筋肉は出ない。

 

 

「そんな大したアドバイスじゃないけどね」

 

 

あはは、と笑いながら沙耶さんが言う。

 

 

「謙遜すんなよ、筋肉も礼を言ってるぜ」

 

 

真人は嬉しそうだ。

 

 

「沙耶さん、ちゃんと眠れた?」

 

 

まだあれから数時間しか経っていないけど。

 

「二、三時間眠れば平気よ」

 

 

 

スーパーマンみたいな人だ。

 

 

「理樹くんはまだ眠そうね、まだ時間あるし、二度寝する?」

 

「いや、もう完全に目が覚めちゃったから、着替えて予習でもしておくよ」

 

「そう、優等生ね」

 

 

沙耶さんが軽く頷く。

 

 

「あったり前だろ、なんたって理樹だからな。いつも課題を写させてもらってるし、この部屋が綺麗なのだって理樹のお陰なんだぜ」

 

 

「真人1人だったら、この部屋は間違いなく筋トレグッズで埋め尽くされていただろうね」

 

 

「ありがとよ」

 

 

「いや、褒めてないから」

 

 

僕達のやりとりを眺めていた沙耶さんが微笑んだ。

 

 

「やっぱり2人は仲がいいわね」

 

「マブダチだからな」

 

 

「まあ、幼なじみだからね」

 

 

「仲がいいのは良い事だわ」

 

 

沙耶さんはもう一度微笑むと、僕達に背を向けた。

 

 

 

「理樹くん、ぱぱっと着替えちゃいなさいよ。勉強、教えてあげるから」

 

 

「え、俺は?」

 

 

真人が自分を指差しながら言う。

 

 

「スクワットが終わったなら、そうね、鉄棒の下をくぐり抜けるトレーニングなんてどうかしら」

 

 

「成る程、相手のフックをかいくぐる強靭な足腰を鍛えようって訳だな」

 

「そういうことね」

 

 

「よし、早速やってみるぜ」

 

 

真人は扉を開け廊下へと走り去っていく。

 

その背に向けて沙耶さんが言葉を掛けた。

 

 

「ちなみに私の記録は3秒だから」

 

 

「もはや人間技じゃねぇ!?」

 

 

遠くの方から真人のツッコミが聞こえた。

 

 

 

真人が居なくなると……

 

沙耶さんの落ち着きがなくなった、キョロキョロと部屋を見回している。

 

 

それを眺めている僕の視線に気が付いたのか、沙耶さんが赤くなり横を向いた。

 

 

「り、理樹くん、早く着替えちゃいなさいよ」

 

 

沙耶さんが横を向いたまま言う。

 

「分かったよ」

 

 

タンスから制服を取り出し、着替え始める。

 

 

「…………」

 

 

何か視線を感じる。

 

 

そうっと沙耶さんの方を窺うと、こちらをじっと凝視していた……

 

 

 

 

 

「そういえば理樹くん」

 

 

勉強を沙耶さんに教わっていると、沙耶さんが思い出したように話し出した。

 

 

「最近何か悩み事とかない?」

 

「悩み事?」

 

 

「いえね、あたし将来はカウンセラーの仕事でもやってみようかな、と思っててね……その予行演習みたいなものよ」

 

 

悩み事か……少し考えてみる。

 

恭介達と毎日賑やかに過ごしてるから、これといった悩みなんてないような気がする。

 

 

 

けど、しいて言うなら

 

 

「悩み事か……沙耶さんも知ってるよね、僕の病気」

 

 

「ええ、知っているわ。ギャルゲーの主人公だけが発症する、ヒロインとっかえひっかえ病。どんなにひとりのヒロインが魅力的でも、別のヒロインに浮気してしまうという不治の病ね。駄目よ、浮気しちゃ」

 

 

 

「いやいやいやいや、違うから」

 

 

「理樹くん、そのいやいやってやつ好きね」

 

 

 

「いやいや」

 

 

咳払いを1つする

 

 

「話を戻すよ、僕の病気、ナルコレプシーについての悩みなんだけど」

 

 

「いわゆる眠り病ね」

 

 

沙耶さんが真面目な表情になる。

 

「いつ眠ってしまうか分からないっていうのが今の所、最大の悩みかな」

 

 

この病気がなければ、もう少し気が楽になるだろう。将来働くにしても、この病気に理解を示してくれるような会社を見付けなければいけないだろうし……、精密作業中に突然眠ってしまったりなんかしたら、それこそ大変な事だ。

 

 

「なるほど、つまり理樹くんはナルコレプシーを克服したいのね?」

 

沙耶さんが僕の意見を確かめるように言葉を発する

 

 

「うん、出来るなら勿論そうしたいんだけど」

 

 

いくら沙耶さんがスーパーマン(いや、ウーマンか)でも、まさかそんな事

 

 

「出来るわよ」

 

 

心の中を読んだような言葉

 

 

「出来るの!?」

 

 

「ええ、多分ね」

 

 

沙耶さんが昔、とある人に教えてもらったという催眠術を試してみることになった。

 

 

 

 

部屋のカーテンを閉め、部屋を暗くする。

 

 

 

「精神的な病気ってのはね、その人の深層心理に残る強いトラウマを無意識下で発現させてしまっている為に起こることが多いの」

 

沙耶さんが僕と向かい合って座る。

 

「だから、そのトラウマを克服する事が出来れば」

 

 

「眠り病を克服出来る」

 

 

沙耶さんが微笑む

 

「その通りよ」

 

 

「でも、そんな事が本当に出来るのかな?」

 

 

正直不安だ。

 

 

「気を強く持ちなさい。きっかけを与えるのは私でも、トラウマを乗り越えるのはあなたなのよ」

 

 

沙耶さんにそう言われて、気を引き締め直す事にした

 

 

「まずは記憶を遡りましょう」

 

沙耶さんに教えられた通り、目を閉じて深呼吸を何度も行う。吸って吐いて吸って吐いて

 

 

目を開くと、沙耶さんが糸を付けた五円玉をゆっくりと振り子のように動かしていた。

 

五円玉を動かすのに集中しているのか、僕が見ているのに気が付いていないようだった。

 

 

沙耶さんをじっと観察する。

 

 

五円玉を動かす度、微妙に身体も揺れている。チャームポイントの白いリボンも左右に揺れる。

 

 

綺麗な青い瞳にサラサラの髪。整った可憐な顔立ち

 

彼女のまん丸の瞳はじっと五円玉を見つめている

 

 

ほんの65センチ先にこんな可愛い女の子が居たら、思春期の男子生徒はみんなきっと、こう叫ぶだろう。

 

 

「ボドドドゥドオー」

 

 

「何よ、理樹くん変な声出して」

 

沙耶さんが五円玉から目を離し、僕の方を見る。

 

 

「な、何でもないです」

 

 

慌てて誤魔化した。

 

 

 

「はい理樹くん、リラックスして、この五円玉をよく見てね」

 

 

準備が出来たらしく、沙耶さんが真剣な表情になる。

 

 

「あなたは段々、眠くなーる、眠くなーる、眠くなーる」

 

 

五円玉を揺らしながら言う沙耶さん。やはり身体も一緒に揺れている。

 

 

しばらくその様子を眺めていると、沙耶さんが顔を上げた。

 

 

「早く催眠状態になりなさいよ」

 

「いやいや……」

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

溜め息をつく沙耶さん。

 

 

「こんなことなら、もっと詳しく教わっとくんだったわ」

 

 

うなだれる。

 

 

「……理樹くんを助けてあげたいのに、肝心な時に何もしてあげられないなんて」

 

 

悲しそうな沙耶さんの姿に、胸が痛くなる。

 

 

ああ見えて彼女は真剣だ。なら、僕も付き合ってみよう

 

 

 

「もう一度、やってみてよ」

 

 

僕の言葉に、パッと顔を上げる沙耶さん

 

「……わかったわ」

 

 

 

 

再び五円玉を揺らし始めた彼女から視線をやや下にずらし、ゆっくりと左右に動く五円玉を見つめる。

 

 

左、右、左、右

 

 

まるで、猫じゃらしを追う猫になったような気分だ。

 

 

「理樹くん、頑張って」

 

 

沙耶さんからのエールが飛んできた。

 

 

規則的に動く五円玉を見つめ続ける。

 

 

「…………」

 

 

どれくらいの間そうしていたのか分からないが、なんだか頭がぼーっとしてきた。

 

 

 

 

「これから、あなたの記憶を遡ります」

 

沙耶さんの声がどこか遠くに聞こえる。

 

 

「とりあえず、最近の記憶からいきましょうか」

 

 

誰かの声が聞こえる

 

 

「あなたが最近、一番楽しかった時の記憶は?」

 

 

「楽しかったとき?」

 

 

「……恭介、真人、謙吾、僕、鈴の5人で買い物した時かな。鈴の付き添いだったんだけど、どうせなら遊んで帰ろうって恭介が言って……みんなで隣町のデパートまで行ったんだ。本屋に行ったり、ペットショップに入ったり、トレーニング器具を見たり…… 確か帰りはみんなでお好み焼きを食べたような」

 

 

記憶を遡る

 

~~~~

 

 

「色々見て回ったら腹減ったな」

 

恭介が言う。

 

「せっかくだし、何か食べて帰るか?」

 

そう尋ねられると、

 

 

「カツ!」

 

真人が元気よく答えた。

 

 

「いや、そんな元気よく言わなくても」

 

「あたしはお好み焼きが食べたい」

 

鈴がそう言うと、

 

 

「ほう、お好み焼きか、それなら駅前に新しく店がオープンしたらしいぞ」

 

 

部活の後輩達が話しているのを聞いたのだがな、と謙吾。

 

 

「じゃあ、そこにすっか。理樹も真人もそこで良いか?」

 

 

「うん、いいよ」

 

僕は何でも構わないけど、真人の方はどうだろうか

 

ちらりと視線を投げかけると、真人は腕を組んで微笑んでいた。

 

 

「ま、カツなら学食で食えば良いしな。今日は謙吾っちご紹介のお店に行くとしましょうか」

 

 

「きしょい」

 

 

鈴が短く切って捨てる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「何にすっかな」

 

五人でメニュー表を眺める

 

 

 

「俺はこの、ジャンボミックス豚玉にするぜ」

 

真人が一番ボリュームのありそうなお好み焼きの写真を指差す。

「俺は……そうだな、モダン焼きにするか」

 

 

「あたしはこのゼリーがついてるやつ」

 

謙吾と鈴も決まったみたいだ

 

 

「理樹は?」

 

恭介に尋ねられる

 

「僕はチーズ豚玉にしようかな」

 

そう答えると、

 

 

「じゃ、俺もそれにするか」

 

 

恭介が手を挙げて店員を呼び止めた

 

 

 

 

~帰り道~

 

 

 

「ふー、食った食った」

 

 

真人がお腹をさする

 

「お前は食い過ぎだ」

 

 

結局、真人は4枚食べた。

内1枚は鈴のお好み焼きだったので、勿論蹴りを喰らう羽目になった。

 

 

 

 

「たまにはこんなのも良いもんだな」

 

二人で並んで歩いていると、恭介がしみじみと言った。

 

 

恭介が卒業してしまったら、今日のような穏やかな日々も終わってしまうのだろうか

 

 

「そうだね。楽しかった」

 

 

僕がそう答えると、恭介も満足げに笑った。

 

 

「よしお前ら、今日は朝までボードゲームでもして盛り上がろうぜ!」

テンションが上がったのか、前を歩いていた三人を追い抜いて走り出す恭介。

 

みんなで追いかける。

 

 

「よっしゃっ」

 

「まあ、付き合ってやるか」

 

 

「馬鹿兄貴が……」

 

 

僕たちが繋がっている限り、きっとまだまだ楽しい事は続いていくんだろう。

 

 

 

 

 

 

「はい、ストップ」

 

 

沙耶さんが手を叩く音が妙にはっきりと聞こえ、意識が急激に覚醒する。

 

 

「……あれ、僕今」

 

 

夢をみているような気分だったけれど、まさか本当に催眠術にかかっていたんだろうか?

 

「上出来ね」

 

 

嬉しそうな沙耶さん。

 

 

「でも、もうすぐ朝食の時間だから続きはまたにしましょうか」

 

 

沙耶さんは棚の上にある時計をチラリと見やると立ち上がった。

 

 

「うん」

 

信じられないけれど、僕はどうやら本当に催眠術にかかっていたようだ。

 

 

「それじゃ、また学食でね、理樹くん」

 

 

沙耶さんはひらひらと手を振って部屋を出て行った。

 

 

 

 




これからようやく、本格的にリトルバスターズ始動となります。出来る限り頑張って更新出来るようにしていきたいと思いますので、応援よろしくお願いします。
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