たった一つの願い事 わがまま少女あやの物語 作:まめた みか
「また食堂で会いましょ、理樹くん」
そう言い残して、沙耶さんは自分の部屋に戻っていった。
まだ頭がぼーっとしているような気がするから、顔でも洗ってさっさと学校に行く準備をする事にしよう。
うがい、歯磨きをした後、顔を洗う。
「帰ったぜ、理樹っ!」
顔を洗い終わる頃、真人が帰ってきた。
「……マジで疲れたぜ」
汗だくだ。
「シャワーでも浴びたら?」
僕が言うと
「そうすっかな」
真人はタオルを一枚ひっつかんで風呂場へ向かっていった。
真人を待ち、少ししてから食堂へ向かう。
寝起きの生徒達で食堂は埋め尽くされていた。
空いている席を探すと、見慣れた金色を見つけた。
沙耶さんだ。
謙吾と向かい合って座っている。
沙耶さんの方が謙吾に何か喋りかけ、それに謙吾が相づちを打っているようだ。
二人の前には既に朝食のトレイが置かれているが、僕らを待っていてくれたのか、手をつけた様子はない。
僕らも早く席に着こう。
真人と共に朝食のトレイを持ち、机に向かう。
「ようっ、おはよう」
「ああ、おはよう。お前らにしては早いな」
短い挨拶だけを済ませて、自分の朝食を載せた盆と共に席につく。
しばらくすると、恭介もやってきた。
「うぃす」
「おう」
「おはよう」
恭介は帰ってきたばかりだというのに、ずいぶんと元気そうだった。
「今回はどこにいってたの?」
「え? あー、出版社」
確か東京に行くって言ってたような気がするけど。
「まさか、東京の?」
「そ、東京」
「徒歩で?」
思わず聞き返す。
「そ、徒歩で」
「大変だったでしょ」
東京というと、ここから何十キロと離れている。
「大変っつーか」
「あほだな」
真人と謙吾も呆れている。
「そうね……」
沙耶さんも二人と同意見のようだ
「金がないんだ、仕方ないだろ」
「お前らも絶対来年こうなるからな」
脅す恭介。
「あら、東京ならあたしは電車で行ったわよ?」
そう沙耶さんが言うと、
「やっぱり、金持ちは違うな」
溜め息をつく恭介。
「俺も医者の息子に生まれたかったぜ」
「あんたの場合は、計画的に使わないからよ」
沙耶さんがピシャリと言い放った。
それからしばらくして、最後に現れたのは白い猫を肩に載せた鈴。
お盆を持って歩いてくる。
僕らの元までやってくると席につき、肩の猫を示す。
「新入りだっ」
みんなにそう告げてから、皿に牛乳を注ぐ
「ああ、今朝のやつか」
真人が手を伸ばし、わしわしと頭を撫でる。
鈴の、
「なにすんじゃ、ぼけっ!」
一喝される。
「ちょっとボケただけじゃねぇか」
今度こそ猫に手を伸ばす。
「大人しいな、こいつ」
頭を撫でたり、ひげを引っ張ったりする真人。しかし、その手付きは丁寧なもので、真人なりに猫を傷付けないよう、慎重に扱っているのがよく分かった。
「名前は?」
恭介が尋ねる
「まだ」
「名前は大事だぞ、ちゃんとつけろよ」
恭介は事ある毎に野良猫を拾ってきては、鈴にプレゼントしている。だから、いまでは鈴の周りは猫だらけだ。
「でも、さすがに数が多すぎやしないかしら?」
鈴の後ろを見て、沙耶さんが言う
「うわっ」
いつの間に入ってきたのか、わらわらと猫が群れを作っている。
「お前ら、入っちゃ駄目だって言っただろ」
「にー」
「にーじゃない……ですわよ?」
鈴の語尾がおかしくなっている
「まあいい、お前ら、ついて来い」
仕方なく鈴は立ち上がり、猫の群れを食堂の入り口まで連れて行った。
「あれじゃあ、名前を覚えきれないのも無理ないわね……」
呟く沙耶さん
「そうだね」
改めて数えてみると、ずいぶん増えたものだ
「ふぅ」
帰ってきた鈴がため息をつきながら、再び席につく。
「鈴、俺が名前をつけてやるよ」
真人が言う
「マッスルちゃんなんてどうだ?」
うわぁ
「センスの欠片もないな」
味噌汁をテーブルに置きながら謙吾が言う
「なんだと? じゃあお前ならなんて名前つけるんだよ!
「うむ……そうだな」
「白猫だから、シロノスケなんてのはどうだ?」
「はっ、てめぇのほうがよっぽどセンスねぇな」
真人が挑発するように言う
「なんだと!?」
また始まるのか……
あわや喧嘩になるかと思った所に
「まあまあ、待ちなさいよ二人とも」
救世主が現れた。
「こんな所で暴れたら、朝ご飯を作ってくれているおばちゃん達に失礼でしょ?」
沙耶さんにそう言われると
「まあ確かにな」
「俺としたことが、真人ごときの言葉で我を忘れそうになるとは」
素直に席につく二人
再び食事を食べ始める
「それで、結局名前はどうするのさ?」
そう尋ねると
「ぴったりの名前を思い付いたわ」
猫をじっと観察していた沙耶さんが口を開いた
「時風、なんてどうかしら?」
「ぶふーっ」
茶を吹き出す恭介
「げほっげほっ」
そのまま咳き込んでしまった。
慌てて首の後ろを撫でる
「う゛えっごほっ」
「大丈夫? 恭介」
「ごほっ……だ、大丈夫だ」
再びお茶を飲む恭介
「はぁはぁ……時風は止めてくれ、俺がもっといい名前を考えてやるから」
息も絶え絶えに言う恭介
「そうか? 結構いいなまえだと思うぞ?」
鈴は意外と気に入ったみたいだ。
「レノン、レノンだ。その猫の名前はレノン、これしかない」
必死に食らいつく恭介
「レノンか……」
また猫に有名人の名前をつけるのか
いつも恭介が適当につけるから、鈴の猫はアインシュタインとかゲイツとかヒトラーとか、名前だけを並べるとものすごい顔ぶれになる。
「でもまあ、かわいくはあるな」
「だろう!? よし決定だ」
こうしてなかば強引に白猫の名前はレノンに決まった。
鈴の用意した牛乳をのんきにピチャピチャと音をたてて飲んでいた猫が顔を上げる
「これ食うかな」
自分のおかずを差し出す恭介
「おー、ワカメ食ったぞ、こいつ」
笑顔になる
「そんなもの食わすなっ、あほかっ!」
「草っぽいこいつはどうだろう?」
真人が仕切りに使われているバランを箸で摘む
「そんなもの食えるか」
鈴の言葉はきついが、足を出す事は止めたみたいだ。
「みそ汁は飲むだろうか? 試してみよう」
自分のみそ汁を近付ける恭介。
「塩分の取りすぎは身体に良くないわよ」
沙耶さんにたしなめられる
「そうだ、あほ恭介のみそ汁より、こっちの方が絶対美味しい」
女生徒にのみ定食についてくるカップゼリーを差し出す鈴
「猫に食わせるものは、ちゃんと考えた方がいいんじゃないか?」
謙吾の言葉も耳に届いていないみたいで、鈴は小さなカップを前足で押さえる猫に、じっと見入っていた。
次話は今日中に投稿したいと思います。
話の都合上、避けては通れない大事なシーンなので、短いですが一話分とってあります。
沙耶「機関名は、学園革命スクレボよ」
恭介「…………」