たった一つの願い事 わがまま少女あやの物語   作:まめた みか

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第六話 譲らないふたり

今日もみんなで一緒に登校。

 

とは言っても、学舎は寮と隣接しているため、鞄を持って、この渡り廊下を渡るだけだ。

 

 

「でも、就職決まったら遊び放題なんだろ? いいねぇ」

 

 

それでも、この渡り廊下を歩くのは、開放感を得られる貴重な時間だ。

 

 

「そんな気楽なもんじゃねーよ」

 

「色々考えていかなくちゃいけないことがあるの」

 

恭介と沙耶さんが言う。

 

 

「人生設計? 早いね」

 

 

沙耶さんが中庭に視線をやりながら、僕の質問に答えた。

 

 

「今だけしかできないことがあるってことよ」

 

 

今だけ、か……

 

 

「でも一年後には、僕たちも受験か、就職活動やってるんだね」

 

「ここまで一緒だった俺たちも、その後は散り散りになるかもな」

 

 

真人が珍しく殊勝な調子でそう言った。

 

謙吾が補足する。

 

 

「少なくとも、沙耶と恭介は一年先にそうなる」

 

 

「考えたくねーな、そんな先のこと」

 

真人が溜め息をつく。

 

 

「そうだな……」

 

 

「「今がずっと続けばいいのにね」な」

 

 

それはなんとも心強い二言だった。

 

 

沙耶さんと恭介、この二人が望むのなら、本当にそうなるような気がした。

 

 

「ねぇ、昔みたいに、みんなで何かしない?」

 

 

だから僕はそう提案していた。

 

「なんだよ、唐突に」

 

「何かって?」

 

不思議そうな顔をしている真人と謙吾。僕は考えていたことを口に出す。

 

 

「ほら、小学校の時、何か悪を探して近所を闊歩してたでしょ、みんなで」

 

 

「おまえらと一緒にするな」

 

 

鈴が鼻息荒く、そう答える

 

 

恭介と沙耶さんならそうしてくれるはずだ。

 

 

恭介は10年という月日が経っても、僕と同じ気持ちでいてくれたから。

 

 

沙耶さんは……ついこの間会ったばかりだというのに、何故だろう。ずっと昔から知っていたような、全てを安心して任せられるような、そんな不思議な気持ちにさせてくれる人だったからだろうか。

 

 

この二人が僕たちのリーダーで居てくれるなら、

 

 

 

「「じゃ……」」

 

 

沙耶さんの手がスカートに潜る。そこから何かを取り出した。

 

恭介は屈んで、落ちていた何かを拾い上げ、スピンをかけて回した。

 

「諜報活動を行おう」

 

 

「野球をしよう」

 

 

沙耶さんは一丁の銃を

 

 

恭介は茶色くくすんでしまっている白球を

 

 

「へ……?」

 

「……は?」

 

 

僕以外はその言葉が理解できなかったようで、怪訝な声をあげている。

 

 

「諜報活動よ」

「野球だよ」

 

 

二人はもう一度皆に向き直り、そう告げた。

 

 

「諜報機関を作る」

 

 

「野球チームを作る」

 

 

「機関名は……、学園革命スクレボよ」

 

 

「チーム名は……、リトルバスターズだ」

 

 

 

二人がほぼ同じタイミングで言い放った。

 

 

 

顔を見合わせる恭介と沙耶さん

 

 

「沙耶、譲れよ」

 

 

「嫌よ、ここだけは譲れないわ」

 

 

二人の間に見えない火花が散る

 

「もう一度どん底に叩き落としてやろうか?」

 

 

「あら、女の子には優しくしろって、学校で教わらなかったのかしら?」

 

 

「悪いが、俺は谷に突き落とす派なんでな」

 

 

「上等じゃない」

 

 

慌てて間に割って入る

 

 

「ストップ、2人とも」

 

 

「ここは間を取って、野球と諜報活動を両立させればいいじゃないか」

 

 

自分で言っておいて、なんて無茶苦茶な提案なんだろうと思う

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

しばし考える二人

 

 

 

「……なるほど、一理あるな」

 

「まあ、野球も楽しそうよね」

 

 

あれ、案外食い付いた?

 

 

恭介が口を開く

 

 

「じゃあ、沙耶をリーダーにして、諜報活動のついでにメンバー集めもするってのはどうだ?」

 

つまり、メンバー集めの指揮を沙耶さんが取るってことだろうか

 

 

「なんか、上手く利用されているような気がするんだけど」

 

 

沙耶さんがぼやく

 

 

「そんなことねーよ」

 

 

「本当かしら」

 

 

訝しむ沙耶さん

 

 

「まあいいわ、ただしメンバー集めは理樹くんにも手伝ってもらうからね」

 

 

「ああ」

 

 

2人の間で話がまとまったらしい。

 

 

って、メンバー集めるの僕かよ、とツッコミを入れたかったが、以前誰かにノリツッコミは下手だと言われたのを思い出し、自重しておくことにした。

 

 

恭介が咳払いをひとつする。

 

 

 

「改めて言おう、野球チーム兼諜報機関を作る。チーム名はリトルバスターズだ!」

 

 

 

 

「色々と言いたい事はあるが、とりあえず、もうすぐ授業が始まる」

 

 

謙吾が呆れたような顔で言う

 

 

「とりあえず昼休みにでも詳しい事を取り決めましょうか」

 

 

「……ま、良いけどよ」

 

 

沙耶さんの言葉に、真人が答えた。

 

ーーーー

 

 

 

 

 

 

 

気が付いたら、授業中にうとうとしていたようだ。

 

未だにぼんやりとしながら、窓の外で行われているサッカーの試合の様子を眺める。

 

 

ノートをパラパラと捲りながら、黒板に書かれている要点だけを書き写していく。

 

 

そうしているうちに退屈な授業は終わり、休み時間となった。

 

 

「なんだ理樹、眠そうだな」

 

 

欠伸を噛み殺していると隣の席から真人が話しかけてきた。

 

 

「ちょっと寝不足気味だからね」

 

 

「そうか、ちゃんと睡眠とらねーと大きくなれねぇぞ」

 

 

 

いや、今日のは真人のせいなんだけど。

 

 

 

「ねぇ、棗さん知らない?」

 

 

真人と談笑していると女子生徒が話しかけてきた。

 

 

どうやら、鈴は日直なのに黒板を消していないらしい。

 

 

「代わりに僕が消しておくよ」

 

 

そう答えると、女の子たちは鈴への不満を漏らしながら自分の机の方へと帰っていった。

 

 

 

黒板を消しに向かうと、あまり目立たない容姿の女子生徒が既に半分ほど消していた。

 

 

確か……西園さん、だったはずだ。

 

 

綺麗に消してあるが、手が届かないのか、上の方は文字が残ってしまっている。

 

 

そこへ鈴が戻ってきた。

 

 

黒板消しを掴み、届かない所はジャンプして右半分を素早く消していく。

 

西園さんの様子をちらりと伺うと、左半分の上の方も同じようにして消した。

 

 

西園さんにお礼を言われ、途端に赤くなる鈴。

 

 

 

「き、気にするなっ」

 

 

相変わらず不器用だけど、鈴は鈴なりに前に進もうとしているのかもしれない。

 

 

 




恭介・沙耶「「じゃんけん」」
「「ぽいっ」」


恭介「おっしゃ、勝った!」


沙耶「うわ……負けた」


恭介「よし、チーム名はリトルバスターズな」


沙耶「……おかしいわね、じゃんけんは強い方なんだけど」


恭介「……チーム名をリトルバスターズにするためなら、倫理だってねじ曲げてやるさ」


沙耶「ただの偶然でしょ……」



みたいなやりとりがその場であったのではないかと思います。


ちなみに諜報活動については、沙耶の目的のために行う情報収集という認識をしています。

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