『うーむ、確かに個性の譲渡は成されている!!まあそう焦ることはないだろう。一応私の方でワン・フォー・オールの情報を洗い直してみよう!!何、心配するな!!』
オールマイトと最後に会ったのは3日前、以降、音沙汰が無い。
爆豪勝己は焦燥感に駆られていた。
「かっちゃんどうしたの?元気ないけど」
「・・・いや、ちょっとスランプ気味なだけだ」
「ああ、スランプ・・・かっちゃん向上心と自尊心の塊だもんね・・・」
「どういう意味だそれ?」
「スランプに陥りやすい人の傾向だよ。昔調べたことがあるんだ」
「はん、そう言うてめぇは人生の大半がスランプだろうが」
「酷くない!!?」
緑谷出久は凡才だ。それを狂気的な努力で突き詰める秀才でもある。彼の今までの努力に比べれば、発現しなかった個性など一々気にするような物ではない。
ヒーローになる。そう決めたのなら、前と同じように無個性として爆豪勝己はヒーローを目指す。それだけのことだった。
『確かに個性の譲渡は成されている!!』
個性の譲渡
AFOの過去
オールマイトの傷
それらが鎖のように爆豪勝己を絡め取って放さなかった。
「今日から夏休みなんだし、気分転換にカラオケでも行く?」
「気分転換だとしてもてめぇとは行かねぇよ音痴野朗」
「酷い!!」
(とは言え、気分転換は必要か。海浜公園の掃除も終わったしな)
「・・・山にでも登るか」
「付いて行かない方がいい奴?」
「隣でルービックキューブカシャカシャする奴連れて行くわけ無いだろ」
「そんな空気読めないことしないよ!!現に今してないじゃないか!!」
「じゃあ来るのか?」
「・・・やめとくよ」
緑谷出久は明らかに爆豪を心配していた。それが分からない爆豪ではないが、生憎とそれに気を回す余裕は無かった。そもそも緑谷は自分の心配を人にさせないくせに、どうして自分はあれこれと世話やら心配やらするのだろうか。
・・・きっと遺伝だろうな。そう結論を出して爆豪は緑谷に別れを告げた。
「じゃあな」
「じゃあね」
一先ず諸々の問題を先送りにして登山の計画を考える。
もう夏本番であることを考えれば、油断は出来ないのだから。
(なら、一度ショップ覗いて見るのも悪くねーな)
今日は終業式を終えただけで未だ昼前。寄り道しても問題は無いと判断し、商店街の方に足を向けたときだった。
「あ」「あん?」
バッタリ出会ったのは、いつかの万引き幼女だった。
服は前に見たときと同じワンピース。相変わらず風呂に入ってる様子は無い。
即座に今日の予定を変更した。
「おいガキ、名前は」
「ひっ!!?」
事案発生である。ヴィラン顔の爆豪勝己はついにヴィランになった。ヴィラン名爆殺王誕生の瞬間だ。
爆殺王は怯える幼女に詰め寄り・・・・・・しゃがんだ。
「オイ待て、・・・お前、名前は何て言うんだ?」
「わ、わたし?」
「おう、おまえだ」
プルプルと震える幼女に対して爆殺王は出来るだけ落ち着いた声を意識して話しかけた。逃げられたら面倒だから。逃がすわけには行かないから。
「・・・・・・こ、心 って言う の」
「そうか、心ね。うっし、今暇だろ?ちょっと来て貰うぜ」
7月31日11時頃 田等院商店街にて女児(4~5才頃)に「ちょっと来て貰うぜ」と脅迫し、連れ去っBooM!!(何故か焼け焦げて読めない)
「え、あ、やだ、ケイサツ、やだっ!!」
「ちげぇよ。・・・風呂だ」
「え?」
「・・・臭いんだよ、お前」
爆殺王は女児に心的外傷を与え、呆然自失となった女児を付近の大型銭湯に連れ込んだ模様。小児性愛の疑BooooooM!!!!
真面目にやれや
はい。
爆豪は商店街の端にある大型銭湯テルマエに幼女を連れ込ゴホン、連れてきた。彼女の身なりを見れば育児放棄は相当なレベルだと理解出来る。決して、爆豪はいやらしい目的で幼女を風呂に連れてきたわけではないのだ。
銭湯の売り場で風呂道具一式とレンタル浴衣を借り。暖簾を潜る。
平日の昼間というだけあって、人は疎ら。早速幼女をひん剥いて風呂場に連れ込んだ。抵抗は無いも同然だった。手足を振り回していた気がするが、気のせいだろう。
「はあ、お前一人で入れんのか?無理だろ?」
「で、できる、もん」
「嘘付け」
・・・骨と皮だけ、というほどではないが、あまりにもやせ細った枝のような手足、浮いたアバラ。こんな状態の子供を一人で風呂に入れるなど、死んで来いと言っているようなものだった。
幼女を座らせて爆豪はその後ろに座った。
「洗ってやるから目閉じてろ」
「…うん」
「・・・・・・駄目だこりゃ、泡立たねぇ」
「・・・まだぁ?」
「あと5回は洗うぞ、クソガキ」
「やだぁ!!」
・・・子供ってなぜかシャンプー嫌がるよね。爆豪は暴れる幼女を片手で押さえつけて続行した。シャンプーを塗りたくっては洗い流すこと3回目、ようやく泡立ち始めた。
「やっとかよ・・・」
「もう終わり?」
「あともう一回だ」
本格的に暴れだした幼女を体幹を使って押さえ込み、ついでにトリートメントを終えて解放した。
「つっかれたァ・・・おい、体くらいは洗えるだろ。コレ使え」
「はぁい」
「っんでこんなことしてんだか、俺は」
無論、ヒーローでありたいからである。(現状況がヒーローらしいかどうかはさておき)
最近随分と増えてしまったため息を吐きつつ不器用に体を洗う幼女を鏡越しに見る。ヘッタクソだがまあいいだろうと爆豪も髪を洗う。
「おいガキ。お前何時から家に帰ってねぇ」
「・・・ガキじゃ、ないもん。心。だもん」
「っち、心。姓、じゃわかんねぇか。上の名前は何て言うんだ」
「・・・小石。小石 心」
「ほーん?で?何時から帰ってねえ?」
「・・・ずと、ずっ、と前」
「俺と会ったときよりもか」
「う゛ん゛」
「そうか」
ネグレクトか、家出か、捨て子か。とは言えこの様な状態の子供を今まで誰一人として気にしなかったというのも、違和感がある。
悪個性。と呼ばれるものがある。どうあがいても人間社会に適さない。病気とすら呼ばれてしまう個性のことだ。例をあげるならば爆豪勝己の父爆豪勝の個性「酸化汗」や緑谷出久の父緑谷久の「火を吹く」個性は制御出来なければ到底人間社会では生きていけないだろう。
制御可能な個性というのは、「普通」の最低条件でもあった。
現状、この幼女が個性を使っている様子は無い。強いてあげるならば、コンビニで堂々と万引きを行い、店員が一切気付いていなかった点だろう。
(対象一人に限り気付かれなくなる個性?いや、取った瞬間を気付かれなくするか?)
だが、その程度の個性なら大きな問題にはならないはずだ。たとえネグレクトであっても、誰かしら頼れる大人はいたはずなのだ。
(・・・いや、いなかったからこうなったんだ)
事情は分からない。分からないが、このまま放置していい問題ではない。
爆豪は児童相談所への通報を決めた。
結局小石の体を爆豪が洗うこと3回、体力を考えて温めのお湯にさっと浸かって風呂から出た。
「・・・きもの?」
「浴衣だゆ、か、た」
「ふーん、ふーん、にあう?」
「もうちょっと肉つけてから言え」
「・・・ひどい」
小石の着ていたワンピースは現在洗濯中。時間も丁度いい頃合なので昼を食べることにした。喫茶チェーン店「サメタ珈琲」アイスコーヒーの美味しい店である。
「いらっしゃいませ~?1名様ですか~?」
「あ?2人だが?」
「失礼いたしました~?こちらのテーブルにどうぞ~?」
「なんだあいつ?」
随分とフラフラした店員だが。良くアレでどこにもぶつからずに歩けるな。そう言う個性か?
「まあいいか、何食べる」
「・・・・・・」
小石の視線の先にはサメタ珈琲の名物デザート「くろブロンシュ」
鬼のように甘い。
「・・・いや、飯くらい普通のやつ食べろよ」
「・・・あれたべたい」
「いや良いけどよ・・・っち、アレ食ったら他の入らねぇな」
小石がどれだけ食べるかは未知数だが、このやつれ具合からしてくろブロンシュすら完食できるか怪しいだろう。
爆豪はアイスコーヒーとエッグトースト、オレンジジュースとくろブロンシュを頼んだ。
「♪~♪~」
「美味そうに食うな」
「うん、あの、ありがと」
「はん、どういたしましてだ」
アイスとデニッシュを交互に食べる小石を眺めながら考える。小石 心を取り巻く状況を。
今日は平日、今は昼間、確かに人は少なかった。・・・でも0ではない、更衣室に3人、浴場には8人いた。
その誰一人として爆豪と小石に視線を向けなかった。
(ありえねえ。普通目立つはずだ、見た目がガリガリの女児だぞ、事件性すら感じる。だというのに目を逸らす事すらしなかった)
爆豪自身、自分が今かなり怪しい自覚があった。それでも、たとえ通報されたとしても放って置けなかったから、声をかけた。
だが現実は、完全無視。
(その後この店に入ったとき、店員は俺には気付いた。隣にいるガキには一切気付かなかった。オーダーの時ですらだ。)
しかし疑問が残る。ならば何故、爆豪は小石に気付けたのか。
小石の個性が自分の想像通りならば・・・
「個性」
「ん?」
フォークを咥えたまま疑問符を出す小石。行儀は悪いし危ないが爆豪はそれを咎めない。
今、爆豪は10年間の疑問に気付き始めた。
自分だけが気付く。ならばそう言う個性だ。
OFAが発現しない。ならばそう言う個性だ。
普通、発覚することの無い個性。爆豪勝己の個性は・・・
・爆豪勝己(14)
個性「
他人の個性による影響を受けない。
謎が解ける。
汗が浮かぶ。
息が詰まる。
あるいはもしかすると、爆豪勝己は、平和の象徴を殺したのかもしれなかった。
「大丈夫?」
「っ!!ああ、大丈夫だ」
沼にはまり込むような感覚から抜け出せたのは目の前の幼女から発された弱い声だった。台詞そのものは爆豪を案ずるものだ。だが、心配と不安が綯い交ぜになった小さくも悲痛な声は悲鳴以外の何物でもなかった。