提督は2度死ぬ   作:あんたが大将

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第三話

 

 

 

 さて、僕の目標は定まったわけだけど、自分についての情報も整理しなければいけないだろうということで一度ノートに書き留めておくことにした。

 ついでに、提督だった記憶についても書いておいた方がいいだろう。

 

 

 僕こと、竜崎隆一。

 現在九歳の小学三年生で、十月のこの寒い季節に川へと遊びに行く程度には腕白でやんちゃな小学生だった。

 ちなみに川遊びに行く有志を募ったのに誰も教室で参加する人が居なくて、若干不貞腐れながらも遊んでいたことを覚えている。

 

 父親の名前は竜崎隆人。

 何の因果か仕事は憲兵で、問い詰めたところ海軍の大本営に居る憲兵らしい。艦娘に対しては若干否定的ではあるものの、そこまで危ないものではないとの言を頂いた。

 現在三十二歳で、それなりに出世は順調のようだ。兵籍は悪いものでなく、裕福な暮らしをさせてもらっている。

 

 母親は…そこまで重要性が高くないので割愛する。

 

 

 

 提督だった記憶での名前は⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎。

 それなりの家庭でそれなりに育ったが愛国心が人一倍強く、提督を志したのは小学校に通っていた頃から。護国の想いは大きかったが、それ故に国の闇を一身に背負って死んだ。

 父親は深海棲艦が出現した時に陸軍の一員として二階級特進をしていて、大本営には妹が一人居た。母親は結核に罹患して病院生活をしていた。

 

 

 詳細はまた後で書くとして、この世界で目指す最終目標やその為にすべきことを策定しようと思う。

 

 提督になるために、まずは中学で士官学校か提督養成学校を目指さなければいけないが、正直なところこの世界に後者があるとは思えない。

 俺が見た提督には、教育されたようには見えなかった。今思い出しても艦娘への暴力がいやに素人染みていたし、軍務に服する者として落第点の身のこなしだ。

 それに僕に対しての仕打ちも、()の記憶からして明らかにおかしい。提督であるならば水難救助の心得はあって然るべきなのだ。子供の体が冷えている状態なんだったら真っ先に対処して当然だろう。

 

 まあ私情というか偏見というか先入観がないとは言わないが、それを加味しても提督育成学校は存在自体が怪しい。提督を強制したいなら妖精が見える国民を探して拉致すれば済む話なのだし、あそこまで怖がる艦娘に近付こうとする人は少数だろう。

 という訳で、僕は提督のみを育成する学校などではなく、海軍兵学校へと志願するべきだ。志望動機は父に憧れたとかそんなものでいいと思う。もしかしたら海軍兵学校がないかもしれないけど、流石に士官学校自体の存在がない可能性はない。きっと大丈夫。

 

 進路が大凡決まっているとなれば、小学三年生のこの体は非常に有利だろう。第二次性徴すら迎えていない体に現役軍人だった()の記憶があるのだから、僕が()を超えることは容易なはずだ。

 

 僕は()より根性がないことは認めるけど、それでも大事なことはわかってるつもりだ。何が正しいかを理解しようとしていて、そして正しく在ろうとする意思があるはずだ。

 

 まあ何より、あの艦娘の人に命を救われた。元々僕の頭に染み付いていた偏見はすっぱり取れてる。

 

 

 だから、そう。

 進路の選択と体作り。

 この二つを頑張るとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の息子が変わってしまった。

 言葉にすれば簡単なのに、目の前で起きている変化は理解し難い程に受け入れることを脳が拒否してしまう。

 俺の息子は決して俺の息子でなくなったわけではない。だがそれでも、変わってしまったのだ。

 

 例えば、俺が特定の休日に帰宅した日のことだ。

 あろうことか俺の息子は突然泣き出し、しかもそれに動揺していたのだ。その中に見え隠れする僅かな納得の色が更に俺の不安に拍車をかけ、変化をまざまざと見せつけられた。

 

 俺は陸軍憲兵として日々軍務に励んでいる。憲兵である以上軍紀違反を摘発された者や罪をなすりつけられた者を取り押さえることはある。決して多い数ではないが、少ないというほどでもない。

 そうした職務の都合上、本性を露出させた人間と話す機会は両の指どころか生きてきた年数にさえ劣らない。自然と人の表層部分と本性をある程度は見抜けるようになっていった。

 

 俺から言わせてもらおう。親である俺から息子へと言わせてもらおう。色眼鏡を外して、自分の息子を見極めよう。

 

 あの子は異常だ。

 

 あの子は本音と建前が所々混じっている。自分のことを騙しているのかと思えばそれも違うようだし、まるで息子という人間に重なって別の人間が隠れているような気がする。

 妻に聞けば、この寒い時期に川遊びへと赴いてびしょ濡れになり、そのまま帰ってきた日を境に思慮深くなったように感じるとか。以前の見境ない腕白小僧は消え失せて、あたかも同僚の軍人かのように命の価値や人道の重要性を理解しているようにも感じる。

 

 分からない。たった一日の、それも川遊びなんかで人はこうも成長するのだろうか?

 妻が言っていることは少しだけ外れていて、徐々に変わってしまっていたのではないか?

 

 だが、そんな変化をもし見逃していたとしても、流石に変わりすぎじゃないか?男子三日会わざれば刮目して見よ、という慣用句があるが、それにしても変化が急激過ぎるだろう!?

 

 なんで久々に会った息子に生きててありがとうと言われなければいけないんだ!

 可愛かったから許したが!ごめんな!ちょっと疑っちゃってたとこあるし拭いきれないけど、とりあえず信じてもいいくらいは可愛いなおい!

 

 

 そんなことを同僚に話すと、「実は親バカだろお前」と言われた。お、俺が親バカ……?

 もしかして、俺が何か間違っているのか……?


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