少林は青い監獄を壊すことが出来るのか   作:極丸

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君はまだ、究極のサッカーを知らない

「……さて、どうしたものか」

「珍しいですね。何を悩んでいるですか?絵心さん?」

 

 青い監獄(ブルーロック)の一室にて、コーチの絵心はとある資料を見つめて珍しく長考していた。普段の彼からすると珍しい()()姿に興味を示したマネージャーである帝襟は何に悩んでいるのかを探るべく、絵心に声をかける。

 

「ああ、計画に参加させる選手は粗方選び終えたんだが、一人どうにも選ぶべきかどうか判断に困る()()がいてな……そいつの招待を決めかねてる所だ」

「判断に困る?」

 

 彼女は絵心の視線の先を辿り、その正体を見る。そこにはタブレットの画面いっぱいにSNSサイトでアップロードされた動画が映し出されており、その再生回数は100万再生を超えていた。俗にいうバズった動画である事は帝襟にも直ぐに分かる事だった。

 

「この動画がどうかしたんですか?」

「まあ見てみろ。直ぐに分かる」

 

 そう言って絵心は動画を再生する。それはごく普通の高校の校庭で行われた休憩時間に行われたサッカーの動画だった。生徒全員が制服のままボールに群がり続ける、ルールなんてものは一切考慮していない小学生サッカーのお手本である。

 

「なんなんです?これ?」

「この後だ」

「へ?」

 

 絵心がそういった次の瞬間、地面を転がっていったボールが突如として消えた。そしてボールはそのまま数十メートル離れたゴールポストに直撃してゴールとなった。絵心は動画を停止する。

 

「な!なんですかあのシュート!?」

「おそらく距離をざっと計算するに、60m以上離れていることは確実だな。そこからあの精度でのシュート力……かなりの脚力だ」

「で、でも一本だけなら単なるまぐれじゃ……」

「誰が一本だけだといった?もしそうならここまで悩まん」

 

 そう言って絵心はもう一度動画を再生させる。すると今度は視点が変わり、メンバーも変わっていた。しかし共通していることは、先程長射程シュートを打った生徒がいる事だ。

 

「……まさか」

「ああ、そのまさかだ」

 

 再び生徒の打ったシュートがゴールポストに当たる。今度は外れたが、それでもその飛距離は一般的な長距離シュートと言われる距離が短く思える程に長い。正しく大砲のような一撃だった。

 

「またゴールポスト直撃」

「ああ、この動画はおよそ2分ほどあるが、全てこの生徒が打ったシュートの切り抜き動画だ」

「に、二分全部!?」

「それも全て先ほどの様な長距離射程でのシュートだ。本当ならばぜひとも参加させたいところだが」

「しないんですか?」

「コメント欄を見ろ」

 

 そう言われてコメント欄を見ると、そこにはたくさんの感想が述べられていた。賞賛や感動の類もあるのだが……

 

「『これどうせ合成だろ』『はいはい、かっこいいから種明かしはよ』『今時こんな分かりやすいCGあるかよ。フェイクでももうちょっと上手くリアリティを出せよ』『合成映像に騙されてる馬鹿多すぎ。普通に考えりゃ嘘だってわかるだろ。しょーもな』『周りの動きから見てこいつも素人なのは推測できるだろ』……何ですか、これ……」

 

 中にはこういった心の無いコメントを打ち込む輩も多い。

 その現状に帝襟はタブレットを強く握る。

 

「落ち着け。実際こいつがそこに書いてある奴等の言う通りなのだとしたら、俺たちはこいつらの笑われ者だ。あいにく俺達はサッカーに関してはプロだが、映像編集においては素人なんだ。その辺を検証する方法も無い」

 

 絵心は大画面に映し出された長距離シュートを見つめながら帝襟を諭す。可能性としてフェイクであることは彼自身も考え付いていた事だ。しかし、その可能性で片づけられない理由が、彼にはあった。

 

「! でも、選手ならデータもある筈ですよね?」

「ない」

「え?!」

 

 そう、選手データが無いのだ。県大会や地区大会といった小さな大会にも出場経験なし。あらゆる高校、あらゆるポジション、あらゆる年代の選手を探しても動画に写っている選手は見つからなかった。

 そこが絵心の引っかかるポイントである。

 

「選手データを見れば嘘かどうかは直ぐに見分けがつく。その選手にその能力が備わっていない事は一目瞭然だからな。だが、そもそも()()()()()()()()()()()()。俺達が持っているデータはサッカー選手のみだからな」

「……って事はまさか」

 

 帝襟も至ったその結論に、彼女自身もゾッとした。そう、それはサッカーに人生を捧げている者達からしてみればふざけているとしか思えないような結論だからだ。

 

「彼は()()()()()()()()()()。それならデータに乗っていない事も説明は出来る」

「む、無茶苦茶です!そんな結論!そんな事ありえ」「無いとは言わせんぞ」

「!?」

 

 帝襟の言葉を遮る様に絵心は言葉を被せる。そして絵心はゆっくりと画面から彼女に視線を移した。

 

「元々ブルーロックプロジェクト(この計画)自体が『ワールドカップ、日本優勝(あり得ない可能性)』を追求する事から始まった計画だ。その過程で生まれたわずかな可能性も、追及するのが通りだろ?」

「!!!」

 

 絵心の言葉に帝襟は言葉を詰まらせる。元々は彼女の立案で始めたこの計画。故にその根底を突かれれば、彼女も黙るしかなかった。

 

「じゃあどうするんですか?選別期間も残りわずかだっていうのに、わざわざ会いに行くっていうんですか?」

「…………なるほど、そういえばそうだな」

「へ?」

 

 帝襟が投げやり気味にぼそりといった一言は、意外にも絵心の心を動かしたらしい。絵心は即座に行動に移す。

 

「ここに動画の場所と思われる高校の住所が書いてある。投稿された日時は今年だから卒業生でもない限りまだ在学中の筈だ。選手が分かったら連絡を寄越せ。万が一にも本当だった場合、撮影と住所の確認も忘れるなよ。招待が出来なきゃ意味が無い」

「え?え?え?本当に行くんですか?」

「当然だろ。俺は他の作業で忙しいんだ。暇なお前が行くのが当然だろ」

「私だって他に仕事がありますよ!もう選別の為の視察は終わってるんですから!」

「知らん。お前が言い出した案だろ。だったらお前が行け」

 

 絵心は帝襟の主張に一切耳を貸さず再び作業に没頭する。ブルーロックの最終目標に似つかわしい自己中心っぷりである。帝襟は渋々ながらも渡された紙に書かれた住所に向かおうと歩を進めるが……

 

「これって経費で落ちるのかしら?」

 

 その足取りはどことなく重いものだった。

 

 

 

 

 

「おーい、林!今日も助っ人頼むわー」

「了解!今日はどんなもんだ」

「えーっと、前回の縛りなんだったっけ?」

「たしかコートの半分以下からのシュート禁止。ゴールポストに当ててシュートしないと得点にならない。じゃなかったっけ?」

「あー、結局林が直接シュートした方が早いって結論になったクソ試合だっけ?」

「あれは縛りが緩かったよねー。やっぱ林君はシュート禁止にしないとゲームバランス崩れるって」

「林タイムが無いと公平性が無いってなってから大分マシになったけどな」

「急な規制緩和はクソゲー化を引き起こすね。林やっぱ半端ない」

 

 そこはとある高校の放課後の一幕だった。男子数人を囲んでの休憩時間としては至って普通の光景である。

 

「どうやったらあんなバカみたいなシュート打てるんだよ林?」

「だから何度も言ってるだろ? 少林だ!お前らも少林を極めれば俺みたいなシュートいくらでも打てるようになるぞ!!」

「いや、あんなイナズマ〇レブンみたいなシュートポコポコ打ててたまるかよ。火が出てないだけ相当マシだけど」

「それに林君の普段の生活スタイル見てると出来ても真似したくはないしねー」

「な、何故だ……お師匠のお言葉通りサッカーをすれば少林を普及できると聞いたのに……」

 

 真似したくないと言われて青年、林は分かりやすく落ち込んだ。それを特に気にする事無く男子たちは話を進める。

 

 

「なあ?お前から聞くその『オシショウ』ってずっと聞くけどよ、正直言って人外にしか聞こえないんだけど?」

「お前、お師匠を馬鹿にするなよ!お師匠はおれに少林を教えてくれた恩人だぞ!」

「と言ってもねー、林君以上の精度であんな長距離シュート打てるって言われてもイマイチ信用出来ないよ」

「しかもその周りの兄弟弟子?てのも話聞く限りやべぇ奴しかいねぇじゃん。空飛んだりボール体にはっ付けたり頭突きで工具ひん曲げたりだとかさ。正直ペガサスとかユニコーンみたいな感覚で聞いてんだけど?」

「お前……それは師匠だけではなく少林全体に対する宣戦布告だぞ!今に痛い目を見るぞ!」

「分かったからそう熱くなんなって」

 

 凄まじい眼力で詰め寄る林に友人である学生は気圧される。

 

「にしても林君もドジだよねー、まさかサッカー部がある白宝(はくほう)高校じゃなくて、よりにもよってサッカー部が無い白桃(はくとう)高校に来ちゃうとはねー。詰めが甘いねー」

「ふぐぅ! 一生の不覚だった……少林を広める為のサッカー部入部がまさかこんなところで躓くとは」

「まぁ名前がよく似てるって言われはするけどよ……実際入学してくる奴は初めて見たわ」

「裕福な子は皆あっち行っちゃうからねー。確か有名な会社の息子さんとかもあっちにいるんでしょ?羨ましーなー」

「おかげで白桃(うち)は年々入学生減ってるらしいがな。つーかよ、林」

「ん?」

「そんなに少林?広めてーなら部活動作ればよかったんじゃねーか?」

「あ」

 

 少林拳法の使い手兼白桃高校2年、林。単純な解決方法を思いつかずなんと2年を過ごしていた。

 

「…………詰めが甘いねー」

「そうだったー!師匠の教えに影響され過ぎて忘れてたー!」

「お前も功夫が足りねぇんじゃねーの?」

 

 その様子を見て友人数名はニヤニヤと笑うが、林はそんなことお構いなしに身悶える。

 

「くそう、こうしてはおれん!急いで部の発足の為に動かなくては!少林は一日にしてならず!」

「あれ?おい!どこ行くんだよおい!」

「行っちゃった……相変わらず行動力だけはすごいよねー」

「つーか部の発足には3名以上の同意必要なの分かってんのかアイツ?」

「多分分かってないよ。というか今、職員会議だけどね」

「…………馬鹿だな」

「アホだよねー」

 

 颯爽と走り去る林を眺めながら、友人二人は意気消沈して帰ってくるであろう(ばか)の為に帰りを待つのであった。

 

 

 

 




という訳で、ブルーロック×少林サッカーでした。
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