少林は青い監獄を壊すことが出来るのか   作:極丸

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壁当て

「……………………駄目だった」

「まぁそう落ち込むなっての。にしても一度断られももう一回トライする当たりはさすがだな。ま、今度ははっきり断られてたが」

「予想通りだねー」

 

 林の少林部設立の夢は一瞬にして砕け散った。そもそも少林に関して関心を抱いていない生徒しかいない為、仮に林が賛同者を募ったとしても集まったかどうかという点を考えてはいけない。

 

「というか、何故賛同してくれないんだ!少林のすばらしさはお前たちが一番分かっているだろう!」

「いや俺ら既に部活入ってるし」

「そうそう。と言っても幽霊部員だけどねー」

「ならば来てもいいだろう!ともに少林を極め、高みを目指そう!」

「いやーそこまで熱くなれねぇっていうか」

「なる必要も無いというか」

「…………!見損なったぞお前ら!もういい!」

 

 友人たちのドライな反応に林はそのまま二人を置いて走り去っていく。

 

「……なんか悪い事したな」

「しょうがないよ。多分僕たちが入部しても結果は変わんないと思うし」

「あんだけ熱いと生半可な気持ちじゃ着いて行けんだろ。そうなるとアイツの為にもならねー」

「難儀だねー」

「ま、明日になればまたいつもの調子で絡んでくるだろ。今日は久々に二人で放課後デートといこうや」

「じゃあ僕彼女役やるからメック奢って」

「今時彼女は奢られるとか考えが古いんだよ。そんなんだからいつまで経っても童貞(しょじょ)なんだぞ」

「童貞がなんか言ってるよ」

「あ?」

 

 

「ちょっといいかしら」

 

「「ん?」」

 

 友人二人が軽口を言い合いながら帰路につこうしている時だった。背後から聞こえてくる声に二人は同時に振り向く。

 

「あなた達、白桃高校の生徒さんよね?ちょっと聞きたい事があるんだけど」

 

 そこにいた美女に一瞬だけ二人は見惚れてしまう。

 

「え?あ!はい!何でしょう?」

「この動画について何か知ってることがあれば教えてくれない?」

 

 その美女が差し出したスマホ画面には二人がよく知る動画が映し出されていた。

 

「あ、これ俺らが投稿したサッカー動画じゃん」

「なんか気まぐれで投稿したら話題になったやつだよねー」

本当にいたなんて! じゃ、じゃあ……あなた達このシュート打った選手と知り合いなのね?どこにいるのか教えてくれない?」

「え?アイツっすか?えーっとさっきまで一緒にいたんすけど、どっか走っていきました」

「おそらくいつもの公園じゃない?普段あそこで壁パスしてるし?」

「毎度思うが俺はあれをパスとは認めねーからな」

「公園?公園にいるのね?出来れば場所を教えて欲しいんだけど」

「えーっと、この先の大通りまっすぐ進んでいけばその内分かると思いますよ」

「ここを真っすぐね!ありがとう!」

「どういたしまして―」

 

 二人との会話も早々に切り上げ、美女は大通りを小走りで駆けだす。その後姿を二人はただ眺めるだけだった。

 

「結局何だったんだろうなあの人?」

「林君に興味持ってたし多分サッカー関係者じゃない?」

「まじでか。羨ましいな―林の奴」

「ま、直ぐに興味無くすでしょ」

「だよなー、前もこう言う事あったし」

 

 二人はその後美女の事を一切気にする事無く帰路を歩む。

 

 

 

 

 

「この大通りを進んでいけばその内分かるとは言ってたけど……こんな大通りにサッカー練習できるような公園があるとは思えないんだけど……」

 

 美女、帝襟は先ほどの男子高校生二人の情報を基に大通りを歩いていた。しかし、サッカーをするのに適さない光景が先ほどからずっと続いており、正直半信半疑になってきていた。

 

「もしかして私、騙された? 最初の聞き込みで知ってる学生を捕まえることが出来てたから興奮して事実確認するの忘れちゃったし……そうだ!地図アプリで公園を探せば……なに?この音?」

 

 上着のポケットからスマホを取り出そうとした帝襟の耳に聞きなれない音が届く。その音は何かを力強く叩きつける様な音であり、小さな音ではあるがやけに耳に残る。

 

「……こっちから聞こえてくる」

 

 帝襟はその音の方向に向かって歩き始める。既にスマホで周辺地域について検索を終えた帝襟であったが、それでもそれを無視して歩き始める。

 

「音が近い……確かにこっちだわ」

 

 確実に音が大きくなり、発生源に近づいていることが分かる。帝襟は既に大通りを抜け、住宅街の奥に入り込んでいた。

 

「まさか……そんな訳ないわよね?」

 

 帝襟の中でとある可能性が浮上する。その可能性は空想と言える様なばかげた可能性。しかし、向かっている方向と、地図アプリの示す方角、そしてこのような状況になった原因ともいえるあの動画の衝撃から、その可能性を切り捨てることが出来ない。やがて、帝襟は公園に辿り着く。

 

「あの子が……」

 

 そこには一人の青年がいた。これといった特徴はあまりない、何処にでもいる様な見た目をした青年だが、その青年が作り出す光景は異常と言えた。

 

「あの距離で壁当てをするなんて聞いた事ないわよ……」

 

 そう、あの男子高校生が言った通り青年は壁当てをしていた。しかし、その距離はPKの際の距離よりも遠く、まずノーバウンドでボールを壁に当てる事も難しいと思える距離だった。

 

「あ、そうだ!動画動画!」

 

 帝襟はその光景の異常性から呆然としていた意識を再び呼び戻し、絵心から依頼されていた動画撮影を始める。スマホを掲げ、画面越しで見ても、その光景の迫力は変わらなかった。

 

「それにしてもなんて脚力なの……動画で見た通りの威力だわ。それに生で見て初めて分かったけど、ただ脚力任せに蹴ってる訳じゃない。ちゃんと狙いを定めてボールをコントロールしてるし、ノータイムで蹴り返してラリーも続けてる。あれだけ距離があれば少しのブレでも大きく影響するのに……こんなテクニックとフィジカルを備えた選手がまだいたなんて……これは絶対に引き入れるべきね、青い監獄(ブルーロック)に」

 

 青年の動きの要所で見える裏付けされた才能と技術。それはこれまで数多くのストライカーを見てきた帝襟にとってみても素晴らしいものだった。それ故に、絵心に話を通す前に自身の計画であるブルーロックに招待する事に迷いはなかった。

 

「撮影はこれ位でいいかしら……ちょっとそこの君、少し話してもいいかしら?」

「ん?」

 

 帝襟は絵心へ撮影した動画を送信するとすぐさま青年の元へ駆け寄った。

 

 

 

 

 

「どちら様?」

「ごめんなさい。私、こういう者よ」

 

 林は突然現れたスーツの美女に警戒心剥き出しで対峙する。その反応に美女、帝襟は素直に名刺を差し出す。

 

「日本フットボール連合職員兼青い監獄計画(ブルーロック)マネージャー帝襟アンリ。フットボール連合……」

「そう。あなたその様子だとサッカーに興味があるようね?」

 

 差し出された名刺に書かれた役職を読み上げると帝襟は林に問う。林は帝襟を見つめながら話を伺う。

 

「そうだが、一体それがどうした?」

「あなたのプレーを見させてもらったけど、素晴らしいものだったわ。その強烈なキック力はストライカーをする上で確実に武器になる。そこでなんだけど、あなたのその才能を買ってぜひとも今計画しているプロジェクトに君も参加してほしいんだけど……」

「ちょっと待て、計画とはこのブルーロックという奴か?」

「そう!あなたならきっとこの計画は気にいる筈よ!詳しい内容はまだ此処では言えないんだけど、どうかしら?怪しいのは重々承知の上よ」

 

 帝襟から捲し立てる様に告げられたその内容を林は上手く咀嚼できずにいた。

 話が十段か二十段ほど飛んでいるような気もするが、林はそこまで深く考える知能が備わっていなかった。

 

「その計画とやらは良く分からんが、俺があんたの話に乗れば俺はサッカーができるのか?」

「……それは保証するけど?」

「なら乗った!」

 

 帝襟の返事に満足して林の運命は決まった。全国の才能に溢れた人生をサッカーに捧げたストライカー達の運命を決める計画に、林は高校でサッカーできないから代わりにこの計画に参加するというかなりの温度差がここで発生していた。

 

「じゃあ、最後に名前を聞いてもいいかしら?」

「名か?俺の名は林 正真だ!」

 

 この時、中国に伝わりし少林を受け継ぎし青年・林 正真のストライカーとしての試練が始まった。

 

 

 

 

 

 かも知れない。

 

 

 

 

 

「なぁ潔、今この動画はやってんだと」

「んだよこれ?」

「超ロングシュートの切り抜き動画だと。あからさまなCGだけど面白いよなー」

「けど、もし本物だったら一度でいいから見てみたいな。あんなシュート打てるんだったらすぐにエースストライカーだよ」

「ばーか、こんな選手見たこともねーから100%デマだろ。つくんだったらもうちょいマシな嘘つけって思うよな」

「んな事よりもうそろそろ休憩終わる時間だぞ。そんな動画見てる暇あるならさっさと練習戻った方がマシだ」

「だよなー」

 

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