少林は青い監獄を壊すことが出来るのか   作:極丸

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収監

 

「さて、あれよあれよという間にこんなところに来たわけだが……サッカーをするにしては狭くないか?」

 

 

 青い監獄(ブルーロック)計画始動。

 その中には当然林の姿もあった。

 林は現在、ロッカールームの中でクソださパツパツスーツ(ユニフォーム)に着替えている最中だった。林はなんとなしに腕の部分に番号が振られている事に気付く。

 

「301番……何とも中途半端な」

 

 実際その数字は最下位の数値なのだが、それは林にとってどうでもいい事だった。彼にとってこの計画は部活動の代わりでしかないのだ。細かいシステムとか、最終目標とか、そういう事はよく分からずにここまで来たのでぶっちゃけ林にとっては『負けたらもうサッカーできないので仕方ないから勝つ』というスタンスでいる。かなりこの計画と相性はいいらしい。

 

「どうやって着るんだ?道着の方が着やすいんだがな……」

 

 しかし当の林はまずユニフォームに苦戦していた。青いラインが入った全身タイツ宜しくパツパツユニフォームは見た目がかなりトリッキーだ。

 

「それ、上下に別れてるよ」

「む?申し訳ないな。えっと……」

 

「雪宮 剣優。よろしくね」

 

「よろしく頼む!雪宮!オレは林 少真だ」

「林君……ね」

 

 すると横から救いの手が差し出される。そこにはウェーブのかかった髪を左右に分けた温和な雰囲気を醸し出す丸メガネを掛けた青年、雪宮がいた。

 

「いやー助かった!正直どうやって着ればいいのか分からなかったからな!感謝する!」

「はは、そこまで大したことはやってないよ。それより林君?さっき道着って聞こえたんだけど、それってどういう事?ちょっと気になってさ」

「ん?道着は普段から着慣れていてな。鍛錬も基本的にはそれで行っているんだ」

「ふーん。珍しいね……というか鍛錬って?」

 

 林としては少林拳の鍛錬を行う際に着込むので、素直に答えただけなのだが、雪宮からは少し変わった練習法をする少年として映っていた。

 

『着替えは終わりましたか?才能の原石共よ』

 

「「「!?」」」

「どーにもこの吸着感は苦手だな」

 

 するとロッカールームに備え付けられた大型モニターにこの計画の主要人物である絵心が映し出される。絵心はこちらに興味を示すことなく話を始める。しかし、林はそんな事よりスーツの着心地の悪さの方を気にしていた。なんとも自己中心的(ブルーロック)である。

 

『さぁ、《鬼ごっこ》の時間だ』

「ん?何の時間だと?」

 

 そう絵心が言い切ると同時にようやく林の意識がモニターに向く。しかしそれと同時に天井からボールが落ちてきたので、ロッカールームの意識はボールに向かっている。ワンテンポ遅い。

 

 

『制限時間136秒ボールに当たったやつが鬼となり、タイムアップの瞬間に鬼だった奴が帰る(ファックオフ)野郎です。後ハンド禁止ね』

「なるほど……サッカーは?」

 

 林はそこでようやく振り返りボールを見つける。イマイチ状況を理解できてるのか出来てないのか微妙な状態である。

 

『それとそこのグループは諸事情により13人いるので二人脱落だ。なので鬼も二人でボールも二個だ』

 

 そのアナウンスと同時に落ちてくる追加のボール。そしてモニターは切り替わりデフォルメされた選手の顔と名前が表示される。

 

『ONI (HAYASHI) 小真(SHOUMA)(MORI) 大貴(DAIKI)

 

「おお、俺が鬼か」

「ぼ、僕が鬼?!」

 

 それと同時にカウントダウンの表示が始まる。ロッカールームに緊張が走る。

 

「まぁなってしまったらしょうがないか。一緒に頑張ろう!森!」

「い、いや!そんな事言ってないで、急がなきゃ!ここで落ちたらシャレにならない!」

 

 そう言って林と同じように鬼に選ばれた林という選手は急いでボールを蹴って相手を探す。しかし、相手も必死で中々捕まらない。

 

「クッソ!全然捕まらない!」

「こんなとこで終わってたまるかよ!お前が落ちろ!」

「おい!こっちくんな!向こうでやってろ!」

「ふざけんなお前だけ楽させるかよ!」

 

 阿鼻叫喚。ロッカールームは地獄と化した。しかし、そんな中でも落ち着いている選手が居た。

 

「さて、どうしたものか……とりあえず誰かに当てればいいんだが」

(みんな突然の出来事に混乱してるのか、動きが雑になってる。この調子ならクリアは大丈夫そうだ)

 

 林と雪宮である。雪宮は全員が混乱している中、一人冷静に状況を分析し渦中の外から傍観に徹していた。対する林はピンチなのだろうが、自分がどれだけピンチなのか把握できていないだけである。

 

「とりあえず蹴って誰かに当てればいいんだろうが……どうする?」

 

 林は特に動くわけでもなく、ボールを腕を組みながらジッと見つめていた。そして目を閉じて最適な方法を模索する。

 

「おい、あいつ諦めて棒立ちになりやがったぞ」

「よし、とりあえずあいつは特に気にしなくていいな!今はあの鬼に集中だ!」

(……何だろう。この胸騒ぎ)

 

 残り時間も半分を経過した。しかし、林は落ち着き払っていた。師匠との過去を思い返し。

 

《師匠。師匠は窮地を乗り切った経験はあるのですか?》

《どうした?急に》

《いえ、師匠ほどの少林の達人は窮地に追いやられた経験はあるのかと思いまして……あ、もちろん少林を疑っている訳では無く!》

《いや、林。お前のその考えは正しい。俺も窮地に追いやられ、駄目だと思った時は何度もあった。思えばあの時もそうだった》

《師匠ほどの少林の達人でも追い詰められたことはあるのですか!?》

《ああ、正直その時は少林でも太刀打ちが出来ないほどの強敵だった》

《しょ、少林でも太刀打ちできない!?》

《その時は仲間の力を借りてなんとかできたが、少林が役に立たなくなったわけじゃない。いいか、林よ!もし、お前が窮地に追いやられた時、その時は頭で考えるな!少林を信じて闘い抜け!全力を出せば、いずれ突破口が開ける!》

《はい!師匠!》

 

「全力で……戦い抜く」

 

 林の頭を駆け抜けた師匠の教え。林はゆっくりと目を開ける。そしてゆっくりと息を吸い、呼吸を整える。そして、林は大きく足を後ろに振り上げた。

 

「……来る!」

 

 その変化に真っ先に気付いたのは雪宮だった。皆、片方の鬼に集中している中、雪宮だけは林を捉えていた。だからこそ、雪宮はその時意図せず最適解を導き出す。

 

「これが俺の……俺なりの!全力だああああああ!」

 

 砲撃。

 正しくそれは爆音とともに部屋を埋め尽くした。

 林の全力の蹴りはボールに100%伝わり、大砲となってその威力を証明する。

 壁にバウンドして縦横無尽に跳ねまわる。モノクロの軌跡。その間、何度も鬼が交代し続け、やがてその交代も終わりを告げる。

 

「……うむ。やはり師匠の教えは偉大だな」

 

最後に立っていたのは少林だった。死屍累々と言わんばかりのその惨状と林の笑顔はあまりにもミスマッチしており、唯一その惨状を見届けていた雪宮は唖然としていた。

 

(なんだこいつ……?こんな選手知らないぞ!?)

 

 警笛

 

 それと同時に鬼ごっこ終了の合図が鳴る。それと同時に敗退者の名前が画面に映し出される。

 

『LOSE (KURO) 星哉(SEIYA) & 白野(SHIRONO) 旗八(KIHACHI)

 

「いっつつ……うえ!嘘だろ!?」

「も、もう終了かよ!というかあんなの無理だろ!」

「い、生き残った?……なんで?」

 

 三者三様の反応を無視し、画面は移り変わり先ほどの男の顔に移り変わる。

 

『試合終了。お疲れ様、才能の原石共。ここでは結果が全てだ。敗れたものは出ていけ。黒星哉と白野旗八、両者2名は失格だ』

 

「そ、そんな……」

「うっそだろ……こんな事で」

 

 敗退を告げられた2名は愕然とする。気を失い目を覚ました瞬間には己の敗退が決まっていたのである。憤りは必然と言えよう。

 

「おー!森!お前も生き残ったのか!いやー!やったな!」

「え、あ、うん……特に何もしてないけど」

 

 そんな二人を尻目に林は意気揚々と森とハイタッチを交わす。しかし、敗退者二名は納得がいかないのか、絵心に掴みかかる。

 

「ふざけんじゃねぇぞ!なんであんなポンコツプレイしか出来てねぇこいつが生き残って、俺が敗退なんだよ!さっきのプレイ見ても分かんだろうが!どうせこいつなんざ俺よりも下手なのは明らかだろ!」

『何度も言ってるだろうが。青い監獄(ここ)では結果が全てだ。敗退者にかける情けなんてものはない。さっさと帰れ(ファック・オフ)敗北者』

「このやろ……」

「お、落ち着いて下さいよ!」

「…………ッ!ふざけんなぁあああああああ!!」

「え」

 

 頭に血が上っている為落ち着かせようと森が近づくと、ついに我慢の限界になったのか一人が森に殴りかかる。急な展開に森はついて行けず、棒立ちになってしまう。殴られ鈍い音が響くかと思い、周りのものは皆目を瞑ったが、そのような音は一切響かず静寂が続くだけだった。

 

 そこには森を庇う様に二人の間に立った林の姿があった。

 

「それ以上はいかんぞ。負けたのならばその現実を受け入れ、次につなげる為の糧にするのだ!それが少林の教えだぞ!」

 

 その林の態勢は驚くべきものだった。

 殴りかかる相手の顔面スレスレで足を止めた状態で直立不動の姿勢を維持し、体幹は一切ぶれる様子が無い。更にいうなれば、林は先ほどまで二人の間には立っておらず、相手が殴りかかる一瞬の間に入り込んで見せたのである。圧倒的な身体能力を目の当たりにした全員は心の中でこう思った。

 

(((化物だ)))

 

 青い監獄に響いた少林の衝撃は、まだ底を知らない。

 

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