地球、日本で高校生として、理想通りの恋人であるユエと楽しい日常を送っていた
こんな甘くて優しい世界が続けばいいと思っていたハジメ
だが
(……理想通りの恋人? 甘く優しい世界? 馬鹿か、俺はっ!)
ハジメは目元を手で覆うとギリギリと音がしそうな程歯を食いしばった。そうしなければ、流されかけた自分の弱さを許せそうになかったのである
(……自分で立てた誓いも忘れて、仮初の世界に溺れそうになるなんて、我ながら反吐が出そうだっ)
ハジメは手を下ろすと気合を入れるように、あるいは罰を与えるように思いっきり自分の頬を殴りつけた。ドガッと生々しい音が響く。ハジメの突然の行動に驚いたユエが慌てて駆け寄りその手を伸ばすが、 バシッ! ハジメの振るった手に勢いよく振り払われてしまった
ハジメは思い出した
自分たちはハルツィナ樹海の大迷宮を探索していた
ゴブリンの姿をしたティオを回収したのち、再び魔法陣を見つけそれに飛び込んだ
そして目を覚ませば、自分は日本にいて、トータスの世界にいた記憶を忘れており、日本にいないはずのユエやシア達と甘酸っぱい学園生活を送っていた
しかし、その日常が進めば進むほどハジメの心に言いようのない違和感となにか忘れてはいけないことを忘れているのではと思うようになった
決め手となったのはユエの笑顔だった
その笑顔を初めて見たのは己がトータスでユエと出会い、行く場所も変える場所もない彼女に一緒に地球へ来るかと誘った時だった
『共にハジメの故郷に行く』
あったばかりだというのに、それだけのことで表情の乏しかったユエが、まるで花が咲いたように満面の笑みを浮かべたのだ。心底、幸せだとでも言うように
そして今、悲しげな表情で自分の手をもう片方の手で包み込むユエの顔が目に浮かぶ
その表情に、おそらく大迷宮が作り出したその表情に、ハジメは「……ふざけやがって」とドスの効いた声音で悪態を吐いた
偽ユエ「……ここにいて? ここにいればハジメはずっと幸せ」
ハジメ「黙れ、偽者。気安く俺の名を呼ぶな」
偽ユエ 「……どうして? 私はユエ。ハジメの恋人。理想通りの恋人。何が不満なの?」
ハジメ 「全部だバカ野郎。俺の言うことなら何でも聞く、俺を独占しようとしてくれる、都合のいい理想通りの恋人? それはもう、ただの人形だろうが。俺は人形を愛でるような趣味を持っちゃいない」
偽ユエ「……違う。人形じゃない。全ての人格を引き継いだ上でハジメの理想を体現したのが私。だから、ここにいて。ハジメが望めば全てが理想通り。ずっと傍にいるから」
どうやら、ただの偽者というわけではないらしい。この世界も、登場人物達も転移陣で読み取った記憶と人格を元に作り出されたもののようだ。そこに、本人の〝もし、こうだったら〟という、叶うはずのないIFを付け足し、より理想的な世界を作り出したのだろう。 確かに、奈落で味わった苦痛や、これから立ち向かわなければならない困難を思えば、それなくしてユエ達とあの平和な日本で暮らしていられるというのは理想的と言えるかもしれない。
だが、
ハジメ「度し難いな。余りに的外れで哀れになるぞ」
ハジメは、つまらなさそうにそう言うと、カッ! とその体から紅い光を爆ぜさせた。透き通るような紅い魔力が一瞬で仮初の世界全体に伝播し、それだけに留まらず、その密度を凄まじい勢いで高めていく
偽ユエ「なぜ…」
ハジメ「何故もクソもあるか。簡単な話だ。俺の理想通りのユエなんてゴミ以下だよ。現実のアイツは俺の理想なんか遥かに超えている。現実のユエ以上に魅力的な女なんて存在しないんだよ!他の連中もそうだ。どいつもこいつも俺の理想なんて踏みつけて、俺を俺たらしめてくれる! つなぎ止めてくれる! 強くしてくれる! 思う通りになんてまるでなりゃあしない厄介な奴等ばっかりだ! だがな……だからこそ俺達は一緒にいるんだよ!!」
バリィイイイン!!
やがてハジメと偽ユエの世界は、ハジメの持つ魔力により崩壊したのだった
天之河光輝はどこにでもいる普通の高校生……ではなかった
スポーツ万能、成績優秀、抜群のルックスにカリスマを兼ね備えた完璧超人とも言うべき脂質を兼ね備えたスーパー高校生だった
そんな彼には幼い頃から夢があった
それは、泣き祖父のような誰もを助けられるようなヒーローになることだった
彼には自身と同じ夢を持つスーパー高校生である双子の兄天之河勇輝、その勇輝と親友である坂上龍太郎、幼馴染であり二大女神と呼ばれるほどの可憐な美少女白崎香織、そして八重樫雫の5人といつも楽しく充実した毎日を一緒に過ごしていた
怒りや失意、罪の意識に憎悪とは無縁の優しい世界
溢れ出る安心 安らぎ 多幸感
そんな日々に包まれていた彼は
なんだ この気色の悪さは…
激しい不快感を抱いていた
光輝は思い出した
自分がトータスで大迷宮の攻略をしていたことを
魔法陣に入り、気づけば地球の日本にいた
傍らには自分に笑いかける兄や幼馴染達の姿が、そして頭に流れてくるのは、この世界での自身の記憶
その記憶の中では、自分はいじめられていた雫を
それに対し酷い不快感と怒りの感情が溢れ出る
その感情と共に溢れ出た光輝の膨大な魔力は世界を揺るがし、その魔力に当てられた兄や幼馴染の面々も地面にふした
偽勇輝「ど、どうしたこう」
偽者の勇輝の言葉を聞くことなく、光輝は須佐能乎を出し、勇輝と龍太郎、香織の偽者を潰した
偽雫「ど、どうしてなの光輝!?これは、貴方が望んだ人生じゃな!?」
そう言う偽物の雫を須佐能乎の拳で掴み上げ
光輝「………るな…」
偽雫「……え?」
光輝「あいつを傷つけ、笑顔を奪った俺に、あいつと同じ声で笑いかけるな偽者が!!」
そのセリフと共に天照を発現し、雫の偽者を焼く
光輝「……これが…俺の理想の人生だと!?……ふざけるなよ……俺は、こんな風に笑える…あいつがあんな優しい笑顔を俺に向ける……こんな優しい世界に居ていい存在じゃないだろ!?………」
光輝は怒りの表情を浮かべつつ、自分自身を呪うかのような目を向ける
そんな光輝に、未だ焼かれ続けている雫の偽者が口を開く
だがその声は雫ではない、別の誰かだった
「……合格だよ。甘く優しいだけのものに価値はない。与えられるだけじゃ意味がない。たとえ辛くとも苦しくとも、現実で積み重ね紡いだものこそが君を幸せにするんだ。忘れないでね」
その言葉を聞き終えた光輝はそのまま雫の偽者を握り潰した
光輝「……馬鹿言ってんじゃねえよ……俺は……決して幸せになっていい人間じゃねえ……俺はもっと醜く残酷な世界で、ゴミみてぇな最後を迎えなきゃいけねえ人間だろうが」
雫「……違う!!」
ドレスを着て、姫と優しい笑みで自分を呼ぶ王子……光輝に大きな違和感を感じ、そして思い出した
自分はトータスで大迷宮の攻略をしていた事を
探索中に見つけた魔法陣に触れ、気がつくと自身はお姫様になっており、そんな自分を優しくエスコートする光輝の姿
それに多幸感を抱いていたが、自分に優しい笑みを浮かべた光輝を見て記憶を取り戻した
そして思い出す
あの日から笑顔を浮かべることが無くなった光輝が……笑顔を奪った自分に笑顔を浮かべるわけがない
雫「光輝が優しく笑顔を浮かべることができる世界……でも私はこの世界に居ていい存在じゃない……そして忘れてはいけない………彼を孤独にしてしまった事を…笑顔を…夢を奪ってしまった自分の業を…」
雫は自分が被っていたティアラやドレスのスカートを引き千切った
それは自分はこの世界にとどまるつもりはなく、目を覚まし現実へ戻るという意思表示だった
そんな雫に偽者の光輝は口を開く
「……合格だよ。甘く優しいだけのものに価値はない。与えられるだけじゃ意味がない。たとえ辛くとも苦しくとも、現実で積み重ね紡いだものこそが君を幸せにするんだ。忘れないでね」
そして偽者の光輝から強い光が放たれ、世界が一変したのだった
本作の投稿が四十話を超えました。これから出す原作改変キャラクターの中で誰が好きですか?
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闇を抱えた孤独の光輝
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ティオに惚れられた心優しきウィル
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