IS-irregular-   作:背筋悪太郎

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新しく、書きました(去年に書いたものではありますが)。


プロローグ
プロローグ1 幻想の誘い火 第2回モンド・グロッソにて


 俺は、織斑一夏である。猫と違い、名前はある。現在、中学2年生だ。

 世界最強の姉の試合を観るために、態々ドイツにやってきたというのに、

「────どうしてこうなった」

 誘拐されてしまったようだ。

 ほんとに、どうしてこうなった。

 

 

***

 

 

 数年前

 

 

 織斑一夏は、双子の弟にして、一人の姉を持つ。そのどちらもが才色兼備で、非の打ち所が、それぞれある一点を除き、無かった。

 姉、織斑千冬は、頭脳、戦闘力と引き換えに、家事のスキルがゴミである。

 兄、織斑黒駒は、性格が、カイジやチョコラータよりもゲスで、さらには天才であることに胡座をかいている。

 そして、二人に足りないものを、一夏は持っているのである。所謂、主夫の才能があるというやつだ。

 

 一夏は、いつもいつも貧乏籤をひいていた。姉は、その親友である篠ノ之束に付き合わされて、その上に二人の弟を養うためにバイトに精を出しており、家にいることが少ない。なので、必然的に黒駒と一緒に過ごすことになるのだが、

「一夏、俺ちょっとゲームで忙しいからさ、この家中の掃除やっとけ」

「あー、腹減ったなー。そうだ一夏、飯作れ」

「あーだり、風呂沸かせよ」

 と、まるで一夏のことを召使いか何かのようにしか見ていなかった。

 一度だけ、なぜそのように扱うのかを、黒駒に聞いたことがある。

 すると、大変不本意そうに、こう答えた。

「あ? だってよ、お前は、俺や千冬姉と違って、なんもできねえクズなのよ、それ、わかってるよな? だからこそ、この俺がありがたーいことに、お前を使ってやってんだよ」

 ・・・・・・とのことである。

 もちろん、千冬は、黒駒の発言は知らない。が、薄々気付いていたのだろう、千冬は、一夏を部屋に呼び、優しくすることが多くなった。

 そして、二人でよく出かけることもした。

 篠ノ之束の妹、箒とも引き合わせてもらった。曰く、篠ノ之の道場に新しい人材が欲しくて、誰か連れてきてほしい、とのことだったようだ。

 黒駒にも聞いてみたが、

「面倒臭。俺は天才なんだから、何もしなくていいんだよ」

 とのこと。

 なので、千冬は、人間としては見切りをつけた。・・・家族としては、見切りをつけられないようだが。

 ちなみに、一夏に聞いた時は、

「やる。千冬姉みたいにはなれなくても、強くなりたい」

 と、二言返事で了承した。  

 千冬は、向上心のある者が大好きだ。束の発明も、ある夢のために行なっていることである。だからこそ、あのMADに、文句を言いながらもなんだかんだ付き合っているのだろう。

 

***

 

 数分前

 

 ドイツのある空港

 

「ここがドイツか。フランクフルトの聖地!」

 一夏は、空港に降り立つなり日本語で変なことを叫んだ。

 そして、持ってきた地図を広げる。

「えーと、モンド・グロッソの会場は、と・・・」

 現在地を約30秒ごとに確認しながら、会場を目指して歩いていく。

 街並みの描写は、残念ながらカットだ。なぜなら、作者はドイツの街並みを知らないからだ。

 そして歩くこと数分。

「ここで、千冬姉が・・・!」

 目的地に到着した。ちなみに、黒駒は、決勝なんかどうでも良く、日本のどこかに遊び歩いている。

「よし、じゃ行くk「織斑千冬の弟、だな?」・・・は?」

 早速アリーナに入ろう、という時に、一夏は背後から声をかけられた。見れば、数人ほどの男が自分を取り囲んでいる。

「えーと、どちら様で?」

 と聞いて、しまった、と一夏は思った。ここはドイツ。日本語を話せるものがどれだけいるのか、わかったものではない、が。

「お前にいう必要はない」

 日本語で返してきた。

「え? いや、えーと、日本語、わかるんです?」

「あたり前田のクラッカーだ。お前、ISの仕様書は全て日本語なんだぞ? 今や、地球上で日本語を話せない人間はいない」

(ギャグが古い・・・! あたり前田のクラッカーって! 聞いたことねーぞ!)

 

 なぜ、世界で日本語が話されるのか。その理由は、束にあった。

 とある事件を機に、束の開発したマルチフォーム・パワードスーツ「インフィニット・ストラトス」─通称ISは、世界各国が、何をしてでも欲しがるものとなった。その制作技術を教えてくれ、とも。

 しかし、仕様書は日本語オンリーである。各国は、一斉に束を非難した。

 それに対し、束は、

「は? 教えてもらう分際で、調子こいてんじゃねーよ。教えて欲しいのなら、相手の国の母国語くらい、日常会話程度は覚えとけ」

 と、言い放ったのだ。

 その結果、今や世界中で日本語が話されるようになり、世界の言語第1位を獲得したのである(ちなみに、第2位が中国語)。

 

 話を現在に戻そう。

「あのー、『あたり前田のクラッカー』って、あまり聞かないんですが「だまらっしゃい」あっはい」

「お前には、我々と一緒に来てもらう」

 テロリストな台詞である。

 しかし、鈍感なことで有名な一夏は!

「あー、試合の観戦ですか? だったらそう言ってくれればいいのに!」

 と、勘違いをした。

 周りの男は、全員ずっこけた。

「いや、お前、映画とか観ないの? 俺らがいうのも何だけどさ、こういうのってテロリストの常套句だと思うんよ」

「はぁ」

 一夏の反応は薄い。

 男の一人が、一夏に話している状況になるのだが、この男はあくまで誘拐犯。とてつもなくシュールな光景である。

「だから「まっどろこしいなァ、えぇ? このガキは、こーやって持ってきゃいーんだよ!」ね・・・ゑ」

 その目的を、馬鹿正直に話そうとしたところ、一夏の背後から、女の声が聞こえた。と同時に、その頸に、手刀が叩き込まれ、一夏は気絶した。

「ヴェ、お、オータム様!?」

「お前らなァ、とっとと拐ってこいや。馬鹿なことしてねーでよォ」

「あー、でも、ですね「でもも糸瓜もあるか。とっとと担いでこい」あー、はいよ」

 男は、オータムと呼ばれる女に従って、一夏を米俵のように担いで誘拐し、現在に至るのであった。

 

 

***

 

 

現在

 

 一夏の回想が終わって。

 目の前には、モニターがある。自身の横には、監視役の、「あたり前田のクラッカー」の男がいる。

「すまねぇな、坊主。だが、俺も雇われでね。雇い主にゃあ、逆らえやしない」

「あんたも、大変なんだな・・・」

「そういや坊主、まだ名乗ってなかったな。俺は、ルーデルという」

「ルーデルさん、か。もし出会い方が違ってたら、いい友人になってたかもな」

「違いねぇや」

 少し、アットホームな雰囲気になる。 

 だが、その雰囲気は、即刻破壊された。

「な、どういうことだ! 織斑千冬が、試合に出てやがんぞ!」

「何だと!?」

 ルーデル以外の男─ここでは、スデンとアケマとしておく─が、モニターを見て叫んだ。

「畜生、弟を見捨てたのか・・・?」

 スデンの発言に、思わず一夏は叫んだ。

「千冬姉は、そんなやつじゃない! きっと、何かの間違いだ!」

「だがよう、坊主。誘拐されたことは、キッチリ日本政府に・・・まさか!」

「どうした、ルーデル。何か気付いたのか?」

「あぁそうだ! 直で連絡すりゃあよかったんだよ、織斑千冬に! 坊主の携帯でも使ってな!」

「ルーデルさん・・・? 一体、何を・・・?」

「つまり、だ。日本政府は、お前を、致し方ない犠牲、コラテラル・ダメージにしようとしてるってことさ」

「そんな・・・!」

 一夏にとっては、予想外のことだった。しかし、彼の中には、確かに、千冬に優勝してほしいという願いがあった。政府としても、そういう思惑がある。もっとも、致し方ない犠牲にしようとした理由は、ただ単に、体面を傷つけたく無かったからなのだが。

「そっか、だったら仕方ないのかも、な」

「おい、坊主、何言ってやがる。お前は、俺らと違ってまだ若いんだ。無駄に散らすことなんてない」

「でも、帰ったら、黒駒に「おい、いつまでくっちゃべってんだ、あァ?」・・・誰?」

 オータムである。

 千冬が試合に出たというので、用済みになった一夏を始末しようとしたのである。

 その意図を察した男たちは、

「そりゃあねえぞ!? 誘拐しといて、あまつさえ殺すだと!? 金もらっといて何だが、そこまで落ちぶれたつもりはねぇぞ「黙ってろよカスが。こいつは用済み。だから殺す。常識だろ?」・・・ッ、ざけんなよ」

 そう言って、ルーデルは、オータムに殴りかかろうとした。

 しかし。

「邪魔だ」

「グハッ・・・!!!」

 ルーデルだけでなく、周りの男まで、皆銃殺されてしまった。

「ルーデルさん!」

「次はテメェだぜ「一夏ァッ!」何!?」

 一夏を始末しようとしたオータムだったが、そこで予想外の声を聞くことになる。

 その声の主は、

「・・・千冬姉・・・・・・?」

「あぁ。遅くなって、すまないな」

 織斑千冬その人であった。

「何っで、テメェがここにいんだよ・・・ッ!」

 オータムの問いに、世界最強は答える。

「試合なら、もう終わった。私の勝ちだ。わずか3分、カップ麺ができる。で、その直後にドイツ軍がこのことを知らせにきて、いても立っても居られず向かった次第だ」

「千冬姉・・・!」

 だが、

「ハッ、だったらよ、お前を世界最強でいられなくしてやんよ」

「何?」

 と注意を向ける間も無く、

「・・・・・・・・・・・・え?」

「・・・・・・・・・・・一夏?」

 

 

 

一夏の体が、蜂の巣になった。

 

 

 

 

「ガトリングだよ。もち、ISの、な」

 オータムは、自慢げにそう語る。

 

「貴様ァァァァァァァァァァァァッッッッッッッッッ!!!!!!!」

 

 千冬は、激昂し、オータムに切り掛かる。

 そして、確実に斬った! と思った瞬間には、

「じゃあな。もう会うこたぁねェだろうよ」

 オータムは消失していた。

「ッ、そうだ、一夏・・・・・・?」

 千冬は、一夏の方を見る。

 しかし、時すでに遅し。

 一夏は、死んでいた。

「あぁ、一夏? 目を開けてくれ。口を開けてくれ。手を動かしてくれ。心臓を、肺を、声帯を動かしてくれ。生きてるよな? なぁ、本当は生きてるんだろ? それで、ドッキリ大成功って看板でも用意してるんだろ? 心臓に悪いドッキリはやめてくれよ。なぁ、一夏・・・・・・・・」

 そう言っているうちに、自然と涙が流れ出した。

 

 

 

 

 どれほどの時間、泣いただろうか。

 千冬にしては珍しく、背後の気配に気づけなかった。

「ちーちゃん? いっくんは・・・・」

「何も、言わないでくれ。今は、何も・・・」

 その一言で、天災は全てを察した。

 そして、己に絶望した。

 親友の弟一人も救えぬ、己に。

 

 

***

 

 

まどろみのなか

 

 真っ暗な空間の中を、一夏は落ちていく。

 どこまでも、深く、深く。

──あぁ、俺、死んじゃったのか。

──結局、何もできなかったな。

──日本に帰ったら、千冬姉と、ささやかにお祝いする予定だったのに・・・。

──箒に再会できなかった。

──それに、鈴の酢豚だって。

──あぁ、未練しかないじゃねえか。

──畜生、まだ生きててぇよ・・・。

──ルーデルさんたちの分まで、生き抜きたかった・・・。

──黒駒も、見返してやりたかったのに・・・!

──俺は、生きたいッ!

 そう、一夏が思った時だった。

 

ひらり ひらり ひらり

 

──・・・・・・なんだ?

 

 ひらり、ひらりと、蝶が、何羽も飛んできた。

 桃色の、幻想のような蝶。

 冥界の象徴。

 

 その蝶から、声が響いてきた。

 

「生きていたいの?」

 

──当然だ。

──でも、誰だ?

 

「私は、冥界・白玉楼の主。あなたが生き返りたいというのなら、協力するわ」

 

──本当なのか!?

 

「えぇ、もちろんよ。死を受け入れたのなら、あなたはここにはいない。閻魔の元にいるはずだもの」

 

──閻魔?

 

「こちらの話よ。気にしないで」

 

──はぁ。

 

「とりあえず、動けるかしら?」

 

──えーっと、あれ?動けません。

 

「大丈夫。体を動かそうと思えば、動かせるわ」

 

──あ、本当だ。

 

「じゃあ、こっちにいらっしゃい」

 

──わかり、ました。

 

 一夏は、戸惑うように、声の主に近づいた。

 名前を聞いていない上に、その姿すらも不明瞭。信用しろという方が無茶苦茶である。

 しかし、霊魂は、無意識のうちに、声の主に近づいていった。

 その心に、微かな希望を持って。

 

「ふふ、あなたはなんていうの?」

 

──俺は、織斑一夏、です。

 

「そう、いい名前ね。でも、もう必要ない」

 

──ッ!

──なんで、ですか?

 

「本来、あなたは閻魔の元にいる、って言ったわよね?」

 

──ええ、確かに。

 

「地獄に行くか、輪廻をめぐるか。二つに一つ、でもあなたは、未練から勝手に輪廻に移動した。もちろん、普通とは違う形だけれど、ね」

 

──そっか、転生したら・・・。

 

「今までの名前は名乗れない。他人から呼ばれる分には構わないし、自ら明かすのもいい。けれど、その前に必ず、現在の名を名乗らなければならないのよ」

 

──それが、世界のルール、なんですね。

 

「ええ、そうよ。でも、転生するにしても、今は『器』が無い。だから、しばらくはここに住んでもらうことになるけど、構わないわね?」

 

──でしたら、一つだけ、いいですか?

 

「何かしら? 私にできることなら、何でもいいわよ」

 

 それを聞いた一夏は、生前切望していた望みを口にする。

 

──強くなりたい。

──千冬姉の隣に、胸張って立ってられるくらいに、強く。

──今以上に、もっとッ!

 

「・・・・・・」

 

 声の主は、黙り込む。気配から察するに、考え込んでいるようだ。

 

──だめ、ですか?

 

「いいえ、駄目ではないわ。ただし、厳しいわよ?」

 

──望むところです。

 

「もう一度死ぬくらいの覚悟が必要になるかもしれない。それでも?」

 

──もちろん。

 

「・・・わかったわ、ついて来て」

 

 その声に従い、一夏は、真っ暗なまどろみを抜ける。

 その先に広がっていたのは─────

 

 

***

 

 

ドイツ

 

「ちーちゃん・・・」

「私は、無力だ・・・」

 一夏の亡骸のすぐそばで、千冬と束が話している。

 もっとも、世間話には程遠く、千冬は、束の方を向いていないのだが。

「弟一人、助けられやしない。思えば、一夏には、姉らしいことを何もしてやれなかっ「そんなことは、無いわ」た・・・?」

「お前、誰だよ」

 千冬と束には、確かに聞こえていた。

 鈴を転がしたような、それでいて深海のように暗い、されど心地よい声を。

「一夏を──死んだ後の一夏を知っている、って言ったら?」

「何?」

「何言ってんの? 死んだ後は、何も残らないんだよ。今回のケースで言えば、出血多量によって脳味噌に酸素が行き渡らず、そして細胞が死んで、『意識』と呼ばれるものが消滅する。天災たる私でなくとも、簡単にわかるはずだよ。ってか、お前、どこにいる? 姿くらい見せろよ」

 束の、独自に組み立てた理論を捲し立てた。この理論は、作者がない頭を捻ってそれっぽく考えた者である。その後、「姿を見せろ」という要求に、「声」は応えた。

「お望みとあらば」

 「声」は、一夏の亡骸のすぐ左に、ウルトラマンのR惑星へのテレポーテーションのように、姿を現した。

 いや、浮かんでいる、と言った方が正確か。

「なッ!?」

「ほう、これは・・・」

 千冬は驚愕し、束は関心を持つ。

 当然であろう、今まで科学が全てであると思いながら生きてきた「天災」篠ノ之束にとって、「無から出現する」というのは、埒外に当たる。興味を持つなというのが普通であろう。だが、束は空気を読める。なので、その興味は飲み込んで、相手の正体を問う。

「興味は尽きないけれど、お前、何者?」

「私の名前を聞いているのね?」

「そうだよ」

「なら、まずは自分から名乗るべきじゃない? それが、日本の常識のはずだけれど」

 束は、一瞬顔を顰め、しかしそれも当然というふうに取り繕う。

「それもそうだね。束さんは『天災』篠ノ之束。この子はちーちゃん」

「・・・それ、あだ名でしょう?」

「そらそうだ。ちーちゃん、この霊長類ヒト科に分類されると考えられる有象無象の一つに、名乗ってあげなよ」

 千冬に名乗るよう促す束。

 しかし、千冬は、さっきからずっと放心したままだ。一夏を失ったショックか、「声」が埒外の物理で現れたことか、はたまた両方か。

 そんな千冬に、束は、未確定ながら有力な情報を告げる。

「もしかしたら、いっくんのこと、知ってるかも知れないよ」

「! 私は、織斑千冬だ」

((変わり身早ッ!!))

 「声」と束は、同時に、思考に一分のズレなくそう思った。

 しかし、亡くなった弟の行方がわかるかもしれない情報を持っているのだ。印象を良くしようというのは当然の摂理であろう。面接と同じだ。

「なるほど、タバネにチフユ、ね。私は、西行寺幽々子。幽霊になりきれなかった者、かしらね」

「幽霊、ねぇ? 確かに、存在しないことは証明されていないが、疑わしいのも事実。でもまあ、あんな超常を見せられて、『ンなわけねーだろ』とは言えないことは明白。ひとまずは、信じてやろうじゃないか」

 束は、幽霊を信じているわけではない。

 しかし、目の前に暫定的に幽霊といえる、完全埒外の存在が現れた。

 従って、今の束の認識は、「幽霊を名乗る存在x」である。

「一応は、信じてもらえたみたいね」

 そして、ぱん、と手を打ち合わせる。

「さて、一夏について、だったわね」

「あぁ、そうだ。一夏は、どうすれば生き返る!?」

 千冬が、幽々子に食ってかかる。

 今の千冬は、かなり冷静さを欠いている。

 当然だ。死んだ一夏に、もしかすれば会えるかもしれないのだ。作者はまだこの感情を味わったことがないが、何となくは想像できる。

「うーん、生き返ることは不可能、ね」

「な!?」

「落ち着きなよ、ちーちゃん。いっくんの体は、残念ながら腐り始めてる。それに、悪趣味な風穴開けられて、内臓もマトモに動きゃしない。こんなんじゃ、それこそ龍の玉を7つ集めなきゃダメだ」

「タバネはそういう観点で見てるのね。ま、あながち間違ってはいないけど」

 そう言う幽々子に、束は眉を顰める。

「ふーむ。じゃあ、君はどういう理屈を展開するんだい?」

 幽々子は微笑を浮かべる。まるで、現世とは違う何かがあるとでも言わんばかりに。

「おおむね、タバネが言ったことと同じよ。でも、一夏の魂はすでに『こちら側』にある。その肉体はもう使えないから、新しい肉体を用意するしかないわ」

「だったら! 私じゃ、駄目なのか・・・?」

「駄目ね」

「何故!」

「単純なことよ。生まれてくる前を除いて、二つの魂が一つの肉体に同居するなんて不可能」

「二重人格は、生まれる前にできるってことかな?」

「そういうことよ」

「理屈がおかしい。普通、二重人格というのは、所謂自衛のための武器だ。言って仕舞えば、目を背けるための道具なんだぞ」

「それは、此方に於いては違う。二つの魂のうち、一つが眠っている。でも、何かの拍子に覚醒する。それが二重人格よ」

「悔しいな、間違いであることの証明ができない。このままじゃ、千日手になりそうだ」

「同感ね。話を戻しましょう。チフユ、あなたの魂は、肉体という器に対して満タンなの。コップに、表面張力が働くギリギリまで水を入れたような・・・というのは極端だけれど。要するに、付け入る隙がないの。だから、あなたの中に一夏を入れることは、出来ない。───倫理的にもアウトだし。魂だけで見ればほとんど近親相姦よ」

「ふーむ、倫理には勝てないか。確かに、最近のテレビも、BPOがうるさくしゃしゃり出て来やがるし。気に食わないんだったら、束さんみたいに自分で作れってんだ」

「びーぴーおーというのが何なのかは良くわからないけど、まあそういうことね。で、一夏は、今こちら側にいる。そして、しばらく、あなたたちとは会えないわ」

「何故!・・・ん? しばらく?」

 「しばらく」。

 この発言に、千冬は引っ掛かりを覚えた。今生の別を経験したかと思えば、生き返るかもしれない。しかし、しばらく会えない。

 その理由とは。

「単純なことよ。まず、肉体を見つける。最悪、ハガ○ンに載ってたレシピで人体錬成するけど、それでも時間はかかる。もう一つは、彼、強くなりたいみたいでね、しばらく修行をつけることになったのよ」

「だから、いっくんはこっちに来れない、か」

 束は、目を細めた。

「それは、本当なのかい? 束さんが、普段全く神というものを信じていないこの束さんがいうのもなんだけど、天地神明に誓ってそういえるのかい?」

「もちろんよ。なんなら、私の食事3年分をかけてもいいわ」

 ならば、と、束は紙を差し出す。

「一筆、書いてもらおうか。『私は、織斑一夏を何年かけても、どんな形であろうと生き返らせます』、と。ちーちゃんも、それでいい?」

「・・・あぁ。一夏に会えるのなら、どんな姿でも構わない」

「そういうこと。ちゃんと、守れよ?」

 幽々子も、頷く。そして、一言一句違えずに、達筆な字で、紙にさっきの文言を書いた。

「もちろん、こちらも、出来うる限りの対価を支払おう」

「そんなものは、いらないわ。強いていうなら、一夏の成長、ね」

 そう言い残し、幽々子は、R惑星へのテレポートのように、帰って行った。

 

 

「なあ、束。本当に、幽々子・・・さん? は、一夏を生き返らせてくれるのか?」

「さーね。もしかしたら、束さんたちは白昼夢を見ているだけかもしれない。でもね、これだけは言えるよ」

「それは、なんだ?」

「この世界の、法則が崩れていく。そう、束さんですら及ばぬ、あたらしい世界だ! 本当はね、見ただけでわかったんだ。幽々子・・・いや、ゆゆちゃん。彼女は、少なくともこの世のものではない。ならば、私は! 喜んで、その礎となろう。そのためには、向こうのことを知らなければならない。というわけで、ごめんねちーちゃん。しばらく会えないかも」

「はぁ⤴︎!?」

 千冬の声が裏返った。

「確実に、ゆゆちゃんは、この世界には、それこそ天災でもない限り気づけぬ位相にいる。私の次なる目標は、そこに行くことだ。何、安心しなよ。完成したら、連れてってあげるからさ」

「・・・あぁ」

「大丈夫大丈夫。定期的に、まぁ2日にいっぺん・・・はスパン短いね。1週間に1回にしよう。週に1回は、ちゃんと連絡とるからさ。今生の別れじゃ無い」

「・・・そう、だな。それもそうだ。それに、一夏が帰って来るかもしれない。これだけでも、生きる希望ができる」

「でも、問題がひとつ」

「なんだ? いや、まさか───」

「そう、黒駒だ」

「あぁ、一夏も不出来な部分はあるが、奴はそれ以上だからな。ま、奴が真っ当に生きていれば、肉親として文句は言わんさ」

「ドライだね。いっくんと違って」

「否定はせんよ。私は、上を向く者が好きだからな。一応、姉として普通に接してはいるが・・・」

「ま、あいつは、ね」

「更生できるよう、努力するさ」

「頑張ってね☆」

 

 

 

***

 

 

白玉楼・数分前

 

 

「ここが、あなたの過ごす場所。白玉楼よ。そして、私がここの主人、西行寺幽々子。よろしくね」

「此方こそ、よろしくお願いします」

 

 

 一夏の、新しい日常が、始まろうとしていた。

 

 

                                       続く




どうだったでしょうか。
プロローグは、これを含めて4つとなります。
お見苦しい点も多々あると思いますが、是非見てください。
感想を、よろしくお願いします。
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