IS-irregular- 作:背筋悪太郎
本当だったら、VTシステムをブロリーにしようと思っていたのですが、真面目にやらなければと思い、書き直しました。前回との違いを、見比べてみてください(なお、ちゃんと1話で終わります)。
「タッグマッチ?」
HR中。千冬の口から告げられた単語は、生徒たちを混乱の渦に叩き込んだ。
「待て、今までは違ったってことだよな?」
「ああ、今までは個人戦だった。だが、まあ以前無人機が襲来しただろう?」
「あー、アリマシタネソンナコト・・・」
カタコトになったのは、それが遠因で土木現場で生徒と共にアルバイトをする羽目になってしまったからだ。
「あの時、あと一歩まで追い詰めたのは、西行寺と凰のコンビネーションがあったからだと上層部は睨んでいる。そこで、タッグを組んで戦わせようということになったというわけだ」
「なるほど。だが、専用機持ちがそこそこいるだろう? 戦力としてパッと見不公平じゃないか?」
「だからこそ、いくらか制限を設ける・・・と、担任に回されたプリントには書かれている」
「そういうわけね。・・・俺は参加しちゃダメ?」
「ダメだ」
「デスヨネー」
水鏡は、闘争本能を抑えきれなくなっているのだ。ダメ元で参加できないか質問してみたが、にべもなく返された。
生徒一同は、「アハハ・・・」と呆れたように笑った。もはやいつもの光景である。
黒駒は、復学を許された。だが、真耶が睨みをきかせているため、一言も発せない。元かつ候補生止まりとはいえ、日本代表に最も近かった人物は伊達ではない。なお、もし黒駒が何かやらかした場合には、即座に水鏡に連絡が入るようになっている。その超人的な能力で須臾にして制圧するためだ。首を刎ねるも、全身の骨を折るも、現場の裁量次第。某銀色の機動刑事の法を個人に向けたような格好になるわけだ。
このことについて真耶は、
「教師としての威厳はあまりないですからね・・・。ですので、鍛えさせていただきます!」
と好意的に受け止めていた。
「そんなわけで、申込用紙を配布する。締切は来週の今日だ。しっかり考えて提出しろよ? もし提出しなかった場合は、当日にランダムでタッグが決定されることになる。以上!」
千冬の教師姿も、すっかりサマになっている。
HRが終わり、生徒たちは各々授業の用意を始めた。
***
「妖夏、お前は誰と組むんだ?」
昼休憩、食堂。大テーブルでの出来事である。
「まだ考えてないかな。箒は?」
「私は近接だからな、遠距離が得意な者と組みたいと思っている」
「だったらアタシとかどうよ!」
「いや、お前はすでにタネが割れているだろう・・・。妖夏のせいで」
「・・・あ。おのれ妖夏ァ!」
鈴音は、妖夏につかみかかった。
「いやだってしょうがないじゃない! リンが使うからタネを明かしたんでしょう!?」
「アンタはマジシャンの手品のタネを明かすというのええ!?」
「いや、
「同感だ」
「アタシに味方はいないのくぁ! こうなったら、ラーメンやけ食いよ!」
そう言って、食券売り場にかける鈴音だったが。
「売り切れだったわ・・・」
意気消沈して帰ってきた。
「あらま、でしたらフィッシュ&チップスなどいかがでしょう?」
セシリアが自分の昼食を分けようとするが、
「いい・・・。今はラーメンの気分なのよ・・・」
とりつく島もなかった。
「慣れたものだよね、この光景にも」
シャルは、現在男装中である。ティーカップを手に持つ姿は、もはや耽美である。転入以来、多くの女子から告白を受けたが、その全てを轟沈せしめたのだ。
「そうだな。このドッタンバッタン大騒ぎ、慣れないうちは戸惑ったが」
ラウラも、同調する。
「それはそうと、タッグマッチか・・・」
「何かアテがありますの?」
「いやない」
セシリアは、華麗なる貴族的ズッコケを披露した。決してスカートを広げることなく、しかしギャグとして成立する、そして貴族の風格を漂わせる、見事なズッコケである。
「おそらく、我々は確実に矛を交えることになるだろう」
「・・・確かにそうよね。専用機持ちだし、相応の実力を持っているから・・・」
鈴音は復活したようだ。そして、その発言には若干の例外があることは、読者諸君もご存知であろう。
「だからこそ、ある程度は、それこそ切り札以外は開示してもいいんじゃないか?」
「・・・無理ですわね」
その提案を蹴ったのは、セシリアだ。
「そもそも、私の機体、ブルー・ティアーズは、普段から切り札につながるものを使っております。勘のいい人間であれば、すぐに気づくでしょう。妖夏さんとか」
「そうよね・・・。アタシの機体の種を明かしたアンタならなんでもすぐに解るわよね!」
「うるさいですわ」
「しゅん・・・」
鈴音が、また萎れた。
「ともかく、自ら開示するというのはいただけないですわね。知りたいのなら、自分で調べれば良いのです。大戦の模様など、インターネットで検索すればいくらでも出てくるでしょう?」
「確かにそうだな。事実、私はお前の対戦データを何度も見ている」
「そう。それが常識ですわ」
「だが」
ラウラは、周囲を見渡す。談笑する生徒が目に入る。彼女らの話題は、「最近のドラマの感想」だとか、「最近流行り出した音楽」だとか、「旬のイケメン俳優」だとか、そういう類の、普通の女子高生のものだ。
「果たしてこいつらが、それを実行できるか? 私には、そうは見えない」
手厳しい評価である。だが、事実だ。IS学園というのは、事実上の軍事教育施設といって良い。就職率はそこそこあるが、それは「ちゃんと卒業できた者」のものだ。毎年、必ず一人は、ドロップアウトする人間がいる。200倍というとんでもない倍率を制し入学しても、そこに胡座をかく人間である。篠ノ之箒のように、特殊な事情がある、悪く言えば姉である篠ノ之束(がどえらいことをやらかしやがったので証人保護プログラムを適用せざるを得なかったが一般人がそんな事情を知るわけでもないので結局のところそう見えるだけだが彼女)のコネで入学した人間もいる。だが、それでも努力をしている。彼女のIS適性は、お世辞にも高いとは言えない。訓練機を使おうにも、希望者多数の上上級生が優先されるためなかなか使用が難しい。それでも、自分にできること、たとえば身のこなしかただとか体づくりなどを行なっている。ドロップアウトするのは、ちゃんと入学のための努力をしたにも関わらず、そこで満足している人間なのだ。
ではここで、食堂の生徒たちを見てみよう。
タッグマッチの話題は、毛ほども聴こえない。じゃあISの姿勢制御だとか出力だとか、そういう類の話をしているのかというと、そうでもない。だったら自分は将来こうなりたいから今こんなことをしているという話をしているのかというと、そうでもない。
・・・。
「無理だよ」
「無理だな
「無理ね」
「無理ですわね」
「無理だね」
満場一致で無理と言える。
「入学からすでに2ヶ月も経っているというのにこの始末だ。危ういどころの話ではないぞ・・・」
「はてさて、一体どうなることやら・・・」
セシリアの呟きで、全員食事に戻った。
***
「ドォォア!」
そう叫ぶのは、水鏡だ。
「どうしたのです、水鏡先生」
「いや、中間テストがこないだあったでしょう?」
「ええ。・・・もしや、結果が?」
「そうなんですよ! あーもうこれなら平均60いくでしょと思ってたらまさかの40! いくらなんでもおかしいと思いませんか奥さん!」
パソコンの画面を見せながら、捲し立てる。1年生の歴史総合も担当しているのだが、その試験の結果は散々なものだった。ちゃんと点数を取れているのはごく一部。ほとんどが半分にすら届いていないのだ。ちなみに、2、3年生の日本史は、平均点が60点を超えている。
「私は未婚だが、確かにそうだな」
「でしょう!? しかも、課題提出率も低い! 専用機持ちやごく一部しか提出していない! 私の母校、巌流高校というんですがね、在籍当時はここまでひどくはなかったんですよ不良高校とか言われてたのに!」
「そんな魔境から!?」
千冬は驚愕した。不良高校と揶揄されているのに、こんな、不良のイメージとはかけ離れた人物が排出されるとは・・・。と一瞬思ったが。
──考えてみれば、代表決定戦や無人機襲来など、血の気が多い部分は何度も見ているんだよな・・・。
と思い直した。確かに納得できると。
「不良高校以下のハイレベル校とか、どうなってんですかここは・・・」
「諦めてください、今年の1年は例年よりはるかに質が悪い」
「そんな馬鹿な・・・」
と悲嘆に暮れていると。
「あったかいもの、いかがですか?」
と珈琲缶を差し出す手が。振り返ってみると、そこには真耶がいた。
「ああ、山田先生。あったかいもの、どうも」
「ありがとう」
水鏡と千冬は、同じタイミングで珈琲缶を手に取り、プルタブを開け、飲み干した。
「あ゛ー、カフェインが駆け巡る・・・!」
少々、水鏡の目つきが悪くなった。
「何が起こった・・・?」
「気にしたら負けだと思いますよ・・・」
少し引いてしまった二人だった。
「しかし、タッグマッチも近いでしょう。申し込みは担任に提出、ということでしたが」
「そう言えばそうですね! 今までにない形式なので、ワクワクしてます」
「それについてだがな。専用機持ちはすでに提出している」
「・・・と、いうことは、だ」
「・・・嫌な予感が・・・」
「そう、多くの生徒はまだだ」
「やっぱり!」
水鏡は、頭を抱えてしまった。
真耶も、ついに顔を手で覆ってしまった。
「何か我々が行動を起こさねばならんということか・・・!」
「うう、私には難しそうです・・・」
「生徒も、教師を舐めるのが常態化しているからな・・・」
頭を捻らせる三人だが、答えは出なかった。
***
「ええ、はい。やっとこさ謹慎が解けました」
そう通話をするのは、黒駒だ。
「・・・ええ、ドイツの転校生はシュバルツェア・レーゲンを専用機と──、? ・・・そうでしたか、それならば。ですが、念のため、伏せカードを用意しておいた方がいいのでは? ・・・ええ、了解しました」
通話が終了した。
黒駒の部屋は、現在は独房も同然の場所となっている。Wi-Fiすら通じないため、インターネットの使用ができない。すなわち、SNSを見ることすらできず、できたとしても金がかなりかかってしまうのだ。
「さて、『束』。頼んだぞ・・・」
***
そして数日後、タッグマッチ当日。
快晴の空の下、西行寺妖夏&シャルロット・デュノアVS篠ノ之箒&ラウラ・ボーデウィッヒの試合が始まろうとしていた。
「こうして手合わせするのも、ずいぶん久しぶりかもしれないね、箒」
「そうだな。こうして、全霊でぶつかるのは、久しぶりだ。衰えていないだろうな、妖夏?」
「もちろんだよ。そっちこそ、私が打鉄に合わせなくてよかったの?」
「ほざくな。量産機がワンオフと相打つところまでは持っていけるというのは知っているだろう」
「そうだね。うん、よかった。これで、箒が負けた時の言い訳はできなくなった。『専用機じゃないから、訓練機だったから負けたんだ』っていうね」
「私がそんなタマだとでも? 随分と甘く見られた者だな、妖夏。なんなら今ここで、お前を手折ってもいいんだぞ?」
挑発には挑発を返す。たぶん古来より受け継がれているかもしれないであろう、きっと日本の伝統だ。なお、シャルとラウラは完全に蚊帳の外である。なぜなら、そもそもこうして妖夏と箒がペアを組まなかったのは全力で矛を交えるためであり、ペアは正直な話誰でもよかったからである。
「ねえ、ラウラ」
「なんだ、シャルロット」
「僕たちさ、出番ないよねこれ」
「言うな。それは私だってわかっている」
「あーあ、タッグマッチじゃなければよかったのに」
「まったく、同感だな」
そして、試合は始まった。
「シャルはラウラを頼んだ!」
「了解! せいぜい僕はお膳立てに徹させてもらうよ!」
「ラウラ、わかっているな?」
「当然だ。決戦の舞台は整えさせてもらおう」
それぞれ、互いの敵に食らいつく。
妖夏は、速攻を仕掛ける。楼観剣・八重は、打鉄の腕部を狙っていた。
「甘い!」
当然ながら、箒はブレードで受け止める。両手で握っているのもあってか、それとも剣道を長らく続けていたところからか、非常にブレは少ない。それどころか、適度に衝撃を逃すという芸当をやってのけている。
「フッ!」
箒は、楼観剣・八重を弾いた。だが、箒は妖夏と違い、刀を一振りしか持っていない。次の一手に移るには、ラグが生じてしまっている。一方の妖夏は、黒桜剣をもう片方の手に持っている。
次の攻撃に移ったのは、言うまでもなく妖夏だ。
「でぇら!」
「っ、!」
妖夏は、特殊と言えるかどうかはわからないが、訓練を重ねることで両利きとなっていた。そのため、左腕も本来の利き腕である右腕と同じように扱うことができるのだ。
「ぐ、っは!」
箒は、左からの攻撃を甘んじて受けた。SEが九割五分になる。ノックバックで、少し後方に飛ばされた。
「・・・ふぅ。妖夏、今のは受けよう。だが、次はこうはいかないぞ!」
「そんなのはとっくに、織り込み済みだ!」
そう、妖夏は弾幕を張れるのだ。幻想郷で大流行している、弾幕ごっこ。絶対に回避できない弾幕は認められないが、当たれば最悪死ぬ。そんな、危険な遊びである。妖夏も、当然ながらこの弾幕ごっこを経験している。彼女のスペルカードは、自前の剣術と弾幕を組み合わせてできたものなのだ。
「それじゃあいくよ! 恐怖・『殺伐屍山』!」
殺伐屍山とは、妖夏が編み出したスペルカードの一種である。きめ細やかな斬撃を、まるでイライラ棒のコースのように配置する。人が──というより、ISが一機入れるだけの余裕はあるが、逆にいえばその程度しかスペースが用意されていないのである。
「なんていやらしい・・・!」
箒は、その弾幕を切り払った。そうすれば、弾幕が消滅すると睨んだのだ。だが、現実はそうはいかない。そもそも、どうしてこんな名前なのか。その答えが、今明かされる。
ズドドザッ! と、弾幕が伸びたのである。簡単に言うと、球が針になったのだ。間一髪で肉体に当たることは回避できたものの、いくつかはISに刺さってしまっている。
「かなりいやらしい・・・!」
「天丼は嫌われるよ?」
「文字数が同じ、だと・・・!」
メタの領域に片足と突っ込みつつ、箒は体制を整えた。
「まさか、ここまでの強さとはな・・・」
「弾幕が使えるか、使えないか。これはとても大きな差だからね」
「は、確かにそうだな。だが・・・」
箒は、ブレードを改めて妖夏に向けた。
「それでも、私が勝つ!」
「その心意気! まさに箒!」
どちらも、好戦的な笑みを浮かべていた。そして、今まさに互いに飛びかかろうとしていたその時に。
「な、これは・・・!」
シャルの、驚愕に満ち満ちた叫びを耳にした。
一体何があったのか?
ラウラのIS、シュヴァルツェア・レーゲン。これに、条約で禁じられている(とは言うものの、軍事利用が条約で禁じられている割に思いっきりラウラがドイツ軍に所属しているのでもはや形骸化していると言って過言ではないだろう)ヴァルキリー・トレース・システムの発動によるものだ。
シャルとラウラは、意外にも接戦を見せていた。しかし、レーゲンのダメージが一定レベルを超過したことに加え、外部からの工作によって、発動してしまったというわけだ。
「シャル! 一体何があって私たちの勝負に水を刺したの?」
「ああそうだ、デュノア。せっかく、血湧き肉躍る戦いができると思っていたのに・・・!」
「どう聞いても
妖夏と箒は、シャルが指したものを見る。そこには、織斑千冬のブロンズ像のようなものが存在していた。
そしてそれは、当然ながらこのアリーナすべての衆目に晒されることとなる。
「なんじゃこりゃあ・・・!」
「なんで、あんなものが・・・!」
水鏡と千冬も、その一人である。
「オイオイオイオイちょっと待て、なんなんだあれは!? 織斑先生、こりゃあ訴えれば勝てる!」
「一体どう言う理屈だ水鏡先生。それはどうでもいいんだが、アレは、私の記憶が正しければ、条約で禁じられているはずのヴァルキリー・トレース・システム、略してVTシステム!」
「条約と言ったら、あの完全に形骸化しているであろうあれのことであってますかね?」
「そんなこと言ってはいけない。アレは、端的に言うと、モンド・グロッソ優勝者すなわちこの織斑千冬の動きを文字通り完全に再現してしまう代物だ・・・! アレは、私でなければできない動き、そんなことをボーデウィッヒがやれば・・・!」
「・・・! その先は、死、あるのみ・・・!」
流石に、水鏡もボケを自重した。ついでに、作者もボケを自重する。
「そうだ。だからこそ、早く止めなければならん!」
「わかった、だったら俺が行く」
「!?」
しかし、その衝撃発言は自重しなかった。水鏡は、観客席に躍り出て、大声で叫んだ。
「非戦闘要員は、とっとと避難せんか!」
「うわっキレてる」
「でも、確かにあれマジヤバぽよじゃん」
「じゃあ逃げよっか」
眼前で起きようとしている出来事に、生徒たちも危機感を覚えていた。水鏡の一言が最終的なとどめとなったのである。
こうして、アリーナにいるのは、専用機持ちの一年生と、一年一組教師陣のみとなった。
「で、あれがVTシステムか」
「はい、僕の見立てでは、ダメージとかそう言う要因で発動したものと考えてます」
「原因はどうでもいい。理由も、後でコアを調べて貰えばなんとかなるだろう。俺が言いたいのは、あれもISとカウントしてもいいのか、と言うことだ」
「そう考えてもいい・・・んじゃないでしょうか」
水鏡は、両手を打ち鳴らした。
「だったら、俺でも倒せるか」
「は?」
呆然とするシャルを尻目に、水鏡は不意打ちで蹴りを入れた。
「・・・?」
「どのみち、うちの、しかも俺の生徒に危害を加えているようなものだからな。ここで止めさせてもらおう!」
しかし、すぐに横槍が入る。
「ハァーハハハ! ここは俺が倒すんだよ!」
「またお前か織斑黒駒!」
「くらえ! 零落白夜!」
一撃必殺。そう形容するのが適切であろうその技は、しかし使い所を誤れば己を殺す剣となる。
「・・・」
VTシステム(以下、VTSと表記)は、織斑千冬を模倣している。ならば、当然零落白夜も模倣していると考えるのは自然だろう。その躱し方も、
近くにいた水鏡を、盾にした。
「は? おいゴラちょっと待て!」
そう文句を叫びつつも、当然のようにその一撃を白羽取した。彼はISではないので、零落白夜の効果は発動しない。黒駒は、SE(シールドエネルギー)を無駄にするだけに終わった。
「うおぼっ」
そのままVTSは水鏡を放り投げ、黒駒を下した。違反切符が切られたのは、言うまでもない。
「う、痛て・・・」
「大丈夫ですか!?」
そう言って駆け寄るのは、妖夏だ。傍には、箒もいる。
「西行寺か・・・。ここは俺が持つけん、デュノアらと避難しんさい・・・」
「でも、あの中にはラウラが・・・ッ!」
「わかっとる」
水鏡は、両手を左右に広げ、気合を込め始めた。
「何をするつもり・・・!」
すると、どういう理屈なのか、水鏡の周りに気流が発生した。
「ヘル! アンド! ヘブン!」
その言葉に合わせ、右手には赤いエネルギーが、左手には緑のエネルギーが発生する。読者諸君には、もうお分かりだろう。そう、水鏡はラウラをVTSから強引に引き摺り出そうと考えたのだ。
「ゲム・ギル・ガン・ゴー・グフォ・・・」
両手を組んで、破壊と想像のエネルギーを一つに収束させる。
「でらあああああッ!」
そのまま、VTSに向けて真っ直ぐに(地面と並行に)跳躍し、接触した。そこまでの首尾はよかったのだが・・・。
ガキン!
およそ、人間が出してはいけないような音を立てて、水鏡は弾かれた。
「・・・嘘ォん・・・。勇者王の技だぞ・・・」
思わず、ぼやかずにはいられなかった。軽口を叩いたはいいが、水鏡は、そのエネルギーを使い果たしてしまった。かの勇者王ガオガイガーがヘル・アンド・ヘブンをウィータの呪文なしに使えていたのは、獅子王凱がGGGのサイボーグであったことも要因の一つと考えられよう。しかし、水鏡京秋は生身の人間なのだ。サイボーグでも、ましてやエボリュウダーでもない。一発で決めきれなければ、戦闘不能になるのも当然だ。
だが、ただでは転ばないのが水鏡である。
突如坐禅を組み、「スゥー! ハァー!」と深呼吸を始めた。
「今度は何・・・?」
「ま、まさかあれは・・・!」
「ああ、間違いない・・・!」
「え、何? 二人とも、知ってるの?」
「・・・?」
VTSも、思わず動きを止めてしまった。
妖夏と箒は、その呼吸法を知っていた。大きな音を立てて呼吸し、文字通り体を「整える」。ニンジャも使ったというその呼吸法は・・・
『チャドー呼吸!』
水鏡は、「整った」。
「チャドー呼吸・・・? ・・・ジャパニーズ・忍術のことかな?」
「少し違うな。チャドー呼吸とは、その名の通り元は茶道において使われた呼吸だ。ところが、その呼吸法が、戦場に立って戦う者にとって最適な方法だったことが判明してな。それ以降、達人はこの呼吸法を修め、肉体をベストな状態に自在に持っていけるようになったそうだ。・・・民明書房刊、『よくわかる茶道と武道』より」
「・・・それ、出典として大丈夫? ・・・というか、そうだ。聞いたことがある、日本には『本当は嘘なのになぜかものすごい説得力を持つ大ホラ吹きの出版社』があるって! 名前までは知らなかったけど、今わかった!」
箒の解説にマジレスと取られかねないツッコミをするシャル。しかし、もはや事態は、黙って指を咥えてみていられるようなものではなくなった。
チャドー呼吸でコンディションを整えたとはいえ、彼の肉体はヘル・アンド・ヘブンの影響で限界寸前だ。
「ゼェ、どうした、
啖呵を切る水鏡だが、その息は絶え絶えで、はっきりいえば頼りない、よくいえばゾンビの如き執念を見せていた。
それを見た妖夏は。
「・・・行こう、二人とも」
「・・・!」
楼観剣・八重を構えた。
それに呼応して、箒もブレードを構える。シャルも、同様にグレースケールを構え、鋒をVTSに向けた。
「ようし、ジェットストリームアタックで行くよ!」
「応!」
「え、なにそれ初耳」
三人は、ジェットストリームアタックでVTSに向かった。彼女らは、水鏡の背後にいたため、VTSの視点では突如三人の女が一直線に背後から現れたことになる。
「な、お前たち! なぜ逃げなかった・・・!」
「ボロボロになってるのを見て、動かずにいられますか!?」
「ここは私たちに任せ、撤退を!」
「しかし・・・。子供にまさかこんな──ほぼ確実に大人の謀略が絡んでいるであろう事案を解決させるわけにはいかん。俺はそう思っとる」
要するに水鏡は、学生に大人の尻拭いはさせられないと考えているのである。
「ですが、そんな体でなにができると言うのです! ・・・しかし、このままではテコでも動きそうにない。よし、シャル。水鏡先生を連行しろ!」
「了解!」
箒の言葉に、シャルは一切の躊躇いなく頷いた。そして、水鏡をアームで掴み、そのままアリーナを離脱した。
「オイ待て俺はまだ戦える!」と言うのが、水鏡の遺言のようなものだった。
今回の指示は、シャルにとっても都合の良いものだった。いや、それでは少々語弊があるが、作者である私にはこの状況を言い表す語彙を持ち合わせていないため、この表現を使わせてもらった。
シャルは、薄々感じていた。自分が、あの二人──妖夏と箒の二人との間に、大きな実力の差が存在することを。そして、自分があの場にいても、足手纏いにしかならないと言うことを。
──悔しいけど、あの二人は強い。ボクなんかより、何倍も。
──だったら、もうボクの出る幕はない。・・・残念だけどね。
シャルは、そのまま医務室に降り立ち、水鏡を搬入した。
「・・・デュノア。今すぐ、俺をアリーナに戻せ」
開口一番、水鏡はそう言った。
「・・・それは、できません」
「なぜだ? なぜ、大人の業をお前たちが拭わねばならん。フランスではどうか知らんが、ここ日本では成人年齢は十八歳。お前たちはまだ子供だ、業に関わる必要はない! それくらいなら、俺たち教師陣が、体を張るべきじゃあないのか!」
それは、水鏡の偽らざる本音である。もし自分が借金を背負ったとしても、死ぬまでに確実に完済する。連帯保証人にはならない。そう言うタイプの人間なのである。
しかし、その考えに、シャルは異を唱える。
「確かに、そうかもしれない。けど、だからってそんなボロボロになってまでやるようなことじゃないはずです! 他の、たとえば織斑先生とか、山田先生に頼れば・・・!」
「それはそうだろう。だが、あの二人は、ISを常備しとらんじゃろう。どのみち、あの二人がISを纏うにしたって、時間が必要になってくる。無人機の時は、あいつらに尻拭いさせてしまった。だから、今回汚名返上を試みたかったんだよ・・・」
言い終えると、水鏡は気絶してしまった。
──やっぱり、さっきの技の影響・・・?
シャルは日本のアニメに疎いのでよくわかっていないが、ヘル・アンド・ヘブンをウィータの呪文なしで、かつ緑の星のカイン、ラティオ、およびエボリュダーでもない存在が使用するとなれば、相当な負荷が肉体にかかる。まして、生身だ。下手を打てば、死んでいてもおかしくはなかったのである。
──西行寺さん、篠ノ之さん・・・!
シャルは、二人の勝利を願っていた。
「はああ!」
「くらえ!」
一方その頃、妖夏と箒のコンビは、類まれなるコンビネーションで、VTSを圧倒していた。織斑千冬と交流のあった──片方は血縁関係にある──二人は、何度も彼女の動きを間近で目にしている。だからこそできる芸当といえよう。
「やっぱり、私が向こうに行く前の千冬姉の動きだから!」
「先生の言っていたとおり、今の私たちには見切れているぞ!」
妖夏は、境界の向こう側で、人間離れした特訓を行なって、強くなった。箒も、弛まぬ努力によって、メキメキと実力を伸ばしていった。一方のVTSは、所詮過去のデータ。かつて最強と謳われようと、人は日々変わっていく。確かにそれは、織斑千冬の全盛期の再現かもしれない。しかし、それが人類の最大値ではないのだ。
それが、VTSの敗因なのである。
「一気に決めさせてもらうよ! スペルカード発動! 必殺『零落白夜』!」
「私の存在を忘れてくれるなよ? 奥義・
箒が発動したのは、一秒あたり六〇回切りつけることで擬似的に相手の動きを止める技だ。これにより、VTSは箒を盾にすることができなくなった。
そして、そこに放たれる必殺の一撃! VTSはその装甲を溶解させ、一糸纏わぬ姿となったラウラ・ボーデウィッヒを吐き出し、沈黙した。ラウラは、気絶していた。
このいざこざにより、タッグマッチは中止。
結局、タッグマッチの結果も有耶無耶になってしまった。
その後のことについて、軽く説明しておこう。
VTSがシュヴァルツェア・レーゲンに仕込まれていたことについて、ドイツ政府は責任の所在を明らかにしていない。当のラウラは、そのままIS学園に残留することが決まっていたが。
黒駒は、またしても懲罰房行きとなった。妖夏、箒、シャルは、この事態の収束に貢献したとして、反省文十枚で済まされた。
千冬と真耶は、即座にISを纏って動けなかったことを、水鏡に詫びた。当の本人は、気にしていない様子だった。
また、このタッグマッチの最中、不審な人影が目撃された。この人物の詳細については、目下調査中である。
いかがでしたか?
水鏡としては、こういう事態にはなるたけ生徒をかかわらせたくないんですよね。だって、これからの世界を担う人材に死なれちゃ困るから。あとは、単純に、自分が男である以上、自分が矢面に立たねばと思っている部分もあります。
しかし、あまりVTS戦を詳しく描写できていない・・・。これに限らず、どうしても戦闘描写は苦手なんです。できる限り擬音を使わないという縛りプレーをやっているのも、その一因かもしれませんが。
さて次回は、臨海学校です。こっちは、風呂入ってる時かチャリに乗ってる時だったかに思い付いたアイディアをそのまま使って書くことにします。
感想、評価をお願いします。
第4話「クラス対抗戦+異常発生」は、どうでしたか?
-
よかった
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まあまあよかった
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普通だった
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まあまあよくなかった
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よくなかった
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駄文・要改善