IS-irregular-   作:背筋悪太郎

14 / 14
お待たせしました、第8話です。
秘封倶楽部と賢者たち、それと過去の幻想郷について、かなりの独自解釈が含まれます。苦手な方は、ご注意ください。


第8話 IS学園一年生、海へ

「ねえ、どうしようかしら」

「あらま、どうしたのよ」

 ここは、後戸の世。摩多羅隠岐奈が、童子と共に住まう場所だ。

「それがね、フランっているじゃない」

「いるわね。あの可愛い子」

「ぶっちゃけ、理解不能な感じはするけれどね」

 もっとも、現在は、二大賢者と称される摩多羅隠岐奈、八雲紫は幻想郷にはいない。幻想郷に迫り来る、並行世界からの危機に立ち向かうべく、その世界に単身殴り込んだのである。その間、当然ながら代理が必要となる。そこで、並行世界より秘封倶楽部を誘拐し、賢者代理に仕立て上げたのである。

「で、フランちゃんがどうしたの?」

「幻想郷から姿を消したみたいなの」

「ぱーどぅん?」

 摩多羅隠岐奈の代理である宇佐見蓮子は、そう訊き返した。曲がりなりにも、幻想郷でも指折りの文字通りの厄災。そんなものが、幻想郷から姿を消した──? 蓮子は、信じたくなかった。大人しくしているのなら、まだいい。しかし、破壊衝動に飲み込まれたら・・・?

「がくがくぶるぶる」

「現実逃避したくなる気持ちもわかるけれど、落ち着きなさい。今、藍と橙に原因を調査させてる。発見次第、連れ戻す予定よ」

「・・・私たちも、出たほうがいいのかな?」

「どうなのかしら・・・。ねえ、里乃ちゃん、舞ちゃん。蓮子って、ここを離れても大丈夫なの?」

 八雲紫の代理であるマエリベリー・ハーン、通称メリーは、蓮子の背後に控える二童子に尋ねた。

「そうですねー。ぶっちゃけ、お師匠様の何倍もいい人なので、いなくなってほしくはないですけど・・・」

「数日程度なら、僕達でもできる。バカンスとか短期出張なら、安心してやってくれていいと思います」

「なるほどね・・・。マヨヒガは別に開けていても構わないから・・・。よし、情報が来次第、蓮子を借りていくわよ」

『了解です』

「私の意思が介在しないまま物事が決まっていく・・・。トホホのホ」

 蓮子は、密かに嘆いた。

 

 

 

「と言うわけで、臨海学校が試験明けに行われる」

「赤点を取った場合は、まあ仕方がない。ここに残って、三日間ずっと課題をやる羽目になるぞ。・・・とはいえ、その監督をするのは結局我々教師陣なので、仕事を増やさないためにも赤点は取ってほしくないと言うのが正直なところだが」

 IS学園一年一組では、臨海学校のお知らせがなされていた。

 水鏡の弁は、おそらく世の教員の大半が考えていることであろう。執筆時点では学生の身分である筆者だが、あまり負担になるようなことはしたくないと思うばかりである。

 ではここで、IS学園の臨海学校について説明しておこう。

 この行事は、一年世にとって目玉行事の一つである。一日目は、宿付近の海で自由行動。多くの生徒は、海水浴に繰り出すのが恒例となっている。二日目は、専用機持ちとそれ以外に分かれての実習となる。三日目も同様だ。

 なぜこれが目玉行事と言われるのか。それは、普段とは違う環境で学ぶことができるからである。・・・決して、海水浴が楽しみだからとか、そういうのではないだろう。きっと。たぶん。

 さて、臨海学校までの間、学生陣には、特段変わったことはなかったので割愛させてもらおう。

 水鏡は、久しぶりの休日、レゾナンスというデパートにいた。趣味の作品の新作が出るため、それを購入するのが一つ。もう一つは、千冬に、臨海学校の水着を見繕えと命じられたからである。彼自身は、最悪褌でもいいかと考えているが、オシャレに敏感な者にとってはそうはいかないのだ。

「そうは言ってもな・・・。俺におしゃれはわからんぞ」

「それは、私も同じだ。だが、こういうことを不思議と話しやすいのが水鏡先生だ」

「そんなもんかね。結局、山田先生に仕事を押し付けるような格好になったし、本当に良かったのか・・・」

「ならば、帰ってから仕事を肩代わりすればよかろう。・・・そうだ、仕事といえば。委員会や部活は、どうなんです?」

 千冬が、話を振ってみた。水鏡は、図書医院と美術部を担当している。

「そうだな・・・。美術部の方は、結構面白そうな作品が出てる気がする。学園祭に向けて制作しているはずだから、人に見せて恥ずかしくないものを作りなさいとは言ってあるので、変なものは作られないでしょうけど」

「変なもの・・・?」

「端的にいえば、R指定や発禁処分を食らいかねないもの」

「ああ・・・」

「それから、図書委員会については、まーノーコメントで」

「お、おう・・・」

 事実、IS学園の生徒の多くは、あまり読書をしない。本を読まなければ、受験に対応できるかどうか怪しくなってくる。その上、IS学園のテキストは、専門用語がたくさん載っており、内容がとても難しい。文章を読むことに慣れていなければ、おそらくのび太よりも早く眠りにつけるだろう。そうなれば、どんどん成績を落としていくだけだが。

「織斑先生こそ、仕事はどうなんです? 順調・・・とは、まあ言い難いですが」

「ええ・・・。想定外のことが二度も起こりましたからな。二度あることは三度ある、とはよくいったものだ。警戒するに越したことはないだろう」

「違いない」

 機密情報の一切ない会話をしていると、水着売り場に到着した。

「ぶっちゃけ、こだわる必要はないと思うんだけどな・・・」

「まあ、正直に言うと、細かく体型が変わって、去年までは着ることのできていたものが着られないなんてことはよくあるのでな。そう言うわけで、新調しに来たというわけだ」

「そういうもんなのか・・・。ま、古い方はどっかに売るなりしたほうがいいとは思うけれども、その辺は何か考えでも?」

「うっ・・・」

 露骨に、千冬は顔を顰めた。まるで、不都合な事実をひた隠しにしようとしているかのようだ。

「・・・もしや、圧倒的に片付けられないタイプだったりする?」

「グフっ」

 簡単な鎌をかけてみたところ、図星をつけたようである。

「いいいいや、そそそそんなことはななないぞ? ただ、少しだけ家事が苦手なだけだ」

 そう言うと、千冬は逃げるように水着を見にいった。

「・・・取り残されてしまった。暇だ」

 水鏡は、つい先日の出来事に思いを馳せることにした。

 

 VTS事件の直後、VTSから救出されたラウラは、水鏡の隣のベッドに運び込まれた。幸い、目立った外傷こそなかったものの、大事をとって安静にするようにしていたのだ。

「ボーデウィッヒ、大丈夫か?」

 ラウラが目を覚ました直後に水鏡がかけた言葉がこれだ。

「え、ええ、肉体は。ですが、精神は・・・」

 ラウラは、憔悴した様子だった。

「あのシステムは、急に私を蝕んできたのです。シャルロットと戦っている最中、本当に突然。そこでパニックになったのが運の尽き、失態を演じてしまいました・・・。・・・先生、貴方は私を、ヘル・アンド・ヘブンで助けようとしていたらしいですね」

「ああ。だがまあ、失敗してしまった。緑の星の住人だったらまだ良かったのかもしれないけどな」

「ですが! 私が強ければ、こうはならなかったはず。今まで私は、自分は強いと強いとなんとなく思っていた、だが実際にはこの始末だ! 何と未熟だったんだ、彼らの足元にも及ばない・・・!」

「ボーデウィッヒ・・・。そう自分を責めるな」

 水鏡は、ラウラの目をしっかりと見た。

「人間ってのは、どこまで行っても未熟なものだろう。この世界に神様なんてものがいるのかはわかんないけど──八百万の神じゃなくて、オリュンポス十二神とか創世神とかそういうのがいるかはわかんないけど、もしいるんだったら、俺らは生きている限り一生そこに辿り着けない。近づくことはできても、気がついたら遠ざかってる。その神様──たとえばゼウスなんて、結構やらかしてるみたいだからな。結構な浮気性だった、なんて説もあるくらいには。主神でさえそうなのに、人間が完璧になれるはずはないんだ」

「そういうもの、ですか」

「そういうものだ。でもまあ、だからこそ、人間は足掻く。強くあろうとする。何かを越えようとする。エベレストも、すでに踏破されたしな。自分が未熟だと思うのなら、強くあろうとすればいい。トートロジー、詭弁に過ぎないかもしれないけれど、な」

「なるほど・・・」

 ラウラは、天を仰いだ。

「ならば、私があのように・・・主人公たちのようにあろうというのは、間違っていなかった、ということですね」

「そういうことだ。目標というものは、あればあるほどいい」

 以上が、VTS事件のエピローグといえる出来事である。

 

「・・・だめだ、回想しても暇だ。織斑先生、早く選んでくれ・・・!」

 水鏡は、結局暇なままだった。

 するとそこに、数人の少女がやってきた。

「水鏡先生じゃないですか」

「む、西行寺。それに、篠ノノノノノノ之に凰、デュノアにボーデウィッヒ、そしてオルコットじゃないか」

「先生、ノが多いです。私の名前は篠ノ之です」

 箒が指摘する。

「ああすまない、噛んだ」

「違う、わざとでしょう」

「かみまみた」

「わざとじゃない!?」

「完成した」

「何がです!?」

「期末テストの問題」

『ぐえー!』

 やはり彼女らも学生である。真面目に取り組みこそすれど、本音はやはりバックれたいというものだろう。かくいう筆者も、テストや模試は「やらなきゃならないからやってるだけで、本当はめちゃくちゃバックれたい」と思っている。

 まあそんなことはどうでも良く(ついでに、有名なやり取りのパロディも隅に置いて)、水鏡は会話に入る。

「ところで、西行寺たちもやっぱり水着か」

「はい。そういう水鏡先生は・・・、教官の?」

「そう。織斑先生の付き添いみたいな感じなんだが、正直にいうと暇で暇でしょうがない。なんでこんなに長く買い物に集中出来るのかが謎だ。水着ならなんだっていいじゃないかと思うんだが・・・」

「先生。レディーは、色々と身だしなみに気を使うものなのですわ。どれがもっとも自分を引き立たせるか、それを考えて織斑先生は長い時間を過ごされているのでしょう」

「そんなもんかね」

「男性でも、オシャレに気を遣われる方はおられるかと思いますが・・・」

「俺は結構無頓着なのかもしれんな。・・・そうだ」

「どうなさいましたの?」

 水鏡は、あることを思いついた。それは、せっかくなので彼女らに自分に似合う服をコーディネートしてもらう(もちろん、その代金は自分で払う)、というものだった。

「どうだ? いや、嫌ならいいし、むしろ断ってくれていい。今のご時世、色々厳しいからな・・・」

 というのも、本作における時勢は、男に対する風当たりが異常に強い。一部地域では、声をかけただけでセクハラなどと言われてしまうのだ。

 だが、彼女らは、

「え!? いいんですの!?」

「よーし、やったろーじゃないの!」

「男版千冬さんって感じだから、そんな感じにやればいいかも?」

「教官に・・・? うむむ、言われて見れば目元など似ている気がしないでもないが・・・」

「男物の服なら、ボクに任せて」

 と、肯定的な反応を見せた。

「本当にいいのかい!? まあ、織斑先生を待とうか」

 千冬が水着売り場から戻ってきたのは、それから五分後のことだった。

「お前たち、なぜここに?」

「千冬さん。・・・学外では、いいですよね?」

「まあ、そうだな」

「よかった。我々は、ちょっと水着を買いに来たのです」

「ほう」

「で、ついでに水鏡先生のコーディネートもやってみようかと」

「ほう?」

 千冬は、目が点になった。生徒にコーディネートしてもらう教師というのは、いささか情けないのではないかと考えたのだ。

「いや、私はちょっとファッションには疎く、どんな格好をすれば良いかわからんのです。なので、若い彼女らに選んでもらい、感性を養おうという狙いがあるというわけです」

「なるほど、それは面白い。では私も・・・」

 千冬も、その計画に乗ろうとするが。

「いいえダメです千冬さん。あなたのファッションセンスが壊滅的なことは、わかっているんですから。そうだろう、妖夏」

「うん。千冬ね・・・さんは、昔っから家事もダメ、基本脳筋、オマケに男の影もなしで本当に不安で不安でしょうがなかったんだよ・・・」

「わかるぞ妖夏、姉さんもそうだ。家事は壊滅、研究バカ、現在所在は行方不明とスリーアウトだ。とんでもない姉を持つと、皺寄せを食らうのは妹や弟なんだ・・・!」

 箒と妖夏は、露骨なまでに千冬をディスった。妖夏=一夏であることを知っているのは、この中では箒、鈴音、そして千冬のみである。そのためか、千冬は二重にダメージを受けた。一つ目は、箒の同級生の女子にディスられたこと。二つ目は、その同級生の女子が一夏の転生(に近い現象が起こった)姿であること。・・・ダメージを受けない人間は、果たしているだろうか、いや、いない(反語)。

 千冬は、しゃがんで、指で地面に渦を描き始めた。キャラ崩壊も甚だしいその光景に、箒、妖夏、鈴音以外の面子は衝撃を受けた。

「ええ、と・・・。あれは、どうすりゃあええんじゃ・・・」

「放っておけば治ります。すぐに治したいのなら、斜め45°で叩けばいい」

「アンタ本当に千冬さんに容赦がないわね・・・。ま、アタシだったら回し蹴りで叩き起こすけど」

「暴力的だなー二人とも。私だったら、ASMRみたいに呪詛を吐くよ」

『余計に沈むだろうが!(でしょうが!)』

 そのようなやり取りののち、水鏡は本当に私服を見繕ってもらった。

 男版千冬という見た目なので、そのまま千冬に流用できるファッションである。水鏡がつけた条件は、

①ヘソ出しはしない

②絶対に似合うものにする

③夏にぴったりなものを

 というものである。というか、今の時期は、冬物は売っていない。

 紆余曲折の末(作者は、女子高生の服選びに詳しくないのである・・・)、水鏡のファッションは、こうなった。申し訳ないことに、作者はファッションにはとんと疎い(なら書くなよという話だが・・・)ので、端的にこう言わせてもらう。FGO のエミヤの夏霊基のような姿である、と。差別化として、白いインナーはランニングではなく、長袖となっているのが特徴だ。

 さて、そのお支払いに向かおうかというとき、事件は起こった。

「ええと、しめて三万円、か・・・。服というのはそこそこするもんなんだな・・・」

「確かに。三万円もあれば、DVDがいくつか購入できる」

「まあ、とりあえずは会計だ。俺が払うのは当然として、この後は」

「じゃあ、私のも払いなさいね」

「・・・は?」

 突如として、毳毳しい化粧をした、三十路を突破したであろうオバサン・・・BBAに会計を押し付けられたのである。

「・・・理由を聞いても?」

「あなたが男で、私は女。当然でしょう?」

 阿呆の理屈である。確かに、この世界において女性が優位に立っているのは、ひとえに「ISを使えるのが女性だけ」であるからだ。しかし、だからといって全ての女性がISを使えるわけではないのだ。大谷翔平が大リーグで活躍したからといって、全ての日本人野球選手が大リーグで活躍できるわけではないのと同じ理屈である。しかし、現在の日本では、なぜか男女問わず、それを理解できていない者が一定数いるのだ。

 というわけで、水鏡は舌戦を開始する事にした。と言っても、三国志演義における赤壁の戦い前に孔明が孫権軍を説き伏せたような、大層な物ではない。簡単に言えば、「あなた、この程度のこともわからないの?」を突きつけるのだ。

「とはいうが、ならばあなたはどうなんです? あなた自身は、ISを使えるとでも?」

「なっ・・・! そんなこと、どうでも」

「よくはないでしょうが。女性がISを使えるから優遇されているんじゃない、ISを女性が使うから優遇されているんだということがなぜわからない? そんな、吹けば飛ぶような前提で、よくもまあ威張れるものだ。ちなみに、俺自身はこういう者なんですがね」

 そう言って、水鏡は、名刺を取り出す。そこには、「IS学園教員 水鏡京秋」と書かれている。

「ううう、嘘よ! 男がIS学園教師だなんて・・・!」

「だとさ、織斑先生」

 水鏡は、千冬を呼んだ。

「ああ、そうだな。確かに彼は、私の同僚だ。適性検査や訓練くらいでしか使っているのを見たことはないが。・・・使う必要もないほど強いのだが」

 後半は、少々引き気味にそういった。

 そして、その一言がトドメとなり、BBAは逃げるように去っていった。その後どうなったかは、誰も知らない。

 それから、数日後。

 待ちに待った臨海学校である!(なお、ここまでに約六千字ほど使っている。当然、まだまだ続く!)

 

***

 

 バスに揺られて数キロメートル。黒駒は、大人の事情と折半する形で、別の車で送られる事になっている。拘束衣を装着し、プロの護送集団(要するに警察である)に連行されている。教員が担当していないのは、「思い出づくりができるように」との配慮からである。

 花月荘に到着し、女将に挨拶を済ませ、各自自由行動に移った。

「ありがたいものだ、こうして我々も海を楽しめるというのは」

「日頃忙しいですからね」

「日光が体に沁みます〜」

 千冬、水鏡、真耶は、日光浴に興じていた。連日の疲れからか、どうにも動く気にはなれないのだ。翌日に控えている実習の用意はすでに済ませてあるので、その心配はしなくても良い。ただ、本当に疲れているのだ。

 砂浜の方を見ると、専用機持ち+箒がきゃっきゃうふふとビーチバレーで遊んでいた。

「若いっていいなあ・・・」

 水鏡は、まるで年寄りかのようなことを呟いた。

「そうだ、織斑先生も行ってきてはどうです? 確か、篠ノ之とは勝手知ったる仲なんでしょう? 羽を伸ばすというのは、いいことです」

「そうだな、体に鞭打つことにはなるが、そうさせてもらおう」

 千冬は、若者のビーチバレーに混ざった。真耶も、ついていく。少し様子を見ていると、千冬が大人気ないプレーをしているのが見えた。水鏡は、苦笑いした。

「それはそうと、このへんはいい魚が取れると聞いたことがある。・・・調理してもらえるよの?」

 そう言って、水鏡は海に飛び込んだ。適当に育った魚を取り、夕食に出してもらおうという魂胆である。もし夕食にならなかったなら、事前に持ってきておいた容器に詰めて備え付けの冷蔵庫に入れ、二日目の昼に焼いて食べる計画を立てている。

 ちなみに彼は、調理師免許をとっている。そのため、立とうと思えば厨房に立てるのである。

 今回、彼は丸腰である。そのため、獲った魚を容器に入れるまでは、逃げられる可能性が大幅に上がってしまう。だが、そんなことは、彼の超人的な能力でなんとかなるだろう。ちなみに、服装は、普通の海パンである。そんな装備で大丈夫か? と思われる方もいるだろうが、大丈夫だ、問題ない。

「・・・なんッじゃあッこれはッ!」

 水中で彼が目にしたのは、巨大な鯨だった。全長十メートルはありそうな鯨である。

「こりゃあ、獲り甲斐があるというものじゃあ・・・!」

 水鏡は、目を輝かせた。そして、挨拶がわりに、衝撃波を放った。

「!」

 水中なのでいくらか威力は減衰しているものの、鯨がこちらに気づくには十分だ。今ここに、鯨VS教師の一対一という、訳のわからない対戦が始まった。水鏡の勝利条件は、「鯨の息の根を止めること」。鯨の勝利条件は、「水鏡から逃げ切ること」である。

 水鏡は、衝撃波を推進力にすることを選んだ。下を突き出し、鯨に突撃する。そう、桃白白の舌攻撃である。

「へぎゃっ」

 しかし、鯨は皮膚が厚い。舌攻撃は、威力の九割近くを無効化されてしまった。

 そこで次に採ったのは、超振動波だ。元々は、古代怪獣ゴモラが地底を掘り進む際に使用していた技である。角から発射すべきそれを、水鏡は指から出すという形で体得している。

 右の人差し指を鯨に突き立て、そのまま振動波を発生させる。

「!!!」

 鯨は、悶えた。それはもう、盛大に、高波が発生してしまうかというほどであった。

「ウオオ、当たりか! それじゃあそろそろトドメじゃあ!」

 水鏡は、水着のポケットから、数本の針を取り出した。急所に当て、確実に息の根を止めるつもりだ。

「しかし、鯨の皮膚は厚い。まともにやり()うても、まず確実に勝ちの目はない。しかし!」

 水鏡が針を投擲した先には、都合のいいことに、銛が落ちていた。針には細い糸を巻き付けてあったので、さっと回収する。

「そしてくらえ、鯨! 必殺、お前が今日の夕食じゃ突きィ!」

 銛の一撃で、鯨は大きく悶え、そして息の根を止めた。ナムサン、と手を合わせ、水鏡は鯨をリフティングで陸にあげた。女将に「鯨を獲ってきたのだが、果たして大丈夫だろうか」ということを確認したところ、大層喜ばれた。今日の夕食は、鯨である(なお、実際の飲食店や旅館でこんなことは、絶対にしてはいけない)。といっても、十メートル級の鯨は、一晩では捌ききれない。余った分は冷凍して、水鏡が食べることになった。

 鯨の解体も、水鏡である。真空波で、スムースかつスマートに、スパスパと解体していった。

 鯨を初めて食べるという学生は多く(作者も、実は食べたことがない。昔は学校給食などで食べる機会があったそうだが、現在は少々機会に乏しい。日本の食文化、一度は体験してみたいものである)、よく味わって食べていた。

 ちなみに、この間、黒駒は、プロの警官に五人体制で監視されており、()()()()()()()()()()()()()()不審な行為はできなかったことを明記しておく。

 その後、彼ら彼女らは床に就く。その間に一悶着あったのだが、それは原作とほぼ変わらない内容なので割愛させていただく。相違点があるとすれば、箒が束から「誕生日も近いし、プレゼントをあげよう。そうだね、ちーちゃんにも話は通しといたから、ちーちゃんに従ってね」と連絡を受けたくらいである。

 翌朝。

 妖夏と箒は、早朝散歩に出掛けていた。すると、砂浜に、不審なうさ耳を発見した。

「これって・・・」

「姉さん、なのか・・・?」

 篠ノ之束。ISを作り上げた天才である。現在は行方をくらませており、FBIやCICですら彼女を発見することは不可能といわれている。

 恐る恐る、不審なうさ耳を引っ張ってみる。どうやら、カチューシャになっているらしかった。

 しかし、何も起こらなかった。

「・・・」

「・・・」

 二人は、無言で宿に帰る事にした。

 箒と妖夏は、同じ宿室である。そこには、朝起きた時には無かった手紙があった。

 警戒しつつ開封し、中を読む。文面は、以下の通りである。

『はろはろ、束さんだよ〜

いつもなら、色々世間話でも・・・ってとこなんだけど、ちょっと今はそれどころじゃないんだよね

単刀直入に言うと、幻想郷から特級にやべー娘がそっち、つまり箒ちゃんとようちゃんの世界に行っちゃったんだ

ゆかりんの代理のメーちゃんとおきちゃんの代理のれんちゃんが探してるんだけど、そこに束さんも協力する事になったんだ

だから、もしかしたら会えるかもしれないね

ちーちゃんには、警戒するように改めて言っといて

それじゃね

 

追伸

直接言えなくてごめんね

箒ちゃん、誕生日おめでとう』

「姉さん・・・!」

「よかったね、箒。・・・でも、特級にやべー娘って、もしかして・・・!」

 妖夏の顔が一瞬にして青褪める。"特級にやべー娘"がもしこの世界にいて、さらに暴れ回っていたとしたら・・・? 世界は、第三次世界大戦どころではない騒ぎになってしまうだろう。破壊は、現象である。現象は、対象を選ばない。すなわち、見境がないのである。西側だろうが東側だろうが、資本主義だろうが社会主義だろうが、一般人だろうが政治家だろうが、警官だろうがヤクザだろうが、関係ない。その圧倒的な力を以て、破壊するのみである。

 気づけば妖夏は、震度7の地震でも起こっているのかというくらい揺れていた。「ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ」と声に出しながら、揺れていた。

「どうしたんだ、妖夏? そんなにとんでもない存在なのか?」

 箒が訊くと、

「そうか、箒はフランちゃんの恐ろしさを知らないんだ。ようし、この機会に教えてあげよう」

 と言って、名前、年齢、能力、性格を話した。本作においては、フランドール・スカーレット(495)は、無邪気な破壊衝動を持つ人物と解釈している。平時はなんともないが、ふとした瞬間にタガが外れれば、最悪の場合世界が終わる。そのようなことを、妖夏は箒に伝えたのである。

 その結果。

『ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ』

 たけし(青鬼)が増えた。

「な、なあ妖夏? 私は向こうのことはよく知らないんだが、なんだ? 聞くからに恐ろしい者どもが集う、人外魔境だとでも言うのか?」

「う、うん、そうだね。実を言うと、フランちゃんより強い人たちも何人か・・・何柱か、かな? いるし」

「なんだと!? というか、柱、って・・・」

「そう。幻想郷には、妖怪、人間だけじゃなくて、神様もいるんだ」

「なんと・・・」

 箒は、開いた口が塞がらない。当然と言えば当然だろう。日頃身近に感じることのない神という存在が、まさか実在しているとは・・・。しかも、妖怪もそこにいるというのだから、興味深い。

「一度、その神様というものに会ってみたいな」

「うーん・・・、まあ箒なら大丈夫かな」

 妖夏は、守屋神社の二柱やヘンなTシャツヤロー、秘神、賢者、閻魔大王などを思い浮かべた。基本的に、神やそれに類する者というのは、自信を敬ったり、キチンと礼節をわきまえたりしている人間には優しい。逆に言えば、平気で唾を吐きかける者、一切の礼儀を持たぬ者には厳しいということでもある。まあ、これは当然のことなので、幻想郷では誰もこれを問題にしていない。問題にする者がいれば、それは正真正銘のモグリもしくは命知らずだろう。あとは、月の住人か。

 ここで、具体的なエピソードを紹介してみよう。一応断っておくと、これは本作オリジナルのエピソードである。

 かつてレミリア・スカーレット率いる紅魔館軍団は、幻想郷に来た当初、そこそこ増長していた。外の世界では、力が弱まっている。だが、幻想郷に行けば、強靭! 無敵! 最強! の吸血鬼に返り咲けると、本気で信じていたのだ。

 当時の幻想郷について簡単に説明しておくと、博麗の巫女が霊夢でなく、まだ魔理沙も生まれておらず、そして守屋神社が妖怪の山にいなかった頃の話である。

 レミリアは、こう考えた。

「私が、幻想郷の支配者になってやろう」

 と。

 はっきり言おう。

 アホだ。カリスマとはなんだったのか。

 確かに、当時の幻想郷には守屋神社の勢力は存在しなかった。

 だからなんだ?

 八坂神奈子、洩矢諏訪子が居なくとも、賢者たる八雲紫、秘神・摩多羅隠岐奈、地獄の女神へカーティア、怪力乱神星熊勇儀などの名だたるメンツは存在しているのである。さらに言えば、幻想郷はすでに月面戦争を経験している。そのため、幻想郷の妖怪の戦闘力は、かなり高いのだ。

 その上、当時の博麗の巫女、博麗鶴夢(ずーむ)は、霊夢と違って銭ゲバではなく、いたずらならゲンコツで済ますが、死人でも出そうものなら地獄の果てまで追い回すタイプの人間である。

 レミリアは、幻想郷を支配すべく、自ら行動を起こした。

 手始めに、幻想郷中から人間をいくらか誘拐し、その血を一人の例外もなく吸い尽くした。

 そして、幻想郷全域に、紅霧を発生させた。

 日中でも活動できるようになったレミリアは、妖怪の山の天狗たちをわずか三日で制圧。ただし、これは、天狗の棟梁たる天魔が妖怪の山を所用で離れていたからこその結果である。

 そんなことはつゆ知らぬ紅魔館軍団は、太陽の畑に向かった。畑程度、すぐに制圧できるだろうという考えのもと行った。

 しかしそこには、風見幽香がいた。

 幽香は、紅霧について、大激怒していた。紅霧によって、太陽が遮られたためである。太陽が遮られれば、植物は満足に成長できなくなる。植物を愛する彼女にとってそれは、到底許せぬことだった。ちなみに、太陽がもしもなかったらどうなるかは、太陽戦隊サンバルカンのオープニングテーマを参照されたし。

 幽香は、躊躇なく紅魔館軍団にマスタースパークをぶっ放した。数名の負傷者が出たが、レミリア自身はなんの傷も負っていなかった。なぜならば、運命を操る程度の能力によって、自身と同格以下の存在の攻撃が一切通らないようになっていたからである。

 博麗の巫女ですら苦戦を強いられた博麗の巫女に、ついに紫、隠岐奈は堪忍袋の緒が切れた。

 彼女らの紅魔館に対する攻撃は、3ヶ月もの間続いたという。しかも、言論ではない。物理である。某動画サイトなどで毎度毎度爆発させられることでお馴染みの紅魔館は、見事、3ヶ月間の本気の攻撃に耐え、全壊を免れた。しかし、その損傷率は96%。一般的に見れば、十分全壊である。

 この事態に、レミリアは己の敗北を悟る。

 幻想郷その者への恭順の姿勢を見せたことで、レミリア以下紅魔館軍団は、存在を許された。

 このことからわかるように、幻想郷の住人は、怒らせてはいけないのだ。

 さて、話を戻そう。

「でも、一体どうしてフランが・・・?」

 妖夏は、疑問を口に出してみた。話すことで、何かひらめきが得られるかもしれないと思ったのだ。だが、結果は、芳しくなかった。

「ダメだ、全く思い当たらない!」

 そう思いつつも、朝食の時間が迫っているので、宿に戻る二人であった。




いかがでしたか?
読んでみて思ったのは、水鏡って思ったよりダメ人間だってことです。生徒に服を選んでもらうなんて、大人としてどうなんでしょうね。
さて、水鏡には今回、ちょっと戦ってもらいました。・・・鯨と。
だって、面白そうじゃないですか! 鯨と戦うなんて!
鯨を食べる文化は、私も経験したことがありません。日本の伝統、一度は絶対に経験すべきでしょう。
過去の幻想郷については、ぶっちゃけていうと、「こいつらを怒らせたらやばい」というのを伝えるためです。このあと、ある人物にちょっと出張ってもらおうと思っておりまして、その布石のつもりです。
さて次回は、原作だと銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)戦だと聞きます。
ここは、かなりの改変になるかと思いますが(今更?)、温かい目で見守ってください。
感想、評価をお願いします。


関係ないですけど、福音ってなんとなくエヴァンゲリオンと読みたくなりますよね。

第4話「クラス対抗戦+異常発生」は、どうでしたか?

  • よかった
  • まあまあよかった
  • 普通だった
  • まあまあよくなかった
  • よくなかった
  • 駄文・要改善
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。