IS-irregular- 作:背筋悪太郎
本話は、前話の増補改訂版となります。今後は、こちらを正史として扱うことにします。
「今日は、このような快晴で、クラス代表対抗戦を迎えられたことを、私は心から嬉しく思っているわッ! さあ、乙女たちよ。全身全霊を以て戦うがいいッ!」
デスゲーム主催者のような台詞を吐くのは、IS学園生徒会長、更識楯無である。彼女が手に持つ扇子には、「青春爆発! 全力ゼンカーイ!」と書かれている。
「それじゃ、これで私の話は終わり! 怪我だけはしないようにッ!」
そう言って、楯無は壇上から降りた。この時、扇子には、「健闘を祈る」と書かれていた。この扇子は、先ほどの扇子と全く同一のものである。どのような仕組みで、文字が変化しているのか。その仕組みは、更識の人間にしか解らない。つまり、謎です(某日本文化紹介映像風)。
さて、本日行われる、クラス代表対抗戦について説明しておこう。
まず、この対抗戦は、学年毎に行われる。各学年は4クラスであり、トーナメント方式となっている。したがって、初戦×2、三位決定戦、決勝戦の合計4試合行われることになっている。今回の対戦カードは、第1試合が1組対2組、すなわち西行寺妖夏対凰鈴音。第2試合が3組対4組、すなわち苫小牧葦理馬対更識簪となっている。
また、今回は、実況・解説もつく。それは主に、放送部および新聞部が行うことになっており、教師陣は担当者が審判を務めるのみとなっている。
これは、他の学校に比べて、寮生活なだけでなく、機密の量も段違いに多く、ストレスの溜まりやすい環境であるIS学園の、こういうときくらい生徒の好きにさせて、ストレスを発散させてやろうという気遣いである。
その分、この後に待ち受ける中間テストを頑張りなさいよ、ということでもあるのだが、それはまた別の話である。
***
「よーし、こんなもんかな」
妖夏は、自身の機体である「スカーレット・ファントム」の最終調整を行なっていた。具体的には、推進系、姿勢制御、モーションの調整である。スカーレット・ファントムは、先の代表決定戦で見せた通り、近接戦闘が専門である。遠距離武装もないわけではないのだが、それはどちらかといえば牽制用に近い。そのため、素早く相手に近づき、素早く相手を斬り、素早く離脱する、というのが理想の動きである。・・・もっとも、妖夏は真正面から斬り合うことが大好きなので、そんな理想の動きなど気にしたことはないのだが。
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このように、デバイスに表示されたということは、完全にIS自身の準備も完了した、ということである.
篠ノ之束は、ISには意思があると発言している。これは、搭乗者とISが共に進むためのプロセスである。
それを確認した妖夏は、スカーレット・ファントムを、待機形態である、早苗を彷彿とさせるカエルの髪飾りに変形させ、戦場へと向かうのであった。
***
トイレ
黒駒は、校内唯一の男子トイレで、携帯で通話していた。
「・・・了解しました。手筈通りに」
『・・・・・・・』
「ええ、わかっています。最後は俺の手で」
そう言った直後、通話は終了した。
***
「例年通りなら、出場選手の4分の3が専用機持ちなど、あり得ることはないのだがな」
千冬は、そう溜息をつく。
「やっぱ、イレギュラーってやつなんですな、これ」
例年のことなど知らない水鏡が、そう返す。
ここは、放送席ではなく、アリーナ観客席(教員スペース)である。なぜならば、クラス代表対抗戦の主催は、建前上は生徒会であり、司会進行、実況に審判と、全ての工程を生徒が行うからである。ただし、万が一に備え、常にアリーナには教員部隊が控えているし、教員スペースもステージの付近、野球で言えば砂被り席となっているのだ。
「ってか、専用機って訓練機よりも強いって言われてるんでしょ? ってことは、3組の苫小牧、でしたっけ。こいつが圧倒的に不利じゃないですか」
「そうとも限らないのがISなんですよ」
と、真耶が答えた。
「そりゃまたどういうことなんです?」
「専用機というのは、あくまでその人のために整備された機体です。あくまで当人のものであって、イコール強い、じゃないんです。ほら、ロボットアニメでも言ってたと思うんですけど、『モビルスーツの性能の差が戦力の決定的な差ではない』って」
「そういえばそうですね。なるほど、つまり練度の差が最終的な勝負を分ける、と・・・。そりゃ面白そうだ、すげぇ試合が見られるってことか・・・!」
「・・・そこまで期待しないほうがいいと思いますがね。選手の大半は専用機持ちといえど、まだ学生で、プロとは程遠い。クラス代表というから、そこそこの実力はあるでしょう。が、ハイレベルの戦いを見たいなら、私も出場した、モンド・グロッソを見るといいでしょう」
「織斑先生、宣伝はほどほどに・・・」
「それにあんた、いくらなんでも学生を下げるのはいただけないぞ。渋谷の方じゃ、密かに推してた女子高生バンドが最近ついにメジャーデビューしたんだし」
「・・・うむ、そうだな。これは、失言だった。すまない」
千冬は、さりげなく(むしろ露骨に?)モンド・グロッソの宣伝をした。
モンド・グロッソとは、ISの原作および二次創作をご覧になっている読者諸君には説明不要であろうが、初見の方のために説明しておこう。これは、国家代表のIS搭乗者が、トーナメント形式で争い、世界最強を決めるための、いわばIS版オリンピックである。千冬は、第一回、第二回モンド・グロッソにおいて、日本代表として出場している。そのため、モンド・グロッソを無意識に推してしまうのだ。
余談だが、水鏡が推しているバンドというのは、とある人気リズムゲームに登場する、幼馴染4人組のバンドである。この世界では、そのゲームが存在しない代わりに、そのゲームの登場人物は実在する、と言うことになっている。男女混成のストリートユニットや、ショーキャストたちも、最近の女尊男卑の風潮に負けることなく(それどころか、後者は爆散させてもおかしくない)活動している。話が脱線してしまったが、つまるところ水鏡は、学生でもプロレベルの実力を持つ物はいると言うことを知っているので、少々千冬の言動にイラついたのである。即座に謝罪したため、イライラはおさまったが。
「さて、そろそろ始まりますよ。西行寺さんの晴れ舞台です!」
「そうか、見とるのはわしらだけじゃないんか」
「ええ、各国、各企業の担当者が、『今年のIS学園には、どんな奴がいるか。あわよくばスカウトしたい』と舌なめずりしながら見に来ますから。実力を示せば、たとえ負けても、いい感じの待遇を受けられるようになる者もいるのでな。・・・うーむ、そう考えると、本当に失言にも程があるな、さっきの私・・・」
千冬は、本当に自分の言動を恥じた。
やがて、放送が入った。
『さあさあみなさん、大変長らくお待たせいたしました! 只今より、2032年度、IS学園学年別クラス代表対抗戦第1試合を開幕いたします! 申し遅れました、私、今回実況を担当いたします、3年生競技科所属の放送部、清く正しい射命丸がキャッチコピー! 射命丸文と申します!』
「濃いキャラ来たなオイ、ワシが高校生だった頃は、せいぜい美術部ぐらいじゃったで」
「ははは、あれはまだ序の口だ。4月に言っておけばよかったのだが、我が校は、やたらと濃いキャラが揃っているぞ」
「うわーマジか。今から転勤は・・・無理か。おのれ日本政府」
水鏡は、思わず日本政府に八つ当たりした。
『審判は、同じく3年生競技科の、
文がそう叫ぶと同時に、二人の選手がピットから飛び出した。そう、妖夏と鈴である。
『まずは、1年1組代表、『紅に染まる夏の夢』西行寺妖夏! それに相対するは、『新たなる紅の龍』凰鈴音!』
選手の紹介に、学生たちから歓声が上がる。
「む、この二つ名は・・・?」
「あー、射命丸さんって、そう言うの好きですからね・・・」
二つ名は、射命丸のセンスのようだ。事実、2、3年生の試合では、二つ名付きの選手紹介はされていない。
「それでは───試合、開始ッ!」
麗が叫ぶ。しかし、二人は動かない。そう、荒野に佇む、西部劇のガンマンのように、二人は、互いを見つめていた。
「!」
二人は、同時に動いた。
鈴は、妖夏の首を狙って、手刀を放った。
「!」
それを、妖夏はバク転で回避した。
『なんと───! 凰さんの手刀を、バク転で回避した──! しかも、これ、攻守一体の回避なんです。さすがは西行寺の子、その実力は伊達ではありません!』
「西行寺さんって、そんなにすごいところの出なんですか?」
「いや、聞いたことがないな」
確かに、西行寺という名は、境界の向こう側では有名だ。だが、こちら側では、あまりその名は浸透していない。だからこそ、教師陣は疑問符を浮かべたのだ。
そう言う間に、妖夏は、反撃に移っていた。否、すでに反撃は行なっている。つまりこれは、追撃だ。
妖夏は、バク転の姿勢から、サマーソルトを仕掛けた。もちろん、回避される。
だが、それは織り込み済みだ。
「スペルカード発動! 予知『
そう叫ぶと、突如、鈴の体に衝撃が走った。
「・・・ッ! 一体、何が・・・?」
『おぉーっとこれは──! 西行寺さんの容赦ないカウンターが決まった──! 果たして凰さんは、どう出るのか!?』
これは、教師陣でも目視できなかった一撃だ。だが、読者諸君の中には、どのような攻撃だったのか知りたいと思う方が多いと思われる。そこで、この攻撃の内容を、解説しておこう。
先手必打とは、読んで時のごとく、先手を打って必ず攻撃を当てるスペルである。と言っても、弾幕を使うかと言われると、そう言うわけではない。これは、あくまで相手がどう動くのかを予測して放つ技である。そのため、攻撃の内容はケースバイケースで変化する。今回の場合、鈴は後ろに回避した。サマーソルトのリーチではギリギリ届かない距離だ。そこで、妖夏は、サマーソルトの回転を終えた後、即座に超人の飛行時のポーズをとり、ケノビの要領で突進したのだ。そして、攻撃を終えた後に、もう一度元の姿勢に戻るべく宙返りをし、現在に至ると言うわけだ。これを、ほんのわずかな時間に行なった妖夏は、まさしくバケモノと言って過言ではないのかもしれない。
だが、鈴だって眠っていたわけではない。中国に帰国してから約2年、彼女は中国奥地で英雄故事を歌いながら修行していたのだ。しかも、優秀(?)な師匠がついている。そのプライドにかけて、不様を晒すわけにはいかないのだ。
「なかなかやるわね、妖夏! でもアンタ、これは避けられるかしら?」
そう言った刹那、妖夏の頬を、何かが掠めた。
短剣か? いや、違う。弾丸か? いや、それでもない。そう、目に見える物体ではないのだ。
「一体、これは・・・」
『なななんと、凰さん、とんでもない隠し球を持っていた──! まさに不可視の弾丸、西行寺さんはこの謎を解くことができるのか、気になるところですね!』
「まさかと思うけど、これが本命だとか思ってないわよね?」
「もちろん。それに、これも、後ろを取れば・・・」
そう言って、素早く背後に周り、強襲を仕掛けようとするが。
「らしくないわね。アンタ、こんな変な形してる奴が、
「まさか!」
「そう、気持ちがいいくらい綺麗に引っかかってくれたわね!」
次の瞬間、妖夏は吹っ飛ばされた。そう、まるで後ろに目がついているかの如き射撃。
「これぞ
『なんと中国、とんでもないものを用意してきたぞ──! ですがこれ、ははんなるほど。私にはもうわかっちゃいました』
「ええ嘘!?」
「ふむ、射命丸はわかったのか。織斑先生や、あなたはわかりましたかね? ワシにはちょっとようわからんのですが」
「いや、おそらくはそう言うことか。中国も、なかなか面白いものを考える」
実況に、鈴は驚愕する。だが、考えてみてほしい。射命丸文の能力は、「風を操る程度の能力」である。おそらくこの二次小説を読んでいる読者諸君なら、龍砲の仕組みを知っているであろう。つまり、龍砲は、射命丸の能力と非常に近いため、その仕掛けを見破ることができたということである。
無論、妖夏だって馬鹿ではない。文のその発言と、付近にビーム痕や着弾跡、短剣の現物などが存在しないことから、彼女の能力である、「本質を見抜く程度の能力」によって、その正体を看破した。
「鈴、つまりこう言うことでしょ? その龍砲は、圧縮空気を360°どこにでも撃ち出すことができる中距離武装。どう、当たってる?」
「正解よ」
そう言って、ニカッと微笑んだ。
「それじゃ、タネも割れちゃったことだし、そもそもアタシは肉体派なのよ。アンタもそうでしょ?」
「もちろん」
二人は、獰猛に笑った。笑顔とは、嬉しさを表現するための仕草であると言われているが、その起源は野生動物が獲物を前にした時の表情であるという。今の二人はまさに、野生に回帰しているような状態なのである。
そして、二人は、同時に動いた。そう、目にも止まらぬスピードで、超高速戦闘を開始したのだ。
『うわー、なんですかこれは!? 学生の、専用機持ちとはいえ新入生がやっていい動きじゃありませんよこれ!? てか、これISは耐えられるんですか!? 最速の新聞記者を自負する私ですら目に負えないとは、不覚・・・!』
「なんだこれは・・・! モンド・グロッソですら、こんな試合はなかったぞ・・・! いや、違う。これは、試合などと言う生ぬるいものではない! まさに、
「そんな大袈裟な・・・とはいえんのが恐ろしいところですわな。じゃけど、ビーストウォーズ言われりゃ、そりゃゴリラやら恐竜やらのアレしか思い浮かばんのが、なんかのう・・・」
「なんですそれ?」
真耶が訊く。それに対し、水鏡は軽くショックを受けた。同年代のはずなのに、ジェネレーションギャップを感じてしまったのだ。もちろん、読者諸君はご存知であろうから、ここでは解説しないことにする。
「アッハハハ! 楽しいわ、妖夏! こんなに楽しい試合は初めてよ!」
「それは同感! 鈴が代表候補生になってたのも驚きだった! よかったら、何があったのか教えてくれる?」
「いいわ! ただし、アンタのことも洗いざらい話してもらうから、覚悟しときなさいよ!」
「りょーかい! そのためにも、早く試合を終わらせないとね!」
「わかってるわよ!」
そう、二人は、会話を交わしながら、戦闘を続けていたのである。その表情は、とても明るいものであった。
しかし、楽しい時間は、すぐに終わるのがセオリーというもの。
突如、アリーナのシールドが割れたのだ。
「!」
その割れ目から、謎のISが降下してきた。
「山田先生!」
「了解です!」
そう言って、端末を取り出し、迅速に謎のISの解析を行う真耶だったが、その画面に表示された解析結果は、
「UNKNOWN・・・!」
「ちょい待て、ISコアは約500しかないとか言うとらんかったか!? 全てのコアにはナンバーが振られとると・・・」
「そうなんですけど、これは・・・」
「束、まさかお前がやったとでも言うのか・・・?」
「そうか、コアを作れるのはこの世でたった一人・・・!」
「ああ、篠ノ之束しかいない!」
謎のIS──Xは、降下直後は、なんの動きも見せなかった。が、妖夏と鈴の姿を認識すると、ミサイルポッドなどの武装を展開し、無差別に撃ち始めたのである。
「何よいきなり!」
しかし、迂闊に反撃することはできない。そう、ISは、搭乗者がいないと動くことができないと言うのが常識である。搭乗者に万が一怪我でも負わせようものなら、その責任は重大なものとなり、国としても面倒臭いことになる。だからこそ、動けないのだ。
しかし、そんな懸念はすぐに払拭されることになる。その要因は、二つある。一つ目は、先述した、妖夏の能力である。もう一つは何か。それは、鈴の修行の成果である。彼女は、「気」を感じ、練ることができるようになった。しかし、目の前の相手からは、人間の気を感じなかった。
「もしかしてこれ・・・」
「うん、これは無人機だ」
一方の教師陣は、非戦闘員の退避を行なっていた。
「お前たち! 避難しろ! これは命令であると思え!」
しかし、避難することはできない。なぜなら、
「ダメです! シールドの警戒レベルがマックス、扉も開けない状態です!」
そう、生徒たちは、アリーナに閉じ込められてしまったのだ。
だが、水鏡は。
「よし、ちとどいとけ。山田先生、アリーナの生徒らにも、逃げるよう言うてつかあさい」
「何する気なんですか?」
生徒の疑問に、水鏡は、行動を以て返答とした。
「フン!」
右手を掲げ、エネルギーを集中させる。すると、扉が融解したではないか。
「え、これ・・・え?」
「ええから逃げれ!」
「あ、は、はい!」
生徒たちは、脱兎の如く避難した。
水鏡は、ほとんどの扉を溶かして周り、避難経路の作成に貢献した。
真耶は、通信を、妖夏と鈴に繋げた。
「二人とも、早く避難してください!」
しかし、二人の返答は。
『無理です! これ、私たちが標的っぽいです!』
『逃げようとしたらそこにミサイル撃ってくるし、あーもうなんなのよこいつ!』
『そんなわけで、私たちは離れられません!』
「うーん、わかりました。では、教員部隊の皆さんが到着するまで持ち堪えることって、できますか?」
『『もちろんです!』』
「わかりました! うぅ、すみません・・・」
真耶は、即座に教員部隊に連絡した、のだが。
「嘘!? そんな・・・」
「どうした、山田先生」
避難誘導を終えた千冬が、声をかける。
「敵前逃亡です・・・」
「なんじゃと!? ありえんじゃろうがそりゃ!」
水鏡も、声を荒げた。
「かくなる上は、私が出るしかあるまい」
「! それは・・・」
真耶は、躊躇する。確かに、千冬は強い。だが、だからといって生身でIS相手に立ち回れるかと言われると、確証を持てないのである。
「しかし、あの二人に任せっきりと言うのも・・・」
「でも、あんなのと戦うなんて、いくら織斑先生でも・・・」
あーだこーだと言い争う二人。だが、その時。
「どけや雑魚ども!」
「! 織斑貴様!」
「何、黒駒だと?」
そう、織斑黒駒が、Xに向かっていったのだ。
放送室では、文が、虚に連絡を入れていた。
「すみません、虚さん。私は今、人間を捨てます」
『・・・ダメです」
「その理由をお聞きしても?」
『今はまだ、あなたがそうすべきではないと思ったからです。それに、おそらく、あなたが出るまでもないでしょう』
「・・・確かに、あなたの分析は確実ですからね。わかりました、今回は大人しくしておきます」
そう言って通話を切り、文は避難した。
ちなみに、原作においては、箒が放送室に殴り込みをかけて事態を厄介なことにしたという。だが、本作における箒は、今の自分では何もできることがない、いても重石になるだけだと判断したため、大人しく避難している。その時、持っていた竹刀で封鎖された扉を一つ切り裂いた。その様子を見たセシリアは、目を疑った。
教師陣からの通信を受け取った直後、妖夏と鈴は、即座に行動に移った。
「天・龍・脚!」
まず、鈴が、ミサイルポッドに蹴りを入れた。
──まさか、鈴の師匠は・・・!
その身のこなしに、妖夏は、ある人物を思い浮かべた。だが、今はそれを論じている場合ではない。
妖夏は、それに続いた。
「スペルカード発動! 瀑布『
このスペルカードは、攻防一体の技である。まず、拳を扉に見立て、相手の動きを封じる。そして、蝶のように舞い、雷の如きラッシュを叩き込む。これによって、いちばんの面倒ごとであるミサイルポッドは破壊された。
さらに、二人のコンビネーション・アタックによって、XのSEは大幅に削れ、トドメを刺す直前に到達した。
だが、その瞬間、黒駒が乱入したと言うわけだ。
「アンタ、何馬鹿なこと言ってるのよ! 聞くところによれば、ISの稼働時間、まだ100時間もないらしいじゃない。そんな奴がいたところで、私らにとっては足手纏いもいいところなのよ!」
「黙れ凡人! いいか、あの無人機を倒せるのは、白式を持つ俺だけなんだよ!」
──どうしてこいつが、これが無人機だと知っている?
妖夏と鈴は、同時に疑問を抱いた。
だが、黒駒に構っている時間はない。黙殺し、Xにトドメを刺そうとしたのだが。
「零落白夜!」
束に新たに造らせた雪片弐型によって放たれる必殺の一撃により、二人は、ISを強制解除させられた。
それを見た水鏡は、
「もう我慢ならん! ワシが出る」
「な! それは、無謀だ、やめた方がいい!」
千冬は反対するが、
「今の風潮じゃと、男は要らんらしいけんのう。ここでISに勝ったと言うのを見せてやりゃあ、ちぃとはそれが覆せるじゃろうて」
そう言って、アリーナに躍り出た。
「水鏡先生・・・!」
「西行寺、凰、よう持ち堪えた。われらはもう逃げんさい。あとは、ワシがなんとかしちゃるけえ」
「・・・わかり、ました」
鈴は、敬語を使うのが苦手なようだ。
ともかく、二人は、ピットに退避した。
水鏡は、黒駒に向き直った。
「さて、織斑。われも避難命令がくだっとったはずじゃが、何晒しよんじゃ」
「見てわかんだろうが。あいつらが倒せなかったのを、俺が倒してやるんだよ」
「理由になっとらん。あの二人は、トドメを刺す寸前じゃった」
「ハ、コレだから凡人は。第一、あんなへぼい攻撃で、倒せるわけがない。俺でなきゃ無理だ」
「・・・もしかして、零落白夜のことを言うとるんか? じゃったら、西行寺も持っとる。われじゃなけらんにゃならん理由にはならん」
「あれは失敗作だ」
「それを決めるんはわれじゃない」
「なんとでも言ってろ。ISも使わずに戦うとか、そっちのが頭湧いてんじゃねーかよ」
水鏡は、その一言に、眉を顰め、そして呆れる。
「そうか、知らんのか。じゃったら納得がいく」
「あ? 無理だと悟ったか、凡人」
あざける黒駒。
だが、水鏡は、その目に闘志を宿らせた。
「ええか、ワシがここに来たんわの、力が強すぎるけえなんじゃ。こがぁな風にの」
そう言うと、水鏡は、掌から衝撃波を出し、黒駒を壁に激突させた。
「避難命令を無視したんは、これで帳消しにしちゃろう。・・・こう言うんも、本来なら教員部隊がやるべきことなんじゃろうが、仕方ない」
そう言って、水鏡は、上着を脱ぎ捨てた。
そして、両手にエネルギーを集め、Xに向けて放出、とどめとするつもりだったのだが。
「どけ! 凡人はすっこんでりゃいいんだよ!」
と言う黒駒によって、殴り飛ばされた。いくら水鏡が超人といえども、池袋のバーテン服の男の如き肉体と言うわけではない。喀血し、骨が何本か折れ、そのまま気絶してしまった。
結局、Xは、黒駒によって倒されたのである。
***
会議室
ここには、先の襲撃事件の当事者が揃っている。水鏡、千冬、真耶、妖夏、鈴、箒、黒駒の7人。そして、学園長を務める轡木十蔵を加えた8人である。箒は、Xと関わったわけではないため、「なぜ私がここに・・・」と言う顔をしていた。
「では織斑先生、襲撃事件の詳細は、これで間違いないのですね?」
「はい」
「皆さんも、齟齬はないと言うことでよろしいでしょうか」
「「「「「はい」」」」」
黒駒のみ、返事をしなかった。
「では、処遇についてです。まず、水鏡先生、篠ノ之さん。あなたたちは、避難のためとはいえ、IS学園の施設を破壊しました。無論、そこには正当かつ早急にしなければならないと言う事情があったことを加味し、水鏡先生には扉8枚の修繕費として200万円を、篠ノ之さんには25万円を支払っていただきます。無論、これに係るアルバイトは認めます。もしこれが、機器の破壊などでしたら、1000万は軽く超えるので、そのことをお忘れなく」
「それで私も呼ばれたのか・・・。はい、わかりました」
「えーと、利子とかそう言うのはない、と言うことでええんですか?」
「もちろんです。もしや、利子があった方がよかったのですか?」
「そんなことはありません」
水鏡は、利子つけることを謹んで断った。
「では、続いて織斑くんについて。命令違反については、水鏡先生が帳消しにしたとのことですが、その水鏡先生に大怪我を負わせ、西行寺さんと凰さんにも攻撃を行い、作戦行動を阻害しました。そのため、反省文50枚、謹慎1ヶ月を言い渡します」
「・・・は? なんで俺がそんなことしなきゃならねぇんだよ。あれは、俺が倒したんだぞ? むしろ、感謝状の1枚でもよこしたらどうだ?」
それに、水鏡が反応した。
「敬語使え、織斑。われがでしゃばらんにゃ、もっとスムースに事は終えとったんじゃ。それを、要らんことしてからに。それに、なんでわれ、あれが無人機じゃと知っとった? ワシらは、あれを解析する事でやっとそうじゃとわかったんじゃ。われがスパイか何か言う疑いもかかっとったんじゃ、それがプラスされとらんだけ有難いと思いんさい」
「・・・チッ」
黒駒は、渋々引き下がった。スパイ疑惑は、実は、黒駒にとって最も触れられたくない部分なのだ。もちろん、水鏡に黒駒の正体を知る術はなく、言動からの推測ではあったのだが、そ俺以外の証拠がないため、スパイ疑惑に関しては不問とされたのだ。それを推察したことから、珍しく、黒駒は引き下がったのである。
翌日に、この処分は、クラス内で伝えられた。黒駒の件に関しては、皆「せいせいする」と言う反応を示していた。以前より、黒駒は問題行動を起こしていた。それも、更衣室の覗きなんてレベルではなく、上履きに画鋲を仕込んだり、虚偽の噂を流布しようとしたりと、下手すれば学級崩壊しかねないことをやっていたのだ。その反応は当然といえよう。
一方の水鏡と箒は、修繕費を自分で稼いで払わなければならなくなったので、クラス内で「返済コンビ」なるあだ名をつけられてしまった。
水鏡は、トンネル工事のアルバイトに参加し、本来の予定を大きく短縮する働きを見せたことから、わずか1ヶ月で返済。箒も、土木工事のアルバイトに従事し、某駄女神とヒキニートの如き活躍を見せ、あっという間に完済した。二人とも、その働きぶりから、「現場から離れないでくれ、なんならうちに就職してくれ」と懇願されたのだが、特殊な身分であるということで、断っている。
最後に、クラス代表対抗戦のその後について語っておこう。
襲撃事件があったことにより、対抗戦はその後に日程を全て中止。優勝したクラスに送られるデザートフリーパスも無かったことになってしまい、ほとんどの女子が落胆したのは言うまでもない。
いかがでしたか?
本話には、いくつかのネタが仕込まれています。
まず、水鏡が推しているバンド。本文の記述からわかると思いますが、そうです、「プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat.初音ミク」に登場するバンド、「Leo/need」です。
次に、
Xについては、全く意図しておりません。ええ、TwitterがXに変わる前に書いたものの増補改訂版なので、全く関係ありません。
水鏡が見せた溶解能力や衝撃波は、「ジャイアントロボ 地球が静止する日」に登場する十傑集、「眩惑のセルバンテス」と「衝撃のアルベルト」が元ネタとなっております。水鏡の能力は、まだまだ出てくる予定ですので、その都度後書きで元ネタを紹介させていただきます。
文が、「人間を捨てる」と言ったのは、何も人間を見限るということではなく、彼女は現在、人間に擬態しています。つまり、天狗としての自分の力を解放すると、そういう意味です。
鈴の天龍脚は、美鈴の技です。
某駄女神とヒキニートというのは、当然、「このすばらしい世界に祝福を!」の「アクア」と「カズマ」のことです。あの二人、冒険している姿より労働に従事している姿の方が印象深い気がするんですよね。
さて次回は、今度こそ鈴の過去編です。
感想と評価を、お待ちしております。
8月27日(日)追記
「謎です」と言うのは、「日本の形」というビデオが元ネタとなっております。
「青春爆発」は「超獣戦隊ライブマン」の主題歌から、とっております。
本作の主人公は、あくまで水鏡京秋です。西行寺妖夏ではありません。妖夏の方が主人公に見えるのは仕方ないのですが、水鏡だって活躍します。最後の方で。
第4話「クラス対抗戦+異常発生」は、どうでしたか?
-
よかった
-
まあまあよかった
-
普通だった
-
まあまあよくなかった
-
よくなかった
-
駄文・要改善