徒<アダ>。 獅子身中ニ死ㇾ無   作:Engel係数

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壱、(猫の)呪い

馬当番でうっかり眠りこけたのを日光に怒鳴りつけられた南泉は、猫の呪い的な反射で全速力で馬小屋を逃げ出したあと、自我を取り戻して肩を落とした。

 

猫は大きい音が苦手だ。

高音量でこられると、びっくりして、音源とは驚愕の続く限り距離をとってしまう。

 

猫のそういう習性は、そのまま南泉の呪いに継がれていた。

 

(情けないところを見られちまった……にゃ)

 

よりにもよって、日光のアニキに。

 

溜息をついて辺りを見れば、行く手に本丸の一ノ門、バックギャ門。

はるか後方に、ニノ門、通称durae門が見える。

 

(あやうく本丸の敷地から出るくらい驚いたのか。ビビり過ぎ……)

 

違う俺がビビったんじゃない猫の呪いだ、と思うも、両手で顔を覆ってしまいたい衝動には逆らえない。

 

バックギャ門の方から、光る何かが飛んできたのは、その時だ。

 

「にゃっ…………」

 

スローモーションよりもゆっくり、魅惑的に、光る何かは猫の呪いを刺激した。

光る魅惑的な何かは、円盤状に薄く、ブーメランのように回転して、きらきら、光を舞い

 

「っにゃー-----!!!」

 

 

 

***

 

 

夕餉前、当番に戻らない南泉を探していた日光は、広すぎる敷地を歩き回るうち、小言を言う気が失せて反省モードにすらなっていた。

 

(こんなにも見つからないとは。

 驚かせ過ぎた、かも、知れない。猫は大きい音が苦手だと聞く。奴も好きで猫の性を負ったのではない。同じ一文字として、猫の呪いについて、もっと、理解……を……)

 

ほとんど本丸の端、通称durae門の内側。

その茂み。

 

日光一文字が腰の法螺貝に手を伸ばしたのは、ほとんど無意識の行為だった。

 

本来ならば伏兵を配置するもっさりした一角に、南泉一文字は突き刺さるようにして、足を天に掲げていた。

 

「す、すきけよー---!!!」

 

日光は叫んだ肺活量のまま、危急を知らせる法螺貝を吹く。

文学に由来を持つ同門の則宗なら、日光の言いまつがいを正したかも知れないが、そこには日光一文字しかいなかった。

 

茂みから舎弟を引っこ抜いた日光は、遊び疲れた幼児のように満足そう~に寝ている南泉を見て、猫が珍妙な恰好で寝る習性にものすごく納得したのち、それを見つける。

 

茂みがジャージにひっかかってできるかぎざきとは違う、スッと一直線の、まるでちいさな刃物で切ったような、いくつもの細かい切り傷だ。

両手を中心に、腕、足、腹と、主に前面に、掌大の、浅い傷がある。

 

(なんだ? なんの傷……)

 

傷自体はとても浅い。しかし衣服を何枚も切り裂いて、皮膚に至っている。皮膚の傷は浅い。それこそ皮一枚だが、数が多い。

 

「どら猫、おい、おい。こら」

 

ゆすっても、南泉は起きない。

日光は大声をあげてはいけないと反省していた手前、どうしようか悩んだのち、南泉の鼻をそっとつまんだ。

秒で起きたのち、日光を確認して改めて飛び起きた。

 

「ぅ兄貴!!!」

「その傷はどうした。まさかと思うが、敵襲か?」

「やっ、これはっ、ちょっと鋭利なヒカリモノに夢中でじゃれてふぎゃ!」

 

日光はうっかり法螺貝でどついてしまった。

 

 

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