元褪せ人のスローライフ(願望) 作:Crimson Wizard
あれから私は基本的に毎日豊饒の女主人で料理を担当していた。今日はミア母さんの気まぐれで一日休みを貰えたので、
神ヘファイストスの所に防具を受け取りに行こうと思っている。
ただ、まだ早朝なのでこの時間に訪ねるのは流石に迷惑だろう。そう思って、久しぶりに少しだけ身体を動かしてみるか、そう思った時だった。
「おはようございます、シルヴィア。」
「ん?リューか、おはよう。」
あれから豊饒の女主人の面々とはかなり打ち解ける事が出来た。
まあ料理を出来る人間が殆ど居ないのでよく頼られていたというのも理由の一つかもしれないが。
「鍛錬ですか?」
「……ああ、久しぶりに身体を動かそうと思ってな。」
「やはり戦えたのですね。私も丁度鍛錬をしようと思っていた所です。少し付き合って頂いても?」
「そうか、では頼む。」
そういうと、リューは木刀を中段に構えた。だが木刀か……
「使い慣れた得物で構いません。この木刀は頑丈ですから。」
リューのその言葉に、私は普通の打刀を取り出した。本来は長牙を使いたいが、生憎ここはそんなに広くない。
それにダンジョンに潜る事があったとして、近距離に対応出来る武器にも慣れていた方がいいだろう。
「……刀ですか。では、行きます!」
そういうと、リューはそのまま木刀を振り下ろしてくる。
私は打刀で木刀の振り下ろしを正面から受け止めるが、木刀は刀に食い込む事無く鍔まで滑り落ちた。
「なるほど……確かに頑丈らしい。」
リューはそのまま私の刀を振り払い、二の太刀で下段を狙ってくるが私は刀を地面へと突き刺す事で攻撃を防ぎ、
そのまま刀を軸にして回転し、胴体を狙って蹴りを放つ。
その攻撃は木刀で軽く受け止められるが、その瞬間に刀を手に取り裏拳の様にして柄で殴打する。
その意表を突く攻撃にリューは咄嗟に腕で頭をガードするが、柄による攻撃を受けてしまう。
「……思ったより動けますね。そして、私もかなり鈍っているようだ。」
「私も同じ事を考えているさ。」
やはり。……違和感程度ではあるが、身体能力が落ちている。理由は分からない。そもそも、褪せ人という存在では無くなったことが原因なのか。
今やこの身体は食事も睡眠も必要なただの人間の物だ。
或いは、この世界に飛ばされた際に身体の構造から造り変わっているのか。だが何にせよこれは私にとって死活問題であると言える。
そもそも、元の世界での私の基本的な戦法は不死である事を利用した学習だった。
人間……同じ褪せ人同士ならば動きを読める為に一切攻撃を喰らわずに倒すという芸当も可能だったが、
この世界の敵は主にモンスターであり、今の私は人間だ。死んで学習する事も出来ず、身体能力も落ちるとなればかなり動きに制限が掛かる。
「……どうしました?」
「いや、私も衰えたと思ってな。」
「では今日はこれぐらいにしておきましょうか。シルヴィアは仕込みもあるでしょう。」
実は仕込みだけはもう済ませてある。
折角の休みだ。面倒な事は早く済ませるに限る。その後、時間を潰す為に私はリヴェリアの進捗を確認しに黄昏の館へと向かった。
━━━━━━━━━━━━━━━
その後、黄昏の館に辿り着いた私は門番に名乗ると驚く程にあっさりと通された。
「……今日は随分と早いな。」
「日が昇るまで暇なんだ。それで、魔術の方はどうだ?」
私がそう訊ねると、リヴェリアは得意気に胸を張って答えた。
「学院と、教室のスクロールに書いてある内容ならば、もう全てマスターした。勿論実践でも使えるぞ。」
「驚いたな。まさかここまで修得が早いとは……」
一、二個使える様になっていれば良い方かと思っていたのだが。
「とりあえず、何か使ってみてくれ。」
私がそういうと、リヴェリアは訓練場へと移動し実際に輝石のつぶてを放って見せた。
「……もう《輝石の彗星》も使えるのか?」
「ああ、実際にダンジョンで使ってみたが、かなり威力のある魔法……魔術だな。その割には魔力消費も少ない。」
本人の言っていた通り、かなり知力が高いようだ。本人が学者気質なのも関係あるのか?
「この調子なら、王家のスクロールも自力で読み解けるだろう。だが、先に私が優先度の高い魔術だけ教えてやろうか?」
仮にも師匠と言ってしまった手前、何もしないというのもな。少しは師匠らしい事をしようじゃないか。
「そうだな、折角だ。教えて貰えるというのなら頼もうか。」
「いいだろう。ではまずは、《輝石のアーク》だ。これはスクロールには書いていない。」
というか、今更だが言葉が通じるのは謎だな。実際リヴェリアがあの世界のスクロールが読めている事といいやはりこの世界には謎が多い。
私はこの世界の文字を読めないのだが……まあ、今更気にする事でもないだろうが。
「どんな魔術だ?」
私は実際に《輝石のアーク》を放ってみせる。
「なるほど、一対多の状況下ではかなり役に立ちそうだな。」
「実際そういう目的で作られた魔術だ。それに魔術師として独り立ちする際の餞別として与えられる魔術でもある。」
私の場合は覚えた経緯などそれこそ覚えてはいないが。
「あとは……これだ。」
私は《魔術の輝剣》を発動する。私の頭上に魔力で出来た剣が現れ、一定時間が経過すると訓練用の人形へと放たれた。
「これは魔術の輝剣。発動してから一定時間が経つとある程度だが自動で敵を追尾する。」
「自動でだと!?……お前の魔術はどれも常識に当て嵌らないな。」
「落ち着け、そもそも魔法など常識の外にあるものだろう。」
それはそうだが……そう言ってリヴェリアは口を噤む。
「まだ教えておきたい魔術が幾つかある。」
私はそう言って、《魔力の武器》、《魔力の盾》、《魔術の地》など汎用性に富む魔術を幾つか教えた。
「……とりあえず教えておきたいものはこれだけだ。他に、覚えておきたい魔術はあるか?」
私がそう聞くとリヴェリアは俯き、数秒程経つと再び口を開いた。
「これはソロでダンジョンに潜る時の話なんだが、魔法だと発動する時はどうしてもモンスターに察知されてしまう。
だが魔術は、詠唱が必要ない分バレていない時なら不意打ちが出来るかもしれないと思ってな。姿を隠す魔術なんかはあるのか?」
なるほど……魔法だと詠唱が必要だし、瞬間的な魔力の昂りなどで視認されていなくても発動までの間に気づかれるのか。
「あるぞ。では、伝授してやろうか。」
その後私はリヴェリアに《見えざる姿》を伝授し、そろそろヘファイストスの所へ向かおうと思った時だった。
「見つけたで!ここ最近、皆に隠れてコソコソしとったやろ!?」
何やら赤髪の神らしき人物が金髪の
「……バレたか。」
「ほんで?ジブンは何処の人間や?」
赤髪で糸目のこの人物が、恐らくこのファミリアの主神だろう。
「初めましてだ、神ロキ。私はシルヴィア……そこのリヴェリアに聞いていないのか?」
「何も聞いてへんわ。で、どういう事なん?リヴェリアたん」
神ロキがそう言ってリヴェリアの方を向くと、リヴェリアは諦めたかのようにため息を吐いて話し始めた。
「まず、誤解はしないでくれ。何も疚しい事は無い。それと、覚悟して聞いてくれ。」
リヴェリアの言葉に神ロキと他二名が重々しく頷いた事で、再びリヴェリアは口を開いた。
「私は……十日程前か。偶然そこのシルヴィアに出会った。そいつは妙な独り言を言っていてな、魔術がどうとか言っていた。
レベルが停滞して少し焦っていたのもあって、その未知の魔術という言葉に興味を惹かれて話しかけた訳だ。そこからが問題で……」
私の素性の話が出ると神ロキの顔色が変わる。だがリヴェリアが話終えるまで、神ロキは黙っていた。
リヴェリアが私の素性、それと魔術の存在、そしてそうなった経緯を話終えると、神ロキは我慢ならないとばかりに叫んだ。
「ツッコミどころが多いわっ!それと自分、設定盛り過ぎやろ!?何処の主人公やねん!」
「……だが事実だ。」
私の言葉に嘘は無いと分かったのか、神ロキは何かを言いかけて結局口を噤んだ。
「少しばかり、頭が痛いよ。だけど、この情報を知ったのが僕らで良かった。」
金髪の
「魔術というものの存在が出回れば間違いなく君に危険が及ぶ。あまり公言しない事だ。
……それと言ったことをすぐ曲げる様で悪いんだけど、僕たちの力になってくれないかな?力を悪用しない事は誓うよ。」
「……随分と、ハッキリ言うのだな。」
「君は回りくどいのは好みじゃ無さそうだからね。勿論見返りも用意しよう。」
仮にもオラリオの二大勢力だ。嘘は言っていないだろう。見返りも、現時点で稼ぎがほぼ無い私にとっては渡りに船だ。
「いいだろう。だが、私に出来る事はそう多くないぞ。」
「いや、君に何かして欲しいのは、どうしても君の力を借りたい時だけだ。今は別に困っていないからね。
出来れば、そのままリヴェリアに魔術とやらを教えるのは継続して欲しいんだけど。」
「別に構わない。それと、聞いた事がある。
「……ああ。神々によって存在を否定されてしまったけどね。僕は今でも信じているよ。……いや、僕がなるんだ。女神フィアナに。」
「存在するか否かはどちらでもいい。問題なのはそこに信仰心が存在するかどうかだ。」
「……何が言いたいんだい?」
「リヴェリアが私の魔術の弟子であるように、私は祈祷という分野に於いてもこの技術を継承出来る存在を探していてな。」
「……まさかっ!」
「そのまさかだ。貴公さえ良ければその実験台になるというのはどうだ?」
この提案によるフィン側のデメリットは無いに等しい。リヴェリアと同じくレベルが停滞して長いフィンは一も二もなく引き受けた。
「だが、生憎今日は予定がある。また別の日になるが……それで良いか?」
「ああ!構わない。何なら僕の方から訪ねよう。何処に行けばいい?」
「私は普段、豊饒の女主人という酒場で働いている。用がある時はそこに来てくれ。」
「なんやジブン、ミア母ちゃん所の知り合いなんか?前行った時は顔見らんかったけど……最近入ったんか?」
「ああ。リヴェリアの紹介でな。まあ普段は料理をしているからウェイトレスとして表に出てくる事は少ないだろうがな。」
「ほぇー。っていうか、何かさっきからガレスが静か過ぎひん?……って寝とる!?」
「どうせお前が無理やり連れて来たんだろう。こいつは昨日遅くまでダンジョンに潜ってたみたいだし、疲れていて当然だろう。」
「まあ、連れて来た意味は無かったみたいだけどね。」
フィンが苦笑しながらそう呟く。
「改めて、ロキ・ファミリアを宜しく頼むよ。」
「ああ。宜しく頼む。……さて、私は予定があるので出掛けてくる。それと、フィン……だったか?夜なら祈祷を教える時間はある。
生憎酒場なので手が空くのは明け方になるが、それでもいいなら訪ねて来てくれ。」
「助かるよ。じゃあ、今日……というか、明日かな。早速行かせてもらうよ。」
そうして、私はロキ・ファミリアのホーム……黄昏の館を後にするのだった。
━━━━━━━━━━━━━━━
「……来たわね。」
「ああ。出来たか?」
ここはヘファイストス・ファミリアの主神であるヘファイストスの部屋だ。
「……これよ。」
そこには、見る者に上品さを感じさせる騎士鎧があった。
「全身鎧は着けた事あるのよね?ちょっと着てみてくれる?」
言われた通り、足から装備を着用していく。
「……我ながら、よく出来たんじゃないかしら。」
鏡を見ると、そこには見るからにいい所の騎士がいた。……何か既視感があるな。
「なるほど。胴体部分はサーコートになっているのか。コレクションにしようと思っていたが、これなら実戦で使えそうだな。」
私がそう口にするとヘファイストスは顔に怒りを浮かべて文句を言う。
「あなたね、鍛冶師の前で絶対に言っちゃいけない事言ってるの分かってる?」
「……ああ。済まない。確かに失礼だったな。」
装備品をコレクションするのは単なる癖だが、確かに造ってくれた鍛冶師の前で言う事では無かったな。
「……これは何だ?」
貴族が持つ様な、槌と剣の紋章の入った盾……頼んだ覚えは無いが。
「サービスよ。頑丈さは保証するわ。まあ何にせよ、これなら注文通りだと思うけど?」
「ああ。満足だ。私だけの防具だろう?初めてだ……それにいい品だ。感謝する。神ヘファイストス。」
私がヘルムを外しながらそういうと、ヘファイストスは少し固まる。
「あなた、そんな表情も出来たのね。何時もそうしてればいいのに。」
……どんな表情だ?別に普通だと思うが。
「まあ、何かあったら言ってくれ。その時は力になる。」
「ふふ、じゃあその時は頼んだわよ。」
そうして、私だけの新たな防具を手に入れた私は何時もよりも少しだけ足取りが軽くなるのだった。
休みだー。(毎日甥っ子の世話してるから暇では無い)
あせんちゅはどのファミリアに加入するか。
-
ロキ・ファミリア
-
ヘスティア・ファミリア
-
ヘルメス・ファミリア
-
フレイヤ・ファミリア
-
ヘファイストス・ファミリア