シリウスさんは断れない   作:ペッコ3世

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タニノギムレット・シンボリクリスエスを副会長としたシリウスの新生徒会が発足。
しかし、やはりシンボリルドルフという「絶対的存在」の影響は計り知れず・・・?


第2話「シリウス政権」

衝撃の発表があってから、休憩時間ほとんどのウマ娘の関心事は生徒会人事の事であった。

副会長にタニノギムレット、シンボリクリスエスを据えた人事はいかにもシリウスという感じで、「ルドルフ時代にはない」ものを期待する者もあった。

反面、ルドルフら凍結状態の前生徒会は「安定していた」と語る者も多く、シリウス政権は三日天下だろうという声もあがった。

 

【放課後・生徒会室】

さてもさても、生徒会室はシリウスを慕うものたちで溢れかえっていた。

 

「センパイ、私ここ来るの初めてで・・・すごいっすね。こんな数のトロフィー」

「はぁーなんかまぶしいっす!おっかねえっすね先輩マジで!」

「こっからはじめちゃいましょ、シリウス先輩の時代」

「うるせェ。御託並べる暇があんなら書類をまとめろ」

 

(チッ、まるでこうなることを読んでいましたと言わんばかりの整理ぶりだ)

 

まとめられた書類を概観したシリウスが心の中でつぶやく。

 

「あー・・・そういうの、ウチら苦手っすよ?」

「むしろアタシ、先輩に勉強教えてほしくて・・・」

「はっ、生徒会室で追試の勉強か。皇帝サマもさぞや悲しまれる事だろうなァ」

「ですよね!」

「だがあいにく気が乗らねえ。場所を変えるぞ。生徒会室は閉める」

「ええーーここでやりたいー」

 

文句を言うウマ娘たちなんてどこ吹く風、シリウスが生徒会室を施錠した。

 

「あいてる教室を占拠しろ。会長様が来るとな」

 

【三女神像前】

「あ、あのう・・・よかったらこれ・・・」

「ドトウじゃない。何してるの」

 

メイショウドトウが、アドマイヤベガにチラシのようなものを渡していた。

 

「オペラオーさんが、ギムレット副会長と果し合いをすることになったんですぅ~・・・も、もちろん喧嘩じゃないですう。VRウマレーターを使った本格雪合戦で」

「なっ・・・ギムレットさんって、今朝副会長になったばかりじゃないの?!」

「はいぃ。でも、オペラオーさんが納得がいかないから星を一つ落とすと・・・」

「はぁ・・・・・」

 

アドマイヤベガが天を仰いだ。

 

「あのねドトウ。今回のシリウス先輩の件は全てが未確定で情報も確かではないのよ。あれが嘘だって話は聞かないからきっと生徒会で何かはあった。でも、ルドルフ会長が完全に生徒会長じゃなくなったわけじゃないし、そもそも・・・」

「おお!アヤベさんじゃないか!!」

 

ドトウを諭すアドマイヤベガを見つけたテイエムオペラオーが、微笑みながら小走りで近づいてくるのを見て、アヤベは踵を返した。

 

「行くわ」

「待ちたまえ!我が軍最強の一等星は君を除いて存在していない!」

 

【レース場】

シリウスが会長となったことで心配されていたのはレース場のことだった。

彼女の取り巻きたちはルール違反のグランド使用で知られており、レースを目指して努力しているウマ娘にとってはシリウスが会長になるというのに不安を持つ者もあった。しかし――

 

「あ、あれはあれで」

「使いにくいけど・・・」

「でも、やんちゃな子たちが占領してるよりはいい・・・かな?」

 

1人、遠く離れていても異様な空気感でレース場を監視する目があった。

シンボリクリスエスである。

彼女の存在は、真面目に練習をするものには「いい緊張感」を、よこしまな気持ちを持つ者には「強烈な威圧感」を与えるのだった。

 

練習時間の合間を縫って不良たちが一部を占拠していれば、クリスエスは颯爽と近づいて声をかける。

 

「なんだよ。シリウスさんが会長になったんだろ?前からここは私がシリウスさんとよく使ってた場所なんだよ!」

「Sorry.ここは今そのシリウスの指示で私の判断に委ねられている。そこはあの子たちが使う予約が入っている」

「・・・チッ」

「く・・・クリスエス先輩!ありがとうございます!」

「問題ない。命じられたことをやったまでだ」

 

【空いていた教室】

シリウスシンボリは空いた教室を見つけ、そこでいつもの取り巻きと駄弁っていた。

そこへ、せわしい足音がいくつも迫ってくる。

 

「ここにいた!シリウス会長!」

「その呼び方はやめろ。なんだ?」

「あの、トコトコさんたちが風紀委員と大もめしてて」

「好きにさせとけ」

「会長!ゴールドシップが水着で撮影会を始めました!結構規模が大きくて」

「誰か止めて来い」

「会長!不審者が保健室で謎の実験を始めてます」

「不審者か。誰かは見当がつくが・・・追い返せ」

「先輩・・・あの、お忙しいですよね」

 

勉強を教えてもらっていたウマ娘がシリウスの顔をうかがった。

 

「構わねえ。次の問題にいくぞ」

 

シリウスの顔から昨日まであった余裕が少し欠けたような気がしたのは、取り巻きの多くの共通認識だった。

 

【トレセン学園・花壇】

トレセン学園の美しい花は美化委員によって細かい管理がなされている。

この強烈な一日においても、花は花、ウマ娘の事情など一切関係はない。

 

「あっ、あのっ・・・」

「緊張させてしまっていたらすまない、ニシノフラワー。いつも通りやってくれ」

「シリウス先輩の取り巻きがもし暴れたとして、最も防衛が困難なのが花畑だ。そこへ我々が入るのは当然の道理だ」

 

補足するようにエアグルーヴが言った。

 

「は、はい。では、いつも通りグループごとに分かれて作業をしてもらいます。今から割り振りをお知らせしますね」

 

(ほぉーう、どこにいるかと思ったらここに隠れていたとはね~あんな変装しなくてもいいのに・・・おもしろ)

 

遠くの木の上から望遠鏡でフラワーの様子を見ているのはセイウンスカイ。

なんと、会長職を一時的に追われたシンボリルドルフ、エアグルーヴ、ナリタブライアンは美化委員の手伝いとしてなぜか変装して参加していた。

 

(私は全くの無関係なのに)

 

このゴタゴタで一番損をしているのはナリタブライアンかもしれなかった。

 

【理事長室前】

(理事長は今・・・留守だな)

(忍び込むなら今しか・・・)

(情報を仕入れて売れば金にな・・・)

 

「だ・れ・で・す・か?」

「?!」

 

理事長室の前にいるウマ娘が3人、3人とも背後に迫られたことに気づかなかった。駿川たづなである。

 

(嘘だろ?気配を消してたのか?)

(それかただ単にその、速かったってことか?)

 

「言葉も出ませんか?ここへ泥棒に入ろうという度胸は認めますけど・・・その度胸、レースで活かしていただけないでしょうか?」

「あ、アンタがどんなもんか知らねえけど。レースに出たことのない奴に言われたくはないんだけど」

 

不良ウマ娘が懸命に言い返すが、たづなは涼しい顔をしていた。

 

「あら。じゃあどうして私の接近に気づかなかったんです?」

「そ、それは・・・。い、いつも思ってたがあんた一体何者なん・・・」

「すみません♪忙しいのでこの辺で♪」

「うわっ・・・」

 

たづなの指し示した先に、トレセン学園生徒指導部の先生が立っていた。

 

(さて。ルドルフ会長の威光がどれだけのものだったかってことですね)

 

たづなの目は、シリウス政権への大雑把な軽蔑があった。

しかし、理事長室の中にいた秋川やよいは違った。

 

「失礼します・・・おられたのですか?ここに来た者たちの接近を知りながら・・・理事長、あまりに無防備すぎます!」

「そんな目をするな、たづな」

「変な目をしていましたか」

「ふふ。まあいい。今日の学園内の荒れ方は十分に把握している。だが、ある程度予測はできていた事態だ。それにこれもまた私たちが見なければならない現実ッ!」

「ルドルフ会長に任せておけば何事もなかったでしょう。事実、ルドルフ会長は昨夜の一件をもみ消すつもりはなかった。1日1日の練習が勝利を分けることは理事長もよくご存じのはずです・・・」

「その機会は全ての生徒に開かれている。逆に、こうした刺激によって何かを会得するウマ娘がいないとも限らん!」

「そうかもしれませんが・・・」

「大丈夫だ。私はシリウスの真意を知っている」

「?!」

「そして、それは恐らくルドルフも――」

 

【花壇】

(エアグルーヴ、聞け)

(はい会長)

 

作業中のルドルフがエアグルーヴに囁いた。

 

(私はシリウスと古い仲だ。今回の件で彼女を憎むつもりはない。それに、実を言うと今日の出来事にはシリウスから私へのメッセージが隠されている)

(というと?)

(私に戻って来いと言っている。いつでも戻る準備をしておけ、エアグルーヴ。作業中失礼したな。ちょっとブライアンのところに行ってくる)

 

「畑仕事など久しくやっていなかったよ・・・私も視座を変える必要があったかもしれない。美化委員の仕事、頭ではわかっていたが非常に困難な仕事だ。いつもありがとう」

「あ、あの。レースのことなんですけど。聞いてもいいですか」

「何かな」

 

ルドルフに付き添っている美化委員のウマ娘が声をひっくり返しながら訊く。

 

「私、プレッシャーに弱くていつも負けちゃうんです。でも、勝てそうな時は勝てそうな時で油断しちゃって・・・すみません。美化委員失格なのはわかってるんです。でも会長のノウハウを聞く事なんてなかなかできないから・・・」

「ふふ。名前は?」

「ふ、フローズンスカイと言います」

「そうか。フローズンスカイ、勇気をもって質問してくれてありがとう。しかし残念至極な話だが、私にもその問いへの答えはないんだ。レースは生き物。場場の状態、天気、体調。時に<運>が関係することさえある。精神が弱くても勝負強いウマ娘を私は知っているよ。拍子抜けするかもしれないが、よく食べてよく寝る事。これが一番だ。そして、自分にあった正しいトレーニングを探してごらん。もしレースに勝つことができないとしても、君は必ず何かを掴む」

「あ・・・・・あ・・・・・ありがとうございます!」

 

ルドルフは意外にも、休息ととれる時間を過ごしていた。頼ってもらえたことが何より嬉しかった。

奇しくも、奪われた側は安穏の一日を、奪った側は本来とはかけ離れた一日となった。

この状態は、もちろん一日だけでは終わらない。

 

 

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