シリウスさんは断れない   作:ペッコ3世

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第3話「巨大な感情」

【シリウスとナカヤマの部屋】

「ただいま・・・っと・・・」

 

ナカヤマフェスタが、着替えもせずに布団でくたばっているシリウスにそっと布団をかけた。

 

(随分と疲れたみたいだな)

 

同室のよしみで、ある程度以心伝心はできる。

本来「枠」にとらわれる性ではないシリウスのことが内心心配だった。

なるべく音をたてないように、ナカヤマが寝床に入る準備をする。

 

翌朝、ナカヤマが起きると既にシリウスの姿はなかった。

 

【屋上】

朝5時半。少し寒い風が冬の訪れを予感させる。

薄着では肌寒い屋上で、シリウスは1人遠くを見つめていた。

 

「随分と朝が早いんだね、会長さん」

「チッ」

 

こんな時間帯から屋上で風を受けるウマ娘など限られている。

声でそれがミスターシービーと分かったシリウスは舌打ちで返事をした。

 

「ほんっとうに、巨大な感情だよね。アンタのルドルフに対する感情・・・嫉妬しちゃうなぁ?少しは私に向けてくれてもいいと思うんだけど」

「余計なお世話だ」

「ルドルフもルドルフだよ。なんの抵抗もなく受け入れちゃってさ。水と油のように見えて、実は同じコインの裏表。いいなぁ、そういう存在がいるって・・・。っと、1人になりたいところを邪魔しちゃいけなかったね。ギムレットはともかくとして、クリスエスの起用はばっちりハマってたよ。おかげさんで昨日はいつもはないピリピリ感で練習できた。ありがとね。会長さん」

 

シービーは風のように去った。

誉め言葉すら今のシリウスには煽りに聞こえるが、仕方ない。

自分の子飼いだからこそ、解き放たれれば何をするかわからないことくらいはわかる。

クリスエスの起用はすぐに決まった。

シービーが消えた屋上で一人、遠くを見る。シリウスの脳裏に浮かんでくる映像があった。

 

・・・・・

 

「シリウス、すまない・・・一緒に外国に行くことが叶わなくなってしまった」

「冗談を言え」

「冗談でこんなことを言うと思うか」

「一緒に世界をとるって約束したじゃねえかよ。なんでだ!」

「ああ。約束したとも。しかし体調がここのところずっと悪くてね。トレーナーや関係者と話し合った結果・・・」

 

それ以上は聞かなくてもわかる。

部屋を飛び出していったシリウスの姿はあっという間に見えなくなった。

その後――シリウスは単独で世界を相手にすべく海を渡った。

 

「あら。あなたが日本のウマ娘?今日はよろしくね♪」

「ふん。世界の連中ってのは態度もでかいんだな?」

「強いから、よ?あなたと違ってね」

「言うじゃねえか・・・」

 

「ああーっと、日本のシリウスシンボリまたしても敗北!海外の場場に苦戦しているでしょうか」

 

シリウスシンボリは海外遠征の間一度も勝利することはなかった。

 

「クソッ!」

「シリウス、次の日程についてなんだが」

「うるせえ!今は引っ込んでろっ」

「・・・すまん」

 

海外でスタッフに当たるのもそう珍しい話ではなくなっていたシリウスだが、当然この敗北が「ベストパフォーマンス」でなかったことは誰の目にも明らかだった。

 

(燃えねえ。確かに世界のウマ娘は強ェ。だが、そうじゃねえんだ。私の弱さ?それもある。長旅によるコンディション不良?それもある。だがそれが本質じゃねえ。もっと滾るものが・・・ルドルフ(あいつ)の息遣いが、足音が。私の世界に押し寄せるあの大波が、私の強さのひとつだった。ライバルの存在が。現に、ここまでのレースでも()()()()()()()()()()()()が絶対にある・・・それに、アイツがいたら私が勝てていたレースも・・・)

 

後悔しても仕方がない。

シリウスはそれでも戦い続けて日本に帰った。

 

(結局一勝もできなかったか・・・)

 

シリウスは、それが「寂しい」という感情であることにやがて気づく。

しかし、その事を口にしたことは一度もない。

 

・・・・・

 

(チッ、つまらねえことを思い出しちまった)

 

戻ろうとしたシリウスの目の前にはクリスエスが立っていた。

 

「いるなら言え。どうした」

「・・・今日の日程だ。授業が終わってからの時間、事務処理をする人間が極端にいない。君の仲間に頼める人間は」

「いねぇ。私がやる」

「そうか。私は今日もレース場を?」

「ああ」

「わかった」

 

【放課後・生徒会室】

「シリウスさん大変っす!」

「何だ」

「ギムレット先輩とオペラオー先輩が、<副会長の座をかけて>戦い始めました!」

 

(起用にミスがあったな)

 

「やらせとけ・・・オイ、少しでもいいから私を手伝え」

「は・・・はい!」

 

シリウスは大きなため息をついて机に向き直った。

 

【VRウマレーター専用部屋】

 

同時刻、行動力の塊たる二人は自分達のチームメイトを集め、VRウマレーターで本格的な雪合戦による対決を行おうとしていた。

タニノギムレット陣営はウオッカ、ダイワスカーレットなど一級のウマ娘が集結。

しかしオペラオーの陣営もメイショウドトウ、完全にもらい事故のアドマイヤベガが参加。

それに「強者たちから学びたい」同級生や後輩がどんどん集まり、気づけば33vs33の大戦となっていた。

 

「制限時間は前半30分、休憩15分を挟んで後半30分。延長戦はなし、それまでに9つの拠点のうちより多くの拠点をとっていたほうが勝ちです」

 

巻き込まれたナリタトップロードが審判役を務めていた。

 

「では、ゲームスタート!」

「ハッ!秘められし戦闘協定(ドクトリン)を持つ我々に挑む小さき王よ!中央で一騎打ちと行こうではないか!」

「望むところだ邪王・ギムレット!キミの破壊を・・・いや、耽美なる表現を止める・・・否!越すことができるのはボクだということを教えてあげよう!ドトウ、10人引き連れて右へ展開!アヤベさんは残る20人を連れて左へ」

「ふあわぇっ?!は、はいぃぃ!」

「ちょっとあなたはどうするの?!」

「ボクは一人で中央へ行くとも!」

「・・・っ!!20人、こっちへ」

「ギム先輩!どうするんすか?!」

「ウオッカ、スカーレット、それぞれ15人率いて左右に展開しろ!私は単独で中央だ!小さき者に鉄槌を!」

「了解っす!スカーレット、足引っ張んじゃねえぞ」

「こっちの台詞よ!」

 

【右翼 ドトウ軍vsウオッカ軍】

「押せ押せーーっ!!」

「はわわわ・・・か、壁に隠れてくださいい!隙ができますから・・・そこに3人一組で・・・あ、あなたは強そうなので私が守りますぅ・・・」

「はい!?」

 

VRとはいえ大自然をモチーフとした戦場で、ウオッカは興奮を隠しきれずどんどん前に攻め込んでいく。

これを受けてドトウはウオッカ隊の前進を正面から受けず、守って隙を突く作戦に出る。

 

【左翼 アヤベ軍vsスカーレット軍】

「堅実な攻め方ね。我慢比べよ、凌いで!」

「負けるわけにはいかないけど、ウオッカと同じ攻め方は面白くないわ!」

 

他方、ダイワスカーレットは3人ずつに分けた5部隊を器用に展開。

アヤベはそれに対し5人一組を作り、一隊の強さを高めてそのうちひとつに潜伏。

必殺の部隊としてスカーレット隊の隙を伺う構えを見せた。

 

「?!・・・おかしいわね、1人足りないわ!」

 

【中央 タニノギムレットvsテイエムオペラオー】

「うおおおおおおお!!!」

「はあああああああ!!!」

 

二人の雪玉投げ合いは互角。

オペラオーの変則下手投げ攻撃に対して、ギムレットは回し蹴りでこれを防ぐ。

 

(すごい!すごくすごいです!体をぶつけないというルールだけはお互いにちゃんと守る騎士道精神!かっこいい・・・!)

 

トップロードは審判の役を忘れて一騎打ちに見惚れていた。

しかし、その時である。

 

「ウオッカ!!!!」

「?!」

「あんたうちから1人多く仲間とってるでしょ!返しなさいよ!」

「と・・・とってねえよ!!何言ってんだお前!」

 

スカーレットとウオッカの喧嘩がここでも始まった。

しかし―――

 

「むっ?!」

 

中央の一騎打ちに一瞬の隙間があったその時だった。

ギムレットが背後に気配を感じた刹那、羽交い絞めの憂き目に遭う。

 

「だ、誰だッ・・・!私の道を塞ごうとする者は・・・」

「マーちゃん、ヒミツ任務によりギムさんを討ち取りにきました。ばばん」

「ハーッハッハッハ、勝負あったようだね邪王よ!味方に裏切られるとは情けない!」

「マーちゃん?!参加してたの!?あんなところで何を・・・」

「おい、ギム先輩を羽交い絞めに・・・」

 

悠々とギムレットに近づいていくオペラオーを見て、ウオッカもダイワスカーレットも「足りない1人」がアストンマーチャンであり、かつ彼女が裏切っていることに気づいた。

 

何やってんだお前ェ!!!

 

ウオッカとダイワスカーレットがハーモニーを奏でたその瞬間であった。

 

「今よ!全部隊前進!」

「隙ができました!いってください~~!!」

 

アヤベ軍とドトウ軍が、こぞって攻勢に出たのである。

 

【とある喫茶店】

「ブライアンは聞かなくてもいいのですか?」

「ああ。彼女たちにはライバルの有難みをしっかり感じてほしくてね」

 

遠くの席で、困惑しているナリタブライアンに微笑み、話しかけるのはサクラローレル。

 

「それで・・・会長。お話とは」

「まあ、固くなるな。エアグルーヴ。ここはマンハッタンカフェが教えてくれた隠れた名店。しっかり休もうではないか」

「しかし生徒会の雑務を担当できる者はシリウス先輩のお仲間にはいないかと・・・早々に政権奪還を計画すべきと存じます」

「いや、心配無用だ」

 

ルドルフが微笑を浮かべた。

 

「知っての通り今回の件は理事長権限での動きでもある。我々が勝手に動くと理事長の顔を潰すことになってしまう。それに・・・昨日のトレセン学園には、我々が生徒会の時には見られなかった活気があった」

「それは・・・しかし、同時にルールを守らないウマ娘たちが幅を利かせている場面も昨日はありました。秩序を守らない者に活気が宿るのは剣呑と言えるのでは」

「そうだな。だがそれで誰かが何かを掴むとすれば、それは我々には成しえなかったものだ。シリウスの生徒会もやってみる価値はある」

「信頼しているのですね」

 

固かったエアグルーヴの表情が、少し和らいだ。

 

「こちら、カフェさんのおすすめの品でございます」

「ありがとう」

 

コーヒーと小さなケーキが二人のテーブルに運ばれる。

 

「ほう、確かにおいしい・・・」

 

ケーキを楽しみ、コーヒーを少しずつ口にするルドルフがぽっ、と口を開いた。

 

「少し昔の話をしよう。私とシリウスの話だ」

 

ルドルフの口調は、今までにないほど優しいとエアグルーヴは思った。

やがて「女帝」は、「皇帝」のもう一面を知ることとなる。

 

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