語られる皇帝の過去とは・・・?
【喫茶店】
「実は、私とシリウスが2人で海外遠征をする話があったんだ。しかし――私の体調不良で頓挫してしまった。シリウスは真面目で正義感が強い。私が良くない大人にからかわれた時は、真っ先に飛んできて大人と喧嘩することだってあった。今でこそ不良のように振舞っているが根は変わってないだろう。むろん、海外遠征には私も無理をして参加する予定だったが・・・流石にトレーナーや関係者に止められてね。それでシリウスは1人で海外に」
ルドルフがコーヒーを一口飲んで続ける。
穏やかな口調で、「玉座を追われた者」とは思えないほどの落ち着きぶりであった。
エアグルーヴはその様子に、自分の方が前のめりになっていたことに気づき、平静をさらに取り戻していった。
「君も知っているかもしれないが、シリウスは海外で一度も勝てていない。ダービーを勝ったウマ娘だ。実力は確かにあるが、海外では全く自分のパフォーマンスが出せていなかった。あのシリウスが空回りしてるようにさえ見えた」
「シリウス先輩にとって会長はライバルだったのですか?」
「そう思っていただろう。しかし世間はミスターシービーと私の対決に夢中だった。シリウスとしてはそれも気に食わなかっただろうな。自分こそが私の幼馴染であり、ライバルに相応しいと思っていたのではないかと思う。だがシービーは当時本当に久々の「三冠ウマ娘」だ。これもまた特別な存在。世間は何も悪くないが・・・私が幼馴染という場所から遠ざかっていくのが寂しかったのかもしれないな」
「そんな子供みたいな話が」
エアグルーヴが顔をしかめる。
「ふふ。お互いにちょっと強くなりすぎたのかもしれないね。いくら負けたとはいえ、10戦以上海外でレースに出るというタフネスは尋常ではない。心身ともに強いウマ娘でなければ到底できない芸当だからね」
「しかし、会長の海外遠征とりやめは仕方のない事だったのですから、会長を恨むことはないでしょう」
「そこが彼女の不器用なところなんだよ。負けたことを恥じる事もなければ、そこで再起不能の怪我をしたわけでもない。だが彼女はそこに何かを感じ取った。私が三冠をとってから、いわゆる
「そうでしたか」
「さてエアグルーヴ、君は我々がどうやって生徒会に返り咲くのかを気にしているのだろう。案ずるな。だが今ではない。あまりに早く返り咲いてしまうと、シリウスの尊厳に関わる。必ずその時は来るよ」
ルドルフの微笑みに、焦りは微塵もない。
【トレセン学園・VRウマレーター部屋、ギムレットvsオペラオーの雪合戦】
ところかわってトレセン学園の「副会長取り合いの戦い」。
ギムレット軍を裏切ったマーチャンの活躍によりタニノギムレットはオペラオーの巨大雪玉を食らい、中央で伸びていた。
「う・・・三女神よ・・・私を救いたまえ・・・」
「おお、邪王に反旗を翻す勇敢な旗手よ、ボクと共に天下をとろうではないか!」
「では、ウオッカを成敗してまいります」
テイエムオペラオーは中央の陣地をとり不動の構え。
アストンマーチャンはライバル・ウオッカの軍に単騎攻め込む。
アドマイヤベガは一応、と自分の部隊から3人をオペラオーの本陣に回し、スカーレットへの攻勢を強めていた。
「そのまま前線を押し込むわよ」
「ああもう!油断した!ほんと、マーチャンったら・・・」
とはいえ、そういうスカーレットの声は優しさを帯びている。
雪合戦は、この後テイエムオペラオー優位で進み逆転されることはなかった。
こうして、タニノギムレットは敗北。
わずか1日で、副会長の座はテイエムオペラオーに奪われることとなるのであった。
一方、トレセン学園の各所で大忙しのウマ娘があった。
風紀委員長・バンブーメモリーと風紀委員のウマ娘たちである。
「シリウスが会長ならいいだろう」と、箍の外れたウマ娘たちが食べ歩きや廊下の占拠などを度々行い、そのたびにバンブーたちは出動しこれと激突していた。
「コラーッ!ここは生徒全員の廊下っスよ?!」
「だり。風紀委員長だ」
一般風紀委員の声が通じない強敵には、バンブーメモリーが自ら出てこれを追い払った。
「生徒会長が変わればこうも変わるっスか。燃えてきたっスね・・・よし、一度風紀委員を集合させるっス!全員、集合!決起集会をするっスよ」
こうしてバンブーメモリーは風紀委員の結束をさらに強めるべく大激励集会を急遽開催。
時を同じくしてサクラバクシンオーの陣営でも・・・。
「バクシン!!!!」
「うっさ・・・」
「さあ!挨拶をしないのであれば!共にバクシンの心を養うしかなさそうですね!バクシンすれば挨拶は自然に出てくる!さあ皆さんご一緒に!バクシン!!」
バクシンオーは彼女なりに不良ウマ娘と対峙する。
他にも、
「コパノリッキーの風水教室」
「マチカネフクキタルの開運占い部屋」
「にんじんあげるよ!タキオンの実験教室」
「スイープの大魔術研究部」
「苫小牧フェア」
「マベちんマヤちんのマーベラスなレース講座」
「ゴールドシップの焼きそば講習会&ダイオウイカ討伐のすゝめ」
などが同時多発的に開催されており、まるで文化祭のような日になっていた。
その様子はウマトックやウマッターで共有され、トレセン学園は大いに盛り上がった。
そしてこの状態はしばらく続くこととなる。
バンブーメモリーの激務を察したタマモクロス、イナリワンたちが風紀委員を一時的に手伝う格好となり、発光するウマ娘を取り押さえたりダイオウイカ討伐に向かおうとするウマ娘を引き留めたりと、自ら動くウマ娘たちも多く現れた。
「おいしいな、ハスカップ入りカステラ」
「言うてる場合か!ゴルシを止めに行くでオグリ!」
ある日苫小牧フェアに立ち寄ってしまったオグリキャップとタマモクロスの掛け合いが漫才みたいだと、人が人を呼び何気にここが一番盛り上がる。
「あらあら。悪い子ね~。ママの助けが必要でちゅか~?」
「ウワーッ、スーパークリークだ!」
風紀委員の力が及ばないところには、音もなくスーパークリークが現れ「軽いホラー」とささやかれ始めていた。
副会長の座を奪ったテイエムオペラオーは、結局シリウスのところに挨拶に行くこともなく独演会を予定、のちに決行し大盛況。
都落ちの形となったタニノギムレットはあちこちで柵を破壊し始めたためシリウス直属のウマ娘たちが全力でこれを止めに行く場面もあった。
めちゃくちゃだが、これはこれで楽しむウマ娘もあった。
こうした日々がなんだかんだ1か月経過する。3日も続かないと言われていたシリウス政権は、1か月持ちこたえた。
【1か月後のある日・練習用プールの更衣室】
「今日もよく練習したね!」
「うん・・・」
「どうしたの、キタちゃん」
「ううん、あの子ね、今まではプールで見なかったけど最近見るんだ。で、いつも暗い顔してる」
キタサンブラックの目線の先に、うつむくウマ娘の姿があった。
「私も気になってた。出番じゃない?お助けキタちゃんの!」
「・・・!そうだよね!ちょっと行ってくる」
キタサンブラックの行動は早かった。
「あの・・・最近よくプールに来てるよね。いつも暗そうなんだけど・・・何か悩み事ですか?」
「あ、いや・・・」
「お助けキタちゃんが解決できることでしたら、協力しますよ?」
「いやその・・・会長が」
「会長・・・?シリウスさんのことですか?」
「はい。なんか、寂しくって。・・・わ、私キタさんのレースよく見てます。今、話しかけられてすごく嬉しくって・・・ちょっと相談してもいいですか?」
よほど切羽詰まった様子がうかがえたが、この様子はキタサンブラックの心を刺激する。
「もっちろん!なんでもどうぞ!」
「その・・・私、よくシリウスさんにレースのこと教えてもらったり、勉強教えてもらったりしてたんです。だけど最近会長になったじゃないですか。そしたら、どこにいるのかもよくわかんなくなっちゃって。なんか、シリウスさん大丈夫かなって。あ、あたしが心配しなくても大丈夫ですよね!すみません、こんなことで・・・」
「全然!私だって同じ立場ならきっとそう思います。憧れの人となんか距離を感じちゃってるってことですよね。こういう時は誰に相談すれば――」
「あの~、それも大事な生徒の意見、ですよね。私、ちょっとアイデアがあるんですけど」
キタサンブラックと悩めるウマ娘の話に割って入ったのは、カレンチャンであった。
作中にでてきた「ハスカップ入りカステラ」は実在してて、「よいとまけ」っていう名前で売ってます。
私事ではありますけど次のチャンミでホッコータルマエにお世話になるので、ささやかながら宣伝をば・・・。