空はなんと素晴らしいものか。
見上げれば視界いっぱいに広がる大海原。そこを駆ける一羽の鳥に魅了されて何年たっただろう。
今日、俺は航空機のパイロットになった。
(ニコラス・ワグネルの日記より抜粋)
「こちらワタリドリ。離陸許可を願う」
【こちらHQ、離陸を許可する。良いフライトを】
「こちらワタリドリ。了解した」
ブースターを点火して徐々にスロットルを上げていく。それに比例するように俺の愛機も徐々に速度を上げていき、自由な空へと羽ばたいた。
時は宇宙世紀0079年10月11日。地球連邦とジオンの戦争の終わりは未だ見えない。
【こちらHQ。ブリーフィングでも説明したが、今回の任務はノルマンディー地方での偵察任務だ。最近連邦の奴ら、きな臭い動きをしているから注意して偵察してくれ】
「同じ内容を二度も聞かさないでくれ。任務の概要は理解している。安心して別業務にあたることを強く勧める」
【目を輝かせていた新米パイロットが今じゃこの様か。早いとこ連邦も降伏してくれないものか・・・おっと、管制任務に戻らないとな。健闘を祈る】
「了解した」
航空力学の美しさのかけらも持ち合わせていない戦闘機『ドップ』
それが俺の愛機だ。連邦軍のセイバーフィッシュの様な優美な見た目とはかけ離れたずんぐりむっくりの機体。
そんな機体から発せられるパワフルな加速力はモビルスーツが戦場の主力となった今でも偵察用として用いられている。俺は重力戦線の初期からオデッサ基地で対空要員として迎撃任務に就いていた。
しかし、ミノフスキー粒子の広範囲散布とそれに伴う敵軍の戦略方針の変更により対空任務は数を減らしていき、今や偵察任務が大半を占めるようになった。
その頃になると他の対空要員はモビルスーツへの適性検査を受けて、戦闘機乗りの兵舎から一人、また一人と数を減らしていった。最終的に残った人員は俺含めて10人。欧州最大の基地であるオデッサでこの様なのだ。他の基地では目も当てられない事になっているだろう。
「ミノフスキー粒子なんてクソくらえだ・・・ったく」
一人そう愚痴っても誰も答えない。空は自由だが、その代償に孤独を味わうことになる。俺は元から群れることが嫌いだったから特に問題ないが、転属していった対空要員はそうではなかったらしい。
「・・・・くそ、この日に限って雨かよ」
暫く進んでいると前方に大きな雲がここから先を塞ぐかのように存在している。今回は偵察任務・・雲によって地表が見えないのであれば現在の高度から降下する必要がある。
視界不良の状態で敵戦闘機と鉢合わせでもしたらどうなるかなんて、開戦からこっち、嫌というほど経験している。
任務だから仕方なしと割り切って、雷雨の中に突入した。その瞬間、上下左右から叩きつけられるような強風が機体に襲い掛かる。ドップはその見た目上、風の影響をもろに受けやすい構造だ。機体の安定性を得ることは困難だが、俺は操縦桿や計器を操作して何とか安定させることが出来た。
「よし・・・よし、雲を抜けたな」
雨によって視界が遮られているが偵察任務を行う事が出来る。そう思った瞬間前方に何かが見えた。
「なんだあれは?」
疑問に思い、偵察用に装備していた双眼鏡で確認をすると、5機の飛行機編隊が俺に背を向けて飛んでいた。見た目で判断するに、あれは戦闘用の機体だろう。ジオン軍にこんな見た目の戦闘機を実戦配備したなんて情報は入っておらず、俺はそれが敵戦闘機だと理解した。
「・・・無線連絡でコンタクトした場合のリスクが高いな・・今なら奇襲攻撃で二機は落とせる・・・よし」
ドップのエンジン出力を一時的にWEP状態にした俺は敵戦闘機編隊に近づいた。
「この戦闘機はなにをしているんだ?ミノフスキー粒子下ではレーダーは近距離以外では頼りにならないってのに・・・」
そうボヤき、対空ミサイルを発射した。戦闘機に向かうミサイルを尻目に、別の戦闘機に狙いを合わせてトリガーを引いた。
ドドドドドドドドド
ドップの30mm6連奏戦闘砲から発射された銃弾は戦闘機に命中、爆散した。
ミサイル攻撃を行った敵戦闘機も黒煙を噴きながら墜落していくのが見える。コックピット内は炎上しており、パイロットの生存は絶望的だろう。
「これで敵は残り3機!!」
【隊長がやられた!!あいつ、無警告で撃ってきやがった!!】
【敵はドップ一機だ!やっと配備されたこの『TINコッド』で敵を粉砕してやる!!】
「なるほどなぁ。この機体はTINコッドっていうのか・・にしても幸運だ。オープン回線でやり取りしてるってことは隊長機と熟練パイロットはこの編隊から消え失せたってことだ・・・やりようはあるな」
【おい、スコール3!今は戦闘よりHQに連絡することが優先だろ!】
【ほざけ、スコール4!不意打ちを食らったとしても相手はドップだ。報告なんて事後でいいだろ!!】
「おいおいマジかよ。規則ってやつの意識徹底もしていないのか連邦は・・・気乗りしないがしょうがないな」
明らかに経験不足な敵を目の前にした俺は、無線の電源を入れて彼らとコンタクトを取ることにした。
「おい、連邦のクソども。黙っていればオープン回線でベラベラとくっちゃべりやがって。この・・・なんだ、TINコッド?は新型兵器っぽいから投稿勧告をしてやる。どうする?」
【な?!っ誰だお前は・・・ジオンのパイロットか!。よくもアハト隊長を落としてくれたな!!】
【よせ!スコール3!熱くなったら敵の思うつぼだ!!・・・投稿勧告は嬉しいが生憎作戦行動中でね。気持ちだけ受け取るよ】
「連邦の新米どもにも将来有望そうな奴がまだいるとはな・・・良いだろう。空の藻屑にしてやる!!」
【行くぞスコール3、スコール4!!】
【お前は俺たちの上官じゃねぇぞ!!ったく!!】
【こちらスコール4了解。エンゲージ!】
前方のTINコッドがそれぞれ別々の方向に旋回した。どうやらかく乱するようだ。
「うーん。スコール4は規則に忠実そうだが、予想外の事には対応できなさそうだな・・・敵HQに連絡しそうだから先に墜とすか」
最初に撃墜するターゲットを決めた俺は、『教科書通りの動きをしてそうな戦闘機』を探した。
「・・・多分あれだな・・・よし。」
ドップの右下から後ろに回り込もうとしている戦闘機を発見した俺は、それが件のスコール4だと確信して、追跡を行った。
「・・・・スコール4といったな。教科書通りの動きしかしていない奴は後方の基地でテストパイロットでもしていたほうが良かったのになぁ」
【・・・なっ?!加速力ではドップよりも優れているはずなのに何故?!】
「・・なるほどな。加速力はドップよりも早いと・・・実戦経験の差がここで活きたな。あんたの動きは教科書通り過ぎて加速度の差を容易に埋めることが出来るんだよ!!」
本来であれば地上目標に対して使う6連装ミサイルランチャーを発射した。直線にしか移動しないランチャーを偏差的に発射した事で、旋回機動をとっていたTINコッドに命中。爆散した。
【アルバート!!・・・クソがぁ!!!】
敵が俺の後ろを取ってミサイルを発射した。そのミサイルを確認した俺は、回避機動を行いミサイルを振り切った。
「新米にしてはよくやるな・・・だが、俺に勝つには後5年足りねぇよ!!」
一気に出力を0まで下げた後、機体をやや上向きにすることにより、後ろについていた敵機をオーバーシュートさせた。瞬間、出力をWEP状態にして急速に加速。バルカン砲でコックピットを粉砕した。
残りの敵機が1機となったところで、俺は再度無線を入れると、彼に語り掛けた。
「お仲間さんは死んだ。ここで死ぬか、降伏して俺の基地に行くかどっちがいい?」
【ほざけ!。ジオンの屑どもに屈する訳ないだろ!】
「OKわかった。その勇気に免じて・・・本気で殺しにかかるぞ」
そういうと、俺は敵戦闘機から急いで高度を取ると、雲の中に入って隠れた・・・と見せかけて雲伝いに敵の斜め後ろに飛び出した。
【っ?!・・・な?!消えた?!】
「もう少し経験を積んだらいいパイロットになれただろうに・・・残念だよ」
ドドドドドドドドド
ドップから放たれた凶弾はTINゴットを完膚なきまでに粉砕し、地上に墜落した。
「敵編隊全滅。MSがいない戦場だと俺はエースパイロットの称号をもらえたってのに・・・そろそろノルマンディーに着くか・・・?!」
その時俺は悟った。
なぜ新兵器がこんな場所を飛行していたのか。彼らが言っていた作戦行動中は偵察任務ではないのではないのか?
もしそうなら傍受される事を覚悟のうえでHQに連絡したほうが良いのではないか?
そんな事を考えずに戦闘に現を抜かした俺自身を憎んだ。
眼下には連邦軍が誇る陸上戦艦ビックトレーと大量のMS、歩兵、爆撃機・・・兵器の見本市かと疑う光景が広がっていた。
「なんだこれは・・・早く司令部に連絡しないと!!」
急いで無線をONにした俺は周波数をジオン公国軍の回線に合わせた。
「こちらワタリドリ!緊急事態発生!繰り返す、緊急事態発生!!・・ノルマンディーに・・・ぐぁ!!」
この光景を知らせようとした俺が搭乗するドップに大量の弾幕が降りかかった。そのうちの数十発が直撃し、炎上した。
真っ逆さまに墜ちるコックピット内で薄れゆく意識のなか無線に呼び掛けた。
「敵の大部隊が進行中・・・目標は・・・オデッサだと思われる・・・」
あぁ、ダメだ。脱出装置が逝かれてやがる・・・今度のお迎えは俺らしいな・・・・あぁ、雨は止んだのか・・なんて素晴らしい・・・蒼い空なんだ。
そこで俺の意識は永遠の闇に包まれた。
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ジオン公国軍
欧州方面軍
オデッサ防空隊
ニコラス・ワグネル大尉 KIA
詳細:ノルマンディー地方偵察任務中に行方不明。連邦軍のオデッサに対しての大規模攻勢を周知させた事でジオン十字勲章授与。
敵戦闘機撃破記録:20機
敵爆撃機撃破数:10機
ガンダム世界にも戦闘機があるのにそれを書いた作品がないので書いてみようと、戦車の短編ものを書いている途中に思いつき、投稿してみました。
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