ゾンビゲー転生サバイバル百合モノ   作:バルロjp

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7daysやったことないです

24/3/21修正


整理

「NEW!ZOMBIES WORLD!」

 

これは私が普段よく遊んでいるゲームだ。

 

とてもシンプルでふざけているタイトルだが、このゲームは界隈で大絶賛を受けた程に完成された人気なゲームだったし、事実いくつかの賞を受賞していた。

 

NZW(公式略称)はパソコン、プラスステーション6、7などに展開された3Dアクションゲームで、ゾンビウィルスで滅びた世界を舞台としたオフラインorマルチで遊べる広大なオープンワールドサバイバルモノだ。ストーリ自体はあるものの、無視できるので枷にはならない。

 

ステータス・スキル性で、体を強くし装備を集めて己を強化。その他強化要素としてウィルス変異、サイバネ化あり。資源を集め、拠点を作り、ゾンビや変異動物からの襲撃を防ぎ、ひたすら生きていくのを目的とする。

 

とにかく自由度が高く、なんだって出来るのが本作のウリ。ユーザーの声をしっかり聴いていて、コミュニティで「こういうの欲しいよなw」と話してたら次のアプデで追加されるほどできない事を潰してくる。

そのボリュームもあってWiki泣かせだ。もちろん面白さ故、多くの有志が情報を集め書き連ねていったが、Wikiの更新より本家の更新の方が早いレベルだった。

 

そしてグラフィックもいい。大容量を持ってくだけあって迫真のリアリティさや荒廃したなかでの美しさが良く表現されている。

当然そのグラフィックの良さはゾンビなどにも反映されているが、設定で落とす、またはマイルド表現も可なのでこれには心臓が弱い人にもニッコリ。たまーに出てくるNPCも作り込まれているので皆ニッコリ。

ユニークNPCは可愛い女の子が多く、この項目だけはアプデされた当日でWikiに全部の情報が載った。

 

 

さてさて、ここまではいわゆるライトな層に向けた情報だ。それだけじゃあ絶賛は受けても大絶賛にはならない。

 

本作が界隈で大人気になった理由……。

それはずばり、難易度だ。

コアなゲーマーであればあるほど、難易度がたっかいモノを求めたがる。

 

オフラインで? 楽しんで! 友達とマルチで? そりゃあいい!

次は公式鯖に? はっはっはっ……地獄へようこそ。

 

公式鯖だけは、ガチ層を取り入れるためかはたまた運営の趣味か。初心者は一週間生きるのですら大変なレベルで難易度があがる。

物資は少なく、ゾンビは数も強さも増え、敵NPCは銃火器を持ち(これは奪えるので玄人からすればありがたい)、最初期スキルポイントも減少。

ライト層はもうついてこれなくなる。

 

そしてこのゲーム、ゾンビアポカリプスを名乗るだけあって、当然の如くPKが存在する。そこでルール無用の公式鯖に行くとどうなるか。

 

もちろん殺される。

 

この世界は先に降りれば降りる程強くなれる。銃火器に始まり、スキルの差、地形把握の差、人体改造の差、各種アイテムの差……。本当に気を付けなければいけないのは、まだプログラムされた動きをするゾンビ共より、純粋な悪意を持った同じ人間(プレイヤー)だ。

奴らはアイテムのために、競争相手を減らすために、または純粋な殺人欲求から生まれ降りたプレイヤーを殺そうとしてくる。

 

物資を集めて、体を強化して。

いつ裏切るかわからないプレイヤーと手を取り合ってゾンビと立ち向かう。そしてその上でワールド全体に発生する災害に抵抗する。

その難易度故にNZWは大成功を収めたのだ。

 

 

 

で、なんで私が急にそんなNZWについて説明してるかって理由なんだけど……。

 

考え込むために壁に背中を預け腕組みしていた状態から瞼を上げる。

 

温かみなど一切感じさせないコンクリート壁。最低限の機能性のみを備えた寝袋。保存性と栄養のみを主張しているエネルギーバーの空き箱。そして、外に繋がるであろう、厳重に閉められた鉄製のハッチ。

 

えーつまりだ。

 

 

これ、NZWの初期スタート地点なんですよ。

 

 

 

頭を抱えたい。頭を抱えたいし膝も抱えて何もかも拒否したい。本当にこれは現実なんだろうか? 現実なんだろうねそうだろうね。嗚呼、私は普通にいつも通り、新しい公式鯖を選んで遊ぼうと思っただけなのに……。

 

私の腕には血が流れていた。いまだってじくじくと痛む。それはこれが夢でなく現実だということを示していた。人類はもうそろそろ痛み以外で夢かどうか判別する手段を持った方がいいと思う。

 

この傷は私が付けた。いや自傷癖があるとかじゃなくて、ほら今言った痛みで夢かどうか判別するためにね?

NZWの初期スタート地点は、このシェルターの中で固定だ。そしてシェルターの中にはいくつかスタートアイテムがあるが、その中にナイフが確定である。具体的には寝袋の下だ。寝てても武器は手の届く範囲にって設定なんだろうけど、寝心地悪そうだし、ナイフが夢に出てきそう。

で、そのナイフでちょちょいっとね? 焦りと現実逃避と謎の高揚で何も考えずにやったけど、普通に止めとくべきだった。正常な判断ができない時に行動するのは止めよう! お姉さんとの約束だぞ!

 

はぁ。ほんと、まっじ……。

 

私の顔はさっきから百面相だ。笑って泣きそうになって焦って怒って不安になって、とっても複雑な顔をしていることだろう。

でもぶっちゃけると、私は焦燥や不安よりは興奮の方が勝っていた。えっとですね。私NZW大好きなんですよ。

どんくらい大好きかって言うと、公式鯖常駐でそこそこ有名で全イベント出席してるぐらいです。中学、そして高校生活は代わりに死んだ。

 

普通に考えてほしい。そのぐらいハマってるゲーム連れてこられて、喜ばない奴いる?

 

リアルの事なんて気にしなくてもいい。どうせ向こうに私の求めるものはない。私の目的を考えるならば、リアルよりはこっちで生きた方がより近い。

 

もちろん、NZWは「住む」事を目的とするのならば、とても向いているとは言えない世界だ。なんたって「住む」より「生きる」事が目標のゲームだから。元の身体でこの世界に来ていたらそりゃ絶望していただろう。

 

しかし、この体は私の身体じゃない。シミ一つない白い肌。少しボサボサとしている灰色のウルフヘアー。自分の身体より少し盛った胸。きっと鏡を見れば左赤右青のオッドアイなことだろう。

リアルの私とは似つかないこの美少女は、私がNZWで使っていたカルシアの姿そのものだ。

 

生身で飛ばされたんじゃなく、キャラとして飛ばされたのなら希望はある。NZW世界の恩恵を受けられるならば、『(カルシア)』を最強にする手段は心得ている。

というか私のカルシアは最強なんだぞ。ウチの娘に無残な姿を晒すわけにはいかない。

 

まぁこのキャラも30回近く死なせて転生させてるんだけど。

 

っと、そうだったそうだった。言い忘れてたけど、NZWは転生システムがある。

公式鯖はたまーに世界が滅んで全員やり直しになる(阻止しようと思えば阻止できる。ただしプレーヤーの団結が必要)。だから一つの世界で永遠と生き続けるのは実質的に不可能なのだが、それだと経験や知識は引き継げるとしても萎えてしまうプレイヤーはいる。新しくスタートはハリがあるが、築き上げたモノが崩れるわけだしね。

 

そこで出てくるのが転生ポイントだ。

その世界で生きた、作った、戦った全ての経験は、次の世界に降り立つ時に若干のブーストとして引き継ぐことができる。もちろん、前の世界の100分の1にも満たないブーストだが、それでもあるとなしじゃ大違いだ。序盤が少しだって安定するのならば、前の人生より先に進める。亀の歩みだって一歩は一歩だからね。

 

そうやって、300ある公式鯖はたまーに滅んだり作り直されたりしながらも、世界に人が降り立ち転生し回っているのだ。

 

 

なお、前回の私は残念ながらそこまで生きる事ができなかった。

 

ちょっとリスク高いけど、最速でボス挑むならこれだよねーって手法を仲間と敢行してたら見事にミスったからだ。おかげで転生ポイントもしょっぱく、最初期スキルポイント+5ぐらいしかもらえなかった。

 

よって私は、スキルポイント8(デフォルトの3ポイントにボーナスを足したもの)とナイフ、そしてここに落ちている3日分の食料とバックのみでこれから戦わなければいけない。最初期は転生ポイントでブーストしても油断ならない。私の口角は自然と上がっていた。

 

ゲームは始める時が一番ワクワクする。特にこういったある種のローグライクはそうだ。今回は何をしよう、何を目指そうと考える時が一番楽しいまであるのだ。

 

そうだなぁ、今回は……。

 

別に元の世界に戻りたい、というわけではないが、基本的にNZWのワールドは使い捨てであり、いつか滅ぶ運命だ。私だって無駄に死にたいわけではないので、今回は生還ルートを目標にしよう。

 

NZWは実質的なクリア・エンディングがないのでキャラクターは死ぬまで生きる(当然)しか道がないのだか、例外がある。それはどうしても避けられない、いつか滅ぶワールドから逃げる手段であり、ゲーム的には死ぬよりも貰える転生ポイントがとても多いというものだ。多分運営の慈悲。

 

再誕の日(抗ウィルス爆弾投下)』『ブループラネット(地球脱出)』『マイロード(王への忠誠)』……。手段はいくつかあるが、今回は一番元の世界に戻るならそれっぽい、『夢幻の如くなり(夢であれ)』を目指すことにしよう。

これは一見夢落ちにみえるが、実際はタイムマシーンを作って、世界がアポカる前に戻るという手段だ。これなら他の手段に比べて一番現実に戻れそうだし、戻れなくてアポカル前に戻るだけだったとしてもいい。

 

普通より多くの転生ポイントを貰える故、難易度は当然高いけど……案ずるなかれ。私には今までやりこんだNZWの知識がある。条件もセオリーもやり方だってもちろん知っている。まぁ実際にやったことはないんだけど。

 

ともかく! 私はこの迷い込んだとっても楽しい世界で、タイムマシーンを作って脱出を図るのだった。

 

次回へ続く。


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