ゾンビゲー転生サバイバル百合モノ   作:バルロjp

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工業大学

ショッピングセンターを超えて少しすれば、遠くに工業大学が見えてきた。

全4棟からなる巨大なコンクリートの建物。それぞれが大きく敷地面積もさることながら、5階建てなので使える場所も探索個所もとんでもなく多い。『都会』って感じがしますね。

元は大学であり、窓ガラスによって内部が見える構造だが、殆どはカーテンを閉め切っていて中の様子は伺えないし、カーテン引いてないところはバリケードが張られていた。

 

「車は正門に駐車スペースあるはずだし、そこに向かえばいいか。クー、もう少しで着くよ。……眠いなら寝ててもいいけど」

「ん……ううん、おきてる……」

 

クーはお腹が一杯になっておねむのようだ。車に戻った後は低振動でいい感じに眠気が誘われたのもあるかもしれない。

起きてる、とこそ言ってはいるが、その目はかなりふにゃふにゃとしており、もはや半分寝ている。無理すんな。

 

「さて工業大学。一応地域避難所としての側面があってか一般人も多く、特に前提条件無く入れるグループだけど……」

 

ちらりと後ろを見る。今の一瞬でクーは寝ていた。おい涎を垂らすな。

 

「うーん」

 

一般人君だとクーを見ると絶対騒いじゃうんだよな。いやわかるよ。最初こそSAN値下がる見た目してるもんね。でもウチの子そこだけなんで……(見た目は)。

工業大学リーダーも受け入れこそしてくれるだろうけど、その後の待遇視線などは治安度維持のためにお察しだ。

この世界、インプラントとか普通だから片腕人間じゃないくらい許してよー。機械か獣の腕かぐらいの違いじゃん。いやだいぶ違うわ。一般的じゃないし機械の腕。

クーの生えて来てる犬耳犬尻尾辺りは、技術の進歩というか整形の極致というか、金を出せばできるらしいよこの世界、設定的にはね。

 

まそこらへんは貢献度次第で何ともなるとして、まずは受け入れさせないと。今回は策もあるしね。策というには稚拙だし、偶然的に用意できたものだけど。いやほんと、特に考えてなかったし。

 

いよいよ車が工業大学まで100mを切る。このぐらいとなると肉眼でも余裕で、リアルとなった大学が見える。

 

校門に連なる塀はその大半を赤黒く染め上げられ、その下には処理が終わっていない人のカタチをしたものが溜まっている。塀の上部にはこれまた赤黒くなった先端が尖った棒が付けられており、城壁からの侵入を阻んでいる。なんなら一部の棒には腕や肉や布がぶら下がったままだ。

校舎、そして見張り台だろうか。アウトローな格好で銃を構えている人が確認でき、その顔面は私達の車に固定されている。怖いね。

 

そして正門。今目指している場所だ。

そこに門の代わりに人が仁王立ちしており、身長も肩幅もデカい迷彩ズボンタンクトップなハゲがこちらを待ち構えていた。

 

工業大学固定幹部NPC、マキシマムさんです。はい皆拍手。

 

 

「何用だ、小娘よ」

 

多少正門から距離の余裕を持って駐車し、降車したと同時に威圧してるような声質で声を掛けられた。挨拶とかご存知ないですか?

 

「いやぁ、さっきこの町に逃げてきたんだけど来たんだけど、私ともう一人の小娘二人じゃ生きづらくてね。保護してもらないかなって、とりあえず避難所指定の学校に来たんだよ」

 

私はニコニコ友好的に笑って、マキシマムと3mぐらいまで近づく。腕を組み頭で日光を反射しながらこちらを見下ろすマキシマムはやはりデカい。確か身長192cmとかだっけ? 誠実な私は目と目を合わせて会話をしたいが、見上げると首が痛くなるし眩しいのがキツい。

 

「ふむ、確かに小娘二人じゃ生き辛いというのは同意できよう。お前からはただの小娘という感じはせんがな」

「やーん。私はか弱いただの小娘だよー」

「か弱い小娘は俺の姿を見て冷静ではいられん」

「自覚あったんだ」

 

マキシマムは私の突っ込みに重々しくうなずいた。工業大学グループってロクに使わないからあんま知らないだよねぇマキシマム、リーダーくらいは覚えてるけどさ。性別が女なら、Wikiももっと充実するし私も読むんだけど。

 

「まぁまぁ。こんな世界を生き抜くためには多少大人びる必要があるって事で。で、保護を求めたいんだけど」

「さっき言ったが、お前が本当に小娘だったら保護だ。だがお前はただの小娘じゃない。よって一方的な保護は了承しかねるな」

「体を差し出せって?」

「戦えるのだろう?」

 

えー人体改造もしてないし戦えないよー。そんな思いを込めて肩をすくめて誤魔化すような笑顔を作ると、マキシマムはノータイムで殴りかかってきた。かかってきた? は? まぁ既定イベントなので予想していたが。

 

私はしゃがみ込み回避を選択。さっきまで私の顔があった場所には変わりに、よく鍛え上げられた傷が目立つ剛腕がブォンと豪快な音を鳴らして存在していた。

そのまましゃがみ込みを利用しアッパーカット気味に跳ね上がる。もっとも慎重差があるので、マキシマムの顎に有効打が当たるとは思えない。ここらへんはゲームとリアルの弊害だ。狙いは若干前のめりになった上半身、その鳩尾だ。

がしかし、マキシマムはボディもそうやすやすとは殴らせてくれない。構えていた左腕でのガードが成される。このまま殴っても手首を痛めると判断した私は身体を思いっきり逸らし、拳を空振りさせ、その上で足をも蹴り上げマキシマムの左手を踏み台にバク転。距離を取った。

うぉ、今バク転中に足を掴もうとしたな。判断もうちょい遅かったら掴まれてたわ。

 

「ほう! ただの小娘ではないと思ったが、中々に慣れているな」

「お前みたいなのがいるからね!」

 

にしてもキツい。私の戦い方はそもそも正面戦闘じゃない。というか正面戦闘する装備が揃っていない。さっき『体幹』取っといて正解だったな。カルシアの体が柔らかいってのもあるけど、にしたってここまで動けるのは『体幹』のおかげだ。

 

距離を一度取ったところで、マキシマムは再度仕掛けてきた。さっきとの違いはパンチじゃなくて、掴みかかってきているという事だけだ。

もちろんこんな巨体にホールドされるなんて御免被る。さっきので大体の体の動かし方を把握したので、前ステップからの踏み込んで首狙い───はいここでバックステップ!

マキシマムの掴みは空振り、後はその顔が前に出るだけだ。しかしここで油断してはいけない。重量級の人型中ボスってのは、こっから体当たりに移行しやがるのだ。一回避けて安心してはいけない。よってもう一度避けるのが正解ではあるが……まぁ今回は引っかかってやろう。

ここで中ボスに勝つとカリスマは上がるが警戒度も上がっちゃうからね。

 

やってやったぜのしたり顔。表情を作る事は忘れない。さっき首を狙おうとした拳をもう一度握りこみ、マキシマムの顔面を狙う。しかしマキシマムもしたり顔。まぁ私が罠にかかったから当然だろう。

 

「ぬうううぅぅぅんっ!」

「んぐっ!?」

 

殴りかかった私の拳はマキシマムの顔に当たる直前で、私の体にマキシマムの体当たりが入る。ゾウやサイなどの巨大な動物を思い出させるその突き上げるような突進は、見事に私の体をくの字に曲がらせ、私は宙を浮いた。

 

「ぐえっ! っつ~~~!」

 

そして着地。いや着地というか不時着なんだけど。お尻から落ちたから負傷としては軽微だけど、それでも痛いモンは痛い。女の子らしくない悲鳴がでちゃった。

 

「はっはっはっ。荒い所はあれど、中々優秀な小娘ではないか。戦闘班に並ぶ武力だ。この武力ならゾンビ相手に生き残れているのにも頷ける。後は対人の駆け引きを学べば完璧だな」

「~~~っ! あれはっ、肉斬骨断ってやつ!」

「ふむ、肉も斬られ骨も断たれる結果が見えるがな」

「ウェイト差を計算に入れろ……!」

 

私の体重の2倍はあるだろあんた。いやもしかしたら3倍はあるかもしれない。スキルや人体改造等によって「見た目に寄らず」なんていくらでもあるこの世界だがだとしても重量ってのはそれ自体が武器なんだぞ。そも私現時点で肉体強化無いし。

 

「まぁいい。軽く人間性は見た。年齢にしては背後が大きそうだが後は俺の仕事ではない。後はリーダーの仕事だ」

「ぅっ、はぁ~~~……。と、いうと?」

「リーダーの元へ案内しよう。第一、ウチはどんな事情があろうとゾンビじゃなければ受け入れている。今のはただの敵ではないかの確認と、俺の趣味だ」

「年端もいかない少女を虐めるのが趣味と? いい趣味してんね」

「俺は少女に虐められる方が趣味だ」

「良かったなお前。私じゃなかったら悲鳴を上げられているぞ」

 

いや私もドン引きだよ。何キリっとした顔で言ってんだ。ラーメン屋店主みたいに腕組姿勢維持しやがって。

 

「ほれ」

 

お尻が痛くてまだ座り込んでいた私にマキシマムから手がさし伸ばされる。

 

「車の中の子も連れてリーダーの元へ向かうぞ。俺はマキシマムだ。好きに呼べ」

「そいつはどうも。私はカルシア。小娘呼びで構わないけどね」

 

少女に虐められるのが好きな変態野郎の手は勿論取らなかった。

 

 

若干悲しそうな眉の下がりをしたマキシマムを連れて車へ。

そういえばさっきのじゃれ合い、クーが寝てて助かったな。あれでクーが私がやられたと勘違いして出てきたら割と致命的な事になっていた。

 

「私の連れ、私より年下の子なんだけど、だいぶ特殊なんだよね」

「そんなもの、お前を見た時からわかっている。癖が強い奴の周りには癖が強い奴しか集まらんからな」

 

いや、性格じゃなくて。……性格もか?

 

「多少の覚悟は、私もクーも……クーっていう名前なんだけど。クーも覚悟してるけど、それでも一部の人くらいには普通に接して欲しい。私は自ら選んだけど、クーは選べなかったパターンだからね」

「ふむ……。ママのような事を言うな、見た目に似合わん」

「女の子は何歳であっても母性を宿してるもんだよ」

「訂正しよう。お前には似合わん」

 

殴ってやろうかこいつ。いや殴ると喜ぶんだろうな。闘争を求める上にロリコンらしいし。

 

「そう心配するな。ここにはいろんな奴がいる。肉体的、精神的な問題だろうと、医者も研究者もいるから治療対応ができる。偏見の目も持たせない。そもそも居住区は一般人と病人、戦闘組などで分けているしな。何か問題が起きるようなら俺が対処するし、部屋は余っているから個室だって用意できる。リーダーの方針で女子供には優しくするのがここだ」

「はは。思ったより手厚くて笑う」

「生存のためならば、生物は効率よく絶滅しないよう動けるものだ」

 

いやほんと。ゲーム時代こんなしっかりとしてなかったんだけど。まぁクーのためになるならばいい事だ。治療は望んでないし、治せるもんでもないけどね。

 

「では、肝心のクーという子を見てみるか」

「あー、多分寝てるけど、驚かないでよ?」

「なに、多少の事で動じる肝ではない」

 

私はこの子と、後部座席の窓を指す。後部座席ではクーがすやすやと寝ていた。右手の獣手は当然健在で、座っている今では足元まで到達している。

マキシマムはどれと呟いて、その巨体を屈め窓から中を見る。そして表情が明らかに嫌悪に歪んだ。

 

……まぁ当然の反応だ。人間からかけ離れた異常な姿。右手の肘から支配する毛むくじゃらの腕。そこから生える鋭利な黒い爪。クーがいくら警戒されない無垢な子供であったとしても、右手の異常性だけで全てが嫌悪対象となってしまう。

 

だからこれは仕方がない事。

 

私は、マキシマムがクーに直接的なアクションをしない限りは、全て飲み込むつもりである。それはマキシマムだけじゃなくここのグループ全員に対してだ。全員敵に回ろうと、まぁ何とか守るよ。私だけは味方になるって言っちゃったしね。約束は守る人間なのだ、私は。

 

ウチじゃ飼えません捨ててきなさいぐらい言われたら当然殴りかかるけどね。

 

さて、マキシマムの反応の続きは。

 

マキシマムは嫌悪の表情を保っていた。苦々しく、クーを憐れむような表情だ。

やがて一つ溜息を吐き、かぶりを振ると、私の方を向き、言葉を紡ぎだした。

 

「……信じられん」

「……と、言っても見た通りで」

「それはそうなんだが……。だとしても、だ。子供にやっていいものじゃない。怒鳴り散らかしたい気分だ。一体何を考えていたんだ?」

「受け入れがたいのは、私もクーも承知済みだよ。でも恐怖の視線がクーに良いとは思えないから、個室は欲しいかな」

「いや、その腕はどうでもいい」

「……は?」

「お前か? この恰好にさせたのは。いやお前がしたのではないとしても、着替えさせない時点でお前の責任だが」

「え? ……この恰好って、水着の事?」

「ああ。……こんなに幼い子に何故普段からこんな姿をさせているんだ。お前は化物か?」

 

え……ごめんなさい。

 

 

 

 

 

   □   □   □

 

 

 

 

 

───どこかの研究室

 

「ぅはっぁ!? はっ! はぁっ……!」

 

真っ白な部屋の中に浮かぶ無数の水箱。周りに支えるものなど一切無いにも関わらず、水は形を維持して浮いており、水中の中身を抱えていた。

 

水の中身は、人だった。無数にある水箱には全て目を閉じ眠っている人間が入っており、まるで水の棺が並べられているようだろう。

 

その棺桶の内の一つ。輝く金髪を水に浮かべ、女性としてはやや身長が高いが、しかしその豊かな胸部を見れば誰もが納得するものを携えた女性が、今驚愕で顔を染めながら目を覚まし、水箱を突き破り地面に落ちた。

 

「げほっ! がひゅ、ぅ、あ……今のは……」

 

女性はそのシミ一つない綺麗な裸体が惜しげもなく晒されている事を気にせず、床に寝転がり両手でしきりに首元と左目をさすっている。双丘を、肉付きの良い太ももから滴る水が実に蠱惑的であり、もしこの光景を男が見たら喉を鳴らすだろう。

 

「………………名前、聞いてなかったわね。もう一人の子は、クーちゃん。クーちゃんには悪意が無さそうだったけど、あの子はダメだわ。もう、根本的に歪み切っている」

 

女性は手を引き戻し、仰向けに寝転ぶ。その美しい裸体を隠すものは一切ない。真っ白な空間の中で人間が大勢眠りにつく水棺に囲まれ寝転ぶ美しい姿は、かえって不気味にも感じる。

 

やがて女性は起き上がり、髪に手櫛をかけながら、水棺の間を縫って非常口と書かれたドアへ向かう。

ドアを開けた先には、先ほどのある意味無機質な空間と違い、乱雑でごちゃごちゃと物と光で溢れている個室に繋がった。

 

部屋の片隅。椅子に体育座りのように足を抱え丸め込み、暗い部屋の中で眩しく光るモニターの光を受けていた、ショートカットに眼鏡が特徴の女性が椅子を回し振り返る。

 

「あっれー、ロシュアまた死んだの? もうストック余裕ないよー?」

「わかってるわよ。……けど、今回は死んだおかげで、ハウスに連れてこずあんな化物に少しでも内部を見せなくて良かったと思っているわ」

 

電気を付け、デスクに置いてあった髪ゴムを使い、金髪を結い上げながらロシュアはそういった。




今ふと思ったんだけど、車をバチバチするだけで鍵かかるわけなくない?

……車はR社製で、『サバイバル』を付与してくれるプラスウォッチもR社製。ヨシ!

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