ゾンビゲー転生サバイバル百合モノ   作:バルロjp

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校内案内

異能力分類、『言質』。NZWのグループ『要出典』のお供。

NZWではオープンVC搭載で周囲チャットもあったので、そこで活用ができる……まぁ不人気な異能力だね。

20XX年となり昔なんかはいざ知らず。VCのボイチェン。自分以外の声のノイズキャンセリング。高精度な同時通訳。VCで起こる問題なんかは大分淘汰されたが、そもそもとして日本鯖は日本人の集まりなのでシャイの集まりだ。

でもって、PVPでもそう役に立たない。「武器を捨てろ!」なんて言って「ハイ!」なんて返答はまず返ってこないし、警戒されるのがオチだ。

じゃあ何に使うのって、VC(?)にノってくれるNPCをどうにかだまくらかす程度だ。

……一応、フォローしておくと、効果は優秀なのだ。和解が成立しているなら、同盟を確固たるものとするために使えるし。身内どうしなら別ツールでVCすれば問題ないし。

 

まー、今回は表面上プトラの『言質』を信じとくけど……これ所持してるって騙る事もできるからね。異能力とかウィルスってプラスウォッチからじゃ判定でなくて証明できないから。

だからNZW時代だったら、「僕たちはお互い攻撃しませんよ~」と『言質』持ってない奴が言質取ったよ! と言った後で一方的に攻撃してくとかある。対抗策? 『言質』取ってもらった後に殺せばいいよ。殺せたんなら攻撃が通る=『言質』持ちってことだから。死んだら裏切り者だ。ひゅー怖い怖い。

 

 

 

ゆさゆさ。ゆさゆさ。

 

「クー、起きて起きて」

「……ぁ……ん」

「起きた? じゃああの人に向かって、私が言うのを繰り返して言ってね? いくよ? クーはここの皆の事を傷つけません。見たこと聞いたことを他に───」

「ん……くーはここのみんなの───」

 

「なぁマキシマム。これ酔った女を手籠めにする時の手段じゃねぇかと俺は思っちまうんだけど……」

「うぅむ……」

 

そこ外野、うるせぇぞ。プトラちゃんも「お二人共!」って顔しない。

 

 

「クーちゃんの対応だが、まぁ戦闘組には通達しておく。避難組棟に行かなきゃ問題はねぇだろうよ。外出たいっつーなら、悪いが中央グラウンドは無理だな。1、2棟付近の外周、もしくは外って事になる。……一応聞いとくが、クーちゃんはお前と同じ部屋に居させる事でいいんだな? んでここで保護する」

「ははっ。リーダーみたいな男がクーちゃんって言ってるのウケる」

「カルシア様がそう呼べつったんだろうが」

 

いやぁ。それはそれ、これはこれよ。

 

「部屋は一緒でいいよ。けどクーは保護じゃなくて戦闘組で。私より強いしこの子」

「あー……あ?」

「むっ」

「え?」

 

三者三葉。上から順に困惑リーダー眉吊り上げマキシマムびっくりプトラちゃんだ。

 

「それは見過ごせんなカルシア。確かにクーの右腕は力を感じる。俺すらも凌ぐだろう。だがだからといってそんな幼子を戦場に出すのは別だ。このような情勢であろうと、幼い子に残酷な光景を見せるものではない」

 

真っ先にクーの戦闘組に加入に反対してきたのはロリコンのマキシマムだ。その眼光はするどく私に向けられているが、間に抱えていたクーガードを挟むと眼光が緩んだ。ロリコンめ。

 

「あー……俺はさっき適材適所、できる奴ができる事をやれっつったが、それでもこんぐらいの子を戦わせんのは抵抗あんなぁ。人手が足りねぇわけじゃないし、俺に対する周囲の視線も痛くなるわ」

 

お次はリーダーからの反対意見。こちらはマキシマムの感情10割と違って、感情5割に体裁とかの実利5割ってとこかな。リーダー(立場)感ある。

 

「わ、私も反対! というかほんとはカルシアちゃんにも戦ってほしくない! です! ……カルシアちゃんとクーちゃんが戦いたいなら、そりゃぁそれを尊重してあげたいけど……。でっでも! 私はやっぱり、二人に戦ってほしくないです!」

 

プトラちゃんも反対意見。感情10割だね。感情10割過ぎて私すら戦いに出るなと仰っている。リーダーじゃなくて私にいいなさい。

やだよ、クーはまぁ最悪置いてってもいいけど私は外で自己強化しなきゃ。世界に置いてかれる。

 

「………………まぁ、そこらへん今度話そうよ。私もクーがここで絵本読みたいって言うなら無理に戦闘組に加えないから(十中八九戦闘組になるだろうけど。私と一緒にいれるって言ったら間違いなくついてくる)。あ、プトラちゃん、私は戦闘組内定だからごめんね。とっても強いから大丈夫だし、なるべく顔は出すよ」

「うむ。カルシアは俺には及ばんがよい腕を持っているぞ」

「何でマウント取った? 腕相撲でわからしてやろうか。出番だクー!」

「自分の力でやんねぇのかよ……」

「リーダーでもいいよ? クーは右利きだから右手で勝負してもらうけど」

「俺の左部分は無力な人間のままなんだよなぁ……」

 

ぎゃーぎゃー騒ぐ私たちを間近に、クーは眠そうな顔のまま黙ってろ命令を忠実にぼーっと見ていた。

 

 

 

このもうふじゃま……とクーから視線の意図を汲み取ったが、ちょっと変えの服見つかるまでそれでいてね。マキシマムがうるさいから。

 

ともあれ私たちはプトラちゃんに学校案内してもらう流れとなった。工業大学は中央のグラウンドをぐるりと囲うように、同じ長方形が並べられており、それぞれ東西南北……あー……南東北西の順で一号棟、二号棟、三号棟、四号棟、だ。

 

私達が車で入って来た、そして今もいる実質リーダー部屋らしい戦闘組会議室ある棟が二号棟。この二号棟では主に体の機械化(サイボーク)にする施設や、戦闘物資などが集められている。

一号棟は戦闘組の宿舎。元は部室だったり教室だったり実習室だったのを改造し、食事や風呂に入る事が可能にされている。5階は女性専用フロアで、屋上のプールを改造した露天風呂あり。うーん性格差を感じる。

三号棟、四号棟は避難民、一般人のフロアで、野菜の室内栽培や事務作業、戦闘組のサポート用の仕事が主らしい。利用しないだろうから大方聞き流しちゃった。

 

「ここは図書室だよ! パンデミックが起きてからプラスウォッチの世界回線が機能しなくなって、ライブラリに接続できなくなったから調べ物をする時は重宝してるの! 漫画とかもあるから暇つぶしにもいいしね」

「あぁ、なんか工業大学って感じのラインナップだ……。学生の研究論文コーナー? 『赤とゴールドで彩られた人体搭乗型パワードスーツの制作について』。気になる~~~」

 

「ここは機械化実習室。ちょっと保健室みたいな部分もあるかな? 私は機械化の事あんまりわかってないけど、工場って感じがするかなぁ。手足とかだったらここで大体できるんだって。今は大丈夫っぽいけど基本的に昼間はうるさいよ」

「手足って事はインプラントはまた別のとこか。この鉄錆びの匂いが本当に鉄な事を願うぜ」

 

「で、こっちが本当の保健室。寝てる人もいるから静かにね。戦闘組のケガ人はここで治療を受けるよ。カルシアちゃんもクーちゃんも無縁でいて欲しいとこだね」

「だってよクー」

「………………」(私との約束で黙っている)

 

「えーっと、食堂、なんだけど……」

「酒で酔いつぶれてる輩しかいないねー」

「あはは……。昨日ちょうど襲撃の日があったからね、皆それで打ち上げしてたんだね。普段は、フードコートみたいな感じでご飯を食べれるよ。食材は割と充実してるから、レパートリーも多くて美味しいんだ! ……私は、ちょっと偉い役職なのもあって、ちょっとご飯が豪華な二号棟の食堂の利用が許可されています。だから一緒にご飯食べれるよ!」

「お、じゃあ後で一緒にお昼食べようか。お昼に食堂が機能してるかは疑問だけど」

「あはは、確かに……。ああもう、ほらレガルサさん! 寝るなら部室で寝てください! マックスさんも水飲んで!」

 

「研究室だよ! クーちゃんを案内が終わってご飯食べたら連れて行くようにリーダーさんから言われてる場所だね。研究所で働いてた人と、国立病院にいた人達が主にいるかな。材料があるなら、ゾンビウィルスの治療薬とかも作れるんだって!」

「そりゃ助かる(後で検査キットとか納品して好感度あげとこ。治療薬までは行かなくともRC-回復薬は欲しいし)」

 

「物々しいここが倉庫。半分武器庫だけどね。使えそうなものをここで納品すると、ポイントに変換されて、自分の欲しいものと交換してくれるんだ! ちなみに私は258ポイント溜まってるよ。500ポイントの望遠鏡目指してるんだ!」

「(欲しいものが望遠鏡て塾で頑張ってポイント貯めるような奴なの草)」

「よぉ新入りの嬢ちゃん、俺は倉庫番のシャクだ。今は武器の価値が高いぜ。後は嗜好品の類がいつも狙い目だな」

「葉っぱは扱ってる?」

「カルシアちゃん???」

「もちろん扱ってるぜ」

「シャクさん!?」

「道中見つけたのがあるから後で卸に来るね~」

 

「ここは美術部。こんな世の中に少しでも笑顔が見られるように、絵や漫画、小説。……それと性能がピーキーな機械やMODを作ってるらしい、よ? ちなみに一番人気な作品はゾンビアポカリプスもの。私も震新刊待ってるんだ」

「私が言うのもあれだけど不謹慎じゃない???」

 

「この広場はヘイワークって言われていて、戦闘組がやる事がボードに張り出されてるんだ。リーダーさんとかに指名された仕事が無い限り、戦闘組は基本ここでお仕事を探して外に行くよ。名前は職業案内施設、それとお仕事でこなす事でつながる平和と掛けてるんだって」

「『定期掃射:ゾンビ100体』『公園で現れたグレートゾンビの討伐』『動物園の偵察任務』クエスト感あるなぁ」

 

 

「───で、6階。女性専用フロアだよ! えーっと、女性戦闘組は50人ちょっとだったかな? あっほらあそこ! あそこのボードの看板が、全員分の名札だね。外に行くときは赤色で、中にいる時は黒にするルールだよ。今は外にいるみたいだけど、あの左上のアネカリアって人がまとめてるよ! ここのグループの幹部でもあるんだ」

 

二号棟、一号棟をぐるりと見て回り、私とクーは最後に一号棟の6階へと訪れていた。

案内された教室や建物はどこも綺麗で掃除が行き渡っており、外の汚い真っ黒な世界とは真反対だった。聞いてみると、このマートラ工業大学は築2年で建材そのものがいいらしい。それに加え暇を持て余した死体処理班が練習ついでに掃除を行うと。

踊り場を経て6階へ足を進めると、正面には壁に貼り付けられ作られたボード。釘が等間隔で打ち込まれており、そこに名前が書かれた木版がぶら下がっている。プトラちゃんの説明通り、名前は黒か赤で書かれていて、裏返したら色が変わる奴だろう。

 

「アネカリア……まぁ戦闘組なんだしその内会うよね。にしても幹部かぁ。確かマキシマムも幹部だったよね。他にも幹部っているの?」

 

アネカリア。軍人気質な褐色でDJみたいな編み込みオールバックした工業大学固定幹部NPC。

工業大学は後もう二人、工業大学固定幹部と幹部固定NPCがいるはずだけど……。

 

「幹部? 幹部はねー今言ったアネカリアさんと、さっき一緒にいたマキシマムさん、それとルーピシュさんっていう背の高い男の人。……と、あの、一応、私、です。えへへ……」

「プトラちゃん幹部なの? へー! 凄いじゃん」

 

私が純粋に関心(感心にあらず)し、さっきからペンギンの親子みたいに、私が後ろから抱き着いているクーの左手を操作し、クーの口元に寄せる。上から覗くと想定通りクーはあわわ~って感じにジェスチャーさせられていた。

プトラちゃんはそんな私の視線が居心地悪いのか、首を横に背け手を突き出し振って否定してきた。

 

「ううん! 私、ほんとお情けで幹部にされてるような感じだから! 全然戦えないし、それ以外もほんと全然! リーダーさんが、「お前の言質でここにいる奴らの安全確保してるようなもんだから、幹部厚遇でいいんだよ」って……」

「確かにあのリーダーならいいそう。やーその異能力は凄いと思うけどね」

 

うんうん。自信もっていいと思うよ『言質』は。

 

しかしプトラちゃんが幹部か……。NZWにはそんな幹部なんていなかった。リアル化の影響……というよりは、プトラちゃんが異能力を発言させたが故の影響だろう。最初っからグループ所属のNPCは、そのグループに応じたスキルしか覚えないからね。

 

それとルーピシュ。こっちは長髪長身で細身のやつだったはずだ。アサルトライフル使用の中距離が強いビルドだったはず。それと足だけ機械化した、技よりの戦闘スタイル。まぁ問題ないでしょう。

 

あ。プトラちゃんという無名なモブNPCが異能力で繰り上げ幹部になったって事は、もう一人幹部級が眠っててもおかしくないなぁ。女性の幹部級って他誰がいたっけ、えーと木版の名前名前……。

 

「………………お?」

「……ん? どうしたの?カルシアちゃん」

 

私が左上から右下にへと、視線を次々とずらしていると、一つ気になる名前が見つかった。

それは最後の方、つまり一番右下にあり、その木版は真新しいものだと感じられるほど、木が日焼けしていなく他と色が違った。

 

その木版には、黒色でこう書かれている。

 

『ワニ』

 

……いや、違うよ? 知ってる動物の名前とかじゃないよ? 人として───プレイヤーネームの名前として私の目に留まったんだよ?

 

「プトラー……この右下のワニって、新人さん?」

「ワニちゃん? そうだよ、最近、というより昨日ルーピシュさんが連れてきた新人さん! なんとねー、クーちゃんとおんなじくらいの幼い子なの! けどルーピシュさんがどうも危ない所を助けてもらったらしくて、強いんだって! クーちゃんぐらいの幼さで、機械化もしてない普通の体なのに! ……可愛い子だったけど、カルシアちゃんの知り合いなの?」

「多分? こんな動物名みたいな名前の人は、そいつ以外は知らないし」

「あー、確かにちょっと特殊な名前だよね。でもキラキラってほどじゃないし、カッコいいから私はいい名前だと思うんだよね!」

 

そいつの名づけの理由、「ワ」ン「ニ」ャーでカッコいいというより可愛いで付けた奴だけどな。

 

「えっと、じゃあ多分知り合いだよね! よかったー、良い子そうではあるしふさぎ込んでるわけではなさそうなんだけど、ちょっと無口でどうしよっかなーって思ってた所なの! さっ、会いに行ったげよ! クーちゃんも、ほら! お友達増えるよー!」

 

プトラちゃんはもう私の知り合いだと思い込んじゃっているようで、はしゃぎながら私の背中を押してワニがいる教室へと案内しようとしている。

「私にしか警戒心を解いてくれていない」と適当言ったクーにも声掛けを忘れずで良い子だ。曇りの欠片もない笑顔を見てそう思う。

 

こういった子のためならば、私も何かしてあげたいって思えるね。善性の人間が私は好きだから。何かが起きたら、守ろうと思っちゃう。

 

さて、じゃあプトラちゃんを守れるようになるためにも。リアルでも一緒にグループを組んでいた、ワニに会いにいきますか。


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