ゾンビゲー転生サバイバル百合モノ   作:バルロjp

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ワニ

こんこん。

 

『製図室』の上から『6-12女子部屋』と張り紙された教室前。私とクーを連れてきたプトラちゃんは、中にいる人が寝てるかもとか一切考えていないノックをした。

 

「ワニちゃーん! いるー? 昨日学校案内したプトラだよー!」

 

……そういえば。ワニとクーって相性良いんかな。今文字を並べて気づいたけど文字の感じは凄い似てるよね。ワとクなんてほぼ一緒だし、ニとー(伸ばし棒)は棒一本増減すれば同じとなる。ワニは適当な名づけしてるなーと思ったし、クーも適当な名づけしたなぁと思ってるけど、こんなところで共通点が出るとは……。

 

こんこんこんこん。

 

「ワニちゃーん? 寝てるのー? ワニちゃんと会いたいって人がいるんだけどー!」

 

見た目は……まぁロリキャラクリしてたから似てるよね。またロリが増えるのか……。あーでも、性格面で言うなら、正反対か? クーは言われた事に従順な明るい子だけど、ワニは言われた事に従順じゃないクール系だ。いや中身は全然クールじゃないわ。ダウナーな声と眠そうな見た目して中身はパリピだったわ。

 

というか出て来いよ、ワニ。

 

こんこんこんこんこんこん。

 

「ワニちゃーん! 出てよー! お客さんだよー! カルシアちゃんって言うんだけどー!」

 

どたんっどだだだだだっ!

 

「はいクーちょっとこっちね」

 

急にドアの奥からなり始めた生活感溢れない音に、私は何かを察してクーをペンギン親子形態するのを止めて横にどかす。ついでに急な音に面食らい扉前で固まったプトラちゃんも脇にどかす。危ないからね。

 

がちゃばたんっ!

 

そしてドアが勢いよく開かれた。びくんっと体を震わせビビった左右のクーもプトラちゃんも気にする事なく、ドア奥から現れたロリは足を踏み込んでいた。

 

「シ~~~」

 

そしてジャンプ。踏み込んだ足は勢いよく伸ばされ、両足が地面から離れる。その体が向かう先は当然真正面の私で、下を向いていて緑……青? 待ってこれ何色? な髪から覗く瞳はきらっきらと私を見ている。

 

「ア~~~」

 

両腕はそれこそゾンビのように広げられている。ゾンビと違う点は、大きく手を広げる理由が襲うためではなく、私に抱きつくためであるということだろう。

私は『近接格闘』を使用した。

 

「ね~~~」

 

にこっとワニに微笑みを向け。ドアを開けたために遅れた左手、とは逆の右手を取る。ゾンビ相手はワンパターンでも問題ないんだけど、ワニ(人間)相手でも問題なくできそうで何よりだ。他の事にリソースを使える。

では右手を奥に下に。ワニの体に自分の体を潜り込むように密着させ、少ししゃがみ込んですくい上げる。どろどろに溶けた肉塊のゾンビ相手じゃないので気負いなく背負えますね。(激ウマギャグ)

 

「ぅええええええええっっっ!?!?!?」

 

バァンッ!!!

 

ワニは『近接格闘』により綺麗な一本背負いをキメられ地面に叩きつけられた。コンクリートの床と人間で出しちゃいけない音が出る。頭だけは腕を持ったままでぶつけないようにしたので大丈夫だろう。

シアねぇと発音したかったであろう言葉がそのまま悲鳴に変換され、最後に苦しそうな「がはっ、がはっ、がはっ(エコー)」っと女の子らしからぬ悲鳴を漏らした。

 

いきなりの事に目をまんまるにして驚いているクーと、ドン引いて口元に手を当てうわ……って顔してるプトラちゃんを見ない振りし、床に叩きつけられ伸びているワニを見下すように視線を合わせる。

 

「やぁワニ、久しぶり」

「シアねぇ……お、ひさ……がくっ」

 

 

仲が良さそうだから、旧友を深める時私は邪魔だよね! とプトラちゃんは去っていった。あの背負い投げで何故そう思ったのか疑問ではあるが、都合がいいのでまたねーと言って別れた。

 

そしてワニを引きずりクーを引き連れ『6-12女子部屋』内へ。

部屋の中は教室の名残があり、黒板、壁掛け時計、風が吹いたら窓際の生徒がとんでもなく迷惑を被るクソ長いカーテンなどが残っていた。

対して、それ以外の学校感ではない生活感は全くない。机をいくつかくっつけ出来た大きな机やイスを除けば、ボストンバック一個と脱ぎ散らかされた服くらいしかワニの持ち物と予想されるものはない。

 

「はい」

 

そんな教室の、折角なので中央にイスを置き、ワニと相対する。

私は膝にクーを軽い気持ちで乗っけたが、右腕分の重みがキツく、食い込むクーのお尻の骨が地味に痛い。

 

「では、情報共有をしたいと思います」

「はい、シアねぇ。その前に聞きたい事がある」

「どうぞ」

 

ワニは質問のためにビシッと挙手した腕を下ろし、そのまま私の膝のクーに向けて指さす。その表情はどこか抗議するように口をへの字に曲げている。

 

「その女、なによ」

「だってよクー。自己紹介して。あ、というよりワニ相手だったら普通に話して大丈夫だよ」

「ん! えっと、クーっていいます! よろしくおねがいします!」

「そうじゃないが???」

 

違うの? 私は首を傾げる。ついでに体も傾かせ、クーも傾げさせる。

 

「名前じゃなくて、関係性を聞いている。僕とシアねぇの間に挟まる邪魔者め……」

「私とワニの間に仲間以上の関係性は無いが? というか何、僕って。ワニそんな一人称じゃなかったでしょ」

「キャラ付け。なんかそっちの邪魔者と僕、キャラ被ってる気がするし」

「お前はお前で十分濃いよ。あと邪魔者って言ったげんな名前で呼んでやって」

 

ワニは腕を組み足を組み、ぶすっとした表情でそっぽを向いた。

ワニはキャラ被りを心配しているが……まぁ確かに似てる部分はある。しかしそれは似ているであってキャラ被りではないだろう。

 

クーと同じくロリキャラではあるが、こうして実際に目の前で比べてみるとさっき思った通り真反対だと思う。

活発な印象を受けるクーの顔つきに対して、落ち着いた印象を受けるワニのキャラクリ。

聴く者を楽しくさせる明るい声のクーに対して、聴く者を落ち着かせる低めなダウナーボイスなワニ。

長くてくせっ毛が酷くあっちこっちに跳ねてる髪のクーに対して、すとんと綺麗に梳かされている日本人形のようなボブカットのワニ。

そして髪色。真っ白なクーに対して、ワニは、その……何? 緑? 青? マジで何色それ?

 

「ワニ、髪色どうしたのさ。前までそんなんじゃなかったでしょ。普通に黒だったじゃん。何色それ」

「お兄ちゃんにこけしこけしって言われるから変えた。#7fffd4」

「そうじゃないが???」

 

しゃーぷななえふえふえふでぃーよん。よく噛まずに言えたな。さては練習してたろ。

 

「R127、G255、B212って言ったほうがわかりやすい?」

「カラーコード表記を止めろって言ってんの。チャットじゃないんだからさぁ」

「アクアマリンだって。ダイス振ったらこれだった」

「またそんな運試しするー」

 

ほんとガチャが好きなんだから。前回の死因ワニのその性格のせいでもあるんだぞ。

私は内容がよくわからず、喋ってもいいの何も喋れず目を白黒させてるクーを抱き寄せ、クーの頭に顎を置く。楽だわこれ。生えかけてきているクーの犬耳の間に私の顔がすっぽりと収まる。

 

なおワニからは嫉妬の視線がクーに贈られる模様。

 

「まぁキャラクリはどうでもいいや。んー……とりあえず、他メンツってここ(工業大学)にいる?」

「ううん。合流できてない。シアねぇが初」

「そっか」

 

NZWは公式鯖では裏切りと一時結託の何も信じられない人間不信ゲームと化す。

しかし昔からの知り合いだったら? リアルの仲だったら? 絶対に裏切らない仲であれば、それこそ言質で安全確保する必要なんてない。

NZWにおいて次の世界に真に持ち込めるものなんて、転生ポイント2割人間関係8割だ。裏切らない仲間を見つけられたのならとても大きく力強い一歩となる。……よって公式仲間募集鯖が地獄になるんですよねぇ。あれ、真面目に仲間募集してるのは極少数で、いつ裏切るか楽しんで潜入してる人が大半だからね。別ンとこで信頼できる人作ってNZW始めたほうがいいよ。

 

私も当然例に漏れず、信頼できる仲間と共にいつもNZWを遊んでいる。

 

ガチャ大好きロマン大好き弓使い、ワニ。

ワニの実の兄で百合好きなためワニと私をくっつけようと画策してやがるドッグ。

言動を除けば完璧だが言動がウザい中二野郎、プラフォン。

 

そんな癖が強い社会不適合者連中を率いる超絶天才美少女社会不適合、私。ゆかいななかまたちだぁ。(呆れ)

 

「ま、普通にやる分じゃ死ぬようなメンツじゃないし大丈夫でしょ。鯖も生まれたてだし」

「同意。イレギュラーはあるけど、でも大丈夫だと思う」

「イレギュラー? クーの事? ただの可愛い子だから大丈夫だよ、裏切りの心配無いし」

 

私はクーと顔を見合わせ「ねー」と笑顔を向ける。クーは相変わらず頭ワンコで会話を理解していないようだったが、赤ん坊が親の真似をするようににへらと笑って「ねー」と返してきた。

 

「……シアねぇ、そっちじゃない。そっちもだけどそっちじゃない。NZWじゃなくなったほう。プトラなんて固有NPC、僕知らない」

「あそっち」

 

つまりリアル化したことによるイレギュラーを心配してるのか。私もショッピングセンター前では風向きとかいうリアル化の影響で計画崩れたもんなぁ。

けどまぁ、そっちも大丈夫だとは思うよ。どんだけリアル化しても土俵はNZWだし。

 

あ。

 

「そういえばプトラちゃんの『言質』なんだけど、本当か確認した?」

「してない。さすがにほぼ初期状態で喧嘩売りたくなかったし、シアねぇ程道徳心失ってないから」

「あ"?」

 

おっと。いつものじゃれあいのノリで怖い声出したら、耳元で聞いているクーが本気だと勘違いしたらしく体を硬直させた。ごめんねーこれお遊びだからなんもないよー。

というか全然喋らんな。ここまで何も話さないと、話の邪魔をしないように良い子にしてるだけな気がしてきた。

 

しかしそうか、『言質』の確認はまだか。九割九分本当だとは思うけど、一応確認しとかないと落ち着かないんだよなー。

えーっと、言質内容はグループの人に危害を加える事はない。つまり同じ言質を取られた私とワニ、もしくはクーで喧嘩でもすれば確認はで、き……。

 

「私さっきワニに『近接格闘』したけど、通ったじゃん。プトラちゃん嘘付いてる?」

「む……。いや、でも僕にとってはシアねぇとのあれなんてただのじゃれあいの範囲内。リアル化した今、そういった深層心理を言質が汲み取った可能性がある」

「あー確かに。よかったープトラちゃんが嘘ついてなくて。これでプトラちゃんが真っ黒な子だったら人間不信になるとこだったわ」

 

プトラちゃんは良い子。良い子です。癒し枠だから!

 

「でも確定じゃない。確認方法、どうする?」

「………………」

 

私は膝の上でおとなしくしているクーを見た。

……いや、流石にダメだわ。やっちゃう? と訴えかけてくるワニにしかめっ面で返す。

 

「私とワニじゃ遊びの域だから危害にならないし、クー相手にやらない程度の良識は残ってる。多少警戒する程度にしとこうか」

「僕からクーじゃダメなの?」

「流石にクーを巻き込むのは心が痛む。それにクーが私に刃向けても私はわかってるからダメだし、私から向けても意味が無いし」

「? クーおねーちゃんの言うことならきくよ?」

 

クーは純粋な瞳で言ってくる。多分死ねと言ったら泣きながらも本当に死にそうだ。だから言質チェックには使えないとも言える。

どこでそんな好感度稼いだんだよ私。……他にいないかったからってのもありそうだけど。

 

「ね? この懐きようよ」

「シアねぇ……許しませんよ僕以外と……っ!」

 

こいつもどこでこんな好感度稼いだんだよ。

 

「まあクーとはいずれ上下関係を仕込むとして」

「仕込むな」

「シアねぇが連れてきた子だから、僕は仲間に入れるのは反対しない。けどビルドの確認はしたい。そこまで被ると僕のキャラが食われる」

「食われないって」

 

ワニは優秀な弓使いだ。この銃も電磁波も粒子砲もあるNZWという世界において好んで弓を使って遊んでいた。

理由は一重に、弓がロマン武器だから。弓幹(ゆがら)(弓の木の部分。本体)を変え。(つる)を変え。弓矢を変え。銃は当然クロスボウにもコンパウンドボウにも見向きせず、ただひたすらに弓を愛してやまない。なんならあまりにも弓が好きになりすぎて、リアルでも初めてたらしい。

そして実際、ワニの弓は上手かった。弓専用の跳弾を使いこなし、銃の着弾より早く射掛け、火力を出していた。私も重力落下の感触が好きだったので弓は使う方だったが、それでもワニを10としたら5あるかどうかだった。

 

けどまぁ、ここまで念を押されるともはや苦笑するしかない。私はクーの右手を取りひらひらと……ぶんぶんとさせる。重くて軽々しい表現は使えないね。

 

「ほら、この手じゃ弓引けないでしょ」

「むぅ……。それは確かに……」

 

『クッキングケミカリー』って、説明文に書かれてないけど両手武器使用不可って効果あるから弓なんてつがえられないんだわ。

 

私はクーの説明をするために見せれないよフィルターの毛布を取る。ワニはちらちらと見えていた右腕……より真っ先にクーの上半身の水着を凝視し、「シアねぇの趣味ってこんなの?」と呟いた。すぞ。

 

「はい。この姿を見てクーのビルドを当ててみましょーう」

「……確か『ウィルス変異:ビースト』は犬耳は出なかったはず。で人体改造だと耳まで付ける必要性はない。そして大きな理由としてシアねぇが引き取ってる事を鑑みる。……『クッキングケミカリー』? これまたレアなモノを引いたね、羨ましい」

「お、正か~い」

 

よってクーはウィルスビルドだね、バクテリアも混ざるやもしれんけど。私はそう言葉を付け足した。

 

「あ、ちなみに『食人癖』持ち。だから『クッキングケミカリー』を得たんですねぇ。クー、好きな食べ物は~?」

「おねーちゃんの血!」

「あっはっはっはっ! マジで止めてほしい」

「僕のシアねぇの思いだけでなく中身まで……許せん……!」

「私の中身は私のものだが???」

 

ワニにまで取られたら私の体がないなる。

 

「ちなみにシアねぇ。僕転生ポイント、いつもの『ランダム異能力系統(異能力、強化アイテム、装備など)』を取った」

「まーたガチャしよって。それこそプトラちゃんとキャラ被るぞ。何か当たりでたの?」

「『吸血鬼』が当たった」

「私の中身は私のものだが?????」

 

ワニにまで血取られたら私の体ないなる!




すぞ……殺すぞ の意。身内ミームかもしれないので解説。

『吸血鬼』分類-異能力
対象の血を取り込む事で、対象の一部ステータス、スキルなどを自身に加算することができる。この効果は血を浴びる、血肉を食す、はらわたの中に手を突っ込むなどで発動することができる。
血肉を取り込めば取り込むほど効果は増大する。(上限あり)
また、過去に取り込んだものスキルなどは別の血肉の代用により再現することができる。この時必要とされる血肉は3倍である。

『ランダム異能力系統(異能力、強化アイテム、装備など)』
ガチャ。異能力そのものがガチャみたいなものなのでワニは弓と同じく好んで異能力を使っている。
異能力が当たる確率…5% 『言質』『吸血鬼』など
強化アイテムが当たる確率…70% 『どこかの宗教本』『異界触手-低-』など
異能力装備が当たる確率…10% 『引力石』『もう一つの手袋』など
その他…15% 『見える音』『同類』など

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