ゾンビゲー転生サバイバル百合モノ   作:バルロjp

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出発準備

適当に準備を済ませて階下へ。

 

ヘイワーク広場では既に20人くらいが集まり、そしてカウンターみたいな場所でリーダー、マキシマムから指示を受け取り次第出口へと向かっていた。皆緊張した面持ちになっており、食堂で酒によってぶっ倒れてた人も見かけたが、酔いなど一切表に出さず、チームメイトであろうすぐそばの人とメモを手に話していた。

 

「ルーマか。お前はB1を頼む、コオがリーダーだ」

「おうよ」

「ソッグラン……おいマキシマム、さっきのカニューんとこ若干不安あるつってたよな」

「あぁ。戦力としては十分だが抑え役がおらん」

「ならソッグラン、そっちいってくれ。A3地点だ」

「了解。マキシマム、念のため手りゅう弾の追加が欲しいんだが」

「わかった、ここにはないからシャクに言っておく。出る前に倉庫寄れ」

 

リーダー達は次々と来る先頭組の皆さんを滞りなく裁いていた。凄いな、全員の顔と名前覚えてるのか。

誰が来たか見て、すぐに地図からどこに配属すればいいのか判断してるだろう。

隣のマキシマムはリーダーの補佐らしい。自身も人の列を捌きはするが、どちらかというと武器の配給がメインらしい。ケースから次々と銃とマガジンを取り出し、武器を持っていない人間に貸し与えていた。

 

もう喋らせないという方向性より、心を開いた人にしか喋らないという人見知りの小さい子供によくある奴に方向転換させたクーが、その光景を見て疑問を呟く。

 

「リーダーさんたちは行かないのかな?」

「防衛力なんじゃないかなー? というかリーダー、前見たときの腕じゃなくて普通の義手になってるな。戦闘用と事務用とかなんかね」

「リーダー、腕が……っ!」

「あるだろうが」

 

場違いなやり取りがワニと行われる。話の限りだとワニも昨日来たばっかだし、私もさっき加入したばっかの部外者気分だからね。

 

そんなまるで緊張感がない事を続けていると、人が捌けてきたからか、それとも浮いてる雰囲気を感じ取ったのか。ひと段落つき額を拭うリーダーと目が合った。

 

「………………お前ら、来な」

 

うわ、すっごい苦虫噛み潰したような顔で言われた。しかもリーダーの隣にいるマキシマムも渋い表情になってる。

 

「やっはろー。人の温もりを求めて心臓(ハート)狙い! キュアカルシア!」

「僕はシアねぇ好き好き侍のワニ。義によって助太刀致す」

「……はぁ、ま、薄々来るだろうなとは思ってたぜ。その口上は予想外だったが」

 

おっと滑ったか、お前のせいだぞワニ。

ワニを見ると同じような事を考えてそうなワニと目が合った。

 

「先に言っとくぞ。俺はお前ら、そしてクーちゃんをも戦力として加える事に反対はしない。こんな性格だからかモテなくてねぇ。よって独り身、子持ちの気持ちにはなれねぇんだ。ガキは可愛くとも適材適所の方が勝つのさ」

「隣の彼は凄い何か言いたそうだけど」

「最終決定権は俺であり、受けるかはお前らの選択だ。昨夜の襲撃と続けざまだからこっちも厳しくてな、使えるもんは使っておきたい」

「ぬぅうん……なぁ、クー。ここで俺と共にカルシアを待たないか?」

 

ふるふる。クーは何の躊躇いもなく首を振った。それを見たマキシマムはぬぅぅぅん……とさらに唸る。

 

「ひそひそ……シアねぇ、この人俺と共にってヤバくない?」

「こそこそ……プトラと共にとかだったら普通なのに、自分の欲望紛れてるよね。ワニ可愛いから狙われてるかもよ?」

「僕も狙われてるの? こわーい」

「貴様ら好き勝手言いおって……。俺は純朴で無垢な子供を好いているのだ。ワニのような身長が伸びなかっただけの女に興味はない」

「僕何気に酷い事言われてる?」

「マキシマムの性癖に素直なところ私好きだよ」

 

でも私のクーはあげない。

 

「あー、話の再開いいか?」

 

と、そこで話の腰を折られていたリーダーから手を挙げての主張。蚊帳から出してごめんて。

 

本人が望むなら……俺が出れるのならば……このような子供を……と腕を組み目を閉じブツブツ言い始めたマキシマムを視界から追い出し、マップを片手に持ったリーダーと向かい合う。

 

「まず、お前らは遊撃だ。俺はお前等の実力を全員人伝にしか聞いてなくてしっかりとした実力を知らんからな。そんな奴等を既に出来てるグループに押し込んでも上手く行く未来が見えねぇ。と、言うわけで遊撃だ。ここまではいいか?」

 

こくりと頷く。NPCとの共闘はもちろんできなくはないが、正直言って雑魚はいても面倒なだけである。いや、私は現状その雑魚3体に囲まれたらだいぶ怪しいんだけどね。でもエリートモブじゃないから……強い雑魚だと認識しといて。

で、やりたい事ができないし誤射れない雑魚なんて本当に邪魔でしかないので、私たちにとってはいない方がやりやすいと、そういうことです。クー? クーはいいんだよ、ラジコン素直に応じてくれるからさ。

 

私たちから異論がない事を確認したリーダーがカウンターにマップを置く。ワニでギリギリの高さだったので、クーは後ろから抱っこして見えるようにしてやる。バリアフリーに配慮してくれ。

 

「お前らに任すとこはここ、D1地点だ。BCの1は塞いでるんだがここまでは手が足りてなくてな。ここでマキャロエン線に奴らが入ってこないようにして欲しい。ゾンビ出現位置からして大部分はA側に行くとは思うんだが……どうも嫌な予感がするからな」

 

リーダーが地図上でトントンと叩く位置は、マートラを北側と南側に中央で横に真っ二つにする大通り。私たちが地図の看板を見つけショッピングセンターを曲がるまでずっと通っていた道だった。

マキャロエン線と書かれた大通りは確かにこうして防衛ラインとしてみるなら、地図上でも実際その地にいてもわかりやすい境界線だろう。

 

私は地図に置かれた「ゾ」の文字を〇で囲ったコマから指を走らせ自分の防衛地点を確認する。このゾンビ集団が北側に来てる場合、うん、十分D1に来る可能性はある。

 

「ここら辺は公園近くの住宅街だが、ベランダ、屋上があるものが多くてな。板も掛けていて移動できる場所が殆どだから追い込まれる心配がなく、すると家は視界を遮るのも逃げ込むのにも最適となる。よってびっくり遭遇だけには注意して欲しいが、慎重に行きゃぁそこまで危険性はないと判断した。現在確認されているゾンビ集団はハイゾンビが8割残りが通常のゾンビで、日中とはいえハイゾンビは民家に逃げ込んでも追いかけられる事は留意してくれ」

 

はいここでショート解説。序盤によく見ることとなるゾンビくんちゃんだけど、種類と時間帯によって強さが変わる。とりあえずボマーとかブッチャーとかの変異種を除いて───

ゾンビ(日中)……襲ってくる身体能力おじいちゃんおばあちゃん。ゴミなのでドアも開けられない。壊されることはあるので油断注意。

ゾンビ(夜中)……襲ってくる一般人。ドアは開けるし階段も登る。獲物を求め一直線に進むその姿は正に怪談だが、あの子の事しか見ない男子中学生なので穴を掘ってれば落ちる。

ハイゾンビ(日中)……上記のゾンビ(夜中)と同じ。基礎防御力が上がっている。つまり皮とか肉が腐り落ちていない。

ハイゾンビ(夜中)……地獄から来たのでスパイダーよろしく壁の取っ掛かりからクライミングができる。人間の域は越えないが、人間の域を超えないところまではしてくる。息はない。(激ウマギャグ)

 

より、今回は昼間のお仕事なので、襲ってくる一般人レベルですね。

スタート時だったらハイゾンビ(日中)5体で厳しいラインだが、今回は仲間も武器もある。まぁ余裕しゃくしゃくって奴よ。イレギュラーが起きなければな!

 

「確認だよリーダー」

 

私はよいしょっとクーを抱きかかえなおしながら言う。もう抱える必要は正直ないと思うんだけどなんとなくだ。

 

「さっきマキャロエン線から北側に入ってこないようにして欲しいって言ったけど、つまり死守ではない。ヤバかったら逃げていいって事だよね?」

「あったりまえよ」

 

リーダーはその義手の腕を動かし、チェンジしたと言っていた胸……心臓を指さす。

 

「命あっての物種だからな。やべぇなって思ったら遠慮なく逃げて来い。それはここの全員に言ってる。逃げれる状況である内に対処してぇからお前等までも出してんだ」

「おーけー」

 

リーダーの言葉からはしっかりとした意志を感じた。リーダーの立場として使えるものは使うが、ヤバいなら逃げろという本人の意思を重視しているオシヴァルの意思も聞けた。

そこに元が運営のデザイナーが作ったNPCの一人だったことは微塵も感じさせない、いい心意気だ。

私は人としてダメでイカれててゴミみたいな性格尖がってる人が大好きだが、それと同じくらい自分がしっかりしているヤツが大好きだった。

 

「じゃ、行ってくる」

「おう、無事を祈ってるぜ。まだ歓迎会もしてないんだからな」

 

私は後背に手を振って応えた。

 

 

 

現場のD1に向かう前に、女の子三人でショッピングタイム。お金は酒と葉っぱで、買うものは武器だ。

 

「じゃあこれポイントに換金よろしく。……名前なんだっけ?」

「シャクだ。葉っぱはいいとしてこの酒、カロスティー社のモンか。他のも人気あるいい奴ばっかじゃねぇか。今精算するが500は固いぞ」

「マジかよプトラちゃんにDX望遠鏡買ってあげるじゃん」

「シアねぇ、なんでこんな嗜好品持ってるの? 嗜好品(お酒)って一応レア分類じゃん」

「わかんない。クーが集めてきたもんだから。ほんとはクーの事を差別しないでねって賄賂する用だったんだけどいらなかったから」

 

犬の嗅覚で探して来たんじゃないかな、知らんけど。

 

「はっはっはっ、そりゃぁタイミングが良かったな嬢ちゃん。元よりウチのリーダーは差別は抑えてる方だったが、ひと月ぐらい前にその右腕のお嬢ちゃん以上な奴が来たから皆耐性ができてんだ」

 

紙と酒瓶を交互に見ていたシャクが口を挟んでくる。へぇ、クー以上な奴と。

 

「どんな奴? 狼人間みたいなの?」

「いや、犬だ」

「……犬ぅ?」

「そう、まんま犬。改造手術を無理やりされたらしい。脳移植だな。俺の小せぇ脳であっても、犬の小せぇ頭蓋骨にどうやって移植するかはわからんけどな。ひっひひ」

「犬、モフモフ。シャク、その犬どこにいる?」

「三号棟かグラウンドだな。発声器官は無いが文字書いて会話はできるぜぇ? スコットって名前だ。マスコットだからお似合いだな! ひゃっひゃ!」

 

犬に脳移植……何それ私知らない……こわ……。

左手で私の服をくいくいしてたクーに×印を突き付ける。ダメだクー、そいつは真の犬じゃない。

 

「ちがうの、わんちゃんじゃなくて……そっちもざんねんだけど、こっち。マキシマムから、ぶきはいきゅ-ひょーっていうのもらってたのわすれてた」

「あ、そうなの。ありがと」

 

クーの小さい手に握られていた黒いドックタグみたいな金属板を受け取る。ちなみにプレイヤー感ではマジでドックタグと言われている。これはNPCが死ぬと、その場で回収しない場合持ってた武器装備がグループ内の倉庫に自動で返却される仕様を暗喩している黒い愛称でもあるのだ。

 

ひーふーみーしーご。五枚? 普通人数分だけ貰えるはずなんだけど……さてはマキシマム、クーを守らせるために多めにクーに渡したな? いいのか幹部がそんな事して。

 

「ワニー。武器配給表あるから好きに選んでいいよー。今夜は私の奢りじゃー」

「わーい」

「クーも何か欲しそうなのあったら言ってね」

「うん」

 

……クーが欲しそうなのって何かあるのか? なさそう。

あ、そういえばクーの服装だが、女子階層の端っこには『服共有場』という、こんな世界であってもお洒落を楽しむ人たちの場があったので、そこから拝借してきたものを着せた。

 

何を着せたって? エプロンだよ。しょうがないじゃん着れる服限られるんだから。着てねぇよってツッコミは受付ないぞ。

結果として水着エプロンマント首輪(チョーカー)ロリという、何……何? が生まれたわけだが、前は隠せたんだからいいだろうと結論付けた。ちなみに後ろはマントのめくれ具合によって背中の肌が丸見えだ。草。

 

この格好に対しリーダーもマキシマムも一瞬正気を疑う眼差しを向けたが(私に)、スルーすることに決めたようだ。何もしないよりマシだと思ったのだろうか。私は何もしなかった方がマシだったと思う。

 

「じゃあ弓矢追加で。手持ち余裕はあるけど2ケタ切ると不安」

「私はあの大振りナイフ~。弾丸は支給分で足りるかな。後はロープと……グレいる?」

「リモ爆優先で。……ん? シアねぇあれ『ハイゾンビ・マテリアル』じゃない?」

「お? ほんとじゃん。再生上がるしクーに持たせるか。というわけでシャク、今言ったの全部お願い」

「あいよ。『ハイゾンビ・マテリアル』は配給表の対象外だからポイントでツケとくぜ」

 

 

 

「武器よし、防具なし、アイテムよーし」

「弓矢があればなんとでもなる」

「おねーちゃんたち、ぼうぐなくて大丈夫なの……?」

「「当たらなきゃいいの」」

 

当たっても特殊モーションの噛みつきじゃなけりゃ感染しないしへーきへーき。

 

では今回ゾンビ防衛戦をするパーティーメンバー&装備を改めて紹介しよう。

 

まずは私、カルシア。

主人公たる私の武装は刃渡り10cmぐらいの大ぶりなサバイバルナイフ。それと今は亡きロシュアから受け継いだハンドガンだ。後は投げナイフいにロープリモート爆弾……。ビルドは『人体強化』だが今は何の強化もしていないのでただの一般人だ。なおハイゾンビ相手だと2発まともに喰らうと死ぬ。

 

次はクー。

武器も防具も一切無いが、クーは元来生まれ持ってない得物が備え付いているので問題ない。鋭く黒光りする5本の爪の威力は折り紙付き。ハイゾンビであってもバターのように切り裂くだろう。クーはこの中で一番ステータスが高く噛まれても感染せず、メインウェポンの事もあるので唯一の前衛だ。5発ぐらい耐えられる。

 

最後にワニ。

ワニのメインは何といっても弓。頭に当たれば(クリティカルヒット)通常の3倍ダメを叩き出すロマン武器だ。銃と違ってエイムが難しいし着弾まで遅いし矢は場所取るし近づかれるとほぼ何もできない以外は、後半に連れ矢の補給が難しくなって両手塞がるぐらいしか欠点はない強武器だ。後はナイフとかで私と一緒。

ビルドとしては『異能力』だけど、ワニが現在所持している『吸血鬼』は終盤向けのモノなので現状そこまで役立たないモノである。血は吸われるだろうけどな!

 

以上の少女幼女幼女の構成だ。楽しいね。

 

「D1ポイントまでは30分もあれば着くって。で、ゾンビの襲撃予測は1時間もないぐらい?」

「僕たちは一応予備選力でしょ。漁るのメインと考えていいんじゃない」

「! クーだったらドックフードさがしてまたたべたい!」

「……シアねぇ? 児童虐待? 性虐待するならせめて僕にしてよ?」

「誤解だ……」

 

車に乗って行こうかと思ったのだが、別にそこまで距離があるわけでもないし他の人たちも歩いて行ってるのでそれに倣い歩いて行く事にした。周囲に流される日本人ソウルなので。

 

「そういや防衛地点の南東側、ハウスってグループの縄張りらしいよ。出会ったらなるべく事を荒立てないようにって言われた」

「ハウス? 聞いたことないグループ。というかハウスの土地だったらハウスが処理するんじゃないの?」

「名前の通り、家に引きこもって何もしないだろうってのがリーダーの見解だったよ。穴熊穴熊ー」

「おうちにずっといてへーきなの?」

「たまに出てるんじゃない? それか地下が繋がってたり」

 

目標は南側なので、正面校門と比べれば小さな玄関口からの出発となる。さっきのが大学の顔としての入り口ならば、こっちは利便性のための入り口。

先輩たちは外に出るとちらっと周囲を見渡し、真剣な顔で武器を担いで離れていった。

 

私たちも暇つぶしに雑談しながらそこに向かう。

 

「クーは、下はきゅうくつだとおもうから、ここの方がいいとおもうけどなぁ。ゾンビをやっつけれないのかな?」

「ん……ハウス組も銃持ってるだろうし、普通に戦えると思うけど。木材は外に比べたら調達が難しくても、そもそも金属が豊富だし」

「僕は都会沸きしたけど、最初っから金属加工できる機械なんて見つからないから苦労した。結局公園の木加工して弓作ったもん」

「あ、ワニの弓拾ったとかじゃなかったんだ。よく加工できたね」

「『サバイバル』は神。シアねぇ以外で唯一安心して身を任せられる」

「ちょっと何言ってるかわかんない。ワニちょっと弓見せてよー」

「いいよ、ほい」

「ありがとー」

 

ワニから弓を受け取る。私はリアルで弓なんて見たことも触ったこともないが、私と同じ初期装備のナイフ一本で削ったものだろうに綺麗なバランスでよくできている弓だった。というか手作業でどうやったらこんな綺麗な丸に削れるだ。『サバイバル』が強すぎる。

 

みょんみょんと弦を引くとキチンとしなり力強い弾力を返してくる。これなら余裕で使えるだろう。

 

「マウスじゃなくリアルで弓引くなんて初めてだな……」

「シアねぇ弓使う予定なの?」

「まー使えて損はないしねー。スキル取る気は今んとこないけど」

 

ぽつりと漏らした感想にワニからそう聞かれたので、曖昧な答えを返す。

『人体強化』は複数武器を使いこなすことがコンセプトでもあるので、メインにはせずとも今から慣れときたいなーとは思っている。

 

左手で弓を構え、右手で弦を引く。矢はつがえていないので適当だが、まぁ雰囲気としてはこんなもんだろう。私はポーズだけでも楽しんどくかと片目をつぶって狙いを付ける風をした。

……ん? あの人影って───

 

「カルシアちゃん!」

 

びくり。

廊下に高い女の子の声が響き渡る。

その場に思わず立ち止まると、前から制服姿の女の子が走り寄ってきた。心配そうな顔をしたピング髪のお姉さんは、そうここの幹部プトラちゃん。

 

プトラちゃんは私の前で止まり一息付くと、ちょっと涙目になりながら呟いた。

 

「部屋にいないなと思ったけど……やっぱり行くんだ」

 

私は即座に誤魔化そうと思ったが、思いっきり弓を引いた姿で硬直していたのを思い直し誤魔化すのは諦めた。出会った時の、警戒心を抱かせない恰好と違い今は戦闘前の恰好なので、これはちょっと誤魔化すには辛いものがある。

 

「ねぇ……ここで待ってようよ……! 皆さん強いから、カルシアちゃんたちが行かなくても大丈夫だって……っ!」

 

プトラちゃんは目を潤ませながら懇願するように見てくる。

 

おい助けてくれと隣を見るも、そこにワニもクーも姿が無く、いつの間にか背後で私を盾にするようにしていた。おい二人とも私の事大好きだったんじゃないのか???

 

私は内心ため息をつきながら考える。ここでうん止める~なんて言えたら楽だが、現実はそうは行かない。

プトラちゃんは死んで欲しくないから行かないでと言っているが、私からすれば死なないために行くのだから、根本的に考えが違う。

 

かと言って、ここでプトラちゃんを突き放す事も難しい。私は自分を捻くれたゴミだと思ってはいるが、クーを拾ったように善人に冷たくするほどゴミではない。ゴミであるという自覚があるからこそ、ちゃんとした人はそのままでいて欲しいと願う。

 

「最初に言ったじゃん。大丈夫だって、私もワニもクーも強いんだから」

 

プトラちゃんをハグしてゆっくりと言葉を選ぶ。プトラちゃんも頭の中では理解してる。私たちは何を言われても行くだろうし、自分は邪魔なだけだと。でも感情が追いついていないだけ。

 

私より背が高いプトラちゃんに背伸びしてハグする姿は滑稽だろうけど、まぁプトラちゃんを落ち着かせるためなら安いものだ。

 

「でも……でもっ! 帰ってこない人はいるし、昨日だって何人か死んじゃったんだよ!? カルシアちゃん達がそうならないって言いきれないじゃん! 皆さん……絶対帰ってくる、大丈夫だって笑って言ってくれたのに……!」

 

プトラちゃんの泣き声はどんどん大きくなる。後ろから来た先輩たちはなんだなんだとちらっと見ていくが、事情を察してそっと廊下を抜けていく。

 

「あー……でも私は大丈夫だって。いや大丈夫だとダメか……信じて、ね? 私を信じよう! ほら、私強いから。プトラちゃんとの言質がなかったらワニと協力してプトラちゃん攫えるぐらい強いから!」

 

私は誰かを励ました事なんて無い。泣かせた事はあるけど、それで慰めた事もない。ぶっちゃけどうすればいいかわかんない。

 

「私自分大好きで自分優先しちゃうけどさ、プトラちゃんのためにすぐ帰ってくるからさ。ノーダメチャレンジもするよ。でも心配事あったら動き鈍るから、プトラちゃんには笑顔で送り出して欲しいな~って」

 

何言えばいいのかわからなくなってきた。防衛戦は行く。プトラちゃんは泣かせない。目標はそれだけのはず……。

 

「自分が譲れないところだけは頑固だけど、それ以外は結構柔軟性高いよ私。何が言いたいかって、……何が言いたいんだろう。まぁ無事に帰ってくるって。そう! ほら、約束しようよ。指切りしてもいいよ。絶対帰ってくるって!」

 

焦ってどんどんわからなくなるし、しどろもどろになってきた。

 

でもそんな様子がおかしかったのか、単に時間がたったからか。

 

ハグ中のプトラちゃんは落ち着いてきて、ちょっと笑ってくれた。

背伸びも疲れたしとハグを止めてプトラちゃんと顔を向き合わせると、目は真っ赤だけど最初会議室で会ったような笑顔なプトラちゃんがいた。

 

「ぐすっ、ふふ、えへへ……カルシアちゃん、実はちょっと距離取られてるかなって思ってたけど、今のでそうは思わなくなっちゃった」

「そいつはありがと。距離取ってるつもりなんてないんだけどねー」

 

プトラちゃんはそうかなぁと柔らかく笑いながら呟く。

 

「カルシアちゃんは、強いね。心が私よりずっと強いよ」

「私は弱いと思ってるよ。自覚してるからマシなだけ」

「ううん。カルシアちゃんはきっと気づいてないだけだと思う。クーちゃんも、ワニちゃんも。私よりずっと心が強い」

「まぁ、プトラちゃんはそのままでいいと思うよ。私もワニもクーも、何かを犠牲にして得た偽りの強さだよ。あんまりいいもんじゃない」

「そんなことない。『言質』を発現させてから、精神に作用させるからかな? 私はその人の本質がちょっと見えるようになったの。三人とも、とっても綺麗な本質だった」

 

へぇ、本質。と、そんな事を思っていると、プトラちゃんが私の手を胸の前に取った。

 

「……ね。約束してね。無茶しないって。危なくなったらすぐ帰るって。約束だよ?」

 

プトラちゃんはもう完全に泣き止んでいて、茶目っ気のある笑顔で約束をしてきた。

うん。その笑顔が見たかった。私程度が良い子を曇らしてはいけない。

 

私は言葉にはせず、ただゆっくりと頷くと、もう一度ハグしていつの間にか玄関口付近まで進んでいた二人の元へ向かった。後ろから「もうっ!」と泣き笑いするようなプトラちゃんの声が聞こえる。

 

プトラちゃん。約束はするよ。けどごめんね。無茶はするし危なくなっていくときはいく。

だから「うん」とは口にしない。『言質』に対する手っ取り早い対策なんて、黙ってる事なんだから。




ちょっと最後のプトラちゃんとのやり取り浅い気がするからその内修正する

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