ゾンビゲー転生サバイバル百合モノ   作:バルロjp

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戦闘準備

私たち三人はD1ポイント内にある手頃な家にいつも通りの不法侵入をキメ、中を物色していた。

 

多機能だが制限された機能しかなかったプラスウォッチ君だが、NPC10人と交流(近くにいればOK判定)したため、出会った事のある人との通話機能が解放された。

『臨時防衛作戦室』と付けられた部屋からはゾンビを確認しただのB3方向に向かっているだの、次々と報告が上がっていて、彼らの緊張感が伝わる声がプラスウォッチから部屋の中に反響する。

 

が、私たちは平常運転だった。

 

「うぉーシルクハットだ。こういうの紳士的な私によく似合うと常日頃思ってたんだよね」

「ベルトは欲望の数だけ巻けと聖書にも書かれている。シアねぇこの胸強調ベルトを付けよう」

「これは……ツナかん? ドックフードじゃない……」

 

2階の寝室に忍び込み、クローゼットを開けてクーの新しい服探し。名目で言えばそうだがその実態は、シルクハットを見つけはしゃぐ私。お洒落用の黒ベルトをどうにか付けさせようとしてくるワニ。下のキッチンから集めてきた缶詰を精査するクー。

 

三者三様の自由具合だった。

 

既にここら辺の家と道路にトラップを仕掛け終え、陣取る事約20分。プラスウォッチからは戦闘レポートがひっきりなしに響くが私たちは暇だ。

状況があぶなそーなら、助けに来たよ! の大義名分の下にD1にいてねの指示を無視して駆け付けたのだが、残念な(良い)事に順調だ。

 

『ゾンビ共はB4を超える。半分ほど削った』

『こちらマックス。追加物資を運んでいる。B2の赤部屋だ』

『コルオットが負傷したので下がらせます。C3防衛に支障はありません』

 

「あー? そう言えばワニって今後の目標伝えてなかったっけ」

「今後の目標より今の行動だよシアねぇ。この胸強調ベルトを付けよう」

「これは……とりかん? ドックフードじゃない……」

 

シルクハットを気取った仕草で抑えながらワニの魔の手をひょいひょい躱す。ホリゾンタル(銃用の上半身ベルト)ならともかくそういうのはしたくない。

このシルクハットとかのネタ系統の恥ずかしさは平気でも、性的な恥ずかしさは一般女子高生見習いとして耐え難い。

ごめんねカルシア。お前の体は完璧に私好みではあるんだけど、見せびらかす度胸は私にはないんだ……。

 

『A3地点、ハイゾンビの数が多い。B4からの撤退を援護しろ』

『……道路(みちろ)のC4を解除したか? 観測できない』

 

「とりあえず『夢幻の如くなり(夢であれ)』目標ね。やり方覚えてる?」

「R社行かないといけないのは覚えてる。転生が最初から目的なのは初めてで新鮮だね。いつもプライドで最後まで戦ってるから」

「ぎょーむ用せっけん? これもちがう……」

 

いやぁ、逃げて次回に活かすよりはプライド死を選ぶよ私は。それにワニ達も嬉々としてプライドするじゃん。

でもワールドエンドイベントの『望まれた願い(メテオ)』の時だけは、転生手段がすぐにあったわけだったし転生すりゃ良かったと今では思ってる。でも喧嘩売られちゃあ買うしかないんだよなぁ。

 

『誰かD4の殲滅したか? こっちは数少ねぇぞ』

『ドッカーン! 足元がお留守だぜぇゾンビさんよぉ! ヒーハー!』

 

「あれ人数制限もないのがいんだよね~、手順も全員できるようになってるし。いい加減諦めてよというか自分に付けろよ胸強調ベルト」

「僕は人のを見て楽しみたいし純粋にえっちなシアねぇを見たいの」

「あそこにあったのぜんぶハズレ……ドックフードはおいしから、みんなとっちゃうのかなぁ?」

 

いやドックフードは袋タイプなのでそもそも缶詰を持ってきたのが間違ってるんだよクー。

 

ついに部屋隅に追い詰められた私はワニと取っ組み合いフェーズに入る。STRの初期値は一緒だが、身長という体格差は覆せない。よって私の勝ちは確定的に明らか、可愛い生意気なワニを上から押さえつけるのは楽しいものがある。

 

『C3、殲滅完了しました。別エリアに向かいます』

 

「人にやらせるならまず自分から。私はワニの方がこの胸強調ベルトは似合っていると思うので付けさせてやんよ!」

「ぐぬぬぬぬぬ……! 無理やりはやぶさかでないけど僕は貧乳キャラだから付けてもつまらない……!」

「んー……まぁおねーちゃんならおいしいごはんにしてくれるか。もってかえろう」

 

ゾンビがうろつく世界のセーフハウスでもない場所で、服に関しての取っ組み合いの喧嘩をする私とワニに、せっせと食料漁りをするクー。危機感というより正気が足りてないのではと思わせる光景だ。

 

プラスウォッチ君から流れる銃声と爆発音がこの場の場違い感を加速させるぜ。

………………ん?

 

「……通話が静か過ぎない?」

『……ルーピシュだ。各自、点呼』

 

組み合った姿勢のまま私たちは固まる。クーは相変わらず缶詰をカバンに詰める作業をしているが、ワニはさっきまでの楽し気な表情から一転として真剣顔だ。

ワニの視線は私を見ていて、目で「どうするの」と訴えかけている。

 

『……チュン班、私は少し別行動していたのですが……二人……いえ、三人、私以外いません』

『マックス班全員いるぜ』

『やべぇかもしれねぇ、さっきまで隣で戦ってたカニュー班から銃声が聞こえねぇ』

 

これは……やってますね。何かしらトラブルの匂いだ。しかも報告無しでNPCが消えてると来た。

大規模破壊でも無く、一人一人じゃなくチーム単位で同時に消すこの組織性。

 

この手つき、十中八九プレイヤーだ。

 

「ワニ、屋上でトラップ確認。音グレ投げていいよ」

「おけ。そのまま位置付いてるね」

「クー。もーそろそろゾンビ共が来るから準備してね」

「! わかった!」

 

ワニが部屋を出るのを見送り、私はプラスウォッチのミュートを解除する。

配置場所からしてマジでなるべく戦わせたくなかったんだろうけど、トラブル起こったってんなら突っ込むよ~同郷(プレイヤー)相手なら私たちの方が間違いなくうまいし。プレイヤー同士でも私たちの方がうまいし。

 

私は若干混乱気味な様相を呈してきている通話に明るい声で参加する。

 

『ハロハロー、カルシア班だよ~結成報告されてるか知らないけど』

『……ワニさんがいる班か。結成の報告は受けている』

 

お、なら話が早い。お返事はさっき点呼を促してたルーピシュの声だね。ワニに助けられたって幹部だったかな。

 

『そうそうワニがいるとこ。やー行けって言われて来たのに暇でさぁ。このままじゃ腕が鈍っちゃうからさ、そっち危なそうだしゾンビ達全部引き受けるよ。撤退して撤退して~』

『……今、全体のゾンビは120ほど。3人で受けられるとは思えない。未確認の敵個体もいる。危険だ。そちらも撤退し───』

 

ダーデュドダダダダドォーンデダダダ♪

 

突然プラスウォッチからのルーピシュの声を遮るように爆音で音楽が鳴り響く。

軽快かつけたたましい音楽はゾンビ共の注意を引く。周囲300mにいるゾンビは目の前に得物がいない限りは音源に向かってくるだろう。

音源はどこかって? そりゃ当然ここの屋上だ。ワニが持ってた音グレ(見た目はラジカセ)を指示の通り使ったからだ。

 

『……この音は。お前、どうするんだ』

 

プラスウォッチ君は優秀なのでどれだけ音楽が爆音で流れていてもノイズキャンセリングしてくれるが、そもそもルーピシュは作戦に参加しているワケで。

普通に直で音を聞いたであろうルーピシュが、状況を把握して若干強張った声で聞いてくる。

 

音グレは一時的な時間稼ぎにはいいが、ゾンビをちょっぴり興奮状態にさせる。ルーピシュ(NPC)にとっては、使うだけどんどん苦しくなるアイテムなんだろう。

 

『大丈夫大丈夫! 何とかできるって! ほら撤退促しといて、ゾンビは全部D1辺りに集まるから!』

 

が、私たちにとってはそれだけだ。仲間を助ける大義名分を得て経験値稼ぎできるならそれでいい。暗殺よりも正面切っての戦闘の方が獲得経験値は上なんだから。

 

『……各員撤退開始。正体不明の敵個体がいる。警戒』

 

「よし」

 

これで邪魔なNPCはいなくなってやりやすくなる。

 

ワニとは私達以外のプレイヤーがいる可能性について話した。ワニと出会う前ならいるかも~だったが、ワニという身内とはいえ他プレイヤーがいたのだから、他にも知らないプレイヤーがいてもおかしくない。

 

対応方針としては、NZWの通りにすることにした。

 

即ち殺害。ここがリアルの世界であったとしても、NZWはNZW。不信の和解&協力よりかは殺してしまった方がいい。少なくとも背中の安全は約束される。

 

相手プレイヤーは手際からして複数人。NPCグループを報告させずに殺してるのだから、同人数の4人くらいだろう。

武装はまだ私と同じくらいだろうけど、NPC殺して奪った銃は確実にあるな。でも段々通話が寂しくなった=1グループ殺すのに時間がかかっていることから、そこまで手練れではない。

 

プレイヤーは今頃殺したNPCから装備を剥いでいるところだろう。そもそもゾンビパーティー会場な音グレ音源地に突っ込む奴はいない。

 

よって、約120体のゾンビを殺す時間は十分にある。

 

 

 

屋上で、灰と赤色が混じった物体が波となって近寄ってきているのをぼーっと見る。ゲームでこの条件だったら星3クリア(余裕綽々)だが、リアルだと星2クリア(ノーダメージ)ができるかもちょっと不安になる。

 

音グレはうるさかったのでワニが破壊した。ゲームだと一度使った後は地形破壊に巻き込まれない限り10分間何があっても音を鳴らす代物だったが、リアルになった事でその無敵はなくなったようだ。

 

とはいえ、一度爆音を鳴らしたという効果は変わらない。前に見えてる波がその証拠だ。

雪解け時期の川が、表面の凍った部分を割り流し重なる様子と同じように、ゾンビの列はこちらに向かっている。

 

「最初はワニの弓で頭数減らして、ポイント入ったら爆破。ノンアク状態のクーで数減らした後は泥沼ファイト。プレイヤーの妨害は無いものとして、5分で片付けれればいいけど」

「一人で十体倒すどころじゃない。でも三国志ほどでもないね。僕らもまだそこまで無双できるわけじゃないし」

 

民家の屋上で頬杖付いてる私達と違い、クーはあの程度のレベル帯ならまだ攻撃されないので下で待機だ。ここから見える曲がり角で待機していて、こちらにぶんぶん左手を振ってアピールしている。プラスウォッチの通話機能教えたけど忘れてるな、あれ。

 

『……ルーピシュだ。全員撤退完了。俺はA1から未確認敵個体の観測(スポット)をする』

『おーけー』

 

「と、いうわけで憂いも完璧になくなりました」

「ん。もうそろそろ始まるよ」

 

私がしゃがみ込みながら隣のワニに伝えると、ワニは軽く返事をしながら立ち上がった。一応、ここから見える範囲で敵プレイヤーがいないことは確認済みだ。

 

ワニは腰の弓用ホルスターから5cmほどの丸い棒を引っ張りだして振る。すると青色の丸い棒はカシュンッという軽い音共に長く伸び、どういう原理か矢じりも矢羽も付いている矢と化した。

数撃ちの木矢でもいいのだげど、ハイゾンビ相手ならヘッショしないとワンコンできない。その点この『第一機械矢(アイン)』なら胴体でも2確ラインとなる。ワニはヘッショの自信があるが、まぁ安全マージンだ。

 

右手で白布が巻かれた部分を小指から順に握り直し、息をゆっくりと吐きながら弓を持ち上げ矢をつがえ、きりりと構える。

右足でトントンとルーティンを行い、風で作業着が揺れる中ワニは綺麗なフォームを作った。

 

「いつでもいける」

 

 

 

「おーけー……。技量に信頼を。さぁやろうか」

「意義に敬意を。100m切った。撃つ」




望まれた願い(メテオ)

地球に巨大隕石が降ってくるというワールドエンドイベント。成功すると隕石素材が大量に手に入るが、失敗すると鯖が吹っ飛ぶ。
阻止するためには、アポカリ世界に疲れた結果地球破壊宗教と化してしまった皆さんの場所に乗り込む必要がある。そこには隕石を呼んだ都合上の歪みがあるので、そこから転生をすることができる。
もちろん宗教家の皆さんとなんやかんやすれば隕石は防げるが、宗教家の場所の都合上、成功させ地球を救っていると、どう頑張っても隕石素材は取れない。



おかしいな。もっと早くにマートラで戦闘させる予定だったんだけどな。なんでこんな文字数伸びてダラダラしてるんだ?

予定では10話目には防衛戦してたはずなんだが……。

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