ゾンビゲー転生サバイバル百合モノ   作:バルロjp

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ヒロイン(カルシア)のヒロインはもうすぐ登場
どんな娘にするか未定。ノープラン。大丈夫かこれ?

24/3/21修正


初動

私はんぎぎと声を上げながらハッチをぶん回して開けて外に出てきた。荒廃した世界に新たなプレイヤーが誕生した瞬間である。

 

初日は肝心だ。行動が遅れてしまうとあっという間に夜になって死んでしまう。迷ってる暇はないし、もはや慣れた作業をさっさとしないとね。

今の恰好は作業用の手袋にお腹が出てるタイプのTシャツにショートデニム、ニーソにブーツという防御力皆無でアポカリプス舐めてんの? って恰好だが、服は別に優先度が高くないので後回し。だって防御力設定されてるわけじゃないし……。防御より火力だし……。

 

ハッチを閉じて周りを見ると、そこは塀に囲まれ後ろには一軒家らしきもの。どうやらこの一軒家の庭に沸いたらしい。ジャンプして塀の奥を見ると、同じような一軒家が点々と建っていた。

新規プレイヤーの湧き位置は足元のシェルター固定だが、シェルターの位置は固定じゃない。大きく分けて『森』『町』『都会』の三つだ。今回は一番普通な『町』湧き。

 

都会ならビルやらの大きい建物が並び、特殊な建物などがあるが、町はそんな物は少ない。さっきのにちょっと追加して描写すると、普通な一軒家が20軒ほどにガソスタや小さな店がある程度だ。まさにプレイヤーのための補充地点、って感じ。

 

ここの家の探索は後回しにしてとりあえず塀から出て大通りへ。シェルターの位置を覚えておくためにも、この家がどこらへんか把握しなきゃ……っと。

 

大通りに出て家と家の間。コンクリートを敷いていない、土の茶色がまっすぐ続く道路の上に、ゆらゆらと揺れている人型のナニカが一体。

 

ナニカはボロボロの、所々赤黒いシミを付けた布をまとい、口は半開きで目もあらぬ方向を向いている。腕をだらりと下げて、ただ風に揺られ倒れないようにおぼつかない足取りで歩いている。

 

ここまで描写すればわかるだろう。この堂々と道路を歩いている奴はゾンビだ。第一ゾンビちゃん君です。

 

とりあえず塀内に戻って張り付き様子を見る。ノーマルなゾンビはこの距離だと余程の音量を出さないと気づくことはないだろうけど念のためだ。

 

……うーむ、こう、PCの画面越しじゃなくてリアルで見ると、流石にグロいなぁ。漂ってくる匂いだって、やはり嗅ぎたいとは思えない何とも言えない異臭だ。けどこいつらとは長い付き合いになっちゃうんだろうなぁ……。

 

微妙な顔をしながらも、ゾンビの覗き見(ピーク)を止めてもう一度壁に背を当てる。そのまま右手に付けられた装置からホロウィンドウを起動させ、スキルポイントを『忍び足』『近接格闘』『サバイバル』『イルカの眠り』の4つに振る。これで余りは4ポイントだけだ。

 

この手に付けられた装置はプラスウォッチと言ってプレイヤーのメニュー画面用のアレだ。サイバネ化があるこの世界では、人体改造をしていなくたってこの小さな装置でポイントを振るだけで強化される。どうなってんだとか突っ込んじゃいけない。そこらへんの細かい設定は公開されてるけどまた今度だ。

 

とにかく。これで私は今、最低限ゾンビと出会ったって対処できる力を手に入れた。『忍び足』は移動時ゾンビやプレイヤーから感知されづらくなるもの。『近接格闘』は近づいた時、ナイフだけで殺せる用。重火器を手に入れるといらない子になるが、サイバネ化したり変位ウィルス打ち込んだらまた引っ張り出される都合のいい(かわいそうな)子だ。

『サバイバル』は今は使わない。主に生活面の補助だからね。けどフレーバーテキストで『寝袋に虫が入っていても、食べ物に土が混ざっても、ゾンビの異臭がしても、危険がないのなら細かい事を気にしていては生きていけない。』ってあるから今取った。正解だったようでゾンビの異臭はあまり不快に感じなくなった。

『イルカの眠り』は夜用。詳しくは寝る時ね。

 

さて、それじゃああのゾンビにもう一度死んでもらうとしよう。日中のノーマルゾンビなんて10体はいないと負ける事はないけど、それでも事故の要因は無くしておいた方がいい。マッチ一本火事の元、だ。

 

そろりそろりと、『忍び足』を発動させつつギリギリまで近づいて、ゾンビが後ろを向いたら急接近。音に気付いて首だけ振り向いたゾンビだが、その頃には私のナイフが届く距離だ。『近接格闘』が導くままに、私は接近した勢いでゾンビの目にナイフを刺し、体ごと地面に突き倒してナイフを深く脳まで入れてやった。

 

NZWの設定上、ゾンビは頭と胴体を切り離すないし脳を破壊すれば倒せる。ゾンビは出していたうめき声を段々と小さくさせ、そして静かになった。

 

念のため5秒くらい待ってからナイフを引き抜く。んー、ナイフの破損なし。でも血がついちゃったな……画面越しなら全く気にならなかったけど、やはりリアルで見ると嫌だ。ゾンビの服とも言えない布で拭いておくか。

 

……しかし、殺してもそんなに動揺しないもんだなぁ。人型とはいえゾンビだし、ゲームの奴だし、アドレナリン出てるからかもしれないけど。あぁ後カルシアの体だからってのもあるのかな? まぁなんでもいいや。

 

なむーと呟いてから、ゾンビの懐をがさごそする。ま大したモノ持ってる事なんて可能性ひっくいんだけど、たまに、たまーにね? 『抗ウィルス注射』とか『HGの設計図』とか持ってるから……。

 

なおもちろん持ってなく、懐にあったのは硬貨のみ。おふぁっく。

 

まぁいい。気を取り直してさっさとこの町を探索しよう。ゾンビは見つけ次第殺しておく方向で。夜になるまでは湧いたばかりのプレイヤー付近にゾンビはそう多く湧かないし、私以外のプレイヤーがこの世界にいるかは知らないけど、ハッチが生成される場所は周囲1500mにプレイヤーがいない場所だ。平和な探索を行えるでしょう。車とかで急接近されるパターンは知らん。諦めろ。

 

頭の中で音楽を流しながら、慣れた手つきで他人の家から物資をかっぱらっていく。集落は田舎をイメージしているのか、はたまたアポカリプスしたからか。基本的にドアは全部空いているので、侵入に手間どることはない。

 

 

 

 

私はサクッと全体の探索を終わらせ、最後に残しておいたガソスタに来ていた。私、ケーキのイチゴは最後に残す派。

 

ガソスタの内部は特に良い物がなかった。まぁこっちは期待していない。他のとこの探索、そして追加で見つけて殺したゾンビ8体を漁って、食料は+1週間分ってとこか。それにレアアイテムの『検査キット』に他にはクラフト素材の布とか電池、そして弾丸。んーしょっぱい。『検査キット』はよく落ちるレア枠だし。

 

ま、所詮は集落だしね、やはり美味しい思いするなら都市に行かなきゃ。

そこで私がガソスタ(イチゴ)を最後にした理由がくる。

集落から次の集落又は都市は、特殊な建物を除いて最短2kmは離れているが移動手段が徒歩だけじゃあユーザーから文句が出まくる。「俺はいつまでWキーを押しっぱなしにしとけばいいんだ?」ってね。

 

というわけで、運営は車を使えとお達しです。集落区分なら必ずあるガソリンスタンド。そこには必ず、ちょっと直せば(・・・・・・・)動かせる車が置いてある。ちょっと程度ならば、『サバイバル』がやってくれるので、みーんなこのスキルを取るわけだ。流石だぜ『サバイバル』先輩!

あ? 森スタート? 放棄された車が一定確立で転がってるから大丈夫だよ。

 

車って、やっぱり拠点作る前は必須な部分あるからね……。移動手段としてはもちろん、物資を移動できるのが大きい。いずれ、量子分解技術が使われた機械、つまりマジックバックみたいなのが手に入るが、それまでお世話になることだろう。

 

私は適当に目立たなさそうな色の薄汚れ灰色になった車を選び、窓をぶち破ってドアオープン。後は『サバイバル』さんに任せると、勝手に体が動いて映画みたいにコードを露出させてバチバチさせたりし始めた。

 

うんうん。問題なく動きそう。ガソリンもタンク三杯分は倉庫に積んであったし、しばらくは補給なくても大丈夫だね。

 

しばらく今後の事を考えながら『サバイバル』に身を任せていると、車がぶるるんと声を出し始めた。よーしよし、これで準備は完了と。

 

夜はとても冷え込んで、サイバネ化とかしてない今じゃぁ手足が動かしづらくなる『寒冷』デバフが付いちゃうので、出発は朝となる。それに夜の荒野は『蟻』とか『犬』が活発になる頃だしね。そんなとこ車で突っ走るより、ガソスタで夜明かして朝出発した方が賢明よ。開けた場所より室内の方が余程戦いやすいし、ガソスタには裏口だってある。

 

拾っておいた『布』や『薪木』に適当に余っていた『ガソリン』を撒いて、そこらに落ちていた『ライター』で着火。即席キャンプファイヤーだ。ちなみにこの時『サバイバル』を取っていると煙の量が少なくなる。

夜に焚火だなんて目立つマネ、ゾンビがいかにもよってきそうだけど、ゾンビは本能に近い行動をするらしく火は恐れて基本近づかない。これは『外なるもの』以外は大体共通なので、火を焚けれる状況ならやった方がいいのだ。なおプレイヤー相手には狩られる。

 

さて、せっかく火を付けたんだから晩御飯作っちゃおう。エネルギーバーはあるけど普通の料理を食べれるならそれに越したことはない。今までずっとカップ麵生活だったしね。

『サバイバル』先輩のおかげで多少の料理はできるし、元の世界よりはまともな食事できるぞー。

 

えー本日の晩御飯はパン(とても固い)にチーズ(カビてる部分を切って捨てたもの)を溶かし塗り、野菜(萎びている)と肉(干し肉なのでとても固くしょっぱい)を挟んだものだ。うーんこれでも元の世界よりちゃんとしたご飯っぽいとかいう事実。

 

いや、焚火の前でこんなキャンプ見たいな食事を取れるんだ! シチュエーション補正で美味しく食べれるはず! いつも食べてるこん兵衛とかあつ盛りとかペヤンゴより幸福度数高いって絶対!

 

……よし、自分を騙し終えた。さっそくいただきましょう。

 

まず一口。初っ端からクソ固いパンが噛み千切るのを妨害してくるが、我がカルシアの体は私の身体より顎の力が強い。苦戦はしたがなんとか一口を分離させた。

 

辛い。まず最初に感じたのは塩っ辛さだ。チーズの塩味、干し肉の塩味がとてもキツい。舌が痛みを訴えてくる。ゾンビゲームでの食事と言えば回復を連想しそうな単語だが、少なくともこれは定番とは正反対に、私にダメージを与えてきた。

次に感じるのは渇きだ。塩味もあるが、それ以上にパッサパサに渇いたパン、そしてしなび乾燥野菜の仲間入りをしようとしていた具材によって、口内の水分が全て吸い取られていく。その吸収率は凄まじく、一瞬にして私の口内に砂漠が生み出された。

なんとか噛みきり小分けにし飲み込もうとしても、喉がうまく動かない。食道が胃まで運ぶことを拒否している。

 

水、水だ。この塩辛さと乾燥具合を解決するには水しかない!

 

バックから水の入ったボトルを荒く取って慌ただしくキャップを外し、その勢いのまま水を口内へ。干し肉とチーズの塩辛さも、渇いたパンも口内も。水は期待通りの働きをし、喉を潤し中和をしていった。

 

飲み込むなら今しかねぇ! いけるいけるいけるっ!

 

 

 

 

……さて。

 

なんとか一口を終わらせ、追加の水を口に含み味覚をリセットしている私の視線の先には、まだ10分の1も食べ終わっていない、カラカラ(辛辛)(辛いのと乾燥している状態をかけたとても面白いジョーク)のサンドイッチがあった。ちなみにもう2本作ってある。今後火を毎晩焚けるかわからないからね。チーズもパンも、焼けるときに焼いとかないといけないのだ。

 

………………。

 

私は無言で水のボトルを追加で出した。今夜の晩御飯は、サンドイッチじゃなくてポトフ、いやスープモドキにしよう。


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