「当面の武器と素材は、現時点で集まっている。巣をつつくのは止めて、今ある分を回収して『工場』にでも拠点を───」
バゴッズン!
「「「!?」」」
俺は皆を説得して、もう引き上げるつもりだった。正直言ってこの恵まれたスポーン条件で『都会』を諦めるのはとても惜しいが、カース達を抱えた状況でキャリーしきるのは難しい。カースたちの身内鯖で培った技術なんて、公式鯖連中にしたら付け焼き刃にもならないだろう。
だから俺は、各自のNPC/プレイヤーに対してのスタンス発表というタイミングのいい所で現状を表明し、魔境の『都会』から脱出を促そうとして。
そこで、隠れている建物が撃たれた。開かれていた扉、そこにどこからか撃ち放たれた弾丸が着弾し、外れた蝶番が地面に落ちる。
スナイパー! あぁクソ! やはり位置は既にバレてるか!
「うぉっ!? ……オメガ、大丈夫なんだろうか、これ」
「いや、ヤバい。中間地点まですぐ撤退しよう、ノボル! 盾北方向に構えてくれ! 出るぞ!」
「お、おうわかった……!」
「応戦シネェノカ!?」
「場所割れてるんだから完璧に相手先手だ、勝算あるから喧嘩売られてる!」
「ナルホドナァ!」
身を縮めて素早く建物から建物へ。さっき通ってきた道を大急ぎで逆戻りする。NPCは銃を外しもするし牽制もするが、あんな追い立てるような射撃はしない。そもそも牽制だって視界外して10秒以内しかしない。建物内でタゲ切ったあの状況、プレイヤーの手によって撃たれたのは明白だ。
ガァン!
「うわぁ!? あ、っひ……!?」
「大丈夫かノボルぅ!?」
「ぁ、手が、痺れ……」
「我はリーダー! 変わるぞ! 盾を!」
走る。走る。走る。まともに装備もスキルも揃っていない現状、歯向かうだけ無駄だ。
幸い、スナイパーの位置は南方面の尖塔だろうとアタリは付いている。使っているのもノボルのライオットシールドを抜けないSF-
そうして俺たちは、やっとの思いで仮拠点へとたどり着いた。周囲の民家4つサイズの大きめの家で、中には『都会』についてから集められたアイテム、そして鉄丸達がさっき攫ってきた女性が3人気絶し拘束された状態で隅に寝かされていた。
最近寝床にしていた場所とあって、3人は仮拠点に入るなり崩れ落ちた。特にノボルは性格もあってか精神的疲労が激しかったのだろう、今にも吐きそうな顔をしている。できることならゆっくりさせてやりたいが、今はそうはいかない。ここも直ぐに発たねばならない。
「皆、休みたい気持ちはわかるが、今は脱出が優先だ。一昨日昨日で集めた使えるものをまとめて、来た時の車で脱出する」
「ウヘェ、マジカヨ……」
「捕らえた捕虜はどうするのだ? 鉄丸には悪いが抱えていくわけにもいかんし……。バラすのか?」
「……つ、強くならなきゃいけないって言っても、やっぱり可哀そうだ。工場ってパーツ落ちてただろ、見逃さないか?」
「ああ、鉄丸用の強化パーツは惜しいが、別手段でも手に入るものだ。今回は諦めよう」
「アァ……ジャアナ俺ノカワイ子チャン……」
食料、医薬品、素材、武器、消耗品。バックパックに次々と入れられ、必要な物は殆ど詰め終わった。
「大方持ったぞ!」
「車ニ詰メンゾ」
後は車のトランクにバケツリレーのように入れて終わりだ。元より4人が以心伝心なのもあるし、火事場の馬鹿力的なものもあったのか、直ぐに終わった。
「よっし乗れ!」
「俺ガハンドル握ルゼ!」
そして鉄丸が運転席に着き、カースが助手席に。
俺もノボルを引き連れ後部座席に着こうとして───
「あ、待ってくれ! せめてあの人達のロープ外してやらないと───」
ノボルが急に横に逸れて、腰のナイフを抜いて捕虜のロープを切ろうとし───
「やっほー。あれー君たちそんな急いでどこ行くの?」
正面玄関からヘラヘラ笑いながらおどけた口調で話しかけてくる女が現れた。
「車出せぇ! 鉄丸!」
俺はすぐに叫ぶ。後ろは見ない。あいつから目を離せない。あいつから
「……ッチィ! 外出テ直グデ待ッテルゼ!」
「あ、おい! 見捨てるのか! リーダーとして見過ごせんぞ!」
「リーダーナラ切リ捨テルノモ学ベヤ! オ前ヤッパリーダー向イテネェゾ!」
「なにっ!?」
助かる事に、
そして二人の安全が確保されただろうので、残ったノボルをちらりと見るが……ダメだ。完全に硬直してる。端的に言って、状況もノボルの精神状態もヤバイ。
「あ、もーひどいなー。こっちは平和的にお話しようとしてるだけなのに」
「っは、平和的に? スナイパーに撃たせておいて、笑わせる」
ヤレヤレと肩を竦め嘆息する女。白髪のウルフカット、気取ったシルクハット、160cmぐらいの身長に、傷跡もタトゥーも入れていないスレンダーな体。そしてランキング上位のみに配布された『瞳パターン:オッドアイ』。あぁ、俺たちは最悪な奴と同じ鯖に乗っちまったらしい。
「カルシア……PK野郎が……!」
「あれ? 君私の事知ってるの? 辛いなぁ有名人は」
「ぬかせ、『協力はありえないので関わらない、又は早めの殺害をすること』ってPK被害者スレに書書かれ続けてんだぞ」
「やだなぁ、人聞きの悪い事言わないでよ。私はちゃんと自分のルーツに行動してるだけだってのに」
「それが狂ってるって言われてんだよ、狂人が!」
俺はカルシアを睨みつけながらそう吐き捨てる。
カルシア。NZW公式鯖に入り浸ってる有名プレイヤーの一人で『ノパレント』グループ所属。
戦闘とPKが大好きなプレイヤー。フランクかつフレンドリーで、全体チャット等出没しているのを見る。
「お前……現実となったこの世界でも、人を殺すのか……?」
「別に私は殺すのが目的じゃないって。いつも通り、ゲームだろうとリアルだろうと、私は変わらず見たいものを見るだけだよ」
カルシアは。いや、『ノパレント』というグループは狂っている。何もかもが理解できない。
NZW内に転移するという、ありえないイベントに、よく言えば浮かれた、悪く言えば錯乱していた
手汗でぬめりが酷いが、それでも離さない銃を持つ手が自然と力強くなる。この銃は、見かけ倒しだ。カルシアの強化具合がどれほどかはわからないが、倒せるとは思えない。今場が硬直してるのは、カルシアがまだ遊んでいるだけだからだ。この場で俺が銃を向けて戦いの空気になれば、俺たちは蹂躙されるだろう。
幸い、今カルシアのタゲは俺に向いている。この場にはまだノボルと人質二名がいる。何とかして逃がさな───
「ところで君、ノボル君だっけ? そこの
そんな俺の思考をあざ笑うかのように、カルシアはターゲットをノボルに向けた。ご丁寧に、ホルスターから抜いた銃を向けて。あぁクッソ、最悪だ!
銃を持つ手に更に力が加わる。銃を向けることはしない。
「あっ、え……え?」
ノボルは完全に固まっていた。縄を切ってやろうという親切心が裏目に出て逃げ遅れ、更に縄を切るため人質の傍でナイフを出していたのも裏目に出て人質取った犯人扱いをされ、銃を向けられている。ノボルはメンタルが一番弱い、当然と言えば当然だ。
「人質ってさ、まー弱い立場の方がやる手段じゃん。こいつを殺して欲しくなかったら、俺を助けろってね」
ニコニコと笑いながら、カルシアがこつりこつりとコンクリートを歩む音を響かせながらノボルに近づいてくる。
「ぅ……っく、くるな! 下がれ!?」
防衛本能がそうさせたのか、カルシアが発した人質という言葉に影響されたのか。
ノボルは恐怖で涙目になりながら、助けようとした捕虜を自分が助かるための人質として交渉材料にしてしまった。
カルシアのニヤつきが加速する。
「焦燥と恐怖に羞恥、それに懺悔が合わさって、感情がぐっちゃぐちゃ。心優しい少年も、自分の命が脅かされれば本性を表す。人間ってほんとステキな生き物だよね、オメガ君」
「ノボルを追い込んでんのはお前だろ……!」
カルシアを睨んでもどこ吹く風。銃口をノボルに突き付けたまま、カルシアは「そんなギロリと目を剥かないでよ~」とほざいている。
「じゃ、撃つね?」
パン。
「ぁ? ぅ、えぁ……?」
「……は?」
いきなりだった。躊躇もロクな警告もない。話に脈絡がなさすぎる。「じゃ」って何だ? 何に対しての「じゃ」だ?
軽い発射音。それに次いでノボルの小さな悲鳴。
カルシアから目を離しちゃいけない、さっきまでそう自分に言い聞かせていたのも忘れて、思わず振り返ってしまう。
ノボルが、右目から血を噴き出して倒れていく光景が、ゆっくりと目に映った。