ゾンビゲー転生サバイバル百合モノ   作:バルロjp

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本作には残酷な描写が含まれます。
残酷な描写に個人差があるのは存じておりますが、じゃあ基準言えよって言われても困るので各々で判断してください。

ま残酷な描写メインなんてあんまりやんないです。


終わり

「四方向バトル、制限時間まで防衛せよ。残り時間5分」

「……? あ、時間クライシスか! 急にレトロなガンシューネタ出されても困るんだけど」

「ちゃんと拾ってくれるシアねぇ好きだよ」

「はいはい。100円入れてコンテニューできるんなら私も喜ぶんだけどね」

「おねーちゃんたちっていつもむずかしいはなししてるね? クーは何はなしてるかわからなくてさびしい」

「ごめんて」

 

これからいっぱい(ゾンビから)構ってもらえるから許して。

 

現状、ゾンビが襲ってくるのはワニが言った通り四方向。屋上から家に繋がる階段は、クーの手により潰されているので問題なし。東西南北で這い上がってくるゾンビから屋上を防衛しよう!

 

ゾンビが出終わった地下入り口にロシュアが引っ込んでいくと同時に、萎縮効果時間も切れゾンビ達の勢いも増す。はーい名物ゾンビタワー建築開始でーす。

 

 

───

 

 

「ぅ……逆に味が無いのが不自然過ぎて気持ち悪い」

 

安定しない土台ながらも数多の仲間を積み上げて、僕を見上げ手を伸ばすゾンビが大分近くなっているのを見下ろしながら、僕はゾンビの腕を食べていた。

 

異能力、『吸血鬼』は序盤で得られるステータスなんて些細なモノだし、普通のゾンビだなんて輪をかけて微小だけど、それでもやらないよりマシだから無理やり口に押し込む。

 

屋上の端に転がっている、主にクーによって切り落とされたゾンビの腕はまだまだあり、なんなら頭だってある。流石に僕も頭は食べたいと思わないから蹴り落とすけど。

 

『吸血鬼』の仕様で、エネルギー補給を目的とした時、僕の()()()行為は変化される。ゾンビを食べても感染せず、硬い筋も、骨だって噛みきり、腐敗し明らかにマズそうな部分であっても普通に食べられる。とはいえ、当然やりたいかと言われればノーだけど。

 

「ふぅ。口洗いたいけど、シアねぇ水全部使ってた、か。シアねぇ(のせいで)に穢されちゃった……」

 

僕の言葉に投げナイフの狙いを着けていたシアねぇの動きが一瞬止まったのを確認しつつ、僕は置いていた弓を持つ。

腰の矢筒から『第一機械矢(アイン)』を一個とって、カシュンと音を鳴らせ一本にしながら弓につがえ、右足でトントンと地面を叩く。

 

これが人のタワーだったら、効率的に建てるため組体操みたいな建て方をするんだろうけど、お生憎この建材はゾンビ。ただただ獲物へ一直線に建てたこのタワーは、文字通り積み重なり同類を踏みつぶしてできている。支柱を一本殺せば崩壊するなんて、甘い作りをしていない。無駄しかない建材を大量に投じた子供の建築だからこそ、その頑丈さは折り紙つきになる。

 

「だから、狙うとしたら一番上から一個下辺り」

「があああぅぅぅうじあああぁぁぁ!」

 

うるさい叫びを無視して、狙って対象を見据え、待って心を落ち着け、ゆっくりと手がブレないように放つ。

土台はしっかりし始めていても、上はまだグラグラと不安定。一番に乗ってきたゾンビはあまり意味がないけど、その下だとそれなりに効果がある。

 

自分の足場を失った最上段のゾンビも崩れ落ちて、それに巻き込まれ2段目、そして三段目も少し崩れる。

やればやるほど死体が積み上げられ土台が固まっていくけど、それでもそれなりに時間はこれで稼げるはず。タワーに頼らないゾンビは登るのに手を使っているから、僕の近接格闘でも処理できる。よって矢はこっちには使わない。

 

「残り52本。まぁ5分は持たないけど……とりあえず凌ぐ」

 

 

───

 

 

このゾンビたちは、いつものゾンビよりも怖い。だってクーをぜんぜんみてくれてないし、おねーちゃんとワニちゃんをむちゅうになってねらってる。

 

「上ってこないで! お、りて!」

「ごおおおぉぉぉおぅぃいいいぶうううぅぅぅ!」

 

どんどんゾンビがゾンビにのってのって、クーたちに近づいてくる。

クーはそれを叩いて切って、とにかくいちばん上のゾンビをころして上らないようにするしかできない。

 

大きなわんちゃんのうでは、とってもつよいけど、ふり回すととてもつかれる。本当は今にでも、昨日の夜みたいにおねーちゃんといっしょに毛布にくるまってねちゃいたい。

 

でも、おねーちゃんのおねがいは、ここからゾンビを上らせないことだった。おねーちゃんのおねがいだったら、クーはまだまだがんばれる。

 

「べぁう! みぉぉぉおおお!」

「わっ!? ぅ……止めて!」

 

クーのことをみていないゾンビも、クーがこうげきするとクーのことをみてくる。

 

かたうでだけしか切れなかったゾンビがクーをみはじめて、いちばん上にきたとき、クーの手にジャンプしてきた。とつぜんおもくなった手に、クーはびっくりちゃって、手がかまれてやっとどうにかしなくちゃってなった。

 

片手でクーの手にだきついてるゾンビをかべに叩きつけておとす。右手をみると、赤くなってきた毛の中でいっかしょ、ワニちゃんがおねーちゃんのくびをかんだときほどじゃないけど、はがたがついて血がにじんでた。じんじんと、いたみがやってくる。真っ白なへやにいたときと、同じように。

 

「うぅ~~~! う!」

 

泣かない。おねーちゃんがおねがいしてきたことがあるから、クーは泣かない。

 

どれだけ苦しくて泣きたくても。泣いたって何もかいけつしなかった。泣きたいときこそ、クーはがんばってがんばって、おねがいをおわらせないといけない。

 

「に……うぅぅぅうううんんん!」

 

おくじょうにころがっていたコンクリートのかたまりをとって投げる。クーの足ぐらいまであるそのかたまりは、何体もまき込んで、赤色になりながらおちていった。

 

 

───

 

 

「あーなんか凄いことになったねぇ」

 

血で固まった髪をオールバックにして邪魔にならないようにしながら、私はそう呟く。だってさぁ、これ私がこの世界に生れてからまだ三日経ってないんだよ? 物語としちゃあ巻きすぎでしょ。なーんでこんな、NZW全体の生活で言えば序盤も序盤、最序盤で絶体絶命ピーンチやってるんだか。……余談だけど、結構血って固まるのね。髪が針金みたいになっちゃった。いつか血の池泳ぐことになるだろうし覚えとこ。

 

「最終防衛ラインで追い詰められるのはタワーディフェンスの華ってね」

「がぁぅいぃ!」

 

屋上に引っ掛けられた手を蹴り外し、崩れそうな支柱(ゾンビ)は撃ち殺し、遠くで登ろうとしていたゾンビには投げナイフを投げる。かなり高いところまで上がっていたゾンビタワーまで走り、撃ち殺してリカバリーする。残り残弾32、ナイフ4。

 

私の防衛担当地は西と北ぁ……の半分くらい? たまーにワニから援護をもらってる。

 

「と。やっぱ弾丸は軽いよー」

 

西を一旦処理して北にいたんだけど、予想より早く西側のゾンビが来ていたので再度処理しに行く。

撃ち漏らし、ではない。単純に弾丸の威力不足だ。

撃ちだす時はいいものも、一度着弾してしまえば弾丸は小さな物質。ワニが射る矢ほどの質量がないので、どうしても弾丸を受けた時の衝撃は小さな物となり、ゾンビを跳ね除ける力も弱くなる。

 

「血を吸ったグローブって滑るのかな? ……滑らんのを祈るか。ほっ!」

 

まぁその弾丸すらもう無くなりかけだから文句言えないんだけどね!

 

私はグローブの摩擦力を信じて屋上の端に左手を置いて飛ぶ。もちろん地面に飛び降りると死ぬので、左手で体重を支えて宙ぶらりん。登ろうとしていたゾンビ達の視線がこっちに向く。

 

「はーいお触り禁止! 離れた離れた……あー! 今の奴懐に弾持ってたな、くっそ、剥ぎたかった……」

「ぎぎっ! ぎぃあああぁぁぁ!」

 

ので、それをさばいていく。上から踏まれて身動きできなくなり土台に甘んじていたゾンビも、目の前に獲物が現れてくれたとなると力を振り絞る。それを蹴って、避けて、右手に持つナイフを刺して順々に落としていけば───。

 

「よいしょっと。おし、こっちは半壊したからしばらく大丈夫なはず」

 

ゾンビタワーは潰れてしばらく余裕ができるってことよ。違法建築だからすーぐ崩れちゃう。まぁそれでも基盤はちょっとづつしっかりしていくので、何度もは使えないんだけど。

 

「これで5分持てばいいんだけどなぁ。まぁ持たないだろうな」

 

私はナイフのギザギザ部分についた腐肉を振り落とし、疎かにしていた北に走った。

 

 

「投げナイフ、弾丸共に完売間近でーす!」

「矢、あと5本しかない」

「はぁっ……はぁっ……クーは……まだいける……!」

 

とうとうリソースが尽きる時が来た。でもってだからといってゾンビたちがリソース切れるかというとそうではなく、むしろ死体が積み重なった分タワーの建築は早くなっている。ゾンビは攻勢をどんどん増していた。

 

「後何分よワニ?」

「1分~。だいぶ持たした方じゃない?」

「もう少し……もう少しだよね? おねーちゃん」

「と、いう事なんだけどまだ来ないの?」

 

『こっちだって急いでんだよ! 機体の限界で動かしてんだ、後1分持ちこたえろ!』

 

「ん~きっつ。ロシュア信じるならクーだけは生き残れるだろうけど私たちは微妙~」

「おねーちゃんたちが死ぬなら、クーも死ぬ!」

「僕はシアねぇと共に死ぬなら悪くないと思ってるけど?」

「二人とも愛が重いぜ。投げナイフ切れたわ」

「矢後2本」

 

長い事ゲームをやって経験を摘むと、その経験から現状がどうなのかは客観的に見れるようになれる。今がどれだけまずい状況か、乗り切れるかどうか……。

 

ハッキリ言おう。現状のこれは負け戦だ。人数も、レベルも、装備も。全体的に致命的とまでは言わないが、まぁ足りていない。

1ダメージしか出ない敵相手でも時間を掛ければいいし、一発当たれば死ぬとしてもそれは当たらなければいい話。そういったプレイヤーの技量次第でなんとかなる場面はあるが……今回はそれに該当しなかった。なんだよゾンビ500体て。バカか?

 

人間はゾンビに囲まれれば死ぬのだ。適したAoE(範囲攻撃)がなければもうほんと無理。クーとワニに背中を預けても、波のように物量されたらもうダメだ。津波には勝てない。

 

「ぶぇあああぁっぐぁ!」

「万事休すかぁ~?」

 

顔を出したゾンビの喉をかっきり、同時に遠くで手を乗り出していたゾンビを撃ち抜く。残弾が無くなった事を示す、かこんっという音が鳴った。

 

「弾切れ。人類は叡智なる武器を失ったのだ」

「こっちも終わり」

 

べーと舌を出しながら、用済みとなった銃を放り投げる。銃はくるくると地面に落ちていき、ゾンビの濁流へと呑まれていった。

 

ゾンビから目を離して、後ろを振り向く。

そこにはナイフをどうにか弓につがえないか試しているワニと、返り血と自身の血で右手を染め、汗で髪を張り付かせながらも腕を振るうクーがいた。

 

正直、申し訳ないことをした。自分の意思でついてきたワニはともかく、クーはすりこみのような形で連れてきているからだ。マキシマムの言葉を借りる訳じゃぁないが、大学でプトラちゃんと共にお人形遊びでもさせていればよかったかなと思う。

 

「……付き合わせた以上、クーを死なすのは忍びないかな」

 

歯を食いしばって、瞳を潤ませながら戦うクーを見てそう思う。

 

私の中にはいくつか選択肢があった。それこそ、クーを生贄として時間を稼ぐ択だって。

 

でも、倫理的にというか、人道的にというか……ここまで愛着を持ってしまっていると、流石に私でも出来なかった。

 

愛されず、愛を願って、愛を求めた私たちと違って……クーは、何もしなければ大学に戻れて、プトラちゃん達から愛されるだろう。

 

自分を犠牲にしたいと思った事はないが……私達と同じ子が、私達が犠牲になることで、私達にならないのであれば、この生に意味があったと言えるかもしれない。

 

「クー、クー。よく聞いて」

「はっ……はっ……なに?」

「クーは今から、地面に座って、目を瞑って、手を耳に当てて」

「……いやだよ」

「その内ばばばばっって音と強い風が吹くから、そしたらリーダーの声に従って」

「やだ……っ!」

「大学に帰った後は、まープトラちゃんの言う事聞いてれば問題ないでしょ。『食人癖』の事も言って大丈夫なはず」

「プトラちゃんにかえるって、おねーちゃん約束してたじゃん!」

「あはは、肯定はしたよ。でも『言質』は取られてない。……ノーペナルティでまだ抗えるって事」

 

反抗するかのように、こちらを向かずまだゾンビを迎撃していたクーがついに私を見て声を荒げる。さっきまでは泣いてなかったというのに、今は泣いていた。

 

赤く染まったグローブを投げ捨て、クーの頭に手を置く。クーの綺麗な白髪もまた、血を被り赤くなっていたが構うもんか。撫でて、撫でて、抱きしめる。

 

「ぐすっ……えっ……また、一人ぼっちになりたくないよ……」

「大学に帰れば、プトラちゃんがいるよ。私は良い姉にも親にも、飼い主にだってなれないけど、プトラちゃんなら良い姉にはなってくれる。……なんなら私食べる? 一つにはなれるよ、恐らく」

「ぅ……ひぐっ……たべない……まってたら……おねーちゃんたちはかえってくるから……」

「盆には帰るって奴だなぁ」

 

私は泣きながら座り込んだクーの頭を最後にひと撫ですると立ち上がった。

 

後ろを振り向き一人で頑張ってたワニと登りかけているゾンビの元へ向かう。

 

「僕の好きだった人が幼いロリをいいように言いくるめる人だったなんて……興奮しました。責任取って下さい」

「病院になら責任もって連れてくよ。健康保険証は持った?」

「シアねぇ、流石に赤ちゃんは気が早いよ。僕まだ生理来てないし」

「このゲーム対象年齢17なんだが?」

「シアねぇもアウトじゃん?」

 

クーと違って、ワニとはそういった覚悟ガンギマリな会話は交わさない。私達にとってはこれがいつもの日常で、お遊びだからだ。

 

さてさて、それでは最後まで抗いましょう。人のためならできても自分の事なら妥協はできない。諦めていいようにされると思うなよ、私からプライド抜いたら何も残らんからな。

 

クーを最後に一瞥してから、地面を蹴ってゾンビの元へ。もう遠距離には頼れない。

 

蹴り落とし。腕を切り離す。回し蹴りで顎を蹴り。髪を掴んで引きはがす。胸にナイフを刺し押し出す。

 

67億2000万人(無双モード)を思い出す」

「あそこの序盤、もうちょっと手加減欲しかったよねー。武器ガチャ行くまでに安定しないのなんの」

「あまりにもシアねぇが飽きずに連続で挑戦するものだから、お兄ちゃんがお風呂中でも仕事するハメになってた」

「ははっ、草」

「広いからいいけど、お風呂にタブレット持ってくるのは一緒に入る身としては止めて欲しかったな」

 

息があがる。シャトルランでもしてる気分になってきた。グローブを外した素手で、血でぬめるナイフを握りなおした。

 

両腕を切り落とす。頭を踵落としで屋上とキスさせる。背中にナイフを刺しあばら骨に引っ掛け落とす。乗り出した足を引っかけ見上げた顔を蹴り落とす。

 

「ふぅっ……そう言えば、ドックにしては珍しく、ここの鯖指定してたよね。なんかここの鯖あったの?」

「っ……確か、要出典グループが来るから、だったかな? 周期があったとか、そんなの言ってた気がするっ!」

「へーっ! じゃあ、ここにいて、出会う可能性もあったってこと、か!」

「だね。まぁその可能性は潰えそうなんだけどっ……」

 

疲労が重くのしかかる。それでも体は動き続ける。優先順位ぐらいしか判断できない頭でも、ゾンビに近づけば勝手に迎撃してくれる。

 

腹に膝蹴りで落とす。立ち上がったゾンビを肘鉄で落とす。掴みかかって来た奴を背負い投げて地面に叩きつける。避けて蹴りつけ他のゾンビに当てる。

 

「はっはは……! あー楽しくなってきたっ! はっ……! はっ……! やっぱり近距離っ戦闘の方が私好きだわー!」

「ふっ……ぅ……! 僕、近距離とか、最初の方しかっ、やったことない」

「でもっ結構できてん、じゃん!」

「求められてる事をするのは、得意だから……っ!」

 

視界がぼやけてきた。今少しでも休んだら、寝転んで起き上がれない自信がある。不動の感情(プライド)が燃え上がる。

 

引っかかれながらもタックルで転ばせ、顔を踏み潰す。喉にナイフを差し込み、そのまま横に切り裂く。腕を噛ませながら足をかけ、噛まれた腕と膝で首を折る。飛び込んで来たのを蹴り上げて、倒れる所をナイフでトドメを指す。

 

「ぉ、I字、開脚っ……! ふっ……ふっ……! えっちだね、シアねぇ……!」

「っぁ……! この体、柔らかくてねっげほっげほ! っ……やりやすくてっ助かる!」

 

少しずつ追い詰められて、処理が追い付かなくて。ついには屋上の中央にまで追いやられた。膝を抱えて泣いているクーは見えなくなり、隣には私と同じく血まみれになったワニが、わかりやすく笑いながら呼吸を荒げて立っていた。きっと私も同じような感じだろう。

 

ワニが殺し漏らした奴をの顔面を踏み潰し、目の前に来たゾンビにストレートを入れナイフを差し込む。上半身だけとなってなお足に噛みついてきたゾンビの首と胴体を分離させる。ワニに蹴り落とされた私に乗りかかっていたゾンビの心臓を刺す。

 

「はっ……はっ……!」

「………………っ!」

 

ゾンビ、ゾンビ、ゾンビ。どこに視線を向けたって気持ち悪いゾンビしかいない。触られ、捕まれ、噛みつかれ。とても不快で無茶苦茶に暴れたくなる。

しかし、もうそんな力が残ってないくらい私は抑え込まれ衰弱していた。

 

大量のゾンビの波に呑まれて押し倒される。コンクリの屋上に倒れこんだにしては痛くないなーとどこか他人の事のように考えるが、ただ単に私が殺したゾンビの肉の上に倒れ込んだだけだった。

全身が噛みつかれて激痛が走る。腕でガードしてまだ無事な顔の目前には、私の腕をセール時の主婦なみの競争率で噛みついているゾンビ達がいた。

 

隙間から見える、同じような目にあっていたワニと目が合う。

 

全身を噛みちぎられる激痛に顔を歪めながらも、どこか穏やかな目をしていた。

 

「ははっ」

 

笑いがこぼれる。

 

頭には生まれた時からの記憶が蘇る。生まれ、病院、家、幼稚園、小学校、中学、ワニ達との出会い。走馬灯は死にかけの状態から生きる道を探すためだとよく言うが、こんな状態で起死回生の道があるとでも? ひょっとしたら最後に人生を振り返って楽しめって事かもしれないが、生憎振り返って楽しめる時なんてロクになかったけどね。

 

腕でのガードを抜けて、ついに顔にも噛みついてこようとゾンビが迫る。

 

白目を剝いた顔には黒ずみと青い血管が浮き出て、異様に綺麗に生えそろった歯が迫る。

 

「そう良い目にあえると思うなよ」

 

私は最後の抵抗として、そいつの首を大きく噛み切った。戦闘中入った血とは違う、人肉の嫌な食感が広がる。

 

食事にありつけなかったゾンビの首から噴き出る血を浴びながら、私は意識を失った。

 

 

 

 

 

『警告、警告』

『期間外生成実験体、損傷が300体を到達』

『実験期間における危険基準(デンジャーゾーン)を満たしました』

『実験体を招集、消費を抑えます』

『当施設の防衛レベルを2に設定』

『『共命』条件まで、後---体です』

 

『警告、警告───』

 

 

 

 

 

「───っ! おねーちゃんっ! ……ワニちゃん! ぅぅぅ……っ!」

 

眠たい。

とてつもなく眠たい。

人生で一番の眠たさだ。じくじくとした痛みとずっしりした疲労が私を絡めとり、意識を海底に留めようと纏わりついてくる。

 

「っ! そうだ、この……私が危なくなったらぶっさしてって、おねーちゃんにわたされた奴……!」

 

海底の沼は存外心地が良い。冷え切った体は海水でさらに冷やされ、纏まらない意識は血液と共に海流に流れていき、水圧によって抑えられる体はかえって心地よさを与えてくれる。

 

「どこにさせば……えっと、たしか首のとこだっけ……? えいっ!」

 

そんな暗く静かな海底に、一筋の光が差し込む。閉じた瞼を貫通して明るさを主張する光は、私の体から泥を落とし海水の流れを止め、海底の砂から私を起こす。天からは薄っすらと、私を呼ぶ幼女の声が届く。

 

「おきて、おねーちゃん……っ! ねぇ、起きて!」

 

何かが私の体を揺らす。体が海底から引っ張り上げられる。光にどんどんと近づいていき海面が迫ってくる。

いつのまにか全身を苛む痛みは消えており、散らばっていた意識が少しずつ纏まっていく。そうして私は浮上して、浮上して、浮上して───

 

「───っは! ~~~おぇっ!? ……ハッ……はァッ!」

 

生き返った。

 

「起きた! おねーちゃん! うぅ~~~……!」

「おっぅ……おはよう、クー……ぁ”~~~……腕の分重ぇ……」

 

口に入ってたゾンビ肉を吐き出すも束の間、クーに抱き着かれる。

治療薬を打ち私を救ってくれた恩人に適さない言葉を吐きながら、私はクーの背中を擦る。

 

「はぁ……なんで生きてんだ? 私……。クーあの大量のゾンビどったの? まさか全部殺った?」

「うぅん、クーは何もしてないよ。けど……きゅうにゾンビたちが、ぴたってうごきを止めて、かえっていったの」

「あーん? 定時なんかね? 夜がもうすぐ来るってのに定時ってのもおかしいけど……。あ! そうだワニ!」

「わわっ!?」

 

クーを抱えながら体を跳ね起こし、隣を見る。

 

果たしてワニは、顔だけは綺麗に残っていた。

が、逆に言えばそれ以外はボロボロだった。ちょっと割とシャレにならない(残酷な描写以上)レベルだったのでぼやかすが、まぁ全身齧られていて、血と肉に骨も一部見える。多分、さっきまで自分もこんなレベルだったんだろうな。ピンク色の肉が見えてえっちだねぇとか言ってる暇じゃねぇ。

 

ちぎれかかってるポーチから治療薬を取り出して、ワニの首元へ打ち込む。状態としてはガチ瀕から更にトドメを刺された状態ではあるが、私も同じ状態で生き返ったんだから効くはずだ。ゲーム的なあれより心肺停止1分以内ならかなり蘇生可能を信じろ。

 

「おっ」

 

撃ち込まれた箇所から、回復薬以上に小さく大量な光が注入され、皮膚の下から発光する高性能なナノマシンが泳いでいく。腕が修復され、脚が修復され、お腹が修復されて───服がボロボロな事以外は、五体満足な綺麗なワニの姿に戻った。

 

「どうかな、ワニちゃん、大丈夫かな……?」

「いい事を教えてあげようクー。回復アイテム系統は死んでる対象には使えない」

「つまり……!?」

「お帰りの時間だぜーワニー」

 

ぺしぺしとワニの頬を叩く。私は揺り起こされたことを考えれば何という格差だろう。あぁ可哀そうなワニ。はよ起きろ。

 

「んっ……ぅ……ぇっ、あ」

 

あ起きた。

 

「……ぁー? 僕は花詰められた棺の中で崇められてたはずだが? 急に蠟燭に火を灯さないでよ」

「燃やし尽くしてないロウソクで行くなって事よ。肉体の方はだいぶ燃え尽きかけてたけどねー」

「えっちなピンク色してた?」

「お前もそれいうんかい」

「鉄板のジョークじゃん、っとと……」

「ワニちゃん! ワニちゃんも生きててよかった!」

「ぅぉ……純粋で無垢な好意は眩しすぎて困る……」

 

わかる。私も正直扱いに困る部分ある。

 

そのままぼーっとクーに抱きつかれてるワニを見てると、遠くからババババッと風を切る音が響いてくる。

 

顔を傾けると、落ちていく夕日をバックに、青白い近未来ヘリが近づいているのが見えた。吹いてくる風で、血でワックスをかけた髪が後ろに撫でつけられ乾いていく。

 

「………………。ま、まだ生きろって事なんかね」

 

地面に座り直しながら、私はそう独り()ちた。




キリいいとこまで書こうと思ったんだけど、1万文字近かったからやめた。

カルシア 海底
ワニ   教会
の漠然としたイメージが私にはある。
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