ゾンビゲー転生サバイバル百合モノ   作:バルロjp

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24/3/24 修正


邂逅

ソロ、あるいはマルチの場合、ベットでプレイヤー全員が寝た場合時間を朝までスキップする事ができる。

 

そして当然ながら、公式鯖ではプレイヤーがたくさんいるわけで……そいつら全員が一斉に寝るなんて事ありえるはずがない。まだ自分以外を強制的に寝か(全員殺)した方が現実的なレベルだ。というわけで公式鯖では朝までスキップだなんて、それこそ寝言は寝て言えって感じだ。

 

ましてやここはリアルになってしまっているので、それこそ初期湧き地点の絶対安全シェルターに篭るとかしないと、一度寝たが最後、棒に当たるまで徘徊し続けるゾンビや生活痕を嗅ぎつけたプレイヤーによって永遠の眠りになるかもしれない。

 

そこで役立つのが取っておいた『イルカの眠り』。このスキルはその名の通り、イルカの眠り方である半分寝て半分起きて(意訳)を出来るようになるスキルである。別に私は───カルシアの体はちょっとわかんないけど───眠りが浅い方なので、ナニカが近づいたら起きる自信があるが、ゲーム的にはちゃんと寝ないと精神力や健康値が回復しないし、最大値が減少してしまう。

 

私の眠りの浅さがパラメーターにどう影響するのかわからないので、ゲーム的なスキルであり、ちゃんと寝るのの8割効果を貰える『イルカの眠り』を取ったのだ。それにあんまいらなかったとしても後半のスキルの踏み台になるし……。

 

はい。まぁそんな感じの理由です。それじゃ、おやすみなさーい~。

 

私は火に気を付けながら壁にもたれかかり、拾ったボロ布を被って瞼を閉じた。

 

 

 

ざく。ざく。ざく。

 

ぱちり。

 

ナニかが地面を歩いている音に反応し、私の脳は一気に覚醒した。

 

ボロ布を静かに押しのけ腹筋で体を起こしすぐに行動できるようになりながら、耳を澄ませる。……間違いない。風の吹く音に混じって聞き取りづらいけど、これは地面を歩く音だ。それになにかずるずると地面を擦る音も聞こえる。

 

ふむ、アレの正体が何であれとりあえず荷物と。

 

焚火は既に火が落ちているので多少周囲が見にくいが、それでも雲が無い夜は月光があるからありがたい。私は音を立てないよう注意しながら、寝る前傍に置いておいたバックを背負った。このバックには最低限の装備を詰めたので、命ほどじゃぁないけど捨てていくわけにはいかない。いや、どうせ初日で集めれる程度のものだから失ってもそんな痛くないけどね。

車? 機動力はあるが、目立つ逃亡手段はあまりよろしくないので不採用だ。そもそも、私がガチで逃げようとして生身じゃ逃げれないなら、それは改造してない車だって殆ど一緒だし。

 

というか今はそれよりも足音だ。

 

音の感覚的に四足ではないので人型。そしてうめき声が聞こえない。ただのゾンビ君ちゃんなら一定周期で声を出すのでただのゾンビじゃない事は確定。機械らしい稼働音も無い。何か引きずってる音は軽いので処刑者ってことはないだろうし、一時保留。となると後は上位のゾンビ、生存者(NPC)、狂信者、そして同郷(プレイヤー)ぐらいか……。まぁプレイヤーの線は、こんな察知されるような危うい行動をしてる時点で薄いと思うけど……。

 

すぅ………………。

 

よし、覚悟は決まった。

 

ナイフを構えて、脳を切り替えて。

向かってきているのが何かはわからないが、脅威は何とかせねばならない。そしてそれが無理なら逃げねばならない。要はちらっと覗き見て、いけそうなら殺して無理なら逃げればいいんだ。

 

私は覚悟を決めるように、ふっと短く息を吐くと、そっと壁から少しだけ身を乗り出し、一定間隔で近づいてくる足音の正体へと視線を向けた。

 

 

そこには、血まみれの少女がいた。

 

腰まであろう長い白髪も、ボロボロの白衣のような服も、そこから覗く肌だって。全てを赤黒く染めた少女がふらふらと裸足で歩いている。

身長は130cmぐらい。左手にはこれまたボロボロの肩さげカバンを持っていて、それが地面を引きずっていた。軽そうな音の正体だろう。

可愛い娘だった。ここがNZWというゲーム世界という事を含めるなら、パーツが整っているといった方がいいのだろうか。きっと学校やご近所では、とても可愛らしい娘だと評判になっているだろう娘だ。まぁ、それも口元が全身よりも赤黒く目立っていて、視線が虚ろとしていなければだが。

そして右手。カバンとは逆の方の手だ。そっちの手は、もろに獣の手だった。肘ぐらいから急に人間の肌から獣の毛皮に変わっており、白髪とは正反対の黒い毛むくじゃらの腕が(もっとも、白い髪も黒い毛の腕も血で赤黒く染まっているのだが)、鋭い爪を含め膝下ぐらいまで伸びていた。そんな重そうなものをぶら下げているからか、彼女は左に体を曲げていバランスを取っていた。

 

これは……やばい奴か……?

 

NZWに長い私であっても、PC画面で見るのとリアルで見る違いもあってちょっと判別がつきにくい。あの腕は……『ウィルス変異:ビースト』か? それとも人体改造系か? あの口元を見るに食人はやってる、けど瞳を見るにゾンビ化はしていない……?

 

そんな風に私が考察をしていると。

 

急にぴたっと彼女が立ち止まった。そして「あっやべっ」と思う暇もなく、その虚ろだった瞳が急にこちらにぐりんと動き、ばっちしと目があった。

 

………………。

これは下手に刺激与えない方がいいタイプのゾンビですか……?

 

握るナイフに力が入り、体の体重が直ぐにも逃げ出せるように後ろに掛かる。

しかし彼女はそんな私の警戒も焦燥もつゆ知らず、その閉じていた口を半開きに、そしてゆっくりと弧の形に動かしていき……。

 

「おねーちゃん、おいしそうだね」

 

喜色を加えたやや舌足らずな声でそう言った。

 

 

 

 

・理性がある

・瞳がしっかりとしている

・会話ができている

 

えー以上の事より、彼女は一応はゾンビではないという事が証明されました。

そして加えるなら───

 

・こちらの事をご飯として見て来た

・右手が獣だがゾンビではない

・会話ができていない

 

のことより、多分彼女は『食人癖』持ちで『ゾンビウィルス抗体』を持っているパターンでしょ。で、抗体を持っているのなら、右手は『ウィルス変異:ビースト』や改造手術ではなく、『クッキング・ケミカリー』かな。進行度はLv2。

 

ということで。

彼女に一般的な道徳基準の判別があり意思疎通ができる人を食べちゃいけないと思う常識的な少女なら、私は食べられる(直喩)ことはありません。

祈りましょう、神に。

神に?

いやこの世界の神クトゥルフ系統しかいないけど……。

 

「あー……一応、聞いておくけどさ。そのおいしそうって、私の事をばりむしゃしたら、ほっぺたとろけおちて幸せだーって意味だよね?」

「? そうだよ? それ以外にいみがあるの?」

 

彼女はこてんと首を傾げてそう言った。子供なので、倫理観に配慮して性的じゃない方で質問してみたけど、返答はそんな倫理観がなく信じたくもないものだった。

止めろ。マジで不思議そうな声すんじゃねぇ。まだ性的な意味だった方がこの状況マシなんだよ。

 

しかし会話は一応成立している。しているのか? しているということにしておこう。なんせゾンビ化していない知性を残した(?)ウィルス変異化個体(仮説)だ。ゾンビとゾンビじゃないNPCのAIはかなり性能が違う。今から脱兎と逃げて撒く事は頭脳的にも身体的にも厳しいだろう。

 

私は第一村人だからといって殺すことに躊躇するわけではないが、それとは関係なく殺すことは難しい。私の武装はナイフしかないってのに、このレベルの相手は無理だ。

 

では会話でなんとかしましょう。言語とは人間の発展を支えたもの。我々は知性ある人間なのです。

 

Step.1 自己紹介

「こんばんは。私はカルシアと申します」

「こんばんは! わたしはねー名前ないの。あっでも、ぶいえーわんって呼ばれてたよ!」

 

はい闇深。

この娘が名前を忘れちゃった記憶喪失の可能性。というのはVA-1とかいう明らか実験体っぽい呼び方で否定できる。恐らく『ゾンビウィルス抗体』の実験体としてでしょ。サブクエでそういうとこから実験報告書取ってくる奴あったよ確か。

 

Step.2 今後の目的は?

「私はね、気づいたらここにいたんだ。とりあえず生きたいから、別の街にも行って食料を探す予定かな。生きたいから」

「わたしはねーお腹がすいてるの。ごはん、ぜんぜん貰えなかったから……。だからわたしもごはん探してあるいてるんだぁ。じゃあおねーちゃんと会えたのはきぐーってやつだね!」

 

なるほど。きぐーでも目的はちょっとずれてるしできれば会いたくなかったなぁ……。

 

Step.3 好きなものは?

「えぇと、私はラムネが好き。手軽だし小腹がすいた時に丁度いいんだよね」

「わたしはおにくが好き! わんちゃんおいしかったし、とりさんもおいしかったし……。あ、あと白い服をきたおにーさんたちもおいしかったよ!」

 

………………。

おいもうこれ狙ってんだろ。狙われてんだわ。

 

私は笑顔が引きつっているいるのを自覚しながら、無理やり唾液をごっくんとした。

いや、いやいや、いやいやいやいや。嫌です(真顔)。

 

情報の整理だ。幸い会話には乗ってくれるので時間稼ぎはできる。

まず、今の戦力でこいつを殺せるか? それはとても厳しい。とても厳しいけど……ま多分不可能じゃない。スキルポイントは余ってるから、とりあえず3ポイントの『反射神経』にでも振れば土台には立てる。逃亡……は無理だろう。どうにかして車に乗ったとして、あの車はどんだけアクセル踏んでも時速60でないし。

 

「やーでも、おねーちゃん的には食べられたくないなーって」

「そうなの? でもわたしお腹すいたから……」

 

お? 実は割と素直だったりする?

私はバックに突っ込んだ(もちろん包装なんかしてない)、昨日の残りのサンドイッチ一本を取り出した。

 

「これ、食べる?」

「わぁ! なにそれおいしそう! 食べる食べる!」

 

おいめっちゃ素直じゃねぇか! さっきまでの長考と緊張はなんだったんだよ!


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