ゾンビゲー転生サバイバル百合モノ   作:バルロjp

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こっから2章

エタらないよ♡
更新してない時に誤字報告来るの恐怖だね♡
いつもありがと♡


プトラ‐愛の証明

聖書にはこう書かれている。

 

「幸福になるためには不幸にならなければならない」

 

聖書にはこう書かれている。

 

「幸福を感じるためには不幸を感じなければならない」

 

聖書にはこう書かれている。

 

「幸福を欲しがるならば不幸を欲しがらなければならない」

 

 

僕の両親(信者)はこう言っていた。

 

「神子様は、とても幸福でいらっしゃる」

 

ならば僕は、今、とても不幸なのかもしれない。

 

 

僕の愛が、受け入れられないのだから。

 

 

 

 

 

「いよいよ作戦結構日だ。最終確認を行うぞ。全員いるか?」

 

会議室内から思い思いに声が上がる。人によっては戦闘用義手を叩いたり、銃の安全装置を鳴らして返事をしている人もいた。

 

「あー……よしいるな。そんじゃ全員モニターを見てくれ」

 

リーダーは会議室を見渡し軽く頷くと、義手とは反対の手を操作してモニターを映す。そこにはR社実験派出所が平面図などが表示されていた。

恐らくドローンで上空から撮影されたであろう写真は、多くのコンテナが倒れ破損している中、一つ明らかに材質が違う堅固で丈夫そうな白い扉が見え、地面に潜るように続いている。

 

そして周囲にはゾンビ。というかハイゾンビだね。見えてる分だと30体くらいだけど、コンテナの中にいそうなのだけ怖いかな。

 

「見ての通り今回の敵地は地下だ。悪の組織がいる場所っつったら上か下かだが、今回は下ってわけだ。俺達はこの後10時から装甲車に乗ってH7地点のこの家で補給所を確保し、地下4階にある制御室へ向かう。道中はこっから───」

 

リーダーは派出所内部の地図を代わる代わる映し説明していく。

『ロビー』、『東通路』、『東階段』、『除菌室』、『2F生活空間』、『CH研究区域』……。入口はハッキングで何とかなるが、内部はキーカードが必要な場所が多くルート取りは臨機応変となるらしいが、それでも機材を持ち込んだり遠回や整備用通路を通る、あるいは物理に訴える(マスターキー)ことでキーカード無しでも辿り着ける計画らしい。

 

まっ私はどこの部屋にキーカード持ったゾンビがいるか知ってるんですけど。このダンジョン4パターンだけだし。

このルートどりならクリアリング名目でキーカード取れるでしょ。怪しいのはやっぱ制御室だし……道中の罠を考えると多少の不自然にならない程度の誘導はしようかな。

 

 

「───で、敵勢力だが。やはりそう簡単にはいかないらしい。そこらの通常ゾンビより更に強力な、いわゆるハイゾンビ。……そして銃を扱っているゾンビが確認された、この写真だな。どうも軍人は死んでも休めないらしい。ちなみに、撮った後直ぐドローンが撃ち落とされちまった」

 

あ? 銃持ちゾンビ?

 

その言葉に、私は段々聞き流し始めてた意識を戻して写真を見る。

恰好(グラフィック)は、軍服。軍人ゾンビのグラではなく、しかし見覚えが若干ある。

 

「俺は治内法権の統治者として普段は略奪を許可していないが、今回ばかりはこいつらから略奪してもいいぞ。俺たちよりいい銃使ってんなら死人にはもったいねぇ、奪ってこい。……なんだカルシア、んなしかめっ面して。普段飄々としてるお前がそんな顔してると調子狂うんだが」

「ああごめん。ちょっと考え事をね」

 

『英雄計画』シリーズではないだろう。Ver1.3アップデートの目玉の一つであった彼ら(ゾンビ)は、この程度のダンジョンに湧くシリーズではない。しかしやっぱりどーもグラが……。

 

うーん、私じゃ思い出せん。ワニにもSS撮って聞いとくか。

 

「他、人間としてロシュアと名乗る人物が確認されている。こいつはカルシア曰く、「個人的には敵対してるけど大学の皆は敵対してないと思うよ、それはそれとしてクローン施設襲撃したら敵対するだろうけど」らしい。まぁここを拠点にしてる時点で関係者であることが推測されるし、見つけたら排除しちまって構わん。できることなら捕縛だが、リスクがデカいわな」

「え、ダメだよ。私の獲物なんだから見つけてもほっといてあげて」

「……だ、そうだが、無視していいぞ」

「はー?」

 

誠に遺憾である。普通に装備と準備と場所的に君たちじゃ勝てないと思うから止めた方がいいのもあるのに。

 

ピロン。

 

お?

 

プラスウォッチを見るとワニから連絡が入っていた。相変わらずレスポンスが早い子だ。ちなみに私が連絡を入れると、深夜早朝昼間どんな時間帯であっても1分以内に返事が来る。ゆっくりでええんやで。

 

『Ver1.2前辺りの開発者ライブの実装予定で紹介されてた名将シリーズだと思う。結局英雄として実装されたからお蔵入りになった奴』

 

あー。そういやあったなぁそんなの。β鯖で弱いからって根幹的にリメイクされた奴じゃん。あんまりβ鯖興味なかったから忘れてた。

えーっとでも名将シリーズはWiki書いてあったよな。待機時間の暇つぶしでアプデで消えた項目は読んでたからある程度記憶はあるはず。確か通常の軍人より当然ステが高くて、ハイドルーチンが組まれてて、周囲のゾンビをバフするパッシブ持ってて……。

 

「───うし。確認事項はこんなもんだ。抜けは無いな? 何かあるか? ……じゃ、こんあと1時間ちょっと……10時手前には正門前に集まっとけよ。遺言残す奴と煩悩消す奴はそれまでに済ましとけ。ルーピシュとアネカリアは残ってくれ。後は解散だ」

 

あ、後半何も聞いてなかった。

 

 

 

コツ、コツ、コツ、コツ。

遠くから届く生活音や喧噪を聞きながら、私は自教室を目指して階段を上っていた。

 

小学、中学、そして高校では、校内に木材が使われたり、木目のデザインを起用している事が多かった。あれは情操教育の一環とか、建築お仕事で古きからのコネやマージンの癒着なのかなと思っていたが、どうやら素材が木材っぽいというだけで日本人は温かさを感じそうだから、というのが理由な気がする。

何故なら工業大学ともあってコンクリ剥き出しのここの階段は、とても冷たい空気が漂っているからだ。

 

こういった雰囲気は、私の意識を嫌でも引き締まらせる。

 

そういった感じで気合を入れる自分に酔って。

自教室に戻って扉を開けると、一気に甘い匂いが広がって来た。

 

「はい、あーん」

「あ~~……ん!」

「いや、何やってんのさ」

 

教室内ではクーが餌付けされてる最中だった。イスに座ったクーが足と右手を上機嫌に揺らしながら給仕を受けていた。プトラちゃんが持ってるのは、チョコドーナツっぽい? 甘ったるい匂いはこれか。

 

「あ、カルシアちゃん会議終わったんだね、お疲れさま! えーとね、クーちゃんにお菓子作ったんだ。昨日晩御飯の後まだお腹空いてるって辛そうだったからチョコあげたんだけど……クーちゃんチョコ好きならしいね?」

「んー、私が好きだから移ったのかな」

「あやっぱり? 今のクーちゃん結構刷り込み状態だから、カルシアちゃんが好きなものだったら全部好きになりそうだもんね。───で、今日は……大事な日でしょ? だから早起きして作っちゃった。もちろんカルシアちゃんの分も、ワニちゃんの分もあるよ!」

「うーん良い子、ありがとね。私は良い子じゃないから輸送トラックの中で他の人に自慢しながら食べるね」

「こらー!」

 

プトラちゃんが怒ったように餌付けしてない方の手を振り上げるが、チョコドーナツにぱくついてるクーと相まって可愛いものである。

私はどうどうと諌めながらドーナツを1……2個取る。コーティングしてるのじゃなくて生地にチョコ練り込んでるタイプだ。私はこっちの方が好き。

 

1個包装を外して、敷きっぱなしの布団に座り込みながら頬張る。原材料を考えなければ、ドーナツはとっても美味しい。いい腕してるねぇ。

 

「あー、お行儀悪いー……」

「大丈夫大丈夫。これワニの布団だから」

「なおさらだよっ!? ……そういえばそのワニちゃんは、ここに来る前にすれ違ったよ。屋上行くんだって」

「あら、私も行こうとしてたんだよね。じゃーついでにドーナツ持ってってあげるかぁ。追加で2個もらっていい?」

「いっぱい作ったからもっと持ってってもいいよー!」

 

じゃお言葉に甘えて。こんなん(糖分)なんぼあってもええですからね。

にしても何で屋上に? の問いにコンディション確認かなと返してドーナツを追加で取る。クーが凄いペースで食べてるので既に大皿からは結構な数が姿を消していた。

 

「……カルシアちゃん的にはさ、今回の作戦は、どう?」

「どうって? 生きて帰れるかーって意味なら、私は余裕よって答えるしかないけど」

「前、死にかけた原因になった人、会いそうなんでしょ? それでも余裕なの?」

「余裕だね」

「すっごい自信……」

「なんだってできるし、なんだって成功する。それが物事の第一歩だよ、プトラちゃん」

 

私は堂々と胸を張る。私達はいつだってこのメンタルで成功と失敗を繰り返して来たのだ。「気合」「プライド」。この二つを唱えて生きて逝きましょう。

 

「というか、今回は引き止めて来なかったね。普通に泣かれる覚悟してたけど」

「え、泣いたら留まってくれるの?」

「え、いや全然」

 

ピタリと行動を止めて不思議そうに聞いてきたので真顔で返す。クーは目の前でドーナツがお預けされて悲しい表情をしている。が、催促したり立ち上がって食べようとはしていない。どうやら待てを覚えているようだ。よだれを垂らしながらも我慢している。どんだけ食うんだよ。

 

「なら、私は邪魔しないよ。私が変に引き留めてカルシアちゃんの負担になる方がもちろん良くないしね。それに……」

「……それに?」

「あんなに自信あったんだもの。カルシアちゃんなら、絶対帰ってくるもんね!」

「照れるぜ、惚れるぜ」

 

プトラ。魔性の女である。

ゴミみたいな両親から何故こんなに良い子が生まれたのか、ゴミだったからこそこんなに良い子に育ったのか。ともあれ、相手を三歩下がって立てるような器量の良さが溢れていた。うーん、プトラちゃんがいてくれてほんと助かった。クーの情操教育を安心して頼めるというものである。

 

「───じゃ、屋上行ってくる。プトラちゃん、どうせ見送りに来てくれるでしょ?」

「もちろん。クーちゃんも一人じゃ迷いそうだし、連れてくよ」

「ん、ありがと。今生の別れじゃないし、出る時にまた顔合わせるんだけど……ま、行ってきます」

「うん。信じてるから」

 

口元をチョコで汚しドーナツを強請るクーと、優しい笑みを浮かべるプトラちゃんに見守られながら、私は教室を後にした。

 

 

 

「俺達は進む。戻る以上に進めば良い」

 

『R社実験派出所』鎮圧作戦結構日。その30分前くらい。

 

私は屋上に出て、コンディションの最終確認をしていた。

 

「目的は違えど、行動は合わせられる」

 

まずは柔軟。筋肉をほぐし伸ばし。現実でも習い事もあり体が柔らかかったが、NZWでは何故か更に柔らかくなった。今の私ならY字バランスどころかI字バランスだって余裕だ。

 

「止るか? 冗談じゃない」

 

CHG-ws-03。何の特徴も無い極一般的なハンドガン。アタッチメントも付けていない、箱開けのまんまの状態だ。私はハンドガンにはスコープ付けない派。弾は8マガジン分。1マガ15発入るので120発だ。

 

ホルスターから素早く抜いて虚空の仮想敵に狙いを付ける。そしてホルスターに戻す。これを何度か行う。

 

「一歩も退かない。白旗を奴らの血で染めてやる」

 

今度はナイフを取り出す。今まで使っていたのは前の暇つぶしの時に折れてしまったので、新調したタングステン製のナイフだ。現実ならいざしらず、NZWでは元素の加工技術が発展しているので普通に普及されている。

 

風を切る音を立たせながらナイフを動かす。仮想敵を刻み、突き刺す。逆手への持ち換え、利き腕と反対の左手でも慣らしておく。

 

「そうだ、凱旋のレッドカーペットならいくらでも用意してやる」

 

防具は流石に何も無しで挑むワケにはいかなかったので、とりあえずワニコーディネイトの今着ている服を『配合変換機』に入れ、素材を良くした。これで多少の防御力は手に入れた。

まぁそもそも手足なんかは素肌が出ているデザインなのだが、あんまり重たい防具なんて着込むと感覚が変わっちゃうのでノーだ。

 

結局、私とかの軽装組は装備(ガワ)よりも身体(ウチ)を強化しなきゃだし。最低限『NC(皮膚硬化)細胞』は注射したけど。

 

「抗え、進め。先人の屍を踏みつぶせ」

 

体調、ヨシ。ステータス、ヨシ。武器、ヨシ。防具、ヨシ。

 

「過去を精算しなくちゃ、未来は得られない。……よし、行こうか」

 

以上。カルシアちゃんの準備(withNZW公式トレーラー挿入歌(日本語訳))でした。

 

パチパチパチパチと音が響く。

 

額の汗を拭いつつ振り向くと、ワニがドーナツを加えながら拍手をしていた。

 

「ふぉふぁふぅふぇふぉふぁーふぁふふふ……ふぇふ!」

「多分よくない感じに褒めてるのはわかる」

「……ごくん。シアねぇのが真剣な表情で演舞っぽいことしてる姿……エロい!」

「多分よくない感じに褒めてるな、それは」

 

とはいえ、ワニのリアクションは今更だ。隣に座り水を流し込み、私もドーナツを手に取る。

 

「そっちの調整は?」

「僕の弓は血に飢えている……」

「血を吸う部分矢でしょ」

 

ワニは私の言葉を気にすることなく矢を番え、気負う様子無く弦を離した。座りながらの歪な態勢で放たれた矢は、肉眼でギリギリ終えるような速度で飛んで行き、屋上端っこに建てられていたアンテナポールに鳥の休憩所を増やした。

 

「ようやる」

「V。ぴすぴす」

 

ゲーム中でも思ってたけど、ワニのAIMほんと狂ってるんだよなぁ……。私はまだスキルのモーションに頼ってるけど、ワニは己の技量オンリーだ。きっとアーチェリー世界大会とかに行ってもメダルを取ってくるだろう。スキャンダルは絶えないだろうけど。

 

「……(ドーナツを食べる擬音。各自補完すること)。さて、一応パーティーリーダーとして聞いておくけど、派出所に行く前の抱負は?」

「? ないけど。PS要求だけのダンジョンなんてアスレチック施設」

「追加懸念としてロシュアがあるけど」

「同郷よりマシ。肉壁も多いし」

「んまーそれはそう」

 

派出所なんて初期に作られた序盤用のダンジョン。厄介な敵なんてまぁいない。

死体で強化も殺して強化も下手な動きしたらアウトな特殊ゾンビも一切湧かない、わかってる動きをしなきゃいけないタイプではないのだ。これでワンミス崩壊レイドだったら身内だけで攻略してた。

 

ドーナツを食べ終わり指を舐める。そのまま手袋をしようとして、やっぱもう一個ドーナツ食べとくかと思い直す。

 

更に目を移すと残り一個だったが、ワニは視線を既に己の弓に向けていたので、残りは私にあげるの意だろう。

 

最後のドーナツを頬張りながらワニの弓に目を向ける。

 

「ワニは装備更新間に合ったの? 見かけは変わってないけど」

「服はシアねぇと同じくワンランク上げてる。弓は変わってないけど、矢は室内なので」

「室内なので?」

「爆発矢をご用意しました」

「バカが代……」

「これなら跳弾しないから安心。ふんす」

「アホが代……」

「シアねぇが国家斉唱マシーンになってる」

「お前が代ぉ……」

 

しかもワニがちらっと見せてきた矢筒には黄色の線が入っていた。これはレベル2を指す。爆発矢においてレベル1から2の変更点は爆発範囲の拡大のみであり、多少狙いがズレても安心♪ なのだがピンポイントで狙撃できるワニには正直関係ない。済ました顔でFF(フレンドリーファイヤ)を増やそうとしていやがった。

 

「まぁ、真面目な話、どうせ僕らは最終的に別行動するだろうし。シアねぇは射線気にしてくれるし、クーだけなら負担にならない。ロシュアが物量作戦してきてもこれでおっけー」

「それを先に言おうね」

 

軽くチョップ。しようとしてワニが私の手を取り大口を開けたので、顎をこじ開けるように腕を押し込んだ。結果ワニは腕に押されて後ろに倒れ込むので、逆の手で頭だけ抱えて寝かせる。

 

「まだ吸血はしなくていいでしょ」

「だってドーナッツがないし……」

「代わりで私を食べるんじゃない」

 

というか代わりじゃなくても私を食べるんじゃない。今の私の身体、この前ゾンビにかなり食べられたから半分くらいは治療薬で生成された血肉なんだぞ。凄いな科学力。

 

このまま腕を噛まれる可能性が出てきたので、唾液でヌメった腕を引き抜く。ワニが「ふっ」と腹筋で体を起こしたので、無抵抗なワニの服で唾液を拭った。

 

「でも、最近結構血を吸いたくなったりしてるんだよね。前シアねぇの血を吸ったシーンが脳にフラッシュバックしてきたり」

「あー、前話したフレーバーテキストが影響及ぼしてきてる奴?」

「うん。僕はスキルポイント弓全振りだから、吸血鬼ぐらいしか影響ないけど」

 

NZWに来て……二日目? 辺りの夜に一人で考えラインナップした、リアルとなった今、スキル説明以上の効果がありそうなスキル、異能力、モジュールなど。フレーバーテキストがフレーバーではなくなったと予想されるもの。当然、その事と予想結果はワニにも話している。

 

「私も最初、ゾンビの匂いがキツいからってサバイバルとか取ったなぁ」

「僕は実家の方で耐性付いたからへーき」

「羨ましいか微妙なラインの自慢だな、それは」

 

ワニの実家。洗脳紛いのことしてたらしいし、となると薬とかも焚いてそう(偏見)だから嗅覚ぶっ壊れそう。

 

「そういえば、クーの方は? 僕はクーの詳しいスキル内訳聞いてないけど」

「クー? クーのスキルはえっと、まずケミカリーは影響あるけど分かり切ってるからいいとして……忍耐強化、精神強化はどっちも恐らく影響あるか……まぁケミカリーと違ってデメリットじゃないし」

「そりゃ、忍耐も精神も強くて不便はないでしょ。僕ら、メンタルの強さとプライドの高さで今がある………………」

 

そこで、ワニは固まった。

表情はふざけていた半分ニヤけの表情から、真顔に。視線は何かを探るように空中を踊っている。

 

私は急なワニの変化に驚きつつ、思考の邪魔をしないように黙っておく。そしてワニは、やがてゆっくりこちらに視線を向けた。

 

「シアねぇって、忍耐強化、精神強化のパッシブの、フレーバーテキストって覚えてる?」

「フレーバー? ……んー……『臥薪嘗胆。解放の時を待ちわび己を内に抑えつける』『気合、根性、矜持。立ち続けるために魔法はいらず、ただ心が強ければよい』。お、前は思い出しきれなかったけど、日を置いたから出てきたな」

「うん。僕もそんな感じだったって覚えてる」

「うん。んで?」

「で。さっき言った通り、この世界ではフレーバーが適応されるスキルがある。その二つを取ったことにより、クーは忍耐、つまり我慢強くなり、更に精神も補強されているワケだよね」

「おんおん。───おん? いや、ちょ、待てよ……」

 

真剣な表情をしているワニから地面のコンクリートへと視点を落とす。

嫌な予感がする。理解が追い付かず、言語化して説明できないけれど、本能が先に理解し襲ってくるタイプの予感だ。

 

我慢強いって、何だ?

クーは何を我慢している?

何故スキルを取らせた(我慢させる)かって、痛みに耐えられるようにだ。戦闘において、クッキング・ケミカリーはどうしても殴り殴られて。クー自ら戦うと言ったとはいえ、普通の精神じゃ厳しいだろうとスキルを取らせた。研究所(実験体)出身なら肉体も精神も傷つけられた生活だったであろう。痛み、に耐えられるように。痛みに、我慢できるように。

 

我慢、我慢だ。がまん、わがまま。

辛いことを耐え忍ぶ。何かをしたいと言う感情を、何かを欲しいと言う感情を、何かを食べたいと言う感情を。

 

私は、言ったよな。

「都市の人たちは、クーの事をまぁ怖がります。何故なら大勢の人間にとってクーは異常だからです。クーの右腕はともかく、人や犬を食べることは、大勢の人間には異常に見える」

クーは自分が異常であると認識している。

私が教えたからだ。人を食べることはいけないことだと。悪しきことなんだと。バレないようにこっそりと、見つかっちゃいけないことなんだと、私はクーに教え込んだ。

 

「シアねぇ。実は昨日、クーがシアねぇの膝に乗って晩御飯食べてるのを見た」

「ここで急に嫉妬心を出されても」

「それもだけど本題はそっちじゃなくて。昨日、私もクーと晩ご飯食べてたんだ。しかもお代わりしてたし。だからシアねぇと一緒に食べててあれって思ったんだ」

「……それは……食べ過ぎかも」

「うん。でも吐いたりはしてなかったから、食欲が暴走してるというより純粋に空腹だと思う」

 

空腹。お腹が空いていること。食べなければ、満たされない。

エネルギーの吸収。身体の渇望。

 

「僕自身が拒食症だったから、正しい食事量とか食欲とか、まだ確信が持てなくてわからなかったんだけど。僕と出会ってからクーの食事量は増え続けてる。昨日だけじゃない」

 

ベンチ代わりの排気口に視線をやる。そこにはドーナツが乗っていた皿があった。プトラちゃんは確か、昨日クーがお腹空いて辛そうだったから追加で作って──いや、そもそも昨日は私もプトラちゃんと一緒に食事を摂っていない。クーはワニ、プトラちゃん、私と3回の晩御飯を食べ、その上で腹を空かしていた。

 

何故?

本当に食べたい物が、食べれていないから。

欲望を、いけないことだから、私達に迷惑をかけないために我慢して。

 

もちろんクーの我慢は永続するわけではない。食人癖には限界がある。ペナルティがステータス低下どころじゃない。暴走状態。操作不可がペナルティ。

 

「前の防衛戦で、クーは人を食べた。で、今はそれから一週間ぐらいが経過してる。前シアねぇが食人癖してた時、暴走までの平均は一週間らしいって言ってたよね」

 

嫌な予感がする。言語化が間に合わず、本能が先に察しているタイプの。

気づいたタイミングがちょうど間に合わない時だったって時は、大体起こった時に本能が気づいてしまった時だ。

 

嫌な予感が、する。

 

「……シアねぇ。ひょっとして、もうそろそろやばいんじゃないかな」

 

 

 

過去で一番全力で走ったかもしれない。

前傾姿勢で腕を大きく振り、飛び込むように階段を4段飛ばし、ぶつかるように角を曲がって。

 

私は息を荒げ肩を上下させ、この一瞬で大きく疲労しながら、私は自分の教室へと戻った。

 

プトラちゃんが、クーへドーナツを与えていた、教室へと。

 

「………………オーケー。覚悟決めよう」

 

最後に大きく息を吸い、無理やり呼吸を整える。そしてドアを開ける。

 

 

中には。

 

 

中には目から光を失っているプトラちゃんと、腹を食い破り手と口を真っ赤に染めたクーがいた。




プトラ

最初からクーに食わして殺すと決めていた。
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