ゾンビゲー転生サバイバル百合モノ   作:バルロjp

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出発前

充満する鉄の匂いは鼻を刺激し、ぶちりと肉を噛みきりじゅるじゅる血を啜る音がする。

部屋に存在する片方は理性を失い人肉を求め暴走し、部屋に存在した片方はそれに巻き込まれ命を失った。

 

あぁ、起こったことは明白だ。

 

クーが、プトラちゃんを、喰った。

 

「holy fuxxing shit……っ!」

 

ガチャン。

中に入り鍵を閉める。窓は閉じられており教室のドアも曇りガラス。音もドアに耳を付けない限り問題ない。これでひとまず急に部屋に突撃されない限りはプトラちゃんの死はバレない。

 

鍵を閉めた音でクーが反応していないか確認。私のことは歯牙にもかけず、プトラちゃんを捕食していた。

 

では───次の問題だ。

すなわち、何故『言質』を貫通したか。プトラちゃんを殺したことによる影響はとりあえず無視していい。

 

プトラちゃんは、自分が戦闘員として向いていないことを自覚しながらも、自分も皆と同じ戦闘員として命を賭ける視点に立ちたいと思っていた。

しかし同時に、この命が軽く信用の確率が難しい世界で、工業大学グループは自分の『言質』で成り立っていると知っており、自分が死んだらどうなるか分からないから危ない場所には行けないと言っていた。

 

そして独り言のように言葉をこぼしていた。「私の異能力が死んでも効力続くのかなぁ」と。

 

結論から言えば、『言質』は異能を所持している当人が死んでも効力は発し続ける。

しかし私はプトラちゃんには伝えなかった。プトラちゃんは私が気に入った娘なのだ。死んでも効果は続くと言ってしまえば、プトラちゃんが死地に向かう可能性が僅かにでも高まる。

 

「そう、言質だ」

 

何故こんなことが起こった?

 

クーがプトラちゃんを食べた理由は、わかる。

単純に近くに居たといった理由もあるだろうし、クーが私へ向けている愛情(食欲)を、最近プトラちゃんにも向けていたからだろう。クーはそこらの感情の区別がついていないので、食べることを愛情を返すことだと思っている節がある。

 

だが『言質』がある。

 

クーの『クッキングケミカリー』は暴走。それは本人(プレイヤー)の制御を失わせる。制御を失ったのなら『言質』なんて関係無い。無意識で理性なんかないからだ。

 

だが、スイッチがパチッと切り替わるように、一瞬で100%の制御が0%になるわけではない。

5分程をかけて、徐々に暴走へと移行していくのだ。

 

そして完全に暴走に切り替わるまでは『言質』は効力を発する。クーが様子がおかしくなってから、プトラちゃんはクーから『言質』で守られながら、何かしらのアクションを起こす時間があったはずなのだ。

 

だというのに、何故───

 

 

「………………あ……おねーちゃ……」

 

ふと、クーが顔を上げる。顔に血化粧を施し、髪から滴る血は服を汚し、口元に肉を張り付けたゾンビのようなクーが、目に少しずつだが理性を取り戻し、そしてじんわりと涙を浮かせ始めながらこちらを向く。

 

プトラちゃんのお腹は、あばらが6、7本見えるほどにぽっかりと穴を開けていた。

 

「……くーね……お腹がとっても空いてたの……がまんして、がまんして……いっぱい食べてもいっぱいにならなくて……ずっと……」

 

私が何も言わず見ていると、咀嚼を終えたクーは口を開いた。

 

「もう、がまんできなくなって……お肉が食べたくなって……つらくて、くるしくて……」

 

肩に添えられていたクーの獣手の爪が少し閉じられる。抉られた胸部の肉を口へ運び糧とする。

 

「そしたら、プトラちゃんが言ったの。私を食べていいよって」

 

感情の羅列。懺悔の前置き。罪の告白。

ぽたぽたと目から涙を零し、口元の赤と混じって床に落ちる。

 

言葉から察し、私にしてはとても珍しい、動揺から来るプトラちゃんへの畏怖。

 

「……プトラちゃん自身が……許可したのか」

 

 

何故、『言質』で保護されていたプトラちゃんが無抵抗でクーに食べられたのか。

理由は簡単だった。

 

他ならぬプトラちゃん自身が、クーに食べられることを許可したからだ。

 

 

 

献身。自身を顧みず、他人に尽くすこと。

私の頭にまず浮かんだ文字はそれだった。

 

ああ、一度答えを知ってしまえば容易に想像ができる。

 

暴走の初期症状が出て様子がおかしくなっていくクー。急な異変に狼狽え心配そうに声をかけるプトラちゃん。

お腹が空いた、苦しいと訴えるクー。何かできないかと寄り添うプトラちゃん。

人を、プトラちゃんを食べたいと涙ながらに懇願するクー。そして、戸惑いながらもクーのためと受け入れたプトラちゃん。

 

献身。その一言では表せない程の自己犠牲。

 

プトラちゃんが優しいのは知っていた。だが、プトラちゃんが優し過ぎるのは知らなかった。誤算があったとすればそこだ。

 

()()もまた、歪んだ子供だったのだ。

 

プトラちゃんは私達と仲が良かった。私達(カルシアやワニ)と仲良くなれる奴なんて、同じ歪んだ人間しかいないのに。

プトラちゃんはクーに愛情を向けていた。似たような境遇のクーに、自身が子供の頃求めていたものを与えるように。

プトラちゃんは個としての認識が薄かった。『言質』を所持し能力を求められ、役割を果たすことが一番だと思い込んでしまうほどに。

 

私達とプトラちゃんの違いは、そこにあったのだ。

自分のために他人を犠牲にできるか。他人のために自身を犠牲にできるか。自分主体と相手主体。結果は同じでも過程は違う。

 

コンコン。

 

ノックの音が響く。

 

反芻するようにぽわぽわとトリップし、どこかとろんとした目をこちらに向けるクーに気にしなくていい旨を伝え、すりガラスに映る人影を確認する。シルエットからワニと判断し、鍵を外しドアを開ける。

 

部屋の中が見えるようになりど真ん中でクーにより解体されていっているプトラちゃんを見て、ワニは驚きと諦めと悲しみが混じったような表情をした。

 

「……随分ハードな食育だね」

「うん。……そして結果的には、ワニにも食育をせざるを得ない」

 

ワニはやっぱり? とも言うべき顔をして私を見た。

 

プトラちゃんはその身をもって献身的に、クーのために自らを捧げた。

その犠牲は無駄にできない。

 

「ワニ、喰え。一部でもいいから『言質』は貰おう」

 

ありがとう、プトラちゃん。クーをここまで想ってくれて。

 

お休みなさい。

 

 

 

正気を取り戻してきたクーを宥めシャワーに突っ込んでいたら、ちょうどいい時間になってしまった。

 

荷物は全てまとめている。もうここに戻ることはないだろう。

本当はこの後の作戦も飛んでガン逃げなり全面戦争なりしてもいいのだが……まぁ、プトラちゃんが身を寄せていた場所だ。作戦をしっかりやるという約束は守ろう。

 

 

「おう、来たか。お前等以外はもう乗ってるからはよのれ」

「みんなおはやいこって」

「僕が政治家になったら5分前行動を法律で禁止することを公約とする」

 

今後の予定変更をワニと話しクーに伝え集合場所にやってきた。

満腹からかショックなのか感情を享受しすぎてオーバーフローしたのか、おねむになってしまったクーを抱え(とても重い)登場すると、防衛戦力として残るマキシマム含め幹部は全員集まっており、ちょうどいい塩梅の緊張感が場を支配している。

 

ちなみに参加者は前も言っていたが、工業大学グループのマキシマム以外の幹部の皆さん。つまりはオシヴァル(リーダー)、ルーピシュ、アネカリア。それに精鋭の6人(エリートモブ)

 

そこに私達三人がおまけで付いてくる感じだね。

工業大学側はルーピシュの遠距離以外は戦い方知らないけど、こっちは私が近距離~中距離。クーは近距離。ワニは遠距離でバランスが良い。

 

向こう(研究施設)の様子は?」

「監視に向かわせてる奴曰く、動きは何も無いそうだ。まぁハッキングとかも警戒して、こっちは情報漏れないようにアナログな手段で段取り進めてたしな……もっともプラスウォッチから情報抜かれたらどうしようもないが」

「ま、プラスウォッチから情報抜いてたらもうここ滅んでるでしょ」

「ははっ、ちげぇねぇな」

「おいおいリーダー物騒なこと言うなよー!」「リーダーとカルシアのブラックジョークセンスはどうかと思うぞー!」「えっ俺は好きだが」「そういうとここの二人似てるくないか?」

「あーるっせぅるっせ。久々に書類仕事じゃなくて戦闘するってんだ、俺だってちょっといつもよりおかしくなるわ。こいつ(カルシア)と一緒にすんな!」

「誠に遺憾である」

 

ねぇワニ。私は確かにブラックジョークとか皮肉とか、なんなら暴言だって好きだけど、ちゃんと場の空気は読んでるしそこまで酷くないと思うの。

そこんところどう思う?

 

「うーん……でもシアねぇは身内なら何やってもいい、身内じゃないなら何やってもいいって考えで、そもそも両方に酷い部分がある」

「どのくらい?」

「アダルトサイトの広告の当たり判定ぐらい」

「それは酷いわ。自分を見つめ直したいと思います」

 

なお思うだけ。自分を変えるぐらいなら世界を変えてやるというタイプこそが私だ。

 

背中のクーをよいしょっと背負い直すと精鋭モブが乗っているトラックへと足を掛ける。ちょっと未来の世界を描いたのがNZWだが、それでも軍用トラックなどはそう大きく変わる事は無い。もっとも素材はより頑強な物になっているが。

 

「お邪魔するよん。ウチの眠り姫座らせたいからもっと詰めて♡」

「ふはは、ニュービーカルシアよ。人にお願いするんならまーずもっと相応しい態度があるんじゃないかなんーーーん?」

「足元じゃなくても手元も見て♡」

「OK。俺は痛いのは苦手なんだ。おい皆もっと詰めろ」

 

おちゃらけて舐めた態度取る奴がいたので担いでるクーの手をぶらぶらさせて威嚇すると、精鋭モブ君は綺麗な手のひら返しをして詰めてくれた。

 

いいギャグ適正だ。きっと工業大学が滅びる時もネームドに交じり生き残ってるようなキャラ性だろう。まぁその時は私が殺すけど。

 

クーを荷台入り口から向かって左側に座らせた後は(右手が人と接触しないように壁側配置)、私もクーの左に座り、倒れ込まないように肩を貸して寝かせる。っふ、どうよこの一連のイケメンムーブ。

 

反対側に座っていたアネカリアは無言で隣のルーピシュの肩に頭を偏らした。可愛いかよ。

 

今度はワニが乗ってきて、私とクーの現状を見るやいなや、私の隣の先客精鋭モブ君を眼圧でどかして隣の席を確保し頭を倒して来たので、こちらもワニの反対側の肩に手を回して抱き寄せてやる。両手に花状態ですね。

 

「勝ちまくり、モテまくり」

 

ルーピシュは突然アピールしてきた恋人(アネカリア)に固まっていた。

 

 

 

「よし、物資も積み終わったしそろそろ出るぞ。忘れモンねぇなお前等?」

「リーダー乗らんの?」

「俺は運転だ」

「安全運転でよろしく! 免停になるような事態だけは勘弁ね!」

「そもそも免許更新してねぇんだわ。というかクーちゃんはまだ寝てるが大丈夫なのか?」

「お腹空いたら起きるでしょ」

「そんなもんか? そんなもんか……。ん? そういやプトラを見てないな。いつも作戦前には来るんだが……特に今回はお前等とかを見送りに」

「あー? 確かにプトラちゃんは来る性格してそうだけど……今朝私達と一緒におやつ食べて別れたのが、えー……一時間前ぐらい?」

「……ま、帰って来た時のメシでも作ってくれてんだろ。今日は定時で帰るって言ったしな。あるいは最近の寝不足が祟ってそこらで寝てるかだな」

「私たちの女子トークが楽しすぎたか……。ま、そこらで寝てたら拾っとくよ。謝礼の1割は頂戴ね」

「プトラの一割ってどこらへんなんだよ」

 

まぁ、既に10割もらってるんだけど。

 

 

そうしてトラックは発進した。

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