ゾンビゲー転生サバイバル百合モノ   作:バルロjp

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中継

「おねーちゃん、あれたてものじゃないの?」

「ん? ……あっあれか。目ぇいいねクー。あれはー……ただの町かな。私達が昨日いたとこと一緒。今探してるのはもっと大きい『都会』って奴だね」

 

「あっ、あれは? おっきいたてものだよ?」

「あれはー……『工場』か。今は後回しかな。クーがいるから攻略はできるだろうけど、欲しいものが現状ないし」

 

「わぁ、わんちゃん達だ! わぉーん!」

「同族意識か? ウチじゃ飼えません。クーの(人間)も探さなきゃいけないし」

 

クーには基本代わり映えしない景色が続くから寝てていいよと伝えたが。

好奇心旺盛で見るもの全てが新しいクーは飽きることなく外を見続け、たまにプラスウォッチの使い方を教わって情報を得てと起きっぱなしだった。

 

昼だからと舐めている私はそこまで真面目に探しているわけじゃなく、何か見つけるのは大抵クーが先だ。もっとも、今のところ目的地の『都会』は見つかっていないわけだが。

 

クーが見つけたものを片っ端から報告してくれる中、ゾンビ犬に対するコメントを返すと同時にふと疑問が浮かぶ。

 

「そういえばクー、お肉食べさせてないけど平気?」

 

『食人癖』というスキルは、別に人しか食べれなくなるわけではない。ゲーム時代はマスクデータだったが、『人肉』しか食べないパターンがあれば別に一週間に一回食べれればいいですよ普段は普通の食事でもっていうパターンもある。ちなみにしばらく喰わせないと暴走する。

人から取れる……採れる? 素材には『人肉』、『人間の血』とあり、そちらもまた好みが出る。『食人癖』の癖に『人間の血』しか摂らないっていうキャラも生成されるらしい。もはや『食人癖』ってなんだよって感じだ。

 

クーにはそういったものを調べるために、昨夜出会った時から人肉は食わせていない。ここらへんはR社君の技術でも解析不能なので、実際に体感してもらうしか知る術がないのだ。限度や性質を知っておくことは今後の安定につながるからね。

ちなみに最もらしい理由を今述べてみただけで、ただ単に私を食べたがってるの拒否してたから他の人肉食わせるの忘れてたってだけだ。

 

や、これが暴走するんだったら傾向あるから気づくんだけどね。気づいたところでこの生まれた世界特有のゾンビの湧き具合だったら、直ぐに人肉の調達するのは難しいけどさ。

 

「うーん……。へいき、かな? おなかが空いてふらふらしてないし。まだまだだいじょうぶだと思う」

「そいつぁーよかった」

「でもおねーちゃん見てるとおなかがすいてくるんだよね」

「そいつぁーよくなかった」

 

引き攣った笑みをしながらバックミラーでちらりとクーを見ると、左手を物欲しそうに口元に当てているクーと目があった。止めろ止めろ。

食われたらっつーか噛まれたらオワるんだよ、私は。

 

……あ、今更なんだけど、食人注意ですこの私の物語。

 

 

結局陽が落ちるまでに『都会』は見つからなかった。一応一般車両なマイカーはそこまでスピードが出ているわけじゃないし、荒野には段々と丘が連なってきており見通しも悪くなってきた辺りが言い訳だろうか。

それにしたって『町』とかその他建築物を見かける割合が多くて、運が悪かった感はあるけども。ままゆっくり探しましょう。その気になれば『町』で補充もできるし。

 

というか『町』に来た。

歴戦の私だって流石に夜を荒野の中で過ごしたくない。人工物フィールドと荒野フィールドじゃ敵のポップテーブルが違うのだ。

具体的には、人工物フィールド付近ならば人型ゾンビのテーブルだが、荒野フィールドだとモンスターと化した動物がポップテーブルに入ってしまう。

クーはともかく、今の私じゃちょっと対抗が厳しいゆえ、まだなんとでも対処できる『町』に車を停め夜を過ごす事にした。

 

「ん~~~っ! おねーちゃんといたからせまいとこはへいきだったけど、手がきゅーくつだった……」

「クーにとっては残念な事に、明日も車なんだよなぁ。……私は安全確保のためにここらのゾンビ処理するけど、クーはのびのびしとく?」

「んー? んーん。くーもいくよ、動けてすっきりするし!」

 

ガソリンや布をトランクから出しながら右手をぐーぱー(爪が伸縮してたから多分そう)してたクーに声をかける。

一般ゾンビ程度なら私一人で処理できるのでクーには好きにさせようと思ったが、どうやらクーはゾンビをぶっ殺してる方が気分転換になるらしい。

 

あぁ、笑顔でそんなことを言うなんて、私はクーの教育方針を間違ってしまったのかもしれない。裏切らない戦力だと最初に思ってしまったのが最初の分岐点か。ま、水着マントなんて恰好さしてる時点で私の子供の教育に対する才能なんて証明しているようなものだが。

寒くないんだろうか、水着マント。ならいっそのこと下も水着にさせたい気持ちがなくはないんだけど。

 

そんなふざけた事を考えながら、私は太ももに巻いてるホルスターのナイフをぽんぽんと叩いた。さーて、安全確保とプラスウォッチ剥ぐぞー。

 

 

言い忘れていたが、クーからプラスウォッチを一時返してもらって『気配察知』を取得した。このスキルは名前の通り、ゾンビや近づいてくる生命体を気取る手助けをしてくれるもので、プレイヤーの安全を加速させるものだ。ちなみにあったら助かる枠で必須ではない。

 

今周で取る気は正直なかったんだけど、クーというプレイに慣れてるわけじゃないし一応守らなきゃいけない味方がいるので取った。別に腐るスキルじゃないし。

 

クーと別れて掃除をしてもよかったのだが、どうせならクーがどのくらい戦えるかを見てみたい。スペック的にはエリートモノが来なけりゃ平気なので昨日は自由にさせたが、今後は一緒に戦う事も考えクーの実力を見ておくことにした。

 

「あ、クー。そこの左に二体いるよ」

「わかった!」

 

『気配察知』で得た情報をクーに伝えると、クーは元気よく返事をして飛び出してった。忠犬か? いや『クッキングケミカリー』の方向性的に尻尾生えてもおかしくないけどさ。

 

クーを追って角を曲がると、ちょうど戦闘開始するところだった。と、いっても始まったのは蹂躙だったが。

 

まず初撃。クーは思いっきり右手を振りかぶって、手前にいたゾンビをぶん殴った。

クーは分類的には感染しきっている状態なので、通常MOBからは中立となる。よって初撃は敵の無防備なところに一撃を入れれるワケだが……。

クーの一撃は、ゾンビをぶっ飛ばすではなく、腹の部分だけ()()()()()

まるでだるま落としかのように、ゾンビは腹の部分だけ血の軌跡を残し飛んでいき、残った下半身と上半身が重力に従い崩れ落ちた。

 

中立状態ということは攻撃したら敵対になる。奥側にいたゾンビは仲間が攻撃されたことに反応して、その犯人なクーに敵意を向けた。

 

ゾンビは呻き声をあげ、手を突き出し、口を開いてクーに襲い掛からんとして───次の瞬間には頭と左肩だけになって宙を飛んでいた。クーの振り戻された右手によって、今度は斜めにだるま落としされたからだ。残った体の方は、左脇腹から右肩へと斬り取られていて、ばたんと音を立てて手前のゾンビと並び倒れた。

 

思わず固まった私に対し、クーが右手を少し血に染めながら振り返り、褒められることを期待している顔で勢いよく振り向いた。

 

「おねーちゃん! すごい!?」

「……とてもすごい」

 

どこかでどちゃっと、恐らく飛んで行ったゾンビの一部が着地したであろう音が響いた。

 

 

いやぁ、ステータスの暴力が残酷すぎる。STR16にADA19=35はやりすぎでしょ。やっぱ序盤に持ち込んでいい火力じゃないんだよなぁ。

ゲーム時代でもゾンビが切り裂かれてぶっ飛ばされる描写は見れたっちゃ見れたけど、流石に体の真ん中だけ切り取られて飛んでいくなんて初めて見たよ。

 

うん。マジでクーを味方に付けといてよかった。

 

「凄い。とんでもなく凄い。めっちゃ強いよクー」

「ほんとー!? えへへ、ならおねーちゃんのやくに立てるよね!」

「うんうん。大助かりだよ、マジで」

 

私はクーの頭を撫で、左腕しか通してないから脱げかけてしまったマントを右腕に掛けながら褒める。

 

お世事抜きで、実際クーはとても強い。ステータス見た時も思ったけどAGIだって低くはなかったから、タイマンというより対峙したら喰われるしかなかっただろう。私が強がる気がなくなるレベルで現状クーが突出している。これだから『クッキングケミカリー』って奴は……。

 

でもこれは嬉しい収穫だ。あの動きだったら最初っから敵対してるMOBと出会ってもクーはちゃんと戦闘できるだろう。倫理観が全く育ってなかったのがかえってよかったのかもしれない。

しかもこれ、まだまだ伸びるからね。まだ『クッキングケミカリー』の進行度Lv2だし、他にも盛れるからさ。これだから『クッキングケミカリー』って奴は……。

 

一つ問題があるとすれば、『クッキングケミカリー』取得のきっかけとなった『食人癖』だろうか。これが普通に死体に興味向くぐらいだったら何の問題もなかったんだけど、何か食欲が私に向いちゃってるんだよなぁ……。

実際今も、戦闘で興奮したからか、私が近くにいるからか。撫でられて喜んでるクーの顔が赤くなり視線が段々と熱いモノになってきた。これだから『クッキングケミカリー』って奴は……。

 

「ア゛……ウ゛ア゛ァ゛ア゛グ゛-……」

「と」

 

クーの餌やり、ちゃんと考えないとなーと思いながらクーを撫でていると、音か飛んで行った肉片かで反応したゾンビがやってきた。

 

ゾンビちゃんは最初は音がしたから来たという感じだったが、中立じゃない私を見てやっぱり呻きながら襲い掛かってきた。ふむ、陽が落ち始めてるから移動速度上がってきてるな、速く処理しとかないと。

 

クーを撫でるのを止めてホルスターからナイフを抜く。クーは撫でられるのが終わって、寂しそうな顔をした後、不満顔でゾンビの方を向いたが、私も戦わないとなまっちゃうのでこの場はもらうことにしよう。

 

「私も戦いたいから、クーは見といて」

「ん……わかった。がんばってね!」

 

私がゾンビ殺すとこ見てて♡

……クー相手にこのキャラやるのちょっとキツいな。やっぱスラングはわかる相手じゃないと。

 

さて。前回の奇襲メインだった時と違って今回は正面戦闘だが、別に問題はない。そりゃあリアルではゾンビの相手なんかしたことなかったけど、それでも今はカルシアの運動神経が良い体で、ノーマルゾンビ相手に何百何千と繰り返し見てきたモーションを再現するだけなのだ。

『近接格闘』が。

 

私は走ってきたゾンビを待って、適当に構える。相手が襲ってきたら、最後に出した足───今回は左足───を見て、相手に合わせて右側に避けながら左手を取る。後はすれ違いながら足を引っかけ、取った左手を下に回すように動かせば、ゾンビはぐるんと回され地面に大の字に叩きつけられた。

そこにすかさず目にナイフを突っ込んで脳を破壊すれば完了って寸法よ。ゾンビ君はすぐに動かなくなった。

 

クーみたいなパワーはないけど、培った……培った? 技術で『近接格闘』を使いこなす。ま、上々でしょう。この感じなら奇襲じゃなくても十分通用しそうだ。ゾンビ達、色々こぼれ落ちたりしてるから軽くてやりやすいし。

 

ナイフを引き抜いてクーを見ると、目を輝かせて立っていた。その表情には「凄い!」といった言葉が浮かんでいた。

 

とりあえずピースしておいた。




『食人癖』

ゲーム中では、死体を前にすると人肉としてアイテムを取得せずとも、その場で食べる事ができる。
とある『食人癖』持ちキャラを使っていた検証班が若い女性キャラを食わした時だけ暴走まで余裕が伸びると主張。
とりあえず検証してみたところ、直接食べる場合、違いがでることが明らかに。
これは直接食べる場合は『人肉』というアイテムではなく『若い男性死体』『年老いた女性死体』などの違いがるためと推測される。
なお流石にゲームとして面倒になるからか、『人肉』アイテムを食えず『若い男性』のみ食べる『食人癖』などはないようである。

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