「芸術は爆発だー!」
今日はオーディション本番の日。
みんな緊張してはいるが不必要に体を固くしている印象はない。
これならみんなで合格できるかも。
早速オーディションが始まった。
思った通りみんなのびのびと演技できている。
何よりも楽しそうなことが嬉しい。
「次、早乙女あこ。」
「はい!」
あこちゃんの演技はやっぱりすごい。
このオーディションには1年生がいないとはいえ、ここまで演技してきた子達から実力が頭1つ抜けている。
「……でも、私は私の演技をするだけです。私を1番魅せられる方法で。」
誰にも聞かれていない声で決意する。
これは私の根幹。
ファンやお客さんを喜ばせるために、自分の最高に輝く瞬間をいつでもどんなときも。
「次、星野雪。」
「はい。」
オーディションではこの間の練習と方向性を変えた。
イメージはふわふわした雰囲気のマイペース女子。
「お願いします。」
「ん〜?これぇ、なんですかぁ〜……ふわぁぁ、はふ。」
とても眠そうな様子に戸惑いながら相手役の方が言葉を続ける。
「バンド、一緒に組んでくれませんか?」
「ばんど?…ねるじかん、へっちゃうから、や、ですぅ〜。」
そう言って立ち去っていく。
言葉や話している時の仕草はのんびりしていても、歩くスピードまで遅いとただの邪魔だ。
キャラとしての違和感がないギリギリの速さで歩く。
「じゃあ、次――」
私の番は終わりだ。
すぐにゆめちゃん達が駆け寄ってくる。
「雪ちゃん!かわいい!」
第一声がその感想なら楽しんでもらえたようだ。
「ありがとうございます」
発表されたオーディションの結果はみんな合格。
即日撮影の本番が始まった。
ゆめちゃんは塾に急ぐ学生。
小春ちゃんは音楽に興味を示さない無表情キャラ。
ローラは一瞬興味を持った上でバッサリと切り捨てる。
あこちゃんは心底面倒そうに一掃。
それぞれが各々の演技をしていった。
最後の撮影は私だ。
「よーい、アクション!」
この作品の学校は成績至上主義。
成績が1点でも高い方が正義である。
生徒会長という設定のひめ先輩は全国模試で毎回トップ5に入る成績という設定もある。
それならば。
「お願いします!」
「…退きなさい。貴女程度の成績で私の道を塞いでいいと思っているのかしら。3年2組の如月さん?」
「す、すみません…副会長。」
これはアドリブ。
ひめ先輩の生徒会長という設定に合わせた独自設定。
「分かればいいわ。音楽なんて、才能がないと苦しいだけなのだから……貴方も大人しく勉学に励む事ね。」
私が立ち去ったあともしばらくは静寂が続いた。
「っ!カット!」
ようやくかかったカットに保っていたキャラとしての表情を解く。
その後は直接如月先輩からお褒めの言葉を頂戴した。
撮影も終盤。
今日、M4の登場シーンとS4のライブシーンを撮影してクランクアップだ。
しかし、M4の撮影をしている現在、監督が何かが足りないと言ってスタジオにいる全員が頭を抱えることになっていた。
私たち1年生は見学許可を貰って現場にいたのだが、誰もがその沈んで停滞した空気に困惑している。
そんな中で私はすーくんに近づいた。
すーくんが困っているのなら力になろう。
私に出来ることは少ないけれど、今はその全てを彼が輝くために使う。
「あのね、すーくん。」
「雪?どうした?」
「恋人がいる設定にすればいいと思うの。恋人がいるから、恋人のために負けられない。……どうかな?」
「それだぁーーー!」
その声は私たちの話を聞いていた監督から発せられた。
「それで行こう!白髪少女、君がその相手役だ!」
「えっ!私が演じるとなると、副会長が相手役という様な図になってしまいますが…」
「それで構わない!彼氏を応援したい気持ちとでも自分は役に立たないと卑下する気持ちを出して欲しい。」
立場があるから、ツバサ先輩の前ではああ言ったけど、恋人が真剣に目指してある夢は応援したい。だからといって、その手の話題に疎い自分では役に立たない。でもそう悩んでることを心配はさせたくない。心の中でそんな葛藤を抱えた少女。
「よーい、アクション!」
スイッチが入る。
「お邪魔します…差し入れにご飯をお持ちしました。」
「おまっ、最近忙しいんじゃなかったのか。来てくれたのは嬉しいけど、無理して欲しくないんだ。」
「だ、大丈夫よ。私がしたくてしてることですもの。…それに、私にはこれぐらいしか出来ませんし」
「そんなことない!お前が俺の演奏を好きだと言って笑ってくれるから頑張れるんだ!」
「……そんなことであなたが元気でいてくれるなら、私は何度でもあなたの演奏を、あなたの1番そばで聞きますわ。」
「ありがとう、そう言って俺の味方でいてくれるお前がいるから、失敗が怖くても頑張れる。ロック甲子園、絶対優勝する、俺を信じてくれるお前のために。」
そう言って抱きしめてくれるすーくんの腕にそっと手を添えて頬をする。自分の愛するものを確認するように。
「カット!OK!」
その声で入っていたスイッチが切れていつもの感覚に戻ってきた。
「「ありがどうございました」」
2人して監督に頭を下げると、横から望くんがやってきた。
「2人ともすごく良かったよ。本当の彼氏彼女みたいだった。」
「なっ!はあ!?そんなこと…」
「ふふっ、ありがとうございます、望さん。ほら、すーくん、次のシーン始まるよ。」
「あ、ああ。」
「盛り上がってきたね!ロック甲子園!」
あんな先生のその言葉で会場が盛り上がっていく。
そして紆余曲折経て登場したS4の先輩方は圧倒的なステージを見せた。
「生演奏だなんて…」
「いくらS4でも、忙しいなか、仕事の合間で練習したって事だよね」
ああ、やっぱ会場のポルテージは生演奏の方がリアルになる。こういうちょっとした違いに絶対に手を抜かないところ、それに付き合ってくれる仲間がいること、S4のレベルの高さを見せつけられる。