とある箱庭の一方通行   作:スプライター

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黒舘ハルナ

ゲヘナ学園。

混沌とも称される自由と壊滅的な治安の悪さ、そしてその破天荒から生み出される生徒個人個人の強さが三大学校に名を連ねる理由にもなっているキヴォトスで最も有名な学校の一つ。

 

その自由奔放さは他校の追随を許さぬ程に圧倒し、違法サークルや爆発騒動は当たり前。

大多数の少女は確実に忌避するであろうその校風だが、それでもその異常性に惹かれてしまう変わり者が常に毎年、一定数以上ゲヘナ入学の道を示していく。

 

新たに加わってしまった好き放題やりたい放題生活を手に入れてしまった生徒がさらにゲヘナで厄介事を増やし、ゲヘナの名を殊更轟かせるのに一役買い続ける。

 

連鎖、連鎖、その連鎖。

 

いつもどこでも何時でも厄介事があちこちで絶え間なく発生している。他校で言う所の異常事態がこちらでは通常運転となる無法地帯が、良くも悪くもゲヘナの特色だった。

 

そのゲヘナ地区を、一方通行は一人歩いている。

げっそりと、心身共に疲れ果てた表情を顔面一杯に張り付かせながら。

 

「あァ……くそ……。白石のクソ野郎が……。何が調整完了もう大丈夫だ。だ……!! 一歩間違えてたら頭ぶつけて即死だったじゃねェか……!!!」

 

思い出す。先程の未来塾の出来事を。

才羽ミドリを助け出す為に使いたくなかったコレを使わざるを得なかった事態を。

 

数日前、彼はエンジニア部に顔を出した時、それぞれの部員からそれぞれが全力で楽しんで制作したであろう玩具の発表会を披露され、全てが実用に耐えずゴミ箱行きであると判定を下した。

 

しかしその僅か二日後、ウタハが先生の体重や体格に合わせて威力を調整したからと言って手渡されたのが、スイッチを合図に圧縮した空気を爆発させ、瞬間的に途轍もない程の推進力を人体に与える空気噴出砲(シュートボム)

 

一方通行としては命の危機的な意味で決して使いたくなかったソレは、蓋を開けてみれば本当に命の危機に直結する代物でしかなかった。

 

クソ。クソ。と一方通行は通行人に変な目で見られるのを気にする事無く一人愚痴り続ける。

 

あれがなかったらミドリを助けられなかった。それは認める。

背中でダメージを受け致命傷を避けるよう使いこなせたのも、百歩譲ろう。

 

だがしかし死にかけたのは事実であり、それと同時に痛い物は痛いのである。

背骨が折れてなかったのはもう奇跡でしかない。むしろどうしてあれで折れてなかったのか自分自身不思議である。

 

「背中がいてェ……!! もォ歩きたくねェ……!! どォしてミレニアムみてェにあちこちにモノレールや電車が走ってないンですかゲヘナはァ!!」

 

ユウカやミドリと言った彼との交流が多い少女達は一切気付く余地がない話だが、学園都市の第一位。二百三十万人の頂点に君臨する一方通行だが、知り合いがいない場所かつ一方通行評価で危険がないと分かっている場所では、そこそこの頻度で弱音と泣き言を吐く年頃らしい一面をありありと覗かせる存在である。

 

はぁぁぁ……!! と、どこまでもどこまでも浸透していきそうな深い深いため息をつく。

風紀委員と余計な一悶着が発生し、一段階追加で疲労がかさ増しされたのもため息の深さに一役買ってはいるのだが、彼が放った重い嘆息の本質はそこではなかった。

 

今、彼の中で疲れの原因を占めているのは、ズキズキと痛みを主張し続けている背中の他にもう一つある。

 

空腹だ。

 

そう、彼は今日、朝から何も口にしていない。

したものといえばコーヒーを一缶だけである。

 

ゲヘナに足を運び未来塾を叩き潰すまでは仕事をしなくてはならないという気持ちによって空腹は遥か彼方へと追いやられ、不調を訴えてくる事も無かった。

だがそれも仕事を終えるまで。

 

やるべきことが終わり、気持ちを日常へと戻した途端、今に至るまで忘れていた空腹がゴリゴリに主張を始め、一方通行の心を蝕み始めた。

 

その空腹に負けてしまった事が、現在一方通行がシャーレに真っすぐ帰らず、痛む身体に無理を言わせてゲヘナを歩いている理由だった。

 

即ち、料理屋巡り。

もっと言うと、肉料理屋探しの旅である。

 

当たり前と言えば当たり前の話なのだが、一方通行はシャーレで『先生』として働いているので、連邦生徒会から毎月人間一人が遊んで暮らすには十分な量の給料を連邦生徒会から貰っており、シャーレで仕事を手伝ってくれている担当生徒達の給料もここから捻出してもいる。

 

それは学園都市時代に持っていた金額からすれば遥かに届かない物ではあったが、贅沢の十ぐらいは余裕で賄える額であり、その為なのか彼の金銭感覚は学園都市時代から変わっていない。

 

つまり、そこそこに狂っていた。

 

「どの店かは……この際なンでも良いか。どこ行っても一番高ェ肉を選べば失敗はしねェだろォ」

 

なので、こんな思考が当たり前のようにポンと出る。

今の言葉をユウカが聞いたら即小言が飛んできそうだな等と存外失礼な事を思い浮かべながら一方通行は一人良さそうな店がないかゲヘナ内を探って行く。

 

ジャンクフード。もっとガッツリ食いたい。

回転寿司。肉を食えそうにない。

中華料理屋。今の気分じゃない。

 

なんでも良いと言った割には厳選に厳選を重ねてしまっている一方通行にとってそれぞれの料理店は魅力的に映らず、敢え無くスルーされていく。

 

時刻は十四時を回ろうとしている。

早く見つけたい。

早く座って休憩したい。

 

空腹と節々の痛みでイライラが募り始めた頃、ふと、一方通行の目に留まった店があった。

 

一級品の牛肉を使ったステーキハウスと書かれたその店は、今の彼にとって欲しい物が全て詰まった理想的な店として

 

「オイオイ、探せば良いのあンじゃねェか」

 

ここにしよう。

むしろここ以外の選択肢はない。

わざわざゲヘナで歩き続けた理由はこの店に入る為だった。

 

ステーキ肉にありつける嬉しさに笑みを浮かべ、己の幸福感をこれでもかと満たしてくれそう感を漂わせる未来に心を躍らせ、一方通行はステーキハウスへと足を進み始める。

 

さあてフィレかサーロインか。

俺の腹はどっちをご所望なんだと自分の気分に問いかけつつ店の前まで辿り着き、

 

直後。

 

ボッカァァァアアアアアンッッッ!!!! と言う派手な爆発音と共に、一方通行の目の前でステーキハウスが爆発炎上を始めた。

 

「………………は?」

 

目の前で起きた信じられない光景に、一方通行はらしくなく完全に硬直する。

今、ここで何が起きたのか全く理解出来ない一方通行がなんとか、なんとか絞り出せたのは、困惑と驚愕に満ち満ちた、彼らしくも無い呆けた声。

 

超絶レアな、何も考えずに出してしまった声だった。

 

パラパラと、数秒前まで店を形成していた木片やガラス破片が飛び散り始める。

 

「ケホ……ケホ……全く! 客になんて物を食べさせる店なんですのここ!!」

 

一方通行が呆気にとられ続けている中、今しがた爆発した店の出入り口の扉があったであろう付近から、店に対する文句らしき文言を零しながら一人の少女が姿を現す。

 

被っていた帽子を右手に持ち、身体のあちこちをパンパンと帽子で叩きながら煤を払う少女は何故か全身から煙を吹き出していて、大雑把ながら身体の煤を払い落とした少女はポフッ、と帽子を斜めに被り。

 

「あら?」

 

と、可愛らしい声を出しながら一方通行の方を見つめた。

 

「あらあらあら?」

 

かと思うと、トトトトッと、可憐さを感じる小走りで一方通行の方へ駆け寄り始める。

彼女が自分の方目掛けて走り始めてから、ようやっと、一方通行の思考能力が回復を始めた。

 

頭を再び働くようになり、店が爆発したこと。そしたら何故か爆発した店から少女が一人実行犯らしき言動を伴って現れ出た事。最後にその少女に見つかってしまったことを一方通行は瞬時に理解した。

 

その事実がどうしてか、一方通行には危険信号を発しているようでならなかった。

彼の本能が、目の前にいる少女に対する危機感を訴えた。

 

関わってはいけない気がする。

目を合わせてはいけない予感がする。

 

「ひょっとしてこのお店に入ろうとしておりました?」

 

ほんの少しばかり一方通行より身長が低いその少女は彼を僅かに見上げ、純粋さが見え隠れする透き通るような声で一方通行にそう語り掛けてくるが、一方通行はこの少女と一緒に行動すると何かとてつもない面倒事が待っていそうな予感がしたのか。

 

「……いや、知らねェな。暴れるのも良いがゲヘナだからって大概にしとけよ」

 

極めて渋い返事で会話を打ち切り、少女との関係を早々と絶つ方向へと舵を切った。

 

帰ろう。

今すぐシャーレに帰ろう。

帰ってシャーレで飯を食おう。

そう言えばミドリを先に待たせているんだった。

別に今すぐ飯を食わなければ死んでしまう訳じゃない。

ミドリに一言謝りつつ、シャーレにあるコンビニで弁当を買ってオフィスで食べよう。

そうしよう。

そうするべきだ。

一刻も早くここから離れるべきだ。

あれに関わるべきじゃない。

 

思考能力が回復してから時間にして僅か一秒、その結論に至った一方通行はそう捨て台詞を残してくるりと身を翻し、来た道を帰ろうとして。

 

ガシィッッ!! と、その左腕を狂人によって掴まれた。

 

カチッッ!! と、反射的に一方通行は掴まれていない右手でチョーカーのスイッチを入れる。

しかし彼の能力は発動しない。その身に反射を宿す事が出来なければ、操作をする事も出来ない。

どこまでいっても、一般人のままだった。

 

カチッ! カチッ! カチッッ!!!

そう分かっていても、彼の身体は何度も何度もスイッチを入れる。

逃げる為に、逃れる為に。

 

これに捕まっては身がもたない。理性ではなく本能がそう訴えていた。

 

「いいえ、私の目は食に関しては一切合切誤魔化せませんわ。空腹ですってあなたの顔にそう書いていますわよ。さあ! こんな下らないお店よりもっと良いお肉料理を提供して下さるお店を知ってますわ! そこに連れて行って差し上げましょう!」

 

目をキラキラと輝かせ、一方通行の左腕を自身の両腕で柔らかく絡め取りながらその少女、黒舘ハルナは満面の笑みを浮かべつつ一方的に自分の意見を述べた後、彼の返事や言葉を聞く事待つ事無く、容赦無しにズリズリと引っ張り始めた。

 

「待てオイ待てって言ってるのが聞こえないンですかァ!? 見ず知らずの人間を拉致ってンじゃねェ気兼ねなく話しかけてンじゃねェ危機感ゼロなンですかテメェはァ!!」

 

ガッ!! ガッガッッッ!! と、引き摺られる身体に負担がかからないよう器用に杖で地面をつきながら、このままでは間違いなく連れて行かれると悟った一方通行、そうはさせまいと道徳的に説得を試みる。

年頃の少女が見ず知らずの男に話しかけ、あまつさえ警戒心を全く抱かない所か好意的に接するのはどうなんだと必死に必死に言葉を重ねるが、対するハルナは一方通行の言葉などどこ吹く風で。

 

ハルナは一方的に語り、

一方的に美味さに自信がある肉料理店へと彼を連行し続けていた。

不気味さを感じてしまう程に曇りなき笑顔を浮かべ、むぎゅっと彼の左腕を両腕と胸中に埋めさせて。

 

「うふふ、楽しみですわ! 私、殿方との食事は初めてですの! さっきの店で食べた料理、私は気に入りませんでしたけど同じ店に入ろうとしたあなたの観察眼は確かな物でしたわ! あなたのお腹! とことん満たして差し上げます!」

 

「いらねェから離せってンだ!!! ナンパなら他所でやってくれませンかねェ俺を巻き込むンじゃねェ頼むから解放しろ解放してくださいお願いしますゥ!!」

 

「さあ! 美食を共に楽しみましょう!  私一押しの素晴らしい所をご紹介しますわ! うふふ、うふふふふふ!」

 

カチカチカチカチッッ!!!

全く話が通じない相手からどうにか逃げようと一方通行は何度も何度も何度も何度もチョーカーのスイッチを入れる。

 

だが、なんどやっても結果は同じ。

どれだけやっても彼に力は戻らない。

 

状況を打破する力を、世界は彼に与えてくれはしなかった。

 

カチカチカチカチカチカチカチッッッ!!

 

「クソッタレがァァァッッッ!!!!! こういう時こそ仕事しやがれミサカネットワークゥゥゥァァァアアアアッッッッ!!!!!!!!!!」

 

そしてとうとう一方通行が理不尽さに絶叫する。

理不尽さを感じているのは突然少女に拉致された一方通行の方なのか、それとも何も悪くないのに一方的に罵倒された妹達の方なのか。

 

両者とも当てはまってそうな状況はしかし、今この場面においてはどちらが正解か突き詰めても何の意味も無く、今一方通行にとって肝心なのはどれだけ拒否権を行使しても、尚ズリズリと引き摺られるように引っ張られていく状況をどうすればひっくり返せるかの一言に尽きていた。

 

だが、どう足掻こうと、どれだけ思考を巡らそうと、彼がハルナから逃げられる可能性は清々しい程にゼロと言う烙印が刻み付けられている。

 

力で敵わず逃げる能力も持たない一方通行は、成す術なく連行される事しか許されている事がなかった。

 

「この役立たずのクソガキ共がァァァァァアアアアアアアアアッッッ!!!」

 

ゲヘナの端まで轟いていそうな声量で放たれた、全てを諦めたかのような絶叫は果たして、しかし肝心の本人達に一切届く事無く、むしろ本人達ひいては司令塔サマに聞かれたら即その場で演算補助を打ち切られ路上に転がる鯉のような出で立ちになってしまうであろう暴言は幸運にも妹達の耳には届かず、その叫びの価値を無に帰していく。

 

一方通行。彼は往々にして女性に振り回される類の人間であり、同時にそうなった場合基本逆らう事が出来ない類の人間であった。

 

この後、彼はハルナに連れられた店にある肉料理に舌鼓を打ち、まあまあ彼女と打ち解けるようになるのだが、それは語られる事の無い話。

 

ハルナと別れ、夕暮れ頃にシャーレに帰った後、オフィスを閉めて出掛けた事で中に入れず、外でずっと一方通行の帰りを待ってたミドリに涙目で問い詰められたり心配されたりするのだが、それも語られる事のない話である。

 

 






話が膨らまない時はもういっそ膨らませずに投降すればいいやと思いました。投稿して投降宣言です。誤字ではございません。なので今回は前回の四分の一程度の文章量です。 少なすぎです!! でも書けませんでした! これ以上は悩んでも悩んでも文字数が悪戯に伸びるだけで面白くはならないと判断したんです! 許して下さい!!

誤字と言えばですが皆さまの誤字報告には凄く助かっております。気付かない所沢山多いです。ありがとうございます。大体書き上がった直後に投稿しているので校正している時間がないんですね……。日曜深夜に書いた物を次の日に校正すればいいのだと分かってはいるのですが。待たせたくないなと言う気持ちがね……あるんです。

と言う訳でこの作品は皆様のお力によって支えられております。本当に感謝しております。

さあ、やってきました私の大本命ヒロイン黒舘ハルナ。何を隠そう初めて引いた星3生徒! 

何と言っても顔の良さが最高。
可愛い生徒は沢山いても『綺麗』や『美人』度では文句なしのNo1だと思います。異論は認めます。食が絡まなければまとも! 絡めば……ゲヘナになります。

そんな彼女が登場して、次回から始まる短編で日常編、ひいてはヒロイン顔見せ編は終了となります。いよいよメインストーリーが始まって行きますね。

私はストーリーを組み立てる時、それぞれの章のラスボス戦とその過程、いわばクライマックスを真っ先に考えてそこに至るまでの道のりを後から引いていくスタイルで書くので、ブレずに進むのではないかなと思っています。思っているだけ。良いの思い付いたらどんどん追加していく欲張りセットなので大体予定通りに進みません。

初期案では一方さんも大人のカードを持たせて、「とある」組を召喚するかとか考えていた時期もあったんですが、協力的にならないorそもそもチートすぎるか実力不足かにしかならなかったので敢え無く没。一方さんは丸腰となりました。

科学サイドの人間が弱いんじゃない、キヴォトス組が強すぎるんだ……。もしくはそれ以上に科学サイドの一部が強すぎるんだ……。極端なんだよ君達……。

次回はお話がきな臭い方向に進みます。それでも日常編です。キヴォトスではこんなのが日常茶飯事! 多分、ゲヘナでは日常茶飯事……!


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