とある箱庭の一方通行   作:スプライター

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一方通行「運び屋退治だァ?」

「そう、ゲヘナからある物を運び出そうとしている生徒を先生に止めて欲しいの」

 

「わざわざ早朝からシャーレにやって来たと思ったら、突然何言い出してやがる」

 

時計の針が九時を指すニ十分前。

一方通行は早朝にシャーレにやってきたゲヘナ学園の風紀委員長、空崎ヒナに寝ている所を起こされ、朝一からそんな説明を受けた。

 

当然、朝に弱い一方通行は彼女の訪問を歓迎せず、寝ぼけ眼で不機嫌極まりない態度を隠すことなく帰れと言いそうになったが、やって来た相手が空崎ヒナであること。そして急を要する相談らしい雰囲気を纏っていたことから、渋々彼女の訪問を受け入れた矢先、結論から先に言い出された。

 

頭が完全に覚醒しきっていない中で早々に話を終えられ残りをこちらに丸投げされても困ると、一方通行はひとまず彼女を来客用の椅子に腰かけさせ、気乗りしない肉体を無理やり叩き起こすべく。眠気覚ましとして冷蔵庫からコーヒーを取り出し、カフェインを体内に摂取しつつ向かいの椅子に座る。

 

とりあえず話を聞く形だけは整えた。

後は聞いていれば自然と頭が働くだろ。等と予想を付けながら一方通行は彼女の言葉を待った。

 

「順番に説明するわ。今、私達ゲヘナはトリニティ総合学園と大事な条約、少しだけ概要を説明するとお互い協力体制を築こうとする条約を結ぶ準備段階に入ってるの」

 

でも……、と顔を僅かに上げながらヒナは言葉を区切る。

クピ……と、一方通行はコーヒーを口につけながら彼女が語った内容を咀嚼しながら次の発言に備えた。

 

トリニティ総合学園。

名前だけは聞き覚えがある学校だった。

 

(トリニティ……。確か羽川や守月が在籍してる所だったか)

 

今から一か月程前、一方通行がこの世界にやって来て直ぐに訪れた最初の仕事に半ば無理やり参加した四人の内、羽川ハスミと守月スズミの二名が在籍している学校の名前だった筈だと彼は記憶を掘り起こす。

 

一方通行がキヴォトスに飛ばされてからそこそこの時間が経過しているが、一方通行は基本的にミレニアムとシャーレしか行き来していないので学校間が抱える特殊な事情等は上辺だけしか知り得ていない。

 

両校が両校を快く思っていないのは知っていたが、それを打開する動きがあった事までは知らず、同時にその条約の件でゲヘナを取り締まるトップがわざわざ早朝に、しかも一人で訪問してきた事に途轍も無いきな臭さを覚えた。

 

どう考えても、相談だけで終わる展開ではない。

相談だけなら、こんな時間に来る筈がない。

 

間違いなく、何かがあるなと予想を立てる。

 

「でも、ゲヘナとトリニティは昔から犬猿の仲で、理由あり無しに関係無くトリニティを忌み嫌っているゲヘナの生徒は少なくない。その中の一部過激派が条約を結ばせたくなくて行動を起こした」

 

コトッと、ヒナは懐から小さなプラスチック製の容器を取り出し、机の上に置いた。

中には、赤い粉末らしき物が物が半分程度入っており、彼女はそれを一方通行に手渡す。

 

「服用した子は気分が高揚し、理性のストッパーが外れ、衝動的に行動するようになってしまう劇薬。これがつい最近、ゲヘナのある部室から発見された」

 

ヒナから小瓶を受け取った一方通行はそれを眺め、容器を数回揺らした後、顔をしかめた。

どうやら、事態は一方通行が想像しているよりもさらに面倒を極めているらしい。

 

つい数日前にカイザーコーポレーションの闇の一角を覗いてからの今度は学校内からの看過できない問題。

簡単に違法薬物を作り上げてしまう生徒達のモラルの低さと、どうも不穏なイベントが立て続けに起こり過ぎなキヴォトスの毎日に心中で毒づく。

 

「当然それらは没収、部室も使用禁止の措置を取らせて貰ったのだけど、私達がこんな物を作ってると気付いて部室を制圧した際、一部の生徒の逃走を許してしまったの」

 

これが昨日の話。と、ヒナは頭を左手で支えながらしんどそうに続ける。

話を聞く限り、どうやら彼女はこの時間に至るまで徹夜で逃げた少女の捜索を風紀委員総動員で続けていたように思える。

 

それでも見つけられなかった事で、最後の手段としてシャーレに頼ったのだろう。

 

「彼女達の目的はこれをトリニティでばら撒くこと。そしてクスリはゲヘナ側から持ち込まれた事をトリニティ側が大々的に発表する事。そんなことをすれば」

 

「条約の凍結、あるいは破棄は免れねェ。最悪学園同士でいざこざが発生する可能性だってある」

 

ヒナの言葉を奪い、それらが起きた際の最悪の結末を予想する。

ええ、とヒナは肯定し、彼の仮定を否定しない。

 

朝から聞くにはあまりに重い話だった。

 

このままこの事件を野放しにすれば二校を結ぶ条約とやらが締結されないだけでなく、最悪ニ校同士による学園戦争が始まってもおかしくない。

そうなればキヴォトスがどのように変化するか、考えるだけでも億劫だ。

 

キヴォトスの中でも特に影響力を持つ三校の内の二校であるゲヘナ、トリニティが戦争を始めたらどうなるか分かった物ではない。

 

二校の間だけで収まる話じゃ無くなる可能性だって大いにある。

それこそ、キヴォトス全体を巻き込んでもおかしくないような問題に発展する事だってあるかもしれない。

 

「本来ならこんな事件成立する筈がないんだけど、トリニティ側もこれに協力しようとしている勢力が存在するの。あっちはあっちでゲヘナを毛嫌いしているから……」

 

「利害が一致しているからこそ、突飛な作戦が現実味を帯びたって訳か」

 

厄介だな。と一方通行は素直に現状を整理し眉を潜ませた。

段々と話は見えてきた。

 

だが、それでもまだまだ疑問は残る。

 

「素朴な疑問だが、俺が一枚噛まされる理由があンのか? 条約を結ぼうって事になってンなら少なくともトリニティとの仲は今の所悪くねェ筈だ。あっち側のトップと空崎が話を付けて互いに協力して解決する方向に進む事は出来そォに見えるが」

 

「それが難しいの。トリニティは生徒会長が三人いて、それぞれ担当している派閥が違う。その全員と連絡を取って協力体制を作るには、今回の件はあまりに時間が足りなさ過ぎた……加えて私達が直接トリニティに赴いて話を付けたくても、今この段階では余計な緊張を他の生徒に与える事になるから……」

 

俯き、申し訳なさそうに彼女は現状を語る。

ここで彼女がどうしてシャーレを頼って来たのかに納得点が出来た。

どのような理由があるにしろ、空崎ヒナが両校共に緊張状態に入り始めたこのタイミングでトリニティを訪れるのが問題になってしまうのだとしたら、打開策としてシャーレを頼るのは間違いではない。

 

むしろ、残された数少ない選択肢の中で最も有益と言って良いだろう。

 

シャーレならば、ゲヘナだろうがトリニティだろうが合法的に足を運べる。

クスリの取引を成功させてしまう最悪な展開になったとしても、一方通行率いるシャーレのメンバーでさえいればどこでも自由に行動、戦闘を行使出来る権利を用いて、反感を買ってしまうことを承知で強引ながらギリギリ事態を収束出来る方法が取れなくもない。

 

そもそもの話、彼女が訪問する程度で問題になってしまうのならどちらにせよ条約が成立するのは難しい。

それを解決する為にも、ゲヘナとトリニティで話を擦り合わせをする為にも、今ここで余計な火種を生む要因は早急に摘み取るべき事柄なのだ。

 

出来れば、人知れずに。

トリニティ側に、悟られずに。

 

「次だ。クスリの受け渡しはトリニティで行われるで間違いねェンだな?」

 

「……ごめんなさい。確約は出来ない。トリニティ側の条約反対勢力がゲヘナ内に侵入して秘密裏に取引してトリニティに持ち帰る可能性もある」

 

「じゃァもうこの時点で取引が終わっている可能性もある訳か」

 

「私達風紀委員が総出でゲヘナの外へ出られる目ぼしい場所は押さえてて、現在目立った動きは報告されていない。ターゲットはまだトリニティの生徒と接触していないし、ゲヘナのどこかに潜伏していると見て間違い無い筈」

 

聞いた限りでは時間の猶予はまだあるように思えた。

不穏な点があるとすれば、そこまでしていてもまだターゲットである生徒を見つけられない部分か。

 

未来塾の件でゲヘナに赴いた時に一方通行が感じた事の一つに、ゲヘナは治安の悪さから相当目立つ事でもしない限り大抵の悪事は悪事としてみなされずスルーされてしまう傾向があるという物がある。

よっぽど不審な動きをしていない限り、日常として処理してしまう危うさがあそこには跋扈している。

 

あまりにも非日常が日常過ぎて、風紀委員でも把握しきれない程に。

潜伏するのは、恐らく簡単だ。

 

「逃げた奴等の顔とかは分かンのか」

 

「把握してる。逃げたのは『科学部』の三人。顔も割れてる」

 

パサっと、机に生徒の顔写真が三枚机の上に広げられる。

三人共あまりパっとしない顔だが、一方通行はその顔を即座に記憶する。

 

忘れる事はないだろう。

 

「で、俺はどう動けば良いンだ」

 

「先生にはまずゲヘナであるチームと合流して欲しい。私達を嫌っているチームだから直接依頼はしていないけど、彼女達ならある程度ゲヘナで隠れやすい場所を把握している筈。彼女達と協力してトリニティ側からの接触が来る前に、クスリの奪取又は三人の捕獲をお願い出来る?」

 

つまり一時的に協力者をシャーレとして扱え、という事だった。

これならターゲットを取り逃がしトリニティに踏み込まざるを得ない事態になっても、そこで戦闘行為に発展してしまっても、ある程度までならシャーレの部員だからで誤魔化せる。

 

だが、全員が全員ゲヘナ生だと流石に信憑性に欠ける。

余計な悪感情を抱かれてしまうかもしれない。

 

それを防ぐ為には出来れば一人、二人ぐらいは他校からの力が欲しい。

 

「全員ゲヘナだと怪しまれる懸念があるな。その懸念を消す為ミレニアムから本物のシャーレ部員を引っ張りてェ。十五分で良い。待てるか?」

 

「大丈夫。そのぐらいなら余裕はある」

 

悪ィな。とだけ返し一方通行はすぐさま携帯を取り出し連絡を取り始める。

 

早急の用事に対応できる奴で、

かつ状況を即座に受け入れた上でシャーレにすぐ足を運んでくれる決断性が高い少女が必要だと、いくつかの条件を整え、それらが該当する少女と言えば……。

 

『……、……。はい先生。早瀬です。おはようございます。こんな朝早くにどうしました? て言うかまだ九時にもなってないのに起きてるなんてまさか徹夜とかしてるんじゃ──』

 

「ユウカ、今すぐシャーレに来い。説明は後でする」

 

『は!? ユッッ!? あ、ぇっあッッ!?』

 

「頼ンだ」

 

『…………っ、~~~~~~ッッッ!! もう! 分かりましたッ! 今から向かわせて頂きますッッ!!』

 

十分で到着します! と、宣言されて通話を打ち切られる。あの様子だと駆け足でやってくるだろう。

動揺したり怒鳴ったりと相も変わらず朝から喜怒哀楽の感情が激しい奴だなとユウカの事を評しつつ、一方通行はヒナの方へと視線を戻し、

 

「……? どォした?」

 

「……別に。なんでも……ない」

 

どういう訳か先程までの真剣とした表情はどこへやら、やや落ち込んだ顔をヒナは見せていた。

心なしか声もしょぼくれている。

今の一瞬で何か不満点でもあったのだろうかと一方通行は不審に思うが、特に何かおかしな事があった場面は思い当たらない。

 

なので一方通行は、一分一秒でも早くゲヘナに向かって欲しいであろう彼女の気持ちを踏まえ、自分が出した提案自体が不満だったのだろうとヒナの不機嫌さを推測した。

 

「ユウカを呼ンだのは最悪を回避する為だ。トリニティとの接触及び取引の完了が起きねェのが理想だが現実はそう甘くねェ。あいつがいること自体が免罪符になってくれる」

 

「そう、ね……うん。そう。分かってる。先生の意図はちゃんと分かってる」

 

歯切れが悪いな。と一方通行は一層ヒナの口調がしおらしくなってしまったことに頭を捻る。

どうもヒナの思考が今回の件とはやや離れた場所にあるように思えて仕方ならない。

 

仕方ならないが、彼女の思考方向が突然明後日の方向に向いてしまうような発言をした覚えもない。

 

それ程までユウカが来るまでの時間を待つのが不満なのだろうか。いや不満ではあるのだろう。それに足る理由はある。一刻を争う事態であることは間違いない。

しかしここまで露骨に引っ張る必要性も無いのではないかと思わずにもいられない。

 

どちらにせよ、もうユウカは呼び出してしまった。この選択はもうひっくり返せない。

何度考えても、今回の作戦にミレニアム生徒の存在は必要不可欠だ。

 

ゲーム開発部の面々と違い彼女はしっかり者なのでゲヘナで合流する事も考えたが、だとしても彼女を単身ゲヘナに呼び出すのも憚られる。

時間は掛かるが、ここで彼女を待つのが最善だろう。

 

判断は間違って無い。と、一方通行は己の選択は正しいと、自分自身にそう言い聞かせる。

どうして言い聞かせているかと言われれば、目の前にいる少女が露骨に落ち込んでしまっているからだろうか。

 

(なンなンですかァこの気まずさはァ!? 俺何か悪い事でも言ったかァ? 言ってねェよなァ?)

 

自分で自分に疑問を投げかけ、自分で否定し自分で解決する。

しかしそれで目の前の結果が変わる訳でもなく、結果余計モヤモヤする感情を覚える一方だった。

 

気まずい雰囲気がオフィスを包む。

先程までの緊迫感に包まれていた空気がいつのまにかガラっと変わってしまっていた。

 

グビッ!! と、苦し紛れに既に飲み切った缶コーヒーを煽る様に喉へ流し込もうとする動作を見せる。

 

飲むフリをし続けながら、誰かこの状況を何とかしろと一方通行とヒナしかいないこの場で、いる筈の無い第三者の助けを願う。

 

彼らしくない無茶な神頼みはどういう偶然か、時計の針が九時を指した時、突然シャーレの扉がガチャッと開いたかと思うと

 

「おはようございますですわ先生! ……あら?」

 

と言う一人の少女の元気な発声によってある程度叶えられた。

新たな問題の発生と言う犠牲と引き換えに。

 

やって来たのは、銀髪に紅色の瞳が特徴の、軍服のような出で立ちをしている少女、黒舘ハルナ。

数日前に出会い頭から早々と、そして散々に一方通行を振り回した少女である。

 

ああ、そういえば今日はコイツだったな。と、朝から叩き起こされ、用事を聞かされ続けていた一方通行はすっかり今日の『担当』は誰だったかを失念していた。

 

なるほど、彼女も朝九時ピッタリにやって来るタイプなのか。と、現実逃避に近いどうでも良い事を考えていると。

 

「先生」

 

静かに冷たい声が一方通行の耳を叩いた。

声の様子から察するに、どうやら彼女は落ち着きを取り戻したらしい。

取り戻し過ぎて怖さすら放ち始めているのが難点だが。

 

「シャーレはテロリストも迎えているの?」

 

「来る物を拒ンでねェだけだ。問題を起こしたら対処はする」

 

「放って置いたら今すぐ問題を起こすわ。具体的には一分後には」

 

「聞き捨てなりませんわね。まるで私が歩く人間爆弾みたいじゃありませんか」

 

「違うの? そう言われる様な実績は沢山積んでる方だと思ってるけど?」

 

「美食に関する実績なら、随一には違いありませんわね」

 

グイッッ、と到着早々会話に割り込みながらハルナは笑みを崩さないままヒナに喰って掛かり、そのまま二人はバチバチと火花を散らしながら言葉による応酬を始めた。

 

そう言えばこいつは出された食事が気に入らないという理由で店を爆破させてしまうトンデモ女だったなと、忘れることの出来ない初対面を一方通行は思い出す。

風紀を取り締まる側でありかつ委員長を務めているヒナとは折り合いが悪いのは考えてみれば当たり前の事だった。何なら何度も交戦経験があるのではないだろうか。

 

つまり、何度も彼女を相手にしなければならなかった話にもなる。

心底、心底一方通行はこの瞬間ヒナに同情した。

懲りない相手に何度も何度も事件を起こされるのは、相当な心労であろう。

相手に悪気がほぼ無いのも悪質だ。

 

話した事があるのは一日のみ。

それも数時間の間だけだが、一方通行はハルナと関わった中で気付いた事がある。

彼女の中にあるのは純粋さが占めており、欲求に素直に従っているだけなのだと。

 

要するに最も悪質なパターンだった。

純粋に純粋に彼女の性質は質が悪い。

 

「容疑は沢山溜まってるわ。お望みならここで発表会を行っても良いのだけど」

 

「過去の事をいつまでも引き摺っていると大人になれませんわよ」

 

「どの口が……ッ!!」

 

ハルナを鋭い眼光で強く睨みながらグッッ!! と、ヒナの握り拳に力が入る。

それを見たのか、ハルナの笑みが一段深く、暗くなる。

 

先程までとは違う緊迫感がオフィス内を包み始めた。

一触即発。正にその言葉がふさわしい雰囲気がヒナとハルナの間で漂い始める。

 

「どォでも良いがここで暴れンなよ。暴れたら即座に二人揃って叩き出す。ンで、以降二度とシャーレに出入りする事は禁止だ」

 

このままだといつ二人が銃を抜き破壊の限りを尽くし始めてもおかしくない。

 

問題児集団の集まりであるゲヘナを一手に取り締まる立場である風紀委員長と、その風紀委員長を相手に一歩も退かずに相対している美食狂い。

 

二人の実力は知らないが、相応に高いであろう事は間違いない。

一方的な戦いになるならまだしも、拮抗されては溜まった物ではない。

オフィスの物が全て壊される恐れがある所かほぼ確定的に何もかもがおじゃんになってしまう。

 

勿論一方的な戦いであってもここで戦闘される事自体は御免なのだが。

 

なので、一方通行は二人が事を起こす前に予め釘を刺した。

自分の心境を分かりやすく伝える為に低い声で発した警告は、彼の思惑通り伝わり、両者の間で渦巻いていた緊張の糸がパツンと途切れる。

 

「ぅ、ごめんなさい先生……。ここがシャーレであることを失念してた……」

 

「シャーレじゃなくても暴れンな。まだ何もやらかしてねェンだからよォ」

 

しゅん……、とまたもや申し訳なさそうにヒナは顔を俯け一方通行に謝罪する。

見てるとこちらが悪い事をした気になるような表情で謝るヒナに一方通行は、分かれば良いとだけ告げ、それ以上の言及はせず、声も元の調子に戻した。

 

(っァ? もォこンな時間か。そろそろユウカが来る頃だな)

 

ヒナとハルナのただならぬやり取りに意識を集中しすぎていたせいか、ふと時計を見た一方通行は、気付けばそこそこの時間が経過していた事を知った。

 

時間的にはそろそろユウカが到着してもおかしくない。

ならいつ彼女がオフィスに入って来ても良い様にゲヘナ出発への準備を進めておくかと、一方通行はソファから立ち上がろうとして。

 

「うふふ、先生は私の味方、ですわ!」

 

ギュッ! と、一方通行の左腕がハルナの両腕に絡め取られた。

同時に、彼の左腕に女性特有の二つの膨らみから成る柔らかい感触が伝わる。

 

それは大きければ大きい程一般的な異性ならばドキリと強制的に意識せざるを得なくなる、悩殺的必殺技の一つであり、彼女はその中でも大きい方に位置する少女ではあったのだが、相手が一方通行なのが悪かった。

 

彼はハルナの行動に対し一瞬も動揺する事無く、相変わらずよく人の手を奪う人懐こい女だなと、そんな感想を抱くだけだった。

 

しかし、例え腕を挟まれた当事者本人がそう思っていても、第三者は一方通行がそんな感想を抱いているとは思わない物である。

 

ビキッッ!! と、その光景を間近で見させられたヒナのこめかみに大きな青筋が浮かぶ。

それはハルナが放った火に油を注ぐような余計な一言が原因だったのか、はたまたハルナの誘惑行為に等しい行動が原因だったのか定かではない。

 

しかし、彼女がキレたという事実の前には最早そのどちらであろうが関係ない物だった。

 

「先生、忠告通り彼女は爆弾だった。今すぐ排除させて」

 

「ただ腕を組んでいるだけなのに酷い言われようですわ」

 

「それが問題なの……! 先生だってイヤがってるに決まってる……! なのにそんなに押し付けてっっ!!」

 

「あら、もしかして嫉妬ですの? 風紀委員長さんも案外可愛い面も持ってるんですわね。うふふ、でもその小ささじゃあこの満足感を先生に与える事は出来ませんわね。だってイヤならとっくの前に先生は振り解いている筈でしょう?」

 

「それが今生最後の言葉ね。分かった」

 

スッッと静かに、そして威厳さをこれでもかと醸し出しながら、ソファの下に置いていた銃を拾い上げてヒナが椅子から立ち上がる。

 

「喧嘩すンなっつっただろ。黒舘、いい加減お前も離せ。ンでとりあえず謝っとけ」

 

再び舞い戻ってしまった喧嘩直前の雰囲気。尤も今回は両者ではなく一方的にヒナから出されているだけだが、先程よりも歯止めが利かなくなってそうな空気に一方通行はヒナとハルナ、両方にそれぞれ声を掛ける。

 

良く分からないが、ヒナが怒り出した原因はハルナが自分の腕に絡みついているからだと推測する。

ならば、それさえなんとかすればとりあえずこの場は丸く収まってくれる。

 

最後の念押しでハルナに一言ごめんなさいと謝らせておけば、ヒナも怒りの矛先を収めてくれて、ハルナも彼女を煽るような言動を控えるようになり、結果厄介事がこれ以上は増えはしないだろうと、一方通行はその願いを込めてハルナに指示を出すが。

 

天は、一方通行に何一つ味方をしなかった。

 

「先生!!! 突然呼び出してどうし……た……ん……で、……」

 

非常に、とてつもなく非常に間の悪いタイミングで、バン!! と、勢い良くオフィスの扉が開き、駆けこむようにユウカが叫びながら姿を現し、一方通行の姿と置かれている状況を見るや否や徐々に語気を弱めて行った。

 

「………………、へぇ」

 

焦っていた表情が、氷のような表情へと変わり、最終的にはうっすらと笑みが浮かび始める。

そしてユウカはゆっくりと、そして凄みのある声で一方通行に語り掛ける。

 

「先生? ちょっとお時間よろしいですか?」

 

少し前にも怒ったユウカに同じこと言われたな等とどうでも良い事を考えながら、ここにいる自分以外の三人が三人共違う理由で面倒さを放ち始め、にっちもさっちもいかない状況になったことに対し疲れすら覚えた一方通行は、半ば諦める様に。

 

「もォ好きにすればいい……」

 

とだけ呟き、ギブアップ宣言を放った。

 

一方通行。キヴォトスに転移して以降、そこそこの頻度で少女に振り回されるようになった哀れな学園都市第一位である。

 

 

────────────────

 

 

「なるほど、だから私が呼ばれたんですね」

 

「あァ。全員が全員ゲヘナの生徒だと後々何か問題が発生した時に逃げ道がねェからな」

 

ユウカがシャーレに飛び込んできてから十分後。シャーレを出てゲヘナに向かう道中にて、一方通行は後から来たユウカと同行を申し出たハルナに情報を共有しながら今後の立ち回りについての考えを纏めていた。

 

ハルナがこの作戦に参加することをヒナは大いに渋ったが、戦力は一人でも多い方が良いだろうと言う一方通行の提案を最終的に受け入れ、先に待っているであろうチームと合流する中の一人として加わった。

 

「さっきも言ったけど、私、というか風紀委員とは折り合いが悪いチームだから私は作戦に参加できない。他の風紀委員と同様に、トリニティに繋がる道を抑える方に回る」

 

「つかさっきのゴタゴタで聞きそびれたンだがよォ。そのチームってのは何の集まりなンだ?」

 

思い出したくもないユウカの問い詰めとハルナの煽りとヒナの怒りが混ざり合った地獄の絵面によって結局シャーレ内では中断され続けていた事を、全員がある程度落ち着いたタイミングで一方通行はヒナに質問する。

 

今回の作戦の肝を握るチーム。

風紀委員を嫌っていると言う所から十中八九ゲヘナの問題児集団なのは間違いないだろうが、その上でヒナにこういう時に役に立つと目を付けられているのが誰なのか純粋に気になるのが一つ。

もう一つは、彼女達がどの方向性で危険なのかを見極める必要があった。

 

「そうね。彼女達は一言で言うと、悪に憧れるアウトロー集団って感じなのかしらね」

 

「そりゃまた厄介な憧れを抱いた連中だなァ」

 

「そうね、厄介と言えば厄介ね。まあ危険度で言えばそこの黒舘ハルナが所属する『美食研究会』に比べれば全然高くはないのだけれど」

 

彼女が言うにはセコい。ということだった。

そのセコさが隠れた生徒を炙り出すのに使える。とも。

 

「名前を『便利屋68』金を貰えればなんでもするがモットーの四人組が立ち上げた、企業の真似事をしている部活よ」

 

 

 

 







日曜投稿のが文字数少なかったので今週は二話投稿すべくちょっと頑張り。


展開はブルーアーカイブですがストーリーの根本は「とある」っぽさを意識しています。それでもキャラクターがキャラクターなのでブルアカ色が多いのですが。

シリアスにしようと思っていたのにハルナが一人絡んだだけでこの有様。次回これどうなるんですか? 私まだ構想浮かんでませんよ? 何ならユウカが登場する予定ゼロだったのに突然生えたんですが何ですかコレ??


まあ、面白ければヨシ!!!!


タイトルが往年の2chSSっぽい!! 一度やりたかった!!
日常編だからこそ出来る暴挙!
でも台本形式にする度胸はなかった。というか書けませんでした。

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