とある箱庭の一方通行   作:スプライター

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それぞれが辿る道

 

 

 

歓声が、響いていた。

右から、左から、前から後ろから。

 

その原因は、少女達が持ち込んでいた携行ミサイルが先生がいたと思わしき場所で命中した為に起きていた。

先生がいたビルの三階で、戦闘音が微かに聞こえ続けていた三階で、その全てを吹き飛ばす程の轟音と共に三階部分が炎上を始めた。

 

疑いようがなかった。

疑いたくても、否定したくても、出来なかった。

 

ユウカやハルナは、分かった。伝わってしまった。

あそこに先生がいたのだと。

あの爆発に、間違いなく巻き込まれてしまったのだと。

 

 

数多の少女達の叫びが、ユウカやハルナ、便利屋達の耳を叩く。

何を言っているのか、声がバラバラで正確には聞き取れない。

 

だが、

 

「やった! 先生を殺せました!!!」

 

「これで条約は反故です! 私達の勝利です!!」

 

「見て下さい! 他のフロアも火が回ってます! あれでは絶対に助かりません!」

 

そんな風に叫んでいると思わしき声を拾う事にだけはどうにか成功していた。

 

ビルのフロアを包む火は、三階だけでなく二階や四階にも及ぼうとしていた。

それを見て、少女達は悲しむ事もせず、ただひたすら喜んでいた。

 

爆発で吹っ飛ばされたビルに乗り込んでいた少女達を気にかけぬまま、

あちこちの窓をかち割り、気絶したまま吹き飛ばされて行く少女達を気にも留めぬまま、

 

多大な犠牲を払った事に目もくれず、もぎ取った勝利に、ひたすら酔いしれていた。

その少女達の声など聞こえないかのように便利屋達は、燃え盛るビルを見つめ固まっていた。

 

なんで……と、ハルナはギロリとトリニティの少女達を睨みつける。

どうして……と、ユウカは力が抜けたようにドサリと膝を突く。

 

なんで彼女達は、人殺しをしておいて笑えるのだ。

どうして先生が、殺されなくてはならないのだ。

 

「さあ皆さん、ここで撤退も良いですがこの際です。全員殺してしまいましょう。その方が復讐心を煽れます。都合の良い事にミレニアムのセミナーまでいらっしゃいますからね。戦争の切っ掛けとするには十分魅力的な存在と言えるでしょう」

 

それを合図に、この場全体を覆っていた歓声が鳴りを潜め始める。

代わりに聞こえ始めるのは。その号令に同意する声と、再び銃が持ち上げられる音の二つ。

 

狂っている。

先生の言った通り、彼女達は夢に踊らされ、戻れない程に狂っている。

 

……止めなくてはならない。

先生がそうしたいと戦ったように。

私も、それに準じなければならない。

 

それが、ユウカを突き動かす力となり、

ハルナを立ち上がらせる、原動力となる。

 

ユウカはサブマシンガンを、

ハルナは狙撃銃を。

 

それぞれ構え、徹底抗戦の意思表示をする。

 

その様子を見た、号令をかけているリーダーらしき少女は、立ち上がった二人を見てパン! と手を大きく叩き合わせる。

 

「良いでしょう! あなた達が立った二人でどこまで抗えるか見物です! さあ皆さん! 戦闘の再開といきま」

 

ガンッッッ!!! という重たい銃撃音が刹那、空気を切り裂き、少女の頭に激突した。

 

再開と行きましょう。そう言おうとした彼女は、その言葉を最後まで言い切る事が出来ず、側頭部に受けた弾道のまま、文字通り真横に吹き飛んで行く。

 

全員が、その様子を目撃した。

 

便利屋も、

トリニティの生徒達も、

ユウカも、ハルナも。

 

少女が吹き飛んで行くのを見た後、弾丸が飛んで来た方向に視線を向け。

 

「「「「「ッッッッッ!!!!!」」」」」

 

例外無く、この場にいた全員が絶句した。

 

少女達が見上げたのは、とあるビルの方向だった。

先程大爆発が発生した、先生が突撃していったビルそのものに目線を向けていた。

 

そのビルの。先生が割った窓部分から燃え盛り続ける炎を物ともせずに堂々とした佇まいでこちらを見下ろす少女がいた。

 

花柄が至る所にあしらわれた黒い着物。

スリットの入った短いスカート。

そして、狐の面を被る少女は、言葉も発さず。何も動じず、

 

ただ淡々と、トリニティ生目掛けて小銃を撃ち放っていた。

ガンッッ! ガガッッ!! と、連続的に射撃音が鳴り響き、同時、次々と音と連動する様に少女達が薙ぎ倒されて行く。

 

そして現場は、忽ちにして阿鼻叫喚の地獄絵図へと変わり始めていた。

 

「さ、災厄……ッ!!」

 

ポツリと、誰かが呟く。

 

誰も言い出さなかったその言葉を、

言い出したが最後、それが襲って来たことを自覚してしまうが為に言わなかった言葉を。

 

しかし、恐怖に負けた少女が、心折れたように零し始める。

面を被る少女の名前を。

自分達に降りかかり始めた、厄災の名前を。

 

「災厄の狐、狐坂ワカモの襲撃ですぅうううううっっっ!!」

 

「い、嫌っっ何でこんな場所にあんな化け物がッッッ!! あ、グッッ!?」

 

叫ぼうとした少女が撃ち抜かれる。

それが更にこの場にいるトリニティ生達の騒乱を呼び起こしていた。

 

その中でも冷徹に銃弾は放たれ続ける。

一発、乾いた音が響く度に一人、意識を失っていく。

 

人数が少しずつ減っていく中、少女達は多種多様の動きを見せる。

逃げ惑い始める者、応戦を試みる者、その中でもまだユウカ達を狙おうとする者。

 

だが、統率の取れていない状態ではどれもこれも有効に働いているとは言えず、全員が全員単独行動していると言っても過言ではない今、彼女達の行動は何の意味も生み出さない無価値な物にしかなっていなかった。

 

悲鳴が重なり始める中、そのまま何度か射撃を続けた彼女は、何かの頃合いかと判断したのか、背中に担いでいた対戦車ロケット弾を徐に持ち出し始める。

ワカモが背中から何を持ち出して来たのか、それに気づいた少女達が慌てて逃走を始める前に。

 

ゴガァアアアアンッッ!! と、ワカモが担いでいた対戦車用ロケット弾が人間の群れ目掛けて容赦なく発射され。着弾点で十数人以上を巻き込んで大爆発を起こした。

 

吹き飛んでいく少女達。吹き飛んだ少女達と衝突してダメージを負う者達があちこちで発生する。

俄然パニックが彼女達の中で次々と巻き起こり、何も対応出来ずにまごついている間にまた次々と狙撃が始まる。

 

戦況は狐坂ワカモ一人の乱入であっと言う間に大混乱へと陥っていた。

その混乱は、さらに拍車が掛かることになる。

 

ダッッ!! と、ワカモがビルの上から飛び降り、彼女達と白兵戦を仕掛け始めた事によって。

 

「ウフフフフフッ」

 

仮面の奥で笑いながら、ワカモは一人暴れ始める。

トリニティ生が大勢集まっている場所へ走り寄り、散弾銃を武器にしていたトリニティ生を全力で正面から蹴り抜き、重い衝撃音と共に吹き飛ばしながら散弾銃を奪うと、クルリと優雅に踊るよう身体を半回転させると、その先にいた至近距離にいる群れに対して次々と発砲を繰り返す。

 

二発。

三発。

四発。

 

散弾銃の弾が尽きるまで群れに対し射撃を続け、大勢の少女達を食い散らかし終わると、使い終わった散弾銃を興味無さげに放り投げ。また自前の小銃で一人、また一人と的確に撃ち抜いて行く。

 

その強さは正に鬼神の如きであり、彼女の表情が全く窺い知れないのも相まって、ワカモがここで敵対しているという状況だけで、少女達の恐怖を増長させていく。

 

だが、彼女はそんな少女達の思いを汲み取ったりはしない。

厄災の狐。そう呼ばれる事そのものを体現するように、少女達に災いを振り撒きながら彼女は前進する。

 

拳で、脚で、銃で、敵の武器で。

 

殴り飛ばし、蹴り抜き、吹き飛ばし、立ち待ってくる少女を、背中を向けた少女を次々に気絶させながらワカモは前方目掛けて走り続ける。

 

二人の方へと。

ユウカとハルナが立っている方へと、彼女は敵を蹴散らしながら一直線に進んでいた。

 

「来るわよハルナさん……!」

「ええ……ですが……ッ!」

 

何故彼女がここにいるのか。

何故彼女があのビルにいたのか。

何故彼女がトリニティと敵対しているのか。

 

様々な謎が包まれる中、二人はある選択を迫られる。

それは、徐々に近づいて来るワカモの敵対対象に自分達が入っているか否かの判断。

 

敵だと思われてるなら応戦しなければ確実に葬られる。

そうでないなら彼女が近づいて来る理由を知らねばならない。

 

だが、そんな時間がある筈もない。

 

一瞬、二人は顔を見合わせる。

ワカモと戦う為武器を彼女の方に向けて構えるか、

それとも彼女と共にトリニティと戦う為武器を構えない選択を選ぶのか。

 

「セミナーを狙え! 災厄の狐に構うな!」

「ダメです逃げましょう! 刈り尽くされます!」

「ここで逃げても計画は達成されてます! 大人しく退くべきです!」

 

あちこちから聞こえてくる統率のとの字も取れていないような有象無象の言葉が次から次へと入ってくる中、ワカモが目前まで迫って来た中、選ぶ時間がやって来たと二人はコクンと頷き、

 

……、武器を構えない選択を選んだ。

狐坂ワカモと戦わない選択を選んだ。

 

「なるほど……」

 

ポツリと呟く声が二人の耳にも十分聞こえる程に近づいた距離で、ワカモが何かを納得したかのようにそう口走り、二人の眼前までやって来ると。

 

「今すぐ離脱する方全員を乗せてあそこで伸びてる三人の所に集まって下さいな」

 

立ち止まり、二人にしか聞こえない声で彼女はそう言い放った。

加えて。

 

「先生はそのタイミングであなた達と合流します」

 

「「ッ!?」」

 

どういう事。そう咄嗟に聞き返そうとするも、既に彼女は二人から離れ、戦場を作り出していた。

聞き返す事は出来ない、そう理解した二人は咄嗟にもう一度顔を見合わせ。

 

「車を動かしますわ」

 

「私は便利屋達を連れて気絶した科学部三人の所で待ってる」

 

擦り合わせを行い、二人は同時に別方向へと走り出す。

邪魔をしてくる少女だけはサブマシンガンで軽くいなしながら、ユウカは未だビルの爆発から立ち直れていないアルと、そのアルを何とか立ち直らせようとする三人がいる場所へ向かい、苦戦してる三人の中に強引に割り込みアルの肩をグッと掴むと。

 

「行きますよアルさん! ここから離脱します!!」

 

説明一つせず、結論だけを述べて強引に彼女を連れ出し始めた。

 

「な、なっっっっ!? まって、まだ先生があそこにっっっ!!」

 

「三人も早く! ハルナさんが乗って来た車を科学部が倒れてる場所まで引っ張って来るわ! これ以上の長居は無用よ!! 面倒事に巻き込まれたくないなら来て!!」

 

言葉による抵抗を無視しアルを引っ張りながらユウカは三人にそう言い放ち、そのただならない様子と強引さにカヨコ、ムツキ、ハルカの三人は素直に彼女の意思に従い始める。

拾わなければいけない少女達を拾ったユウカが良し、と歩き出そうとする。

 

そこへ。

 

バッッ! と、銃口を向けて彼女の行動を阻害しようと、トリニティの生徒が一人、ユウカの前に躍り出る。

 

「だ、ダメです! セミナーであるアナタを逃がしはしませ――」

 

「邪魔ッッ!!」

 

だが、その願いは一瞬たりとも叶わなかった。

 

ゴッッ。と、目の前に立ち塞がり妨害を仕掛けてきた相手にユウカはサブマシンガンのグリップ部分を頭部目掛け、鬱陶しそうな声を上げながら真横に振るう。

哀れにも前に出た少女はユウカの怒りに委縮し、そのまま頭部を横殴りされ気絶の憂き目に会う。

 

そんな鬼のような所業を繰り出したユウカが逃走の準備に入った事に気付き、倒された少女に続くよう妨害を仕掛けようとした複数人がいるが、その少女達は全員。

 

「しつこいッッ!!」

 

視線だけで人を殺せそうな程に睨みつけながら怒鳴るユウカが容赦なくサブマシンガンから弾丸の雨を浴びせた事によって一人残らず叩き伏せられる事になった。

 

その後、ユウカは目の前には敵なんか誰もいなかったかのように前進を続ける。

 

何あれこわ……。

怒らせたらダメなタイプだねあれ。

ひぃぃぃ……魔王です魔王っっ。等と言う失礼な言葉が後ろにいる三人から投げかけられるが全部彼女は無視。

 

そうしてユウカはハルナと擦り合わせた気絶しているゲヘナの生徒三人の場所へ辿り着くと。

 

「良いタイミングですわ、バッチリですわよ!」

 

時を同じくして、彼女も現場に到着した。どうやら車も無事なようだった。

二人に残された時間は少ない。自分達が逃亡を図ろうとしているのは流石にバレているだろう。

 

ユウカはムツキ、カヨコ、ハルカと協力して伸びている科学部の三人をさっさと車内で積み上げるように運ぶと、未だ呆けているアルを助手席に乗せて自分達は後頭部座席に乗り込んでいく。

 

その、最中。

空気が爆発してるような音がどこからか響いた。

少女達の悲鳴や叫びが世界を支配し続けているこの場所でそれを聞き取れたのはユウカとハルナの二名のみ。

 

運が良かったのか、はたまたそれが二人の運命なのか、音が聞こえて来たと同時、二人は示し合わせたように空を見上げ。

 

「「ッ! 先生ッッ!!」」

 

こちら目掛けて飛んでくる存在を見て、そう声を重ねた。

 

彼女達の声に、便利屋達四人も二人が見上げている方向を見上げる。

そして、全員の顔に歓喜の表情が浮かんだ。

 

「ッッ、ッ! ッと。悪ィ、少し待たせたかァ?」

 

一体どう動かせばそんなに綺麗に着地出来るのか不明な程、空気の噴射を繊細に調節し、音も衝撃も無く着地しながら先生は何でも無さそうに二人に声を掛ける。

 

同時に、彼の登場は、彼が放ったいつもの先生らしい声掛けは、今まで半ば無気力状態だった陸八魔アルの活力を取り戻すのに十分だった。

 

ガバッと助手席から立ち上がり、驚きと喜びを入り混じったような声を上げる。

 

「先生! 無事だったのね でもあの爆発から一体どうやって……!」

「あれは俺が仕掛けたンだ。自分の仕掛けで吹っ飛ぶバカがどこにいやがる」

 

嘆息しながら面倒そうにビルでの出来事を語った先生は、んな事よりもと言葉を区切り、

 

「長話は後だ。とにかく逃げンぞ。殿はワカモに任せる。黒舘、出せるか?」

 

アルに助手席を譲って貰い入れ替わる様に座りながら、混乱が続いている内に撤退するべくハルナに意思確認を取る。

 

「……ッ、ええ、行きますわよ皆さん! 振り落とされないで下さいませ!!」

 

一瞬、時間にしてほんの一瞬、ハルナは何かを逡巡するかのように動きを停止し、その直後何事も無かったかのようにアクセルをベタ踏みし、発進する。

 

「だ、誰か!! セミナー達が車で逃げる気です! 先生が生きてて! 先生も一緒にです!!」

 

その様子を目撃したトリニティの誰かがそう叫ぶ。

誰か。と言っている段階でもう既に彼女達の状況は滅茶苦茶を極めていると言っても良かった。

叫んでいる彼女自身が武器を構え妨害を始めないのがその証拠だろう。

 

だが、そんな混乱の真っ只中でも忠実に指令をこなそうとする者はまだ存在する。

無数の雑兵に潜んでいた一人の精鋭は、即座に車に狙いを定めようとして。

 

「させる訳ないじゃありませんか」

 

少女の目の前に降り立ったワカモが、彼女の側頭部目掛け、スラリと伸びる長い脚をしならせながら右から左へ全力で蹴り抜いた。

 

ワカモの出現に反応出来なかった少女は、横腹に深々と突き刺さる踵の衝撃を何一つ殺せぬまま一メートル程吹き飛び、ゴロゴロと地面を転がされ、有無を言わさぬまま気絶に追いやられる。

 

チラリと、邪魔者を退けたワカモはハルナが運転する車の方を見やる。

それはまるで、早く行けと催促しているようだった。

 

ハルナはその意図を受け取り、速度を上げトリニティから離脱し始める。

その事に気付いた少女達が漸く一斉攻撃を始めようとするが、既に発信を始めた車に銃弾を当てるのは難しく、ワカモが妨害に立っているのもあり、ハルナ達は死地を潜り抜ける事に成功した。

 

「行かせちゃダメです! なんとかして止めて下さい!」

「どうやって!! あなたがやってよ!!」

「そんな! 計画が!! 私達の理想が!!!」

 

背後から数多の少女達の怨念染みた声が聞こえる。

しかしそれだけで、追って来る様子も連携する様子も見られなかった。

その事実が、この場にいる全員に勝利の実感をもたらす。

 

結局、高らかな理想は理想でしかなく、そこに至った信念も深い物ではない。

言ってしまえば、彼女達の幻想は達成される事のない概念だった。

 

たまたま、上手く行くように見えてただけ。

見かけだけギリギリの、その実、確定していた勝利だったのだ。

 

「ここまで面倒な事にならなくてもどの道こいつらの物語は潰れてたって訳だ、ワカモ一人の乱入で戦局が変わってンだからよォ」

「……、ええ。そうですわね」

 

語る先生を横に、ハルナは再び考え込みながら曖昧な返事で濁す。

そのまましばしの間、ハルナは車を動かした後、一瞬目を瞑り、

 

「……決めましたわ」

 

目を開いてそう言い放ったハルナは、ゆっくりと車を高架の上で停車させた。

既にトリニティ生の魔の手からは逃れており、全速力で逃げる必要はない。

 

しかしここでのんびりしている理由もないし、確実に追って来ないという保証はない為、ここに居続けるのは得策ではないというのがこの場にいるハルナ以外の全員が持つ共通認識だった。

 

故に、彼女の行動に理解が追い付かない全員が怪訝な視線をハルナに向ける中、彼女は背後へと振り返り。

 

「陸八魔アルさん。運転を変わって下さる?」

 

いつものように調子を戻した声色で、アルに運転手の変更を申し出た。

 

「へ!? な、なんで!?」

 

当然理解が追い付かないアルは少し前に魅せ続けていた勇ましさを戦場に置いてきたのか、普段の彼女らしく慌てた調子で彼女にその理由を投げかけた。

このまま自分で運転してしまえば良いではないか。

 

言外にそう伝えるアルの問いかけに、ハルナはポンッ、と自分の右手を優しく胸元に置いて。

 

「当然、私がここで降りるからですわ!」

 

堂々と宣言しながら、同意を得られる前に車から降りた。

 

「……、どういう事だ黒舘」

 

率先して声を掛けたのは案の定先生だった。

怒ってるでもなく、呆れてるでもなく。

ただ説明を彼は求める。

 

頭ごなしに否定しないその姿勢はハルナにある種の充足感を与えつつ。

その上で彼女は先生に対して要求を始める為、

 

「ハルナ」

 

自分の名前を、ハルナは発声した。

 

「……あ?」

「私の事は、黒舘ではなくハルナと呼んで欲しいですわ」

 

それは、彼女が抱いたちょっとした願い。

ユウカにしていて、自分にはされていない事で生まれている『差』を、埋めたいという願望

 

「トリニティに来る直前、車を止めろと叫んだ時、先生はハルナと仰ってくださいました。あれ、実はとても嬉しかったんですのよ?」

 

あの時、そう言う場面ではないにも関わらず気分が高揚してしまったのを覚えている。

嬉しくて、胸が騒いで、でもその騒いだ心地は悪くなくて。

 

でも今は、その事について語る場面ではない。

彼女が車を止めた本当の理由、それは名前を呼んで欲しいからではない。

 

「狐坂ワカモ。あの方はとても強いでしょう。しかしタイムアップです。先程、逃げる瞬間のあの場には正義実現委員会の姿がチラホラと見え始めていました。こうなってしまっては一人で戦うには多勢に無勢でしょう」

 

彼女を、助けたいと思ってしまったからだ。

きっと、自分と同じ想いを先生に向けているであろう災厄の狐を。

狐坂ワカモを。

 

「この事件は彼女が起こしたテロ。として纏まりますわ。上層部にとって彼女の存在はあまりにも好都合でしょう。ですが恐らく、いやきっと彼女はそうなることを見越してここに現れた」

 

彼女は、ここにいるのが先生だからこの行動を取ったのだ。

先生が危機だから、駆けつけて来たのだ。

 

彼女自身の口から聞いた訳でもない、

仮面の下にある表情を読み取った訳でもない。

 

どのような経緯で事件を知ったのかも知らないし、

どんな考え方をすればピンポイントであの場所に現れたのかも分からない。

 

何もかも分からないが、ただ直感が訴えて来た。

彼女は真剣に、先生を助ける為にここまでやって来たのだと。

燃え盛るビルの上で立つ彼女の姿を見て、そんな感覚を覚えてしまったのだ。

 

刹那、ハルナの中で、位置付けが決まっていた。

彼女は、狐坂ワカモは、自分やユウカと同じ立ち位置を望んでいる。

 

それが分かれば、彼女は迷わない。

 

「彼女を連れてシャーレに戻りますわ。今日中。とはいかないかもしれませんが」

 

逃げ仰せられるかについて自信がある訳ではない。

むしろ取り押さえられる可能性の方が高いだろう。

 

何せ、相手が相手だ。

戦う相手が悪い上に仲間もいない。

 

明るい結果が待っているかと言われたら、大分怪しいと言わざるを得ないだろう。

 

だが、彼女はそんな事をおくびにも出さない。

代わりに先生へ遠回しな表現になりつつも堂々と宣言する。

 

待っていて下さい。と。

 

照れ臭さを発言の節々に残すハルナの表情は少々顔を赤らめながらも笑顔であった。

笑顔、であったのだが。

 

「ハルナ」

 

「……っ!? は、はいっっ!?」

 

不意に。

不意に放たれた真剣な声で放たれた『ハルナ』と言う声に、彼女の余裕が一瞬で崩れ去った。

 

声が見事な程に裏返り、

僅かに赤らんでいた顔はトマトのように真っ赤になり、

心臓のバクバクが皆に聞こえてしまうんじゃないかと錯覚する程に大きくなる。

 

「クカカ、てめェから言い出した癖に何言われた側がキョドってやがる」

 

先生は、そんなハルナの様子を見ながら笑っていた。

当然、言われた側であるハルナはそれどころではない。

 

頼んだ側である自分が慌てふためいているのはおかしな光景であるのは当然その通りではあるのだが、そんな正論を言われてもこちらとしてはどうしようもない。

 

「あ、あのっっいやでもやっぱり突然言われると……その……」

 

今までの彼女が持っているイメージとはかけ離れたしおらしい顔で、どうにか取り繕う言い訳をなんとか捻り出そうと沸騰している頭をどうにか回転させていた時、

 

「ハルナ」

 

そんな雰囲気を吹き飛ばすようにもう一度、先生は彼女の名前を呼んだ。

真剣な表情で、

真剣な声で。

 

彼女が抱く動揺を、全部洗い流すように。

 

「……っ! はい……っ!」

 

ドクンッ、と心臓が高鳴った。

体温が、上がる。

 

今度は、ちゃんと素直な声が出た。

小さい声だったかもしれない。

聞き取れなかったかもしれない。

 

けれど、彼女のその声も、先生に応じたかのように真剣そのものの声だった。

果たしてハルナの声は、しっかりと先生の耳に届いたのか。

 

「次のお前の担当日は四日後だったな。遅刻すンじゃねェぞ」

 

「っっ! ええ、ええッッ! その日は念願の一日担当ですもの! 遅刻なんか絶対にしませんわ!」

 

それだけを彼女に伝えるとハルナから視線を外し、前方へと顔を向けた。

ハルナも、その意図を受け取り、俄然心から力が湧いて来るのを覚える。

 

「ではアルさん! 後、お願いしますね! ユウカさんも。先生をお願いします」

 

その言葉を最後に、彼女は来た道を走って戻り始める。

まだそこまで遠い距離ではない。走れば余裕で間に合うだろう。

 

先生は、トリニティへと戻っていく少女の背中を見送りはしなかった。

それが、彼なりの彼女への信頼だった。

ハルナが獲得した、先生の信頼だった。

 

「正義実現委員会。二人で戦ってどうにかなる相手とはあまり思えませんが、生憎様ですわね」

 

死地へと戻る中、ハルナは誰にも声が届かない世界で一人言葉を紡ぐ。

誰にでもなく、自分に自分の声を拾わせていく。

 

「私、今誰にも負ける気がしないんですのよ?」

 

今なら、実現委員会の委員長にも勝てるかもしれない。

そう錯覚してしまう程の高揚感を宿しながら、ハルナはワカモの救出に向かう。

 

…………。

………………。

 

程なくして、銃撃音が聞こえ始める。

走った時間は十分にも満たない。

その間、誰とも遭遇しなかった事から、トリニティ生達は全てワカモが抑えていたであろう事を察した。

 

そのまま一分程走れば、もうそこに安全な場所はどこにもない。

 

一人の少女を制圧すべく、数多の生徒達が銃弾を絶え間なく降らせ続けている地獄の場所だった。

その内の何人かが、ハルナの存在に気付いたのか近くにいた数人に声を掛け、銃口をこちらの方へ向ける。

 

(成程、実現委員会の方達が混ざった事で彼女達からの指示が取れ、連携が取れ始めましたか)

 

少しだけ動きがまともになっている様子にハルナは、まあ、関係ないですわねと感想を切り捨てた。

 

激戦区に舞い戻った彼女は、スゥゥゥ……。と息を大きく吸い。おおよそワカモがいるであろう位置を推測すると、ガッッ!! とその辺にあった適当な瓦礫に力強く足を乗せ重心を安定させた。

 

まずは雑兵を蹴散らし彼女と合流する。

その意思の基、ハルナはスコープを覗き込み、レンズ越しに視界を確保する。

 

刹那、ハルナの集中力が極限まで高まった。

音を置いて、時間を置いて、世界を置いて。

これだけ騒がしい筈の戦場で、音が消える。

誰も彼もが目まぐるしく動いている筈なのに、全員が全員止まって見える。

 

呼吸が消え、心臓の音だけが残る世界。

一秒が一分のように感じる世界。

 

この世でただ一人、彼女だけが正常な世界にいるような空間の中。

 

「ッッッッ!!!!」

 

静かに、そして強くハルナは愛銃の引き鉄を引き、

ゴッッッッパァァアアアアアアアアンッッッ!!!! と言う凄烈な音が響き渡り、彼女の射線上にいた十数人が悍ましい程の衝撃と共に薙ぎ払われた。

 

吹き飛ばされた少女は悲鳴を上げない。

そんな余裕すら与えられないまま全員が全員意識を闇に落としたままドサドサと地面に落下していく。

 

ハルナはスコープから顔を外し、自分の身を正常な世界へと寄り戻すと、強引に開けさせた一本道を走り、

 

「あらあら、これは一体どういう真似事なんですか? まさかこの程度の相手に私が負けるとでも思われたのかしら? それとも借りを作るのがイヤな性分だったりします?」

 

誰がやって来たのかを知ったワカモに、嫌味混じりで挑発された。

ハルナに話しかけている間にもワカモは片手で小銃を操り、死角にいる相手を正確に射撃しているのだから恐ろしい。

 

しかしハルナも動じない。

同じ立ち位置に属する者として、ワカモの挑発に真っ向から対面する。

 

「別に、私は恩や貸し借りがイヤで来た訳ではありませんわ。ただ私は均等に。勝つにしても負けるにしても、同じ勝負の場で決着を付ける事を望んでいるだけ。ここに来たのはそれだけの理由ですのよ?」

 

「勝負? 決着? 話の意図が掴めませんね。初対面ですよ私達」

 

分かってる癖にとぼけるんですのね。と、ハルナはワカモが本音を隠しているのを即座に見抜く。

隠していない部分は初対面であるという事実だけだ。

 

それ以外は出鱈目。

自分が放った言葉の意味を理解し、その上で煙に巻こうとしている。

 

しかしそうはさせない。

そうはさせるもんですか。

 

「そうやって裏でコソコソして動くよりも、まずは一緒にシャーレで食事でも楽しみませんか? 先生を慕っている者同士なのですから」

 

ここから始めるのだ。

戦場は戦場でなければならない。

その中で掻っ攫うも掻っ攫われるも己次第。

 

勝負を望んでいる訳ではない。

純粋に、望むに値している少女に場を与えないのが不公平だと思っただけ。

 

誰も彼もに与える気は無い。

それを選ぶのは先生だ。

 

自分は、()()()()()()()()()()()()に必要以上不利になって欲しくない。

そんなエゴの塊が、ハルナをそう突き動かす。

 

しかし、と彼女は言葉を一度置き、

 

「その為にはこの方達が邪魔ですわね。ご協力頂いても?」

 

「あら、後から戻って来た癖にまるで今まで自分が戦っていたような言い種。図々しさもここまで来ると滑稽を通り越して賞賛になってしまいますね」

 

まぁ良いでしょう。と、ハルナの言葉にワカモは頷く。

それは彼女の思惑に乗った合図だった。

 

何に対して良いと言ったのか、それは誰にも分からない。

ただこの瞬間、トリニティ総合学園の端で、

 

テロリストと災厄の狐が、この場を乗り切り、生還する為の共同戦線が張られ始める。

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

「そのための場……?」

 

にじり寄って来る黒服から放たれる言葉の意味が分からず、アコは思わず聞き返す。

言っている事が理解出来ない。

 

理解出来なければ表情や仕草から推測したくなるが、この男の表情は漆黒に包まれており何も窺える事は出来ない。

仕草から探りたくても、彼はただじっと不気味な程に丁寧な佇まいでこちらを見据え、歩み寄って来るだけ。

 

何も分からず、何も知れない。

その事がどれだけ恐ろしいかを今正に実感しつつ、アコは恐れている事を悟られない様、震えを隠しながら黒服を睨みつける。

 

「ええ、その為の場。ですよ。天雨アコ行政官。私がここで貴女と会う為の場。それ以上の意味も以下の意味も含まれていない。言葉通りに受け取って下さって結構です」

 

「さっきから何を言っているのか理解に苦しみます……!」

 

また一歩下がりながら、アコの口が自然と嘘を吐く。

この男が何かを口走る度、ゾクリとした悪寒がアコの背中に走り続けている。

 

聞きたくない。

これ以上の言葉を聞いてはいけない。

 

そんな予感があった。

故に、理解したがらなかった。

アコの本能が、そうさせていた。

 

しかし。

 

「では、少しばかり方向性を変えてみましょう」

 

男は静かに、だが淡々と、そして彼女の淡い願いを打ち砕くかのように説き始める。

 

「貴女は基本的にゲヘナ学園内部から命令、支援を行う事を仕事としている。ですが、何事も例外と言うのはあるものです。その場合は貴女も学園の外へ出て命令、指示を下す。……例えば、()()()()()が発生した時とか……ね」

 

「なっっ!? に……ッ、を……ッ!」

 

言葉が、続かない。

なのに思考は勝手に進み始める。

理解したくないとした彼の言葉が、理解出来る物として頭が働いて行く。

 

どうしてこの男は、全て知っていたかのように話すのか。

まるで全てを見通していたかのように話しているのか。

 

その、理由が脳へと浸透していく。

この男の恐ろしさを、身体が自然と理解していく。

 

「まさ……か……」

 

そして、アコは痛感する。

この男は、自分の手に負える存在じゃないと。

 

「あなたが、今回の騒動を企てっっっ!?」

 

「過大評価をしないで頂きたい。私はあくまで情報を仕入れただけ。そしてそれを噂としてゲヘナに流しただけです。だから風紀委員も不届き者の存在に気付いたのではありませんか? 三人の逃走のみに抑えたのではありませんか? 薬をばら撒く意思を持っていたのはゲヘナの生徒であり、それを裏切る決断をしたのはトリニティの生徒です。私はその状況を利用しただけ。言ってしまえば部外者ではありますよ」

 

狼狽するアコとは対照的に、放たれた説を否定しないまま黒服は語る。

戯言だ。とアコは素直に思った。

ここまでの事をしておいて、どうして平然と立っていられるのか。

どうして、悪びれもせず、静かに説明し続けられるのか。

 

確保しなくてはならない。

今、ここでこの男は拘束しなければならない。

この男は、ゲヘナを崩壊させてしまう敵だ。

風紀委員としての使命が、アコの持つ拳銃に力を入れさせる。

 

だが。

 

「ご安心を。あの計画は()()()()()()()()()()()()()()()()

 

その言葉は、アコの動きを停止させるには十分だった。

男は相変わらずトーンを変えず、淡々と。ただ事実を報告する様に。

 

「貴女はゲヘナの、トリニティの、いえ、キヴォトスの善性を甘く見過ぎています。この程度の悪性では自浄作用を破壊したりは出来ませんよ。どのような道を辿っていようと確実に彼女達の計画は失敗します」

 

「じゃあ何でそんな事を! 意味が! 意味が分かりませんッッ!!」

 

「何度も申し上げているじゃありませんか。貴女に会う為だと。これはその為だけの計画ですよ。彼女達は捨て駒に過ぎません。先程も言った通り私はこの事件に関与してませんがね」

 

「ッッッ!!」

 

まさか。

まさか。

 

疑いたくなる。

だが、現にアコはここで黒服と相対している。

それこそが、証明になってしまった。

 

彼が本当に自分に会う事だけを目的として、邪魔者が入るであろうゲヘナ学園から自分を引き摺り出す為だけに両校を巻き込む大事件を仕込んだであろう事の証明が、今ここで為されている。

 

もう、悪寒が走る程度のレベルではなかった。

誰もいなければ、すぐにでも嘔吐したくなる程の邪悪がこの男からは満ち溢れていた。

 

表向きはゲヘナ、トリニティが結託してゲヘナで作られた薬物をばら撒き、長期的な計画の中での条約の凍結だった。

だがその目的はトリニティ側が企んでいた裏の目的である、そのやってきた生徒を殺害しての即時的条約の破壊という物に乗っ取られた。

 

けどそれも全てフェイク。

彼女達は、この男の手によって無駄に踊らされただけ。

真の目的は二人きりで接触する時間を作る為の時間稼ぎと陽動。

 

アコ一人だけが警備に当たっている時間を狙っての接触。

ただ、ただそれをしたいが為に、この黒服はここまでの事をやってのけた。

 

やはり、理解出来ない。

理解出来る、相手ではない。

自分とは、別次元にいるような存在にアコは思えた。

 

でも。

 

だからと言って、それは負けても良い理由にはならない。

屈して良い理由には、決してならない。

 

「……、仮に。仮にそうだったとしましょう。貴方が仰った事全てが真実だと仮定しましょう。その上で敢えて言いましょう。私を見くびらない下さい」

 

「……、ほう?」

 

「確かに今、この時間、この瞬間においては貴方と私しかいないでしょう。しかし人を呼ぼうと思えば呼べるんですよ? 声で、道具で。加えてあなたには見えない所で既に救援を送っています。私と会って何をしたいか知りませんが、応じるつもりも付き合うつもりもありません」

 

凛と、言い切る。

人を呼ぼうと思えば呼べるのは事実だ。

救援も送ろうと思えばタブレットのタップ一つで完了する。

だが、こんな危険な奴が目の前にいる状況で助けを求める愚か者がどこにいる。

いる訳がない。

 

しかし、そんな事相手に分かる筈もない。

故に、彼女は断固として応じない姿勢を見せた。

何を企み、何を交渉しようとしたのかアコは知らない。

だがそんな事はどうでも良かった。

知る必要など、どこにもないのだから。

 

何を言おうと彼の言葉には応じない。

完璧な拒絶を、アコは言い放った。

 

それなのに。

 

「ああ、いえ。そんな事でしたか。いえいえ、心配ありませんよ」

 

黒服は彼女の言葉を適当にあしらうと。

 

「一秒あれば終わるので」

 

ズッッッ!! と、歩幅にして約十歩はあった距離を一瞬で詰め、アコの眼前に肉薄し拳銃を奪った。

滑る様に移動してきた黒服にアコは全く対応出来ず、引き金を引く事も出来ぬまま、ただ目を見開いて声にならない叫びを上げる。

 

殺される……ッ! 

 

咄嗟に彼女の本能が訴えかけ、それに従うように彼女はギュッッ! と反射的に目を閉じる。

 

だが、カタッッという何かが落ちる音が聞こえると同時。

 

「ご安心を、もう用事は済みました。人が集まる前に私は帰らせて頂きますよ」

 

耳元から遥か遠い場所で、声が聞こえ始めた。

恐る恐る目を開ければ、黒服の男がこちらへと詰めて来る前、歩幅にして十歩の距離で男は立っており、そんな事を口にする。

 

「用事はそれをお渡ししたかっただけです。私は貴女を支援したい。ただそれだけですよ」

 

男はアコの右手を指差す。

見れば、拳銃を握っていた右手は、代わりに何か別の物を包んでいた。

 

「これは……、ケース……?」

 

右手に持たされたソレを見て、アコがポツリと呟く。

渡されたのは、掌に収まる程度の小さなケースだった。

どうやら、スライドして中身を取り出す形式らしい。

 

見ると、中には真っ白な錠剤が詰め込まれている。

数は……十五ぐらいか。

 

「いつか必ず貴女はそれを使いたいと願う時が来る。その時の為、捨てずに保管しておくとよろしいでしょう。しかしいきなりの使用は推奨しません。来る時に備えて何度か試飲する事をオススメしますよ。注意点があるとすれば、試飲する時は人のいない場所で服用した方が安全の為に良いかと思われます」

 

「……、こんな見るからに怪しい物を持たせて、碌な説明もしない。さっさとゴミ箱に捨ててくれと言っているような物ですね。わざわざここまでしておいて、最終的な目的が誘拐でも殺害でもなく、捨てられるかもしれない薬の譲渡ですか。やはり理解が出来ませんね」

 

「理解されなくて結構です。既に私の目的は達成されました。重ねて言わせて頂きますが、それを捨てるのは貴女の為にならない事だけは忠告しておきます。それでも捨てるのでしたらご自由にどうぞ。ちなみに毒性はありません。捨てた場所からパンデミックが発生するような事は起こりませんよ。保証します」

 

告げると、男は踵を返し去り始める。

瞬間、今なら、後ろを向けた今なら殺せるのではないかと、アコは落とされた銃を咄嗟に拾い、照準を合わせようとした所で、

 

「ッッ!? 消え……た……」

 

一瞬目を離した隙に、男はアコの視界から消え去っていた。

さっきのような移動でもしているのかと、慌てて前方へ走りながら周囲を見渡すが、どこに目線を合わせても男の影も形も無い。

 

残されたのは、男が残していったケースのみ。

アコは一瞬、そのケースを見つめた後。

 

「とりあえずヒナ委員長に報告しましょう。話はそれからです」

 

この一件は自分の中で留めておくべき物じゃない。

今すぐにでも彼女と、彼女達と話をする必要がある。

そうするべくアコは振り返り、ゲヘナ学園へと戻ろうとした矢先、

 

「アコ」

 

一つの声が彼女の耳に届いた。

 

「委員長? どうしてここに」

 

現れたのは、委員長のヒナだった。

あまりに意外な人物の登場に、アコは少々気の抜けた声でそんな事を問いかける。

 

「さっき連絡が入って、状況が変わったからアコを呼び戻しに来たの」

 

返って来たのは、真っ当に事務的な返事だった。

黒い男とのやり取りをしている僅かな間に、色々と風紀委員会を取り囲んでいる状況は変化していたらしい。

 

「状況が変わった……?」

 

「簡潔に言うと事態のおおよそは収束したわ。だから今からは後始末の時間。面倒事は一つ起きたけど、今回の騒動に比べれば可愛い物だからついでで片づけられるわ」

 

「面倒事?」

 

「トリニティに狐坂ワカモが侵入した形跡があると報告があった。面倒事がそれね。収束したって言ったのは科学部の三人を乗せた車が大破炎上、薬物は炎に包まれて消えたわ」

 

「なる、ほど……そんな事が……。」

 

簡易的に述べられた内容はそのまま飲み込むのは一苦労する物だったが、ヒナを疑う理由は無いアコは、ひとまず大きな仕事は終わったのだと安堵の息を吐く。

何故爆発したのかも何故狐坂ワカモが姿を現したのかも不明だが、どうやら、取り返しの付かない事件にまで発展することは回避出来たらしい。

 

であるならば、次の自分の仕事はヒナが言った後始末の手伝いになる。

それは確かに面倒ではあるが、神経を一秒ごとに擦り減らすような事柄ではない。

やっと一段落ですね。と、歩き出すヒナの背中を追いながらそう声掛けようとして、

 

右手で包み込むように持っている白いケースの事を思い出した。

そうだ、この事を話さなくてはならない。

 

後始末をするよりもほんの少しだけ、これは優先事項だ。

 

「ヒナ委員長、実は耳に入れて欲しい事が」

 

あります。と、ヒナを追いかける様に一歩足を進めながら、アコは黒服から渡された白い錠剤が入ったケースを彼女に渡そうとして、

 

「先生がどうにかしてくれたから、とりあえずは一安心ね」

 

「ッッ!?」

 

前を歩くヒナから不意に放たれた『先生』と言う言葉と、嬉しそうな顔で彼に対して感謝を述べるヒナの姿に、ケースを渡された事と、渡して来た黒い男との一連のやり取りを報告しようとしていたアコの動きが止まった。

 

ああ、ああ。

また、先生だ。

また、あの人だ。

アコの表情が一気に暗く、鋭くなる。

 

どうして先生がゲヘナの為に動いているのかをヒナが知っているのか疑問だったが、今のアコにはそんな事どうでもよかった。

大事なのは先生が動いていたという事実のみ。

ゲヘナで、ゲヘナに対する問題で彼が動いている事実のみが、重要な要素としてアコの耳に、頭に残る。

 

先生。

先生。

先生。

連邦捜査部の部活顧問。

キヴォトスの外からやって来た異物。

 

ゲヘナの外に活動拠点を置きながら、ゲヘナ以上にゲヘナの問題を解決する能力を有している存在。

 

自分達ではどうにもならなかった事態を、彼は解決した。

未曽有の危機を、救った。

その権力を使って。

好き放題に出来る力を行使して。

自分達では成し得なかった事を、彼は成し得た。

 

黒服との先のやり取りで、今回の事件はどのような結末を辿ったとしても解決されると述べた。

それは、それはつまり先生が関与していると知っていたからなのだろうか。

あの髪も肌も服も真っ白の男が性懲りもなく首を突っ込み、危険を承知で事態を収束させようと動いているのを予知していたからなのだろうか。

 

ギリッッ、と、アコの歯が強く軋む音が口内で響く。

 

プライドが傷ついた訳ではない。

風紀委員としての誇りが汚されたと憤っている訳ではない。

 

感謝はしよう。

彼がいなければどうなったか分からなかったのは確かだ。

礼はしなくてはならない。それは人として通さねばならない筋だ。

 

しかし。

それでもと、アコは目を濁らせながら空を見上げる。

 

やはり、あの人は危険だ。

何処で何をしでかすか不明な以上放置は出来ない。

今回は助けてくれたが、次もそうとは限らない。

今度は壊すかもしれない。

あの黒い男以上にゲヘナを。私達の世界を。

 

その能力を、彼は間違いなく秘めている。

 

止める必要がある。

これ以上、彼がゲヘナで動く前に。

良くない事を、不利益な事を始めようとする前に。

 

瞬間、何故だかアコの頭の中で、黒服の声が再生される。

『いつか必ずこれを使いたいと願う時が来る』という声が。

 

「アコ、今さっき何か言おうとした?」

 

「…………いえ。何でもありません」

 

黒い男の言葉を思い出たアコは、ヒナへ差し出そうとしたケースを、深く、深く懐へしまい込みながら代わりに誤魔化しの微笑みを向けた。

 

そう? と何かを言いかけたアコの様子に小さく首を傾げるヒナを見て彼女はそれよりも。と強引に話題を変え、今の自分達にとって重要そうな事柄を取り上げながら帰路に就き始める。

 

心の内に宿った悪魔を、ひた隠しにしながら。

 

「早くゲヘナに戻りましょう。下水道の被害等規模も把握しなければなりませんから」

 

そして彼女は、静かに道を外れ始める。

誰もその事に、気付くことがないまま……。

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

「そうですか……約八十人もの生徒が……」

 

トリニティの生徒達による反乱騒動の終結後、連絡班から内容の報告を受けた桐藤ナギサは、この世の終わりを見たような顔で、手を震わせながら俯いていた。

 

ゲヘナ生徒殺害計画。

それを流用したシャーレの先生殺害作戦。

 

約八十人ものトリニティ生の反乱。

ゲヘナとトリニティとの間で交わされる条約を成立させまいとして動いた彼女達の反逆は、ナギサの心に深い闇を落とした。

 

それがただのデモ等だったらどれだけ可愛かっただろうか。

小さな抗議だったらどんなに幸せだっただろうか。

 

しかし、しかし実際に起きた事は彼女の想像を遥かに超越した身も凍り付くような事態。

ゲヘナ生徒の殺害を念頭に入れた作戦。

それによるゲヘナとの絶対的な対立を目的とする理念。

 

ゲヘナ側の怒りは推して知るべし。

その中で話し合いと解決の場を相手側から求めて来たのは何よりもナギサにとって救いだった。

 

それは騒乱の最中に現れた災厄の狐の存在が大きいのか、

それとも元よりこの事件による亀裂をゲヘナが望まなかったのか。

 

「その作戦中に現れた狐坂ワカモと黒舘ハルナ両名によるテロ騒動はどうなりました……?」

 

「はい、ワカモ、ハルナ両名は大乱戦の最中で生じた混乱を利用し、一般生徒及び正義実現委員会に大規模な損害を与えた後トリニティから撤退。現在追跡をしておりますが……」

 

「中止して下さい、これ以上深追いする必要はありません」

 

淡々とナギサは命令を下す。

ここで彼女達を取り押さえた所で何の意味も無い。

 

しかし形は利用させて貰う。

今回の一連の流れはゲヘナの生徒や先生殺害作戦だったのではなく、狐坂ワカモ、黒舘ハルナ両名によるテロを阻止しようとした際に発展した大規模戦闘だという事にして貰う。

 

どうせ前科なんて腐る程あるのだ。

今更一つ増えた所で砂漠に砂を一粒振り撒いただけのような物だろう。

 

どちらにせよ、結果的にトリニティとゲヘナ両校の関係性が悪化する可能性は無くなった。

あらゆる最大限の幸福を掴んだと、切にナギサは胸を撫で下ろす。

 

良く、良く無事に丸く収まってくれたと思う。

最悪を回避出来た。それは九死に一生なんて話では済まないぐらいの奇跡で、ナギサはその奇跡を起こしてくれたシャーレの先生に深々と頭を下げ、心の中で何度も何度もありがとうございますと告げる。

 

だが、どれだけ感謝を示した所で、彼女の精神に刻み込まれた恐怖は消え去らない。

 

カタカタと、手の震えが止まらない。

胸の奥のザワ付きが抑えられない。

考えても考えても脳裏に過るのはもしかしたらの最悪の事ばかり。

前向きに物を考えようとしても、即座にザワザワが邪魔をする。

 

こんな考えを持っている生徒が他にもいるんじゃないのか。

自分の手の届かない所で、これ以上のよからぬ事を企んでいる少女がいるのではないのか。

 

もしかしたら、自分以外の全員が、……敵。

 

ブンッ! と、ナギサは即座に頭を振るい浮かんだ邪念を振り払う。

そんなことある筈がない。妄想に等しい事で皆を疑ってはいけない。

 

だが、それでも疑念は完全に払拭出来ない。

ここまでの大事が、これだけの人数の基実行に移された。

それそのものが、彼女の心から平穏を奪っていく。

 

喉の奥が乾く。

何かを言い出そうと口を開くが、それを上手く言葉に出来ずまた口を紡ぐ。

その繰り返し、繰り返し、繰り返しだった。

 

紅茶を口に入れる余裕なんて、今の彼女にはどこにも無い。

 

苦しい。

息が詰まる。

声が出ない。

胸が苦しい。

身体中が怠い。

絶望感が心を無気力にさせる。

けどこのモヤモヤが身体を動かさせ続ける。

休みたいのに休めない。

休もうとも思えない。

 

考え事が、何一つ纏まらない。

 

「どうするナギちゃん。とりあえず今は実現委員会が皆を抑えてるけど」

 

そんな彼女に、救いが一つ伸ばされる。

ハッとした表情で顔を上げれば、そこには能天気な顔で自分を見つめる一人の少女の姿。

 

それだけで、それだけで少し。

彼女の心に巣食っていた真っ暗な闇が、僅かに晴れた。

 

「そうです、ね……。本来なら一人残らず全員退学……と言いたいですが。この人数を外に出すのはあまりにもリスクが高すぎます。それに、彼女達を退学にして監視から外してしまえば、今度こそ何をしでかすか……今は、このままシスターフッドや正義実現委員会の皆様の協力の基、拘束、監視するという方向で行きましょう」

 

ほんの少しだけ気力を取り戻したナギサは、自分を引き戻してくれた彼女に暫定的な措置を語りながら、紅茶が入ったティーカップを傾ける。

……喉は乾いているのに、彼女の口は紅茶を受け入れてはくれなかった。

 

飲もうとする口が、開かない。

身体が、何かを取り込むことを拒否していた。

仕方なく彼女は飲むフリだけをした後、コトッと持っていたカップを皿の上に置く。

 

「後は、これからエデン条約までの間、在籍する全ての生徒の徹底的監視を求めましょう。これ以上不穏分子を出す訳には行きません。心苦しいですが、それが今、私がすべき判断であり、ゲヘナ学園に対して示さなければいけない筋と言えます」

 

「……ふーん、そんな物なのかな」

 

ええ、と、ナギサは肯定する。

トリニティで今渦巻いているこの暗い状況が分かっているのか分かっていないのか、相変わらず彼女は良く分かっていなさそうな感じの声を出している事を見抜きながら、ナギサはもう一度彼女の方に顔を向け、

 

「……? ミカさん? どうしたんですか? 上の空ですよ?」

 

先程話しかけて来てくれた時とは大きく違う彼女の表情を目撃した。

 

「……あ。ううん。なんでもないよナギちゃん」

 

ナギサの視線に気付いたのか、長い桃色の髪を風に乗せ、フワフワと躍らせて明後日の方向を見つめていた少女は、心配気に声を掛けたナギサに向かってほんの少し笑いかけ、大丈夫である事を告げると、またその視線を空へと移す。

 

ミカさんらしくない。と、普段の彼女からは想像も出来ない光景を前に、ナギサはそんな感想を抱く。

しかしそれは、彼女も彼女なりに今回の事態を重く受け止めている証拠なのだと判断した。

 

彼女だって自分と同じ立場なのだ。

当然、心だって痛めているし、悩んでもいる。

それでも落ち込んでいる自分を気遣って、無理にでもいつもの自分を演じてくれたのだ。

 

頑張らねば。と、ナギサは心からそう誓う。

踏ん張らねば。と、ナギサは己を鼓舞する。

 

この事件で苦しいのは皆一緒だ。

ならば、『ティーパーティー』である私が折れて良い筈がない。

 

私だけは、気丈に振る舞い続けなければならない。

それがたとえ、ハリボテであろうとも。

 

演じ続けているだけであったとしても、演じていればやがてその思いは本当になれるから。

そう、信じて。そうであって欲しいと、信じて。

 

もう一度ティーカップを手に取り、口元へ運んでゆっくりと傾ける。

やはり、飲めない。

ここまでが、彼女の限界だった。

 

強く、強くあろうとしても刻まれた記録が心を蝕んでいく。

心身共に疲弊していくナギサの一方で、清楚な白いドレスを身に纏う少女は、何をするでもなく、ただどこまでも遠い場所を見つめていた。

 

その目は何を映しているのか。

その目は本当に空の青を拾っているのか。

 

それすらも曖昧なまま、彼女は、聖園ミカはいつもの彼女が放つ元気らしさを微塵も放つ事なく一人、虚空を見上げてポツリと、

 

「やっぱりそうなんだね……私」

 

そう、呟くだけだった。

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

太陽が沈み、青と黒の境界線にあたる赤が空を覆い始める時間、

一日が終わる。誰もがその空を見て実感する黄昏時。

 

全てが終わった、平和な空だった。

平穏な時を進む、いつものキヴォトスの光景だった。

 

彼は、黒服は何処とも知れぬ高い場所で、平和を取り戻したキヴォトスを見下ろしながら一人語る。

 

「確かに事件は善性によって無事に解決されますが、副次的に綻びが生じてしまうのは、私の与り知る所ではありません」

 

それは誰に向かって言ったのか。

何の事を指して言っているのか。

答えを聞く人物がいない以上、その真意は彼の中にしか存在しない。

 

「先生、あなたは過去、我々の動きは常に把握し、妨害すると声高々に宣言しておりました。その意気込み、とても素晴らしい物だと感嘆します」

 

天雨アコと話していた時のように、トーンを変えず、声色も変えず、一定に、淡々とした口調で彼は先生を褒め称える。

 

その言葉にウソは無い。

彼は本気で先生の行動に感銘を受け、彼の決意を賞賛する。

 

先生として、生徒を守る存在として、彼が放った意思表示は申し分無い。

堂々と言い切った彼の姿は、真に眩しく輝いている。

満点だ。と評価せざるを得ないだろう。

 

だが、

 

「しかしやはりその願いは無謀ですよ。現に私はあなたが感知しないまま生徒との干渉を終わらせました。聞こえてもいないでしょうが、こちらもこちらとして宣言いたしましょう」

 

今までの評価とは対を為す様に、黒服はバッと両手を広げながらそう力強く音を紡ぐ。

それは彼と敵対する事を選択しての道か、それとも違う道がある事を示しての事なのか。

 

その真意は、彼の中にしか存在しない。

真っ黒を真っ黒で真っ黒に染められている真っ黒な男はキヴォトスを見下ろしながら言葉を音に乗せる。

 

明確な、宣戦布告を。

 

「この街の悪を一人で倒せる程、キヴォトスは狭い場所では無いですよ。先生」

 

 

 

 

 

 

 






暗躍。曇らせ。そして救い。
色々な物が渦巻きながら、第一章が終わりを見せます。

今回の話により、確定的にアビドスの難易度が上昇しました。
代わりに便利屋が強くなったのでアビドスに関してはどっこいどっこい……なんじゃないかな? 知らないですが。


今回のお話を持ちましてヒロイン級に扱う少女はメインストーリーで出会う残り一名を除いて出揃いました。実は隠れているのは二名の予定でしたが、今回の話で先行出演してしまったので……。
なんかミドリの出番だけ薄くない? と思った方。この第一章は基本的に出番の無い子に出番を与える為に作られた章ですので、彼女は後々滅茶苦茶メインを張るので今回はご了承という事で……。


いや、この結末だけを念頭に置いて書き始めた当初、構想では三話くらいで納める筈が相当な長丁場になってしまいました。
最終話はこうしたい。としていると途中でどれだけ話が嵩むかの良い見本ですね。
このお話は科学サイド魔術サイドよろしく、ゲヘナサイドトリニティサイドと二つの精力による争いを主軸とした、ブルーアーカイブ内で再現されたとある風物語と同時にエデン条約編第0章を意識して執筆されています。

ゲヘナの技術をトリニティに持ち込もうとし、トリニティの反逆に会い返り討ちにされるゲヘナを見ながら、その両校の闘争に巻き込まれる主人公一行。こう書くととあるっぽさがあるかなと個人的には思っております。

そしてエデン条約編本編がトリニティが中心になるので、その前日談はゲヘナを中心に書こう。という事で始まったエデン0章、結果として第一章の半分ぐらい占めてしまいました。長すぎないこの話? 

次回エピローグです。
そして皆さまお待たせしましたメインエピソードが始まります。
三か月、かかってしまいましたね。
ここまで長い間メインエピに突入せず前日談ばっか書いてるSSも珍しいと思います!

この物語はアビドス、パヴァーヌ、エデンの三部作で構成されます。
それで終わりです。エデンが最終編です。

まだまだエデンまでの道のりは長いですが、お付き合い頂ければ幸いです。
それでは次回、ヒナちゃんとの後始末語り合い編をお待ちください。


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