「あれ? ロボット達が追って来なくなった?」
廃墟で向かって来るロボット達を破壊しながら工場まで辿り着いた一方通行達は、この中を探索する為にも一旦追って来るロボットを破壊しようと入り口で迎え撃つ準備をしていたが、一向にロボットが来ない事に疑問を感じたモモイがそう全員に質問する。
確かに。と、一方通行もモモイが言う状況のおかしさに眉を潜める。
先程までイヤになる程襲って来たロボット群は、彼等がこの工場に辿り着いた途端、まるでここが進入禁止エリアかのように寄り付かなくなった。
破壊したロボットの数は六十機を超える。
通って来た道を見渡せばその残骸はあちらこちらで転がっているだろう。
それで全滅させた。だから追手は来なくなった。とかならば話は早かったのだが、彼女達が破壊したロボットは全体の一部に過ぎない。
事実、少し前までは数え切れないロボット達が一方通行達を迎撃せんと接近と攻撃、そして返り討ちに会って大破を繰り返していた。
それが今、はたと無くなっている。
気配もしなければ駆動音も聞こえない。
近くにロボットがいない事をそれらが証明する。
だからこそ、今の状態はおかしいと思うのが正常だった。
「ここには近寄ってはいけない命令が下されているのかも。もしくは近寄れない様に何らかのセンサーが働いていると考えるのが定石ね」
迎撃ロボ達がやって来なくなった事態を、道中一番の大戦果を挙げたヒナが考察する。
「まあ何でか分かんないけど、とにかくラッキー! で、良いのかな?」
「何がラッキー! なの! 何にもラッキーじゃないよどこも良くないよ!! あんな沢山のロボットに追われて! 襲われてっっ! うううう!! 先生もういやぁぁああ! ここ嫌いーーー!!!」
ヒナの言葉に眩しさを覚える程にモモイは良い笑顔を浮かべ、能天気に笑うモモイの言葉にミドリは泣きべそをかきながら愚痴る。
やれ思い付きで行動して振り回されるこっちの身になってよだの、先生をこんな場所に連れて来てだの、日頃からちゃんとしてないからこんな最終手段に出なくちゃいけないだの、ああだのこうだのを次々と愚痴り始める。その殆どが今回の事に関してではなく日頃の彼女の行いに関しての事だったりするのは、やはり妹として鬱憤が溜まっているからなのだろうなと適当に一方通行は理由を付けた。
「まあまあミドリ、落ち着いて。襲って来た敵は全部破壊したんだから」
「どうして戦わなきゃいけなかったのって話をしてるのっっっ!!!!!」
「え~~? でもゲヘナの委員長さんが頑張ってくれてたじゃん」
「そう言う話じゃなぁぁあああいッッ!」
なんともまあどうでも良い事を一方通行が考えている横で、宥める姉と厳しい指摘をする妹というお馴染みのような構図が出来上がる。
いつもの口喧嘩をする二人を見る一方通行は、日常はこうなのにどうして戦闘中は息ピッタリの抜群の連携を見せられるのか理解が出来ない。
ただしモモイの言う通り、ここまでの道中で最も獅子奮迅の活躍をしたのはヒナであることは否定のしようがない。
モモイ、ミドリも大分奮闘していたが、やはりゲヘナの風紀委員長の強さは一段階、いや二段階は飛び抜けていた。
モモイやミドリが撃ち漏らした敵を確実に撃破。
死角からモモイやミドリを狙う小型ドローンの攻撃が始まる前に的確に破壊。
大型の重装甲相手には率先して攻撃を仕掛け、三人がかりで確実に処理していく処理能力の高さ。どれをとっても高水準であり、ゲヘナでトップクラスの実力を持つという肩書は伊達じゃない事をこれ以上なく一方通行に知らしめる。
最悪ヒナ一人でも突破出来たなと一方通行は無情にもそう評するも、一方でやはりモモイとミドリの連携力の高さは流石としか言えないと二人に高評価を下す。
実力こそヒナとは遥か彼方程の開きがあるが、二人の息の噛み合いぶりはある程度の格上ならば渡り合えるどころか御してしまう程度には洗練されている。
双子である。
それでいて性格が違う。
故に発生する戦い方の違い。
されど双子だからこそ分かるお互いが次にするであろう行動の完璧な予測。
二人だから出来る、二人にしか出来ない利点を最大限に生かした戦術は、ヒナがいたからこそ見劣りした物の、例えヒナがいなかったとしてもこの場を切り抜ける事は容易だっただろうなと、一方通行に確信を抱かせるには十分な力を披露していた。
ただし日常に戻るとこんな風に互いの折り合いの悪さが如実に顔を出し始めるが。
まァ、それも含めてコイツ等なンだろォな。等と適当に納得出来る着地点を決め、一方通行はこの考察を終わらせる。
「ミドリ、そろそろ機嫌直せ」
「ぅうううう、先生がそう言うなら……」
いつまでも膨れていたミドリだったが、一方通行が宥めると途端に素直になり始める。
その変貌ぶりに先程まで見せていた強情さは何処へ行ったんだと思いつつも、特に考えない事にした一方通行はさて、と周囲を見渡しながら仕切り直す。
「ここは一体どォ言う場所なンだ? ロボットが近寄らねェよう設定されてる事からして、何らかの重要施設の跡地なのは確かだろォが……」
「ならあのロボット達はここに近寄る連中を追い払う為の兵器だったってことですか?」
「かもしれねェな。連邦生徒会の連中はそれを知ってて廃墟への出入りを制限した。可能性としては十分考えられる」
とは言え、この工場自体を隠したがっていたという線も普通にあり得る。
ロボットが追いかけて、ある程度まで近づいたら逆に追って来なくなるように設定された工場、誰がどう聞いても怪しさ満点と言うしかない。
本来ならば近づけば近づく程攻撃は苛烈にならなければおかしい。
追い払うのが目的ならばそうしなければならない。
以上の事から、一方通行はミドリが挙げた可能性と自分の中で組み上げた仮説。連邦生徒会が廃墟を封鎖していた理由はそのどちらとも擁していたからではないかと仮定する。
何せ近づく物体を認識し集団で追いかける機械仕掛けの軍団だ。
遊び半分で入った生徒が機械によってボロボロになり意識不明に陥った後も尚、無慈悲なロボットから弾丸を浴びるような事態になりかねない。
そうまでしてまで厳重に守られている雰囲気があるこの工場。
ロボット軍団が入り込めない設定にされているからこそ、そこから先は人の手で守ろうと考えられてもおかしくはない。
人とロボット。二重で守られていた場所。
そう考えれば、案外しっくりと来る物がある。
その場合次に重要なのは、
そうまでして守りたかったこの場所は、一体何が作られていた場所なのかという事。
どうにも気色が悪い場所だと一方通行は感じた。
掘り起こしてはならない物が眠っているような。もしくは眠らせたままにしておかなければならない物が潜んでいるような。
そんなぬめりとした感触が、一方通行の胸を圧迫する。
言ってしまえばただの勘。
しかしその勘が訴えている。
ここには何か、只ならぬ物があると。
(全員で動くのが最適ではあるンだろォが、…………チッ、出来れば俺一人で先に行きてェ)
モモイ、ミドリ、ヒナの三人を見る傍ら、その選択肢を選びたい衝動に駆られる。
勿論言い出した所で全員から反論されるのは予想している。危険だと主張しここで待ってろと三人に向かって言えば、尚更自分達が先に行くべきだと反撃されるだろう。
その心情も理解するし彼女達の耐久性を考えればそれが妥当であり選ぶべき真っ当な選択である事も彼自身分かっている。
感情論と理性論は別。
今更そんな当たり前な事を自分自身に叩き付けられる一方通行は、下らねェなと理性的な自分を評する。
『接近を確認』
何処からともなく機械的な音声が部屋全体に響いたのは、一方通行がそんな風に自分を見つめ直していた時だった。
バッッ!! と、声が聞こえた瞬間一方通行は即座に意識を現実に引き戻し、左手でミドリを庇う様、腕を真横に伸ばし彼女を自分の後ろに引き下げる。
わっ。とミドリから驚きや何やらが多数含まれたような叫びが聞こえるがそんな事を気にしている余裕は一方通行には無い。
「固まれ」
短くモモイとヒナに伝える。
その言葉にモモイはわたわたと慌てながら一方通行の背後に回った。
だが、もう一人の方は、ヒナの方は彼の思惑とは違う方向に動く。
彼女は一方通行の正面に。彼を庇う様な立ち位置を貫き始めた。
当然、それを見る一方通行はヒナの行動を咎めようと口を開く。
「ヒナ、俺の後ろに回れ」
「それは聞けない」
だが彼の要求は一蹴された。
彼女が言いたい事は十分に伝わるが故に一方通行は苦虫を噛み潰した表情を浮かべる。
ヒナの頑なな様子から察するに折れる気配は無い。
強引に後ろに引っ張っても良いが、そうすればそうすればで彼女も何かしらの方法を取って来るだろう。
力勝負になった場合、一方通行に勝てる要素は無い。
よって今の状況を不本意ながらも受け入れるしか無かった。
ままならねェな。と、愚痴るだけで留めていると
『対象の身元を確認します。才羽モモイ。資格がありません』
「え!?」
『対象の身元を確認します。才羽ミドリ。資格がありません』
「ちょ、ちょっとどういう事!? なんで私の名前を知ってっっ!?」
『対象の身元を確認します。空崎ヒナ。資格がありません』
「っっ! 先生、出来る限り私の近くに!!」
工場のどこかから聞こえる機械音声が、彼女達が誰であるかを認識しているかのように発声し、資格という意味深な単語を散らし始めた。
抑揚を見せず、感情を見せず、正真正銘の機械音声によって紡がれていくそれらの言葉は、モモイを動揺させ、ミドリを困惑させ、ヒナに警戒心を持たせた。
無論、それは一方通行も同じ。
彼は未だ機械に名を挙げられていない、自分に資格があるかどうか告げられ始めるまでの一瞬を用いて、様々な憶測を組み立てる。
資格が何なのかはともかく、全員資格が無いと分かれば排除の方向に動いて来るのか。
それとも工場を封鎖し出られなくするのか、
資格が万が一自分にあったとした場合に何が起きるのか。
もしそうだとして、結局資格がないと判断されたこの三人はどうなるのか。
数々の最悪を想定し、その場合どう動けば全員に危害が及ばないかを組み立てる。
そうして、十分な心構えが終わった時、
『対象の身元を確認します』
一方通行の、審査が始まる。
だが、
『……エラー。名称不明』
流れてきたのは、考えてみれば当然な回答だった。
「……だろォな」
この工場は、ここにいるのがミドリで、モモイで、ヒナである事を正確に判定した。
であれば当然、ミドリ達は何らかの形で、彼女達の意思に関係なくキヴォトスに存在する大きなデータベースに個人情報を登録されていると考えるのが自然であり、それに従って考えた場合、一方通行はキヴォトスにやって来て以降何らかの検査を受けた事は無く、必然的にデータベースに登録されている筈も無い。
該当データ無しとされるのは、むしろそれが普通だった。
一方通行としてはここからが本番となる。
これで全員が資格無しと判定された。
そればかりか自分の存在は機械にとって完全な例外とまで来ている。
敵性存在と認定されても何もおかしくない。
息を殺し、身構える。
何が起きても即座に動けるように。
周囲全てに視線を飛ばし、死角を生み出さぬ様全方位に意識を傾けていると。
『…………、資格を確認しました。入室を許可します』
淡と、そんな音声がどこからともなく流れた。
何? と、一方通行は放たれた声に訝し気な表情を浮かべる。
「え!? ウソ!?」
「先生は資格有り、ってどういう事……!?」
「な、なんだか分かんないけどやった! 先に進める!」
それは他の少女達も同じだった。
ただ一人、モモイだけは困惑よりも嬉しさが勝っているような反応だったが。
しかし、当の一方通行は素直に喜べる程悠長な頭を持っていない。
基本的に彼は、物事を深刻に考えてしまうタイプの人間である。
故に、これを良い事とは彼は思わない。
何かあると、まず勘繰る。
それが、一方通行の思考回路だった。
データが無い筈の自分だけが、何らかの資格が有りと判定される。
それは流れの筋が通っていない話だ。
何故データ無しである筈の自分に資格がある。
(それとも、それが資格有り無しの鍵なのか?)
思い付いた一つの可能性。
データに登録されているからこそ資格が無く、データに登録されていないからこそ資格が有る。
データに存在していない事。それは即ちキヴォトスの外からやってきている事が条件。
憶測の域を出ない物ではあるが、それならばある程度納得が行く。
その事については一つの決着を経た。
しかし、それ以外にも問題点がある。
つい先ほど、生み出された疑問点がある。
「入室って言われたけど、扉なんて入り口のこれぐらいしか近くにないよ?」
一方通行が考えていた疑問は、モモイが口に出す事によって全員に周知され。
『下部の扉を解放します』
その問いに対する答えかのように、タイミングよく機械音声が流れた。
まずい。
と、一方通行は一瞬でこれから何が起こるかを理解した。
周囲に扉は入り口の一か所しかない。
辺りにあるのは壁と床だけ。
当然、ここに下部にあたる扉と呼べる物は存在しない。
ならば、下部そのものが扉となる。
自分達が立っている場所が。
床が、言葉の通り扉になる。
その可能性が非常に高い事を見抜いた一方通行は、三人に今すぐ工場から飛び出せと叫ぼうとして。
刹那。
ガコッッッ!! と言う音と共に床が開いた。
開いた場所は、一方通行達がいる場所のド真ん中。
瞬く間に足場を失った一方通行達は、その身を宙へと放り出され、
そのまま身体を奈落の底へと落下させて行った。
「わっっわぁぁああああああああああああッッ!?」
「せんせっっ! きゃぁぁあああああああああッッ!!!」
落下に身を任せるしかないモモイと、一方通行を呼びながら悲鳴を上げて落ちるミドリ。
二人が落下していくのを間近で目撃しながら、彼女達と立場を同じくして落ち続けてる一方通行は、とにかく彼女達の下に潜り込まねばと杖を収納し、両手で彼女達二人を抱え込もうとする。
しかしその直前。
ガシッッ! と、彼の身体は一人の少女によって抱き抱えられた。
「ッ!? 待ちやがれヒ──」
そこから先の言葉は言えなかった。
待ちやがれヒナ。そう彼が言葉を言い終える前に。
トン……。
彼の身体は、否、彼を抱えたヒナの身体が、地面に軽い音と共に着地する。
どうやら、背中の翼を使って落下の衝撃を和らげたらしい。
落ちていた時間から計算するに危険視する程の距離を落下していた訳では無かった事が幸いし、ヒナも、そして彼女に抱えられた一方通行も、特に大きなダメージは無かった。
「へぶっっ!?」
「あうっっ!?」
それは同じくこの場所へと落ちていたモモイとミドリの二人も同じ。
しかし、残り二人は自由落下に身を任せていた為、大きな落下音と共に二人はそれらの悲鳴を零した。
二人の姿こそヒナが壁になっているのもあって確認出来ないが、間抜けそうな声を出している辺り、ダメージは少なそうに見えるのが幸いか。
……ふぅ。と、二人が無事であるのを声で確認した彼は誰にも聞こえない程度に、もしくは自分自身すら自覚してない程に小さな息を零す。
「先生、大丈夫だった?」
「……気ィ使い過ぎだ。次があったら俺よりあの二人を支えてやれ」
痛そうな悲鳴を上げている二人に目もくれず、ヒナは真っ先に彼を気遣い、対する一方通行はヒナに言っても無理な相談だろうなと思いつつ自分よりもあの二人を率先して救助してくれと頼み込みを始める。
どうにもヒナは一方通行を優先しすぎているきらいがあった。
それは状況を鑑みればあまりに普通な事なのだが、一方通行としてはあまり好ましい事ではない。
守られる事が嫌いとかそう言う話ではなく、助けられる相手が他にいるならまずそちらから助けてやって欲しいという思考がそうさせる。
なので今回の事を機に出来れば自分への優先度を下げて貰いたい。
まぁヒナ相手には効果が無いんだろうなと半ば諦めつつ、それでも一応願いは聞いて欲しいとそんな思いを込めて一方通行は提案するが。
「いった~~~い! お尻打ったぁぁあああッッ!!」
「うぅぅ、先生は!? 無事!? あ、無事だ良かったぁぁ……って! ヒナさん!? い、いいいいつから先生を抱き、抱き抱えッッ!!!」
「……、先生をこれからも優先すべきね」
「返す言葉が無ェなァ……」
彼の願いは、想像の十倍以上元気なモモイとミドリの声により却下される運びとなった。
ヒナと一方通行が互いに脱力するようなやり取りをする中、その二人の様子を見て震える声を出すミドリがすかさず立ち上がったかと思うと、つかつかと歩いて来てはヒナに抗議を始める。
「そ、そそそそうやって先生に良いカッコするのズルイ!! と言うかいい加減先生を降ろしても良いんじゃない!?」
「……まぁ、それもそうね」
「なんでちょっと惜しそうにしてるの!! 先生もビシっと言って良いんですよ!?」
「一番ビシっと言ってるのはお前だと思うンだが……」
一番最初、ゲヘナでヒナと会った時のおどおどしていた感じはどこに行ったのだろうか。今のミドリはヒナに対しまったく気後れする事なく堂々と意見を口にしていた。
とは言え確かに彼女の意見も正しいなと、一方通行はヒナにそろそろ降ろせと指示を出し、その言葉に渋々、何故か本当に渋々と言った感じで降ろされる。
一般的な感性の持ち主ならば、女の子にお姫様抱っこされるというのは恥ずかしさやら情けないやらちょっと嬉しいやらで色々と慌てふためきそうな物なのだが、彼女達が相手にしているのは一方通行。
降ろせとは思う物の、そこに恥ずかしいや嬉しいやらの感情は無い。
故に彼は無反応のまま彼は地面に降り立つ。
途端、一方通行を下ろしたヒナが、ほんの少しだけ名残惜しそうな顔をするのが見えた。
どうしてそんな顔をするのか今一理由が掴めなかった一方通行だったが、まあ自分の機嫌は自分で治すだろと適当にその思考を終わらせる。
そのまま一方通行はさてここは一体どういう場所かを知る為に周囲を見渡そうとして。
「うぅぅうううっ! 地面かたいぃいいいいいっっ! ぐすぐすっっ……!」
「……、はァ、モモイ。そンなに強く打ったのか?」
背後から未だ痛がるモモイの声を聞いた。
ぐすぐすと声に出して言ってる事からして身体的な異常はほぼ無いであろう事は分かっていた一方通行だったが、モモイ達を相手では見捨てる事が出来る非情な性格になれない為、嘆息しつつ未だへばっている彼女の様子を見る為に背後へと振り向く。
「ダメッッ!!」
「うぐォァッ!?」
瞬間、ヒナの両手で一方通行の目が凄い力で覆われた。
ヒナに捕まれた目元付近から、ギチギチと絶対に鳴ってはいけない音が無慈悲に聞こえ始める。
突然の暴挙と呼んでも差し支えないヒナの奇行、および容赦無しに締め付けられる目の痛みに一方通行はらしくない声で呻いた。
ヒナがそんな奇行に走った理由が、起き上がる事もせず無意識にお尻をこちらに向けてさめざめと涙を流すモモイを見てしまったからだというのを一方通行は知らない。
結果、ヒナのえっちな物を先生に見せたくないという反射行動によって彼は理不尽な攻撃を受けた。
「離しやがれヒナァッッ! 俺の目が潰れるンですがァァァアッッ!?」
「モモイ、早く起き上がって。というかこっちにお尻を向けてさすらないで。そのせいでとても先生に見せられた物じゃない光景になってる」
両目を抑えるヒナの手を何とか引き剥がそうと左手に力を入れつつ一方通行はそう抗議するも、彼女はピシッ! と鋭い声でモモイにそう指示を飛ばすだけで一方通行を解放しようとはしなかった。
駄目だ、こっちの話を聞いちゃいねェ。
ヒナの言動からこちらの発言は全て無視されていると悟った一方通行は、残ったもう一人。この場において唯一味方になってくれそうな存在。具体的には才羽ミドリに救援の言葉を投げる。
「ミドリッ! コイツ何とかしろッッ! 無理やりでも良いから引き剥がせッ!」
しかし。
「お姉ちゃんスカート! もうチラを通り越してモロになってるから早く直して!」
「そんな事よりも痛いって言ってる私を助けてくれても良いじゃん!」
「お姉ちゃんのお尻の痛みなんてどうでも良いからさっさと立って!」
「ミドリの鬼ィ!!」
肝心のミドリも助けを求める一方通行と会話せず、もっぱらモモイと姉妹喧嘩を繰り広げ始めた。
お前等が鬼だ。等と心の中でツッコミを入れつつ一方通行はヒナが解放してくれるのをひたすら待ち続ける。
結局、一方通行が解放されたのはそれから十秒程後の事。中々立ち上がらないモモイの姿に痺れを切らしたミドリが強引に彼女を立ち上がらせてからの事だった。
──────────────────
結局、上から落とされたとは言ってもそこまで高所からは落ちなかったんだなと、仲間内での一悶着に一応の決着が付いた所で一方通行はポッカリと一部分だけ開いた天井を見上げながら所感を述べる。
考えてみれば当たり前の話だった。
機械は下部の『扉』を開くと発声した。ならばそれが遥か深い底へと続く穴な訳が無い。
では、扉を潜った先であるここはどこなのか。
一方通行は何度目になるか分からない周囲の見渡しをもう一度行う。
光は上に開いた穴から僅かに届いており、本来真っ暗だった筈のフロアは最低限物を視認できる程度まで視界が確保されている。
薄暗い世界の隅々に視線を流すが、この中で目ぼしい物はただ一つを除いて無いと言えた。
欠けたコンクリートの破片。
壁に張り付いているどこかへと続いてそうな太いパイプ。
閉じ込められたかと錯覚する程に何もない四角状の部屋。
落とし穴に落ちた事を鑑みれば、破棄された工場としてはどれも普遍的な物ばかり。
ただし一つだけ。
一つだけ、一方通行達四人全員の目を引く物があった。
それは。
「扉、だね」
ミドリの言葉通り、一つの大きな鉄製の扉がその存在を主張していた。
落とし穴に落ちた先に待っていた部屋にあったのは、次の部屋へと導く為の扉だった。
回りくどいな。と一方通行は素直に思う。
そして、周囲を見渡した結果ここを開けるしか無いであろう事も把握する。
この扉が開かなかったら密室の完成だが、一方通行に焦りは無い。
ここからの脱出手段は空を飛んで行くしかないが、都合よく一方通行は空を飛べる道具を所持している。
この扉が開かなかったとしても、どうにも出来るなと算段を立てた一方通行は手短に三人を呼び掛け、指示を送る。
「ヒナ、ゆっくり開けろ。ミドリ、モモイ、何が出て来るか分からねェ。警戒はしとけ」
ええ、とヒナが了承しつつ扉に近づき、ミドリとモモイがコクンと頷きながら銃を手に取る。
二人が準備出来たのを見たヒナは、グッッと扉をゆっくりと押した。
ゴォォォォ……ッ、と、引き摺るような、もしくは芯に響くかのような音と共に扉が重々しく開かれていく。
音を立てて開く扉はその奥に広がる光景を徐々に徐々に全員に共有し、
そして、扉が大きく開かれた途端、一方通行達は空から差す見慣れた光に目を眩ませた。
(太陽光か……っ)
まず目に飛び込んできたのは光、太陽光だった。
太陽光である以上、それは決して明るすぎる物ではない。しかし最低限の明かりで地下に居続けていた結果、突然飛び込んできたその見慣れた光であっても一瞬目を閉じてしまう程にそれは輝いて見えた。
そうして僅かな時間、眩さに目を細めていた一方通行は、空から伸びる太陽光がある一所を地下とは思えない程に明るく照らしている事に気付いた。
段々と目が慣れて来た一方通行は、その光が差している場所へと視線を向け。
何か、少女の姿が見えるな。等と考えた瞬間。
「「見ちゃダメ先生!!」」
「ぐァァアッッ!?」
ミドリとヒナの同時目隠し攻撃により、またも視界を奪われる事となった。
ビキビキビキッッ!!! と、先程よりも激しい、最早人体に被害が無い方が不思議なぐらいの音が目元から走り始める。
「何あれ!? え!? 女の子!? 何で裸!?」
「先生絶対見ちゃダメ!! 絶対! 絶対だから!!」
「見るも何も全力で目ェ塞いでる奴が何言ってやがンだ見ねェから離せってンだミドリ、ヒナァァァッッ!!」
一方通行の右目を後頭部から挟むようにして塞ぐミドリが酷く動揺を見せているかのような声を零す。
対するヒナは一方通行に絶対この先の景色を見せまいと、ミドリ以上に左目を塞ぐ手に力を入れ、結果彼女の方から骨が軋んでいるのではないかと錯覚する程の音が響き始める。
このままでは頭をへこまされる。
これ以上の脳へのダメージは御免だと一方通行は二人の締め付け攻撃に全力で抗議し、引き剥がそうと無駄な努力を重ね、同時に何もこの先の光景を見ない事を約束してみるも、二人揃って無情にも解放してくれる様子は無かった。
あんだけ言い争いをしていたのに、どうしてこんな時だけ息ピッタリなんだと一方通行は思わずにはいられない。
眠れる少女との邂逅。
裸の少女との遭遇。
その第一幕は、一方通行の苦悶に彩られた声が響き渡るだけと言う、ある種最悪の始まりを迎えた。
「ぐがァァァアアアアアッッ!! テ、テメェ等後で覚えてやがれェエエエッッ!! つゥかさっさと手を離しやがれこのクソガキ共ォォォッッ!!!」
ミドリが可愛すぎる。
メイドミドリが可愛すぎる。
もう一度言います。ミドリが可愛すぎる。
普段は身に付けないスカートが眩しい。
尻尾で持ち上がっているのがどこまでも卑しい。
総合評価、SSSですお疲れさまでした。
彼女がガチャ実装されていたらお金が死ぬ程飛んでいました。危ない。危ない。
そして自分が今パヴァーヌを書いていてよかった。沢山ミドリを書ける。
もし今アビドス編を書いていたら、無理やり彼女のシーンをねじ込んでしまう所だった。危ない。危ない。
少し落ち着きまして本編。
かなりわちゃわちゃした感じになっていますが、パヴァーヌは大体こんな風に進むのでいきなりシリアスするよりも初めなのでゆるくやっております。全員。
モモイが完全にアホの子になっています。
ミドリと対極的な位置になるよう書いているだけなのにどうしてこんなことに……。
ヒナ、モモイ、ミドリ。
このメンバーは身長が低く顔が幼いのも相まって一方さんは過保護モードに入りがちです。モードが完全に切り替わってる。それはヒナ、ミドリにとって守られるという嬉しさがある傍ら、隣に立つ女の子としては見られていない事の証左でもあるのでそれぞれ難しい所。
まあヒナは完全に守られる側というより守る側に立っていますけどそれはそれ。
一方通行としての理念とヒナの理念は真っ向から対立しております。難しいね。
次回からあの少女が本編に絡み始めます。
GW中ですが、更新速度はいつも通りだと思ってください。