「うきゅぅぅぅう…………」
ゲーム開発部の部室で、床で突っ伏すモモイが潰れた小動物のようなか細い声を上げている。
そろそろ勘弁してやるかと言う一方通行の慈悲により、漸くにしてお仕置きから解放された直後の光景だった。
「うぅぅ先生のバカぁ……。惚れた女の子を虐めるムーブが認められるのは小学生までだよぉ……」
「誰がお前みたいなクソガキに惚れる奴がいるンだァ? 寝言は寝て言えってンだ」
「ミドリにならこんな事しない癖にぃ……」
「そりゃ理由がねェからなァ」
ぐすぐすと明らかにウソ泣きを披露するモモイを投げやりな態度で一方通行はいなす。
話し半分、いや一割程度も彼女の言い分を聞いていなかった一方通行は、謎にミドリを比較対象にしたモモイの不可解極まりない発言に対し気にする素振りも見せなかった。
それはモモイなりのミドリに対するサポートのつもりだったのだが、敢え無く効果無しとなってしまったらしい。
お姉ちゃん……。とミドリが恥ずかしそうに呟いてる横で彼はアリスから意気揚々と手渡された彼女の顔と名前が刻まれた学生証を眺めながら一方通行はモモイ達の手際の良さと強かさに嘆息する。
「つゥか、いつの間に制服を用意したンだァ? おまけに学生証まで作り上げてるじゃねェか」
『天童アリス』
学生証にはそんな名前が刻まれていた。
恐らくこの調子なら生徒名簿にも名前が刻まれているのだろう。
無論、モモイ達にそのような芸当が出来る訳がない。
ヴェリタスが一枚噛ンでやがるな。と、一方通行はモモイの協力者たる数名の顔を思い浮かべる。
「はい! これでアリスは正式な仲間としてパーティに加わりました!」
一方通行を眺めるアリスは嬉しそうな顔をしていた。
パンパカパーンと自分で音声を発しながら喋るその様子はモモイ達の英才教育が完全に成功している証左に他ならない。
頭が痛くなるような感覚が走るが、本人が満足しているならこれ以上何かを言うのはご法度なのだろうなと、一方通行は彼女の口調についてはこれ以上何も言わない事を決める。
それに一々堅苦しい物言いで喋るよりかはこっちの方が人付き合い的には良いかもしれない。
どっちにしろミレニアムに彼女を置いておくように話を進めるのなら、これぐらいの偽装は必須事項であるかと、結果的にモモイの判断は正解だったなと一方通行は内心思う。
「で、俺を呼ンだ理由は? 『廃墟』にもう一度行くからで良いのか?」
「あ、あ~~……。ん~~~~……」
理由を聞き出した途端、モモイが途端に口を閉ざし始めた。
そのまま彼女は何かを考える様に頭を捻らせた後。
ピコッッ!! と、まるで良い理由を考え付いたかのように快活な笑顔を見せると。
「それなんだけどね。まずはアリスに専用の武器を渡そうかなって。武器の一つは持ってないと色々と難しいからさ」
何とも世紀末な発言を繰り出した。
キヴォトスで過ごす以上彼女が言っている事は至極正しいのだが、銃社会ではない世界に住んでいた一方通行の常識からするとモモイが語った内容はぶっ飛んでいるにも程がある。
しかしここは同じ学園都市でも一方通行が良く知る学園都市ではない。
キヴォトス。
生徒の誰も彼もが銃を所持し、そこかしこでいざこざが起きる場所。
その場所で何か揉め事が有っても対処出来る様にアリスに武器を支給する。
モモイ達の常識に則って考えた場合あまりにも真っ当な提案だった。
同時に、じゃあさっき言い澱んだのは何だったのかと一方通行は思う。
何かをはぐらかされてるような気配がこれでもかと感じるが、今そこに言及しても意味は無いかと、一方通行は一端彼女の思惑に踊らされる事を選ぶ。
何か変な事があったらその時に聞けば良い。モモイが悪知恵を働かせた程度の策略ならばどうせ大した物でもないだろう。
「つまりあいつ等に融通を利かせろってかァ?」
「そういうこと!! 流石先生話が分かる!」
気持ちの悪い煽てに一方通行は苦い顔を浮かべて何かを振り払うジェスチャーで返事をする。
だが一々考えていても仕方ない事だなと早々に一方通行は考える事を止め、とりあえずやる事は決まったな。と、一足先に部室を後にし始める。
その傍ら、
「ユズはどォする」
一人の少女の名を呼んだ。
「え、えっと……お留守番……でも、良いですか……?」
呼ばれた少女は、もじもじと人差し指同士を擦り合わせながら、申し訳なさそうな声色でそれでもハッキリと自分の要望を口にした。
分かった。と、一方通行は簡素な返事を返す。
最初から彼女は同行して来ないである事は予想していたが、それでもハッキリと声に出す事は進歩だなとその姿勢に一方通行は評価を下す。
「じゃァ行くぞ。時間が無ェんだろ」
言いながら、今度こそ一方通行は部室を後にする。
モモイが何を考えたかはともかく、ミレニアムプライスで成果を出さなければならないゲーム開発部が使える自由時間は限りなく少ないのは事実だ。
一分一秒の時間が生死を分ける段階に入っている。もしくはもう入る寸前なのは間違いない。
ここで普通の人間ならば自分達の状況をまず何とかする。
その後アリスに関するいざこざを解決するのが一番賢い判断だろう。
なのにこの三人は誰一人反対意見を出す事無くアリスの事を最優先事項にしている。
それが正しいのかどうかはともかくとして、仕方ない出来る限り協力してやるかと一方通行が思ってしまう程度には三人に肩入れしていた。
そもそもの話として、朝が壊滅的に弱い一方通行が時計の短針が八を指す前にミレニアムにやって来ている。これ事態が彼なりにゲーム開発部の手助けをしたいという意思の表れに他ならない。
結局、アリスがいようがいまいが協力する事実に変わりは無いのだ。
ただ少しだけやる気のメーターが上がったぐらい。
少しだけ、ダメになったらダメになったでどうにかしてやろうかと思ったぐらい。
面倒くせェ。と口癖のように吐き捨てながらも、彼なりにミドリ達を助けてやろうと考えていた矢先。
「あ、部室の存続はアリスが入ったから確定オーケーなんだよ先生! なので時間制限はもう意味が無い物になっちゃったんだよね!」
「……は?」
彼が抱いた決意を全て無駄にするかの如き明瞭快活なモモイの声が部室内にこれでもかと響き渡った。
──────────────────―
部活を継続し続ける条件は主に二つの内どちらか片方を満たさなければならない。
一つ目は部員を四人以上確保している事。
二つ目はミレニアムにおいて部としての成果を証明する事。
ゲーム開発部は四人以上の部員を長い間確保できなかった為、ユウカからとうとう雷を喰らい後者を用いて部活を存続させなければならない事態に陥った
が、今回目出度くアリスが加入した事により、四人以上の部員を確保できてしまった為ミレニアムプライスに作品を出品する必要も無ければ、G.Bible捜索に『廃墟』に赴く必要も無くなった。
有り体に言ってしまえばめでたしめでたし。と言う話である。
(まァ加入したと言ってもこの様子じゃモモイが強引に加入させたンだろォがなァ)
まさかアリスが自主的に入る筈が無いと、一方通行はどうせモモイを筆頭にした三人の口車に乗せられたなと昨日部室で起きていたであろう出来事を推測する。
何せアリスは先日まで『廃墟』でひたすら機能を落として眠り続けていたアンドロイドだ。『ゲーム』と言う単語を知ったのも体験したのも先日からの事だろう。そんな彼女が部活という物に、ゲーム開発という物に興味を持つ確率は極めてゼロに近い。
とは言えどんな形であれ加入は加入。
追い出される危機は過ぎ去った事に一方通行はほんの僅かな安堵と、同時にとんでもない質量の疲れに襲われていた。
理由は単純。自分の頑張りが全て一瞬でパーにされたからである。
何のために誰の為にこんな朝早くからミレニアムにやって来たと思ってるんだとボヤきたいのを必死で我慢しながら彼はエンジニア部の部室でコーヒーを飲みながら目の前で繰り広げられているワチャワチャ劇を傍観していた。
「武器の強さは勝敗を分かつ大事な分岐点だ。それを確固とする為にここ、エンジニア部を選んだのは正しい選択と言える。そっちの方に私達が作った多くの試作品が並べられているから好きなのを持って行くと良い」
アリスの武器を調達する場所としてエンジニア部を選んでくれたことが嬉しかったのか、ウタハは上機嫌で部屋の隅に置かれている数多の武器コーナーを紹介していた。
ありがとう先輩とお礼を言うモモイは早速アリスを引き連れてそのコーナーを物色し始める。
「ショットガン……いやぁ趣味じゃないなぁ。えーとこれは……多連装式携行ロケットランチャー!? 電話機能付き!? ダメダメ! 普段使いする武器じゃないよ! 却下却下! え? アリス何? その隣? これどっからどう見てもネズミ花火じゃん! 何でこれが武器扱いされてるの!? 全員の目を一瞬点にさせることしか出来ないよ!」
物騒な物がありありと並べられている横にちんまりと置いてあったネズミ花火らしき物体を手に取りながらモモイが叫ぶ。
「あ、それはネズミ花火を装った爆弾だよ。半径二十メートルを範囲にあらゆる物を跡形も無く吹っ飛ばせる代物さ。欠点は投げたと同時に爆発するから自分も身を守れない事だね」
「大惨事じゃん何でこんなの作ったの!? と言うか何でこんな物を置いてるの!?」
「捨てるのが面倒く……勿体無くてね。後処理も色々気にしないといけないし」
「ほぼほぼ言ったよ面倒臭いって言ってるよ! 私達が部室ごと吹っ飛ぶ寸前だったの分かってる先輩!?」
このやり取り見覚えがあるな。と言うかここにやって来く度に一回は経由しているやり取りだな。等と一方通行は他人事目線でモモイミドリの奮闘劇を眺める。
エンジニア部は優秀なメンバー揃いではあり、制作している有益な武器や制作物もそれなりの数が存在しているのだが、いかんせん彼女達の基本概念として明後日の方向に思考をぶっ飛ばしてアイデア製品を作る故に弊害として欠陥品も多く製造してしまっている。
明後日の思考と彼女達の技術がガッチリと噛み合って生み出された便利な道具や武器はとことん使える物である為、その利便性の高い製造品ばかりに注目が集まり、その下に埋もれている数多の危険物が表出化していないだけで、彼女達の制作物にはどうしてこんな物を作ったのか疑問でならない物がそれなりに存在している。
チラリと、一方通行は机の上に置いてあるコーヒーメーカーを見やる。
これも一見ただのコーヒーメーカーだが、製作者であるヒビキ曰く無駄に録音機能とジャミング機能。そしてボタン一つで爆発し熱々のコーヒーを周囲にぶちまける侵入者撃退機能が備わってるらしい。
彼女達と密接な協力関係にある一方通行自身が思うのも何だが、この三人は優秀であると同時に危険人物である事は意識しなければならない。このコーヒーメーカーもその証拠の一つだ。
意図的に危険な事をしたいという訳でなく、各々の純粋な『好き』や『これやりたい』がこれでもかと詰め込んだ結果良い方に悪い方に行ったり来たりをしているのも性質が悪い。
「何故なら試作品だからね。色々と作ってはここでほう……溜めてるのさ」
「放置って言った! 今放置まで言いかけたよこの人!! ねえこれ大丈夫! 全部ガラクタだったりしないお姉ちゃん!! 本当にエンジニア部で良かった!?」
涙目で姉の肩を揺するミドリと白目で呆けるモモイ。
あらゆる武器を手にとっては逐一入るウタハの解説に適宜ツッコミを入れる様子は遊んでいるとしか形容出来ない物だったが、一方で今回の主役であるアリスは喜怒哀楽のどれとも分別出来ない表情で、興味をそそられない物を見続けているような面立ちでじーっとあらゆる武器を物色し続けている。
困っている。
悩んでいる。
迷っている。
どれも正解であってどれも間違いなのだろうなと、一方通行はアリスが内情に秘めている感情に心を馳せつつコーヒーを喉に通す。
重ねて言うがアリスが目覚めたのは昨日だ。
そして彼女に言語能力自体はあってもそこに『個』は無かった。
目覚めたばかりのアリスは、ただ与えられたプログラムによる最低限な会話だけが出来る存在だった。
それはつまり彼女には何も与えられていなかった、もしくは全て記憶を消去されているであろう事が推測できる。どちらにせよ結論を言えば彼女は現在『何も知らない』のだ。
そんな彼女にどの武器が良いか? なんて聞かれても答えられる訳も無ければ選べる筈も無い。
現在のアリスは男が興味ない女性物のアクセサリーを通りがかりの際に暇つぶしとしてウィンドウショッピングしているような状態だった。
様々な飾りや色合いで綺麗さを表現しながら綺麗に並べられているアクセサリーを見て全体的に良いなと思う事は出来る物の、それをどう使うのが、その中のどれが一番人気なのかを推し量る事は出来ない。故に特段興味を覚える訳もない。
アリスも同じだった。
様々な武器を見て大きいか小さいか。強そうに見えるか見えないかと言った、『目で追える分の情報』は最低限知ることが出来る物の、使いやすさや機能性等、知識が無いと分かる筈も無い場所にはてんで処理が追い付かない。追いつかないから分からない。分からないから並べられたものを目で追うだけ。
これでは武器を選ぶにも選びようが無かった。
「やあ……。どうやら困っているみたいだから、良ければ私が見繕ってあげる……」
そんな彼女に助け舟が入る。
悩む彼女に救済の手を差し向けたのはヒビキだった。
ヒビキの言葉にアリスが頷き終える前に既に粗方目星は付けていたのか、置かれている武器の中から一つを取り出し、アリスに差し出す。
差し出されたそれは、どこにでもありそうな拳銃だった。
「見た所あまり戦闘経験は無さそうだから……手頃に拳銃とかどう……?」
アリスの悩む仕草からそもそも武器に対する知識が薄い事を察したらしいヒビキは、銃という武器カテゴリの中で最も手頃で扱いやすい拳銃を彼女に勧めた。
いずれ何かの武器に持ち替えるにせよ、最初はこれが一番良いとするヒビキの判断は正しい。
だが、ヒビキが口に出した『戦闘経験』と言う単語が、思わぬ方向で話をややこしくさせる事になっていく。
「その言葉は否定します。アリスはこれまで人類を二十七回救い、魔王軍と四十六回に渡る戦闘を行い、三桁を超えるダンジョン探索を行って来ました。戦闘経験はそれなりに豊富です」
聞こえて来たアリスの言葉に耳を疑い、反射的に目を向ける一方通行。
そこにはアリスの発言に共感性羞恥か顔を赤くしてあぁあぁ……っ! と震えるミドリがいて。
「そ、それは、凄いね……」
若干引くように笑うヒビキがいた。
しかしそれも一瞬で、彼女は一つ、自分を落ち着かせるようにコホンと咳を一つ払うと、
「とにかく、やっぱり銃器を使用した経験はなさそう……だったらやっぱり一番最初に使う武器は取り回しが良い拳銃が良い……。これはプラスチック製だから反動も少ないし、この拳銃特有の、ミレニアム史上唯一無二のオリジナル機能も搭載している」
改めてこの武器がアリスが最初に扱うには一番良いと推し始めた。
その語りから聞くに、彼女が持ってる拳銃はヒビキ自身が製造したのだろう。機能性を説明する彼女の口調には自信が溢れていた。
だが、その自信は二分の一の確率で違う方向に流れてしまうのを一方通行は知っている。
果たしてこの武器は良い方向に転がった結果物かそれとも悪い方向にぶっ飛んだ異物か、聞いて確かめてやろうと彼は彼女の説明に耳を傾け始める。
「なんとこの武器には、『Bluetooth』機能が搭載されている。これで音楽鑑賞やファイルの転送も自由自在。おまけにNFC機能まで付いてるからコンビニ決済だって可能……こんな機能が付いた武器、ミレニアムのどこにも存在していない。正真正銘の一品物だよ」
お出しされたのは間違いなく後者の方だった。
百歩、千歩譲って『Bluetooth』機能は必要の有無はともかくとしてその機能を持たせているのは良いだろう。
しかし何処の誰が拳銃で決済しようと考える奴がいるのだろうか。
銃にその機能を持たしたとして、その機能で支払う為にレジで銃を取り出した時、果たしてそれが本当に金を支払う為に持ち出したのだろうとコンビニの店員が思うかと言われたら答えは否でしかない。
どう考えても脅されてると思うだろう。
金は払わない。だが商品は貰っていく。反抗するなら撃つ。
強盗が行う行動三拍子が一連の動作の中で綺麗に収まってしまっている。
論外だなこれは。と、言葉に出さず一方通行が事の成り行きを見守っていると、突如アリスがピコッ! と何かを見つけたかのようにトテトテとある場所目掛けて歩き出した。どうやらアリス的にもヒビキの説明はお気に召さなかったようだった。
そんな……自信作なのにと謎に落ち込むヒビキを他所に、アリスは多々ある武器の中からある一つの物をじーっと見つめだす。その武器を見つめるアリスの表情は今までとは違い、好奇心が外からでも感じ取れるほど溢れていた。
アリスがある一つの武器に興味を持っている。
ほぉ、と、その事実に一方通行は声を漏らし、彼自身も何を見ているのか興味が湧いた。
徐に立ち上がり、カツッと、杖をついて歩き出そうとした所で、お目が高いとエンジニア部員三人目。豊美コトリが嬉しそうにアリスの方へと歩み寄り創める。
「これはエンジニア部の上半期の予算約七十パーセントをかけて作られたエンジニア部の野心作『宇宙戦艦搭載用レールガン』です!!」
「え、えっと……?」
彼女の力説にアリスはどう言葉を返して良いのか分からない様子だった。
同時に一方通行もアリスがいる場所に辿り着き、たった今コトリが紹介した武器に目を向け、オイオイとついそんな言葉が漏れる。
『それ』は銃とはとても言えない程の巨大さを誇っていた。
全長は一方通行の身長と殆ど変わらない。
銃口も両手を突っ込んで尚余裕がある程に大きい。
銃では無く『大砲』。
そう言い現わした方が正しいと思うぐらいにそれは規格外だった。
(『
彼女が言い放った宇宙戦艦用というのも頷ける。
そんな物が存在している筈が無いという前提は置いておいて、宇宙戦艦と言う要素を一旦考えないにせよ、これは人間が扱う事を全く想定していない代物である事は確かだった。
「エンジニア部では今、ヘリや汎用作業ロボットに続いて宇宙戦艦の開発を目標としているのです! そしてこのレールガンはその最初の一歩です! 大気圏外での運用を想定して開発されたビーム兵器! これこそミレニアム史上明らかに類を見ない初の試みです!」
宇宙戦艦を開発する為のまず最初の一歩が武装の開発なのはどうなのだろうと話を聞く一方通行は純粋に思う。おまけにこれ一本で既に予算の七十パーセントを使用していると来た。宇宙戦艦なのだから武装はこれ一門だけでは済まない事も踏まえると、本来の目的である宇宙戦艦を完成するまで途方もない時間が掛かるのは確定だった。
と言うかどう考えても完成しないだろう。
じゃあどうしてそんな後先考えずに『
分かりたくないがこの三人と付き合いが長い一方通行には分かってしまう。
どうしてそんな物をと聞けば全員が口を揃えてこう言うのだろう。
ロマンだからだ。と。
「エンジニア部の情熱と技術の全てがつぎ込まれたこの武器には立派な正式名称があります!」
胸を張りながらそう語るコトリに、アリスは少しばかり目を輝かせていた。
いつの間にか彼女の力説を聞いていたミドリ、モモイも彼女の勿体ぶりにゴクリと喉を鳴らす。
「その名も、光の剣『スーパーノヴァ』」
「ッッッッ!!! ひ、光の……剣……ッ!?」
「わ、アリスの目がこれまで以上にキラキラに!!」
「アリスちゃんがこんなに興奮してるの、初めて見たかも……っ!」
語られた名前、スーパーノヴァという単語に一番目を輝かせたのは他でもないアリスだった。
その名前を聞いた途端、彼女は一瞬目を見開いた後、嬉しそうに小さくはしゃぎ始めている。
彼女がここまで感情豊かになっているのを見たのは初めてだった。
モモイ、ミドリもそうだったようで、彼女達もアリスが高揚している様子に驚きを露わにしている。
そのアリスはコトリが『スーパーノヴァ』と名付けている『
「これ、欲しいです……! とても! とっても欲しいです!」
アリスは初めて己の願望を口に出した。
え。と、彼女の言葉にウタハ、ヒビキ、コトリの三人から同時に驚いた様な声が飛び出す。
「偉大なる鋼鉄の職人よ。あの龍の息吹が欲しいのだ」
完全に『スーパーノヴァ』に惹き付けられたアリスはぐいっと、一歩ウタハ達に詰め寄りながら率直にこれが欲しいともう一度伝える。
その表情は宝物を見つけた子どものように輝きに満ちており、向けられた純真な瞳が彼女達三人に注がれる。
だが、アリスの表情とは打って変わって三人は苦い顔を浮かべたままだった。
どうしよう。
そう言いたげに三人は数秒ばかり顔を見合わせた後。
「申し訳ないがそれは出来ない」
エンジニア部の代表としてウタハが一言、アリスにこれを譲る事は出来ない事実を告げた。
「なんで!? この部屋にある物はどれでも良いから持って行ってって言ってくれたじゃん!」
聞いている側からすればあまりにもあんまりな仕打ちに、モモイから当然の指摘が入る。
実際ウタハ達は何でも好きなのを持っていいと言った。
アリスが目を付けた物を嬉々として紹介した。
ここまで丁寧に導線を引かれていざ欲しいと言ったらそれだけはダメだと言われたら抗議の一つもしたくなるだろう。
しかしそれは三人も分かっていたのか、ウタハがまずは落ち着いて聞いてくれとモモイを宥め、アリスに対して向き合うとその理由を語り始めた。
「先程も言った通りこれは宇宙戦艦に搭載する攻撃砲門の一つとして開発した。つまり重すぎるんだ。個人の火器として扱う事を想定されていない」
「つまり、持てないって事ですか?」
ミドリが聞き返し、ウタハがコクンと頷く。
「基本重量だけで百四十キロ。これに光学照準器とバッテリーを足した上で砲撃を行うと、瞬間的な反動は二百キロを超える」
「に……!?」
「ひゃく……!?」
ミドリとモモイが揃ってその重さに驚愕する。
成程その重さでは扱える筈も無いと一方通行はウタハ達が渋った理由に納得した。
人間が取り回せる武器の重量は限られている。
百キロのダンベルを持ち上げられる人間がいたとして、なら百キロの重量がある武器を持って戦えるかと言えば答えはノーだ。まず間違いなく武器に振り回される。
持ち上げるのと振り回すのは訳が違う。
重い物を持てば持つほど運動性能も低下し、体勢も崩しやすくなる。
まして扱うのが銃となれば狙いを絞る行程も考慮しなければならない。
ブレずに撃つ対象に狙いを定め、引き金を引く間も持ち上げる体制を維持する。
これが大砲としての用途で使うなら定点砲撃としての使い道も見出せたろうが、あろうことかアリスはこれを携行し、戦場を動き回る用の普段使いの武器として所望している。
アリスの身長以上もある巨大さを誇る『スーパーノヴァ』
理由を聞けば、ウタハ達がこれだけは渡せないというのも当然の様に頷ける。
彼女が扱うには、あまりにも過ぎた武器と言うしかないのが実際の所だった。
「カッコイイ。そう言ってくれただけで私達は嬉しいよ。本当ならあげたいくらいなんだ。でも……」
俯くウタハの声はこれ以上ない程に沈み切っていた。
本心なのだろう。
可能ならば渡してあげたいが、こればっかりはどうにもならない。
そんな気持ちがありありと滲み出ている。
一方通行も同じくで、これはアリスを説得する他にないなと、さてどうした物かと頭を悩ませ始めた時。
「汝、その言葉に一点の曇りも無いと誓えるか?」
問題の渦中にいるアリスは、落ち込む様子を見せるどころか良い事を聞いたと言わんばかりに笑顔でウタハに質問を始めた。
しかしウタハはアリスの質問の意味が分からなかったのか、もしくは彼女の言動が再び理解しにくい物へと変化したことによる戸惑いからなのか、分かりやすく頭にクエスチョンマークをいくつか浮かべていると。
「た、多分ですが『本当ですか?』って聞いてるんだと思います……!」
すかさずミドリからのフォローが入った。
ミドリの捕捉にウタハはああと、アリスの言葉を理解した後、勿論と続け、
「嘘を言ってはいないが……まさかあれを持ち上げるつもり、という事かい?」
「……っ!」
コクリと、ウタハの言葉にアリスは力強く無言で頷いた。
そのまま彼女は『スーパーノヴァ』の持ち手部分に手を添えると。
「この武器を抜く物……、此の地の覇者となるであろう!」
グッッッ、と力を込め始めた。
出来る訳が無い。
ウタハも、ヒビキもコトリも彼女の踏ん張る様子を見守りながらもどこか冷静な部分でそう判断する。
それはモモイもミドリも同様だった。
重いと思ったら手を離すんだよアリス。と、モモイから心配の声が投げられる。
一方通行は、何も言わなかった。
それは彼女達と同じく持ち上がる訳が無いと思っている気持ちが半分。
しかしそれと相半する感情が一つ、渦巻いているのも事実だった。
即ち、持ち上げられるかもしれないという気持ち。
それが一方通行の気持ちのもう半分を占めていた。
何せ彼女はアンドロイド。
人間ではない。人間そっくりの見た目で製造されたロボットだ。
だがアリスはロボットというにはあまりに人間的過ぎる。
感情もある。学習もする。ソレはあまりにも人にそっくりだ。
こんなロボットは学園都市にも存在しない。
自分達の常識外で動く存在。
そんな彼女に、自分達の常識を当て嵌めても意味が無い。
故に一方通行は何も言わず、成り行きを見届けるべくアリスが奮闘する様子を傍観する。
「んっっんんんんんんんんッッ!!!!」
力を入れているアリスから踏ん張る声が響く。
しかし、彼女の頑張りに反して、『
やっぱり無理だよ。
持ち上げられる訳が無かった。
アリスちゃん。身体傷めるよ。
もう離すんだ。これ以上は危険だ。
いつまで経っても持ち上がる所かビクともしない『スーパーノヴァ』に、固唾を飲んで見守っていた少女達の口から次々にアリスを心配する声が次々と飛び交い始める。
──筈、だった。
だが。
「……ウソ」
「んッッ!?」
「えぇえええええっ!?」
「なにそれっっえっっ!?」
「持ち……上げてる……?」
実際に少女達の口から放たれ始めたのは、アリスを気遣う言葉ではなかった。
驚き、驚愕している物ばかりだった。
最後に言葉を発したミドリの言った通りの事が起きていた。
『
それもゆっくり、ゆっくりではない。
その武器を扱う資格があるかのように。
それを振り回せ、動き回ることが出来る能力がある事を証明するかのように。
少女は、アリスはそれを持ち上げる。
重い物をゆっくりと限界ギリギリの力で持つのではなく、
二リットルの水が入ったペットボトルを取り出す様に軽々と『
「も、持ち上がりました!」
と、嬉しそうに自身にこれを所持する能力が備わっている事を全員に証明した。
その様子に少女達が口々に凄い……。信じられない。と驚きの声を出していく横で。
「アリス。この武器を装着します!」
自分は約束を果たしましたよとウタハ達に宣言した。
その言葉にウタハはコクリと首を縦に動かす。
「ああ、約束だ。持って行ってくれ」
「でも良いんですかウタハ先輩? これ、下半期の予算の大半をつぎ込んだ一品じゃ……」
「良いんだ。どうせ私達には使えない。この子にしか使えないならこの子に使って貰った方が良い」
ミドリの本当に良いのかと言う問いにウタハは一瞬も悩む事無くキッパリとそう言い切った。
彼女に続くようにヒビキもうん。と、一つ頷くと。
「前向きに考えれば……実戦データが取れる様になったとも言える。これは結構ありがたいかも」
「確かに、それはそうかもですがぁ……!」
了承するヒビキとは裏腹に、やはり予算や作った背景に対する思い入れが強いのか、コトリは未だに揺れ動いている様だった。
それを見てスッ、と。モモイ、ミドリ、アリスに見えない位置で一方通行がタブレットを取り出し『モモトーク』を起動する。
送信先は、白石ウタハ。
『コイツに使った金額の全額をシャーレに請求しろ。返信はいらねェ』
秒速でこれを送信し、金の問題を即座に解決させる。
元々彼女達には世話になっている。この程度の手助けはむしろ安い部類だ。
低い値段で見積もりを立ててくることを見越してとりあえず五割増しで返す事を決める傍らで、アリスはありがとうございますと大きな声で礼を言いながらペコリと三人に頭を下げていた。
「いや、礼を言うにはまだ早いさ。何せまだやるべきことは残っているのだから」
「え?」
「ヒビキ。以前に処分要請を受けたドローンとロボット。全機出してくれるかい?」
「え?」
あれ、話がちょっと違わない? みたいな声がモモイ、ミドリの口から零れる。
どうしてこのタイミングでドローンやロボットと言う単語が出てくるのだろう。
どうして処分要請、つまり危険判定を受けたロボットがこのタイミングで出撃するのだろう。
何か、何かとっても嫌な気配がする。
具体的には銃を取らなければならないような話になりそうな予感がする。
そう感じたミドリとモモイが揃って先輩、先輩と小声でウタハを呼んだ。
「あの、ウタハ先輩? 何だか展開がおかしいような……?」
「まさか。まさかだけど。漫画とかでよくありがちな。これを欲しければ私達を倒していけ。みたいなお約束展開が今から待ち受けて……、いた……り……?」
発するのは二人の少女が感じた最悪。
まさかそんな事ないよね。でも一応万が一の保険として言っておかないとね。
そんな気持ちが前面に押し出されている。
予め最悪を言っておけば、どんな話が飛んで来ても何だこの程度かで済ませられる。
そんな防御行動を取っているんだろうなと、二人の慌てようを見る一方通行はなまじ二人との付き合いが長い故に何故そんな事を言い放ったのかの理由を正確に分析した。
同時に一方通行はこうも思う。
脳内で描かれた最悪は、基本的にそれに準えて権限する物だと。
「その通りさ。その武器を持って行きたいなら……」
「私達を倒してからにして下さい!!」
二人が恐る恐る質問した内容に対し、ウタハはハッキリとそれを肯定し、コトリがそれに続いたた。
ガ──ンッッ!! と、二人は分かりやすく衝撃を受けたような顔をし、こうなる事を予想していた一方通行はほらなと言った後に巻き込まれるのは御免だなとコーヒーが置いてある机の方へと戻り始める。
この問題はゲーム開発部の問題だってシャーレの問題でもなければ自分の問題でも無い。
であるならば首は突っ込まない方が良い。常に彼女達の周りに自分がいるとは限らない以上、毎回毎回手を貸すような経験をさせるべきではないという判断からだった。
これが本当に危険な存在だと分かれば一方通行も指示なりなんなりで彼女達の力の一部になっていたかもしれないが、危険判断されたロボットやドローンとはいえ、所詮は実戦配備されていない物。
しっかりと対処してやれば極めて簡単にスクラップに出来る集団でしかない。
それらを総合的に判断した結果、彼はこの戦闘には加わらない事を決めた。
「ええ!? どうして!?」
「武器一つで戦闘までしなくちゃならないの!?」
「他の武器なら何も無しで渡しただろうけど、その武器だけは例外でね。確かめなくてはならない要素が複数あるんだ。それに言っただろう? 戦闘データは取らせて貰うって」
こうなる事を予感していた一方通行とは違い、こうなる事だけはイヤだと考えていた双子は想定通りの最悪がやって来てしまった事態に慌てふためいていた。
だがそうしている間にも、事態はゆっくりと進行して行く。
「前方に戦闘用ドローン及びロボットを検知、敵性反応を確認」
アリスが静かに告げ、モモイとミドリが慌ててアリスが見ている方向に目を向ける。
そこには合わせて三十機程度のドローンとロボットが三人目掛けて近づいている様子が映っていた。
迷っている時間は無い。
どちらにせよ、ここを突破しなければ武器が貰えないのだ。
逃げる選択肢は、初めから用意なんてされていない。
そうやってモモイは、そうやってミドリは己に発破をかける。
「っっ!! しょうがない! やるよミドリ! アリス!」
「ああもう! 分かったよお姉ちゃん! 行きますよ先生! 指示をおねがいしま……先生?」
「俺はパスだ。お前等で何とかしろ。それぐらい出来ンだろ」
「そんな!? ああでもその方が先生がケガする心配が無いから……うん! 頑張ってきます先生!」
「おォ。空回りだけはすンなよ」
はい。と彼の言葉に勢い良くミドリは返事を返していく。
戦闘寸前の間際の会話にしてはゆるさがある会話が繰り広げられる中、モモイ、ミドリ両名の気を引き締めるようなアリスの強い声が響き。
「モモイ! ミドリ! 来ますッ!!」
アリスの初陣がここ、エンジニア部の部室内で幕を開けようとしていた。
『
学園都市ではこれをコイン一枚でぶっ放せるのだから恐ろしい物です。代わりにオンリーワンなんですけども。
とはいえミレニアムの『スーパーノヴァ』もアリス専用のオンリーワンなのでその点は同じですね。
『
同じくアリスを『妹達』と絡めて話を膨らませようとしましたが、脱線が酷過ぎたのでカット。
アンドロイドかそうでないかの違いを除いたら『現状』の境遇は一緒なんですよね。
学習装置で学習したかしてないかの違いぐらい。
これを本編で組み込めなかった。実力不足です……。
まだまだパヴァーヌは続きます。夏頃までには終わらせたい。
次回は戦闘と、そして一方産たちの裏であれやこれやしていた少女がアリス達と関わる……予定。