とある箱庭の一方通行   作:スプライター

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それは人には過ぎた力

 

 

あまりにも展開が無茶苦茶過ぎる。

エンジニア部での一連の出来事を思い返してミドリが最も強く感じる一言だった。

 

武器一つで戦闘騒ぎになるなんて誰が予想しただろうか。

戦闘行為自体が得意ではないミドリは巻き起こる状況に渋い顔を見せるが、かと言ってそれで状況が自分にとって都合の良い物へ好転する訳でも無い。

 

既に相手はやる気満々だった。

とは言え相手は機械。やる気も何もある訳が無く、ただ命令された通りに襲い掛かって来ているだけだが、どちらにせよどんな経緯にせよ自分達目掛けて襲ってきている以上、迎撃するしか選択肢は無い。

 

相手の数は約三十。

眩暈がする程に多い数だったが、幸いにも全機が一斉に襲い掛かる様な鬼畜命令は下されていないらしい。

 

銃口を向けて近づいてくるのはせいぜい十機程度で、残りニ十機弱はこちらの様子を窺うように一定の距離で停止している。どうやら逐次投入させていくつもりらしい。

その事実にミドリは少なからず安堵すると共に、それはそうかと納得する。

 

この戦闘によるエンジニア部の真意は自分達の、アリスちゃんの、アリスちゃんが使う武器の性能を知る為の物、言ってしまえば実戦に限りなく近い模擬戦を行っているだけに過ぎない。

 

そう考えれば大分心も穏やかになる。

いや、それどころかこれは一つのチャンスなのでは無いかとミドリは突如湧き上がったある欲望に身を任せ始めた。

 

(活躍して先生に良い所を見せたい……!)

 

そう、誰にとっても命の危機が無い比較的安全な環境だからこそ考えられる、格好良い自分を見せたいという、恋する乙女が意中の男性に向けるシンプルな欲求である。

 

『廃墟』での戦闘はゲヘナの委員長さんに良い所を全部持って行かれた。

 

『未来塾』での一件はそんな事を考える余裕すら無い程に状況は切羽詰まっていた。

先生を守る事こそ出来たものの、その後逆に守られたりもした。

 

守られたこと自体は嬉しいし、先生の胸板に挟まったあの感覚は未だに焼き付いておりその日はドキドキで寝られなかった程に衝撃的な思い出だったのだが、それはそれとして先生に弱い所ばかり見せたくは無い。

 

その点で見れば今回の降って湧いた模擬戦は渡りに船と言える。

よし。と、意気込みを示す様にミドリは自前のライフルを強く握りしめる。

 

まずは一番早く接近してくるドローン五体を精密射撃で叩き落とす。

相手は機械。受けた被害なんか気にする事無く突っ込んでくるに違いない。

後は単調作業だ。同じことを繰り返して次々に叩き落せば良い。

 

自身が描いたイメージを実行すべく、彼女はライフルの照準を手前にいるドローンに狙いを定めようと目を細めたその時。

 

キィィィィ…………! 

と言う、何かの駆動音が背後から聞こえ始めた。

 

え? と聞いた事の無い音が近い場所から聞こえ始めた事にミドリは思わず音が聞こえて来た方向、後ろへと振り返る。

そして彼女は目撃する。

 

アリスが持つエンジニア部から授かったレールガンもとい『スーパーノヴァ』が、その形を変えていた事を。

形を変えた砲身から、紫色の淡い光が漏れ出しているのを。

 

まずい。と、即座にミドリは危機を覚えた。

何が起きるのかは不明だが、何をしようとしているのかは理解出来る。

 

ミドリが状況のまずさを理解している間にも、『スーパーノヴァ』が宿す光は徐々に徐々に大きく、より眩しくなっていく。

 

砲身内のみで収まっていた光はやがて砲身の外へと零れだし、その薄い青色の光は段々と白みを帯びて周囲に広がっていく。

ついにはバチバチと銃口から紫電が迸り始め、どういう訳か狙いを定めているアリスの目が青く光っている様にも見えた。

 

「お姉ちゃん避けて!!!」

 

ビリビリと立っているだけで威圧感が迸る中、バッッ!! と、逃走本能が働きかけたのかミドリはアリスの直線状から飛び退くように横へと飛び、そのまま姉にも同様に避難を呼びかける。

ミドリの言葉に反応し、モモイも同じようにアリスから離れる様に飛んだ刹那。

 

「──光よッ」

 

一つ、アリスの気合の入った声が響き。

そして。

 

次の瞬間、目がくらむ程の眩しい光と共に、『スーパーノヴァ』から、その砲身の三倍はあろうかと思う程の極太の青白い光が一直線に解き放たれ。

 

身体が吹き飛びそうになるぐらいの凄まじい轟音がエンジニア部で迸った。

 

「うぁあああああああああッッ!?」

 

眩しさに目を閉じ、反射的に両手で目を庇い、吹き飛ばされそうになる身体を必死に地面に押し留めながらミドリは叫ぶ。

災害が目の前で起きたかのような感覚に襲われ続けている気分だった。

もう、何が起こっているのか全く理解出来ない。

 

光の奔流はアリスの『スーパーノヴァ』から約五秒間程、空間を支配し続けていた。

 

たった五秒。

僅か五秒。

 

だがミドリにとってはそれが数十秒のような長い時間に思えた。

それ程までに、凄まじい衝撃が彼女の身体を襲っていた。

 

光は特段、ミドリを標的として放たれていないのにである。

ミドリが受けているのはただの余波。

それはつまり、『スーパーノヴァ』が秘めている力がそれ程に強力である事を示す証拠であった。

 

「う、ぅ……」

 

レールガンから莫大な力が放出され始めてから時間にして五秒後。

ようやくにして眩しさが収まり、かろうじて立ち続ける事が出来たミドリは、顔を覆っていた両腕をゆっくりと下ろし、恐る恐る目を開き、

 

ポッカリと真正面に空いた大穴から見える雲一つない青空を目撃した。

 

「……へ?」

 

現実を受け止めきれないような間抜けな声が響く。

あれ、おかしいなと一度目を瞑って、もう一度同じ場所を見てみる。

 

「……ウソ」

 

……同じような光景が広がっているだけだった。

エンジニア部の右半分が、

部室の半分が綺麗に跡形も無く消え去っている光景が静かにミドリの目を焼く。

 

当然、ロボットの反応など一つもある筈が無い。

待機していたのも襲い掛かって来ていたのも全て、光に呑まれて完全に消滅した。

模擬戦の結果は、アリスの一撃必殺によって終局を迎えた。

 

「あぁぁあああああ私達の部室がぁぁああああああああ!!」

「凄い……これは想像以上……!」

「部室が学園の端側、かつアリスが撃った側が予定通り外側で良かった。内側なら校舎が消失している所だったよ」

 

万が一を考えて位置取りも頭に入れて戦闘を始めて良かったと、部長の白石ウタハが零す。

どうやらこうなる事は想定内ではあったようだった。

ウタハが安堵するような言葉を言う横で、ヒビキ、コトリはそれぞれ違った感想を飛び出させている。

どれもこれも正しくて、どれもこれも今言うのそれ? と思うような内容ばかりだった。

 

「す……凄いよアリスちゃん! その武器凄い!! こんな力があるなんて!!」

「えへへ、アリスやりました! 大勝利です!」

 

一方で、姉であるモモイは飛びつく勢いでアリスに話しかけ、嬉しそうにアリスも言葉を返している。

確かに大勝利だけど同時に失う物も大きかったよと声を大にして言いたいが、今のミドリはそれよりも先に優先すべき事があった。

 

「せ、先生……! 先生大丈夫ですか!?」

 

光の余波に少なからず巻き込まれたであろう先生の容態の確認。

これがミドリの最優先事項だった。

視線を向けた先では先生はアリスの方を見やりながら難しい表情を浮かべている。

 

一先ずは無事のようだった。

少なくとも命に関わるような大事には発展していない。

 

ミドリやモモイより離れていた場所で見学していた先生は、ミドリ達よりも被害を受けるような事は起きない事は彼女自身分かっている。

しかしミドリ達が耐えられたからと言って、先生があの余波に耐えられるかはミドリの中で別問題だった。

 

慌てて先生がいた場所へ駆け込み、大丈夫ですかと声を掛ける。

彼女の献身的な言葉に対し先生は彼女の言葉に何も言わず。

 

「発射時に一切ブレねェ安定した体幹。それに発射中にあの余波を浴びても傷一つ付く事無く姿勢も完全な維持が可能……。そして撃つ瞬間に光ったあの目……。面倒な事になる予感しかしねェぞオイ……」

 

ブツブツと聞き取れない程の小さな音量で何かを必死に考察しているような様子を見せ続けていた。

ミドリは割と大きな声で先生に呼びかけたつもりだったのだが、それすら聞こえない程に彼は集中していたらしく、ミドリが近づいている事に気付く素振りすら見せなかった。

 

「アリスを作った目的は明らかに戦闘用だ。なら何を相手にする事を想定した……?」

「あの……先生?」

「ン? あァミドリか。悪ィ、少し考え事してた」

 

間近で呼び掛けて、初めて先生はミドリの存在に気付き謝罪の言葉を述べる。

 

ミドリは知らない。

ミドリが知る由も無い。

 

誰かが目の前で近付いて来てる状況で、彼が気付きも警戒心も露わにしない事の凄さを。

話しかけられて初めてあぁミドリかと気付く程に彼女の事を信頼しているトンデモなさを。

そして間近にミドリがいた事に彼が驚きも何もせず、ただただ受け入れて返事をする状況が意味する彼女への信頼度の高さを。

 

本当に、本当に一部の人間しか達成できていない偉業に彼女は一歩踏み込んだ事実を、悲しいかなミドリ自身が気付く事は無い。

 

「で? どォした」

「あ……さっきの衝撃で先生が無事かどうか確かめたくて……」

「あの程度で動じる訳ねェだろ。もっとやべェ物をいくらでも見て来たからなァ」

「え……えぇ……?」

 

そう豪語する先生の言葉に嘘偽りは存在しないようにミドリは思えた。

思えてしまったからこそ、ならばどんな経験をすれば今のより遥かに危険な物を何度も見る事態になるのだろうと、ミドリは先程彼が放った発言の凄まじさに困惑の表情を浮かべる。

あの規模の攻撃は早々ある物ではない。

と言うか自分が知る限り初めての体験である。

であるのに先生はそれを『あの程度』と称した。

 

今でこそミレニアムプライスに追われてこそいるが、普段の日常においてはそれなりに暇なミドリとは違い、先生は『先生』と言う肩書きに相応しい多忙な日々を送っており、ミドリと行動を共にする機会は言う程に多くない。

但しそれはミドリ側だけの視点で見た場合であり、先生と一緒にいる頻度を生徒毎で計算すればミドリは上位に位置しているのだが、隣の芝生は青く見えるのか、ミドリ自身はこれを少ないと思っている。

 

しかしミドリと一緒にいる日はそれなりに多い物の、生徒の数が多い以上全体的な日数で言うと控え目なのもまた事実。キヴォトスで毎日一緒に行動している訳ではない以上、どこか自分の知らない所で先生は危険な目にあったのかもしれない。

 

「でも、アリスちゃんのあれをあの程度って言うの凄くないですか? 部室の半分消し飛んでるんですよ?」

「半分で済ンでるだろォが」

 

しれっと先生は何でもなさそうに言い捨てる。

何か途轍も無いスケールの話をされているような気分だった。

あれ、自分の常識が間違っているのかなとミドリは思わず不安になる。

 

一体今までどんな経験を先生はしてきたのだろうか。

部室の半分を消し飛ばす以上の光景とは何なのだろうか。

キヴォトスの外の話なのだろうか。中での話なのだろうか。

気になる。物凄く気になる。

 

どこかの学園全体が破壊される? 

広範囲の大地が消し飛ぶ? 

超大規模な爆発が発生する? 

 

いやいやまさか。とそこまで考えたミドリは慌てて首を左右に振る。

そんなアニメやゲームの中でしか見た事無いハチャメチャ展開が先生の前で都合よく繰り広げられたりする訳が無い。

 

「……何考えてンのか割と顔に出てるからな? 言っておくが面白ェ話は何も無ェぞ。クソみてェに下らなくて……、どれもこれもつまンねェもンばっかだ」

 

彼女の脳内想像図はミドリの意図せぬ形で完全に顔に出ていたらしく、呆れた表情をする先生にミドリは注意を受ける。

普段のミドリならその言葉に慌てて頭を下げただろう。

普段の先生の注意に顔を赤くしてごめんなさいと即座に言えただろう。

 

だが。

 

今にも嘆息しそうな彼の表情とは裏腹に、放たれた声に詰まっていた重く黒い物をミドリは瞬間的に垣間見た。彼が隠そうとしている痛い思い出の残滓を、ミドリは彼の事を恋愛対象として意識しているが故に敏感に受け取った。

 

ドクッ。と、緊張していないのに心臓が一つ鼓動する。

 

何か、何か今聞いてはいけなかったことを聞いてしまった気がする。

踏み込んではならない先生の過去を一瞬だけ覗いてしまった気がする。

 

あれ、どうしよう。どうすれば良いんだろう。

言葉に上手く出来ない感情が、整理の付かない感情が心をジワジワと侵蝕し始める中。

ピシッッ。と、突然ミドリの額が軽く何かに弾かれた。

 

あ。と声を出しながら見てみると、先程とは打って変わっていつものぶっきらぼうな表情にほんの少しの優しさを滲ませているいつもの先生が右手をこちらに伸ばしている。

 

デコピンをされたのだと気付いたのは、その直ぐ後の事だった。

 

「今の俺には『殆ど』関係の無ェ話だ。別に気にする事ねェよ。つゥか人の発言を一々気にして心傷めてンじゃねェ。それ続けてるといつかメンタルぶっ壊れンぞ」

「……うん。あっ、じゃなくてはい。気を付けます……っ!」

 

彼の言葉に多分に含まれていた優しさに今度は違う意味で心臓が鼓動した。

ミドリの頬に熱が帯びる。

それを見られるのが恥ずかしくて、彼女はちょっとだけ顔を伏せた。

彼はその様子にハッと笑いつつ先程ミドリが言った言葉に対しある疑問を問いかける。

 

「前から思ってるがよォ。俺に敬語は使わなくて良いンじゃねェか? 『先生』つゥのも形式的なもンに過ぎねェ。実際に何かを教えてる訳じゃねェンだからよォ」

「え? ダメですよ。先生は先生ですし変えられないです。諦めて下さい」

「……何で俺がお願いしてるような言い方になってンだ?」

「あれ、そうじゃありませんでした?」

 

思わずクスクスとミドリは笑う。

一瞬だけど悩んだ時間がバカバカしくなるぐらいには今の時間が楽しいと思う。

 

「アリス知ってます。これは『ゼルナの伝説』でよく見られた主人公とヒロインの序盤における数少ない交流時間ですね!」

「そうだよアリス。だから首を突っ込んじゃダメだったんだよ?」

 

ふと、どこからかそんな声が聞こえた。

声の発信源に顔を向けると。興味津々と言った顔で二人のこれテストで習いました。みたいなノリで自分の知識を披露するアリスと、あーあ勿体ないとでも言わんばかりに頭に手を当てるモモイが映る。

 

エンジニア部の三人も似たりよったりだった。

好奇心を露わにしているコトリ。

顔を赤くして眺めているヒビキ。

興味深げに頷いているウタハ。

 

カッッ!! と、瞬間ミドリの体温が人生史上最大に熱くなった。

恥ずかしさと照れが同時に襲い掛かって来る。

 

王子様とお姫様みたいだなんて。そんな風に見えたのかな。それはちょっと嬉しいかも。

けどそんな風に例えなくても良くない? もうちょっとこう。なんとかなら……ないか。アリスちゃんだもんね。だってそう言う事しか教えてないもんね。私が悪かったですごめんなさい。

いやだけど先生が王子様……アリスちゃんが例にあげたゲームだと騎士か。先生が騎士で助けに来るって言うのはちょっと……いや全然悪く無いかも……と言うか良いかも。

でも今のやり取りを皆に見られて微笑ましい目で見られたのは死ぬ程恥ずかしい。穴に入りたいどころか深淵まで掘ってそこで今すぐ暮らしたい。

 

僅か数秒足らずで上記の事を脳内で流すミドリは絶賛混乱中。

情緒が不安定を極め、このままだと暴走を始めかねない中。

 

その空気を払拭するかのように、コホンッというウタハの咳払いが一つ響く。

 

「まあ二人の仲が良いのはそれで良しとして話を本題に戻そう。アリス。その武器は君の物だ。好きに使うと良い」

「……! はい! アリス、大切にします!」

 

改めて『スーパーノヴァ』を譲渡する旨の発言に、アリスはもう一度お礼の言葉を述べた。

紆余曲折あった物の、目的を達成した。

さて、と、今からエンジニア部の壊れた部分の修繕の手伝いでもしようかと、結果的にとは言えアリスが破壊してしまった始末はするべきだとミドリが言い出そうとする直前。

 

バンッッ!! と部室の扉が勢い良く開いた。

 

ビクッッッ!! と、ミドリ含んだ何人かがその音を響かせた扉部分に目を向け。

直後、その中の一人であるモモイの口から「あ、やば……」と言う何かの予定が大きく狂ったかのような声が零れた。

 

やって来たのは、ミレニアムサイエンススクールの生徒会、『セミナー』の会計。

ミドリ達の部室を廃部にし、追い出そうとしてきた張本人。

早瀬ユウカその人だった。

 

「何今のおと…………えぇえええええええええっっ! へ、部屋が半分消し飛んでるじゃないっっ!」

 

開口一番、音の原因は何だと問い詰めようとした矢先、その結果を目で見たユウカから絶叫が響く。

 

まあ、そりゃこんだけドデカい大穴が開けるような音は学園内に届くよね。来ちゃうよね。基本的にユウカが。と、考えてみれば彼女がこの場にやってくるのはあまりにも当然だなと思い至り、同時にこれどうやって言い訳すれば良いのだろうとミドリは冷や汗を流す。

 

そんな彼女の思考を読み取ったかのように、しばらく呆けながら空を見上げていたユウカがグリンと、元凶であるエンジニア部の方に視線を向けた所で、

 

「アンタたち一体何やって……って、どうしてゲーム開発部がここに!?」

 

と、彼女達の存在を見つけては困惑し、

 

「それにせ、せせせせせ先生までっっ!? あ、あああのっ! 、あれっ! きょ、今日ミレニアムにいるって話、してましたっけ!?」

 

トドメに先生がいるのを確認し、ユウカは途端に挙動不審な動きを見せ始めた。

 

ムッッ。と、先生を見つけた途端露骨に変わったユウカの表情にミドリの顔が厳しくなる。

女の勘が訴えている。ユウカは先生に自分と同じ感情を向けていると。

それはミドリにやっぱりそうだったかと言う納得を与えると同時に、どうしようもない焦りを生み出していく。

 

何故ならばどう足掻いても彼女の方が魅力的だから。

 

可愛い顔立ち。

スタイルも抜群、イラストレーターだからこそ分かる。

彼女のプロポーションは、異性を誘惑するのに申し分ない。

 

おまけに礼儀正しく何事にも真面目。

そして何よりも優秀。

 

比較すると劣っている部分見当たらない。

 

うぅ……と、ミドリは内心怯む。

彼女といつか直接対決すると仮に仮定したとしてミドリが勝てるビジョンがあるかと言われれば、現状を鑑みるととてもではないが言えない。

ミドリが直接的にユウカと相対する決断が出来るかどうかは別として、先生に気持ちを言う度胸が宿っているかは別として、同じ土俵に上がって戦う相手として考えた場合、ミドリに軍配が上がるとは彼女自身が思えていなかった。

 

これが杞憂ならどんなにも嬉しい事かと思う物の、そんな希望は抱かせてくれない。

 

「あの、先生……これって一体どういう……?」

 

何故なら先程まで鬼の形相で入って来たユウカが、先生がいるのを見つけた瞬間その表情は鳴りを潜め、おずおずと状況を聞き出す姿勢に入ったからだ。

 

あざとい。

あざとすぎる。

しかしその気持ちが痛い程分かる故に何も言えない。

 

チラリと、ミドリは先生の反応を窺うべく見やる。

あざとい誘惑に負けないで欲しいなという願望半分。

それに反して何とか先生にこの場を治めて欲しいという気持ち半分の願いを込めて彼の顔を見上げようとして、

 

「…………あァ、色々あったンだよ」

 

ユウカを見る目は先程の優しさとは違って、何かを探るような目になっているのを目撃し、

低い声で応答する先生の姿を見て、ミドリは言葉を発する事が出来なくなった。

 

 

 

 

 










ミドリやユウカ等、一方通行に好意を持つ子がメイン視点になると恋愛SSっぽくなって実に良い。

そのせいで話が進んでないのは内緒……。
こんな亀で良いのだろうか。多分あんまり良くない。

シリアスな展開は大好きですけど甘いのも好きです。
痛い思いをさせるのはもっと好きですけど……!

早く! 精神的揺さぶり&肉体的損傷イベントを起こしたい。
血反吐を吐かせたいよぉっ! そろそろ激痛に叫ばせたい。

そんな私の願いはいつ叶うのでしょうか。
書けば叶うよ。だから書こうね。執筆速度上げようね。

…………はい。



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