とある箱庭の一方通行   作:スプライター

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一方的な戦い

シャーレが存在する外郭地区。

 

少し前。

本当にほんの少し、一時間程前までは確かに平和そのものだったその場所は、連邦生徒会に恨みを持つ者達が集った結果、銃声が轟き、爆発音が木霊する最悪な場所へと変貌を遂げた。

 

戦火に巻かれた外郭地区は、平穏だった世界から一転、見るも無残としか言い様のない悲惨さを辺り一面に撒き散らし、集った少女達の歓声が惨劇に見舞われた外郭地区を支配していた。

 

窓や車等、あらゆる物に対してふんだんに銃弾を浴びせ、原型を留めない程に粉砕、爆発させれば、次は私次は私と、同じ行動が連鎖的に広がって行き、結果鳴りやまない銃撃音が完成し街の彩りを完膚なきまでに破壊し尽くす。

 

その破壊に便乗するように、今度は手投げ爆弾が次々に投擲され建物を派手に壊し始める。

火を噴かせ煙を立ち昇らせ、建造物を次々に崩れさせては、それを目撃した少女達の歓声に満ちた声が街中に溢れかえり、その声に釣られて、自分にもやらせてとまた誰かが爆弾を投げる。

 

少女達に街を壊す明確な理由はない。

ただ、鬱陶しい連中が大事そうに抱えている場所だから破壊する。

 

動機としては、たったそれだけ。

しかし、たったそれだけの行動原理が、自分達が動くに値する最大の理由だった。

 

故に街を壊す。

故に建造物を燃やす。

故にここを潰す。

 

好き放題に、

やりたい放題に、

満足するまで、

周囲一体を全て焼け野原にするまで。

 

外郭地区で暴れている全員が、一つ何かを壊す度に高揚感を覚えていた。

 

忌々しい連邦生徒会がこれで泡を吹けば愉快痛快。

腸を煮えくり返らせれば気分は最早最高潮。

 

その想像が何よりも嬉しくて、楽しくて、気持ち良くて、笑い声が止まらない。

 

弾丸が一つ何かに当たる度に、連邦生徒会の歪む顔が目に浮かぶ。

爆弾が一つ何かを破壊する毎に、言葉にならない達成感が心を満たす。

 

想像と実態から得られる喜びを胸に、不良少女達は次々と破壊を繰り返していく。

 

少女達は止まらない。

不良集団は止まらない。

 

街が次々と破壊されているのに、その中で聞こえるのは悲鳴ではなく歓声ばかりであった。

 

その数、実に七十人以上。

一つの軍隊にも迫るそれだけの人数が、無差別に周辺を破壊し回っていた。

 

それは何処をどう見ても無法地帯。

誰が見ても文句なしの立ち入り禁止区域。

 

近寄ることすらしてはいけない、一等級の危険地帯。

 

そんな場所を、

そんな地獄を、

 

 

五人の異質なグループが確固とした足取りで街中を歩き、不良集団と相対していた。

 

 

一人はミレニアムサイエンススクールの『セミナー』

一人はゲヘナ学園の『風紀委員会』

一人はトリニティ総合学園の『正義実現委員会』

一人は同じくトリニティ総合学園の『トリニティ自警団』

そして、杖をついて歩く、キヴォトス外から来た『一般人』

 

所属も学校もバラバラな集団が、何故か一般人を迎え入れて一同に集結し、彼女達と事を構えていた。

 

最初は何事かと思った者が大勢だった。

無関心を決め込む少女も当然の様に多かった。

殆どが興味を見せず破壊活動を続けた。

 

しかし銃声が鳴り響き、最初にちょっかいをかけた少女数名が戦闘不能に追いやられた瞬間、それを目撃した少女達は自分達が襲撃を受けたことを察した。

 

少女達はすぐさま五人を撃退せんと応戦を始める。

しかし、その誰も彼もが瞬く間に飛んでくる弾丸の餌食となり意識を失っていった。

 

刹那、不良達の敵対心が一気に上昇する。

だが、目の前のグループはそれがどうしたとばかりに進撃を続け、立ち向かった同類を悉く返り討ちにし続けていた。

 

五人の中で最も目立つのは、白髪赤目がイヤでも目を引く、キヴォトス外から来た人間。

杖をつき、不自由な身であるにもかかわらず、人を睨み殺せそうな目で少女達を威圧しながら口元を歪に吊り上げ、左手に持つ銃で狙いを定め、的確に少女達の意識を刈り取っている。

 

あれはなんだ。

一般人が何でこんな所にいる。

どうして自分達と渡り合っている? 

 

誰かが抱いた疑問はしかし、単純明快な思考へと方向を転換する。

 

あれがどこの誰であろうと、どんな存在であろうと、上から叩き潰せば無問題。

 

不良少女達はそんな突如現れ、自分達のお楽しみを邪魔している異物集団を排除しようと次々に銃を構え、爆弾の起爆準備を整え、銃撃を始め、投擲を開始する。

 

ガガガガガガガガガッッッ!!! という聞くだけで身体が破壊されるのではないかと思う射撃音が集団を捉え、ゴバァァァァッッ!! という聴覚すら殺す轟音と共に爆発と爆風が五人目掛けて投げ放たれる。

 

これでやってきた生徒は全員気絶し、一般人は全身吹き飛んで状況終了。

お楽しみタイムは継続。なんなら一般人を危険に巻き込み、あまつさえその儚い命を散らせてしまったことに連邦生徒会が胸を傷める未来を考えると心が躍る。

 

そしてその瞬間はもう間もなく、爆弾が投げ込まれる数秒後に訪れる。

その筈、だった。

 

しかし、

 

「羽川。右手前にある崩れたビルの上だ」

 

「っ、捕捉しました」

 

一人の少女が爆弾を投げ入れようとした瞬間、白髪の一般人が的確にそちらをギロリと睨んだかと思うと、その次には少女の爆弾が的確に正義実現委員会によって撃ち抜かれ、自分の爆弾で自分の身体を吹き飛ばす結果を生んだ。

 

間近で起きた妨害行為に、残りの爆弾要因の少女達の動きが一瞬止まる。

直後、その少女達が今度は直接狙撃され、全員が意識を闇に落としていった。

 

それが二回、三回と偶然ではないことを証明するかのように次々と発生し、少女達が当初に描いていた流れが一瞬にして崩壊した。

 

爆破と共に銃撃を開始しようとしていた集団は、投擲を担当していた少女達が立て続けに阻止され続けていることに痺れを切らしたのか、ギュルルルルルッッ!! と一斉にモーターを回転させ始める。

 

ガトリング銃を担いでいる四人による一斉掃射。

百や二百では利かない圧倒的弾幕。

それはもう避ける避けないの話ではない。当てないように撃つ方が難しいレベルの雨。

 

それらが容赦なく五人を襲うまで、あとコンマ三秒と迫った所で、

 

「守月」

 

「了解です、これは痛いですよっっ!!」

 

白髪の合図と共に投げ込まれた閃光弾が全員を直撃し、意識を瞬く間に奪っていった。

 

それを繰り返された。

その動きを、繰り返され続けた。

 

不良少女達は戦力を逐次投入し、同じ手口で五人を襲おうと動き続けた。

しかしそのどれもが、何一つ成果を果たすことなく凶弾に倒れ、または自爆していった。

 

爆弾を投げ込む少女の場所は毎回違う。

銃を撃つ役割を受け持った少女も数も場所も毎回違う。

 

だと言うのに、それら全てが持っている圧殺能力を、キヴォトスの外から来た一般人の指示によって全て封殺されていた。

 

少女達が取る行動、そのどれもがその集団に致命的打撃を与えない。

それどころか、不良少女達の思う通りの行動すらさせてくれない。

 

二か所から同時に責めて来るなら二人が。

三か所なら三人が。

 

対処し、迎撃し、不良達が描く思う通りの行動を完璧に上から叩き潰し阻害していく。

 

小細工がダメなら正面突破と、前方から多数の人員で攻めれば、瞬時に前にいるミレニアムのセミナーが全員の盾となるように動き、少女達の注意を引く。

 

そして今度こそまともに放たれる銃弾の嵐。

五人に向かってではない、たった一人に向かって放たれた並外れた量の銃弾は、確実に囮として前に出た少女に命中し、その意識を否が応でも奪う。

 

奪える予定、だった。

 

しかし、

 

当たらない。

当たらない。

当たらない当たらない当たらない。

 

放たれた弾丸、その悉くが少女という的を外れていく。

弾丸が限りなく当たらない位置を予測しているのか、もしくは計算で導き出しているのか、少女達には理解出来ない事象によって、物陰にすら隠れていないセミナーの少女に致命的な一撃を与えることは出来なかった。

 

囮として前に出た一人すら倒せないまま、もたついている間に少女達は残り三人による銃撃によって全員が戦闘不能に追い込まれる。

 

ゾクリと、生き残っている何人かの背筋が凍った。

しかし、こちらにもまだ戦略は残っている。

まだあの連中に対抗する手段はある。

 

前方がダメならば後方から攻めれば良い。

幸いにもこの異物集団は街中を進んでいる最中。回り込むのはたやすく、人員の確保も容易。

 

街中を構わず進んでいたのを裏目にさせようと、後方からの襲撃を開始しようと足を進めた瞬間、

ギンッッ!! と、最後尾にいたゲヘナの風紀委員会が少女達の動きを目ざとく察知し、前にいる四人に報告した。

 

そこから先は、今までの再放送のような光景が広がるだけだった。

成す術なく、全員が返り討ちに会う時間が訪れているだけだった。

 

五人の行動、戦略、その一連の流れを全て含めて、明らかに統率された動きだった。

少女達には、決して出来ない動きだった。

比較するのもおこがましい程の、練度の差がそこにはあった。

 

一人、また一人と目の前で次々と倒れていく同類達の姿を見て、少女達の思考に恐怖が混じり、動きに鈍りが生じる。

 

戦意に、揺らぎが走る。

心に、何かが埋め込まれる。

 

まるでその瞬間を狙ったかのように、待っていたかのように、

 

カツンッッ! と、コンクリートの地面を叩く冷たい音が、銃撃に塗れて聞こえない筈の小さな音が、突如少女達の鼓膜に直接響くように走った。

 

刹那、ドクンと少女達は自分の心臓の音を認知した。

鼓動が、秒を追うごとに加速していくのを強引に思い知らされた。

 

少女達の視線が、自然とその音の走った方向に向く。

理性が必死に向きたくないと訴えても、本能がその思考を上書きしていく。

 

少女達は、ソレを見る。

ギラリと赤い目で自分達を睨む、白い悪魔のような存在を見る。

 

瞬間、今度こそソレを見た全員の身体に紛れもない一つの感情が刻み込まれた。

どうしようもない恐怖が、全員の背中を襲った。

 

一発の銃弾で死ぬ筈なのに、

吹けば飛ぶような力しかない筈なのに。

 

この市街地での戦闘で目覚ましい戦果を挙げた場面を見ていないのに。

 

どうして、どうして

こんなにも、こんなにも、

勝てないと、思ってしまうのか。

挑むことすら間違いだったと、考えてしまうのか。

 

途中、誰かが呟く。

誰かは知らない。

顔も分からなければ名前も知らない。

自分達の集まりはそういうものだ。

 

「こんなの……勝てっこない……!」

 

しかし、確かに言葉として放たれたそれは、

静かに、そして確実に残りの少女達の心に伝染していく。

 

喋った少女は、次の瞬間には頭を一般人に撃ち抜かれ昏倒した。

その様子がまた、先程喋った言葉に現実味を持たせていく。

 

毒が、回り始める。

強者を前にした弱者の本能がある行動を訴えかける。

 

気が付けば、先程まで楽しんでいた心が冷えている事に殆どの少女が気付いた。

身体が、そして銃を握る腕が否応なしに震えているのを全員が自覚した。

 

どうする。

どうする。

 

まだまだ数はこちらの方が有利。奥の手だってまだある。

このまま物量で攻め続ければいつかは、いつかは。

 

そうやって戦略を組み立てる一部の少女の理想形を奪うように、

 

「は、話と違う!! 私こんなの聞いてないぃいいいいいいッッ!!!」

 

「あんな奴等相手に勝てる訳ないじゃぁぁああああんッッ!!」

 

「あ、置いてかないでよちょっと!!! 私も逃げるぅううううッッ!!」

 

敵前逃亡を始める裏切り者が、あちらこちらから出没し始めていた。

 

 

────────────────

 

 

「やっと皆さん怖気づきましたね」

 

「あァ。思いの外時間が掛かったし結局シャーレの目の前まで戦闘を続ける羽目になったが、予定は順調に進んでると言って良いだろォな」

 

「逃亡した生徒の対応は後でするとして、気絶している人達はどうしますか?」

 

「知るか。後片づけは連邦生徒会がどォにかすンだろ」

 

ガシャンガシャンと、そこかしこで銃を投げ捨て逃亡を始める者が出始めるのを確認した一方通行とチナツは、自暴自棄を起こした残党が襲い掛かって来ないかどうかにだけ細心の注意を払いながら、当初の予定通り事が進んでいることに安堵の息をつく。

 

「それにしても……今日は戦闘がなんだかやりやすかった様な気がします」

 

その空気が残り三人にも伝わったのか、ふぅと疲れを吐き出しながら、スズミがそんなことを口にする。

 

「先生の指揮のお陰で、普段よりもずっと戦いやすかったです」

 

「生徒会長が選んだ人だから当たり前なのかもしれないけど……それでもここまで凄いなんて……!」

 

次いで、ハスミとユウカも同様に一方通行の指揮によっていつも以上のパフォーマンスを発揮出来たこと、そして先程の戦闘における彼の活躍の凄まじさを実感した。

 

確かに一方通行は個人で大々的な成果を上げたりはしていない。

しかし、彼の凄まじさはそんな目で見える物で評価する類の物ではない。

 

相対していた少女達ではなく、共に戦った自分達だからこそ分かる物があると、二人は口を揃える。

あの場、七十人以上を相手にして、戦局を操作しその中心に居続けたのは間違いなく先生だ。

 

それは銃撃だけではない、一挙手一投足。威嚇動作から恐怖の煽り方。持っている杖のつき方等、何から何まで駆使し、戦場を作り上げ、当初ありもしなかった恐怖を次第に湧き上がらせ、生き残っていた大多数の戦意を喪失させることに成功した。

 

自分達には出来ない芸当をさも当然とばかりに成し遂げつつ、それに加えて完璧な指揮を取で自分達の能力を自分達が理解している以上に活用する。

 

これが、先生の力。

これが、連邦生徒会が選んだ人。

 

「ハッ! つまりまだまだ精進しろって事だなァ。俺がいなくてもこの程度の動きが出来るまでよォ」

 

評価する二人の言動に一方通行はハッと笑いながら今後の課題だな、と二人に告げる。

んぐっっっ!! と、一方通行の発言にグサリと刺さる物があったのか、ユウカとハスミ、ついでにチナツとスズミも同時に胸を抑え、一瞬詰まりそうな表情を浮かべた。

 

あのレベルまで到達するにはどれだけ力をつけ感覚を養えば良いのか、

気が遠くなるような感覚と、実際に気が遠くなった感覚を覚える四人を見て一方通行はクカカと笑いながら機嫌を良くした直後。

 

『今回の事件で厄介な生徒が脱走していることが分かりました』

 

と、リンの声が突如ユウカの持っている端末から伝わり始めた。

うぇっ!? とユウカは服の中から突然声が聞こえて来たことにあたふたしながらも、なんとか端末を右手で取り出す。

 

相手の了承も無しに連絡を始めるのはもう一種のハッキングなンじゃねェのと考える一方通行をよそに、電子的な音を鳴らしながらユウカの端末からリンの姿がホログラフで映し出され始める。

 

『ワカモ。百鬼夜行連合学院で停学になった後、矯正局を脱獄した生徒です。前科多数の超危険人物で、通称『災厄の狐』と一部では呼ばれています。相対する時は注意して下さい』

 

言いながら、リンはホログラフ内に狐の面を付けた少女の立ち姿を映し出す。

文字通り、見たまんまの通称を付けられている少女は、立っている映像だけでは何が脅威なのか不明な程華奢な体格をしていた。

 

しかし、ワカモの映像を見た直後、一方通行の眉に一瞬深い皺が寄る。

その表情は、面倒臭いことを見て、聞いてしまったと言わんばかりの顔つきだった。

 

「ちゅ、注意って! もっと良い情報とかないの!? そのワカモって生徒の戦法とか弱点とか!!」

 

一方で、端末を手に持ち続けながらリンの話を聞いていたユウカは、有益な情報を何も言わず、ただ曖昧なことしか言わない彼女に食って掛かっている最中だった。

 

だが、

 

『…………』

 

「え? な、なんで黙ってるのよ……ちょっと代行? リン!? リンさん!? 」

 

『…………注意、して下さい。あと私ももうすぐそちらに向かいますので』

 

ユウカの口撃に通話を繋ぐのが苦しくなったのか、最後に一言逃げる様にそう言い残すと、ブツッッとリンは一方的に通信を切った。

 

ちょっと!!! とユウカは叫びながら端末をやや乱暴に叩き、もう一度リンと連絡を試みるが、引け目を感じているリンが怒り状態のユウカからの通話に応じる筈もなかった。機内モードにしてんじゃないわよ!! とユウカの絶叫が荒れた外郭地区をひた走って行く。

 

「シャーレは無事でしょうか」

 

「一見する限りでは無事に見えるが、実際はどォだかな。ただ、俺達が連中の相手をしている時、狐の面を付けた妙な女が中に入って行ったのを見かけた。さっきの話が本当なら、ほぼ確実にシャーレの中にはいるだろォな」

 

「はぁ……面倒なことになりそうな予感しかしません」

 

「同感だ」

 

ユウカの声が響く中、チナツと一方通行は現状の確認を始め、一方通行は先程の戦闘中に怪しい存在がいたことを全員に共有する。

 

現在シャーレから火の手等は上がっていないことから、明確な破壊活動は少なくとも外から見る限りでは起っていない様に見える。

 

しかし、敵が内部に入り込んでいるのは確実。

油断だけはするなと、一方通行が全員に向けて警告した。

 

それは暗に休憩時間は終わりだと告げた物であり、事実その言葉にユウカを含めた全員がその言葉にリラックスしていた心を一瞬で現実に引き戻すと、それぞれ手に持った銃を強く握り締める。

 

今から、ワカモと言う生徒と戦闘を繰り広げる。

どこまで手強いか予想が付かないが、一筋縄ではいかないことは確か。

 

少女達全員が全員そう思い、芽生える畏怖の念を押し殺そうとしていた所で、

 

「俺は地下を奪還する。お前等は上に昇って残党がいた場合制圧しろ」

 

ここから先は別行動だ。

そう放たれた一方通行の言葉が聞こえた瞬間、少女達は一斉に信じられないと言った表情で一方通行を見つめた。

一人で地下に行くと言う言葉が聞こえた瞬間、自分達は聞き間違えたのかと少女達は己の耳を疑った。

しかし、別行動を取ると続けられたことで、それが間違いではなく本気だったのだと思い知らされる。

 

「だ、ダメです先生! 今回の暴動の目的は街の破壊とシャーレの地下にあるサンクトゥムタワーです!! 間違いなく戦闘になります!! 一人で行かれるなんて無謀すぎます!!」

 

「そうです! どうして急にそんなことをっ! 考え直して下さい!!」

 

一早く一方通行の言葉を飲み込んだハスミとスズミが一方通行の作戦に声を上げて反対する。

 

状況から考えて、地下にはまず間違いなくワカモがいる。

それどころか、ワカモ以外にも何人もの生徒がいてもおかしくない。

そんな所に一人で行かせる訳にはいかない。

いくら彼が強者であっても、一般人という枠からは外れてない以上、キヴォトスの強者相手立ち回るのも、数的不利を覆すことも不可能に近い。

 

おまけに、その不自由な足では逃げる事すら困難。

退却すると言う選択が取れない人に向かわせるには、今のシャーレの地下はあまりにも無謀な場所だった。

 

彼は強い。文句なく、間違いなしに。

少女達とて分かっている。

それを、目で見て、肌で感じ、実感している。

しかし、それでも、そうだとしても。

この作戦は、彼を守っての戦いだった。

 

そう、言い切れる物でもあった。

 

一方通行自身、彼女達が己の言葉に賛成するだろうとは微塵も思っていない。

思っている上で、一方通行は引き留めようとする少女達の意思を無視することを決めていた。

 

「理由を、お聞かせ願いますでしょうか?」

 

一方通行が話を聞く気がないことを知りながら、極めて理性的に、チナツが一方通行に問いかける。

先生がそう言うには、きっと何か自分達には及ばない理由がある。

ひょっとしたら、何か大きな作戦でも立てているのかもしれない。

 

そう信じて問いかけられたチナツの言葉を。

 

「これまではお前等のやり方で戦って来た。ここから先は俺のやり方でやる」

 

一方通行はあまりにも呆気なく一蹴し、話はそれで終わりだと言うように一人シャーレの中へと足を進み始めた。

 

あっ、とチナツはその行動に声を上げることすら出来なかった。

彼の動向を、見届けることがやっとだった。

 

「先生! それでも行かれるのでしたらせめて二人……いや一人だけでも護衛に──」

 

かろうじて、かろうじて絞り出したかのようなハスミの声が背中越しに届く。

 

だが、

 

「俺には俺のやり方があンだよ」

 

ぶっきらぼうにそれだけ言うと、一方通行は一人足を進め、地下への階段を降り始めた。

先生!! と叫ぶ少女達の声を背中で受け止めながら、一人ゆっくりと下へ下へと向かって行く。

 

ここから先は、暗い物になる。

泥にまみれた、掃き溜めに相応しい物が繰り広げられることになる。

 

彼女達にそれを見せることは出来ない。

光の世界にいる彼女達に、闇の人格を見せる必要はない。

 

一方通行はもう光だ闇だのに拘りを持っていない。

そんな下らない立ち位置の違いに一々足を掬われてはいない。

少し前まで抱いていたそんな幻想は、とうに打ち砕かれた。

 

ただ、自分がそう定義していた世界にいただけだという事に気付かされた。

 

故に、一方通行に迷いはない。

どこにいようと、どんな場所にいようと、自分がいるべき世界を間違えたりはもうしない。

 

しかし、それとこれとは話が別なこともある。

 

今回は、正にそれだった。

 

吐き気を催しそうな闇の匂いがする。

嫌悪感甚だしい最悪の香りがする。

 

それはもしかしたら気のせいかもしれない。

思い違いであるかもしれない。

 

だが、一方通行の勘が訴える。

それはきっと、間違いではないと。

 

ならば、

ならば、

 

暗部の手が彼女達に広がる前に対応するのは、自分の仕事以外にない。

 

「色々話を聞かせて貰うとするぜェ。ワカモさンよォ!」

 

赤く、紅い目が妖しく光る。

それはまるで獲物を喰らう前の獣の様に。

ギラついた瞳を爛々と輝かせながら、

口端を狂気に吊り上げながら、

 

一方通行は暗闇の奥深くに住む魔物と相見えんと、ゆっくり地下を進んでいく。

 

 

 





クルセイダー君の出番は搭乗者逃亡につき消失しました。
ハスミさんの見せ場が1つ減っちゃった…

ゲーム的にはチュートリアルバトルなので一行無双回です。

3話を執筆してて、あ、これアロナ出ないやとなったので1度区切って投稿です。
1週間に1話と言いましたな? あれは最低限と言うお話だ。

次回が日曜に更新されるかどうかは筆の速度次第なのであしからずです。

原作ストーリーラインに沿うってお話をしていたのにもうズレ始めてる気がしますがそれはとあるの影響ということで何卒何卒。

次回ワカモ邂逅編とアロナ邂逅編です。次回は出ます! 出します! プロローグ終わらせます!!

あと次回からコメントも時間があれば返信をさせていただく、かもしれません。
全部は無理かもです! でも出来る限りやります!! 

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