ミレニアムサイエンススクール第三校舎。その屋上。
ミレニアムタワーを視界に捉えられ、かつ周囲にミレニアムタワーを阻害する建造物が存在しないこの場所は、狙撃を行うというシチュエーションにおいて絶好のスポット。
C&Cのメンバーである角楯カリンは、命令を遂行する為に第三校舎の屋上に足を運んでいた。
指示されたのはただ一つ、セミナーの差押品保管所に進入しようとする不届き者を排除せよという物。
命令を受けて真っ先にこの場所に辿り着いた彼女は、いつでも狙撃出来る様コンディションを整えた。
セミナーに直通するエレベーターが不自然に動き出したのは、丁度彼女がいつでも狙撃出来る態勢に映ってからだった。
彼女の手にかかれば一撃で決着が付く。
角楯カリンを知っている少女ならば、その言葉が嘘偽りではない事を語るだろう。
彼女の狙撃は最早狙撃ではない。
狙撃した対象を建造物諸共に吹き飛ばす、大破壊と言う他にない程の壊滅的打撃を与える一撃。
当然出力は調整可能であり、その気になれば対象の頭部のみに弾丸を突き刺す程度で終わらせる事も可能だが、基本的には建造物毎対象を狙撃し、逃げても隠れても無駄である事を分からせて仕事を終わらせる。
今回も、変わりない仕事をする手筈だった。
エレベーターの損失は大きいだろうが、セミナー最上階に辿り着かれてからの大破壊狙撃を行うよりかは損害が少ない。
故にカリンは上昇を始めたエレベーターに照準を合わせ、自身が出せる最大出力の射撃を行う。
その、つもりだった。
「すまないが、それ以上の介入は認めていないんだ」
「ッッ!?」
瞬間、どこからともなく飛来してきた銃弾の一撃をわき腹に受けてカリンはくの字に吹っ飛ばされた。
完全に意識の外からの攻撃を受けたカリンは、らしくなく床をゴロゴロと転がる。
二回、三回と床の硬さを存分に味わった後、バシッッ! と、受け身を取ってもう一度ゴロンと今度は縦に転がり態勢を即座に立て直すと、痛むわき腹を手で押さえたい欲を必死に堪えつつ、着地と同時に身体とライフルを銃撃を受けた方に向け、即座に引き鉄を引く。
何かを破壊した音が空中で響いたのと、後頭部に銃撃を受けたのは、どちらも直後の出来事だった。
「ぐっっっっ!?」
ズドッッッ!! と、重く鈍い音が後頭部で炸裂し、グラリと視界が歪む。
一般生徒ならばこの死角からの一撃を受けた瞬間にあえなく気絶する所だが、尋常ならざる胆力でカリンは持ち堪え、予想だにしない方向から急所を狙撃されて尚、意識を保ち続ける事に成功した。
それでもダメージがゼロとはいかない。
死角からの重い一撃は、視界がブレ、身体が揺れ、膝を突いてしばらく休憩に回さないと動くのもままならない程度にカリンの身体を蝕んだ。
今ここで無理に動けば、その瞬間意識を持って行かれる。
これまで積み上げてきた数多の経験が、カリンに今置かれている自分自身の状況を冷静に伝え、落ち着くまで身体を休めるべきだと提言する。
だが。
「う、…………ッッ!!」
無茶を承知でカリンは振り向きざまライフルを背後に構えた。
意識が飛びそうになるのを必死に堪えながら、首を狙って来た対象の捜索を始める。
パチパチと何度も瞬きを繰り返し、歪む視界を必死に整え、確保し、夜に溶け込んでいるであろう存在を探す為目を凝らし続け……。
夜空を不自然に浮かぶ機械仕掛けの小さい物体を見つけた。
「ッッ!!」
刹那、乾いた銃声が一つ屋上で響いた。
ゴシャリと、その直後に何かが潰れる音が小さく響く。
正体が何であったのか不明のまま終わらせてしまったのは一つの不満だったが、兎にも角にも障害を取り除く事には成功した。
今はそれで充分だと、今度こそを身体を休めつつ、カリンはミレニアムタワーの方を朧気な瞳で見つめる。
標的として定めていたエレベーターは、カリンが応戦している間に既に最上階へと達していた。
これではもう、狙撃する事は出来ない。
たとえ今身体が動ける程度に回復したとしても、視力が回復したとしても、破壊を伴わない狙撃で的確にゲーム開発部の双子を撃ち抜くのは不可能。
カリンが遂行しなければならなかった作戦は、現時刻を以て完全に失敗したと言えた。
「うん、どうやらあの二人は無事に上まで行けたようだ」
少なからず落ち込む感情を渦巻かせていると、屋上の扉から一人の少女が姿を現しそんな言葉を並べた。
誰だ。とは思わなかった。
どちらかと言えば、やはり、と言う感情が大きい。
自分を止めに来るなら、彼女が、彼女達が最も適役である。
もう一つ付け加えるとすると、自分の狙撃を妨害出来る程の高性能な機械を作り出せるのは彼女達しかいない。
ミレニアムに配備している程度のドローンや迎撃システムならば、空に浮いている時点で看破し事前に撃墜している。
それが出来なかったからこそ、不意打ちを二撃も受けてしまったからこそ、逆にカリンは襲撃相手が誰なのか予想がついた。
襲って来たのは、白石ウタハ率いるエンジニア部だと。
だが。
「……、そのまま機械に私の相手をさせ続けてた方が得策だったんじゃないか? ウタハ」
姿を現したのは完全に彼女の愚策であると彼女は指摘した。
先の不意打ちは見事と言うべきだった。
継続されれば、相当に消耗していただろう。
だが次の一撃が何処からともなく飛来してくる事は現状起きず、起きた事と言えばどういう訳かウタハが何の警戒もせずに姿を現しただけ。
そこに何かの意図は確実にあるのだろうが、それ以上に姿を現したことその物が愚かである事の証明を下す様に、ライフルの照準を屋上から出て来たウタハの方に合わせる。
その視力にブレは無く、身体に痺れも痙攣も無い。
短時間でカリンは完全にいつもの調子へと回復していた。
「驚いた、もう回復してるとはね」
カリンの口ぶりからそれはハッタリではないことを悟ったウタハは肩をすくめる。
おかしい。と、その様子がとても往生したようには見えない事にカリンは疑問を覚えた。
遮る物がない屋上で自分相手に姿を現す。
角楯カリンを知る者が彼女と相まみえる事態と発展した場合、そんな愚行は誰もしない。
一度彼女と戦うと決めた少女は、まず遮蔽物に身を隠しての持久戦を始める。
それでカリンに対して白星を挙げられるかどうかは別として、彼女に狙い定められないよう姿を隠しながら戦うのは対カリン戦において誰もが使う常套手段。
それをウタハは使っていない。
それどころか、武器すら構えず堂々と立っているだけ。
勘繰るなと言う方が、難しい話だった。
「私は君に信頼を置いている。だから君の前に姿を現した」
何を。とは聞かなかった。
ただ黙って、カリンは引き鉄を引く指に力を入れる。
長引かせるとまずいと、これまでの経験がそう判断させた。
何かをする気満々なのは違い無いのだから、それを阻止する。
その為に彼女はウタハの胸元に照準を合わせ、一撃でこの戦いを終わらせようとした所で。
「君なら何があってもそうそう死なないだろう。そういう信頼さ」
刹那、上空から途轍もない回転翼から響いていると思わしき轟音と、その音に比例するかの如く極大の威圧感がカリン全身を貫いた。
例えようの無い感情の波が、その衝撃が、衝撃がカリンの背中から心身に伝わる。
悪寒がカリンの背中を走る。
久しく覚えなかった感覚だった。
刈る側ではなく、刈られる側に立った瞬間に覚える寒気が、カリンを瞬時に包み込む。
「なっっ!?」
思わず、本当に思わずカリンは上空から放たれる威圧感に負けて標的から目を離した。
上空を、見上げた。
空を見上げ、そこに浮いていたある物を見上げ、彼女は言葉を失った。
そこにいたのは、ヘリのような物。
見た目は、見た目だけはヘリに見える物。
ロケットエンジンを二基搭載している事を除けば、かろうじてヘリに見える物だった。
「先生から授かった科学の力。完全にとまではいかないが自分たちなりにそこそこ取り込めていると自負している。後は実践だ。中々出来る機会が無かったが、おあつらえ向きな状況が生まれているとあらば、これを利用しない手はない」
バサバサと髪やら制服やらといったあらゆるものをこれでもかと靡かせながら、しかし何も気にも留めてなさそうにウタハは僅かに顔を綻ばせつつ言葉を並べる。
「短距離対装甲車両用ミサイルSRM21と人体を畳んでしまう程の性能を誇る音響兵器の性能は先生譲り、ただ機銃に関しては先生の要望もあって少々デチューンさせて貰ってるよ。数千度の熱を持つ弾丸を雨の様に降らせば流石に問題になってしまう。その代わり装甲は厚くさせて貰った。生半可な攻撃じゃ落とせないようにね」
しかしそんな事に耳を傾ける余裕はカリンには無い。
上空を支配している異質なものを観察するのに必死だった。
機体の左右のアパッチがグネグネとまるで人体の関節のように柔軟に動き、ビッシリと搭載されたミサイルや機銃の照準が常にこちらに向けられている。
ヘリの操縦席に誰かが乗り込んでいる様子は無い。
無人の攻撃ヘリ。
つまり、容赦が掛けられる可能性はない。
「予算的にはこれが限界だった。本来は一機作るのに二百五十億は掛かる代物らしい。その廉価版にすら手が届かないのだから笑ってしまう、だからこれは私達のオリジナルでもあるが、しかし間違いなく外の技術の一端なのさ」
ハハ……と、カリンはその凄まじさに笑いを零す。
笑わないとやっていられない。
それはウタハが愚痴った想像すら出来ない金額に対するものでは無く、純粋に目の前でこちらを狙う規格外の代物に向けての物。
ミレニアムですら実現出来ていない超兵器の姿を見て、カリンは畏怖の感情すら覚えた。
遮蔽物がないこの場所にいることを、カリンは酷く後悔する。
そう思ってしまう程に、この無人攻撃ヘリのような何かが恐ろしい。
赤外線センサーが常にこちらの動きを把握しているであろうことが感覚で伝わる。
逃げても無駄である事が、ビリビリと感じる。
で、あるならば。
もう、覚悟を決めるしかない。
ライフルを握る手に、力が入った。
戦う意思が、瞳に宿る。
「……性能を十分に発揮する前に落とされるとは思わなかったのか?」
強がりか、それとも自信の表れか、はたまたその両方が入っているのか、当の本人であるカリンですら曖昧なまま、ライフルを上空に向け即座に引き鉄を引く。
銃声は、回転翼の音に負けて何一つ響く事は無かった。
だがしかし、放たれた弾丸は間違いなく常識外の兵器に向かって一直線にマッハ二の速度で飛んで行く。
どれだけ上質な兵器を詰め込んでようが、図体の大きさはひっくり返せない。
ビルを根こそぎ破壊出来る全力の一撃を叩き込めば、まずどんな兵器であろうと撃墜は免れない。
そう、信じていた。
そう、疑わなかった。
だが。
ガギンッッッ!!! と、金属音が高々に響いただけで肝心の無人ヘリは煙一つ、破損一つ見せる事は無かった。
「ッッッ!!」
その事態に驚きを隠せない。
まず間違いなく落とせると思った一撃がまともに届いていない。
呆気なく耐え切られたという事実が、深く深くカリンの心に沈む。
渾身の一撃は、グラリと、僅かに機体が横に傾いただけで終わった。
だがそれも瞬時に補助システムによって体勢を即座に立て直され、先の一撃がまるで無かったかのようにカリンを攻撃対象に見定める。
「先生曰く、これは『二枚羽』と名付けられるべき物らしい」
戦いを始めるかのように、ウタハが最後だとばかりに言葉を紡ぐ。
それは合図だったのか、『二枚羽』とウタハが呼称した無人戦闘ヘリから、多連装ミサイルが一斉にカリン目掛けて発射された。
「『外』の科学を取り込んだエンジニア部の新作。その実験に付き合って貰うよ。角楯カリン」
学園都市の科学と、学園都市キヴォトスの神秘。
本来交わる事が無かった二つの『異質』
その力を振るう本人達でさえその危険性に気付かぬまま、両者は衝突を始める。
理を超えた何かへと進み始めるかのように始まった科学と神秘の交差点その第一幕は、カリンがいた場所から轟いた轟音と、同時に発生した逃げ場のない大爆発から始まろうとしていた。
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「角楯カリンとエンジニア部がミレニアム第三校舎屋上にて戦闘を始めたよ」
「一ノ瀬アスナと才羽ミドリ、モモイ両名が予定通りミレニアムタワー最上階で交戦を開始してる」
ハッキングしたカメラの映像を確認し続けているハレ、マキの二人から現状報告が届く。
届いた内容は、順調に作戦通りの展開だった。
ここまでは先生と共に組んだプラン通りに事が進んでいる。
だがここからはイレギュラーな事態に突入する。それはもう避けられない事態となって目の前まで迫ろうとしていた。
何故ならば、バックアップに回っていなければならない先生の姿が無い。
彼の所在が掴めないまま、作戦は動き出し始めていた。
ここまでは先生の力は必要無い。
だがこの先、先生の力がどうしても必要になる場面が生まれて来る可能性が高い。
「コタマ、どう?」
先生の痕跡を追っているであろうコタマに状況を聞き出す。
だが話を振られたコタマは、いいえと首を横に振り、芳しくない事を報告した。
「今どこにいるのか、その動向は全く掴めていません……。盗聴器も破棄されてしまったのか反応無し……。監視カメラも小さなゲームセンターにネルさんとアリスを連れて入った映像を最後に途切れてます……」
そう。と、チヒロは自分の力でもこれが精一杯だと報告するコタマに労いの言葉を掛けた後、先生に関する情報だけは何も更新が無い事に一抹の不安を覚える。
先生が美甘ネルと遭遇し、作戦開始を早める連絡を送った。
監視カメラに映っていた映像からは彼女と先生は敵対しているようには見えず、天童アリスを連れてゲームセンターに入った事を考えると、少なくともあの時までは彼女とは友好的な関係だったに違いない。
その最中に送られてきた先生からのメッセージ。作戦開始を三十分後に始めると簡素な文章で送られてきたそれは、言い換えると『美甘ネルを足止め出来る今の内に作戦を開始する』という事となる。
そして、それが先生との最後のやり取りだった。
以降、チヒロ達ヴェリタスが何度先生と連絡を取ろうとしてもそのメッセージに既読が付かない。
何かがあったのだろうと推測するのが普通だった。
例えば、美甘ネルと敵対し、交戦している真っ最中。
例えば、美甘ネルに昏倒させられた。
例えば、そもそもゲームに熱中していて気付かない。
一番最後のは流石に無いとしても、残り二つは充分にあり得る。
二対一でネルを抑え込んでいる可能性はそれなりに高いだろう。
アスナ、カリンのどちらにもネルが加勢しに来ていない事もその考えを後押しする。
それでも不安は完全に拭いきれない。
「でもやっぱりおかしいです。私達は街中の監視カメラまでハッキングしていません。なのに先生がいる一帯のカメラが根こそぎ映像を映さないなんて……」
その筆頭がコタマが言った通り、監視カメラの一斉故障だった。
ヴェリタスはミレニアムタワーのエレベーターと最上階のシステムにしか手を加えていない。
なのにどういう訳か先生がいた付近のカメラがほぼハッキングを始めたのと同じ時刻にダウンしている。
ハッキングが予想外の部分で悪影響を及ぼした可能性は当然ある。むしろその可能性の方が高いだろう。
しかしチヒロには、それが本当に自分達が起こした問題なのかが納得出来ないでいた。
この事についてさらに思考を重ねたくなるが、それは平常時の話だとチヒロは無理やりに己の思考を切り替える。
今は作戦中、一刻一秒の判断ミスによって全てが終わってしまうかもしれない時間。
余計な思考は捨てなければならない。それがたとえ先生に関する事であっても。
先生はトラブルによって指定された時間に指定された場所へ来る事はない。
そう割り切った彼女は、ならば次善策とばかりにハレに指示を飛ばす。
「ヒビキに緊急連絡。ミドリ、モモイのバックアップとサポートに回して。アスナはあの二人より遥かに強い。いつ何が起きても良いように常に最上階の動きを警戒させて──」
「なるほど、私の読みは間違っていませんでしたか」
部外者の声が届いたのは、指示を言い終えようとした直前だった。
突然の来訪者に全員の動きが一瞬止まり、いち早くチヒロは声がした入り口の方へ視線を向ける。
そこには、メイド服に身を包む、現在誰とも交戦していない最後の一人の姿があった。
室笠アカネ。
ヴェリタスが今最も相手にしたくないC&Cのメンバー。
彼女の戦術は、爆発を基本戦術に組み込んでいる彼女を相手にするのは、この場においてはいささか相性が悪すぎる。
「ッ!!」
誰がやって来たのかを目で、耳で確認し終えたチヒロの行動は早かった。
予めデスクにテープで張り付ける形で用意していた手榴弾を即座に引き剥がし、アカネが何か行動を起こす前に彼女目掛けて投擲する。
全力で投擲された手榴弾は、その目論見通りアカネが妨害行動を起こす前にその効果を発揮した。
閃光が迸り、爆風が周囲に広がる。
ただし、その爆風は真っ黒の灰となってアカネの周囲一帯のみを覆っていた。
上部と下部で極端な温度差を生じさせるように製造された手榴弾は、爆風の勢いで周囲の物を吹き飛ばし対象を無力化するのではなく、着弾した部分を中心に上昇気流を発生させ、軽度の竜巻状に爆風を展開、対象の動きを強引に封じる事を目的とした物。
先生とエンジニア部の合作手榴弾『アーテル』
周囲の破壊を防ぎつつ、対象を僅かな間無力化させるこの兵器は、精密機械溢れるヴェリタスの部室に損害を与える事無く、アカネを数秒の間だけ閉じ込める事に成功する。
「作業中断! 全員外へッッ!!」
着弾した直後、チヒロは全員に命令を飛ばす。
叫びにも似た彼女の命令は即座に受理され、ハレ、コタマ、マキの三人が立て続けに彼女の真横を全力で走り抜けた。
がむしゃらに銃を乱射して妨害される恐れはあったが、その選択はさすがにアカネはしないだろうとチヒロは読んだ。
何せ彼女は大声でこの部屋から出る事を命令している。
ヴェリタスが有するハッキング施設を半ば放棄した事を高らかに宣言している。
それはアカネにとっても願ったりな展開に違いないのだから、
ヴェリタスのメンバーが部室を放棄した時点で、アカネの目的の半分以上は達成出来てしまっている。
彼女が乗り込んで来た目的は確実にハック行為の妨害。
仮に音を頼りに銃を乱射し適当な物を破壊してしまった場合、余計面倒な事態に発展する危険性を考えれば、あの場は静観するのが彼女にとって最も得策。
彼女の目的はヴェリタスの制圧。
及びミレニアムタワー最上階のセキュリティロックの解除。
その為には、部室の設備は生かしておかなければならない。
手当たり次第に破壊するのは、彼女にとって最大の悪手。
勿論確実にこの思考が当てはまるとはチヒロ自身思っていないが、ヴェリタスのメンバー全員が部室から退避する所までは彼女と利害が一致している筈だと彼女は躊躇なくその作戦を実行した。
「う~ん。あまりにも状況に対する適応が早すぎですね。まさかこれは予見されていた。という事なのでしょうか」
全員の退避が終わった瞬間、それをまるで待っていたかのようにパンパンとメイド服にこびり付いた煤を払いながらアカネが姿を現す。
ガチャッッ!! と、チヒロ、ハレ、コタマ、マキが一斉に彼女目掛けて武器を構える。
その行動が、彼女の言葉に対する返答だった。
遅かれ早かれ彼女はやってくると先生は睨んだ。
少々想定より早すぎたが、来てしまった物は受け入れるしかない。
元々、彼女の相手はヴェリタスが引き受ける予定だった。
それが多少、早まったに過ぎない。
その程度の誤差に過ぎない。
アカネの言葉通り、今の状況は規定事項だ。
ここで彼女を食い止める。
これによりC&Cメンバー全員の動きが止まる。
ミレニアムタワー最上階にある差押品保管所を進むための道が、これで繋がる。
先生から言い渡された指示をチヒロは改めて思い出す。
『一秒でも長く室笠を押し留めろ。それがヴェリタスがやるメインの仕事だ』
うん、分かってるよ。と、チヒロは誰も聞き取れない声で呟き、アカネに鋭い視線を投げる。
アサルトライフル。
小型浮遊ドローン
拳銃。
機関銃。
普通ならその場で逃げ出したくなるような状況をヴェリタスはアカネに突きつける。
だが。
「四対一ですか、その程度の戦力差で私に勝とうと思っているのですね」
多種多様な四つの武器から照準を向けられるアカネは、表情から笑みを崩す事無く、余裕を浮かべたまま挑発に等しい言動を放つ。
そこにウソもハッタリも見受けられない。
正真正銘、本心としてアカネはヴェリタスに事実を叩き付ける。
「一分、長くて二分と言った所でしょうか」
彼女の放った言葉に、ヴェリタス全員の緊張が走る。
武器を握る手に力が入る。
ジリ……と、いつでも動き出せるように身体の軸が動く。
いつ戦闘が始まっても良い様に全員が身構える中、ただ一人緊張も無く静かに静かに微笑むメイド服に身を包む少女は、眼鏡の奥に見える瞳をゆっくりと閉じながら。
「
静かにそう宣告し、両の瞳に光を再び灯す。
「優雅に、排除いたします」
開戦の合図となる、彼女らしい言葉と共に。
学園都市の兵器、エンジニア部の手により遂にキヴォトスに爆誕。
とはいえ性能は控え目。加えて摩擦弾頭は恐らく普通に生徒が死んじゃうので一方通行は製造は許可しても使用は許可しませんでした。
キヴォトスの夏の暑さがどのぐらいかは不明ですが、本編の先生が耐えられていることからまあ日本の夏とそう変わらないでしょう。その夏の暑さに負けてしまう生徒が二千五百度の弾丸なんて耐えられる筈ない。
多分死にます。しかも割とムゴイ感じで。
え? でも爆弾は耐えてるじゃないかって? それはそれ。それはそれです!
アスナ、ネルに続いてカリン、アカネも戦闘へ突入。
これで鏡奪還作戦における全対戦カードが揃ってしまった訳ですが、戦闘に介入していない生徒もいるような気も……?
次回は四組の中の戦闘シーンです。
ネルVSアリス
アスナVSモモイ、ミドリ
カリンVSウタハ、ヒビキ(カリン視点で進行した為描写してませんが二枚羽は彼女の操作で飛ばしてます)
アカネVSチヒロ、ハレ、コタマ、マキ
わ。書きたい話が一杯になってきちゃった……・
……所で一方さんここ二週間ぐらい出番ないね?