とある箱庭の一方通行   作:スプライター

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神の寵愛をその身に秘めし者(サイ・ミッシング)

 

「『(しん)』の、在処……んぐっっッッ!?」

 

「ええ、情報によるとあなたが所有していると伺っております。だからあなたにこのようなお話を持ち込んでいるのですよ、早瀬ユウカ」

 

右足から掛かる重圧が重くなり、ユウカはその痛みに呻く。

交渉するつもりが初めから無い事はその態度からして明白だった。

 

これはもう実力行使を伴った脅迫。

であるならば、この男がここまでの踏み切った行動をするに値する意味が『(しん)』には含まれている。

 

 

どこで情報を得たのか知らないが、未来を予測できる機器があるという眉唾物の情報だけでわざわざミレニアムに踏み込み、所有者まで暴き出した上で強引に在処を聞き出す。

 

普通そんな事をするだろうかと自問し、自分ならしないとユウカは即座に結論を叩き出した。

 

だからこそユウカは、男が(しん)の奪取を目的としてミレニアムを襲撃したという事実に対して、驚きでも不思議がるでもなく、納得をした。

 

それは一つの確信をユウカに与える。

 

(しん)には、自分ですら知らない何かがある。

少なくとも、(しん)は本当に予言能力を備えている。

 

むしろ備わっていなければ、ここまでやる理由がない。

ミレニアムに襲撃をかける事がどれだけ無茶なのかを考えれば、自ずと結論はその方向に辿り着く。

 

「あなた……『(しん)』を使ってどうするつもりッッ……!」

「それを教えるとお思いですか? 脱線も良い所ですよ」

 

カチャリと、拳銃を構えた時に鳴る特有の音が背後から響く。

銃口が向けられている事が、見ずとも伝わる。

 

話し合いの余地は無い。

早く言わなければ容赦なく撃つ。

男の行動がそう語る。

 

まずい。と、圧倒的に不利な場面に立たされているユウカは、必死にこの状況を打破する方法は無いかと頭を回転させる。

 

後頭部は強く押さえつけられて動かない。

両手は自由だが、銃口を向けられている以上何か不審な動きをすれば直ぐに撃たれる。

言葉で巧みに時間を稼ごうにも相手にその意思が見受けられない。

打てる手が何一つ無い事実が無惨にもユウカの前に立ちはだかる。

 

かといって(しん)の在処をむざむざと明かす訳にもいかないのも確かだった。

ノアを気絶させ、ユウカを組み伏せ、圧倒的有利な状況を作った上で尚、抵抗できない相手に銃を向ける。

それは裏を返せば相手は何が何でも(しん)が欲しいと考えているのと同義だった。

 

そうするだけの価値が(しん)にはあると教えているような物だった。

であるならば、絶対に渡す訳にはいかない。

 

ユウカでは操れなかった(しん)を男がもし完全に操れるなら、相手は未来を創造できる権利を手に入れた事になる。

 

ユウカからすれば絶対にそれは呑み込めない物。

その未来だけは絶対に阻止しなければならないと意地を突っ張るのも無理は無い話。

 

それがどれだけ危険な道であったとしても。

それでもユウカはこの男の言いなりになってはならないと己に言い聞かせる。

 

ノアを気絶させ、少女相手に一切の容赦を見せない相手。

健全な未来を創る為に(しん)を使用するとはとても思えない。

 

絶対に悪用する。

その自信がある。

 

けれど。

 

(打開する案が見当たらない……ッ! 最悪な事に(しん)はこの校舎の二階にある……! 私が気絶した後この校舎を探し回られたら……!)

 

今いる場所は一階。

男が(しん)の在処を知っている訳はないとした上で、それでも最悪な事に変わりは無い。

 

探し回られたらいつか辿り着く。

そして探し回らなかった場合……。

 

「言っておきますがここであなたを撃ってお終い。ではありませんからね。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

瞬間、ゾクリとした冷たい物が背中を襲う。

男の声色が、これは脅しではない事を物語っていた。

 

やっぱり。と言う感情とその先に待ち受けている物が頭の中で再生される。

カタ……と、指先が無意識に震える。

 

怖い。

怖い……。

 

けど。

それでも。

 

「言えない……ッ! 言う訳がッ! ないでしょッッ!!!」

 

力強くユウカは宣言する。

お前に(しん)は渡さない。

 

これ以上ないハッキリとした声で。

それを言えばどうなるか分かった上で。

 

堂々とユウカは啖呵を切る。

 

そうですか。と、何かを決めた声が聞こえたのはその直後の事で。

四発の射撃音が男とは別の方向から聞こえて来たのもその直後の事だった。

 

「ッッ!?」

 

銃撃された事に驚いたのか、男はユウカの後頭部から足を離し、銃声が聞こえた方に顔を向ける。

 

身体の自由と今にも撃たれそうだった危機的状況を脱したユウカは即座に体勢を立て直し身体を持ち上げつつ、自身も反射的に音が鳴った方に顔を向け、瞬く間にその顔を青ざめさせた後。

 

「ノアッッ!!!」

 

そう、叫んだ。

 

「ユウカ……ちゃんから……はな、れ……」

 

ノアはうつ伏せのまま、上半身を左手で支える様に持ち上げ、右手で持つ銃を黒服へと向けていた。

 

彼女の声は絶え絶えで息も荒い。

身体を支える左手も銃を持つ右手も震えており、目もあまり見えていないのか右目と左目の焦点が合っていない。

 

何度も倒れようとする身体を必死に持ち上げようと藻掻く様子も相まって、限界寸前である事が誰の目から見ても明らかだった。

 

起き上がる事が出来ず、目も見えずらく銃の狙いを絞ることすら困難な状況で、ノアは相手を撃つのではなく、撃ったという事実のみで相手に警戒心を抱かせ、その標的を一時的にユウカから外す事に成功した。

 

初めから当てることを目的とせず撃つだけを目的としたノアの目論見は見事に当たり、ユウカは無事に危機的状況から逃れる。

 

「ほう、実験品であるとはいえヘイロー殺しの弾丸を受けてまだ動けるとは驚きです。流石は神の寵愛をその身に秘めし者(サイ・ミッシング)と言った所でしょうか」

 

だが、彼女の奮闘もここまでだった。

黒服がユウカから立ち退いた直後、構えていた銃から弾丸を容赦なく弾丸をノアの額めがけて発射する。

 

「ですが、今度こそお終いです」

 

満身創痍で這いずることすら出来ないノアに、避ける手段などある筈がなかった。

 

ゴキンッッ!! というおよそ被弾したとは思えない音がノアから響く。

同時、彼女の首が折れ曲がってもおかしくない程に反り返り、ギチギチと鈍い音を放った後、放って置いてもいずれ力尽き気絶していたであろう彼女の身体が強制的に床に崩れた。

 

倒れたノアの身体は、ピクリとも動かなかった。

刹那、惨劇を目撃したユウカの全身の血が沸騰する。

 

バッッ!! と、自由を取り戻したユウカはすかさず自身の愛用銃であるロジック&リーズンの二丁の内、ロジックを取り出し、黒服に対して容赦ない発砲を始める。

 

「うあぁああああああああああああああああああッッッ!!!!」

 

ヘイローがある、無いの区別だとかもう関係無かった。

それだけのことを、この男はしでかした。

 

許せないが、全ての優先事項の上に立った。

黒服が、そして自分が許せなくて、怒りが全身に滾る。。

 

ノアは守ってくれたのに、自分は彼女に迫る危険を遠ざけられなかった。

その怒りが彼女の身体を突き動かし、銃弾の嵐となって相手に突き刺さる。

 

黒服との距離は数メートルも無く、意図的にでも外さない限り間違いなく当たる距離。

 

横への移動が極めて制限される廊下という環境に置いて、ユウカのサブマシンガンの連撃から逃れる手段は無い。

 

その筈、だった。

だが、

 

「普通なら避ける手段はありません。しかし」

 

何故か背後から男の声が聞こえた。

どうして声が聞こえるのか、それを頭が理解するより先。

 

「例外もあります」

 

背中から突き刺さるような衝撃がユウカを襲った。

 

「が、あッッッ!?」

 

拭いきれない痛みと共に、彼女の身体が反り上がりながら宙を浮く。

そのまま彼女は真正面に吹き飛ばされ、蹴られた衝撃で半回転する中、目で捉えた男の姿勢から漸く背中を蹴りぬかれた事を知った。

 

「あうっっっ!!」

 

ズサッッ!! と、吹き飛ばされた衝撃で廊下を滑りながら、彼女は全くの無警戒だった死角からの一撃から生じた背中の痛みに悲鳴を上げる。

 

何が起きたのか、全く理解できない。

どうして攻撃していた筈なのに攻撃されたのか。

どうして前方にいた筈なのに背後から現れたのか。

 

一瞬の間で起きた現象何もかもが理解出来なかった。

 

痛みに苦しみ、不可解な現象に苦しんでいる最中。ガチャッッと言う音と共に、男が持っていた銃が、先程まで男が立っていた場所の床に落ちる。

 

それを合図としたかのように、男が倒れたユウカ目掛けて全速力で走り出す。

 

銃を手放していないユウカは、明らかに蹴り抜こうとしている相手の行動から追撃するか防御するかの二択を早急に迫られる。

 

黒服の脚は想像以上に早く、スピードの乗った一撃は確実に重いであろうことをユウカに教え、咄嗟に両腕を十字に組み、顎や首と言った急所を守らなければ手痛い一撃を貰う事を身体が訴えて来る。

 

だが、今の状況ならこちらの攻撃を当てやすいのもまた事実。

 

悩んでいられる時間は長くない。

そうしてどちらを選ぶのか最善なのか迷っていた数瞬。

 

どちらを取るか迷い、攻撃行動も防御行動もしなかった僅かな時間。

黒服とユウカの距離は未だそれなりの距離があった筈の状況。

 

一歩、また一歩と恐ろしい勢いでユウカへ向かっていた黒服の脚。

未だ距離があった筈の脚によってユウカの顎が全力で蹴り上げられたのは、ユウカが瞬きすらしていない瞬間の話だった。

 

「ーーーーーーーッッ!!」

 

ゴリッッッ!!! と言う骨が悲鳴を上げているような音が顎先から響く。

その痛みに、ユウカは声すら上げることが出来なかった。

 

首を上に反らしながら、ユウカは再び廊下を滑る様に吹き飛ぶ。

意識は保っている。キヴォトスの生徒は弾丸を受けてもちょっと痛いか気絶するで済む耐久力を持っている。

 

どれだけ凄まじい威力を誇ろうが、蹴りはただの蹴り。

弾丸の威力を比較することなど出来る筈もなく、物理的現象によって少々派手に吹っ飛ぶだけのちゃちな攻撃に過ぎない。

 

その筈、なのに。

 

「ぐっっぐぅううううううううううッッ!! あっっぐっっっああああッ!!」

 

顎から突き刺すように走る耐え難い痛みは本物だった。

うずくまり顎を支えながら必死に痛みと戦うユウカの瞳から勝手に涙が溢れ、視界がぼやける。

 

熱ささえ覚える激痛に苦しむ中、ユウカは疑問に襲われ続ける。

おかしい。

さっきの距離は一気に距離をゼロに詰められる距離では無かった。

 

直前まで走っていた男の速度では、絶対に残り一歩で辿り着ける場所に自分はいなかった。

なのにどういう訳か蹴りを受けた。

 

何が起きている。

何が、起こっている。

 

「ヘイローを持ち銃撃に強いあなた達ですが、斬撃、特に物理攻撃には弱いのですよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、実際それはどうなんでしょうね。私としては疑ってますよ」

 

まあそれはこの際においてはどうでもいい話でしたねと、何とか身体を起こし始めたユウカを見つめながら淡々と男は言葉を並べる。

 

「早瀬ユウカ。弾丸避けの神の寵愛を持つ生徒。あなたはそれを計算によって銃弾の当たらない場所を探し出していると言ってますが、回避している銃弾は明らかに計算の域を超えている。しかし重要なのはプロセス。あなたはそれを計算によって導き出していると主張するその行為そのものがこの場面に置いては重要。そのプロセスがいずれ伝承となって黄金の大地で誰かの力となる」

 

本来ならば我々に太刀打ち出来る存在ではないと男は語り、

しかし。と男は続ける。

 

「我々にも対抗手段が出来たのですよ。尤も、望まざるも受け入れざるを得なかった力ですがね」

 

早瀬ユウカ。

ユウカの正面に立つ黒服が、そう彼女に語り掛ける。

 

「あなたは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

次に声が聞こえて来たのは、ユウカの真横からだった。

 

「私はありますよ、つい最近ですが」

 

咄嗟の出来事ながらも反射的にユウカが痛む身体を無理やりに動かし、防御行動を取った瞬間。

 

「確かにあの体験は、『恐怖』と言っても差し支えないものでしたよ』」

 

右側に立った黒服から腹部に重い一撃が飛来した。

黒服の鋭く重い蹴りが、全くの無防備だったユウカの腹部に突き刺さり、彼女の身体がくの字に折れる。

意識していない箇所からの一撃は、より重い物となって彼女を蝕み、くぐもった声を迸らせていく。

カラッッと音を立てて、今まで落とさんとしていた銃を思わず手放すぐらいに。

 

「あっぎっっっ! ぐ、ぐっっ! う、ぁっっっ!!」

 

座る事すら出来ず、ユウカは目を見開きつつ襲って来る痛みに悶絶する。

男はそんなユウカに向かってカツカツと分かりやすく恐怖を煽る様に足音を立てながら近づき、

 

彼女が持つサブマシンガン、『ロジック』をその手に持つと。

ユウカの胸元を容赦なく踏みつけた後、その銃口を彼女の腹部に向けた。

トンッッと優しい音と共に、先端が腹部に押し当てられる。

 

「ッッッ!!!」

 

何を意味するのか、それだけで彼女は理解した。

けれどユウカはやめてとは、言わなかった。

命乞いをするような真似だけは決して行わなかった。

 

代わりに、足掻いた。

 

逃げようと藻掻いた。

耐えようと足掻いた。

 

だが、

だが、

 

もう一度強く腹部に銃口が押し付けられた後、カチッッと引き鉄を引く音がユウカの耳に届いた。

それが、彼女が冷静に聴くことが出来た最後の音だった。

 

直後、校舎の一階から、つんざくような絶叫が響き始める。

誰も聞いた事の無い一人の少女の悲鳴がどこまでもどこまでも木霊する。

 

その結末を最も望んでいない人物に届かない場所で。

誰よりもユウカに傷付いて欲しくないと望んでいる人物には、決して聞こえない場所で。

 







ブルアカサイドの大幅な設定変更その1 黒服は超能力者。

能力名は言わずもがなですね。
どうして能力者になったのか、彼は学園都市側の人間なのか等といった諸々の所以はパヴァーヌか別の所で明かすんですが、今は彼は能力者であるという事だけが明かされてます。
そしてこれが黒服の事情変更に密接に絡んでいるんですね。

さらにほんの少し明かされた『とある箱庭の一方通行』におけるキヴォトスの存在理由と少女達の秘密。この世界における神秘とは何であるのか。

言うまでもないですが本編のブルアカとは無関係です! ここだけの設定です! 

後はそうですね……ヒロインズが容赦ない事になってますね……。
可哀想だと思って書いてます。割と心は痛みます。でも痛まないと書けない物ってあるから……。

次回もユウカパートが多めになる……はず。

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