とある箱庭の一方通行   作:スプライター

37 / 76
神秘渦巻くこの世界で、二つの力が交差する。

 

 

 

状況を詳細に把握するのは難しい。

それがユウカと黒い男のやり取りに乱入した一方通行が下す現状の評価だった。

 

あまりにもユウカが危険な言動を始めたので、彼女に誤射する可能性があるのを承知で彼は撃つ事を決断した。

幸いにも彼女に命中することなく男の手首を狙撃しユウカを守り切る事に成功こそしたが、先の出来事はその実かなり危険な賭けだったと言わざるを得ない。

 

それこそ一歩間違えれば。もしくは一瞬撃つのを躊躇っていれば状況が百八十度変わっていたぐらいに。

 

(つゥか何やってンだあいつ。俺が咄嗟に入る事なんて予測してねェだろォになァンで喧嘩腰だったンですかァ?)

 

言葉に出さず、一瞬の判断ミスが命取りになってしまうような状況を作り上げてしまっていたであろう助けた少女に向かって彼は愚痴る。

 

明らかに生殺与奪の権利をユウカは握られていた。

その権利をいつ行使するのかは完全に相手次第。

 

なのに彼女はどういう訳か自分の命を最優先にせず、そればかりか相手に向かって煽るような言動すら言い放ちそのタイムリミットを自ら縮めていた。

 

命知らずにも程があると一方通行はユウカに対し今一度、何をやってるんだと言い出したくなる感情に駆られる。

 

助けが来ると知っていたならいざしらず、彼女は彼が来ていた事すら知らない。

なのに己の身を鑑みず、好き放題に叫び散らかしていた。

あまりにも無鉄砲が過ぎる。

心配を掛け過ぎるにも限度があるだろと怒りたくなるのを必死に堪える。

 

ユウカの発言の全てを聞けた訳ではないが、聞き取れた内容から彼女の気持ちを一方通行は汲み取りはする。

激情のまま意地を通したくなったのだろうと、ある程度の譲歩も出来る。

 

でもそれはそれであり、これはこれだった。

そしてこれはこれであり、今は今だった。

 

一端思考を切り替えるべきだと、改めて一方通行は黒い男に意識を向ける。

 

「随分と鮮やかな登場ですね」

 

撃たれたであろう手首の痛みを気にも留めぬまま、黒服は一方通行の登場に武器をしまい拍手を始める。

その様子はどこまでも不気味だった。

 

顔全体が真っ黒に仮面のような物に覆われ、割れた右目部分が光輝き、口角を上げるように裂けている口元がその気味悪さに拍車をかける。

 

この男が何者なのか知らないが、ユウカに銃を向けていた時点で、彼はこの男を敵であると断定した。

しかしその話は既に彼の中で終わっている。

校舎を歩く中、ユウカの意地が聞こえ始めた時点でその話はもう終わっている。

 

今、一方通行の中で重要なのはただ一つ。

ユウカと黒服がやり取りし、自分が知らない特殊なワードの内容。

 

プロトダイアグラムと呼称された物体とその用途。

 

「俺の話が聞こえなかったかクソ野郎。プロトダイアグラムは何なのかって聞いてンだ」

「ミレニアムにある未来予測機の事です先生! 私達が(しん)と名付けた物をこの人はプロトダイアグラムと呼んでるんです!」

 

黒服への質問の最中にユウカが口を挟む。

瞬間、彼の中でいくつかの点が線として繋がった。

 

今朝のユウカの様子がおかしかった理由。

この場所で黒服に襲われている理由。

 

全て、プロトダイアグラムが関係しているのだと彼は解を得る。

同時に、プロトダイアグラムが何故その名を冠しているのかも。

 

繋がる。

点が線へと。

次々に繋がっていく。

 

黒服に対しても、

キヴォトスに対しても、

 

たった一つの名称だけで、彼の中であらゆるものが繋がっていく。

 

この男は間違いなく学園都市を知っている。

キヴォトスでは無く、学園都市を知っている。

知っているだけではなく、関係者である可能性も高い。

 

そう確信を得られるに足る情報が、プロトダイアグラムという名称に一つに集約されていた。

 

「……へェ。未来予測機ねェ。ンな物を欲しがってどォすンだ」

「先生は要らないのですか? 未来を思いのままに作り上げる事が可能なシステムを」

 

要領を得ない様にはぐらかされているように見えて、それが確かな答えだった。

未来を予測する。それはつまり望む未来を出力できると同じ意味を持つと言って良い。

 

そしてその夢のようなシステムが手に入るとした場合どうなるか、これを彼は一度経験している。

 

九月十四日。

 

その日、学園都市で一つの騒動が起きた。

 

学園都市が誇る超高度並列演算処理器、樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)

その脅威的な性能から人工衛星に積み込まれ、宇宙空間という人類が手を出す事が非常に難しい場所で稼働していた樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)は、七月二十八日に地上からの攻撃を受けて大破。

散り散りになった部品は残骸(レムナント)として学園都市が回収、地上にて保管していた。

 

その中枢部品を宇宙空間から回収していた学園都市と、数十年先を行く科学技術の最先端技術の結晶とも言える樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)残骸(レムナント)を奪取せんとする外部機関との間で争奪戦が勃発。

 

最終的に一方通行が部品を直接破壊する事で事件は収束を迎えた物の、残骸(レムナント)を巡る騒動の際、あらゆる国が所有するロケットを宇宙に飛ばしていた事を後になって彼は知った。

個人ではなく国が総出を挙げて手に入れようとする程の代物、それが未来を予測するという力。

 

欲しいかと言われて、欲しくないと答える人間が少数派。

欲しいと思うのが当たり前。世界を掌握したいと欲望を募らせるのが普通。

 

ただし。

 

「望まねェな。未来を振り回すのも未来に振り回されるのもよォ」

 

一方通行はその例外だった。

 

「渡すと言われてもこっちから願い下げだ、クソッタレ」

 

苦虫を噛み潰したような表情で彼はもう一度吐き捨てる。

もう二度と御免だった。

 

運命を誰かに操られるのも。

それに乗っかるような真似も。

 

誰かの運命を、狂わせるような事も。

 

「で?」

 

銃を構え、赤い目を獰猛に光らせながら彼は問いかける。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

直接的では無く、聞き手次第でどうとでも受け取れるような言葉選びを用いて一方通行は質問を始める。

 

ユウカに対しては先生である事を知っているのかと聞こえる様に。

黒服に対しては学園都市の第一位である事を知っているのかと聞こえる様に。

 

敵側に己の情報を掴まれている。

その疑念が生まれた時点でユウカに出自を隠す理由はほぼ無いに等しかったが、一方通行はそれでもユウカに己の素性を隠す事を選んだ。

 

それは彼がシャーレの『先生』であり続けたいという意思の表れ。

戻れなくなるかもしれないという不安を隠すための隠蔽だった。

 

「連邦捜査部の部活顧問。つまりキヴォトスにおいて最も重要と評される者。少し調べれば分かる事ですよ」

「随分と勉強熱心な事だ」

「先生はご自分の知名度をご理解していないようです」

 

黒服の指摘は間違っていない。

れっきとした事実として、キヴォトス内における一方通行の知名度は高い。

サンクトゥムタワー奪還作戦成功時にSNSで彼の存在が拡散された事も相まって、概念ではなく存在を知られているという部分に絞れば、学園都市よりも有名であると言って良いぐらいだった。

 

よって黒服の指摘は間違っていない。

間違っていないからこそ、不審に思う。

 

「生憎だが興味無ェ。勝手にガキが広めてるだけの話だ」

「しかし事実として先生は一般生徒からすれば知名度も立場も遥か格上の有名人です。であるからには相応の振る舞いが求められます。本来ならばこの学園都市キヴォトスで模範的存在にならなければならないお方なのですよ。貴方は」

 

大勢の生徒に手本を示さなければならないのが、トップに課せられる義務です。

その義務を全うしなければならない程、あなたの知名度は高い。

 

黒服の語りに、一方通行は小さくへェ、と感嘆したかのように言葉を返す。

 

「耳が痛ェ話をありがとよォ」

 

しかし一方通行から放たれた言葉には、凄まじい程の重みと凄みが多分に含まれていた。

 

一方通行と黒服の本題からやや脱線したかのような言葉の応酬は、ユウカにとっては雑談に聞こえただろう。

 

それ以外に何かを汲み取る事は出来なかっただろう。

だが当事者である一方通行は違った。

 

学園都市のトップに君臨している貴方は、他の生徒に対して模範となるような行動をしていましたか。

そう質問しているようにしか一方通行は受け取れなかった。

 

その質問自体に深い意味は無い。

どれだけ高尚的な演説をしていようとそれは本質では無い。

 

黒服が言いたいことはたった一つ。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

ただ、それだけだった。

並べられた言葉が、どこまでもそれを暗示している。

 

「それはそうと、一つだけ先生に言う必要がある言葉があるのを思い出しました」

 

腹の探り合いはこれで終わりだと告げる様に、黒服が言葉を切り出し。

 

「時間稼ぎに付き合って下さり感謝しますよ、先生」

 

バキバキバキ……ッ! と、背後から何かを破壊する音が響き始めたのはその直後の事だった。

ギャリギャリギャリッッ!! と、重く太いキャタピラ音が破壊音に続くように迸り始める。

 

思わず、本当に思わず一方通行は黒服よりも背後から迫る物体の方に意識を割く。

 

何か途轍もない物体がやって来る。

過去の経験、もしくは本能が危険を訴え、その通りに彼は振り向き。

 

「ンだと……?」

 

教室の壁を悉く破壊しながら彼目掛けて一直線に進む戦車を目撃した。

 

だがそれを戦車。と呼んで良いのかは疑問符が付く。

本来戦車に当然装備されている筈の砲身が無く、代わりに巨大なブレードとドリルが左右と正面に複数強引に接続されており、それらが校舎の壁と言う壁に突き刺さった後、百トン近い重量で強引に押し潰すように破壊しながら校舎の中を突き進むその姿は暴君としかたとえようが無かった。

 

「『クラッシュエスカレーター』本来は災害に見舞われた地域において倒壊したビルや立ち塞がった瓦礫等を強引に破壊し道を切り開く無人操作も可能な救助用車両ですが、見方を変えればいかなる場所にいようとも追い込みをかけることが出来る突撃兵器として運用する事も出来ます」

 

ミレニアムは随分と進んだ物を開発しているようですと感嘆する様子を見せる。

その態度に、既に動けないノアを対象に攻撃を仕掛けて来た事に、一方通行は即座に銃の照準を黒服に合わせ、ギリッッ!! と力強く歯噛みした後。

 

容赦なく黒服目掛けて発砲を始めた。

 

ガガガンッッ!! と、話し合いの場はもう終わりだと言いたいかのように三発立て続けに左手に持つ拳銃から弾丸が発射される。

この距離なら外す訳が無いとして放たれた弾丸。

 

それらは全て黒服の胴体に否応なく着弾する。

 

筈、だった。

 

「一人で逃げるならともかく、先生の足ではそこで倒れている生徒を抱えて逃げる事は出来ない。そこで取引ですよ先生」

 

声が聞こえて来たのは真横からだった。

一瞬で彼の間近まで接近した黒服は、消えて現れた事に対して一切説明する事無く、二歩、三歩彼から離れる様に歩きながら戦車と一方通行との距離が二十メートルを切ったこの段階で取引を持ち掛ける。

 

ある程度距離の離れていた人間が、何の予備動作も無しに一瞬で目の前に現れる。

一般的にはまず間違いなく面食らい、衝動的に叫んでもおかしくない場面。

 

だが一方通行は冷静だった。

冷静に、全てを理解した表情で黒服に向ける目を細めた。

 

赤い目が、より冷酷に、より鋭くなる。

突然消えて現れたかのような挙動を、彼は決して見逃さない。

その力に対して、何一つ疑問を抱かない。

 

「早瀬ユウカを諦めて下されば、先生とその生徒の命を保証する。それでどうでしょうか?」

 

決定的だった。

元より倒れているノアを人質に取った時点で彼の中の境界線はとっくに踏み越えられていた。

そこに加えてユウカさえも男が持つ天秤の上に乗せられた。

 

その時点で許す許さないといった低次元の話は終わっていた。

 

ノアを助けてユウカを諦めるか、

ユウカを選んで二人揃って轢き殺されるか。

 

ただしここでユウカを選んでもユウカの保証はどこにもない。

お前を殺した後で彼女の身柄も奪う。

提示された選択肢は選択肢等ではない。

 

全員ここで終わるか、ユウカだけを終わらせるか。

二択にもなっていない二択であり、どちらを選ぶか決まり切っているような二択。

 

その選択を与えてきた事それそのものが、一方通行の逆鱗に触れた。

カタン。と、彼の心の秤が落ちる。

心は既にどうしたいか決まっていた。

 

「一つ、俺の方からも言い忘れた事があったなァ」

 

残る懸念材料を片付けるべく、一方通行は口を開く。

戦車との距離が残り五メートルを切り、無駄話の一つもする余裕など無いタイミング。

 

しかしそのような状況下でも、一方通行は今度はこちらの番だと思い知らせるようにクハッ! と、黒服に対し嘲笑的な笑みをぶつける。

 

「時間稼ぎに付き合ってくれてありがとよォ」

 

ガッシャァアアアアアンッッ!! と、一方通行の近くにある校舎の窓ガラスを蹴り破りながら一人の少女が姿を現したのは一方通行が黒服に礼を言った直後の事だった。

 

飛び蹴りを放ちながら校舎内に進入したその少女は、一方通行の近くにいる黒い男を突撃した勢いのまま蹴り飛ばし、科学実験室と書かれた教室へドアごと強引に叩き込む。

 

急な彼女の登場は、黒服の反応速度を以てしても対処は不可能だった。

 

そのまま少女は少し離れた場所にいるユウカ。さらには倒れているノア。その後ろで一方通行とノアを轢き殺そうと迫る砲身の無い戦車を目視で確認し。

 

己が今この瞬間に課せられた仕事を速攻で理解したのか、小さい声で了解とだけ呟いた後、着地を待つ事なく、不安定の体勢のまま自分が武器としている二丁拳銃を戦車の方に向け、

 

バガガガガガガガガッッッ!!! と、容赦なく弾丸の雨を浴びせ始めた。

 

「オラオラオラオラオラァッッ!!!」

 

未だ空中にいる彼女から放たれる銃弾が全て戦車に叩き込まれていく。

 

ゴガバキガガンッッ!! と、銃弾一発一発が戦車に命中する度、当たった箇所の悉くから破壊音が響き、戦車の装甲が凹み、ドリルがへし折れ、ブレードが捻じ曲がる。

 

スタッ、と、少女が華麗に着地を決めた時には、黒服が用意した『クラッシュエスカレーター』はその原型の殆どを留めておらず、完全な機能停止に追い込まれ終わっていた。

 

「時間が掛かったなァ、美甘」

「急に連絡寄越した先生が悪いんじゃねえか!!」

 

これでも最速で飛んで来たんだよと、破壊した戦車に目もくれず一方通行と背中合わせの位置取りになるよう移動した美甘ネルはそう彼に突っかかる。

 

彼女の意見にハッ! と笑いながら流すと、たくよぉ……! と、彼の態度に諦めた素振りをネルは見せる。

 

「ネ、ネル先輩……?」

 

時間にして数秒にも満たない彼女の劇的な登場劇を見届けてしまったユウカが口を半開きにしたままボソリと呟く。どうやらまだ頭が理解に追いついていない様だった。

 

「俺が呼んだ。どォにも面倒な気配がしたンでなァ」

「戦闘中だったの知ってて呼ぶんだから参るぜ先生。あのチビも無駄に強いしよぉ……」

 

まあそれは良いやとネルは一度話を区切ると、

 

「そういやアカネ達は? 呼んだのはあたしだけか?」

 

この場に飛び込んできたのが自分しかいない事について質問を始める。

 

「ミレニアムとしての面子もあンだろ。作戦中に全員は流石に呼べねェ。よりにもよって俺が敵側だしなァ」

「じゃああたしなら良いってのかよ」

「オマエなら一瞬も迷わず俺の所に来る事を選ぶだろ」

 

瞬間、ボッッ! と、堂々と彼にそう言い切られてしまったネルの顔が爆発したかのように赤く染まる。

 

「な、なななな何急に言い出してやがる!! そんなの当たり前じゃねえかよバカ!! バーカ!!」

「先生は時々自分の発言の凄さに気付いた方が良いと思います……。イヤ決して私にもそんな甘い言葉を言って欲しいとか……そういうのは…………そりゃありますけど……」

 

ピーン!! と、トレードマークのアホ毛を真上に立ち昇らせてギャーギャーと騒ぎ立て始め、何故かユウカも便乗して騒ぎ初める事に眉を寄せながらも特に咎めはしない。

 

と言うか普通の言葉を言っただけなのに何故甘い言葉認定を受けたのかの方が疑問だった。

 

学園都市最強の超能力者である一方通行。彼は時々自分がいかに危うい発言をしているのかを自覚しない事がある。

今回のはその典型例だった。

 

そんな彼の目線は科学実験室の方に、ネルの不意打ちを受けて文字通り吹き飛んだ黒服の方に向けられていた。

 

黒服が教室から出て来る気配は今の所無い。

だが今の一撃で決まったとも思えないと、一方通行は警戒を続けていた。

 

「あー、それとな。語弊があるようだからあいつ等の為にも一言だけ先生に言っとくけどよ。あいつらだってあたしと同じだ。気持ちは何も変わんねえよ」

 

呼ばれたら、その瞬間から全員先生側に付く。

そう言う風に、もうあたし達はなってる。

 

冷静さを取り戻しながらネルはアカネ、カリン、アスナの三人を誤解してると彼に告げる。

 

対する一方通行の返事は変わらない。

ハッ! と、軽く笑うだけ。

対するネルの態度も変わらない。

たくよぉ……と、諦めた素振りを見せるだけ。

 

それは短く、素っ気なく。

しかしどこまでも、互いの信頼の深さが見えるやり取りだった。

 

「ま、とにかくだ。呼ばれたからにはキッチリ仕事させて貰うぜ」

 

日常的な会話を切り上げる様に、ネルは気持ちを改める様にジャラリと鎖をしならすと。

 

「今からあたしはシャーレのメイドだ。好きに使えよ、ご主人様」

 

その目を鋭い目つきへと、戦闘状態へと変化させた。

彼女の変化を背中合わせの位置にいる一方通行は目視しない。

 

だが、雰囲気だけで伝わる物はある。

一方通行にとってはそれだけで十分だった。

 

「ユウカ、動けるか」

 

痛めつけられたと思われる腹部に手を当てているユウカに声を掛ける。

顔色こそ悪く無いが、内臓へのダメージはそれなりに深そうだと一方通行は感じた。

 

無理をさせるべきではない事は承知しつつ、それでも彼女に声を掛ける。

 

「は、はい!!」

「プロトダイアグラムの場所は知ってるか?」

「っ! はい! ここの二階にあります!」

「破壊して来い。出来るか?」

 

最後に一つ確認を取る。

ミレニアムが所蔵している、ミレニアムが有する科学技術の集大成とも言える物品を破壊出来るかと。

 

破壊する。これは完全に一方通行のエゴに過ぎない。

極論を言ってしまえば、プロトダイアグラムを破壊する必要はどこにも無い。

 

黒服の狙いは間違いなくプロトダイアグラムの奪取であるが、それを阻止するのに破壊する必要は無い。

 

撃退さえしてしまえば黒服の野望は達成されない。

それを分かっていて、一方通行は破壊出来るか否かの話をユウカに持ちかけた。

 

未来を予測するシステム。それがどのような形であれ存在する事を彼は許容出来ない。

 

自分のエゴに付き合えるかと、一方通行はユウカに問う。

 

「任せて下さい!」

 

返事は、とても力強かった。

一瞬も迷うことなくコクンと頷く彼女の瞳は真っ直ぐで、彼の隣に並び立つ者として相応しい輝きを放つ。

 

「良し。美甘、オマエはユウカのサポートだ。二人で二階に行ってプロトダイアグラムを破壊しろ」

 

話はこれで決まった。

一方通行はネルに彼女について行くよう指示を出した。

 

だがネルはその決断に対し不安要素が残っているのか、チラリと彼女も科学実験室の方に一瞬視線を送る。

 

「そうは言うけどよご主人。アイツの相手、あたしがしなくて良いのかよ」

「問題ねェ。俺がやる」

 

どうやらネルも先の一撃で決着が付いたとは思っていない様だったが、ネルが抱いた不安要素に一方通行が示した回答は至ってシンプルだった。

 

「オマエ等にあの野郎を相手させるのは分が悪い」

 

見立てが正しいのなら、あの男が持っている法則は初見殺し性能が高い。

そう言う世界がある事を、そういう力がある事を前提知識として知っていなければまともに戦う事すら困難な程に黒服が扱う力は特異である。

 

「その点、俺はあの手の攻撃方法に関する知識も経験もある。ここは俺が引き受けるべき状況だ」

 

今この場において、彼女達にはここにいて欲しくない。

ハッキリ言って、邪魔にしかならない。

 

複数人で囲んでの戦闘は、あの能力を前にするのは逆に首を絞める結果になり得る。

 

その部分は決して言葉にせず、しかしまともに戦闘が出来るのは自分だけだという事実だけは述べて、一方通行はネルの意見を突っ撥ねた。

 

「チッッ! 分かったよご主人……ここは任せる。それで良いんだろ?」

「あァ。それで良い」

 

強情さを見せる一方通行にとうとうネルは折れたらしく、最後に一つ小さく舌打ちをした後、タッ! と軽い足取りでユウカの方へ駆け寄り。

 

「行くぞユウカ。走れるか」

 

そう、声を掛けた。

 

「はい! こっちです。ネル先輩」

 

武器を仕舞いながらユウカはネルの言葉に頷くと、二階へと続く階段に向かって走り出そうとする。

 

その、直前。

 

「先生!」

 

最後に一つ、一方通行に向かって大声を放った。

後ろにいる彼の方に目線を向けず、視線を二階に上がる階段に向けたまま。

 

「怪我、しないで下さいね」

 

それだけ告げて、彼女はネルを連れて二階へと駆け出す。

返事を聞こうとはしなかった。

必要無いとユウカは判断していた。

 

何故ならば。

 

「ハッ! 誰に向かって言ってやがる」

 

心配されると決まって彼は笑って一蹴する事を知っていたから。

クスッと、階段を走る彼女から小さく笑う音が響く。

 

これがユウカと一方通行の関係性で、距離感だった。

 

「で、いつまでぶっ飛ばされたままなんだァ? 黒服さンよォ」

 

ユウカが離れたのを見届けた後、倒れたノアの傍から離れず彼は脅しをかける。

むくりと、黒服が倒れていたその身を置き上がらせたのはそのすぐ後の事。

 

男はパンパンと衣服に付いた埃を振り払うと。

 

「気付いていたなら撃てば良かったのではないですか?」

 

と、素朴な疑問を口にした。

 

「言っただろォが、聞きてェ事があンだよ」

「奇遇ですね。私も少しばかり先生に聞いて頂かなければならないお話があります」

 

ピッッ! と、着こなしているスーツを正しながら、男は声を一段階低くして一方通行に語り掛ける。

対して一方通行は構えた銃を下ろさない。

 

下ろしたりこそしないが、代わりにそのまま攻撃を仕掛ける事もしない。

 

男から話す物に関して聞く耳を持つ必要は一方通行は無い。

あくまで聞きたいのはこちら側、相手の話に付き合う義理は微塵も無い。

怒りは既に臨界点。

このまま即座に戦闘を始めてもこちらとしては何も問題は無い。

 

だが彼は敢えてその道を選ぶ事にした。

下らない事を言い出したら撃つ。その条件を無言で突き付け、彼は黒服に時間を与えた。

 

コツ……と言う靴音が響く。

コツ……と言う靴音がもう一度響く。

 

「では、始める前にほんの少しだけ語らいを続けるとしましょう。彼女達には聞かせることの出来ない話を」

 

一歩、また一歩と歩み出しながら、彼の意図を汲み取った黒服は静かに口を開き始める。

 

「もう一つの学園都市、キヴォトスについての話を」

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

「ネル先輩! そこの突き当りにある部屋! そこにプロトダイアグラムが、(しん)があります!」

 

ユウカの指示に、前を進むネルから了解と手短に返答が来る。

 

二階の廊下を真っ直ぐ走るユウカは内心にある焦りを自覚し、急ぐ足をより早めていく。

早く目的を達成して先生の所に戻らなければならない。

 

あの男と先生が戦う事も出来れば了承したくなかった。

だがそうも言ってられないのも事実であり、さらにユウカはあの男に勝てなかったのもまた事実。

 

先生に任せるしかないのも、ひっくり返しようの無い事実であった。

 

でも。

だとしても。

モヤモヤとした感情はユウカの中にずっと残る。

先生の指示とは言え、本当に先生を残して二階に赴いたのが正解だったのか。

 

考えても答えは出ない。

この問題は、結果でしか答えは出ない。

 

なのでユウカは。

 

「扉に入ったら奥に見える一番大きいのが本体です。それを破壊してください!」

 

まずは託された仕事を完遂する事を選んだ。

(しん)がある部屋まで残り僅か。

ユウカの少し前を進むネルは彼女の言葉を受けて即座に銃を構えると、扉目掛けて発砲を始めた。

 

激しい銃撃音と共に、目的地の扉が穴だらけになる。

そのままネルは穴だらけにした扉を走る勢いのままバンッッ!! と、強烈に蹴り破り、讖《しん》のある部屋に強引に突撃し。

 

「あ……? あ……?」

 

驚きを隠せないような声を上げその動きを止めた。

 

「ッ!?」

 

先に部屋に突撃したネル様子がおかしい事にユウカは戸惑いつつ、後に続くように彼女も部屋に入り。

 

部屋一帯に描かれた妙な文字列と、部屋の中心部分にいる、右手で男の後頭部らしき物が描かれている絵画を持つ、顔の無い何者かを目撃した。

 

突然目に入った異形の何者かがいる光景に、ユウカとネルが揃って腰を抜かさなかったのは奇跡に近い物だった。

 

しかしそれでも驚きを隠すことは出来ない。

ユウカもネルも動きが止まる。

 

一時間程前までは確かに無かった紋様があちこちに刻まれているのも相まって、二人の身体が否応なく硬直する。

 

「ほう。成程、こうなりましたか」

 

瞬間、二人の背筋にゾワリとした物が走る。

声が発されたのは、どう聞いても絵画の方であった。

 

絵が喋っている。

その事実に、常識を遥かに超越した現象に二人は警戒と恐怖度を着実に高めていく。

 

「このような形での会話となった事、どうかご容赦を頂きたい。少々訳あってこれ以外の方法を持ち合わせておりませんので」

 

そんな二人の心情など意にも介さぬように男か女かすら分からぬ存在はしかし、男であると推定出来る声色でネルとユウカの訪問に対し何かを納得したかのように、どこから声を発しているのかすら不明なまま話し始める。

 

コツ……と、足音を一つ響かせながら化け物は身体の向きを変えた。

顔の向きはどちらを向いているか不明だったが、身体の向きは部屋の隅に設置してある(しん)の方に向けられている。

 

未完成の樹形図(プロトダイアグラム)。占星術を基にした未来予測機。発想は良い物と言えますが、使用者に知識が無ければただのデカイ箱です。本来これは正確な星の配置から始まる綿密な下準備に加え、機械を用いて言語命令を一律に統一する補助を以て初めて発動する『魔術』。普通は使用出来ません。偶然、星が魔術に必要な形と一致した時に使用されたでも無ければの話ですが」

 

キィィィ……と、歩く際に床に引っ掛けているのか、化け物が持つ杖が地面を擦るイヤな音がユウカとネルの眉を潜めさせる。

だが、二人が眉を潜めているのは決して音だけでは無かった。

 

理解出来る言語な筈なのに、まるで違う言語を発しているかのように理解出来ない。

 

魔術。創作やゲーム上でしか聞いた事の無い単語だった。

しかしそれがどうしてこの状況で使われているのか理解できない。

 

先生から言い渡された仕事である(しん)を一刻も早く破壊しなければならない関係上、この化け物の話に耳を傾けて聞く猶予は本来ユウカには無い。

 

にもかかわらず、ユウカはこの化け物の内容を理解しようと頭を回転させ始めていた。

ネルもどうやらユウカと同様で、荒い性格である彼女ならこの化け物の言う事を耳にも留めず、この時点で(しん)の破壊を始めていただろう。

 

だが結果としてネルは動けていない。

化け物の言葉一つ一つの難解さに険しそうな表情をする物の、ユウカと同じく聞く意思が宿っている。

 

それはどこまでも異常な光景だった。

まるで魅入られたかのように、二人は化け物の語りに耳を傾ける。

 

己の異様さを、自覚する事も無く。

 

「しかしそれでも、例え全ての条件を満たしていてもこれは発動しない。()()()()()()()()()()()()の手により位相にて建設されたこのキヴォトスにおいて、魔術は力を発揮しない。伝承を基にして使用される全ての魔術は、後に伝承そのものとなる神秘が蔓延るこの世界で行使する事は出来ない」

 

杖を地面に引っ掛けながら化け物は言葉を続けていく。

 

だがユウカにとっては何がなんだかさっぱりだった。

それでも、聞いておかなければならない気がしてならなかった

理解出来なくても、頭に入れておかなければならない気がした。

 

必死に、追い付こうと縋る。

化け物の言葉は半分自分語りのようであり、半分は教えているようでもあった。

 

少なくとも、ユウカはそう受け取った。

 

「生徒一人一人の神秘性は全てヘイローに記録されます。個人個人で異なるヘイローに宿る魔術的記号を無理やり科学によって結び付け引き摺り出し、強引に力として行使する実験は()()()()()()()()()()()()()()()、そうでもしなければ魔術もどきですら行使出来ない。それがキヴォトスという場です」

 

自分達でも知らない自分達の身体の秘密を知っているかのように顔の無い化け物は話す。

神秘性。神話。伝承。

 

それらの正確な意味を推察する事は出来なかったが、言わんとしていることを大まかにユウカは察する。

彼女自身薄々気付いている事であったのだが、キヴォトスにおける生徒間の力の優劣は大きい。

 

弾丸数発で気絶してしまう生徒もいれば、ミサイルの直撃を十発受けてようやく気絶に追いやることが出来る程タフな生徒もいる。

 

個人差。と言う一言ではとても納得しきれない物への回答を、ユウカはたった今提示された。

 

すなわち経験値の差、ヘイローが蓄積した記録の差。

これらが直接的な戦闘力に繋がっている。

 

戦闘経験が豊富であれば豊富である程。何かに没頭していれば没頭している程、それらの情報がヘイローに蓄積され、知らず知らずの内に自身の力を果てしなく増幅させる。

 

黒服が言っていた事をユウカは思い出す。

弾丸避けの神の寵愛を受けた少女と男はユウカに言い放った。

 

あの時は何が何だか分からなかったが、化け物の話を聞いた今なら真意が見える。

昔は計算で避けていた弾丸が、計算によって避けたという記録としてヘイローに蓄積され、より鋭く、より素早く、より正確的に計算出来る様に身体を進化させているのではないかという仮説が彼女の中で生まれる。

 

「旧約聖書に登場する『バベルの塔』。イタリアにある『コロッセオ』。学園都市にあった『エンデュミオン』。これらを代表とした大きすぎる建造物や象徴はただそこに在るだけで魔術という『記号』の力を有し始めます」

 

しかしここでさらに続けられた言葉によって再びユウカの頭にクエスチョンマークが飛び交う。

どれも聞いた事の無い物だった。

イタリアというのも、エンデュミオンというのも、バベルの塔も旧約聖書も全て。

唯一、学園都市だけは自分が住んでいる場所と言うのもあって知っている名詞だと判断するが、それでも彼女の記憶の中に『エンデュミオン』と呼ばれた場所は存在しない。

 

強調された『記号』というワード。

重要そうな意味合いが多く含まれている言葉はしかし、理解を詰められない。

 

頭の中で着々と理論の構築が進む。

しかし彼女は化け物の一人語りにも似た演説に口を挟むことが出来ない。

 

否、口を挟むという気すら湧かない。

疑問は次々と湧き上がって来るのに、聞き返したいことは沢山あるのに何故だかそれを言葉に出来ない。

 

まるで縫い付けられたかのように彼女の口は動かず、またそれを疑問とすらユウカは思わなかった。

 

「サンクトゥムタワー。あれ程の巨大な建造物は、前述した通り何もせずともただそこに存在しているだけで魔術的象徴として機能し始める。ただそれだけではどうにもなりません。どれだけ力が強大であろうとも、使える場所が無いならそれはただの偶像に過ぎません」

 

しかし。と化け物は続ける。

 

連邦捜査部(シャーレ)の部活顧問。即ち最高権力者である『先生』が今、最も科学技術の発展したミレニアムを主な所在地としている。これがまず一つ目の鍵を開けました」

 

キィィイ……ッ! と、杖が地面を引っ掻く音が冷たく刺さる。

化け物の挙動を目で追いこそすれど、攻撃する気は起きなかった。

部屋の奥に破壊しなければならない目標物にも、同様に攻撃する気は起きない。

 

「続いて二つ目、彼がミレニアムの代表的生徒の多くを連邦捜査部(シャーレ)に所属させている。これによりミレニアムはシャーレの一部であると解釈させる余地が生まれ。サンクトゥムタワーの力が届く範囲であると紐づける事が可能になりますが、それでもまだ力不足です」

 

囚われたかのように、ユウカとネルは聴き続ける。

まるで、時間稼ぎをされているかのように。

 

(あれ……時間……稼ぎ……?)

 

ふと、全ての理論を吹っ飛ばしながらユウカはある事実に辿り着いた。

そうだ。どうして気付かなかったのだろうか。

 

黒服はユウカに接触し(しん)の在処を聞いた。

言い換えるとそれは黒服は(しん)の場所を知らない事を表している。

 

そうでなければ話がおかしい。

知っているならば予め奪えば良いだけの話。

 

なのに黒服はわざわざユウカに接触し在処を聞いた。

 

その理由は何故か。

どうして今から(しん)を奪うと意思表示に近い行動を行ったのか。

 

ひょっとしたら。

ひょっとしたら。

 

あの時黒服が行ったのは、所在を聞くのではなく、ユウカを(しん)がある場所へ行かせたくなかったからなのではないか。

 

拉致するのも目的だったのだろう。

それで未来を別方向へ帰ると言うのも確かな目的だったのだろう。

 

けれど。

だけれどもその裏で。

 

ここへの到着を遅らせる為に黒服はユウカに接触し、戦闘を仕掛けたのではないかという思い付きが、ユウカの頭を支配する。

 

だが。

 

「しかし最後に()()()()()()()()()()()()()ここが科学の街であると言う『記号』をより強く紐づけさせられる。これによりごく限られた範囲で、条件下でという制限付きで、魔術の行使を可能とする最後の鍵を開く」

 

ハッキリ言って、ユウカの気付きは遅すぎた。

彼女の気付きは的を得ていた。

だが既に遅かった。

全て、終わっていた。

 

気付いた時にはもう男は既に歩みを止めていて、杖をゆっくり持ち上げ始めていた。

 

ハッ! とその瞬間にようやくユウカは下を見る。

男が歩いた、歩き続けていた軌跡を目で追い。

 

部屋中に描かれた紋様と似た形の何かが、杖による引っ掻き傷によって形成されているのを確認した。

 

だが、もう一度言う。

ユウカの気付きは遅すぎた。

彼女が気付いた時にはもう。

 

「私が出来るのはただの模倣です。かつて学園都市で観測された魔術の中から、己の力で再現可能な物だけを現出させる程度の物。キヴォトスではそれが限界。科学の街でありシャーレの傘下に置かれたミレニアムだからこそ可能な魔術。しかしこの街では、その程度で十分でしょう」

 

男の準備は、終わっていた。

 

()()()()()()()()()()()()

「そういうこったッッ!!!!」

 

カツンッッ!! と、杖が思いきり叩き付けられ、化け物の声とそれとは違うもう一つの声が響く。

だが、その事に対して思考を巡らす余裕はユウカには無かった。

 

紋様が妖しく光り初めたかと思うと、ゴッッッッパァァアッッッッ!! と(しん)があった部分の床が楕円形に大きく歪み、その頂点が大きな音を立ててひび割れると、まるでそれを中心点とするかのように巨大な石くれが、コンクリートが、(しん)を包み込み始め、ボコボコと音を立てて一つの形を形成し始める。

 

人型へと。

巨人へと。

 

二本の手を持ち、二足の足を操り、巨大な頭とド級の胴体で以て手足を制御するその姿は、正真正銘の化け物と呼んで差し支えなかった。

 

「なっっなにっっ!!」

「チィッッ!!」

 

その異形な姿を見て、漸く二人は言葉を発し始めた。

刹那、動きを取り戻したネルの銃が即座に火を噴き始める。

 

ゴガガガガガガッッ!! と、二丁のサブマシンガンから凄まじい程の弾丸が放たれる。

 

だが。

 

「なッ!? 弾かれてるッ!?」

 

ネルの弾丸は、命中こそすれど決定的な一撃は与えられていなかった。

岩に突き刺さる事すら無く、悉くが弾かれる。

 

aequalitas304(全てに平等な裁きを下す)

 

瞬間、部屋の中心部分に立つ男から何かの言葉が放たれる。

それが何なのかまでは掴めなかったが、信念めいた物であることは朧気ながら彼女は理解した。

 

「早瀬ユウカ」

 

化け物が、突如彼女を名指しする。

早瀬ユウカと名指しする。

 

黒服と同じように。

彼女を再起不能にしようと攻撃して来た時と、同じように。

 

「黒服があなたを見逃した理由は分かりませんが、それが彼の下した決断ならば今度は私が試す番です」

 

ゴッッッ!! と、岩とコンクリートで形成された数百トンはあろう拳が一直線にユウカ目掛けて飛来する。

 

大巨体から放たれたとはとても思えない速度で飛んでくる拳に、全く反応が出来なかったユウカは肉薄してくる拳を目で追う事しか出来ず……。

 

ギュッッ!! と、反射的に強く目を瞑った直後。

 

「あぶねえッッ!!」

 

ドンッッ!! と、ネルの叫び声と同時、彼女の身体は真横に突き飛ばされた。

 

直後。

 

ゴシャリという音が響いた後、間髪入れずにゴガガガガガガガッッ!! と、言う何かを破壊し続ける轟音がだんだん遠ざかりながら迸る。

 

「ネルさっっっ!! ッッッ!!???」

 

瞬間、何が起きたかを理解したユウカはネルの名を叫ぼうとするが、背後に無数の穴がどこまでも続いているのを見た途端彼女は絶句せざるを得なかった。

 

パラパラと木片が崩れる音と、一直線に数多の教室の壁を貫通した大穴を見て、何が起きたかを理解出来ない程ユウカの頭は愚かではない。

 

それはまさに、圧倒的な力だった。

勝負。と言う土俵に立てるかすら危うい程の脅威だった。

 

「科学が中心のこの街において、神秘とも違う異質の力が姿を現す」

 

世界が揺れる。

世界が動く。

 

これはその始まりと誰かが誰かに告げる様に。

 

神秘渦巻くこの世界で、科学と魔術が交差を始める。

 

「それは実に学園都市らしいと思いませんか?」

 

 

 








この物語はブルーアーカイブです。とある魔術の禁書目録ではございません。

なのですが、今回あまりにとある要素が多かったので少し捕捉です。


とある魔術の禁書目録では、『異世界』と呼ばれる物が存在します。
異世界と言っても基本的には神や悪魔といった人智を超越した存在が跋扈する物なので、異世界といってもいわゆる『なろう系』のような異世界とはカテゴリーが違います。

そのような異世界の事をとあるシリーズの用語では『位相』と呼んでいて、キヴォトスはその中の一つにこういう物があるんだよ。というお話になっております。

これによって紐解いていくと、『とある箱庭の一方通行』における『ブルーアーカイブ』は『とある魔術の禁書目録』の世界設定の一部に完全に組み込まれている中でのお話となっております。『ブルーアーカイブ』という作品に一方通行がお邪魔している訳ではないんですね。

概念的に言うと『とある魔術の禁書目録』のお話の中に『ブルーアーカイブ』がお邪魔している。そんな感じです。世界観は『とある』でも舞台はキヴォトスなので展開されるお話はブルーアーカイブなのですが……ややこしいな!!


そして大幅な設定変更その2,3,ゴルコンダは魔術師。キヴォトスを作り上げたのはアレイスター。
しかもどうやらゴルコンダは学園都市を知っているようです。黒服と言い何なんでしょうねコイツ。


説明パートが多いよ! どれだけ情報量があるんだ! おかしい! おかしいよ!! 
お陰で一万程度で終わらせたかったのに終わらなかったよ!!

ネル、アリスパートでは人がいない描写をしている癖にモモミド等タワー攻略パートでは人がまだいる描写をしていたのはこの話を作る為でした。ミスじゃないんです…

次回はもう一つキヴォトスに仕込まれているタネが明かされます。
次の話でいくつかの疑問点が解消される……かも?

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。